盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
終わりそう明日で
―――なんか知らんけど、ここまできてしまった。
キリキリと痛む胃を押さえながら、顔色の悪い男はため息をつく。
なんか死んで、気づけばなんか
彼はため息をつきながら
なにはともあれ顔色が悪い。青みがかったその肌を見る者あれば、即座に医務室に突っ込みたい衝動に駆られることであろう。
「あぁ~胃が痛ぃ……」
少しばかり屈むと、自身の金髪が視界に映る
「なぁに! 暗い顔してるんですかぁ?」
後ろから誰かが大きな声を出しながら背中に抱き着いてきた。驚愕しながら背後に振り向くこともなく、とりあえず倒れないようにすることと、背中に押し当てられる胸の感触に集中。
頭の中には悪の三兵器。やってきたのはまさに三馬鹿―――ご存知三人、のはずなのだが……。
「ブーステッドウーマン三人娘……!」
「ハァ? なに言ってんだ?」
そこにはご存じない三人。
彼の背中に抱きついているのは、赤寄りのオレンジ髪を肩ほどまで伸ばしている少女、クロト・ブエル。
怪訝な表情で彼を見るのは、薄緑の髪をポニーテールにした少女、オルガ・サブナック。
さらに黙って彼の傍にやってきてクロトを離すなり彼の腕に絡みつく、ウェーブがかった長い緑色の髪の少女、シャニ・アンドラス。ちなみに左目は前髪で隠れている。
三人の少女、“彼の記憶”では確かに少年であった。
「シャニっ!」
「うっさい……」
腕の感触に喜んで良いんだか悪いんだか、彼は葛藤する。
知ってるけど知らないおっぱい、困惑どころの騒ぎではない。
『そんなとこでイチャつく暇あったらさっさと出撃準備してくださいよ』
聞こえる声はこの艦のある意味での最高責任者である“女性”ことムルタ・アズラエルのもので、四人揃って真上を向くが、そこにいるわけでもない。いるのはその向こう側、もっと上の艦橋である。
しかして、すっかり慣れたものだと彼は顔をしかめた。
―――盟主王ならぬ盟主女王とはこれいかに。
なんてことを、彼が思うのは仕方の無いことである。
「おばさん、妬いてんのかな?」
「いいからシャニ! とっとと離れろ!」
「お前も妬いてんの?」
「あぁっ!?」
「うっせぇよお前ら、さっさと行くぞ」
離れるシャニと、クロトが睨みあっている。呆れた様子のオルガが二人の首根っこを掴んで歩いていく。
「死ぬなよ」
「こっちの台詞だ、バカ」
彼がかけた言葉にそう返し、オルガは二人を連れて去っていく。
三人揃って、ハンガーに立てられたモビルスーツへと乗り込んでいくのを軽く見守った後、彼は困ったようにだが、安心するようにため息をついて“自らのモビルスーツ”のコックピットへと乗り込んだ。
静かに息つく、その顔色はあの三人と話し出した時ほどから青さが抜けている。
―――やだなぁ、色々と知ってる側としては。
「ふぃ~」
ハッチを閉めると、モニターが開く。そしてそこに映るのは―――長い金髪ストレートの女性。彼女こそが盟主王……ならぬ彼曰く、盟主女王。ムルタ・アズラエル。
詳しい説明を省けば“色々な方向に偉い人”である。
『あ~君たち?』
モニターには他にもクロト、オルガ、シャニが映る。三人揃って不満そうな表情をしている。
『マスドライバーとモルゲンレーテの工場は壊してはいけません、いいですね?』
『他はやってもいいんでしょ?』
『ですね』
『うっせーよ』
相変わらず姦しい三人娘。
モニター内のアズラエルは片眉をぴくぴくと動かしており、おそらく先程のシャニが言った『おばさん』発言が聞こえていたことが容易に想像できる。ここでさらに余計なことを言えば怒髪天を衝きかねない。故に、彼に今できることは―――祈ることだ。
三人娘も彼の顔を見て気づいたのか黙っているので、アズラエルは満足して頷く。
『では、いってらっしゃい。徹底的にお願いしますね』
「了解でございます。アズラエル“理事”」
真横のハッチが開き、三人娘の機体が出撃するのを確認。遅れて彼の機体もゆっくりと前へと進んでいくと、日に当たり鈍く輝くのは錆色の装甲。
「ロマ・K・バエルは、ウィンダムで出る!」
背部のエールストライカーパックの大型スラスターを点火。発艦と共に海上を飛行して三人娘の機体に追いつくために、加速する。
現在、大西洋連邦の大艦隊はオーブ連合首長国を包囲し、攻撃を開始している。
彼は、こうならないために奔走してきた……。
―――前線に出ないために努力してきたんだけどなぁ!
三人娘の機体の少し後ろを飛ぶウィンダム。
突如、プライベート通信が入った。相手が誰かなんて容易に予測できる。だからこそ無視するわけにもいかず、即座に通話を可能にした。
そこに映るのはムルタ・アズラエルであり、その場所は先程の艦橋ではないらしい。
『さぁて、なにが言いたいかおわかりですね?』
「……わかってますよ。ムルタ」
『はぁい、よくできました♪』
ニコニコしている彼女は“原作と違い”未婚(確定)処女(推定)30歳(確定)である。彼は『かわいいな、オイ』とか思うもそれをおくびにも出さずに、冷静に笑みを浮かべた。
「それでは、行って来ます。やばそうだったら三人を戻すんで」
『はい、了解です。では……死なないでくださいよ?』
「かしこまりました」
通信を切ると、静かに息をついてヘルメットを外す。息苦しさに苛立ちながら、パイロットスーツのファスナーを胸元まで下ろす。
すっきりした表情でフットペダルを踏み込み、ウィンダムは三機にさらに近づいていく。
徐々に戦場が近づいてくる感覚と共に、視界には爆発やビームや実弾が奔っているのが見える。
上空を舞う“ガンダム”が視界に入った。
―――今すぐ帰っても、許してくれないかなぁ。
こうなるまで、涙ぐましい。いや涙ぐましいは言い過ぎな紆余曲折があったのだ。
彼の、この世界での最初の思考はそれだった。
―――なんか生まれた。
なんか書けた。タイトル思いつかなかったから仮題です
次から本編始動、ここに至るまで
単語とか設定とか間違えてたらすみません
タグはなに入れたら良いかわからんので追加してきます
それではまた近々