盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
あれから3ケ月が経った。
それだけあれば、ほぼ毎日一緒にいるだけあってハイータもすっかり馴染んだものだが、やはり
ビクトリア基地から持ってきた薬はそのまま集中力と判断能力を底上げしハイになるだけでなく、その後に激痛に苛まれるという副作用があったからこそ、まずそこの改善からだった。その程度で済んだのはコーディネイターの毒素を分解する力等が作用した結果らしく、ナチュラルであれば死活問題らしい。
それにナチュラルが常用していれば、禁断症状はいずれ出るとのことで……結局、禄でもないものには変わりないそうだ。
人を強化するというのは、クロトたちに使っている
まぁさすがにアズラエルの意向に逆らうわけにもいかないので、効果が多少薄くなろうとも副作用が無くなるように改良しているそうだ。
そして実験は今日も―――。
「ロぉマぁくぅン!!」
「メインモニターが死ぬ、やられたっ!」
ロマ・K・バエルの視界は真っ暗だった。
季節は12月、いつも通りの施設で廊下をただ歩いていたロマだったが、突如曲がり角を曲がった瞬間、跳び出してきたのだ。
まるでスローモーションのように感じるが動けやしない挙句、固まってしまった。それも致し方ないというものであろう。彼の視界一杯に広がっていたのは……。
―――
そんなことを思っているうちに、自分を呼ぶ声と共に、視界はおっぱいにより真っ暗になり、飛び込んできた者のせいで後ろに倒れ込んだ。
なんとか途中で全身のありとあらゆる筋肉を使って衝撃は殺し、尻から落ちた後に極力抵抗しながら倒れたのだが、顔面の上に乗っているそのおっぱいは強力であり、埋まったロマは呼吸はできない。
死ぬにしたってこんな情けない死に方をするわけにはいかない。せめて断末魔で“ステラは私の娘になってくれるかもしれない女性だ!”ぐらい言いたい。さすがに母は求めてない。
息苦しさもピークに達したころに、解放される。
「はぁっ、はぁっ、このプレッシャー……!」
「あははっ、ロマくんまっか~しゅきぃしゅぎぃ!」
なにか言おうかとも思ったが、いかんせん余裕がなかった。息も絶え絶えにとりあえず自分の上に乗るハイータに視線を向ければ、彼女はロマに馬乗りになったまま無邪気な笑みを浮かべその瞳をトロンと蕩けさせている。荒っぽい呼吸と紅潮した表情、その呼吸故に上下する胸。
どれもこれもロマにとっては非常によろしくはなかった。
「あぁっ、あっつぃなぁ!」
上着の胸元部分を開くハイータ。
「ぐっ、このままではこちらがやられる!」
「ロマくんはぁ、私にぃ、これから食べられちゃいまぁす♪」
驚愕であった。こんな展開、ロマの人生観が
自分との戦いがもれなく脳内で始まるが、彼の“普通過ぎる神経”がそんな欲に任せた行動を許すわけもなく、廊下のど真ん中で腰の上に乗ったハイータをそのままに上体をぐっと起こした。
「んっ、え~ロマくんのえっちぃ」
「落ち着こうな、うん」
素のままの返事。ハイータを抱えたままどうにか起き上がると、そのまま両頬を叩いて冷静さを取り戻した。
視線をハイータの方に向けるが頬を膨らまして睨んでくる。いかんせん自動的に上目使いになるのが厄介なもので、挙句の果てに胸元を開いているせいで谷間まで覗く。
視線を真上にそらしたロマ。
「どうせ抜け出してきたんだろう。戻るぞ」
「ええ~」
「仕方あるまいよ、ここにいるためにはそれが必要で」
突如、ハイータはロマの背中に飛びついた。
「えへへっロマくんの匂いだぁ~」
「聞こえているならやめろっ!」
「やだぁ~! ロマくんとえっ」
「ええい、私の威厳が死ぬ!」
まぁ、あってないようなものだ。
三人娘にはしょっちゅうからかわれているし、アズラエルには小馬鹿にされ、狂化したハイータには誘惑されだらしない姿にされている。
所員やらが彼に本当に威厳を感じる時と言えば“戦闘訓練中”のみではあるのだが……それでも所員にとっては親しみやすく、一部女性所員からは熱い目で見られることもあるだろう。齢20にして中尉、ナチュラルでありながらエースパイロット、優良物件以外の何者でもないのだが、彼自身にその自覚はない。
下りたハイータを前にため息をついて、その手を掴む。
「あっ♪ ロマくんから手ぇ繋いでくれたぁ……ホテル行く?」
「行っ……かないが!?」
「えぇ~せっかくのイヴだよぉ?」
あまりの誘惑。ちなみにハイータが投薬を受けてから検査を抜け出すのは珍しくもなく、ロマは見つかる度にこういう“誘い”を受けては同じようなリアクションをしている。施設内は男性所員六割と多いのだが、いかんせんロマは女性といる時間の方が長いので色々と大変なのである。所詮は男、しかも童貞だった。いつまで経っても青年、しかして赤い悪魔である。
そうして葛藤していれば、誰かが駆ける音が聞こえた。そちらを向けば男性所員が二人と女性所員が一人。
「中尉そのまま!」
「わかっている」
軽く背を押して所員たちの方を向かせるも、不満そうだった。苦笑する所員たちだが、この状況に慣れているからだろう。
「やぁんっ♪ ロマくんったら強引っ、いいよロマくんだったら乱暴してっ♪」
「早く連れて行ってくれ、私がもたん」
「……中尉いっそやることやって大人しくさせといてくださいよ」
「セクハラだぞ」
「そりゃ失敬」
不満そうな顔をするハイータの頭を軽く撫でてから、背をポンと叩く。
「はぁ~い」
「良い子だ」
ハイータを見る所員が困ったように笑う。投薬後に何度も抜け出すが、なんだかんだで所員たちは彼女を受け入れているようだった。コーディネイターへの見方が変わってきているのかハイータの投薬を中止したいという所員もいるぐらいだ。
しかし、そういうわけにもいかないので研究を重ねて“副作用”が出ないものを開発しているわけだが、集中力やらが上がるわけでもないのに無駄に昂揚だけするようになったりと右往左往しているらしい。
なにはともあれ、彼女がいやすい環境になったようでロマとしては言うこともない。
「なんで君は毎回抜け出すかなぁ」
「だってぇロマくんったら嬉しそうな顔するからぁ、体触ってくるしぃ」
「へぇ~」
「私は触っとらんよ」
所員たちが疑うような視線を向けるものの、ロマは冷や汗を流しながら笑う。
―――触ってねぇって!
ちなみにその数十分後、検査室にて真っ赤な顔で『殺してぇ!』と言いながら転がりまわる女がいた。
◇
あれから数時間が経った。
ロマは現在、車を運転している。一見普通車ではあるが、防弾仕様でいざとなればボタン一つで増援を呼べる緊急ボタン付きという周到さ。
そんな車に同乗しているのはクロト、オルガ、シャニの三人であり、助手席にはオルガ、後部座席に他二人だ。誰も彼も自分の世界に没頭するための“ソレ”を持たずににこやかに雑談をしてる。
「おにーさん、気が利くねぇ~“クリスマス・イヴ”に外出なんて」
「まぁ、“約束”もあったからな」
「ん、約束……?」
小首をかしげるシャニ。ロマはサングラスの奥の瞳を細めて苦笑を浮かべた。
「なにはともあれ、今日は付き合ってもらうぞ」
「ま、なんでも良いけどなぁ」
外を見ていたオルガが赤信号で車が止まったので、ふとロマの方へと視線を向けると、ロマがそれに気づいてオルガの方を見る。
目が合うが最近、妙にそういう沈黙が気恥ずかしく、オルガは視線を逸らす。
「……せっかくだし俺の用事の前にクリスマスプレゼントぐらいは買うぞ。好きなもの一つ」
「なんだよなんだよ! やるじゃねぇか!」
「ひょーおにーさん太っ腹ー!」
「クリスマスプレゼント、はじめてだね」
三人してテンションを上げているところを見ると、まだまだ子供だなと思わず笑みが出る。信号が青に変わり、ゆっくりとアクセルを踏めば車が走り出す。そして車内では三人娘が姦しくなにを買うかどこに行くかの話をしている。少女のようなそんな会話をする三人娘。
なぜだか話が変な方向に行っている気がするし『ホテル』やら『朝帰り』やらの単語まで聞こえるが、ロマは知らないふりをして車を走らせる。とりあえず行先はショッピングモールらしい。
―――たぶん来年は、それほど遊んでやれないしな。
辿りついたショッピングモールの立体駐車場に車を置いて、中を歩いていく四人。三人娘が先行して少し後ろを歩くサングラスをかけた男こと、ロマ・K・バエル。コートを羽織った“私服のスーツ”なので、もれなく通報案件である。
もちろんロマが私服であるように、三人も珍しく私服であった。
クロトは珍しく肩ほどで髪を結っていて、上はフード付きパーカー、下はパンストの上にデニムショートパンツとスニーカーでスポーティーな感じを醸し出していた。
オルガはYシャツの上にテーラードジャケット、下はスキニーパンツとブーツのシンプルな恰好。
シャニはニットミニワンピースとニーハイブーツ……明らかに
そして、そんな三人が前を行く、ロマ的にはもはやアイドルのマネージャーである。
しかしまぁやはり容姿も整っていることもあってか視線を集めるが、中にはコーディネイターじゃないかなんて声も聞こえてくるが……そんなわけもない。ブルーコスモス盟主の縄張りでコーディネイターが堂々と歩いているものか、別にアズラエルがどうするという話でなく周りが勝手にどうにかしかねない。
―――別にムルタはそんなこと望んじゃないんだけどな。
ふと、少し遅れて歩くロマに気づいたシャニが後ろに下がって隣を歩く。ロマはといえば『良いのか?』と前の二人を指さすが、シャニは“サングラス”の奥の瞳を細めて口元をわずかに綻ばし、ロマの腕に抱き着く。
またかと思ったが、今日はクリスマス・イヴ。耐えてみせようと心に誓い、甘える彼女を受け入れた。シャニとしてはせっかくのイヴなので耐えてくれなくて良いのだが、“
そうして数分ほど歩いていると、クロトとオルガがシャニがいないことに気づき、同時に後ろを向く。
「あ、シャニ、またおにーさんとくっついてんじゃんっ!」
「うっさい」
「おい、変な目で見られるだろっ」
「別に、私達が“そういう風に”見られるだけだし」
ロマとしてはそれは困る。明らかに少女なシャニと普通の20歳より大人びているロマとではよろしくないのだ。こちらに存在するかはともかく、パパ活的なものに見えてしまう……しかもこれからプレゼントまで買ってあげてしまうのだから役満リーチ。
シャニに抱かれているのとは逆の手を引くクロト、オルガはため息をつきながら先導する。
「す、すまんなオルガ」
「別にいいけどよ、たくっ、お前らもちっとは大人しくしてろよ」
「……お姉ちゃんだなオルガ」
「アァ!?」
「すまん」
ちょっと怖かったので素直に謝った。
「オルガーあとどのぐらい?」
「あと3分もかからねぇから、店着いたら大人しくしてろよ?」
―――お姉ちゃんじゃん。
◇
夕刻。
施設にて、アズラエルはハイータのデータを見ながらもデスクに頬杖をついていた。たった一人の部屋なので気を抜いているのか表情も緩みきっていて、開いている片手で髪をくるくると弄る。
暇そうだが……実際に暇なのだろう。手元の端末でやるべき仕事はすべてやり、あとは“会議”の時間まで待つのみだ。
親父共の下卑た視線を受けながらまた“盟主”として、やるべきことをやらなくてはならない。
女だからと舐められるし、挙句最近は“大人しくなった”などと言われる始末。元々、そこまで過激なことをする方ではない。プラント幹部の暗殺などだって指示したこともない―――にも関わらず“やったことにされる”こともある。本当に事故だったとしてもだ。
頭が痛くなるが、それで事業が上手く回ったりするのだから厄介である。
「はぁ、こういう肝心な時に……」
そこまで口にして頬杖をつくのをやめると頭を左右に振った。
「……クリスマス、デート」
ボソッと呟いてから口を押えて周囲を確認。誰もいない―――ヨシ! と頷く。
今頃楽しくやっているであろう一人と三人を思い出して、ため息を吐いて憂鬱そうにテレビを点けた。クリスマスムード一色のテレビ番組に再び深いため息をついてしまう。
浮ついた話ばかりで、アズラエルも周りからの圧を最近は感じている。出会いなんてあってないようなものなのだから仕方がない。しかして一人だけ、頭の中に浮かぶ顔。
「ッ~~!」
デスクの上に、顔を伏せて足をバタバタと暴れさせる。
とてもじゃないが他の者たちに見せられない姿、アズラエルはその赤い顔を横に向けて再びテレビに視線を戻す。デートスポットなど、当日にやってどうするつもりなのかと悪態をつきたくもなる。
いや、自分だけではない。ハイータとてこんな日に検査で一日が潰されるのだ。年頃の娘がそうなのだ……自分が悪態をついているわけにもいかない。
だが、理想の人生設計では既に結婚して後任を親戚に任せるつもりだったのだ……。
「寿退社が理想なんですけど、ねぇ~……」
聞こえるわけがないその部屋で、誰にも聞こえないように呟く彼女は、再び顔を赤くして足をバタバタと上下させるも……突如、ハッと顔を上げる。
「そういえば、あの子の支援AI完成がそろそろでしたっけ……」
アズラエルはさらに思考する。
来年にはさらに戦況は混沌を極めるだろう。中立を謳うオーブでさえも今は“協力関係”ではあるが、あそこも一枚岩ではない。“サハク家”はともかく“アスハ”は非常に御しにくいところもあり、“義に厚い”のは良いがいかんせん“我も強い”のが問題だ。
敵ではないが、警戒はしておいた方が良いのだろう……。
「……っと、余計なことを、まずは例のAIの搭載日の確認と、新型とか」
仕事が増えてしまったが、余計なことを考えなくていいからかアズラエルは意気揚々と仕事を再開した。
◇
ロマ達は、ショッピングモールでやることを済まして、道を歩いていた。
陽もすっかり落ち、辺りは暗く、その大通り、道路沿いに植えられた木には装飾も施されている。店は明るく車通りも普段より多いのだろう、渋滞に近い状態になっていた。
いつの時代も、どこの場所も似たようなものだと、テレビで見た光景を間近に笑うロマ。いかんせんこのような状況のクリスマスに実際、外を歩いた記憶は今まで無い。
今回はロマが先行して歩いているが、やはり左腕にはシャニがひっしりと抱き着いている。もう慣れたもので……いや、ロマが慣れるわけもない。やはり左腕のその感触には思わず心奪われるし、時たまシャニに対抗して引っ付くクロトに対してもそれは然り、だ。
だが歩いていて、ふとロマが気づく。シャニが自分の腕をさすっていた。
「それだけじゃ寒いだろ」
「別に……」
「やせ我慢するなよ。そういうのは男のやることだ」
他の者からすれば“らしくない喋り方”でそう言うと、組んでいた腕から抜け出してコートを脱ぐとそのままシャニに羽織らせる。驚いた表情を見せるシャニに軽く笑って見せると、その頭を軽く撫でて歩き出す。
ロマはシャツの下に吸湿発熱ウェアを着ているので寒いには寒いが極寒と言うほどでもない。黒い皮手袋までしているので手も問題ないが、見た目は完全にマフィアである。
腕を絡めるでもなく、ロマに借りたコートをギュッと寄せて隣を歩くシャニ。するとクロトが横にやってきた。
「なぁんかおにーさん、シャニに甘いよねぇ」
「そんなつもりはないさ、クロトやオルガが寒そうにしてたら同じことをしたに決まってる」
「決まってんの?」
「決まってるよ」
それは間違いない。
ロマの、彼のこの世界においての数少ない守りたい者なのだ。特別に親しい者がいなかったからこそ、余計になのだろう。それに元々の
出会っていなければきっと、当初のただ静かに地球で安全に暮らせれば良いという発想の元、危険を避けつつ、のうのうと暮らしていただろう。
だが、アズラエルに見つかって、出会ってしまったのだから仕方がない。
両親は守るべき対象かと言われたら微妙だし、やはり彼にとって最優先事項といえばここにいないアズラエルとハイータを含めた、仲間たちである。
だから、目の前の少女たちは平等に守るのだ。
「俺はお前たちが思う以上に、お前たちが好きだよ」
「……ふぅ~ん」
納得したのか、ほんのり顔を赤く染めたクロトは、そう返事をして両手を頭の後ろで組んでロマの隣を歩く。その腕には金と銀のブレスレット。ロマからのクリスマス・プレゼント。
それを見ていると、踵あたりを後ろから軽く蹴られて、振り向く。オルガがマフラーに“赤くなった顔”を埋めてロマを睨んでいる。
「……どうした?」
「くさいんだよ、セリフが……」
「確かに」
そう言われると気恥ずかしくなるロマだが、相も変わらず表情には出ないながらも、三人娘から見れば雰囲気で察することぐらいはできよう。
なるべく気を付けようと思いつつも、“赤い悪魔”としてはこういうことはしていった方が良いのかと無駄に悩む。
他に悩むところは山ほどあろうに、くだらぬことで悩めるのは平和な証拠であろう。
「へぇ~」
「おぉ……」
「……綺麗」
道に広がるイルミネーション、クリスマスの装いであるからにカップルも多い。
そして、そのまま道を進めば、どんどんと人が増えていく。逸れないようにと気を遣いつつ歩くロマに着いていく三人。
ロマが止まったところでようやく止まり―――それを、見上げる。
「でっかぃねぇ」
「すっげー」
「……っ」
初めて見るだろうクリスマスツリー、それもかなり巨大で煌びやかなものだ。電飾等で彩色豊かに飾り付けられたクリスマスツリーに目を輝かせる三人を見て、ロマは連れてきた甲斐があったと笑みを浮かべた。
連れてくることができなかったアズラエルとハイータにもプレゼントは買ったし問題はないと思いたいところだが、年末までに出かける予定でも作ろうと心に決める。
光り輝く中、いずれ来たるべき“終末の光”が脳裏をよぎった。
突如、袖が引かれそちらを見れば、シャニ。
「……お兄さん、ありがと」
「ん?」
そう言って少しばかり微笑むシャニの耳で
「約束、覚えててくれたんでしょ?」
あの、プトレマイオス基地でのことだ。
実際にシャニが言うとおり、それを覚えていたからこそロマは今日、ここに彼女たちを連れてきたのだが、そうでなくても来ていた気もする。いずれ起きる大戦で、自分は彼女たちを守りきれるかもわからないし、自分自身さえ無事でいられるかわからない。だからこその今日だ。
軽く頷いたロマは、視線をすぐにクリスマスツリーへと戻す。
そうしていると、シャニに引かれた方とは逆の手に温もりを感じ、そちらを見ればクロト、その隣にオルガ。二人ともクリスマスツリーを見上げ、写真を取るでもなくジッと見ている。
繋がれた手を、ロマの方から軽く握ると、クロトがロマの方を向く。
「来年もさ、おにーさんが……連れてきてよ」
「……そうだな、来年も、来ような」
なんの保障もないだろうに、返事を返す。
彼女たちはこのまま“正史通りに至る”のであれば、刺され、斬られ、撃たれるのだ。アズラエルもまた然り、その結果至るであろう結末。それを受け入れられるほどロマは“大人ではない”し、無情ではいられない。
“運命のその日”まではあと一年もないのだ。ならばできうる限りその結末に至らぬようにするしかあるまい。できるなら、の話ではあるが……。
しかして暗い顔をするわけにはいくまい。彼女たちの前で未来を変えようという自分が……。
時は未来へ進む。誰が決めたわけでもないが、少なからず今はそれが真実なのだ。
迫る時を前に、ただ一人の人間ができることなどたかが知れているのであろう。
だがそれでも、普通の人間だからこそ諦めることなどできないのだ。
「また来年も……」
そうして煌びやかなツリーから視線を外し、クロト、オルガ、シャニをその眼に焼き付ける。
自分が守るべきものを今一度、確かめるように……。
◇
ふと、ロマ・カインハースト・バエルは、目を開く。
その赤と青の瞳に映るのは暗黒の宇宙。青い地球、そして―――戦火。
『目覚めまして?』
「寝てたか……おはよう」
―――案外余裕あるな俺。
『アホ面で眠ってましてよ』
「そりゃ失敬した。良い夢をみてたもんでな」
聞こえる女性の声。その指摘に苦笑しつつも、ロマは状況を確認する。
『ポイントまであと十分』
「了解した」
体に感じるG。相変わらずノーマルスーツを着ていないのも影響しているだろうに……。
「各部異常なし。“チェシャ”、一応融除剤ジェル、噴出口のチェックも」
『もうとっくにしてましてよ』
彼から言わせれば“ポンコツ支援AI”。その不作法な返事に眉を顰めながらも、ロマはモニターとレーダーを確認。赤も緑も入り乱れた戦場。徐々に近づき十分に戦況を確認できる。
視線の先、連合の艦隊が劣勢なのは明らかであり、わかっていたことだが手が震えた。戦場に入る前というのはいつだってこうだ。
『怯えていやがりまして』
「私は怖いよ、動いてるほうが怖くなくて良い」
その手で、コックピットに浮いているしっかりと加工された“集合写真”を取るとジッと見つめる。写真の中には自分、アズラエル、三人娘、ハイータ。
フッ、と笑みを浮かべると、リラックスした表情でそれを内ポケットにしまった。
「行ってくる……」
制服の胸元を締め直すこともなく、表情を引き締める。
操縦桿を握りしめ、脚をしっかりとフットペダルに置く。
モニターに映る白い連合の新造艦に視線を送る。
『旗艦、メネラオスを確認しましてよ』
「デュエイン・ハルバートンか……」
つぶやくように言い、メネラオス周辺の撃沈寸前の連合艦を見やる。
『それに例の新造艦もありますわ。その名も―――』
「―――アークエンジェル、だろ」
『あら、ご存じでして?』
男はなんかご存じだった。なんか生まれる前から。
「これより地球連合軍第8艦隊と合流、援護する」
『かしこまりですわ。ユー・ハブ・コントロール』
「アイ・ハブ・コントロール」
赤き閃光が、宇宙を往く。
―――プレディザスター、飛翔する!
とうとう本編スタートでございます
ここからできる限り歴史を変えないようにしつつ変えつつと難しいところで
悩んでるうちに本編スタートでロマもちょっと困り気味
次回は戦闘、新機体もお披露目でとうとうGと激突、大丈夫かコイツ
三人娘とアズにゃんたちの参戦はまだですが
通信やら一方その頃やら過去話とか交えたりでちゃんと出す予定です
そういえばタイトルずっと仮題のままだけど、まぁいいか
では、次回もお楽しみいただければと思います