盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
ビクトリア基地の応接室。司令官は開いた口が塞がらないでいた。
無事に戻った強襲部隊。スピアヘッド部隊が先行して戻ってきていたので“機体の損傷はともかくモビルスーツ部隊に死者なし”という報告は聞いていた。次も使えるなと思っていたが問題はそこではない。
怪我人はともかく“誤射”があったのだ。
別段オルガ・サブナックことアズラエルの私兵が起こした誤射……否、暴発はこちらでどうにかできる問題でもないので構わなかったのだが、問題は“こちらが起こした誤射”だった。
持っていた端末の画面に映るのは“左腕を失ったジン・アガレス”である。そして隣には誤射した本人“ハイータ・ヤマムラ”のジン。
乗っていた赤い悪魔ことロマ・カインハースト・バエルは怪我一つない。現に視界の端でぴんぴんして立っている。その眼はサングラスに隠れて見えないが、その前で腕を組んでソファに座っているムルタ・アズラエルは違った。
明らかな圧を感じ、司令官は縮み上がっている。
「な、なんと申し開きして良いか、修理費用などはこちらが」
「当然です。と言いたいところですがそんなものどうだっていいんですよ」
「と、申しますと……?」
どんな無理難題をふっかけられるのかと、想像するだけで司令官の胃は悲鳴を上げる。
「ハイータ・ヤマムラですが、私たちの方でいただいていきます」
「……すみません、今なんと?」
「彼女、薬物強化を受けているそうですね。あれだけの戦力にしては状態も非常に悪い、他のコーディネイターもそうですが、“兵器”のメンテナンスを怠っているような場所に置いておくには勿体ないですし、今回のような暴走を起こしては貴方達も困るのでは?」
尤もらしいことを並べているが、ようは強いので自分たちに寄越せと言っているように司令官は感じたことだろう。しかしそれでも、抵抗する術などない……実際に誤射は起きたのだ。
だからこそ、大人しく頷いた。ハイータほどではないにしろ、コーディネイターの補充はまだきくはずだと確信している。
そして、ナチュラル用のモビルスーツの開発も進んでいるという噂もある。それさえ完成すればザフトを殲滅できるはずなのだと、司令官は考えていた。
……次の襲撃までに間に合えば、だが。
「ハッ、すぐに手配いたしましょう」
「はい、どうも……バエル中尉」
「はっ!」
背後のロマが返事を返す。未だに体に痛みはあるだろうに、やせ我慢しているのだろう。
声をかけたアズラエルはというと、ポケットから一つだけそれを取り出すとロマに手渡す。受け取ったロマがサングラスの奥の瞳を開いて、少しばかり驚いた表情のままアズラエルの方へと視線を向けた。
眉をひそめるアズラエルが手招きをするので顔を近づけると、耳打ちをされる。
「彼女の薬です。そろそろ禁断症状が出るころでしょうから“反省したら飲ませてあげて”くださいね?」
「アズラエル理事……」
顔を離して彼女を見れば、困ったように笑っていたのでそういう意味だろうと頷く。ここから書類を書いたりなどあるのだろう、ウインクを一つよこした彼女が外を指さす。
あの三人に対して思うところはあるのだろう。しょっちゅう一緒にいるだけはある。
ロマが一礼して部屋を出れば、そこにはクロトがいた。交代、なのだろう。
「あまり無礼を働くなよ」
「まぁ相手次第かなぁ、僕は黙って立ってるだけ」
「それで結構だ。ありがとう」
クロトの頭に手を乗せてそっと撫でると、少しくすぐったそうな表情を見せるも、すぐに頬を赤く染めて乗った手を振り払う。気恥ずかしいのだろうと解釈したロマは、笑みを浮かべると頷く。
「それでは頼んだ」
「ん、禁断症状、出始めそうだから早めに行ったげてよね」
―――それ早く言って!?
全力疾走でオルガとシャニのいる部屋の前へとやって来たロマは、扉が開くなり部屋へと転がり込むように入室。焦っていると人一倍忙しない男である。
青い制服姿のシャニが椅子に座っていて、オルガはベッドの上で悶えていた。ロマは肩で息をしながら、オルガへと駆け寄って上体を起こすが、苦しさからかロマの服を強く握る。
荒く呼吸するロマを見て、シャニは少しばかり反応するも黙っていた。
「う゛っ、あ゛ぁ゛っ……!」
「オルガっ、悪い遅くなって……ほら」
「んくっ……」
クスリのキャップを外してオルガの口に当てて飲ませれば、苦しそうにしていたオルガの表情が徐々に和らいでいく。肩で呼吸をするオルガは疲労しているようで、遅れたことを悔やむロマではあったが、やはり体裁として苦しんでいるということが必要だったのだろう。
わかっていたとしても、肉体に引っ張られて20歳の精神。それが冷静さを許しはしなかっただろうが……。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だからそのっ、はなせよっ」
「え、ああっ、わ、悪い」
必死でそれどころでなかったのだが、しっかり抱きしめてしまっている。顔を真っ赤にしたオルガが言うのでそっとベッドに寝かせるものの、ロマも少しばかり顔が赤く、このままでは“青い童貞”と名を改めなければならない。赤いのに青いとはこれいかに……。
ベッドで横になるオルガは壁の方を向いて、ロマは赤い顔を見られなくて安心したと言うようにホッと息をついてベッドに腰掛ける。
―――やらかい、おっぱいがやらかい。女の柔肌に心乱されるとは……。
いつまで経ってもだ。彼自身そろそろプロに頼もうかとも思ったがその勇気もなければ紹介してくれる友達もいない、仕事人間の末路である。
そうして悶々とするロマだったが、隣にトスっと音がして、そちらを見ればシャニが真隣りに座っていることに気づく。戦場では経験のない思考の停止がことここに至って発動。
―――なぜに、てか近くね?
「……ん」
そしてシャニはロマにくっつくほど近づいてから、その左腕に自身の腕をからめる。否、ロマの左腕を抱くように“体を絡める”。童貞の脳の処理能力ではとてもではないが追いつかない状況。
冷静に、至って冷静になろうとすればするほどその左腕の感触に脳がバグを起こす。ウイルスバスターがウイルスバスターを攻撃している。
童貞は“こんなん絶対に俺のこと好きじゃん。もうゴールしちゃっても良いかな”とも思ったが、理性が打ち勝つ。ここで
そうなっていいのは、すべてが終わってからである。正直“この思考”を持ち出した時点で切り札を切ったわけだがその自覚はロマにない。童貞は必死だった。
だがそんなロマをよそに、シャニは“オルガへの対抗心”からかさらにギュッと組みつき、口をロマに近づける。
「しゃ、シャニ、近いしその……あ、当たってるんだ」
「好き、でしょ?」
―――しゅき。
悲しいかな脳細胞が死滅していっている。どんなにカッコつけても中身がこれでは赤い彗星など夢のまた夢である。
いや、赤い彗星とて内面がどうなっていたかどうかはわからないが……少なからずこれほどまでに“情けない奴”ではなかっただろう。
唯一の救いは外面へ出していないところではあるが、慣れてる者が見ればわかるぐらいにはデレっとしていた。
「なに、人が寝てる後ろでイチャついてんだよっ!」
突如、ロマとシャニが引き離される。九死に一生を得たんだか、横槍をさされたんだかわからないが、なにはともあれそれが正しいのだろう。オルガは二人を離すと、不服そうにベッドの上で胡坐をかく。
相変わらず無気力な表情で、シャニはロマの方を見ており、ロマもシャニの方を見る。もちろん一回視線が胸に行くものの気合で視線を逸らす。
それに気づいて、シャニは片腕を胸の下に回し、グッと両胸を持ち上げるようにした。
―――このままではこちらがやられる!
「うおっ、な、なにしてんだシャニっ」
「だって好き、なんでしょ?」
所詮は童貞、相変わらず色気の前には弱くあっさりとキャラは吹き飛んでいく。薄っぺらい紙の如くやわな理性である。代わりに髪は強い。
シャニはいつも通りのテンションではあるが、彼女なりに仕掛けているのだろう。しかしてロマは“からかわれている”という思考に至る。長年のモテないという卑屈な根性が根付いているのだ。赤い悪魔も一皮むけばちっぽけな青い果実である。英雄にはまだ遠い。
「……好き、だけど」
「触って、良いんだけど」
心臓が止まるかと思うロマ。脳のキャパが限界でありヤツのライフはもうゼロ。悲しいかな童貞は嬲り殺されそうになっている。
「好きにしても……いいよ?」
「シャニぃ!」
一部始終を見ていたオルガがとうとうキレた。注意したばかりだというのに、目の前で今にも乳繰り合いそうな二人を見てればそれも納得である。先ほどまで苦しい思いをしていた相手に酷い仕打ちであるが、ロマもそれを自覚してか申し訳なさそうにサングラスを外した。
シャニはと言えば、相変わらずの無表情なれど、なぜか頷く。
「オルガ、嫉妬してる」
「ハァッ!? そういうんじゃねぇよ! オレが寝てるのにイチャついてるのをどうかって話してんだよ!」
「ハァン、照れてる?」
「だから違ぇって!」
三人寄れば姦しいとは言うが、二人でも十分姦しい。
なにはともあれ、オルガが元気そうになったのでロマは安心して、自然とその行動をとる。なにも考えず、一切の邪な心無しに、そっと手を伸ばすとオルガを抱き寄せ、抱きしめた。
固まるオルガとシャニ、ロマは優しく笑みを浮かべてその背を撫でる。
「ありがとうな、俺のために……」
「なっ、ち、違ぇよ、勝手にあのバカモビルスーツがっ……」
シャニにだって嘘だということがわかるぐらいだ。クロトやアズラエルも然り。
言い訳をしようとするオルガだが、黙ってその温かさに甘んじ、目を閉じて体重をロマに預ける。
彼女とて許せはしなかったのだろう。目の前でああいうものを見せられるというのは気分が良いものではない。自分とてかつてはそうだったのだし、コーディネイターが“ハイータ”のようになっては自分たちが“そうなった”意味がない。存在する意義も、だからこそ許せなかったのだ。
「……ありがと、これでちょっとは変わるさ」
「……ん」
受け入れているのか、オルガは少しばかり赤い顔でロマの胸に顔をうずめる。
「……え、ダメだけど」
「シャニ、どうしどわっ!?」
「んぁ、お、おいシャニなにやって」
「オルガだけずるーい」
「ずりぃとかじゃねぇだろ!」
いつの間にやらロマの背中側に回ってそちらから抱き着くシャニ。
人並みの温かさに心が穏やかに……なるほど冷静な男ではない。ロマは焦りに焦っていた。とりあえず素数を数えることにするが所詮は“孤独な数字”。それを数えても
前門のオルガ後門のシャニ。まさかの挟撃ではあるし“元は男”とか思おうとはするが、ロマの思考は現状そう他の思考ができるほど余裕はない。
「離れろよシャニっ」
「やだ、オルガ離れてよ。前行けないじゃん」
「テメェがこっち来たらやべぇだろうが!」
「なんで?」
「そ、そりゃっ……」
二人の会話など聞こえていないのだろうロマは、安らかな顔をしていた。
童貞を殺す術は世の中に山ほどあるが、ここまでオーバーキルするものもそうそう無いだろう。そう、童貞をぶち殺すブーステッドマンである。
―――刻が見えそう……。
◇
その後、ロマはアズラエルと共に医務室の前にいた。
ロマはあの
なにはともあれ、医務室の前の壁によりかかるアズラエルとロマ、相変わらず腕を組むアズラエルの胸がロマの精神衛生上、非常によろしくないのだが、それは置いておこう。
唐突に、アズラエルが口を開く。
「そういえばですが、とりあえずあの娘は引っ張れることになりました」
「そりゃなによりです……」
「意外ですね。他のコーディネイターも引っ張りたいとか言いだすかと思ったんですが」
さすがに無理だろうと、苦笑するロマ。
「そこまで優しくもありませんよ。身内を救うだけで充分ですし」
―――それに、どうせ代わりが来るだけだ。
「まぁ私としては、モビルスーツを動かせる貴重な部品を無駄遣いされてるってのも不愉快なので、我々の息のかかった……しっかりとコーディネイターを扱えるアドバイザーの手配もしましたから、ご安心を」
その言葉を聞いて、ロマは“サングラスの奥の瞳”を見開いてから、フッと口元を綻ばした。
ロマは、出撃前の格納庫でさえも余計なことを言ったつもりはなかったはずだと思考する。良くもまぁそこまで素早く対応できたものだ。
同時に、自分が“諦めていた”ものを救いに行った彼女に思うところはある。
「なるほど、ムルタの方がよっぽど優しいな……」
「はぁ? 私がぁ? ハッ、まさか……控えめに言って外道ですよぉ?」
笑うアズラエルだが、ロマがなにかを変えるでもない。
「……俺にとっては優しいよ。中途半端な優しさよりそれがいい、それで十分だ」
「っ、ど……どうしたんですか? ふぅ……感傷的ですねぇ~、褒めてもなにもでませんよぉ?」
少しばかり頬を染めたアズラエルだったが、すぐに切り替える。小馬鹿にするように笑いながらロマの顔を覗きこめば、ロマは変わらず頬を綻ばせ笑みを浮かべるのみで、アズラエルは小首を傾げた。彼の真意が読めないということなのだろうけれど、目を瞑っているロマがそんなアズラエルに気づくわけもなく……。
―――未来を知っていたとして、助けられてばかりだ……。
だがそれは正しいのだ。知っていたところで“戦うことしかできない男”になにができようか、“想いだけでも力だけでも”ダメなように、ただ一つの力ではなにもできやしない。故に、男には支える者が必要なのだ。
「本当に、貴女と出会えて、見つけてもらってよかった。心の底からそう思うよ」
そう言うと、ロマはアズラエルの方を見る。ロマの顔を覗き込んでいたはずだったが、横に戻っていて両手で顔を隠していた。耳まで真っ赤な彼女に、首をかしげるロマだがふと、先の言葉を思い出す。
―――俺、ハチャメチャに恥ずかしいこと言ったんじゃ?
「あ~その、だな。俺としてはその」
「もう、喋らなくて良いデス……」
「あ、はい」
―――恥ずかしい! 穴があったら入りたいっ、墓穴ほったら掘り抜けてぇ!
顔に一切出さずに心の中にて慟哭するロマだが、それが誰にわかろうか……。
アズラエルが片手を顔から離し、片手で顔を押さえつつ、横目でロマの方を見るがやはり冷静に立っているように見えるが、雰囲気が僅かに違っている。この世で両親を除いてそんなロマの変化を察せるのは“四人”だけだろう。
アズラエルがなにかを言葉にしようとした時、医務室の扉が開く。
「アズラエル理事、中尉、お待たせしました」
「んんっ、いえ……ではバエル中尉、行ってらっしゃい」
「理事は良いんですか?」
「はい、私はほかにもやることあるので」
そう言って片手を振るアズラエルに、ロマは頷き返事を返すと背を向けて医務室へと入る。
医務室のベッドに座っている女性が一人。ハイータ・ヤマムラである。入ってきたロマを見れば、開いていた扉からムルタ・アズラエルの顔が見えて、思わず目を逸らしたくなるが、先に扉が閉まった。コーディネイターであれば誰しもブルーコスモス盟主に目など付けられたくはないのである。
入ってきたロマが前に立つ。ハイータはといえば上着は脱いでおり上はシャツのみ、近くにあるピンク色の上着を取って袖を通した。前は開けたまま、ロマの顔を見てから―――顔を真っ赤に染める。
「無事でよかっ―――」
「ろろろ、ロマ君っ、ごご、ごめんねっ、わ、私そのっ」
「薬の影響はすっかり消えたようだな」
ロマにすれば、正直驚いたが最初に突っ込んだ以外、問題はそれほどなかった。
動くなという指示にも従い、“左腕を撃てという指示”にもしっかりと従って綺麗に破壊。撤退時もずっと昂揚しており、降りたすぐ後もまだ元気に“抱き着いてきた”ものだ。
その後は再び、ロマの言うことに従って素直に医務室に連れて行かれたが……。
「あっ、う、うんっ……そ、そのねっ」
「なんだ?」
「わ、忘れてほしいなぁって……その、テンション上がっちゃって余計なこと口走ったりしちゃうっていうか、ほらその……うぅっ、ほんと、ごめんっ」
先ほどのロマの比ではないほどの羞恥に顔を染め、涙目のままロマの方を向く。両手を膝の上に置いてもじもじとしている彼女を見て、ロマは視線を天井に向ける。
―――くそ、かわいいかよ……。
深く息を吐いて落ち着いてからハイータの方を見て、頷く。
「大丈夫さ、私も必死で覚えていない」
「うっ、そ、そっか……」
それはそれで、と言ったところだろうか、しかしてロマは覚えてはいるのだ。ただそれが“何事もオーバー”に言っているだけだろうと認識しているからこそ、気にしていないだけなのだ。別段ありがとうの代わりに“愛してる”ということだって戦闘中であれば珍しくもない。
故に、そういうものだと理解している。何事も波立てないでおきたいと思いつつ、色々と波立ててしまう男の勝手な思考だ。
「それと、ハイータ・ヤマムラ」
「え、は、はいっ」
「……君は今日から、私の部下だ。持っていくものは用意しておけ」
連合軍でもかなり特殊な立ち位置にいる男の宣言に、ハイータは固まった。ただ固まって、頭の中で今言われた言葉を整理しようと必死で思考するもののいまいち理解が追いつかない。
「ようこそ。ブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエル直属部隊へ」
「……へ?」
◇
大型輸送機が空を飛ぶ。その輸送機の一室にいるのはムルタ・アズラエルと以下私兵。
つまりはロマ、三人娘、さらに……ハイータ。未だに状況を理解できていないのか口を半開きにして“お外綺麗”しているが、スピアヘッド数機が見えて冷静さを取り戻す。流れるままに自室に連れて行かれて、準備をさせられ移動、まるで理解が追いつかないままロマにアズラエルと三人娘を紹介された。
その後、輸送機に乗せられブリッジへ、さらにアズラエル財閥のお抱え運転士などを紹介されさらに今に至るわけだが……。
ソファに座るロマと、その隣にはシャニとアズラエル。自分の隣にはオルガ、そのさらに隣にクロト。人見知りの彼女にはいかんせんレベルが高い場所である。
「……えっと、ロマ君」
「ん?」
「そ、そのぉ、私って、どうなるの?」
眉をひそめて不安そうに言う彼女に、ロマはふむと頷いてアズラエルの方を向いた。腕を組んだままなにかを考えている様子のアズラエルがふと目を開く。その視線はハイータの方へ向けられ、足元から頭の先までを見てから、口を開く。
「貴女はとりあえずロマ中尉の部下、ということになりますねぇ。この子も私のためのお付き、特務中という扱いですので貴女も同じくで、名目上は私の護衛というところですが、テストパイロットやらをしてもらいます」
「は、はっ!」
ビシッと敬礼をするハイータを見て、アズラエルは目を細め眉を顰めて手を振る。
「あ~そういうの良いんで、もうちょっと普通で……いえ、普通過ぎるのも困るんですけど」
「ってことだ、ハイータ。もう少し肩の力を抜いて良い」
「え、あ、は、はい……」
言われたことに断ることもできずに、ハイータは頷く。そもそも士官学校以降はまともな軍人扱いされた記憶がないので、こういう場所でどうしていいのか形式もわからない。困りながらブーステッドマン三人を見るも、クロトはゲームをしているしオルガは本を読んでいる。シャニはヘッドホンで音楽を聴きながらロマの腕に寄り掛かっていた。
どうしたものかとも思うハイータだったが、どうにもならないので思考を放棄する。
再び、アズラエルが口を開く。
「あ~それと、貴女の使っていた薬……
「ッ……はい」
一瞬だけ顔をしかめそうになるも、耐えて平静を装い冷静に返事を返す。
「まぁデータも必要ですから適当に報告書を出すわけにもいかないので、とりあえず程度が低いものから試していくとしましょうか、副作用のことも考慮しなくてはいけませんし……」
「へ、え、えっと……」
「つまりは薬と上手く付き合って行こうというわけさ、最終的に廃止できたらそれで良いがな」
アズラエルのいかにも“薬を使って負担をかけさせたくない”という物言いに、
「いえいえ、上手いことコントロールできればかなり良い薬になるとは思いますよ。そちらにも期待して貴女を引き取ったんですから」
「理事、参入早々にビビらせないでくださいよ」
「気遣いなーい」
呆れたような表情のロマとシャニがアズラエルを見ると、彼女はバツが悪そうな表情でそっぽを向く。
「結構無理して引っ張ってきたんですからそのぐらいは、でなければブルーコスモス盟主たる私が“劣悪な状況下におかれたコーディネイターを救った”なんて言われかねませんよ?」
「……確かに、それはマズイ」
「うざいね」
「ホント“ウザい”のなんの……」
そこまで言って、アズラエルは止まった。ロマにとっても意外だったのは彼女が“うざい”などと言う俗っぽい言葉を使ったことにある。彼女ならば『鬱陶しい』等を言うだろうに、ロマはアズラエルをジッと見ているが、片手を顔に当てて俯く。
おそらく“彼女たち”に影響されたということが恥ずかしいのであろうと察するが、ここで余計なことを言って虎の尾を踏む必要もあるまい。先に虎の尾は踏みかけたが……。
「えっとだ、ともかく……前よりはマシな環境だとは思うし、これからも改善はしていくつもり……らしいからさ、安心してくれとは言えんが、頼んだ」
「ううん、ありがとうロマくん……そ、それとありがとうございます! アズラエル理事、私にできることでしたらなんでもしますので、これからもよろしくお願いします!」
バッ、と勢いよく頭を下げるハイータに、また軍人らしくない私兵が追加されてしまったなと、アズラエルは苦笑を浮かべた。そんなどこか優しげな対応を、ロマは横目で見ながら静かに笑みを浮かべた。
彼女もずいぶん“原作”から乖離したものだと……。
―――いや、一部分を見ただけで知った気になっていただけか。
知っているのは“アニメーション”で見れた姿のみなのだから、実際がどうだったのかなんてわからない。気を許せる相手があれば本当はこんなものなのかもしれないし、もしかしたらもっと身内には優しいのかもしれない。だからこそ、ロマは再びそんな“仲間”を見やり、これからのことを考える。
未来は暗い。だがしかし、今ここで暗い顔や思考をするのは違うと、ロマは口を開いた。
「……今、なんでもするって」
「言ってない」
「言ってねぇ」
「言ってないよ」
クロト、オルガ、シャニからの否定。アズラエルはロマを睨む。
「変態」
「ポンコツ」
「女誑し」
三人娘からの罵倒、いや最後が罵倒かは怪しいが、ダメージを受けるロマ。しかし危ない、別段なにも問題ないロマではあるが、まかり間違って『ハ~ゲ♪』などと言えば、ロマがこの世界に生まれ落ちて一度も言ったことのない罵詈雑言を吐きかねない。そしてワカメの摂取量が増えるだろう、悲しいかな効果はないというのに……。
睨むアズラエルの方に、視線を向けるロマだったが……なにかを言おうとして、顔を再び赤くしそっぽを向く。
「……なんで?」
つぶやきながら今度はハイータの方を向く。
彼女は真っ赤な顔で、両手を膝の上に置いてモジモジとしているのだが……両手を寄せているのでそれはもう、寄せられるのだ。
―――ナイスおっぱい!
相変わらず下種く冒涜的であるが、それがロマ・K・バエルである。
「……ろ、ロマくんが、その、どうしてもって、言うならっ」
―――こんなんラブコメじゃん……視線が痛ぇ。
珍しく(?)ちゃんとラブコメっていうかそんな感じでハイータ回収
まぁ、主人公以外のオリキャラなので、四人よりは目立たせないようにしつつ
存在感も出しつつやってきたいと思います
そしてブルーコスモス盟主は辛いよ
ロマの影響で色々と穏やかになってきたけど、立場がそれを許さなそうな……
まぁ基本明るく、闇も書きつつ
次は日常回というか、大事な回というか、そんな感じ
では、次回もお楽しみいただければです