盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
地球、北アフリカ。砂丘に囲まれ停泊するアークエンジェル。
降下した翌日の昼頃、ロマは自室にて深く息をつく。問題点が多すぎてどこから片付ければいいかわからない。と言ったところだろう。
しかして、ここにきて一番最初にやるべきことはやったはずだと確信している。
そうして端末にてプレディザスターのデータをまとめていると、片耳に挿したインカムから声が聞こえた。
『にしてもカッコつけましたわね。恥ずかしくないんですのあなた?』
「うるせぇ……」
片手で顔を押さえるロマ。それにはもちろん理由があり、今は相棒であるポンコツ支援AIことチェシャはそれを見て……否、聞いていた。
『最後のとこは悪くありませんでしたけど、絶対無理ですわ』
「わかっているさ。それに私は、阿漕なことをしている……」
悪態をついて、ロマは天井を見上げる。
『わたくしの貴重さもう少しご理解なさって!』
「うるせぇなこのAI」
『ASMRですわ!』
「うるせぇ……」
深く息をついて、立ち上がった。
◇
時は遡り、早朝。
ロマ・K・バエルはキラ・ヤマトと共に格納庫の一角に座っていた。
本来ならば病み上がりなのだから医務室に戻すのが定石ではあるだろう。しかし、ロマとしても“そんな顔”をしている相手を放置もできまい。それに自分は彼のトラウマを“識っている”のだ。
暗い表情のキラを見て、少しばかり眉を顰める。
「……すまんな」
「え?」
突然の謝罪に、戸惑う。出会って数分、倒れそうな自分を支えてくれた相手とだけしか知らない。
むしろお礼を言おうと思ったのにその前に放たれた一言に、固まる。
「いや、シャトルのことさ……君が必死に見えたし感じた」
「っ……」
自責に表情を歪めながら拳を握りしめるキラを見て、ロマは心の中で自身も自責の念を感じる。
もう少し早くことが済んでいれば、彼女らを助けることができただろうか、そうすれば彼はこのような表情もしなかっただろうかと思考するロマ。胃が痛むが、情けなくさすることもできずに静かに息をつく。
キラ自身も彼のせいではないと思っているし言いたい、だがその謝罪の声に、雰囲気に、黙ってしまう。
「人の死というのは、重い。知っている者ならなおさらというものだ」
そういうところで一々痛むであろうことは明白だからこそ、ロマは“歴史を変える”こともできない。撃つことができない。未だある迷いを振り切ることができやしない。中途半端な人でなし。
「しかし、残酷な物言いをすれば、君はまだ“大事なモノ全て”は失ってないだろう」
「っ……」
そういう言い方がよろしくはないことは、ロマ自身理解している。だが、ロマにとって一番守りたいモノがあるように、キラにとっても一番守りたいものがあるということも理解していた。
その悲しみや罪悪感が嘘だとは言わない。だが……。
「……引きずりながらでも妥協点を見つけて戦わねば、守れるものも守れんよ」
人でなし故に、あのシャトルならば“まだいい”と遠回しに言う。
悲しいだろう。辛いだろう。苦しいだろう。しかしそれはまだ“マシ”なのだと……。
しかして、守るために戦え―――それはある種、脅迫の類なのだ。だからこそ。
「だが、これは戦士の言い分だ……君が本当に辛いなら、今は戦わないでも良いとも思っている」
「えっ、どうし、て……」
戸惑いを、口にするキラ。ロマはサングラスを外してその赤と青でキラを見やる。
「私の個人的な感情だよ。君は正式な連合軍のパイロットだが……まだ少年だ、戦士として生きるのを強要されるべきじゃない」
「でも、守れるものも守れないってっ」
「それは子供がやることじゃない。本来なら……私や少佐のような大人がやることだ」
その“放送を見ていた”当時はどうだっただろうか、どう思っただろうか、それもすべて追憶の彼方。思い出せるわけもない。しかして“今ここに生きる”ロマはキラのような子供が戦うということに、違和感を覚えない大人ではなかった。だから言葉にしてしまう。
卑劣で賢しいことに、その思考の片隅には、なにを言おうと“キラは戦う”という確信もあるくせに……。
「ッ……だからヤマト少尉、君が“戦いたい”なら戦うのは良い」
胃がキリキリと痛む。自分の情けない心にだろうか、それとも罪悪感か。
しかして口から出る言葉はやはり“彼を待っている”という意味の言葉だ。
「だが、無理に戦わなくても良い。自分の傷を癒してからゆっくり考えていい」
「っ……でも、僕が戦わなきゃ」
「違うだろう」
なにが違う。なぜ違う。自分一人になにができる。そう思っていても無駄に“カッコつけて”しまう。
「戦えるのは君一人じゃないだろう。私はこれでも“赤い悪魔”と呼ばれている男だ」
キラが両手を膝の上に乗せて、グッと拳を握りしめる。
戦うなと言ったり、遠回しに戦えと言ったり、また戦わなくても良いと言ったり……結局、ハッキリと戦うなとは言えない。責任を持つと言いながら、言葉の全てはキラに判断を任せるものであり、ロマとしては拳が飛んできても文句言えないなと、覚悟はしておく。
それに自分は、“少女たち”を戦わせている立場だ。
「その、バ、バエルさんは」
「ロマでかまわんよ。これから長い付き合いになる」
「……その、ロマさんは」
キラと目が合う。ロマは色違いの瞳でキラの瞳を見つめる。
「どうして、戦うんですか?」
その質問は、ロマにとって意外だった。キラ・ヤマトが初対面でこうも核心を突いた質問をしてくるとは思わなかったのだろう。
しかし、キラ自身も驚いていた。出会って間もない相手に、あまりに不躾な質問に思える。すぐに訂正しようと試みるが、その前にロマが口を開く。
「それしか知らんからさ、私は“
「そんな……」
「なにかを変える力がそれしかないんでな、だから未だに嫁さんももらえん」
ロマは自嘲するように笑う。
「だが俺には、守りたい世界ができたんだ」
「え?」
何の気なしに呟いた言葉に気づいて、ハッとしたロマ。サングラスをかけないまま、立ち上がる。
「いや、喋りすぎたな。会ったばかりの年上の自分語りなど聞くに堪えんだろうに」
「い、いえ、そんな……」
そう言うなり、ロマはキラの片腕に手を添えて立たせる。その額に手を当てて自分よりも冷えていることを確認し頷くが、キラは未だに戸惑っている様子。
そろそろ起床する者も増えてくる時間だろう。寝ているべき人間を連れ出した、などと思われてもよろしくは無いとキラを医務室に連れ帰ることにする。
「皆、君に頼りすぎた。君は少し休め」
「ありがとう、ございます……」
おずおずと礼を言うキラの肩に軽く手を乗せた。
「君は連合の兵士だからな、ずっと戦わなくて良いとは言えないが……君の心の整理がつくまでは私が守るよ。君もこの船もな」
「……あ、ありがとうござい、ますっ……」
今度は打って変わって、気恥ずかしそうに言うキラ。
フッ、と笑みを浮かべて頷き、ロマは歩き出す。ともあれ、初対面としては悪くない滑り出しであろうと、ロマは内心で酷く安堵した。
初っ端の紅い彗星ムーヴで手痛い失敗をかましたものの、どうにか盛り返したと言ったところであろう。一発逆転拳炸裂。
―――まぁバクゥ数体、例外もあるが多少増えてもなんとかなる、か?
◇
月面、プトレマイオス基地。
ブルーコスモス盟主、と同時に赤い悪魔の飼い主で名を馳せるムルタ・アズラエルは、サザーランドとの会議を終えて、廊下を歩いていた。その傍らにはオルガがおり、二人は自動ドアをくぐると“集合部屋”へと入った。
クロト、シャニ、ハイータがアズラエルとオルガに視線を移すも、オルガは呆れたように肩を竦めるのみ。
後ろの自動ドアが閉まると同時に、アズラエルはその表情に苛立ちを浮かべた。
荒々しく歩いてソファの前に立つと、ドカッとその“安産型の臀部”を叩きつけるように座る。明らかに機嫌が悪いものの、部屋にいた三人はどこか納得したような表情だった。
深く深呼吸をして、アズラエルは頷く。
「あ~みなさん、とりあえずサザーランド大佐としては補給やら追加戦力は出す気がなかったようです」
「つまり、アークエンジェルは見殺しにする気だったってことですか!?」
ハイータが大声で反応するも、アズラエルは唇に人差し指を当てて“静かにしろ”ということを伝える。おそらくそれは秘匿事項なのだろう。自軍の戦艦を“何らかの都合の悪さ”から見殺しにすることが公なわけもないが……。
「で、おにーさんも、見殺し?」
「いえ、そこはほら……私の得意の交渉術で? なんとかしましたとも」
笑うアズラエルを見て、オルガがため息をつく。
「嘘つけよ、脅迫だったじゃねーか」
「なにか?」
ニコニコとしているが、そこに暗い何かを感じてオルガは目を逸らす。
「……なんでも、でもまぁ多少の妥協はあったよな」
「え~おば、じゃなくておねーさんのソレがあって妥協かぁ」
「まぁジブラルタルが近いから大きな補給船は出せないとか、少数で必要な分のみしか、とか輸送中にMSに襲われたらむしろアークエンジェルが狙われる~とか……適当に理由付けられたもので、送れるのはせいぜい中型輸送機一機分とかなんとか」
そんなしょっぱい補給部隊に、苦々しい顔をせざるをえないハイータ。
「まことに遺憾ながら……そもそも私のロマがいる時点でアークエンジェルは最重要目標扱いされてる気が」
「ハァ~? 誰の誰って?」
シャニの言葉に、小首をかしげるアズラエルだったが……直後に理解したのか片手で顔を押さえて俯く。苦笑するハイータと、呆れたように椅子に腰かけるオルガ、クロトはなんとも言えない表情を浮かべており、見事に話の腰が折れた。
咳払いをしたアズラエルが、深く息を吐く。
「なにはともあれ、です」
手を叩いて音を鳴らす。
「私からも個人的に輸送機を出します。確かに大部隊で向かってザフトに見つかっては本末転倒なので、それなりに、ですが……」
「おにーさんの機体のスペアパーツとかいりますしねぇ」
「それじゃあ安心ですね」
ホッ、と息を吐くハイータ。だがそこでアズラエルはさらに言葉を続ける。
「一機ぐらいモビルスーツを積もうと思いまして」
「僕!」
「私、行く」
「あ~、一応オレが適任じゃねーの?」
「えっと……き、恐縮ながら立候補を」
同時に手を上げる三人と、遅れてハイータ。わかってはいたのだろう、ため息をつくアズラエルは腕を組んで天井を見上げた。
本来ならば自分も付いていきたいのだろう。しかし、立場がそれを許さない。
「待つっていうのも悪くありませんね。そういうことにしましょう」
「なにが?」
「ていうかどうすんだよ。誰行く?」
これでは戦争に行く前に戦争が始まってしまう。むしろ内紛。しかも生々しくも血で血を洗う薬物蔓延る地獄オブ地獄。
けん制し合うでもなくアズラエルの答えを待つが、別になにを言うわけでもない。
早く決めてください。と言わんばかりのアズラエルに四人が顔を合わせた。
「えっと……じゃ、じゃんけんで決めましょうか」
「まぁそれじゃ勝っても負けてもしょうがねぇな、“勝っても”な」
「公平といえば公平ですねぇ」
「ん、勝つ……」
好戦的な三人に畏縮しだすハイータ。クロトはなぜか手首のストレッチをはじめ、シャニはなにかブツブツと計算式のようなものを言いだす。
興味なさげだったオルガは、両手を合わせてじゃんけん前にたまにする“アレ”をしていた。
妙な雰囲気、ハイータは思わず『なんか静かですね~』とか口走りそうになるも、言うべきではないと本能が叫んだ。主にオルガがなんやかんやありそうな予感。
とりあえずだ、ハイータはふと気が付く。
「……なんでみんな私の部屋に集まるんです?」
「なんとなく」
四人がした同時の返答に―――。
「あ、はい」
それしか返せなかったのも仕方ないことであった。基本人畜無害の辛いところである。
ピリピリとしだすクロト、オルガ、シャニを前に、ちょっと涙目になるハイータ。ソファに座るアズラエルが楽しそうに、集まる四人の方を見る。
ハイータは『なに笑とんねん!』と思ったのだが、口が裂けても言えない。
「それじゃ、私が号令をかけましょうか……じゃーんけーん」
―――ポイ!
◇
昼過ぎのアークエンジェル内、格納庫にてロマはプレディザスターの装甲を確認していた。
シグーの攻撃で歪んでいるのは確かだが、しばらくは問題ないだろう。同じ場所に攻撃が直撃したところで実弾ならばまだ持つはずだ。
そうしていると、背後から誰かが近づく気配がする。
「少佐か」
「ムウで良いって、大佐!」
「私は大尉だよ。昨日もやったろうに」
「ははは、でもあんたは階級以上に凄い奴だからなぁ」
背中を軽く叩かれるも、周囲がざわついた。
それを察したロマが、良いのか? と顔をしかめるも、ムウは別になにを言うわけでもなく隣に立ったまま話を続ける。
「まぁまぁ……にしても凄いモビルアーマーだよな、コイツ」
「テスト機だからな、いずれ量産予定らしいが、実際されるのかどうか……私とて支援AIを使ってようやくだ」
「そりゃされないな」
「……やっぱりそうか、そうじゃないかとは思ってたんだ」
ロマ自身が気づいているかどうかはともかくとして、彼が凄まじいスピードと言う機体を並のナチュラルが扱えるわけもない。作ってすぐに技術者たちは『なんでこんなの作っちゃったんだろう』と思いながら、従来通りの量産型モビルスーツの開発に勤しんだそうだ。
プレディザスター。文字通りの試作機に未来は無いのだろう。
ロマとしてはプレディザスターも気に入っている。自由にモビルアーマーとモビルスーツを使い分けられる“可変機”でもほしいところだが、今はまだ酷だろう。
「にしても支援AIねぇ、そんなのどうやって積んでんだ。てか中が意外と広そうだしなぁ」
「中に空間があってな、そこから降りているリニアシートに乗り“モビルスーツと同じコックピット”に入るのさ……ちなみに支援AIについての詳細は禁則事項と言うやつだ。知れば監視がつくか、私と同じくブルーコスモスに入ってもらうことになるだろうな」
「お~あんな美人と一緒にいられるなら悪くねぇかなぁ……なんて」
おかしそうに笑うムウ。おそらくアズラエルが気に入るタイプでない気がして、あまりお勧めしたくはない。
「そういやキラ、元気になったってよ」
「聞いたと言うより、話したよ」
「へぇ~早いじゃないの」
「偶然会ってな。余計なことを言ったかもしれない……」
眉を顰めるロマを見て、ムウも同じく眉を顰めた。
「……なんか言っちゃった?」
「無理なら乗らなくて良いと、私がいるならば問題ないだろうと、な」
「男の子なら挑発だと思っちゃうとこだな」
「……彼ならそんなことは無いと思うよ。勘だがな」
実際、嫌そうな顔では無かった。自分でも投げやりで無責任な言葉だと思ったが、追い詰められた彼がどう思ったかなど知る由もない。しかして、別れ際のキラがロマに対してそんな負の感情を向けていたとは思えなかった。
故に、彼との関係性は“悪くは無い”のだろう。
今後、どうなるかはともかくとしてだ……。
「また、余計なことを……」
「ん、どうした?」
「いや……」
―――どうせ戦う相手だというのに、ただでさえやりにくいものをさらに……。
「それにしても、問題はキラが私の“正体”を知らないことだな」
「えっ、知らないのか?」
「たぶんな、友達から聞くだろう」
そう冷静に言うが、逆にムウが焦りを見せる。
「おいおい、自分から説明した方が良いだろ。ブルーコスモスってだけで尾ひれつくかもしれないぜ?」
「それも私の役割だろうさ。ブルーコスモスの中にもテロ紛いのことをする輩がいないでもないしな。一般人まで巻き込んでの攻撃なんてのもある」
「……でもお前たちはそうじゃないだろ?」
ムウの言葉に、少しばかりうれしくも思う。理解してくれる相手というのがこのアウェーの艦内にいるというだけで、少しは心休まると言うものだ。
「まぁ、なるようになるさ……なんか上手く行ってきたものだ」
「……アンタが言うなら、上手く行くかもな」
笑ったムウはロマの背を軽く叩いて、自分の新たな機体<スカイグラスパー>の方へと歩いていく。それもまた生で見れたことには感動するのだが、今はそれどころでもない。
さっそく機体の方へと歩き出すと、インカムからすっかり聞きなれた声が聞こえる。
『なにカッコつけてんですの、嫌われるの怖いですって素直にお言いになっては?』
「いや、逆に嫌われたほうがやりやすいかもしれん、後々な」
『なにを仰ってるの?』
説明しても意味ないことだ。
階段を上ってプレディザスターの中、暗い空間。
「そういえば持ってきた食糧とか出してないな」
『出す気あったんですの? そのうちわたくしと二人旅でもするのかと思いましたわ』
「ストレスで死ぬ」
『どういうことでして?』
輝くモニターが付いたリニアシートに乗ると、シートはそのまま上に上がっていき、コックピットに収まる。すぐに下のハッチが閉じて密閉された空間になったところで落ち着いたという風に息を吐く。
横からキーボードを出して軽く叩くと、モニターには見慣れない文字列とプレディザスターの全貌。
「お前の健康診断だ。一日一回のな」
『わたくし体調管理ぐらいしっかりできましてよ!』
「こっちが死ぬから怖いんだよ」
機体に問題箇所がないか調べていく。外部、そして内部。
やはり今後、オーブまで補給無しとなればやれることも限られてくる。弾は恐らく“バナディーヤ”でなんとかなるだろうけれど、装甲まではどうにもならない。
最大限、攻撃を食らわずにやり過ごさなければならないともなれば、ビーム兵器が有効なのだろう。
「……テストすらまともにしてないことをするのも、な」
『こちらはいつでも完璧でしてよあなた?』
「私の心の準備が完璧でないからな、じゃじゃ馬」
『おしとやかと言いなさいな!』
―――ほんとうるさいな。
◇
月面のプトレマイオス基地で、アズラエルとの会議を終えたウィリアム・サザーランドは椅子に座って項垂れていた。片肘をテーブルについて額を押さえている。
他にも席に着いている将校は数人おり、それとは別にサザーランドの背後にいる副官らしき人物は、同情するような表情でサザーランドを見ていた。
原因と言えば、先ほどまで会話していたアズラエルだろう。
「面倒なことになったな……赤い悪魔が面倒なことをしてくれたと言ったほうが正しいか」
「あそこで、ハルバートン共々アークエンジェルが散ってくれれば言うこともありませんでしたな」
悪態をつく副官に頷くサザーランド。
「奴が付いて行ってしまったせいで補給部隊を送らねばいけなくなった」
「しかし最小限で済ませたのでしょう?」
「一応は、な。あの方のことだ……どうせ別で補給も送るだろう」
その予想はおおよそ間違っていない。さすが彼女の私兵として数年間働いてきただけはあるということだろう。
しかし、他の将校は違う。彼女の真意までは理解できていない。赤い悪魔ことロマ・K・バエルはアズラエルのただのお気に入り、それ以上も以下もないとしか思っていないのだ。
まぁ“お気に入り”と言っても下種な方向性の想像はしているが……。
「そんなに若い男を手放したくないのかね、理事は?」
「持て余してるんでしょう。パートナーもいないようですし……どうせなら私が相手をしても良かったんですがね。身体だけは立派なものだしな」
「貴方もその立派な腹をへこませてから、ですな」
「ハハハ、家内にも言われる」
和気藹々としている将校たちを尻目に、サザーランドは今回の件に関しては少しばかり真面目に考えていた。ただ一人のために振り回されるのは大きな損失だ。
アズラエルとてそこは理解しているはずだが、それ以上にあの“小僧”に価値があるのか、今はあるだろうが、ここで補給部隊を危険地帯にわざわざ送るほどの価値かと聞かれれば、サザーランドとしては納得しかねる。
だがしかし、サザーランドの脳内で立てた仮説が正しいのであれば……。
「だとしたら……ふん、女だなアズラエル」
それは大きな問題かもしれない。
「感情で動くような俗物でないと思いたいが……」
「どうしたのかねサザーランド大佐」
「いえ……つくづく女は御し難い、と」
「ハハハッ、家内と喧嘩でもしたかね?」
サザーランドは顔をしかめる。あまりに呑気で愚鈍な“上司たち”にだ。
「赤い悪魔共々、散ってくれていいのだがな……」
そう、全て自分が思い描く理想の―――青き清浄なる世界のために。
◇
アークエンジェルの与えられた自室にて、ロマは静かに思考する。
今後の戦い、どの程度“改変”しても良いのか、最良の未来を目指しつつ“彼女らを生還”させる方法を……。
しかして、答えなど出るはずもないのだ。わかりきっていることである。
いっそのこと大きな改変をした方が早いのかとも思うが、その一歩を踏み出せない。
「さて、どうするか……」
『どうせならわたくしの色をもっと可憐な色に仕上げてくださいまし』
「断る」
『即答しやがりましたの!?』
なんだか最初の戦闘より感情表現が豊かになっている気がして、少しばかり不気味である。
「まったく、あの色は戦術的に―――」
瞬間、艦内放送が響く。
『第二戦闘配備発令! 繰り返す! 第二戦闘配備発令!』
「なっ……!」
『来やがりましたわ!』
―――今日なのかっ!?
ズボンを履き、上着を着てから部屋を出た。既に乗組員たちがブリッジや各々の持ち場につくために廊下を行く中、ロマも同じく歩き出す。目的地はもちろん格納庫ではあるが……。
慣れていない道を行きながらも、ロマは悪態をつく。
かつて一度だけ、邂逅したことがある相手……。
―――きたか、砂漠の虎……!
「ロマさんっ!」
「キラ……」
道中、後ろから駆けてきたキラが声をかけてくる。まだ自分がブルーコスモスだとは知らないのだろう……雰囲気は“最後に会ったときと違う”が、ロマに関してどうこうという雰囲気でもない。
だが、そのキラ・ヤマトから感じるのは戦闘意欲。
「……戦うのか? そうでないなら私が」
「僕も戦います。全部、やっつけてやる……!」
展開は変わらなかったのだろうか? と自問自答するロマ。否、確かに変わってはいるのだが……いかんせんロマに判別できる範囲ではない。今はまだ……。
故に、好戦的にすら見えるキラの背を軽く叩いて落ち着きを促す。
「そう焦るな。本当に危ないなら私にはよくわかる……落ち着かねば、守れるものも守れんよ」
「……はいっ!」
素直に頷くキラを見て、ロマもまた頷く。
格納庫に辿りつくと同時に、キラは即座にストライクの方へと走っていく。その後ろ姿を少しばかり眉をひそめて見送りつつも、ロマはプレディザスターへと乗り込む。
リニアシートに乗りコックピットへと運ばれると、モニターが点き周囲の状態が映る。
「ふぅ……」
『あら、彼は元気になったようですわね。どういう心境の変化でして?』
「……」
『あなたの言葉に胸打たれた、とか? オホホホ、まさか、ありませんわよね?』
「さぁな……」
そう答えて、深くため息を吐いた。声だけだが、チェシャが少しばかり戸惑う。
『えっと、どうしまして?』
「……ハッ、俺みたいな童貞がなぁに偉そうなこと言ってんだと思ってな」
『突然どうして荒みますの!?』
「そうかぁ、キラ……キラさんかなぁ」
『お戻りになってくださいまし! 戦闘ですのよ!?』
黄昏ながらも、しっかりと準備はしていくロマ。しかしまぁ覇気がない。
支援AIの癖にチェシャはそれを敏感に感じたので……吠える。
『これでやられたら化けて出ますわよ~!』
シリアス分があるぶんどっかにギャグ入れなきゃとか思ってしまう
まぁなにはともあれロマ奮闘することを誓いつつ、キラと会話
危ない危ない、危うくキラ攻略ルートに入るところだった
そして原作とは違い補給まで来るかも? な展開に……
サザーランド大佐とアズラエルの関係も少し不穏な気配
アークエンジェル組とももう少ししたら会話増えそうです
良い方向かはわかりませんが…
眠気眼で書いたのでおかしなとこあったらすみませんー
では次回もお楽しみいただければと思います