ウィザーディング・ロイヤル 古き王家と穢れた血 作:ただの杖振り
「別に隠したくて黙っていたわけじゃない。……賢い君のことだ、ミス・グレンジャー。何処まで調べた?」
シュロモの質問に、ハーマイオニーは答えにくそうな顔をした。
が、ぽつりぽつりと懺悔するように話し始めた。
「……あなたが彼の高名なソロモンの直系の子孫だと言うこと。……ヨーロッパ魔法族とは冊封関係だったこと、とヨーロッパ魔法族が裏切ったこと。……十字軍が何をして、ヨーロッパ魔法界に何を齎したのか……あなたたちがどうなったのか。――10年前に何があったのかも調べたわ。それと、ホグワーツ城との関係もね」
初めてホグワーツの教科書を買った日、ハーマイオニーは夢中になって教科書を読み漁った。『魔法史』を読むうち、つっかかりを覚えたのは確かだ。
見た覚えがある名がちらほら登場しても、偶然の一致だと思っていた。しかし、結果は違くて、組み分けの時シュロモがメルフォティートの一員だと知った。
そして、それから5日。頻繁に図書室に通って、調べた。
調べた結果分かったのが悲惨な歴史だった。
稀代の天才、魔法史レベルの大魔法使いソロモンと、高弟にして子孫らが研鑚し蓄積した叡智を、杖や魔法の物品を献上することでヨーロッパ魔法界は優れた魔法を教わってきた。だが、畏怖が羨望に代わり、それが嫉妬に変わって――十字軍と共にヨーロッパは……。
「俺に恨みはないよ。それにイギリスはあれに関わってない。中世のいざこざなんか俺は気にしたことがない。俺が気にしているのは、もっと最近の出来事だ。俺たちは詳細不明の何者かに裏切られ命を狙われたんだ。俺は辛うじて生き延びたけど、ほぼほぼ絶滅といっていい」
ハーマイオニーと目を合わせることなくシュロモは喋り続ける。
「あの日、ダイアゴン横丁でメルフォティートと名乗るには勇気がいることだった。誰がどこで何を聞いてるか分からない。安全のために国を飛び出して、遠く離れたこの国に来たけど、それでも安全は確実じゃないからね。それが君に名乗らなかった理由だよ、ご納得いただけたかな? メシハー」
「確かにそう言われれば納得するしかないけど……ん? でも待って。なら、列車の中で教えてくれなかった理由にはならないわよ。だって、列車には関係者しか乗れないもの」
「強いて理由をあげるなら、列車でタイミングを逃してから、いつ打ち明けようか、今日は今日こそはと思ううちにずるずると」
スリザリン寮とグリフォンドール寮に分かれて組み分けされたせいで、余計にタイミングが合わないせいで打ち明ける時間が無かった。
ハーマイオニーはずっとシュロモと話したくてしょうがなかったのに、寮が違うせいで話せなくてずっと寂しかったのに、シュロモはスリザリン生と楽しそうにしていた。
「それで私がこうして問い詰めてる今に至るわけね。そうなんだ、ふ~ん。ま、別にいいわ。あなたのご活躍はグリフィンドールにいても良く聞こえて来たから。とても楽しそうなのは伝わって来たわ」
笑顔を浮かべているが、笑顔じゃない。
ハーマイオニーは静かに怒っていた。
気のせいだろうか?
図書室の温度が一気に下がった気がする。
厳格で気難しいと先輩方にご忠告されたマダム・ピンスが、ハーマイオニーを見た瞬間にびくっとして回れ右して戻ったことを図書室にいた生徒は見た。
「すまなかった。怒る君が可愛くてつい意地悪をしてしまった。隠しごとをした手前気恥ずかしくて避けていたけど、もうしないと誓う。ミス・グレンジャー、スリザリンに組み分けされた俺だけど……仲直りして友達になってくれ」
真剣な表情でハーマイオニーの目をじっと見てシュロモは謝った。
ハーマイオニーも目を丸くすると、嬉しそうに頬を緩ませた。
「私もかつかつしてごめんなさい。……私はもうシュロモとは友達と思ってたけど、いいわ。友達になってあげます」
「ありがとう、ミス・ハーマイオニー」
「ミスもいらないわ」
「OK、ハーマイオニー」
先程の怒りが嘘の様に、ハーマイオニーは目に見えて上機嫌になった。
それが可愛く微笑ましく思えたが、それを表立って指摘する度胸も動機もないシュロモは黙っている。顔におくびも出さず、シュロモは表情を固定していた。
スキップしそうなまでにるんるんなハーマイオニーは何かに気付き真面目な顔になった。
おっと?
「そう言えば何であの時一人で私と会っていたの? 護衛とかいたんじゃないの?」
あ、マズイ。
シュロモは誤魔化すか、正直に話そうか。
隠しても言っても不安しかない。
怒れる魔女は寝起きのドラゴンよりも恐ろしいとは言うが、まさに今の状態がそうであった。
「あー、一人になりたくて捲いたんだ。破滅願望があったからね、あの時は。今はもう大丈夫だ」
シュロモがそう言うと、ハーマイオニーは形の良い眉を釣り上げた。
しかし、シュロモの予想に反して噴火することはなく、ハーマイオニーは深く息を吐き出した。
「あなたが茶目っ気の多い人だと言うのはこの5日間でよ~く分かったから私から何も言いません。たぶん、あなたの護衛役の人がきつく叱ったことでしょうしね」
「ああ、君の言う通りしこたま怒られたよ」
そう肩をおどけて言う姿はスリザリンの秀才とは程遠く。
そして頬を膨らませ不満アピールをする彼女の様子は、獅子寮の孤高の天才のイメージからかけ離れていた。
二人は堪え切れず、静かに噴き出した。
図書室故に、くすくすと静かにシュロモとハーマイオニーは笑いあった。
「さぁ、早くいかないと魔法薬学の授業に遅れてしまう。次もグリフィンドールと合同だったな?」
「そうね、早くいかなきゃね。魔法薬学はあなたの寮監が教えるのよね?」
シュロモが読んでいた本を放ると、読んでいた本が一人でに浮かび上がり元あった棚に戻っていった。
その摩訶不思議な光景には慣れっこで、最初はわくわくしていたハーマイオニーも既に気にしていない。
二人はこそこそと囁き声で談笑しながら、図書室を出た。
「あぁ、そうだとも。堅物されどその道のプロで、その授業はレベルが高いと評判だ」
「一番興味ある科目だわ。教科書を読んでみたら、とても科学的で凄く興味がそそられるの」
金曜日最後の授業に思い馳せて二人は歩いた。
会いたかった相手に逢えて、二人は弾むような足取りで授業に向かうのである。