盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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決意の降下

 

 第八艦隊の援護の元、地上、北アフリカの砂漠地帯に降下したアークエンジェル。

 

 その格納庫は騒然としていたが、それも仕方のないことだろう。

 誰もが見慣れぬ“悪魔のパーソナルマーク”が付いた赤銅色のモビルアーマー。その隣で膝をつくストライクのシールドとエールストライカーの翼は熔けていた。上空で空気に晒されたおかげか冷えてはいるが、その姿は痛々しい。

 整備士たちが集まる中、ストライクのコックピットが開き酷く顔色の悪い<キラ・ヤマト>が出てくる。

 

「無事か!」

 

 整備士長であるコジロー・マードックが駆け寄ろうとしたが―――。

 

「っ……」

「おい坊主ぅ!?」

 

 直後、体勢を崩して倒れるキラ・ヤマトを―――金髪の男が支えた。

 その後方にて自動で閉じるモビルアーマーのハッチ、そこから彼が出てきたのは明白である。困惑する周囲の整備士をよそに、男はキラ・ヤマトを抱えたまま歩く。

 念のためにと誰かが手配したのだろう、担架を持って医療班が駆けつけた。サングラスの奥の瞳がそちらへと向けられると、少しばかり空気がピリつく。

 

 前に広げられた担架に、男はそっとキラ・ヤマトを乗せる。

 

「うっ……」

 

 その感覚に、キラ・ヤマトは苦しそうに呻きつつ、僅かに瞳を開いた。おそらくコックピット内での高温も原因なのだろうが、それは大きな問題ではないだろう。“原作”より対処は早かったしそれほど酷いことにはならないと思いたいが、問題は“心”の方だ。

 男はそっとキラの頬に指の背を当てる。

 

「……熱いな、頼んだ」

「あ、はっ!」

 

 そのまま去っていく医療班を見送る男に、誰も彼もが他の者の出方を窺っているようだったが、それもそうだろう。整備士であろうと聞いたことが無い者はいない。

 赤銅色の機体と悪魔のパーソナルマーク。“赤い悪魔”ことロマ・K・バエル。

 ブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルの私兵であり、同時に彼女とは“深い関係”という噂までもある。

 

 だが、このまま無礼を働いてはどうなるかわからないと真っ先にコジロー・マードックが前に出た―――のだが、その前に彼に近づく者あり。

 紫色のノーマルスーツを身に纏う、彼と似たような金髪。

 

「バエル少尉! 久しぶりだなぁ!」

「私は大尉ですよ。フラガ少佐」

「おっとこりゃ失礼」

 

 ムウ・ラ・フラガ少佐、メビウス・ゼロのパイロットでアークエンジェルにいる唯一の正規パイロット。彼がロマに気軽に声をかけて肩を軽く叩くのを見て、周囲は顔を青ざめさせる。

 それもそうだった。ビクトリア基地でイラついて建物一つを消し飛ばしたが問題にされなかったという噂まであるような相手だ。

 誰も彼もが“その背後”に恐れているというのに……。

 

「それにしてもありがとうな、ストライクのこと」

 

 突如として真面目な顔をするムウに、ロマは別段先ほどと変わらぬ声で答える。

 

「いえ、私としてもあの機体を」

「堅っ苦しい喋り方しちゃってぇ」

「……一応、上官なのでな」

「そういうの良いって、階級は上でも立場は君の方が上だろ?」

 

 否定する気はないのか、ロマは黙って視線を逸らして別の方向を向く。それに気づいたムウもそちらを見れば、こちらへと歩いてくるこのアークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスと副長ことナタル・バジルール。

 どちらも緊張した面持ちで、ロマの前へとやってきたが、ムウは顔をしかめる。

 

 やはりブルーコスモス盟主の私兵。赤い悪魔ロマ・K・バエルの名は伊達ではないようだ。

 

「大西洋連邦第八艦隊所属、アークエンジェル艦長のマリュー・ラミアス少佐です」

「同じく、ナタル・バジルール中尉であります」

「突然押しかけて申し訳ない。ロマ・K・バエル大尉です」

 

 敬礼するマリューとナタル、ロマはそれに敬礼で返した。

 

「その、詳しい話は艦長室でよろしいかしら?」

「ええ、私としてもその方がありがたい。これでは見世物だよ」

 

 そう言って苦笑する彼は、実に普通の男に見えたことだろう。実際に、普通の男なのだ。

 

 

 

 

 

 

 月面、プトレマイオス基地。

 智将と呼ばれたデュエイン・ハルバートンは非常に困った状況に陥っていた。応接室に呼ばれたと思いきや、ホフマンと共に“ムルタ・アズラエル”の前に座らされている。しかもその後ろには“強化人間が四人”立っており、ハルバートンは平静を装うものの、ホフマンはこのまま縊り殺されるのではないかと気が気でない様子だ。

 脚を組んで、ソファに座るムルタ・アズラエルは顔に不機嫌を張り付けているようにすら見える。

 

「ウチのバエル大尉はどこにいるんです?」

 

 彼女は外装を纏いながらも、ハッキリと彼の名を口にして言う。それだけ気をもんでいるということだろうが、相対する二人はそれに対してなにかを思えるほど余裕もない。

 先ほど報告も聞いたろうに、問い詰めるムルタ・アズラエルにハルバートンは毅然として答える。

 

「先ほど、部下から聞いてはいると思うのですが……アークエンジェルと共に地球に降下しました。おそらく北アフリカだろうとのことですが」

「彼が自ら、行ったと?」

「ストライクの元へ向かっていきましたのを報告されているので、間違いないでしょう。凄まじい戦いぶりでした……“赤い悪魔”とは良く言ったものです」

 

 彼女の機嫌を取るつもりなどない。純粋なハルバートンの感想だ。

 並のナチュラルが操縦できる速度でもない機体、それを扱いなおかつ接近し攻撃、そして急停止と急旋回。内臓や眼球やらが損傷してもおかしくはない、あえてモビルアーマーにて敵モビルスーツや戦艦へと近づいていく戦い方は常識を逸し、敵にとっても味方にとっても理解不能の戦い方。

 それに一番の謎は“誘導ミサイル”だ。Nジャマーの影響下での誘導ミサイルは意味をなさないはずなのだから、“撃つ前に誰かがデータを入力”でもしない限りあり得ない。

 

「……確実に降りましたか?」

「間違いないでしょう、部下がストライクを乗せた状態でアークエンジェルに着艦したのを確認していたようです」

 

 その言葉を聞いて、アズラエルは素直に頷きながらも、心の中でブチギレていた。

 とりあえず今やるべきは“挨拶もなく勝手に降りていったバカ”を締め上げることである。さもなくば気が済まない。帰って来たら即座に説教である。心配かけて、寂しい思いを“四人に”させて……よくよく考えれば“あの機体”の開発に口を出していたのも、単独行動するためなんじゃないかとさえ思う。大気圏突入機能までわざわざつけて……。

 

 苛立ちからか貧乏ゆすりをするアズラエル。

 

「……帰ったらどうしちゃいましょうか」

 

 震えるホフマン。きっと死ぬより辛い目に遭わされるのだろうと、心の中で赤い悪魔に同情する。

 

 

 

 その後、一通りの話を終えて部屋を出たホフマンが、深く息をつく。心底安心したというようにだが、ハルバートンとしては副官なのだからもう少し堂々としていてほしいと思うところである。小鹿のように繊細だが、そこを買っているところもあるので今更何も言わないが……。

 問題というか、引っかかりはそこではないのだ。

 

 部下が前を行き、その後ろをホフマンとハルバートンが歩く。そこで周囲を見渡すと、我慢できずにハルバートンはホフマンの方に少し近づいて口を開く。

 

「ホフマン、ムルタ・アズラエルをどう思った?」

「い、いえ、容姿端麗とは噂に聞いておりましたが私にはもっと恐ろしいものに見えました。あのイラつき方、いつこちらに飛び火が来るのかと、それに赤い悪魔には同情します。どんな恐ろしい罰を受けるのか」

「……そうか」

 

 眉を顰めてそういうハルバートンに、ホフマンは首を傾げる。

 

「准将は違うのですか?」

「……私は赤い悪魔に対するアズラエルのあの怒り方に覚えがある」

「は?」

 

 ハルバートンは苦虫を噛み潰したような顔で“ソレ”を思い出す。

 

「……カミさんが激怒した時と一緒だ」

 

 近からずも遠からずといったところだろうか……。

 

 

 

 一方、ハルバートンからロマの『カミさん』疑惑をかけられたムルタ・アズラエル。先ほどの応接室にいるものの、先ほどよりも不機嫌さを顕著に表していた。隣には苦笑するハイータ、正面に座る三人娘もどこか納得いっていないようだ。

 ロマは“第八艦隊とアークエンジェルの護衛”に行くと言って出て行ったのだから、間違ってはない。状況的に一緒に降りた方が良いと判断したから降りたのだろうし、“完成した試作機”を持っていったのも、まだ理解できる。

 

 しかしだ、頭では理解できても感情は違うのだ。それに心配もする。

 最初に口を開くのはハイータだった。

 

「アズラエル理事、とりあえずロマくんに支援を送らないとです、よね?」

「あ~そうですね。ジョシュアに降りる予定だったんでしたらなにも無いのかあの艦……」

「え~それじゃあ僕がおにーさん迎えに行ってこようか?」

 

 そういうクロトに、アズラエルは顎に手を当てて考える。

 

「いえ、しかしアークエンジェルというかあの子と連絡を取れなければ合流地点も……」

「……問題、山積みですね」

「ビクトリアが落ちたのが痛手ですねぇ」

 

 ため息をつくアズラエルに、隣のハイータが苦笑を零す。

 クロトがふと何かを思いついたのか平手を拳でポンと叩いてみせた。アズラエルが少し期待する。

 

「じゃあ僕が迎えに行きましょうかぁ?」

「どうやってですか、北アフリカに降下して……そこからわかんないんですよ。大型の通信設備があるところなんてそこらへんに無い気がしますし」

 

 期待するだけ無駄だった。そもそも孤立した状態で降下、支援したくても支援する相手が動くかもしれないなど、今の世界でどうにもできないのだ。しかもザフト勢力圏など支援しに行った方がやられかねない。

 軍を動かすことは造作もないが……。

 

「じゃあどうすんだよ、このままアイツやられて良いってことねぇだろ」

 

 オルガの言葉に、全員が心の中で頷く。そこでふと、アズラエルは思いついた。

 

「なんか考えないとですねぇ、とりあえずサザーランド大佐と連絡つけましょうか」

 

 あまり乗り気でないといった表情を浮かべて、アズラエルは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルの艦長室へとやってきたロマ。

 正面に座るマリュー・ラミアス、両側にはナタルとムウが立っており、テーブルを挟んで向かいに用意された椅子に座るロマは、静かにサングラスを外した。お互いの顔合わせは必要で、これからのことを話すことも必要ということだろう。

 故に、ロマは相手からの言葉を待つ。

 

「まずはバエル大尉、ストライクのこと……ありがとうございました」

「私はなんにもできていませんよ。単騎での降下も可能でしたでしょうし……」

 

 ただしその場合、中は今より悲惨なことになっていただろう。

 そう答えたロマに、マリューは少し困りながらも、話題を変えることにした。それが賢明だろう、まず話し合うべきはそれではないのだ。

 

 問題は―――これからのことである。

 

「それでその、バエル大尉はこれからどうするおつもりで?」

「と言っても帰れませんから……この船はこの後、アラスカまで行くのなら同行させていただこうかと」

「お~そりゃぁ助かるねぇ、あんたがいるなら戦闘になっても」

 

「フラガ大尉!」

 

 ムウの軽い口に声を荒げるのはマリュー。ナタルも少しばかり睨むようにムウを見るので、バツの悪そうな表情で肩をすくめてロマを見た。

 すると、ロマは声を上げて笑う。

 

「ハハッ、構いませんよ。ここからは一蓮托生、そう堅くしても疲れるだけです」

「ほら~コイツの方がわかってるぜ。それに俺は少佐」

 

 同じ戦場に立ち言葉を交わし、挙句には彼とアズラエルの会話を聞いたことのあるムウだからそう言えるのだ。普通は盟主の私兵にはそうはいかない。

 噂ではムルタ・アズラエルはブルーコスモスのタカ派。暗殺やら仕掛ける。誰もが知っている“噂”である。しかして信憑性はあるものだ。

 故に、誰もが“彼”との会話というのは難しく思う。ある意味では“アズラエル本人”よりも難しい。

 

 中身はただのカッコつけたがりの童貞(小僧)だというのに……。

 

「なにはともあれここは北アフリカ、ザフトの勢力圏内……“赤い悪魔”と称されたバエル大尉の協力が得られるならば心強いことですわ」

「艦長、悪魔、というのは失礼にあたるのでは?」

 

 ナタルの指摘に、マリューが動揺する。

 

「えっ、いやでも通り名だし……き、気を悪くされましたか?」

「いえ、慣れたものですよ。別段悪い気もしません」

「そ、そうですか、安心しましたわ」

 

 ―――マリューさんなら、例えなにかあっても大概許せる!

 

 若かりし頃は散々とお世話になっただろう、彼女に敬意を払うのは当然だった。なによりも胸が大きい。ご存じのとおりロマは巨乳に弱かった。

 どこぞのポンコツAIにすらここ一月ちょっとで看破されている。

 

「フッ、我ながら俗物だな」

 

 自嘲気味に笑うロマに、マリューとナタルが顔を見合わせて困惑する。“大気圏突入前”には喧嘩のようにもなったが、ロマという爆弾を抱え込んだ結果、それどころではなくなっていた。

 そして、二人は小声で話す。

 

「なにかあったんでしょうか?」

「我々があまりに素人で、笑ったんじゃないでしょうか?」

「……マズイわね」

「はい」

 

 ハッとしたロマはマリューたちの方を向いてから、ムウに視線を移す。両手を広げて肩をすくめる彼に、ロマは訝しげな表情を浮かべた。

 そのジェスチャーで察せられるほど“そういう方面に対して”勘のいい男ではないのだ。

 

「なにはともあれ、詳しくは明日にしないか? 彼だって疲れてるだろうし、俺たちも、な?」

「フラガ少佐、こういう場ではもう少し」

「私は構わんよ。こちらも疲れた……シグーに『G』が二機……正直、生きた心地がせん」

「心地はなくても生きてんだから、立派なもんだけどねぇ」

 

 一度会ったことはあると言っても、やはり“テレビの人”にそう言われると胸が熱くなる。

 

「バジルール中尉、バエル大尉に将校用の部屋を案内してさしあげて」

「はっ!」

 

 立ち上がったナタルがロマの隣へとやってきた。

 

「ではご案内します」

「ああ、もうちょっと砕けても構わんが」

「部下への示しもつきませんので……」

 

 ―――頭堅いなぁ。

 

 なんて思いながら、ムウとマリューの方に視線を向けて軽く片手を上げてから、ナタルに続いて部屋を出ていく。

 廊下を歩きながらも、すれ違う者からは好奇の視線を受ける。やはり“ヘリオポリス”から共に戦い続けたところに自分のようなよそ者が入ればそうもなるかと、サングラスの奥の瞳を細めた。

 

 彼としては降下しないで済むならばそれでよかったのだが、いかんせんこうなったらやるべきことはやるべきだ。

 いざとなれば“オーブ”で“サハク家の関係者”に話を通してもらえれば良い。特にその人物に覚えがあるし、“オーブに入る”となれば確実に接触することにはなるだろう。

 

 

 

 

 部屋へと案内されてナタルと別れると、静かに息をついて椅子に座る。どうせすぐに立ち上がらなければならないのにも関わらず、完全に力を抜いてしまい、ダルそうに表情を緩めた。

 サングラスが顔からずり下がるが、ダルそうにそのサングラスをテーブルの上に置く。

 一刻も早くアズラエルや三人娘やハイータの待つ“家”に帰りたいが、この道を選んだのは自分だ。

 

「どうす……ん」

 

 なにかを思い出したのか、ロマはポケットから小型のインカムを取り出し、耳に当てスイッチを押す。

 

「待たせた」

『待たせすぎですことよ、我慢できずにミサイル撃つところでしたわ』

「やめろ、マジで」

 

 インカムの向こうから聞こえる声は“なんちゃってお嬢様風ポンコツ支援AI『チェシャ』”である。

 

『はやくぶっぱなしてぇですわ』

「そんなもん撃たないに越したことないだろ」

 

 戦闘なんて無い方が良いのだ。心と頭皮の安寧のために……。

 

「だけどなぁ……」

『どうしまして、というよりどうしますの補給もなしに、ミサイルやら機関砲の弾だって限界がありましてよ』

「節約するさ、ストライクもいる」

 

 ロマとしては、原作通りなら無理に自分がなにかする必要もないと思ったが……。

 しかし、やはりこの船にいるからには何もしないわけにもいかないので、関わらざるをえない。そもそも自分の扱いに困っているようなのだし、ここでサボっては論外だ。

 故に、疲れた体に鞭打ってとりあえず立ち上がる。

 

「さて、格納庫には行かんとな。整備士たちも私の機体の扱いに困っているだろう」

『後回しで良いじゃありませんの、面倒くさい』

「そうして後回しにした結果、私はムルタに30分も説教をくらったよ」

 

 苦い顔をしつつ、サングラスをかけた。

 

『はぇ~犬も食いませんわね。わたくし寝るのでお好きになさって』

「寝るってなんだよ……」

 

 ―――ポンコツAI……てかどんどん感情表現豊かになってくな。

 

 

 

 格納庫までの道を歩いていると、先ほど見た顔を見つけた。

 自分と同じような髪色の男、ムウ・ラ・フラガである。

 

「お、どうしたんだ?」

「いや、格納庫にな。私の機体について話をしていなかった」

「なるほどねぇ、明日でも良いんじゃないの?」

 

 ―――ポンコツAIと同じようなことを……。

 

「そういうわけにもいかんよ。お邪魔している身だからな」

「殊勝なことだねぇ。なんであんたみたいのがビビられてんだか……俺から艦長さんたちに話しとこうか?」

「……いや、こればかりは自分でなんとかするしかあるまいよ」

 

 ムウが難しい顔をするが、ロマは苦笑を浮かべて肩を竦めるのみ。

 

「ところで少佐はこれからどうするんです」

「これから医務室でボウズの様子を見てから寝るんだよ。ウチのエースだからな、放ってはおけねぇ」

「そこは仲間、で良いでしょう」

 

 その言葉に、ムウが目を見開いて驚いてから、苦笑を浮かべる。軍人にしてはいやに綺麗な言葉を使った気がしたのだろう。実際にロマはロマで少しばかり顔をしかめていた。

 軍人としてはガラではない言葉だ。仲間など。

 

「……ほんとブルーコスモスに置いとくには勿体ないやつだよ」

「私はブルーコスモスにいるのではなく、アズラエル理事の元にいる」

「お熱いねぇ、相変わらず」

 

 歩き出すムウの横を行くロマ。そんなロマの腕を肘で突いて笑うムウに、ロマは苦笑を浮かべた。

 

「そういうのではないよ。アズラエル理事もどうやら想い人がいるようだしな……」

「マジで?」

「マジだ」

「いやそっちじゃなくて」

「……ん?」

 

 今度はムウが苦笑し、ロマはその真意を理解しかねる。

 軽く雑談をしながら歩くと、すぐにそこに辿りつき自動ドアを開けてムウを先頭にロマも医務室へと入れば、そこには医者の他に四人ほどの少年少女。軍服を着てるからにAAのクルーなのは確かで、しかし幼さは滲み出る。

 だからこそ、彼は理解した。

 

 ―――本物だなぁ。

 

 感慨深いものがある。アズラエルや三人娘は性別が変わっているせいで実感は無かったものの、やはりこうして実際に見ると違う。ムウもそうだが、ここはやはり“その世界”なのだと実感が湧く。

 

 その医務室の空気は、あまり良いものでもないのだと肌で感じるロマ。医者が少々“嫌な笑い方”をしており、少年少女たちはあまり快いといった表情ではない。

 それもそうだろう、この医者は“コーディネイターはあまりに違う生き物だ”と言わんばかりの説明をしていたばかりだ。

 ムウも嫌な空気を感じ取ったのか、少しばかり眉を顰める。

 

「あ? どうかしたのか?」

「ああ、いや、別に……今彼らにも話したんですが……」

 

 医者がムウへの説明を始めるが、ロマは構わず歩いて少し奥に向かう。すると視界に入るベッドに横たわってる少年が一人。苦しそうに唸っているその少年は“主人公(キラ・ヤマト)”だ。

 サングラスの奥の瞳がその顔を真っ直ぐに見つめる。

 すると、ベッドの隣で腰を下ろしてキラを看病している少女<フレイ・アルスター>がロマを訝しげな表情で見上げていた。

 

「失礼、ストライクのパイロットをしっかりと見ておきたくてな」

「えっと……」

 

 近くに気配を感じるが、おそらくキラの友人だろうと予想がつく。

 せっかくなのでまとめて名乗っておこうと軽く顔をそちらに向ければ、トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウ、サイ・アーガイル、カズイ・バスカーク。御丁寧にキラの友人は全員揃っている。

 しかし、自分と視線が合うとビクッとするのでロマは少し傷ついていた。

 

 だが、そんなことおくびにも出さずロマはフッ、と口元を緩める。

 

「本日よりアークエンジェルで世話になる。ロマ・カインハースト・バエル大尉だ」

 

 そう言うと、それぞれが自分の名を名乗る。全員が二等兵。

 

「ストライクのパイロット……先ほども見たが、少年だな」

「えっと、キラは……」

「コーディネイター、だな?」

 

 その言葉に、少しばかり空気が悪くなる。ロマとしては何の気なしに言ったつもりだったが、ハイータと接していすぎたせいだろう。普通はこうなるということを理解していなかった。

 そうして気にするから余計に確執を広げるというのに、とも思ったが言葉を飲んで、ロマは構わず続ける。

 

「問題はないのだろう?」

「らしいぜ、この程度の熱じゃ命に別状はないだろうって」

「性能が全然違う、か」

 

 サイが一人ごちるようにつぶやく。

 

「だが中身は所詮人だよ。コーディネイターとて」

「えっ……」

「辛いことは辛いし、驚くことは驚く、不意だってつける……」

 

 口元に笑みを浮かべたまま、少しばかり眉をひそめる。

 

「……散々殺してきたんだ、良くわかる」

 

 

 

 

 

 

 北アフリカ。ザフト軍支配下のバナディーヤの街にある屋敷で、砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドはコーヒーを飲みながら驚愕に目を開く。

 持っていたカップをそっと置くと、正面に立っていたマーチン・ダコスタから端末を受け取る。渡したダコスタも少しばかり動揺しているようにも見えるが、それも仕方のないことだろう。

 

 ザフト地上軍は、ビクトリア基地を落としたばかりで少しばかり疲弊している。特にアフリカはそのはずなのだが……。

 

「ほう、バクゥにディン……挙句グゥルまで送ってくるとは大盤振る舞いだねぇ」

 

 バルトフェルドは豪快に笑う。隣に立っていた恋人であり相棒でもある<アイシャ>が小首をかしげる。

 

「どういう風の吹き回しですの?」

「まぁ、納得の指令だよ。上も相当“アレ”をつぶしたいらしい」

 

 そう言ってテーブルの上に端末を置くバルトフェルド。画面を覗き込むアイシャとダコスタ。

 表示されているのは今後の補給と、“目標”に対しての情報。

 

「連合の新型、アークエンジェルとストライクの撃墜または鹵獲ですか、いやそれと……ッ」

「久しぶりに会えるねぇ」

 

 最大限の補給とサポート、そこまでされては本気でやらないわけにもいかないだろう。挙句に『G』を送るとまで言っている。サブフライトシステム、グゥルはそのためなのは明白。

 ザフトの上が本気になる理由が、そこにはある。

 

 アークエンジェル、ストライクを討てとの指令。そして、もう一つ―――。

 

「……今度こそしっかりとお相手しようか」

 

 

 ―――“赤い悪魔”の撃墜。

 

 

 

 

 

 

「うおっ、寒気した……」

『丸出しで寝たんじゃなくって?』

「やめろ、普通に寝てた」

 

 アークエンジェル、格納庫のプレディザスターのコックピットにロマはいた。

 あれから一眠りしたが、落ち着かずにすぐ起きて、早朝から機体の調整をしている。外部の装甲の整備は頼んだが、中に不調がないかの確認するのはロマの仕事だ。

 機動実験とて宇宙でしており、地上での運用などロマもしたことがない。

 

「……さすがに宇宙と同じようにやったら死ぬか?」

『おっ死ぬのが目に見えてますわ』

「慣れればそれで良いんだがなぁ」

『その前に体がもたなくなれば本末転倒ですわよあなた?』

 

 チェシャの言うとおりだなと、ロマは唸る。

 

「ふぅ、とりあえずこの調整だけ終わらせたらもう一度寝るか」

『あ……あれやってあげましてよ? 耳元でささやいてあげるやつ』

 

 そんな支援AIのいらない支援に顔をしかめた。

 

「やめろ、鼓膜が破れる」

『支援AIは感情の起伏なんてないので声を荒げるような優雅でない真似しませんことよ』

「ポンコツAIが良く言う」

『誰がポンコツですの!? ミサイルを撃ちますわよ!』

「こっちからロックできる機能つけた」

『なっ、人の身体好き勝手……わたくしの身体好き放題いじられてますわ~!』

「うるせぇ……」

 

 やかましいAIのスピーカーを強制的に切ろうとするが、そこのロックはいじれなかったので切ったところですぐに点けられるのが目に見えた。まぁ結局は出てしまえば関係ないのだ。インカムもつけなければ良い。

 別に嫌いなわけではないが、一人で盛り上がるので真面目に相手にするのもよろしくはない。激しい独り言を言っていると言われるのも癪だ。

 コックピットのスイッチを押すと、腰かけていたシートがゆっくりと下に降りていく。暗い空間、そこでシートから降りると、床を歩き少し先にあるハッチが開けば光が差し込む。

 

「いちいち、時間がかかるな」

 

 ハッチから出ると、梯子がかけてありそれを階段のようにして素早く降りる。床へと足をつけると、周囲には誰もいないことに気づく。未だ早朝、それもそうだろう。

 整備されすっかり綺麗な姿を取り戻したストライクを見上げ、顔をしかめた。彼には戦ってもらわなければならないが、あまり快い感情ではない。

 

「ふぅ、これではいかんか……」

 

 胸元から写真を一枚取り出す。

 

「……帰るために、やってみるさ」

 

 フッ、と笑みをこぼして写真をしまい、部屋へと歩き出そうとした。その瞬間―――見知った顔を見つけた。

 向こうがどうかは知らないが、少なからずロマは知っている。

 

 ロマにとっては親の顔より見た、は言い過ぎではあるが……散々、その顔も声も“数多の媒体”で見たし聞いてきたはずだ。それ故に、少し呆けてしまった。意識が無い時とある時ではやはり違うようだ。

 目が合っているので、ロマはすぐに切り替える。

 

「体調はよくなったようだな。キラ・ヤマトくん」

 

 そこに、キラ・ヤマトが立っていた。

 

「貴方は……」

「ロマ・カインハースト・バエル、見ての通り軍人さ」

「え、あ……は、はい」

 

 

 ―――ファーストコンタクトでちょっと引かれた……。

 

 





ちょっと急ぎ足で眠い中書いたので変になってたらすみません

とりあえずAA組と合流して色々、こっから顔合わせやらもまだあります
一方、アズにゃんキレ気味、これは帰ってきたあとこってり搾られ、じゃなくて絞られますね
さらにロマのせいでアークエンジェルの危険が危ない(

次回はとうとう本編主人公と会話イベント、さらに色々あります

ロマの影響でどんな風に変わるのかとか、楽しみにしていただければです
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