盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

17 / 76
まなざしの意味

 

 警報の後、明けの砂漠の面々がざわつきだした。

 

 武装した構成員たちがバギーに乗り込み、街の方へと走り出す。

 この事件のことをおぼろげながら思い出したロマ。

 

 ―――街への襲撃だなっ!?

 

 明けの砂漠へ、虎からの仕置き。正規軍へ攻撃をしかけて軍人を殺したのだからそうなって然るべきではある。

 完璧ではないにしろ、状況を理解しているロマが走り出せば、キラもフレイの方を向いて頷くと走りだす。

 

 格納庫へと辿りつくと同時にキラがストライクへと走る。ロマはと言えばほぼ同時に動きだしたにも関わらず少し遅れて到着、プレディザスターの方を向くもムウが近づいてくることに気づいた。

 ムウが片手を上げて駆けてくると、ストライクへ乗り込もうとするキラの方を見上げる。

 

「おいキラ! お前は待機だ!」

「えっ! どうしてですか!?」

 

 ストライクのコックピット前に通っている橋から顔を出して抗議するキラ。

 

「別働隊に襲撃されたら誰がここ守るんだよ! 俺とロマで行く!」

「私もか」

「早いのは俺のスカイグラスパーとお前の~……ぷ、プレ、ディザスター、だろ?」

 

 当然だな、と納得。

 指示が無くとも適当な提案でついては行っただろうが……やりたいこともあるし丁度良い。

 

「言っておくが、それほど速度は出せんよ」

「え、どうしたまた?」

「先の戦闘、Gで内臓が損傷した」

「そりゃまた……って医務室行ったか?」

 

 苦々しい顔をして言うムウに、ロマはフッと笑う。

 それに対して、なに笑てんねんと思いながら顔をしかめるムウ。

 

「一応の応急処置はしたさ」

「帰ったら医者に見せろよ?」

 

 そんなムウに背を向けると、知らぬ存ぜぬでロマはプレディザスターへと乗り込んだ。

 上から垂れるワイヤーを使いハッチへと乗り込むと、暗い空間を走ってリニアシートに座る。シートが真上へと上がっていきコックピットに収まると、ロマは静かに息をついた。

 システムを起動すると、モニターには連合のマークと共に複数の文字列が表示され、ついでにけたたましい少女の声が響く。

 

『……全然寝れてませんわ! ちくしょい!』

「冷静に考えると寝るってなんだ?」

『寝ると言うことは……寝るということですわ~!』

「そりゃ結構」

 

 各部のチェックを軽く済ましモニターを見ると、アークエンジェルのクルーたちが戻ってきているのが確認できる。

 すぐにミリアリア辺りから通信が入り出撃となるだろうと、静かに息を吐く。

 戦闘は無かったと記憶しているが、いまいちそれも当てにならなくなってきた。

 

 通信が入ると、モニターにはマリュー・ラミアス。

 

『バエル大尉、フラガ少佐から聞いていますか?』

「ええ、こちらはいつでも出撃可能です」

『では少佐と共に“偵察”をお願いします』

「了解した」

 

 軽く敬礼して応えると、通信が切れた。プレディザスターを乗せた床がカタパルトの方へ移動していく。

 逆側にスカイグラスパーが移動していくのが見え、本当に二機だけで出るのだと少しばかり新鮮さを感じた。今さら誰に何を言うでもなく待っていると、再び通信。誰かと思えば、モニターに映るのはキラ・ヤマトだ。

 

「キラ?」

『すみません、さっき……巻き込んじゃって』

「なに、気にするな。人と人なんだ、そういうこともあるさ……」

『でも、本当に……嬉しかったんです。一緒に戦ってくれるって、戦わなくても良いって言ってくれて』

 

 サングラスを外して胸ポケットにおさめると、その赤と青の双眸で画面の向こうのキラを見る。

 同胞や友人と殺し合い、味方には“裏切り者のコーディネイター”と揶揄され、挙句にモビルスーツ戦でこの艦を守れるのは自分だけという重圧と戦い。そんな彼の心に踏み込んだのはロマだ。

 

 ―――これから一緒にいるという保証もないというのに……。

 

「結局は、戦わせてしまっている」

『今の僕は、違うから……僕が戦いたいから、戦うんです』

「……そうか、なら良い。君に託すよ、私がいない間は頼む」

『はいっ!』

 

 通信を切ると、顔をしかめて額に手を当てる。

 

『どうしたんですの、良い傾向じゃぁありませんこと?』

「いや、どうだろうな。あのような少年に戦うことを決意させたという見方もできる……私が、だ」

『元気づけた。で良いと思いますけど、いちいち悲観していては辛い人生になりましてよ?』

 

 そんな支援AIチェシャからの言葉に、自嘲するように笑う。

 

「ハッ、そうものわかりのいい性格なら、楽だったと思うよ」

 

 カタパルトへと辿りつくと、ハッチが開く。

 未だ暗い空、もうそろそろ朝焼けにもなろう時間帯だ。

 

『APU起動。カタパルト接続。システム、オールグリーン。進路クリア。プレディザスター、どうぞ!』

 

「プレディザスター、出るぞ!」

 

 

 

 プレディザスターとスカイグラスパーの二機が漆黒の空を行く。

 赤い閃光、という速度も出せないのはやはり体に気を遣ってのことだろう。耐G性能もあるノーマルスーツを着れば多少はマシになるはずではあるが、それでも制服なのはやはり現在は“多少の負傷よりも機体の損傷の方が問題”と考えているのもある。

 しかして、やはり彼自身ノーマルスーツが落ち着かないということもあるのだろう。パフォーマンスが落ちる事態を流石に懸念せざるをえない。

 

 二機のパイロットの視線の先には―――燃え盛る街。

 

『あぁ、こりゃ酷ぇ……全滅かな?』

「いや、そうでもなさそうだ」

 

 ロマはモニターにてしっかりと確認をした。流石に思い出したのだろう―――“虎のやり方”を。

 

 中継地点を通じてアークエンジェルに通信を繋ぐ。

 

「こちらバエルだ。街には生存者がいる」

『えぇ?』

『それもかなりの数な。こりゃぁ一体どういうことだ?』

「虎のやり方だろうさ、撤退も早いしな」

 

 その言葉に、アークエンジェル側はかなり戸惑っているようだった。

 街は焼き討ち、しかもこの時間。にも関わらず生存者は大勢おり、ザフトはそれらを攻撃するわけでもなく、自分たちを“待ち伏せ”するわけでもなく撤退していった。これが戸惑わないわけもない。

 しかして、ロマとしてはこういうことをされては“余計に戦い辛くなる”と、心穏やかではいられないのだ。

 

 

 

 地上へと降りたロマとムウの二人。

 バギーでやってきたレジスタンスたちが、家族の無事に歓喜し、涙を流す。家族の名を呼ぶなりすぐに合流できたのか、それぞれ抱き合ったりと実に“平和な光景”だと思いながら、ロマはサングラスをかけなおした。

 そうしていると別のバギーからサイーブやカガリが現れる。

 

「少佐! 大尉! これは……?」

 

 ナタルが軽く駆けてきて、ロマとムウの間で立ち止まった。目の前の光景に不信感がぬぐえないのだろう、チラチラと足元を見ている。

 

「……脚はある。生きてるぞ」

「っ、そ、そうですね」

「ロマは知ってるか? 砂漠の虎とは“知り合い”だろ?」

 

 気を遣ってか小声で言うムウに、ロマは苦笑した。

 

「知り合いという関係でもないさ、ただかつて戦場で一度だけ“睨み合った”ことがある程度だ。あとは昨日の一戦のみ」

「あれ、砂漠の虎に痛手を負わせて撤退させたって話は?」

「ありえんよ、そう簡単に勝てるほど甘い相手でないさ……それにしても噂というのはまったく」

 

 呆れたように言うロマに、今度はムウが苦笑し、ナタルはその噂を信じていたのか驚いたような表情を浮かべている。

 

 サイーブが怪我人を治療するために各々に声をかけるも、そこまで大きな怪我をした者もいないのか、あって軽傷であった。避難する際に転倒したり火傷したり、誰も彼も、それもそれほど大きな怪我ではなかろう。

 問題はこの後である……。

 

 タッシルの街の長老が、サイーブに一連のことを話す。

 

「最初に警告があったわ。今から街を焼く、逃げろ。とな……そして焼かれた。食料、弾薬、燃料……全てな。確かに死んだ者は居らん。じゃが、これではもう生きてはいけん」

「ッ! ふざけた真似を! どういうつもりだ! 虎めぇッ!」

 

 怒りに震えて拳を握りしめるサイーブ。それに触発されてか、家族との再会を喜んでいたレジスタンスの構成員たちも怒りをその表情に浮かべる。

 お世辞にも愉快でない感情が渦巻くその場に、ロマは顔をしかめた。

 それに気づいてか気づかないでか口を開き言葉を発すのは、ムウ・ラ・フラガだ。

 

「だが、手立てはあるだろう。生きていればさ?」

「なに?」

「どうやら虎は、あんたらと本気で戦おうって気はないらしい」

「どういうことだ?」

 

 そこでふと思い出した。確かこのあとにムウが睨まれていた記憶がある。

 なるべく余計なことは言わないように、視線をそちらに向けて小声でつぶやくように言う。

 

「……ムウ」

「ん、ああ、わかってるよ……こいつは昨夜の一件への、単なるお仕置きだろ。こんなことぐらいで済ませてくれるなんて……随分と優しいじゃないの、虎は」

 

 ―――全然わかってねぇじゃん!?

 

 心の中で絶句する。

 

「なんだと!? こんなこと!? 街を焼かれたのがこんなことか!? こんなことする奴のどこが優しい!」

「あ、失礼。気に障ったんなら謝るよ」

 

 一瞬、ロマの方を向いたのは“やっちゃった?”ということを聞きたかったのだろう。ナタルもジトっとした目でムウを睨んでいる。

 まったく、と息を吐くロマだが……言わんとすることは理解できた。彼とて心中は穏やかではない。

 

「けど、あっちは正規軍だぜ? 本気だったら、こんなもんじゃ済まないってことくらいは、分かるだろ?」

「あいつは卑怯な臆病者だ! 我々が留守の街を焼いて、これで勝ったつもりか!」

 

 突如、カガリがムウの前に出て吠える。叫ぶように、泣きだしそうな声で悲痛に訴える。

 

「勝負にすらならんよ」

 

 しかしそこで、ロマが口をはさんだ。

 

「なにっ!?」

「勝ったも負けたもない。それに明けの砂漠がいたらそれこそ“この程度”では済まんよ……むしろ犠牲が増えるだけだ」

「犠牲が増えるっ!? 我々は、いつだって勇敢に戦ってきたんだ! 昨日だって敵を落とした!」

 

 ただアジャイルを落としただけに過ぎない。しかも“撤退中の不意打ち”でだ。本気でこの街を取り戻したいと思うなら“連合軍に入る”方がよほど可能性がある。でないなら、大人しく街で家族と“偽りの平和”を謳歌していればよかったのだ。

 少なからずここら一帯は“支配者に恵まれている”のだから……。

 

「臆病で卑怯なあいつは、こんなことしか出来ないんだ! 何が砂漠の虎だ!」

 

 そもそも“明けの砂漠”など無ければこんなことにはなっていない。などとはさすがに言えない……正論や理屈で押しつぶすのが正解ではない。ここはビジネスの世界ではないのだ……。

 だからこそ、歯痒さに内心で苛立つロマ。

 

 大事なものを守るために“戦うしかないキラ”と、“勝手に戦って”大事なものを危険に晒す明けの砂漠。キラの苦悩を知っているだけに、思うところがないわけがないのだ。

 

 ロマを睨むカガリ。否、睨んでいるのはカガリだけではない。

 

 だがそこで、先ほどヘイトをかっていたムウが二人の間に入る。

 

「落ち着けって、ほらその……嫌な奴だな、虎って!」

「あんたらもな!」

 

 歩いていくカガリ、サイーブもいつの間にやら呼び出されたようでおらず、相変わらず周囲からの敵意に晒されてロマはため息を吐く。

 簡単なことなのだ……砂漠の虎の支配下にあるということを受け入れれば良い。今よりはよほど平和に暮らせる。だが、たったそれだけのことを気づけないでいる。

 

「中尉、少佐、手伝ってくれ」

「へ、なにをだ?」

「なにかありますか?」

 

 自らの機体へと歩き出すロマへとついていく二人。

 

「プレディザスターに備蓄してある食料やら医療キットやらを全部出す」

 

 その言葉を聞いて、ナタルが驚愕したように目を見開く。それは意外だったのだろう。先ほどまであそこまで文句を言っていたにも関わらず、と思ったのだ。

 だがロマは別に彼らが嫌いなわけではない。“気に入りはしない”が、さすがにそこで放っておけるほど人で無しではないのだ。

 

 サイーブたちの声が聞こえ、そこでハッと気づく。

 そちらを見れば走り去っていくバギー。サイーブやカガリも一緒に乗っていったようで、今度こそハッキリと顔をしかめたロマが舌打ちを打つ。

 困ったようにムウがロマの背中を軽く叩いた。

 

「止めらんないだろ。こっちと戦争になっちゃうぜあれじゃ」

「しかし、みすみす死ににいかせたくはなかったさ」

「……優しいねぇ、あんたもさ」

「全滅しますよ!? あんな装備でバクゥに立ち向かえるわけがない!」

 

 尤もだ。正規軍である連合がこまねいている敵に、レジスタンスの手持ち武装などでなにができようか……。

 

「だよねぇ。どうする?」

「んっ……わ、私に言われても……」

「艦長に連絡を、おそらくキラを出すだろう。さっさと荷物を降ろして私も向かう……見殺しにはできんよ」

「了解です! 大尉殿!」

 

 ちゃらけるようにそう言うムウを肘で軽く突いてから、歩き出す。

 通信をしにスカイグラスパーの方へと向かうムウ。ナタルは軽く駆けて、ロマの隣を行く。

 

「……バジルール中尉、君も副艦長ならそれなりに指示を出すこともある」

 

 少なからずマリューはそうしただろう。

 

「はっ!」

 

 それを理解してかしないでか、ナタルは敬礼をして頷いた。

 

「それと、食糧は結構な量あってな……菓子なんかもある」

「は、はい……」

「君の好きにしてくれ」

「……は?」

 

 すぐに、ナタル・バジルールはその采配に感謝することになる。

 

 

 

 

 

 

 早朝、朝焼けを越えて既に朝といって良い時間。

 

 青空を行くのは赤い閃光―――プレディザスター。

 

 食糧を降ろし、アークエンジェルからの支援が届いてからようやく飛び立つことができた。結果としてこのような時間となってしまい既に戦闘は開始されている。

 ストライクが到着してはいるが、数台のバギーは倒れ、爆散したものもあった。

 わかりきっていた結果だが、やるせない気持ちは拭いきれない。

 

「くっ、そんなに死にたいかッ!」

『バクゥ三機、内一機は動けませんことよ』

「そりゃ結構だ……!」

 

 空からビームを放ち一機を撃破するも、ミサイルが飛んでくる。

 それらを避けるために空中へと上昇してから、下降しミサイルを放ち迎撃。

 

「チィ、無駄弾を……ッ!」

『さっさと潰して寝ますわよ……って、追加きますわ!』

「なにっ!?」

 

 妙な感覚に、素早い操作。それによりプレディザスターの追加されているブースターが方向を変え、突如として機体は軌道を変えた。

 そして迸るビーム、そのまま前進していれば直撃だっただろう。

 額から汗が流れたが、それを服の袖で拭ってモニターにて攻撃が放たれた方を向く。

 

『確認しましたわデュエル、バスター! ゲタ履きですことよ!』

「なっ、ここで二機が来るかっ……!」

 

 サブフライトシステム、グゥルに乗ったバスターとデュエル。さらには空中戦用量産型モビルスーツ<ディン>が2機随伴している。地上ではバクゥが一機増えたようだ。

 顔をしかめるロマがキラの動きを見るが、その動きは並ではない……つまり“SEED”と呼ばれる何かが発動したのであろう。

 そちらはとりあえず放っておき、ロマは自身に攻撃をしかけてくるディン二機とバスターとデュエルの方に集中する。

 

「療養もさせてもらえん……なッ!」

 

 フットペダルを踏み込み、加速。

 

「ぐッ!」

『おっ死にますわよ!?』

「だが、死ぬ気で戦わんと勝てんよ。アレを使うわけにもいくまいッ!」

 

 加速したプレディザスターへと四機がミサイルを撃つも、素早い操作で機体の角度をずらしつつ機関砲でミサイルを迎撃。爆風で数発が誘爆するも、全ては迎撃しきれない。

 だが、機体はそのままミサイルの隙間を縫いさらに四機に接近。

 

 グゥルに乗るデュエル・アサルトシュラウドの中でイザーク・ジュールは顔をしかめた。

 

「なにぃっ、抜けてきただとぉ!?」

『イザーク! さっさとコイツ倒してストライクをやるんだろっ!』

「くっ、わかっているッ!」

 

 バスターのディアッカ・エルスマンからの言葉に頷いて鋭い眼光で迫る赤いモビルアーマーを睨みつける。

 一度“撃たれかけたことがある”が、直撃させられなかった相手。大した腕ではないと思いもしたが、しかして地球への降下後に、ジブラルタル基地であった通信ではあの“ラウ・ル・クルーゼ”が気をつけろと言っていた。

 油断はできないだろう。

 

「汚名返上させてもらうぞ、赤い悪魔の血でなァ!」

『挽回とか言いださなくて安心したぜ……ってね!』

 

 バスターが右の<ガンランチャー>と左の<高エネルギー収束火線ライフル>を放つもそれらを回避しながら、ミサイルをばら撒く。

 ディン二機がライフルと散弾銃にて広域に放たれたミサイルを迎撃。周囲に爆煙が広がる。

 だが―――その中から現れる、プレディザスター。

 

「うわぁぁっ!?」

 

 接近するプレディザスターがそのままディンへと接近していく。それ故に、攻撃をしかねる三機。

 

「そこだ……!」

 

 プレディザスターがディンの翼に機関砲を乱射。それを多少受けながらも直撃だけは回避するディンだが、さらに加速したプレディザスターにコックピット部分を切り裂かれる。

 飛び散るオイルがその装甲を穢す。落ちていくディンを見ることもなく、ロマはもう一機のディンと二機のG兵器に視線を移す。

 

「まず一ィ!」

『血祭りですわ!』

 

 赤い悪魔を迎撃するために、バスターがガンランチャーを前に、収束火線ライフルを後に連結した。そしてトリガーが引かれれば放たれるのは散弾、対装甲散弾砲。

 密集した敵機や高速移動する機体に対する武装なのだが……あくまで常識の範囲内の速さでなら、の話である。

 その散弾が到達するよりも早く、さらに加速して散弾の範囲から離脱し上昇するプレディザスター。

 

 バスターのコックピットでディアッカが驚愕に目を見開く。

 

「マジかよっ!?」

『なにをやっている!』

「あんなのに当てられるかよっ!」

 

 ディアッカは素早く連結を解除し、プレディザスターを追うが……。

 

「ぐっ、太陽っ!?」

 

 陽を背後にしたプレディザスターに視界がやられそうになるも、素早くその場から退避する。

 

 太陽を背にしたプレディザスターの中でロマは口の端から流れる血をそのままに変わらず加速。バスターとデュエルを撤退に追い込みたいロマが、再度ミサイルを放つ。

 それらは独特の軌道を描きながらバスター、デュエル、ディンへと迫るも、それぞれしっかりと迎撃。

 

「目を眩ませたはずだが、さすがだなッ!」

『ミサイルの弾数が心許なくってよ!』

「ぐっ、ならば高速機動しかあるまい……!」

 

 その加速度を維持したまま、ディンを切り裂こうとするも即座に回避されライフルだけを切断。地上へと向かっていくもバーニアと追加ブースターを使い急旋回。

 機首がディンの方を向くなりトリガーを引き、ビームを放ち真下からディンを撃ち抜く。

 

『死にますわよ!?』

「まだだ、まだ終わらんよ!」

 

 さらに加速し、旋回―――まるで空でドリフトをするように機首を向けた方とは別方向に滑る。そして機首の先にはデュエル。

 しっかりサイトにその機体を収めて、トリガーを引く。放たれた一撃が真っ直ぐデュエルに放たれるもシールドで防御される。

 舌打ちをしながらも、ロマはフットペダルを踏み込んで加速。

 

『ぴぇあ!? 突っ込みますのねぇ!?』

「オォォッ!」

 

 バスターとデュエルからの攻撃を回避しつつ、そのまま加速しデュエル―――の乗るグゥルを切り裂く。

 完全に切断とまではいかないが、その一撃により機能の一部が麻痺したのか隣のバスターがデュエルを支える。速度を緩めて、ロマはモニターで二機を確認。

 

 デュエルのコックピット内で、イザークは悔しさに表情を歪める。

 

「クッソォッ! ストライクのみならず……赤い悪魔ァッ!」

『撤退する! クルーゼ隊の坊やたちも遅れるなよっ!』

「なっ……了解、しましたッ!」

『引っ張ってくぞイザーク! バランスはそっちで取れよ!』

「ぐっ……わかっているっ!」

 

 荒々しく返事を返すイザークの視界に映るモニターでは、先ほどよりもかなり遅い速度で飛ぶ背中を見せるプレディザスター。かといってここで不意打ちをかけても当たらないのは明白。

 大人しく、ディアッカのバスターに連れられて撤退していく。

 

 そんなデュエルとバスターをモニターで見ながら、ロマは口の端から流れる血を荒く拭う。

 不意打ちはないようだと思いながら、モニターで地上を確認する。レジスタンスたちがランチャーを持って撤退するザフトに撃つが、まるで意味がない。当たりもしなければモビルスーツに当たったところでなにが変わろうか……それよりも、逆上させたらどうするつもりなのだろうと、ロマは顔をしかめ、怒りを露わにする。

 

 何かを変えるために、殺さなければいけないことに苦悩する身には、憤怒に値するのだろう。

 

 

 

 砂漠に着陸したプレディザスターから降りるロマ。

 キラが立っており、カガリがそんなキラに詰め寄るが近づくロマに気づいて一瞬だけ睨むも、すぐにロマの口周りに付着している血の痕を見て動揺する。

 同じく、キラもそうだった。

 

「ロマさんっ、血が!」

「構うことは無い。別段珍しい話でもないさ……Gに体が耐えられないだけだ」

「だけって……!」

「死にたくないからそうしている」

 

 その言葉に、キラは黙る。カガリは相変わらず驚いたような表情だったが、すぐに目を細めてロマを睨み直す。

 ロマの視界に映る死傷者たち、よくカガリと共にいた青年も―――既に亡くなっているのだろう。

 

「これが結果か、無策で挑んだ。なんの意味も無い……お前たちがやりたいことは仲間を殺すことか?」

「なんだと貴様ッ……! 見て言っているのか本当に!?」

 

 残酷な物言いを平然とできてしまうのは、彼らに思い入れが無いからなのか……それとも本気で“プツン”とキテいるからか、しかしてそれも当然のことであろう。

 仲間を救うために必死で思考する彼からしたら、仲間を死地へと誘うというのは異常以外のなんでもない。その気はなくとも、彼にはそう見えているのだ。

 

 多面的に見た場合、明けの砂漠にもきっと彼らなりの正義はあるかもしれないし、納得できる部分はあるのかもしれないが……少なからずロマには理解できない。

 

「しっかりと見て言っている。子供が死んだんだぞ……こんな子供が……ッ!」

「ッ! みんな必死で戦った……戦ってるんだ! 大事な人や大事なものを守るために必死でな! そこに子供とか大人とかあるか!」

「大人にはあるな、少なからずそれを守るために戦ってたんだろう。お前たちもッ!」

 

 語尾を強めてハッキリとその視線をレジスタンスたちに向ける。

 

「守るためならば“砂漠の虎の飼い犬”になっていればよかっただろ!」

「ふ、ふざけるなっ!」

「それはこちらのセリフだ。嫁も子供も街に置いて貴様ら揃いも揃ってなにをやってる!」

 

 レジスタンスの一人が文句を言うが、ロマは即座に黙らせる。

 彼とて“守るべき相手”を置いてきてしまった人間であるが、だからこそ言う。

 

「守りたいのは誇り、プライドか!? 違うだろうに、勝機無く想いだけで戦って何が守れる。なぜ守れると思う……少なからず雌伏し待てば、あの街の者たちを家無しにはさせなかったはずだろ……ッ!」

 

 彼“らしくもなく”感情に任せて激昂する。

 

「それに、今回に至っては貴様らを突き動かしたのは、守ろうだとかいう想いじゃなく、復讐心だろ……!」

「なっッ!」

 

 カガリが動揺し半歩下がった。他の構成員たちも目を逸らすばかりで反論はできない。いや、させやしないほどの圧と理に適った言葉。

 この争いを止められなかったサイーブが、悔しさに拳を握りしめている。

 キラは黙ってロマを心配気に見ていた。

 

「一時でも虎の飼い犬になるなら“死んだ方がマシ”か? ふざけるなっ、生きてさえいればどうにでもなるだろうにっ、なぜ今ここで死に急ぐ必要があった!」

 

 カガリは、ロマを睨みながらもその瞳から涙を流す。

 レジスタンスの一部も涙を流しながらロマを睨むが、怯むこともなくロマは全員を睨み返してその視線をねじ伏せる。銃を持つ相手だからと関係ない……今、彼は冷静ではない。

 

「死んだ奴に言えるのかよ、なにかを守ろうとして死んだ奴に同じことがッ!」

「言えるかよ。死んだ人間とは喋れないんだ……ッ! だから言ってるんだよっ……」

 

 荒々しく話す彼に、一人の男が近づきその胸倉をつかむ。

 

「戦いを止めて、それでどうするんだよっ! ただ生きてろって、そう言うのかよ!」

 

 男が腕を振りかぶる。それに気づいたカガリだが間に合うわけもない。

 

「やめろっ!」

 

 その声は届かず男は腕を振るうが、それよりもロマの膝が男の腹部に突き刺さる。くの字に体を曲げた男の頬を、ロマの拳が打ち抜く。

 少しばかり吹き飛んだ男が砂の上に倒れたが、頬を押さえながらロマの方を見るのみ。

 

 カガリと目を合わせる。その赤と青の双眸からの視線がカガリの瞳を射抜く。

 

「ただ生きてろ? ふざけるな、それがどれだけ難しいか、わからんお前らじゃないだろうッ!」

 

 咳き込むロマの口から、少量とはいえ血が吐き出された。

 キラがロマを支えようとするが片手でそれを制し、しっかりと両足を地に着けてカガリを今一度見据える。軽く。

 

「死ぬなんざ簡単なんだ。お前らみたいな行為を続けてりゃ済むだけの話だよ……だけどそうじゃねぇだろ」

「俺たちの、家族……死んだら、誰が守るって言うんだ。責任も持たずに、勝手に死んで、そんなん……」

 

 ロマとサイーブの言葉に、明けの砂漠の面々がバツが悪そうな表情を見せた。

 涙を流すカガリの頭に軽く手を乗せれば、少しばかり驚いたような表情を見せるカガリ。そんな彼女に、ロマは軽く笑みを浮かべた。

 世間知らずの小娘に、言い聞かせるように、そっと優しい声でロマはただ浮かぶ言葉を口にする。

 

 

 ―――生きる方が、戦いだ……。

 

 

 





結構急ぎで書いたので変だったら正直すみません

そして再び名言奪取したロマ、こんなとこでこんなセリフ言っちゃって大丈夫かロマ
色々とあってロマの説教TIME、次回以降これがどう響くのかとか
戦闘はあまり変わり映えしない感じですが、一応ちょっと自分なりに工夫しようと四苦八苦

ちなみに矛盾点とかの理由は後々の伏線だったりとかします

そして次回は本編ならバナディーヤで虎さんと出会う
ロマはどうするのかって感じで

それでは次回もお楽しみいただければと思います

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。