盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
アークエンジェルは、レジスタンスの駆るバギーを追って低空飛行をしていた。
ブリッジにはロマ、マリュー、ナタル、ムウの四人が揃っている。
明けの砂漠の拠点へとアークエンジェルを隠させてくれるということだが、裏がないわけもない。それはロマもマリューもムウも、ナタルとて理解している。
しかしそれでも、アークエンジェルが無事に“ジョシュア”に辿りつくためにはそうする他なかった。
ロマ自身やムウは連合が、ひいてはアズラエルがロマを放っておくわけがないとは理解しているが、補給が無事に辿りつく保証もない。今はないと思って行動する方が良いだろうという結論だ。
どうにも納得いかないことが多いが、レジスタンスを“利用”しない手はないだろう。あちらもこちらを利用する気なのだから、お互い様というものである。
「さて、補給が受けられるのはありがたいが……」
「なぁに考えてるのかねぇ奴さん」
「我々の技術力を抜くつもりでは?」
「それはないだろうな。私達の技術を抜いたところで再現などできんよ」
ナタルの言葉に否定的に言うロマ。
実際、今更レジスタンスが盗んだところで役に立つ情報などないし作れもしない。ストライクにしろアークエンジェルにしろだ。バックにオーブがついていたとて、今更抜かれたとこでなんの問題があろうかとロマは思考する。元々これらはオーブと共同開発なのだ。
それにロマには、明けの砂漠の目的に大凡の予想がつく。
「砂漠の虎、だろうな」
「なるほど……共通の敵、と……できるなら避けたいとは思いますが」
「同感だが、避けて通れる道でもないのだろう。アークエンジェルは高度を上げられんからな……」
その言葉に、マリューもムウもナタルも顔をしかめた。他のブリッジクルーもそんな三人の雰囲気を察してか少しばかり空気が重くなる。
別段、不安にさせたくて言ったわけでもないので、ロマは少し反省した。決して表に出すわけもないのだが……そんな風だから“雰囲気が怖い”だとか言われるのだ。
中身はただの
「まぁしかし、明けの砂漠……ここら、アフリカ共同体はプラント寄りなんだが、よくもまぁテロ行為などに勤しむ」
「バエル大尉っ……」
「ああ、いや言わんさ。奴らの前で……私とてまだ死にたくはない」
レジスタンスを名乗る者に“それはテロ行為だ”などと、自ら死ににいくようなものだ。撃たれても文句は言えない……こともないが、死人に口なし。結果的に言えなくはなる。
そんなことになれば、今度はブルーコスモスが明けの砂漠を潰しにきかねないが。
渓谷へと入り込めば、レジスタンスたちがいるのが見える。誰も彼も唖然としてアークエンジェルを見上げているが、即座に道を開けていく。
レジスタンスの合図を見て操舵士であるアーノルド・ノイマンがアークエンジェルを停泊させる。
それでようやくそれぞれが、肩の力を少しばかり抜いたのを感覚で理解するロマ。彼はここに関しては元々それほどの心配もしていなかったので、変わらずだ。
カメラを確認すれば、積まれたコンテナが映っていた。そこには連合やザフトのマーク。
「やれやれ、どっからくすねてきたんだか」
「バックアップがあるのだろう。おそらく死の商人関係のな……」
「ブルーコスモスでは?」
ナタルがつぶやくように言ってから、ロマを見て失言だったと口を押さえる。それが意外で、少しばかり固まるロマ。
それを聞いていたムウが肩を揺らして笑う。他のクルーはマリューも含めてマズイことになるんじゃないかと表情を引きつらせるも―――ロマが笑いだした。
「クッ、ハハハッ!」
「ろ、ロマ大尉、彼女はっ」
マリューがフォローしようとするが片手を前に出して大丈夫だということをアピール。
「いや、良い、大丈夫さ……確かにな、その可能性もある」
「っす、すみませんでした。失言でした」
「そんなことはないさ、ブルーコスモスも一枚岩ではないし、アズラエル理事も商人だ。利益のためならそういうこともあるかもしれん」
そう言いながら苦笑するロマに、意外そうな表情を浮かべるマリューとナタル。
想像していたブルーコスモス盟主の私兵、その印象とまったくかけ離れているからこそなのだろうが、彼とて理解している。散々色々な場所をアズラエルと共に歩いてきたのだ。その肩書きがどのような効果を持つのか、身をもって知っている。
「まぁかといって、そのためだけに内紛やらを起こさせるのと一緒にされては困るが……」
「あの美人さんがそんなことするとは思えないしな」
「せんよ、アズラエル理事は」
そう言いながら、微笑を浮かべた。それを見てムウは肩を竦める。
「……お熱いねぇ」
◇
アークエンジェルからロマたちが出て行った。明けの砂漠と今後のことについて話し合うとのことだ。
そして現在、クルーたちは次の作業の前に交代で休憩を取ることになり、結果的にキラは久しぶりに食堂で食事をとれていた。無論、昨晩“共に過ごした”フレイ・アルスターも隣で食事をしており、明るく話しかけるが、キラはどこか上の空。
眉をひそめるフレイは“
―――ロマさんが、ブルーコスモス……。
ストライクのコックピットで、三人が会話している声を聞いていた時に飛び込んだ情報だ。
「そういえばフレイ」
「ん……なに?」
「フレイはロマさんと、会ったんだよね」
その言葉に、フレイは彼を思い出す。地球に降りた日の戦闘後、医務室で苦しんでいたキラの元へ、興味本位からか現れたあの軍人を……。
モビルアーマーを駆る凄腕パイロットという話をクルーが話しているのを聞いたので、当然ナチュラルなのだろうと理解している。
だがあの時に出会った彼女の第一印象は―――。
「私、あの人、苦手だわ」
「えっ、どうして?」
「……なんだか、怖い感じする。見た目とかじゃなくて……」
キラにとってはそれは意外でもない。初見で格納庫で会ったとき、確かにその雰囲気から畏縮もした。話してみれば気のいい男であったし、なによりも自分を理解しようとしてくれた唯一の相手だったが、フレイは確かに好きではないタイプだろうと理解する。
「沢山、人を殺してきたんでしょう。きっと……」
「っ」
フレイの言葉がキラに突き刺さるが、それよりもなによりも……。
「そうするしか、ないだけで……殺したくて殺してるわけっ」
「え、キラ?」
絞り出すように言った言葉を、フレイが理解することはなかった。
彼を誤解するようなフレイの言葉に、動揺するも気を取り直すキラだったが……さらに現れるのはキラの友人たちだ。
トール、ミリアリア、サイ、ガズィの四人。サイはフレイの方を向くが、フレイは目を逸らす。
どことなく気まずい雰囲気だが、トールは仕切りなおして“本題”に入る。
「そういえばキラ、大丈夫だったか?」
「え、あ、うん……ストライク、被弾もないし」
先ほどの戦闘のことだと思い、心配そうな表情を浮かべる友人たちに笑顔を向けた。
「そうじゃなくて! あの人だよ、ブルーコスモスの!」
「……ッ!」
「トールが、あの人がキラになにかするんじゃないかって心配してて……」
やはり“ブルーコスモス”なのは確からしく、キラもその事実はしっかりと受け止める。その上でキラは、彼の自分に対するあの態度が嘘だとは思えなかった。嘘であるにしては、あの数々の言葉には熱がこもっていたように思うから……。
故に、キラは余計なことを考えるのはやめる。トールとて自分を心配して言ってくれているのだ。
「大丈夫だよ。戦闘、見てたでしょ? ロマさんは優しいし……」
「でも、気を付けた方が良いよ……ブルーコスモスってテロとかするぐらいだし、なにするかわかんないんだからさ」
だが、カズイの何気ない言葉が、キラの癇に障った。誰も自分の苦悩を理解しようとしなかったくせに、自分の苦悩を理解しようとしてくれた相手を貶すような言葉を口にするから……。
だが、ここで怒りに身を任せないぐらいには、キラの心には余裕ができていた。だがこれ以上はわからないからこそ、早々に食事を済まして立ち上がる。
久しぶりにキラと共に食事をしようと思っていた面々は少し驚く。
「ごめん、僕ストライクの調整もしなきゃだから……」
「あ、キラ!」
手を伸ばすが、トールのその手は空を切り、キラは足早に食器を片して食堂を去っていった。
「えっ、ぼ、僕のせいじゃないよね……?」
「バエル大尉だっけ、ブルーコスモスで……反コーディネイターなんだよ、な?」
トールが後頭部を掻きながらミリアリアに聞くが、わかるわけもない。
「……でも、心配よね。ブルーコスモスの偉い人のお付きなんでしょ?」
「なるべくキラのこと、気にかけておこうぜ、俺たちで」
友人故に心配してのことなのだろう。そんなトールの言葉にそれぞれが頷く中、サイは食器を片して無言でキラの後を追うフレイの方を見つめる。
誰も彼も、余裕などあるわけがないのだ……。
◇
月面、プトレマイオス基地。
ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルは、部屋でタブレット端末で諸々の仕事を片付けていた。しかしこの仕事が終わろうと、地球に帰ればこのコズミック・イラの時代において時代遅れも甚だしい“書類仕事”が襲い掛かってくるのだ。
アナログはデジタルより全てが劣るとは言わないが、やはりナンセンス。
端末を専用のペンでタッチして、時折自身の名前を画面に書いたり、チェックを付けたりと、似たようなことを何度も繰り返す。
かれこれ何時間やっているだろうか……。
まぁ三人娘やハイータも、今頃は新型モビルスーツの試験データを取ったりと仕事をしているのだろうと頷く。どちらにせよもうそろそろ終わりだ。
「それにしても、はぁ……」
アズラエルは、輸送機三隻を北アフリカまで向かわせるということの無茶っぷりを深く感じていた。おかげで仕事が山積みである。
しかし、このまま支援もなにもないアークエンジェルに彼をいさせるわけにはいかない。ロマのことだ、戦っているのは明白。損傷もするだろう……。
「私も行きたかったんですけどね……」
やるべきことが終わったのか“仕事用端末”を切って置くと、自分の“プライベート用”の端末を持ちベッドへ横向きに寝転がる。
軽く操作すれば画面に映るのは───ロマ。
「……」
アルバムの隠しフォルダに秘匿された写真。
トレーニング終わりなのか、上半身裸で汗を拭いている。カメラの方に気づいていて顔をしかめているも、止めていないあたり撮ったのはアズラエル本人なのだろう。他にも困ったように笑っているなど、色々な写真が保存されている。
それを見るアズラエルの瞳は、どこか熱を帯びているようで……。
「まったく、もぉ……」
吐息を洩しながら、潤んだ瞳で写真の中のロマを見つめながら、ネクタイを緩めて外す。
なにか思うところがあるのか上気した表情のまま、落ち着きなく足をモジモジとすり合わせながら、シャツのボタンを上から外していく。
その吐息は徐々に荒くなっていき……。
そして、三つ目のボタンに手をかけたところで―――通知音が鳴り響く。
「きゃぁっ!?」
滅多に聞けるものではないだろうアズラエルの、そんな乙女の如き可憐な声。慌てて起き上がったせいで携帯端末が宙に浮くも、慌てながらそれが床に叩きつけられる前にキャッチ。
安堵するように息をついてから、羞恥に染まる顔と心を落ち着けるように頭を左右に振る。
そして、落ちついてから通信をかけてきた相手を確認し、画面に触れて通話を繋げた。
「……はい、アズラエルです」
『あ! アズラエル理事、お忙しかったですか?』
「いえ、なんです」
画面に映るハイータ。MSの試験データでも取っていたのかノーマルスーツ姿である。
薬は既に切れているのだろう、落ち着いているようだ。
『えっと、あの試作機なんですけど』
「貴女たちのですか?」
『はい、その……』
なにか言い淀むハイータだが、妙だった。“こちらに来た当初”ならともかく、今では多少のことならば言い淀むようなことはないはずだ。相変わらずどもったりはするものの……これはなにか“こちらに世話をかけること”に違いないのだろう。
ハイータの背からクロトが顔を出す。
『あの新型機たち、反応遅いんだけどなんとかなんないかーってハイータが』
『えっ! わ、私だけのせいにしないでくださいよぉ! みんな言ってたじゃないですかぁっ!』
「あれで反応遅れるって……もうちょっと個人向けにカスタムしておきましょうか」
そう言って頷くアズラエルに、ハイータが意外そうな表情を浮かべる。
『え、でもそしたらブーステッドマン用の機体が個人用の機体になっちゃいますよ?』
『そうそう、代えがきかなくなるからたぶんダメじゃねーのってオルガが言ってましたよぉ?』
二人の言葉に、アズラエルが鼻で笑った。
「いや、貴女たちは死なないでしょうし……死なせないように、そうするんでしょう?」
彼女からそんな言葉が出るのは、意外でもないかもしれない。かつてはどうだったか知らないが、彼女はしっかりと三人娘とハイータを仲間として認識しているのだろう。
故に、その言葉を聞いてハイータは嬉しそうに頬を緩めた。
『は、はいっ! そ、それじゃあっ』
「こちらで手配しておきましょう……そのあとはまた休憩に戻ります」
『あ、休憩中だったんですね。すみません』
「いえ、終わったらまた連絡を」
『おば、おねーさんなんで胸元そんな開けてんの? 爆乳アピール?』
『ちょ、クロトさんっ!』
黙って通信を切るなり、アズラエルは顔を赤くしたまま携帯端末をベッドの上に放り投げ、ボタンを閉じる。溜息をついてから赤い顔のまま、恨めしそうに“彼の顔”を思い出す。
いつになったら帰ってこれるのか、2年以上一緒にいておそらくもっとも会えない期間が長くなることは明白だろう。歯痒いと想うも、立場故に自分はどうにかできるものでもない。
「ちゃんと、無事で帰ってこないと……ゆるしませんよ……」
そうつぶやき、深く息をついた。
◇
なんの因果か、ロマはレジスタンス〈明けの砂漠〉の拠点で会議までさせられた。
マリュー、ムウ、ナタルと共にサイーブとテーブルを囲んだロマは、まさか“こちら側”に自分が立つとは思っても無かったが、仕方のないことだと自覚もある。自分は正規軍で大人なのだから……。
贅沢を言うなら“パイロットをやっているだけ”が良かった気もするが、立場ある人間としてそういうわけにもいかないだろう。
責任というものがついて回るのはアズラエルを見て学んでいる。
「さて、この後はどうだったか……」
『砂漠の虎をぶっ潰してさしあげますわ! 虎狩りですわよ! わたくし一休さん!』
「一休は虎狩ったわけじゃねぇだろ……」
『細かいこと言ってるとハゲますわよぉ!』
「次に髪の話したらぶっ壊すぞ」
『えー……こわぁ……』
会議を終えてすっかり夜、ロマはアークエンジェルに戻ってきていた。
赤い悪魔ことロマ・K・バエルがブルーコスモス盟主であるムルタ・アズラエルの私兵であるということはすっかり有名なようで、サイーブもなんとも言えない表情で自分を見てきていたが、それはロマも一緒である。とんでもない爆弾を抱え込んでいるのは“明けの砂漠”の方だろうと……。
そもそもオーブがレジスタンスに金を出しているなど、各国に情報が洩れれば大惨事だ。
そうなれば『
「まぁ“原作”通りか……」
『なに言ってますの?』
「いいや……」
格納庫にて、プレディザスターに目を向けてから、ストライクの方へ向かうために階段を上がっていく。すると別方向からコジロー・マードックがやってきていた。軽く片手を上げると会釈される。
やはりどうにも、馴染むことはできないようだ。
彼も向かっているのはストライクのようで、ロマと同じ道を行く。
「いやぁ大尉、坊主……じゃなくてヤマト少尉は大したパイロットですよ。一緒に出撃した大尉に比べたらひよっこかもしれませんが」
「いいや、まともにやり合えばどうなるかわからんよ」
「ホントですかぁ?」
素直に頷く。同じモビルスーツで戦うとして、ロマは自身がキラに勝てる姿を想像できない。最初は押せるかもしれないが、自分の戦い方は奇を衒って相手の動揺を誘いつつ、即座に撃破するというものだが……撃破し損なえば手札も減る。
通常のストライク同士で戦えばどうなるかわかったものではない。
―――特に、SEEDを発動されたらコールド負けだろうな。
「にしても便利なもんですよ。色々自分でやっちまうし、今もきっとなんかやってんだろうし」
「“便利”、という言葉遣いは気に入らんよ。唯一のモビルスーツパイロットなのだろう? それにただ一人のコーディネイター、少しナイーブにもなる。気は遣ってやってほしい」
マードックにとって、その発言はかなり意外だった。
ブルーコスモスである彼が、コーディネイターであるキラを“嫌っていない”のもそうだし、おまけに“気を遣ってやれ”など言われるとは、思いもしないことだったからだ。
「……へい、肝に銘じときますよ」
「そうしてくれると助かる。彼が出撃できない状況になれば私だけでこの船は守りきれんよ。認めたくないものだがな」
「大尉にそう言わせるんだから、坊主……じゃなくてヤマト少尉も大したもんだ」
ストライクへと徐々に近づいていくことで、マードックも少し小声になる。
「そうだな。それとバカにしているわけでないならフランクな呼び方でも構わんと思うぞ、ただでさえ孤立しがちなんだ……」
キラを孤立させないようにと、そういうロマにマードックは不思議そうな表情を浮かべた。
「反コーディネイターじゃないんですかブルーコスモスは」
「組織にはコーディネイターもいる。個人的に嫌いなコーディネイターはいない……好意的に思うコーディネイターの方が多いぐらいだ」
むしろ、嫌いなナチュラルの方が名前がスラスラ出てくるぐらいである。
そう言ったロマを相手に、マードックはなるほど、と頷いてストライクの前で立ち止まりコックピットを覗く。
「おう、またなにやってんだ?」
「昨夜の戦闘の時に接地圧弄ったんで、その調整とかですよ」
キラの柔らかい声を聞いて安心する。薄れゆく記憶の中でだが、このときの彼は余裕が無かった気もするので“アレ”が起きないことを願いたいところだが……。
「ほぉ、なるほどなぁ。つくづくお前がいると助かることばっかだよ」
「アークエンジェルを、落とさせるわけにはいかないじゃないですか……それに、ロマさんの助けになりたいですし」
聞いていたロマは、少しばかり気恥ずかしそうに腕を組む。それを横目で見て、マードックは苦笑を浮かべた。
「へっ、俄然やる気じゃねぇか頼んだぜ、坊主!」
「……はい」
立ち上がったマードックが、キラの視界から外れてから肩をすくめて笑う。
ロマはというと、話を聞いていた手前、自分から声をかけるわけにもいかず素直にストライクから離れることにした。マードックは別方向、就寝時間といったところだろうか……もう夜も遅いし当然ではある。
『はぁ、寝みぃですわ。私ご就寝のお時間ですのでこれで失礼』
「おやすみ」
『おやすみなさいですわ、あなた』
プレディザスターの傍へとやってきたロマは、機体の損傷具合を確認。やはり弾数が心許ないが、レーザー誘導式のミサイルぐらいならば“バナディーヤ”で購入できなくもないだろう。
あとの問題は、装甲だが……次に砂漠の虎と交戦する機会があって、再び被弾無しで戦えるかが問題だ。
―――ん、次って、砂漠の虎と決戦だっけか?
なにか引っかかるが、どうにもならない。外の空気でも吸おうと廊下を歩いていると、後ろから誰かが駆けてくる音が聞こえた。
軽く振り返れば、軽く駆け脚で近づいてくるのは先ほど聞いた声の主―――キラ・ヤマトである。
「ロマさん、戻ってたんですねっ!」
「ああ、先ほどな……色々と作戦会議を終えて、私は立場上あそこには居づらい」
苦笑して言うと、キラは首をかしげた。
同じナチュラルなのに、というのがあるのだろうが……そういうものでもないのだ。ナチュラルでもブルーコスモスを嫌っている者は少なくはない。
民間人を無視したテロ等をやっている“自称ブルーコスモス”や“ブルーコスモスでも末端”の者たちも存在するのだから、当然と言えば当然ではある。特にこういったレジスタンスは同一視されて迷惑を被っているのだろうし、自分は“ブルーコスモス盟主の私兵”なのだから……。
「ロマさんは、ブルーコスモスなんですよ、ね?」
「……友人が待っているんだ」
歩きながらもロマが言葉を口にすれば、その隣を歩くキラは首を傾げる。
「コーディネイターで、私の同期で……上司の下で共にいる」
「えっ、ブルーコスモスに?」
「ああ、うちの上司は有能であればなんであろうと使う人間だ」
それが盟主ムルタ・アズラエル。だがわざわざそれを伝えることもないだろう……いずれわかることだ。
「ブルーコスモスにいるんじゃぁない。私は彼女たちの元にいるだけだ……」
またなにか偉そうなことを言った気がするなと、少しばかりバツが悪くなるロマ。そんなことが言えるほど覚悟も固まっていない。
だがそれでも、やはり―――守りたい世界がある。
そうして歩いて外に出ると、涼しげな空気を感じてフッと笑みが零れた。
「やはり引きこもってばかりではな……」
「はい……あっ」
「ん?」
キラが見た方向を向けば、赤い髪の少女と、それを追う眼鏡の少年。
ロマはサングラスの奥の瞳をわずかながら泳がせた。その心中は穏やかではない……むしろ大惨事である。
―――そうきたかぁ、そういえばそうなるわ。ちくしょぉ……。
「っ……キラッ!」
一瞬だけロマの方に視線を向けてから、フレイ・アルスターはキラの背後へと回る。
少しばかり言いたいこともあるが、そこは大人の対応でなにも言わぬロマ。だがこのあとの展開としてなにも言わないわけにもいかない。
そもそも“この展開”に関わるつもりはなかった。起きたら起きたで後々に、キラに少しばかりのフォローを入れればそれで問題ないと思ったから……だが、目の前にこの状況になって、ロマはなにもしないわけにはいかないのだ。
今は見守る他ないが……。
「……なに?」
「フレイに話があるんだ、キラには関係ないよ」
サイ・アーガイルがそう答えるが、キラは少しばかり眉を顰めた。
フレイとサイの二人は婚約者である。それはロマは知らないはずの状況、ここで口は出せないだろう。
「関係なくないわよ! 私……昨夜はキラの部屋に居たんだから!」
「えぇっ!?」
驚愕に固まるサイ。少しばかり可哀想な気はするが、元々上手く行く感じでもなかった覚えがロマにはあった。かといって言えるわけでもないが……。
「うん……」
「え……キラ? どういうことだよフレイ……君……」
「どうだっていいでしょ! サイには関係ないわ!」
多感な時期の少年が性癖がねじ曲がりそうな寝取られ(寝てない)をされている。それを目の前で見せられ、ロマとしてはなんとも言えない気分だった。
「もうよそう、サイ」
「キラ……?」
「どう見ても、君が嫌がるフレイを追っかけてるようにしか見えないよ」
「なんだとっ!?」
ギリッと拳を握りしめるサイを前に、キラはフレイを後ろに下がらせる。
「もう、止めようよ。ほらフレイ……僕もついてるから……二人の話聞いて、ちゃんと」
「ちゃんと、なんだよ。俺とフレイをっ」
落ち着いているキラを見て、良い傾向かもしれないと見守るロマ。平和に収まりそうだと思いつつ、視線を動かせば物陰に見覚えのある金髪を見つけた。
―――カガリ・ユラ・アスハ……聞いてたっけかここ。
「親の決めたことじゃないっ、もういなくなったんだから……私が誰を好きになろうといいでしょっ」
「ならちゃんと話せよっ! そんなこと、言ってくれなきゃわからないじゃないかっ!」
「サイも、落ち着い」
「キラァッ!」
バッ、と走り出すサイに、ため息をつきたくなりつつも、前に出たロマがその腕を掴む。それで済めば良かったが、暴れようとするので結局見覚えのある腕の極め方をしてしまう。
サイの腕を背中に回して拘束しつつ、ロマはムルタ・アズラエルのことを思考する。
“原作”であればムルタ・アズラエルがコーディネイターに対してのコンプレックスを持つになるきっかけになった状況、それは“この状況”と酷似していたはずだ。
だが、彼女はどうなのだろうか……。
ふと、我に返る。
「……やめろアーガイル。万一でもキラを傷つけたら自らまで惨事だぞ。彼はパイロットだ」
「ぐぅっ、はなせぇ……!」
怒りに我を忘れているのかなんなのか、とてもじゃないが上官に聞いて良い口ではない。普通ならば即修正というところだが、腕を極めているのでそれが修正という扱いでも良いだろう。
手を離せばサイが地面に前のめりに膝をつく。
「言いたいことは理解するが、キラも落ち着いて話をしようとしている」
「あんたっ、どうしてキラの味方するんだよっ……ブルーコスモスのくせにっ!」
目的のためならば手段を選ばぬ差別主義者―――そう言いたいだろうということを、ロマは理解していた。
だが違う、彼はブルーコスモスに所属しているが、彼自身が“ブルーコスモス”なわけではない。
「ロマ・K・バエル、それ以上でも以下でもないからさ」
「ッ、なに意味のわからないことを言ってんです! あんたたちみたいなのがいるからこんなことにっ」
「やめろよサイっ!」
キラが声を荒げる。
「なんだよ、キラっ……!」
「フレイは、優しかったんだ。ずっと付いててくれて、抱きしめてくれて……」
やはりこうなるかと、しかし仕方のないことなのだろう。ちょっと展開が違う気もするが……。
「ロマさんもフレイも、僕を守るって言ってくれて……っ!」
―――そうそうロマさんも……え?
瞳に今にも零れそうな涙を浮かべるキラが、サイを睨みつける。
「僕がどんな思いで戦ってきたかなんて! 誰も気にもしなかったのにッ!」
サイもフレイも、キラが色々な感情を押し殺して発した言葉の迫力に言葉を失い、動揺をその顔に浮かべた。思うところはもちろんあるはずだ……散々キラに頼って、挙句この始末。
ロマとしても別方向で思うところがある。なぜかフレイと並べて出された自らの名前。
「……え?」
疑問を抱いたロマの呟きは誰にも届くことは無い。
「き、キラ……」
「ロマ・K・バエル……!」
なぜかフレイに睨まれるロマ。なぜこうなったのかわからない。
本来ならばもっと悲壮感に包まれているはずで、ロマが動揺することはなかったはずなのだが、今は動揺でどうしていいかわからず立っていた。
本来ならば、動揺こそしないものの色々と思うところがあって然るべきなのだ。
「……キラ」
フレイがそっとキラを抱きしめる。
ロマがサイを起こすために膝をつこうとした瞬間―――警報が鳴り響く。
「っ……そう、か」
思い出したがもう遅い。
砂漠の虎による“お仕置き”だ。
街が焼かれ―――空が、燃ゆる。
このような感じで次回タッシルです
キラ周りをフォローしようとした結果、色々なとこに食い込んだロマ
アークエンジェルでも新たな立ち位置を築き始めて……
今回は繋ぎ回というか、現状整理回と言った方が良いかもしれませんね
三馬鹿娘に出番を与えられなかった……そこがメインなのに
なにはともあれ次回はキラのカガリビンタぐらいまでは行ければなって感じです
では、次回もお楽しみいただければと思います