盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
チェシャ
戦火渦巻く宇宙、兵士たちは赤い閃光を見た。
彗星の如く迸るそれは、一機のジンの背後から迫り、その“前翼”を使い上半身と下半身の間を切り裂き行動不能にする。
さらに、その赤い閃光はビームを放ち、進行先のジンを撃破してみせた。
地球連合軍第8艦隊司令官デュエイン・ハルバートンは、旗艦メネラオスのブリッジにて、それを見た。
まだこちらまでは距離があるが、モニターに映る赤銅色の機体、悪魔が両翼で自らを包むエンブレム。
地球連合の者であれば存在を知らぬ者などいないであろう“青き世界を招く赤い悪魔”だ。
「あれは……!」
「閣下、あのエンブレムは!?」
「赤い悪魔、ロマ・バエル……!」
赤銅色の装甲を持つそれは―――モビルアーマー。
それは“モビルスーツより一回り程大きい”流線型の戦闘機。だが、コックピットはモビルスーツと同じく装甲に覆われているようで、見た目からどこにあるかもわからない。
後部に装備されていた拡張大型ブースターが切り離されると、畳まれていた可変翼が展開され、背部ブースターと、機体後部の上下に装着された追加ブースターが点火され、さらに加速。
ドレイク級<ベルグラーノ>に接近するジン二機を、主翼根元部分にある二門から放ったビームで落とす。
「最新鋭機の力か、あれが!?」
「いや、普通の人間が乗ってもああはならんだろうさ」
「どんな薬物強化をしているんだ。あれは……」
苦言を呈す副官ホフマン。だが、ご期待には添えず操縦者はポンコツAIの補助を受けているだけの薬物強化もしてないナチュラルの男だ。それは有名な話ではあるが、故に信用していない人間も多い。
メネラオスのモニターには、赤い悪魔がさらにジンを落とすのが確認してとれた。
ハルバートンはオペレーターに声を荒げる。
「各艦とパイロットに伝えろ! 赤い悪魔が現れたとな……!」
◇
赤銅色のモビルアーマー<プレディザスター>のコックピットでロマは顔をしかめる。加速度はジン・ハイマニューバ以上であり、かかるGもそれ以上だ。
だが人は慣れるもので、ロマとて例外ではない。その加速に慣れた故に、その眼もずいぶん慣れたものだった。
コックピットの中、支援AI<チェシャ>がロマに提案する。
『通信、メネラオスにしなくてよくって?』
「チィ、繋げてくれ!」
トリガーを引くと同時に、プレディザスターから放たれた数十のミサイルが数機のジンを破壊する。
次の攻撃がくるが、それを90度横に回転して避け、ジンたちのど真ん中から脱出。それに合わせてチェシャが通信を繋げた。
「こちらロマ・K・バエル大尉であります」
『デュエイン・ハルバートンだ。赤い悪魔に会えて光栄だよ……ゆっくりと話をしたいが、それどころではないのでな、現在我々は大気圏突入限界点までの、アークエンジェル援護防衛戦に移行している』
―――知ってる。
「了解です。では自分はこのまま防衛線維持のために」
『アークエンジェルさえ降りれば撤退もできようが……ナスカ級を撤退させれば敵も諦めよう』
ロマが眉を顰める。
「ナスカ級を落とせと?」
『そういう手もあるというだけだ。君が落ちれば連合すべての士気に関わる……無理はしてくれるな!』
「……了解しました。やれるだけはやってみましょう」
『まずアークエンジェルをここで落とすわけにはいかん、頼んだぞバエル大尉』
ハルバートンからの言葉を最後に通信を切ると、ロマは顔を思い切りしかめた。
加速するプレディザスターを追ってくるジン二機。フットペダルとレバーを勢いよく操作すると機体に追加で増設されているブースターが機体正面を向き、それにより急停止。さらにロマは追加ブースターを駆使し急転回、さらに加速。あまりのG。慣れてない人間であれば今頃気を失っていてもおかしくはない。
砲門から放たれたビームにより二機のジンが爆散する。
そのコックピットで、ロマはレーダーを確認。ナスカ級<ヴェサリウス>の前にはローラシア級<ガモフ>も存在している。ジンが攻勢に出ているせいか、守りはそれほどでもないが……。
「無理難題を仰る……!」
『大物が来やがりましてよ』
「冗談ではない!」
レーダーに映り込むのは“ザフトに奪取された”連合の機動兵器『G』と呼ばれる赤と黒、二機のモビルスーツ。レーダーに表示される機体コードを確認<イージス>と<ブリッツ>だ。
ロマは知っている。パイロットはザフトの赤服<アスラン・ザラ>と<ニコル・アマルフィ>であると……。
―――きたか、ガンダム!
僅かに心躍るも、そうは言っていられない。即座に急旋回し二機に後方を見せて飛ぶ。
放たれるビームライフルを回避しながらロマは残り二機<デュエル>と<バスター>の場所を確認し、十分に離れていることを理解してから装備を確認しつつ、味方の被害状況も確認。戦闘回避も視野に入れつつだ……。
「この二機、どうするか……!」
『ド頭ぶち抜いてさしあげるのはいかがでして?』
「できたらそうさせてもらうっ!」
さすがに“原作のエース”二人を相手にできるほど自分の技量を信じることはできないロマは、回避に専念する。生きた心地がしないものの、そこでふと我に返る。
だがしかし、回避は最小限の動きでできていた。動きも見えていた。なぜだろうと思うも、答はすぐに出る。
「そうか、序盤で練度も覚醒も……?」
『なにを仰ってますの?』
「いいや、やれるだけはやってみるということさ」
加速して、大きく二機のガンダムを離すと旋回し二機の方を向きビームと共に、側部からミサイルを放つ。
二機はビームをシールドで凌ぐと、イージスは頭部のバルカン<イーゲルシュテルン>を連射し、放物線を描き飛ぶミサイルを迎撃する。
だが、その爆煙の中を高速で突っ切るプレディザスター。二機の前に出るなり機首の方から<M417 80mm機関砲>を放つ。
プレディザスターの機関砲。それを受けるイージスとブリッツが大きく怯む。そして、その衝撃を受けるコックピット内で二人のパイロットは焦りを見せた。
モビルアーマーで御丁寧にモビルスーツに突っ込んでくるなど見たこともないし、聞いたことも無い。
アークエンジェルに搭載されていたモビルアーマーも奇抜な戦い方をしたが、それとはわけが違うようだった。
イージスのコックピット内でアスラン・ザラはその衝撃に顔をしかめる。
「くぅっ、なんだこの戦い方はっ!」
『アスラン、まだっ!』
「なにっ!?」
二機の間を機体を横向きにしてすり抜けていったプレディザスター。
だが、その機体を追うようにミサイルが二機へと迫る。
爆煙に入る前にもう一度ミサイルを放ったのだろう。それが今到達したわけだがイーゲルシュテルンを撃ってなお爆風を受け、さらには数発のミサイルを受ける。
「ぐあぁっ!」
『うわぁっ!』
PS装甲を持っていないジンであれば爆散していただろう攻撃。そもそも機関砲とてジンぐらいならば落とせる代物だ。
アスランは焦った。実戦自体は“ヘリオポリスの崩壊”から何度もしてきたが、それでもあまりに目の前の敵はイレギュラーである。
◇
降下シークエンスに入ったアークエンジェルのブリッジは、緊迫感に包まれていた。
アラスカのジョシュアに降下するという目的のために、第八艦隊がその身を盾に戦っているが、友軍艦は次々と落とされていくのもわかるからだ。
歯痒いと言わんばかりの表情を浮かべる艦長<マリュー・ラミアス>だが、今この場で攻撃をしかけることもできない。やるべきことは完璧な降下。
だが、オペレーターのロメロ・パルが叫ぶ。
「デュエル、バスター、先陣隊列を突破! メネラオスが応戦中!」
「そんなっ! イージスとブリッツは!?」
「メネラオスから離れて戦闘しています。友軍機……? なんだこれっ」
なにやら言い淀むロメロ。
「なにがあったの!?」
「識別コードTS-X9……それ以上はっ」
ロメロの言葉に、マリューは顔をしかめてレーダーを確認する。メネラオスから離れて、ザフト艦に近づいていくようにジンを落としつつ二機の『G』をあしらうように戦う高速モビルアーマー。判明しているのは識別コードのみであり、名前の表示すらない。
だがそれは、敵ではないのだろう。
「ゴーストファイターってわけ……?」
◇
ヴェサリウスのブリッジにて、ラウ・ル・クルーゼは立ち上がる。
モニターに映るのは見覚えのある“赤銅色”と、ザフトの中でも冒涜的な都市伝説とされ、前線に出ている兵であれば知らぬ者のいないであろう、その“エンブレム”を持つ機体。
ラウ・ル・クルーゼが立ち上がったことにより、ブリッジ内もそういうことだと理解し、空気が僅かにざわめく。
「“赤い悪魔”め、ヤツが介入してくるとはな……アデス。後を任せた」
「つまり、あれは本物の……?」
「間違いないな。ヤツであればアスランとニコルでは負けはしないと思いたいが、勝ちはないだろう」
“あの日”の戦いを思い出す。モニター内で動く“赤銅色”はあの時と変わらず、自分が“ムウ・ラ・フラガ”と邂逅したあの日において、残っているもう一つの……。
だが、好印象なわけでもない。直感的に感じているのだ。あれを撃たねば後々、厄介なことになると……。
「私もシグーで出る!」
「しかし、隊長!」
「限界点までには戻るさ、それにヤツを討てれば箔がつく」
ブリッジを出て、ラウ・ル・クルーゼは格納庫へと向かう。
「……ムルタ・アズラエルの私兵、少々考えものだな」
まことしやかに囁かれる噂。
嘘か真か……クルーゼにとって、それは今後に関わる問題でもあるのだ。
◇
宇宙を駆ける赤い閃光、プレディザスターはイージスとブリッツ、二機の攻撃を回避しながらもジンを落とす。
速度的にプレディザスターに追いつけるほど二機のガンダムの機動性は高くは無い。ストライクガンダムの高機動パッケージ、エールストライカーでさえもその速度には追いつけまい。
プレディザスターが、二機を振り切ってガモフへと攻撃をしかけ、いくつかの砲台を破壊しさらに離脱のために加速。
狙いたいのは、そちらではなくヴェサリウス。コックピットの中でロマは顔をしかめる。
「っ……このプレッシャー、なんだ……どこかで?」
『ボーっとしてる暇がありまして?』
「フッ、ないな」
背後のイージスが加速するのをレーダーで確認。五機の『G』でも唯一の可変機能を使ったのだろう。
「変形したか、羨ましいものだな……!」
『変形はできなくとも最速ですわ』
背後から放たれる高威力ビーム砲<スキュラ>を回避し、背後に向けて側面からミサイルを放つ。それらを回避しながら、イージスが再びスキュラを撃とうとするが、ロマは自機をヴェサリウスとイージスに挟まれるような位置に移動させる。
故に、イージスはスキュラを撃ちあぐねる。
「ならば!」
即座にレバーとフットペダルを操作し、急停止からの180度回転。
イージスのコックピットでは、アスランがその機動に驚嘆する。彼はそれに乗っているのがナチュラルだということを信じられずにいる。かつての“友人”と同じく、連合に存在するコーディネイターではないかと……。
旋回したプレディザスターに、イージスが可変するも、放たれたビームが右腕を切断した。
『クソエイムですわね』
「かなりよかったと思うが」
『暴力は相手をのしてこそですわよ』
「ごもっともだがな」
そのまま加速し、前翼でイージスに攻撃。切断に至らないまでもその衝撃でイージスは吹き飛んで宙を転がっていく。
さらにプレディザスターの正面にはブリッツが現れ、左腕のグレイプニールを放つも、ギリギリで回避。
『危なくってよ危険でしてよ死にますわよ』
「ええぃ、ナスカ級を撃たねばというに!」
ミサイルを放ちブリッツを攻撃。
迎撃しようとするブリッツだが、ビームライフルだけでは対応しきれずにそれらを受けてイージスと同じく怯んで飛んでいく。再びの急停止と共にヴェサリウスの方を向くが、即座にバレルロールし、“放たれたライフル”を回避。
モニターに映るのは白い機体。
「シグーか!」
『イグザクトリーですわ。しかもおエースでしてよ』
「ヴェサリウスから出ればな、なんでアレまで出てくるんだよっ」
思わず素に戻るが、それも仕方のないことであろう。本来ならば“ラウ・ル・クルーゼ”がここで出てくるはずは無かったというのに、なぜ出てきたのかと甚だ疑問であった。
ロマ自身理解していないが、既に彼がいるというだけで
だがそもそも、彼がやるべきことは
「ぐっ!」
シグーのライフル、数発を受けるがその装甲はそれを通さない。
『痛いのですけれど』
「痛覚などないだろうに」
『おデリカシーがなくってよ。お死にになってくださいまし』
「心中になるが……?」
支援AIが良く言う。と思いつつも“こんなAI”を搭載しやがった整備班に文句も言いたくなる。そういうものを積むと言われた時は、悪くないどころか実にありがたいとも思ったのだが、いかんせんこんなものとは知らなかった。
AIがAIしすぎで頭がおかしくなるとも思ったが、やはり人間慣れるものである。どこぞの砂漠の虎も“未来”で似たようなことを言う。
『狙われてますわ』
「わかっているが、避けれれば苦労はないさ……!」
シグーのライフルを回避しながらもミサイルを放つが、対するシグーはライフルを連射し迎撃、重斬刀を引き抜いて接近してくる。
だが、今更旋回するわけにもいかず、プレディザスターはそのまま突っ込み、重斬刀が当てられる寸前に機体を逸らして紙一重で回避。
「やるな赤い悪魔っ!」
口元に厄介だと言わんばかりの笑みを浮かべつつ、クルーゼは悪態をつく。
すれ違うプレディザスターとシグー、背後から飛んでくるライフルを旋回し回避しつつ、復帰したイージスとブリッツからのビームライフルも回避。
「さすがにキツいなっ!」
『大天使から二機発艦ですわ』
「このタイミングで発艦か、古今例は無いな……!」
―――当然、わかっていたことだけどな。
エールストライクとメビウス・ゼロの発艦をレーダーで確認するも、頭を振って即座に加速。
そちらにかまけている余裕もない。三機が自機を狙っており、ヴェサリウスも主砲を向けてきているようだ。
今、ロマに他を気にする余裕などあるわけもない。
「くっ、並ではないな……」
『当たったらブチギレましてよ』
「支援AIが人にキレるんじゃあない……!」
高速で三機から離れつつも、ヴェサリウスの周囲を旋回。さすがに速度的に追いつけるわけもないが、ヴェサリウスが狙いということはわかっているせいかそれでもシグー、イージス、ブリッツが焦る様子はない。
ミサイルを放つも、ほとんどが三機のモビルスーツとヴェサリウスのCIWSに迎撃されるが、数発が抜けてそれらの破壊を成す。
「えぇい、今までは良かったがエースが相手ではこんなものかっ……!」
『よくやってましてよ』
「世辞はいい!」
急停止、からの急旋回。
ビーム射撃によりヴェサリウスのビーム砲の一つを破壊するも、ブリッツとイージスの二機にロックされる。歯を食いしばり、フットペダルを踏み込み急加速。
体への凄まじい負担に顔をしかめつつも、ビーム攻撃をされないようにするために、ヴェサリウスへと接近し三又に分かれているヴェサリウスの隙間を通り、前翼で内側を切り裂きつつヴェサリウスから距離を取る。
シグーが放ったライフルが当たるが、距離があるので貫くには至らない。しかし、それでも衝撃は受ける。
「ぐぅっ!」
『先に中身の方がお陀仏ですことよ』
「動かなければお前ごとお陀仏だが?」
『さっさと動きやがりくださいませ』
ヴェサリウスから距離をとりつつ、放たれる攻撃を回避していく。迫るジンをビームで倒すと、大きく旋回して再びヴェサリウスの方へと向かう。
だが、シグーとイージスとブリッツが立ち塞がり、さらに進路変更を余儀なくされてしまう。
「チィッ……!」
しかしヴェサリウスを放置してはメネラオスが危ない。ガモフは既にだいぶ前に出ているようだ。ここでデュエイン・ハルバートンを生かしておきたいのは後々のためである。
そこで『チェシャ』がなにかに気づく。
『メネラオスがおシャトルを射出、腰抜け兵でしてよ』
「いや避難民のシャトルだ……!」
『その心は?』
「そういう輩であればアークエンジェルの単独降下など許さんだろうさ……」
メネラオスの周囲にはまだドレイク級ベルグラーノもいるが、時間の問題だ。
「ナスカ級を撤退まで追い込む……!」
『それができれば苦労しなくってよ』
「やってみるさ……!」
プレディザスターをヴェサリウスへと向け、ビームを放つ。
前に出てきたイージスがシールドでそれを凌ぐも、ロマは続けてミサイルを放ちつつ機関砲を乱射しつつシグーとブリッツの位置を確認し加速。
「くぅ、一機では……!」
瞬間、メビウス数機が近づいてくるのをレーダーで確認。
『援護します大尉!』
「あくまで援護で構わんよ……!」
フットペダルを踏み込む。
『怖いことはしないでくださいまし』
「約束はできん……!」
援護にきたメビウスたちのリニアガンでの攻撃に、シグーとブリッツがそちらを向き、気を取られる。だがプレディザスターの進行先では、イージスがビームサーベルを展開し迎え撃とうと構えた。
メビウスからの攻撃を回避しつつ撃ったシグーのライフルが僅かに装甲にぶつかるも、構わず加速。目の前にまで迫ったイージスが、ビームサーベルを振るう。
『死にますわ!』
「帰ると約束してんだよ……!」
イージスがビームサーベルを振るうが、直前で―――バレルロールし紙一重で回避。
「なにっ!?」
アスランは驚愕するが速度ではおいつけない。かといってビームライフルも撃てないだろう。
『ひぇっ!』
「支援AIが怯えるなッ!」
イージスの脇を抜けたプレディザスターはビームでヴェサリウスを攻撃するも、撃破には至らない。
しかし爆発し爆煙を上げるヴェサリウスは撤退するほかないだろう。
ロマがプレディザスターを加速させるが、イージス、ブリッツ、シグーも追ってこない。
それは良いことではあるが、自機の装甲はそれなりにダメージを受けているだろう。
「各機、ナスカ級は撤退すると思われる。メネラオスへと向かうローラシア級を撃つ!」
『了解!』
その返事を聞き、フットペダルを踏み込む。
『おベルグラーノ轟沈ですわよあなた!』
「チィ、間に合え……!」
三機のモビルスーツがヴェサリウスに戻っていくのを確認し、メビウスを引き離し加速するプレディザスター。ガモフへ接近し、ミサイルと機関砲を斉射。
大量のミサイルと共に突っ込んだプレディザスター。ロマの視界のロックサイトが、確実にブリッジを捉えた。
「この一撃で歴史が変わる……!」
トリガーを引くと共に、放たれたビームがガモフのブリッジを貫く。
即座にレバーとフットペダルを操作、ガモフの手前で急停止からの急旋回で爆発するガモフから離れた。通信機から連合兵の感嘆の声が聞こえるが、オープン回線は即座に切る。
メネラオスは問題ない。ここから加速して重力から脱出できるだろう、しかしシャトルの方が問題だ。
「信用されてねぇな……!」
『かなり危ないところでしたもの、当然ですわ』
普通ならば、モビルスーツ三機、しかも『G』二機に囲まれて無事なわけがない。
既にジンも撤退をしているし敵機はデュエルとバスターの二機だが、バスターは相手をしていたメビウス・ゼロが撤退したことにより離れた場所に一機。進行方向的にデュエルと合流するつもりなのだろう。
そしてデュエルはと言えば、ザフトが開発した追加装甲を纏い、未だストライクと戦闘中なのだが……。
「すでに限界点を超えてるかっ!」
『真っ赤ですわ。真っ赤っかですわよ』
「チィッ!」
無事に重力の影響下から移動しようとするメネラオスを横目に、プレディザスターを加速させる。だが先ほどのような加速はできはしない。
「重力の井戸に引かれる感覚っ……モビルアーマーに乗りつつ経験することになるとは……っ!」
『“大気圏突入”は設計上問題ありませんわよ』
「完璧か?」
『……』
―――支援AIが沈黙するってなに?
モニターの先、モビルスーツを見つけた。すっかり赤くなっているがその形を忘れるわけもない。
この世界でロマが見たのはただの資料。だが……動いて戦闘している姿形に対する既視感は、生まれ出た時より持っている記憶によるものだ。
ストライクとデュエルは距離を保っているが、デュエルの持つビームライフルの射線に―――シャトルが入った。
ほどほどにしか加速できないプレディザスターのコックピットで、ロマは顔をしかめる。
『これ以上の加速はコックピットが大炎上ですわ。シグーの攻撃で装甲に僅かにでもダメージはあるんですのよ』
「だがっ……!」
『あくまで“傷の無い状態かつ一定の速度での大気圏突入”しか想定していませんわ』
確かにその通りなのだろう。ナチュラルの自分は万全を期さなければ死あるのみ。
『ここから撃ってくださいまし』
「チィッ!」
徐々に近づきながらも、そこからサイトを展開し狙いをつける。
『お熱でビームも逸れますわ。しっかり狙ってくださいまし、コックピットに直撃させる必要はなくってよ』
「わかっている……」
ふと、ロマは思う。この状況ならばコックピットから逸れて肩や腰に攻撃が当たっても、デュエルは熱で弾け飛ぶだろうが、その場合―――パイロット<イザーク・ジュール>も死亡することになる。
将来的に“シャニ”と“クロト”を殺すかもしれない相手……だが、ロマは思考する。未だに“知っている者”を切り捨てる判断に迷う。顔も性格もある程度は知っている相手、それは仕方のないことかもしれないが、彼をここで殺せば未来は“良くない方”に転がる可能性もあるかもしれないと……。
『あなた!』
「ッ……!」
トリガーを引くが、そのビームはデュエルから大きくそれたようで、デュエルは一度だけこちらを見るが、ビームライフルを放ち“正確にシャトルを撃ち抜く”。
急いで手元の端末を操作し、ストライクへと“届くかもわからない”通信を繋ぐ。
「近づくなストライク!」
聞こえたんだか聞こえてないんだか、ストライクが加速してシャトルへと向かっていたが、爆風と共に吹き飛ばされるのを確認した。結果、先ほどよりも近くまで飛んできたが―――ストライクは下だ。
お門違いも甚だしいが、ロマは“焦ってシャトルを射出した”相手に、心の中で悪態をつく。
―――くそっ、恨むぞハルバートン!
ストライクへの接近を試みながらも、先ほどの射撃を思い出す。
「くそっ、まだ迷うのかオレはッ!」
少しばかりの加速。プレディザスターでストライクの下へとつくと、そのまま速度を落とし機体上部にストライクを乗せるような形を取る。これ以上の移動は困難だろう。
コックピット内にも少しばかり熱気を感じる。
「頼む、チェシャ……!」
『無茶しやがってですわ。耐熱フィルム、融除剤ジェル、展開』
機体の下部から開かれる透明の膜、さらに融除剤ジェルが展開され、二重の防御をもって断熱圧縮の熱から機体を守る。頭から落ちていっていたストライクではロマがいなければ、コックピットは窯となっていただろう。
そうしていると、オープン回線で通信が届く。
『キラ! キラ!』
モニターを確認すれば、アークエンジェルが近づいてきているのが見えた。
◇
地球への降下、アークエンジェルのブリッジが騒然とするのは自明の理だった。
ストライクを捉えてはいるが、反応はなく。そのストライクを“乗せている”モビルアーマーもそれ以上は動かなかった。否、動けないのだろう。あのサイズの機体で大気圏を突入しているのだからそれは当然だと、軍人であればおおよその予想はつく。
副長兼戦闘指揮を担当するナタル・バジルールは、そのモビルアーマーの状態を確認し、確信する。
「あのまま降りる気なら、降下地点はどうなっている!」
「本艦とストライク、突入角に差異!このままでは降下地点を大きくずれます!」
オペレーターのロメロ・パルの言葉に、艦長マリュー・ラミアスは顔をしかめた。
ジョシュアへの降下ルート、ストライクと例のモビルアーマーがこちらへ戻れるかもわからない。そもそもあのモビルアーマーのことさえわからないのだ。
ストライクをただ助けるためだけに来てくれたとは思いたいマリュー。なお、その予想はおおよそ正解である。ロマはただ単純に“状況を好転させたい”がためだけに動いているのだ。
CICを担当しているミリアリア・ハウが悲痛な声でストライクのパイロットを呼ぶ。
「キラ! 戻れないの? 艦に戻って!」
「無理だ! ストライクの推力では……あのモビルアーマーとてこの状況では……!」
突如、通信機から聞きなれぬ声が聞こえる。
『艦を寄せてくれ……!』
「モビルアーマーのパイロット!?」
マリューが反応をすると、さらに続けて声が聞こえた。
『こちら……大西洋連合所属、ロマ・K・バエル大尉……聞こえるかアークエンジェル』
「えっ……」
呆けるミリアリア。いや他の者たちもだが、それでも正規軍人の場合はその意味が変わってくる。つい最近軍人になった者はそれが誰かなどわかるわけもない。だが連合軍の正規軍人で知らない者はいないだろう。
それほどまでにそのネームバリューは凄まじい。顔こそ公表されていないが、確かにその名は知れ渡っている。
故に、即座に反応するのはその“知り合い”であった。
『おいおいマジかよ!』
『久しいなと挨拶をしたいところだが、そうはいかんよ。こちらは動けん……』
「艦長のマリュー・ラミアスですっ、アークエンジェルをそちらに寄せますので……ストライクを、お願いしますっ」
『了解した』
通信が切られた。
操舵師アーノルド・ノイマンが、命令に従いアークエンジェルをストライクの方に寄せていく。いや、そもそもロマ・K・バエルの名が出た時には行動を開始していた。そもそもストライクを失うわけにいかないが、それ以上に彼の名が出た以上は従っておいた方が賢明だと判断したからだ。
彼のバックを……“飼い主”を知らぬ者など大西洋連合の軍人には存在しない。
「降下地点はズレますよっ」
「ストライクを見失ったら意味がないわ。それに……」
言い淀むマリュー。
正規軍人たちは誰も彼もが、顔をしかめている。ロマ・K・バエルについてあまりにも情報が無さすぎるということと、彼が“ブルーコスモス”であるということ……ここから、場合によっては共に行動しなければならないとなると、だいぶ話が変わる。
彼女たちがそう予測をするのは仕方ないことなのだ。蓋を開ければ彼が基本人畜無害で“反コーディネイター”の“は”の字も無い男だとしても、話したことも無い人間にとってロマは“ブルーコスモス盟主の私兵”なのだから……。
「TS-X9、ストライク、着艦!」
「やったぁ!」
「キラ君っ……!」
◇
アークエンジェルの後部へと着艦したプレディザスター。その上のストライクはプレディザスターの主翼に確かに掴まっており、降下するまで離れることはないだろう。
そのコックピットの中でロマは深く息をついた。
とりあえず目的は達成した。おそらくストライクのパイロット<キラ・ヤマト>は心の問題もあり寝込むことにはなるだろうが、“原作”ほど酷いことにはなるまい。
「……危なかったな」
『ノーマルスーツを着ないからでなくって?』
それを言われると弱いと、苦笑する。
『それにわたくし激熱ですのよ。見目麗しきこのボディ、磨いて良くってよ』
「考えておこう、なにはともあれサポート助かった」
『当然ですわ』
ロマは懐から写真を取り出す。“仲間たち”との集合写真。毎日のように会っていた相手、そのぶんここからは少しばかり辛いかもしれない。完全なアウェーとは言わないが、ホームではないだろう。
自分はそこに馴染めるような人間ではないと、思っているからだ。
体にかかるGは故郷のそれであるが。これより辿りつく場所は、その故郷から遠く離れた場所だ。
「チェシャ」
『なんですの?』
「頼んだ。色々と苦労をかける」
フッ、と口元を緩めて言う。
『わたくしは独立型支援AIタイプA、頂いた呼称は“チェシャ”……なんなりと』
「では……」
『ただしわたくし、嫌なことは嫌というタイプですのでお忘れなく』
―――機械が言うことか!?
そして、赤き空を突破し、白き雲を抜け、大天使と悪魔王は砂の大地に降り立つ。
ということで専用機登場、まだなんかありそうな感じです
結構頑張って三機相手にヴェサリウス撤退まで、時間制限なしならロマはもっとピンチだったことでしょう
ラウに目もつけられて今後が大変
支援AI登場、あまりオリキャラ出したくないと言いつつ三人目、これ以上はないです
アークエンジェルとの合流、砂漠編ですがロマはどういう立ち位置になるかーとか楽しみにしていただければと思います
前までと比べて三馬鹿娘+盟主女王+ハイータは出番減りますが、ちょくちょく出番作っていきたいとこです
モビルアーマーでしかもオリジナル機体とか初めてだし
ちょっと急ぎで書いたので変だったら申し訳ないです
それでは次回もお楽しみいただければです