盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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厄災の名のもとに

 

 第一戦闘配備が発令されたアークエンジェル。

 その格納庫、プレディザスターのコックピットにて、ロマは再度各部に異常がないのを確認した。先ほどは少しばかり黄昏もしたが……今はいつも通りだ。

 ムウのスカイグラスパーは未だ出られないようで、乗組員の思考では頼みの綱はストライク、といったところだろう。

 

 ミサイル攻撃が続き、直撃こそ受けていないもののアークエンジェルが揺れている。

 

『ハッチ開けてください。ストライクで出なければ的にされる一方です!』

『艦長!』

『出てもらう他なさそうね……』

 

 しかして、ロマはブリッジに通信を繋いだ。

 

「いや、私が先に出よう。敵が私に釘付けになったところでストライクを出せば良い」

 

 ロマは、自身が出撃さえすれば“砂漠の虎”がモビルスーツを出してくると踏んでいるからこそ、そう発言したのだろう。

 先陣切って“現状のストライク”を出撃させるよりも、プレディザスターに視線を集めた方が“奇襲も無く調整”できるだろうとの思考で、だ。

 

『バエル大尉、ノーマルスーツはッ』

「それは今は良い」

『は、はい……あぁっ、いえっしかし……貴方はっ』

 

 ロマの発言に少しばかり動揺したようで、ナタル・バジルールは言い淀む。だが、マリューは決心したように頷いてモニター越しでロマを真っ直ぐ見据えた。

 

『お願いしても、よろしいですか?』

『ラミアス大尉っ』

「バジルール中尉、私もいつまでも客扱いではいられんさ……戦闘は何度もこなしてきたし、今は機体とこの“赤い悪魔”を遊ばせてもいられないだろう?」

 

 そう言ってフッ、と口元を緩めて見せる。メインモニターの上に表示されているマリューが、コクリと頷いた。

 もう一つのモニター内のキラは、少し心配そうな顔をしている。

 

『っ……艦長』

『TS-X9を発進させて!』

 

 それを聞くなり、通信を切ってから息をつく。相も変わらず手が震えるが、どうせ戦闘になれば収まるのだから気にするだけ無駄だろう。

 窮屈なコックピットの中で、ロマは軽く首元を開ける。

 

『はぇ~すっげぇ役者ですわねぇ』

「散々してきたからな、アズラエル理事の隣にいた男だよ俺は」

 

 プレディザスターがコンベアで移動していく。そのコックピットでロマはストライクへと通信を繋げた。戦場に出れば接近しなければNジャマーの影響で通信もできない。故にこれが戦場に出る前の最後の通信になるだろう。

 モニターに映るのはキラ。

 

『ロマさん?』

「キラ……砂漠は通常通りのモビルスーツで戦おうと思えば、足が取られる厄介な地形だ」

 

 そんな“忠告”に、キラはハッとして頷く。

 

『接地圧と、摩擦係数……』

「そういうことだ。気を付けておけ」

『ありがとうございますっ……!』

 

 微笑を浮かべながらも、ロマは頷きサングラスを外す。

 

「どうせ出撃してからでなければ合わせるもなにもない。できうる限りはやってみせるが……」

『はい、気を付けてくださいね』

「赤い悪魔は伊達ではないよ」

 

 そうとだけ言うと、ロマは通信を切る。出撃前にやるべきことはやったはずだ……問題は出撃後におそらく出てくるバクゥ。ロマの記憶には、既に何体のバクゥを相手にするのかという記憶などない。逆に多かろうと少なかろうと驚愕することもなく、ただ戦えるというものだ。

 グリップを強く握り、その赤と青の瞳で開かれたカタパルトハッチの向こうを見据えた。

 

 モニターに表示されるのは管制を担当するミリアリア。さらに聞こえてくるのはナタルの声。

 

『ハッチ開放、TS-X9発進……!』

『カタパルト接続、APUオンライン、進路クリア……TS-X9、発進どうぞ!』

 

「ロマ・K・バエル……TS-X9プレディザスター、出るッ……!」

 

 瞬間、勢いよく発艦するプレディザスター。

 

 宵闇の中、その可変翼を展開しスラスターとバーニアを点火。赤い閃光が空を奔る。

 

 コックピットでロマの目つきは鋭く変わった。スイッチのようなものだろうか、手の震えは止まり、やけに頭の中がクリアになる。しかしてロマにとってはなにかが明確に変わったという自覚はない。

 上昇したプレディザスターのモニターにて確認するのは地上。アークエンジェルから見えない砂丘の向こうを確認した―――その瞬間。

 

「ッ!」

『きますわよ!』

 

 有線式ミサイルが迫るが、ブースターを点火して加速。それらを避けながらも、機首をミサイルを放ったアジャイルの方へと向ける。

 さらに正面から放たれる別のアジャイルからのミサイルを、バレルロールで回避。

 

「カトンボ共がっ!」

 

 二門の銃口から放たれたビームが三機のアジャイルを撃破。

 

「ッ!」

『きましてよっ!』

 

 チェシャからの警告よりも早く動いていたロマ。

 プレディザスターが急旋回し真下へと加速する。そのプレディザスターの背後から迫るのは、アジャイルとは別の方向から放たれた“ミサイル”である。

 加速し、地上へと迫ったプレディザスター。

 

『ひぇっ!?』

「ぐぅっ!」

 

 地上スレスレの場所で急減速―――からの急旋回。そのまま地上の上を走るように飛ぶプレディザスター。

 センサー誘導でもされたのだろうミサイルは地上へとぶつかり爆散。

 砂丘に囲まれているせいで結果的にアークエンジェルに近づく羽目になり、ロマは顔をしかめた。

 

「まさかここでくるとは……っ!」

『ふぅ……バクゥですことよ』

「それは良いんだが、なっ!」

 

 砂丘の向こうから現れるバクゥが五機。上昇するプレディザスターに向けてレールガンとミサイルを放つも、プレディザスターはさらに急旋回し真上へと機首を向けて加速。

 並のパイロットであれば体がもたぬであろう加速だが、慣れたもので“それほど”の苦痛は感じない。

 バクゥからの攻撃を避けて上空へと上がると、スラスターを切り自由落下させ機首を地上へと向ける。

 

『バクゥ、プラス三機ですわね。合計八機でアジャイルは残り七ですわ。アークエンジェルに送信しておきますことよ』

「助かるが……それだけじゃないさ……」

 

 レールガンを装備した一機のバクゥ。異様なプレッシャーを感じ顔をしかめる。

 

「ここで貴様が出るか……“砂漠の虎”!」

 

 

 

 上空でロマが顔をしかめつつも言葉にするれば、地上のバクゥのコックピットで、アンドリュー・バルトフェルドは口元に笑みを浮かべた。

 

「いやぁ、まさかさっそくお出ましになるとはねぇ。赤い悪魔!」

『っ隊長! X105-ストライクです!』

「バクゥを三機とアジャイルはそちらだ。残りは“悪魔祓い”と行くぞ!」

 

 月をバックに映るシルエット(奴の影)―――瞬間、黒い影から放たれる数十発のミサイル。

 

「散開!」

 

 センサータイプとも違う特殊な軌道を描き迫るミサイル。迎撃するためにレールガンを放つも、数発を迎撃するのが関の山であった。

 バルトフェルドはバクゥの無限軌道を展開し加速、そのままレールガンの砲身を背後に向け放ち、迫るミサイルを迎撃。

 

「奴は……?」

 

 ふと、他のバクゥを見れば、一際高い砂丘を乗り越え飛び上がる。

 

「飛ぶなッ!」

 

 だが、既に遅い。機関砲の連射がバクゥの腹部に数十発と撃ちこまれる。それを放ったであろうプレディザスターはそのままバクゥの脇を通って上昇。爆散するバクゥをよそに、上昇しつつさらにミサイルを放ち、もう一機、バクゥを破壊した。

 

 上空で、再び月明かりにその赤銅色の装甲を鈍く輝かせる。

 

「こうも簡単にバクゥを……僕の自慢の部下なんだがねぇ!」

 

 おそらく砂丘に隠れるように地上スレスレを飛んでいたのだろう。普通の戦闘機乗りがやるような、いや普通の戦闘機でできるようなものではない。

 プレディザスターへと放たれるバクゥのミサイルだが、加速したプレディザスターは異様な加速と軌道でそれらをぶつけ合わせ回避してみせた。

 

「本当に悪魔が乗ってるんじゃないのかね……えぇっ!」

 

 だが、バルトフェルド()はどこか楽しそうだが、それでもやはり真剣に喰らいつくべき獲物を見据える。

 

 

 

 そして、そんな砂漠の虎の敵意に晒されたプレディザスターのコックピットの中で、ロマは顔をしかめてくぐもった声を出す。口の端から流れる血は、おそらく内臓が損傷した証なのだろう。

 だが、それをせねば砂漠の虎の隙をついて、敵機を撃破はできないと考えた故だ。

 

「チィ……情けない」

『し、死ぬかと思いましたわっ……』

「良かったな死なないで」

『あなた、こんなとこで一人傷ついて!』

 

 そんな支援AIの言葉に、ロマは苦笑を浮かべつつ次のミサイルを回避するために加速する。

 視線の先にはおそらくバルトフェルドが乗っているであろうバクゥ。回避するプレディザスターへとレールガンを向けているも……その銃口が少しばかりずれた。

 

「一人で死ぬかよッ! どうせなら奴も呼ぶ!」

 

 プレディザスター後部の追加ブースターを逆向きにし、最大出力で点火。

 

「ぐぅぅっ!!」

 

 おそらく進んでいればいたであろう場所にレールガンが迸る。

 後方へと全力で加速したプレディザスター、その姿勢を制御し背後から迫るミサイルの合間を縫い、さらに後退しつつ機関砲を乱射。ミサイルを迎撃。

 コックピットの中でロマは顔をしかめた。さすがにこうも前へ後ろへと加速していれば体がもたない。

 

「ぐっ……!」

『あ゛~! 脳が痛ぇですわ!』

 

 ―――そんなんゴステロじゃん。

 

『ミサイルぶっぱなしてやりますわっ!』

「いけ……!」

 

 再び前へと進みだすプレディザスターへと放たれるレールガンとミサイルだが、それらを回避しつつミサイルを放つ。出し惜しみをしていられる状態ではない。“殺さないようになどという驕る”余裕も……。

 故に、即座にやるべきことを脳内で整理する。

 

 ―――今はいい、すべてを忘れる!

 

「敵は!」

『こちらはバクゥが三機!』

「ぐっ、キラは!」

 

 アークエンジェルの方で爆発が起きるが、そこに立つのは―――ランチャーストライク。

 

「バクゥをやったか……アジャイルも数機はやっているな!」

『ほぇ~さすがコーディネイターですわね』

「ハッキリ物を言う……っ!」

 

 加速して、ストライクへと襲いかかろうとするバクゥにビームを放つ。しっかりと熱対流のパラメーター調整も済ましていることもあり、逸れることもなくしっかりと照準通りにバクゥを狙い撃つ。

 

「グゥレイトォ! っと、らしくもないことを……」

『むしろらしいですことよ』

 

 そのまま加速するプレディザスターはストライクへと近づいていく。おそらく残りのバクゥも追ってきている。キラが今しがた撃破した一機、ロマが見る前にさらに一機を倒しており、アークエンジェルに近づいた三機は撃破済み。さらにロマは二機。

 

 ―――残り三ッ! 一機は虎かよ!

 

 瞬間、どこからか放たれた砲撃がアークエンジェルを襲う。驚愕するロマ、それがすっぽり思考から抜けていたからだろう……思い出したが既に遅い。

 離床するアークエンジェルから、ムウのスカイグラスパーが発進していく。その目的はレーザー目標指示装置(デジネーター)を照射することなのだろう。

 

 放たれる砲撃をビームで迎撃するも取りこぼす。

 ランチャーストライクがガンランチャーでフォローをしてくれたが、モビルアーマーの機動性と射角では迎撃は難しいものがある。

 顔をしかめるロマは、妙な感覚に機体をバレルロールさせ、地上から放たれたレールガンを回避。

 

 残りの三機は固まっているようで、しっかりとバルトフェルドが統制を取って攻めてくるようだった。

 

「チィ、こうきたか……!」

『南西20キロですが、大丈夫ですのあのお方!』

「エンデュミオンの鷹を侮るものじゃないさ……!」

 

 ミサイルをバクゥに放つが、散開して回避されつつ迎撃され……すぐにまた集まる。アジャイルの一機を機関砲で落としながらバクゥが放ったミサイルを回避。

 だがその結果、砲撃が放たれる方向に背を向けることとなった。

 

『さらに砲撃!』

「くそっ!」

 

 プレディザスターは迎撃できるわけもない。ミサイルを撃っても間に合わないだろうし、下手をすればそのまま砲弾はアークエンジェルに直撃する。

 だがストライクが飛び上がるなり、大口径ビーム砲アグニを照射し砲弾を一掃して見せた。

 そのまま上空でガンランチャーを放ちアジャイルを撃破しつつ、落下していく。

 

「SEEDを持つ者、か……!」

『今、なんと?』

「いいや、だが私とてニュータイプのはずだ……!」

 

 急旋回し、ストライク目掛けて加速。

 落下するストライクがバクゥ三機に狙われるが、プレディザスターがタイミングよくストライクを“攫って”行く。放たれたレールガンを回避し、迫るミサイルに横を向ければ、キラが察したのかストライクはイーゲルシュテルン(バルカン)で迎撃。

 

『重いですわ! 早く降ろさせてくださいまし!』

 

 支援AIの抗議を無視する。

 

『ロマさんっ!』

「乗って行け、エネルギー残量は?」

『まだ、余裕はあります……!』

 

 記憶が確かなら“本来”はエネルギー切れを起こすはずだが、良い方向に転じているのだろう。

 

「良い子だ。あちらは砂漠の虎がいる……」

『砂漠の、虎ですか?』

「厄介な奴だよ。キラ、俺たち二人でバクゥとアジャイルを狩る。砂漠の虎は狩れなくとも“巣”を狙えれば十分だ……!」

 

 つまりはレセップスを撃てるようになるまで、ということだろう。飛んでくる砲撃をアークエンジェルのゴットフリートが迎撃する。

 地上のバクゥがさらにミサイルを放つが、プレディザスターは加速。前のめりになったストライクが掴まっていた。

 

 加速しながらも高度を落としていくのは、狙われやすいが逆にキラも狙いやすい故。

 

「好きにしろ。私がフォローする!」

『お願いします!』

 

 二機のバクゥがミサイルを放つも、ストライクはバルカンとガンランチャーで迎撃。プレディザスターがミサイルを放ち三機のバクゥを牽制しようとするも、バルトフェルド機がレールガンを放ちミサイルをある程度は迎撃。さらにもう一撃をストライクに向けて放つが、ストライクはプレディザスターの上から跳躍―――レールガンは空を切る。

 

 プレディザスターは急旋回をかけ、走るバクゥへと向けて真っ直ぐ跳び出す。それを上から見るストライクのキラ。

 バクゥ二機は動揺したようにプレディザスターへとミサイルを放つも、キラはアグニを照射し、そのミサイルを迎撃しつつもバクゥ一体を撃破。もう一機はアグニの火力に恐れてか飛んでしまい、そこをプレディザスターに狙われる。

 接近したプレディザスターが機関砲を撃ちこみながら過ぎ去り、バクゥは空中で爆散。

 

 バルトフェルド機がプレディザスターに向かいレールガンを放つが、キラはアグニでそれを相殺。

 

「ロマさんが守るって言うなら、僕だって……!」

 

 

 

 地上にただ一機残されたバクゥの中で、バルトフェルドは顔をしかめた。

 

「まさかここまでやられるとはねぇ。やはりあちらもクルーゼが仕留めきれなかったというだけあるか……」

 

 空中のストライクをプレディザスターが回収したのが見え、分が悪いことを確信。母艦であるレセップスへと飛んで行った新型戦闘機の方も気になる。

 赤い悪魔を侮っていたわけではない。だが……このありさまは如何ともしがたい。

 

「メイラムたちの仇、取りたかったんだがな……ッ!」

『くっそぉ、ナチュラル如きにぃ!』

「“大天使だけなら”まだしも、とんだ災いが落ちてきたもんだ……撤収するッ!」

 

 部下の悪態を聞きながらも、バルトフェルドはバクゥをレセップスの方へと向かわせる。

 アジャイルたちも撤退を始めればプレディザスターもストライクも攻撃を止め、アークエンジェルの方へと向かっていく。そんな“優しさ”に苦笑するバルトフェルド。

 

 奇妙なパイロットと赤い悪魔、なんとも奇妙な縁を感じる。

 

 

 

 アークエンジェルの近くへと戻ったプレディザスターとストライク。

 プレディザスターで緩やかにアークエンジェルの周囲を旋回しながら、コックピットで撤退を始めたアジャイルの方を見ていた。

 追撃をかけない二機に合わせてか、マリューも追撃をする気はないのだろう。

 おそらく、ナタルは背を向けている敵を討てと言っていそうだが……。

 

「まぁ軍人としてはそれが正しいのかもしれんがな」

『軍人とて人でしてよ? 最低限の良心があるのは“仕方のないこと”ですわ』

 

 その言葉に、フッと笑みを零すのは、ロマがなんとなく“慰められた”気がしたからだ。

 

『わたくし、あなたのそういうとこ―――反応ですの!? 撃った!?』

「ッ!」

 

 どこからか放たれた対空ミサイルが、遅れているアジャイルを破壊した。

 

「なにを、まさかっ……ええい、なぜ撃つ! 奴らは戦う気はなかった!」

『捉えたっ、あれですわ!』

 

 さらに二機のアジャイルを、放たれたミサイルが破壊する。

 一度こちらに機首を向けるも、渋々と言った雰囲気で撤退していく生き残りのアジャイルたち。唖然としているであろうアークエンジェルの乗組員と、キラ。

 プレディザスターのコックピットで、ロマはモニターに映る金髪の少女を見やる。

 

 ―――明けの砂漠ッ! カガリ・ユラ・アスハ……ッ!

 

 

 

 

 

 

 暗い内に戦闘は終わらせたのだが、結果的には朝焼けの早朝。

 アークエンジェルと、その傍にはフェイズシフト装甲を解除した状態のランチャーストライクが立つ。さらに隣に停泊しているプレディザスター。

 数台のジープと多数の“レジスタンス”たちが集まっており、銃口こそ向けていないがいつでも撃てるようではあるようだった。

 

 コックピットに未だいるロマが、通信を繋ぐ。

 

「艦長、どうするおつもりか?」

『私とフラガ少佐で行きます……一応数名は待機させるつもりですが』

「私も行こう、いざとなってもそれなりには対応できるさ」

 

 そう言うが、マリューは渋る様子を見せる。それもそうだろう、戦闘はさせたものの、できうる限り危険なことはさせたくない相手だ。

 しかし、それで止まっていられるロマでもない。面倒事は極力避けてはきたし、なるべく正史に近づけるつもりではあったが既にその限りではないのだ。故に、なるべく事態を好転させつつも……今ここに生きる人間として“文句も言ってやりたくなる”ものであった。

 

『しかし大尉……』

『良いじゃないの、ロマは俺がレセップスがいるって報告するより早くに相手が砂漠の虎って見抜いた男だぜ? その勘を信じてさ……それに、腕に覚えはあるって言うんだから』

「並のコーディネイター程度でしたらどうにかなるぐらいには」

『……それでしたら、私と変わりませんが』

 

 ―――そうだった。マリューさん白兵戦に定評がある人だった……。

 

「まぁ、役には立ちましょう」

『……では、お願いします。できれば穏便に、お願いしますわ』

「了解した」

 

 そう返事をしてマリューたちとの通信を切る。残るはキラのみ。

 

「キラ、君はこちらで待機を……別に警戒する必要はないが、一応な」

『はい……』

「それと」

 

 少しばかり心配そうにしていたキラだったが、ロマのことを見て小首をかしげる。

 

「……ありがとう、被害なく勝てたのは君のおかげだ」

『っ、そ、そんな!』

「人の礼は素直に受け取るものだ。後々に後悔するぞ」

『……はい』

 

 頷くキラにほほ笑んでから、通信を切った。懐にある拳銃を弾が入っていることもしっかりと確認してから懐にしまいなおす。

 レジスタンスとは、“原作”ならばまず戦うことはないはずだが、念には念を、だ。こうなると一体どこが違うのかわかったものでもない。

 

『あなた、あの子のこと気に入ってまして?』

「そうだな。素直に好きさ……戦争には向いてないがな」

『同感ですわ』

 

 リニアシートが降りていくと、ロマはそこからさらに暗い床に足をつける。さらにそこからハッチを開き、ワイヤーを使って砂漠の地に降りた。

 レジスタンスたちの視線を浴びるがそれも想定内であり、今しがた出たばかりであろうマリューとムウに並ぶ。階級だけで言えばアークエンジェルのトップスリー揃い踏みである。

 

 しかして、妙にピリついているのを肌で感じた。

 

 ―――俺がいるからか? 赤い悪魔の名前は伊達じゃないか。

 

 至って冷静に、マリューはレジスタンスのリーダーらしき男を見て口を開く。

 

「助けようとしていただいた、のでしょうか? 地球軍第八艦隊、マリュー・ラミアスです」

「あれ~第八艦隊って手酷くやられたんじゃなかったっけ?」

 

 レジスタンスでも一際若い青年がそう言うと、マリューは眉を顰めた。それもそうだろう……なぜ知っているのか以前に、アークエンジェルにとっては愉快な話ではない。それでも旗艦が残っているだけ十分だとも思うが、それを言うつもりもないだろう。

 青年に咎めるような視線を送ってから、リーダー格のような男が、口を開く。

 

「俺達は明けの砂漠だ。俺はサイーブ・アシュマン、分かってんだろ? 別にあんた方を助けようとした訳じゃない」

 

 ―――あれではただのヴァルチャー(ハゲタカ)だ。

 

 そう言いたかったが、言えるわけもない。今ここで波風立てることにはなんのメリットも無いのだ。言いたい気持ちはもちろんあるが、そこは自分を律しておく。

 わざわざ死に体の敵を討つことも無かったろうにと思うが、それは自分の論理感での話だ。

 

「はん! こっちもこっちの敵を討ったまででねぇ……」

「砂漠の虎を相手にずっとこんなこと?」

 

 ムウの疑問も尤もなことだ。

 

「……あんたの顔、どっかで見たことあんなぁ」

「ムウ・ラ・フラガだ。この辺に、知り合いは居ないがね」

「“エンデュミオンの鷹”とこんなところで会えるとはよぉ」

 

 名前を聞いただけでその者を理解できるというのは、軍の情報に詳しいということだろう。異名はともかくとして“レジスタンス”がさらに顔を見たことがあるというのは、異常である。

 だからこそ、些かマリューとムウの警戒心もあがるというものだった。

 

「次は私か? ロマ・カインハースト・バエル大尉。知っての通りだ」

 

 レジスタンスたちがざわつく中、サイーブはプレディザスターに視線を向けた。

 

「本物のようだな……“赤い悪魔”」

「“悪魔”は不本意だがな。私もご存じとなると本格的に軍の情報を色々とお持ちのようだ」

「ブルーコスモスの私兵、か……」

 

 レジスタンスたちの一部の者は眉を顰めたり睨んだりもする。

 だがロマにとっては“テロ行為”という点に関しては“ブルーコスモス過激派”と明けの砂漠。なにも変わりはしないが、言わぬが仏だろう。それに下手にこの話を掘り下げて“アズラエルを貶す”なんてことが起きたら、さすがに余計なことを言いそうだ。

 

 ―――私は我慢弱い。

 

「にしても……地球軍の新型特装艦アークエンジェル。クルーゼ隊に追われて、地球へ逃げてきた。そんで、あれが」

「X-105 ストライクと呼ばれる、地球軍の新型機動兵器のプロトタイプだ」

 

 金髪の少女がハッキリと発言する。ロマとしては『お前が喋っちゃダメだろ』と思うものの、言わないでおく。

 ロマは知っている。彼女は“カガリ・ユラ・アスハ”、オーブを束ねるウズミ・ナラ・アスハの一人娘。

 いずれはオーブを“継ぐ者”だ。

 

「オーブと共同開発して作った貴重な機体だな。ヘリオポリスで“ザフトに奪われなかった数少ない機体”の一機さ」

 

 その言葉に引っかかりを覚えたのはカガリだけではない。

 サングラスの奥からスッとカガリの横にいる“ベトナム帰りのスタローン(ランボー)”に視線を向けるが、鋭い瞳で自分を見るのみだった。カガリもまた然りだが、ため息をつく。

 

 ―――生の感情を丸出しにするとは、これでは素性を隠すなど絶望的だな。

 

「まぁ私の機体のことまでは知らないようでなによりだよ」

「ハッ、ブルーコスモスの秘蔵っ子なんて知っててたまるかよ」

 

 サイーブの返しに素直に笑うと、ロマは平手をスッと向けた。咳払いをしたサイーブが、マリューの方を向く。

 

「さてと、お互い何者だか分かってめでたしってとこだがな。こっちとしちゃぁ、そんな厄の種に降ってこられてビックリしてんだ。こんなとこに降りちまったのは事故なんだろうが、あんた達がこれからどうするつもりなのか、そいつを聞きたいと思ってね」

 

 そんな思わせぶりなサイーブの言葉に、マリューが首を傾げる。

 

「力になっていただけるのかしら?」

「へ! 話そうってんなら、まずは銃を下ろしてくれ。あれのパイロットも!」

 

 そんな言葉に、周囲が再びピリつくのを感じるロマ。しかして銃を下ろさせたところで問題はほとんどないだろう。マリューとムウとキラにはしっかりと、プレディザスターは“自動制御でいつでも撃てる”ということは伝えてある。

 了承したマリューは銃を下ろさせ、キラもまた機体から降りるように指示した。

 

「キラ……」

 

 このあとのことは、ロマの中でも未だに印象に残っている。

 ストライクから降りたキラがこちらへと歩きながら、ヘルメットを外す。それにレジスタンスは『子供』だとか騒ぎ立てるが、それと年齢が変わらないだろう青年を生身で戦場に送り出している側が良く言う。

 金髪の少女ことカガリがキラの方へと駆け寄り立ち止まる。

 

 ムウが動こうとするがそれより早く、ランボー(キサカ)がムウの前に立ちはだかった。

 

「必死で守ろうとしすぎだ……!」

 

 思わず小声で言ってしまう。誰も聞いていなかったから良いものの、重要な人物だということがバレてしまうだろう。思わず額を押さえて溜息を吐く。

 なにやらカガリが腕を振るうが、キラはその腕を掴んでいた。数言会話をするも、カガリが暴れ出す。

 

「離せこのバカっ!」

 

 カガリが腕を振り払うと、裏拳がキラの頬を打った。事故と言いたいところだが、一発目は完全に狙いに行っていたはずだ。

 ロマはマリューとムウを見るが、何も言えないようで眉をひそめているのみ。ロマとしてもこう“人が多い場所”では余計なことを言うわけにもいかないのだが……やはり一言は言ってやりたくもなる。

 

 

 ―――あのじゃじゃ馬娘、甘やかされ過ぎだろ……。

 

 

 





久々、ってほどでもないけど戦闘でした。変なとこないと良いけど
ヤベーことになったと見せかけてどうにかなりました
ロマのメンタルケアでちょっとキラ君は調子よさげです

一方ちょっとイライラしてるロマ、そりゃそうだって感じの砂漠編
おもにストレスの原因が味方なんですが
これがきっかけでなにかがある気配ですな

そして砂漠の虎も後半は本気出すからもっと大変なことになるかもですね

珍しく出番がなかったアズにゃんたちですが次回こそはしっかり出番あげたい

それでは次回もお楽しみいただければと思います
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