盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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決戦の胎動

 

 バナディーヤの街を、二台のバギーが行く。

 

 それほど珍しくもないのか、住民たちは驚くでもなく避けるのみ。

 市場へと辿りつくなり、そのバギーから降りるのは“私服姿”のキラ・ヤマトとカガリ・ユラの二人であり、同じバギーに乗っていたランボー擬きことキサカがカガリの方を向く。

 カガリは肩を竦めて頷いた。

 

「じゃ、四時間後だな」

「気をつけろ」

「分かってる。そっちこそな……取引相手のアル・ジャイリーってのは、気の抜けない奴なんだ」

 

 頷くキサカ。前のバギーの後部座席に乗る同じく私服姿のナタルがスッと、かけていたサングラスをずらす。

 

「ヤマト少っ……しょっ、少年……た、頼んだぞ……」

「え、あ、はい……なんでサングラスなんです?」

 

 戸惑いながら言うキラに、ナタルはサングラスをかけ直した。

 

「バ、バエル大尉だっていつもサングラスだろう?」

「……真似、ですか?」

「……」

 

 無言のナタル。つまりはそういうことだろう……しかして、キラの理解度は高い。理解のあるパイロット君である。

 

 ―――ロマさん、カッコいいもんなぁ。

 

 なんて能天気なことを考えて頷けば、ナタルの顔が赤く染まったことに気づく。

 それに気づいてか気づかないでか、ナタルの前に座っていたサイーブが視線をカガリに向けつつ口を開いた。

 

「行くぞ」

「え、あ、ああ」

 

 頷いたナタルに、サイーブは頷いて車を走らせる。

 二台の車が去っていくのを見送るキラ、横のカガリを見ればどこかそわそわとしていた。トイレかとも思ったが、それを聞いたら再び鉄拳を喰らいかねない。今までの傾向からしてカガリは口より先に手が出るタイプ。

 故に、黙っていると……カガリの方から口を開いた。

 

「ほら行くぞ、護衛なんだろ……一応」

「うん、一応ね」

 

 今日の二人の目的は買い出しであり、カガリはポケットからメモ用紙を取り出す。

 周囲の喧騒、賑やかな市場、笑顔が絶えない和やかな街。

 

「ほんとに、ここが“虎の本拠地”なの? 随分賑やかで、平和そうなんだけど……」

「……ついて来い」

 

 キラはそう言うカガリに連れられて歩いていくと、ある程度の場所で止まった。そこには砲弾の痕、抉られた地上、バナディーヤ制圧時に撃たれたのだろうか……だが、その周囲を子供たちが笑顔で走っていく。

 キラとカガリの視線の先には、巨大な陸上艦―――レセップス。

 

「あれが、この街の支配者だ。ここはザフトの、砂漠の虎のものなんだ」

 

 その言葉に、キラは静かに頷いた。少しばかりそうしてみていると、カガリはやるせない表情だ。

 数日前の“アレ”が響いているのだろうことは容易に想像がつく。

 

「さて、買い出し行くぞ」

「あ、うん……」

 

 買い出しのメモ用紙を見てから歩き出すカガリに、大人しくついていくキラ。

 

「ところでなんだが」

「ん?」

 

 バツの悪そうな表情を浮かべるカガリが、チラチラとキラを見たり前を見たりを繰り返す。

 

「アイツ、なんなんだ……」

「あいつって?」

「……お前が犬みたいにくっついてるアイツだよっ」

 

 まるで思い当たらないが、最近一緒にいることが多い相手と言えば……。

 

「ロマさん?」

「そうだ。あのブルーコスモスだっていう男だ」

「……色々話したんでしょ? “あの後”に……」

 

 キラが首を傾げてそう言うと、カガリはバツが悪そうな表情を浮かべる。

 確かにあの“説教”の後に、カガリはサイーブたちと“明けの砂漠の今後”についての話し合い。それを経てサイーブの提案でわざわざ会いに行き“ロマ・K・バエル”と話をした。だが、それでわかっていたら苦労しない。

 妙に優しい笑みと、頭を撫でられた感覚を思い出す。

 

「それでも、わからないから聞いてるんだよ。お前、仲良いだろ」

 

 そう言ってキラの方を向くカガリが、顔をしかめる。

 

「……なにニヤニヤしてるんだ、お前」

「い、いやだって、ロマさんと仲良く見えてたんだなって」

 

 へらっ、とはにかむキラを見てカガリが苦笑を浮かべた。

 

「……ほんと、犬みたいなやつだなお前」

 

 そんな彼女の言葉に、キラは小首を傾げたまま歩く。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、アークエンジェルの格納庫。

 プレディザスターから出たロマは、先ほどまで『ミサイルが足りねぇですわ! もっとよこしてくださいましぃ!』とか言いやがる支援AIを相手に調整等をしていた。

 なんだかんだ言いながらも、チェシャも仕事はしているのでロマとしては言うことなしだ。否、やはり文句は言っている。

 

 そしてそんな彼が食堂にでも向かおうと格納庫を上がると、通路にムウとマリューが立っていた。

 

「艦長と少佐、なにかあったか?」

 

 そう聞くと二人は顔を見合わせて難しい表情をして向かい合う。

 

 一方のロマはいつも通りの表情ではあるが、彼も彼とてそういう顔をしたい気分でもあった。

 今日は明けの砂漠の面々とナタルとトノムラがとあるルートに資材購入へ、それからキラとカガリがバナディーヤに買い出しに行くという話ではあったのだが、問題はそれではない。

 ロマは知っている―――あの二人は集合時間に戻りはしないと。

 

 砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドと出会うことになるのだ。

 

「おい、ロマ?」

「すまない……少し耽っていた。してなにが?」

「いやね……あの娘、アルスターさん、いるでしょう?」

 

 マリューの言葉に、素直に頷く。

 結果的にアークエンジェルにはいつの間にやら“フレイとキラがいい仲”だというのは広まってしまっている。それについてのことだろうと、理解した。

 

「ああ、いえ……サイ君の彼女だったのに、いつの間にと」

「私とて知らんよ」

「なんだ、キラのやつお前に懐いてるから知ってるもんだと思ってたよ」

 

 知ってはいる。どういう経緯があったのかおおよそのことは……。

 

 ただそれはキラから聞いたのではなく“なんか知っている”のだ。あの二人の情事とて一部知っているのがもの凄い変態っぽいので脳裏から消したいと願っているが、消えるものではない。夕方にあれは衝撃的だったし空気は凍った。

 

 それで、と話を戻す。

 

「わざわざ、あの二人の噂の真偽を確かめに来たのではあるまい?」

 

 この世界において“キラがコックピットで寝食する”。なんていうちょっとした事件は起きていないので、それほど問題は無いように思っていたのだが、なにかあるのだろうかとロマは少しばかり警戒する。

 マリューとムウが向き合ってから、言いづらそうに言う。

 

「あの嬢ちゃん、なんかオペレーターとかCICの仕事ができるようになりたいって、直談判しに来たんだよ」

「……は?」

 

 柄にもなく……はないが、素っ頓狂な声を出してしまう。あまりにも想定外の極みであったからだろう。ロマ自身、現在は彼女とは何一つ接点がないつもりで、彼女に影響を与えるような行動は何一つしていないつもりだ―――だからこそ、疑問だった。

 すぐに頭を整理して“フレイが仕事を貰いに行った”という事実を理解する。

 

「……どういう心境の変化だ。誰もなにも言わなかったというのに」

「意外? だよなぁ……」

「大尉ならなにか知ってると思ったんですが」

「私は彼女のことはなにも……」

 

 顎に手を当てて思考した。

 

「なにか、か」

 

 しかして、答えなど出るはずがない。

 

 実際のところ、彼女のその行動の原因はロマである。

 フレイがキラといる時に聞いた『なんでブルーコスモスの人と仲良いの?』という言葉に、キラは頭の中で“原稿用紙何枚分にもなりそうな言葉”を泣く泣く端折り『一緒に戦って支えてくれるから』なんて、当たり障りの無い言葉で返したのだ。

 それによりフレイは“利用するつもり”であるキラを、自分に繋ぎとめておくために“キラの力になる”ことを選んだのだ。

 故に、誰も彼女の言動の理由を知らぬ。

 

 答えは出ないなと踏んだマリューは、ロマのことを見る。

 

「……ところで大尉、体の方は?」

「ああ、問題ない。次もしっかりと戦闘してみせよう」

「でもなぁ、大丈夫かぁ?」

 

 ムウが顔をしかめてそう言う。それもそうだろう。

 結局、彼は内臓の損傷も放置のまま戦っていたわけであり、言っていた“応急処置”とやらもブルーコスモス印の最新式の薬品かと思えば、ただの痛み止め。それも、強いと操縦に問題が出かねないからとそれほど効き目が強くないモノ。

 アークエンジェルの医者がだいぶひきつった顔をしていたのを思い出す。

 

「大丈夫だ。問題ない」

「いやぁ……盟主さんはさ、お前が傷ついて帰ってきて俺たちに大激怒、なんてことないよな?」

「ハハハ、アズラエル理事に限ってそんなことないさ」

「でも……“そっち”に関してはお前、信用ならないんだよなぁ」

 

 呆れるようなムウに、ロマは心の中で不満気に思考する。

 

 ―――なぜに?

 

「……なんで不満そうな雰囲気なんだよ」

「不満だからだろう?」

「いやぁ、理解のないパイロット君だなぁ」

 

 そう言って笑うムウ。

 

「誰がだ……これでも勘は良い方だと思うが」

「“そっち”はどうだかねぇ。彼女とかいなかったのかよ今まで」

「……士官学校時代からずっとアズラエル理事のお付きだからな。そんな暇ないさ」

「えっ、そんな昔からか?」

「言うほど昔では……たぶん、ないな」

「難儀なもんだねぇ」

 

 肩を竦めるムウに、眉をひそめるロマ。

 そんな光景を見て、マリューが口に手を当てて笑いだす。二人してマリューの方を見るが、なにがツボに入ったのか笑い続ける。

 ロマとムウが顔を合わせてお互い同時に“お前が笑われている”と指を向け合うが、さらにそれが追い打ちになったようで、お腹を押さえて笑いだす。

 

「ふふっ……お、お二人、仲良しなんですね」

 

 そんな言葉に、ムウは顔をしかめた。

 

「やだねぇ、男同士で仲良しとか言われるの」

「私も不本意だがな」

 

 向かい合う二人を見て、マリューは変わらず笑っていた。

 

「まったく……ん、すまん。少し戻るよ」

 

 呆れた様子のロマだったが、格納庫の自機を見てそう言うと、マリューとムウが首を傾げる。

 片手を上げて格納庫を下りていくロマ、それを見てマリューがムウの方を向いた。

 

「調子に乗りすぎました?」

「いや、そんなんで怒る奴じゃないさ……なんかあったんだろ。それよりどうするの、この後はさ」

「あっ、ええ、補給が済んだあとは出航の準備を進めないといけないわね。明けの砂漠は“戦闘には参加できない”との申し出もあったし、スカイグラスパーをもう一機遊ばせておきたくはないけど、予備機で置いておくしかないわ」

「だな、下手にストライカーパックを変えるよりもう一機に付けといて乗り換える方が良いだろ」

 

 そう言いながら、フッと口元を綻ばせるムウ。

 

「……なぁんか頑張るねぇ、アイツも」

「あら、少佐はもうちょっと頑張っていただいてもよろしいんですのよ?」

「えっ、これでも頑張ってるつもりなんだけどぉ」

 

 

 

 一方、格納庫を下りたロマはと言えば、ストライクの前に立つ少年に声をかける。

 

「休憩中か? サイ・アーガイル君」

「えっ、あ……ば、バエル大尉」

 

 そこにいたのはサイ・アーガイル。キラの学友であり、先日は言い争いにまで発展した少年。

 あの翌日には謝罪しに来たのだが、それ以降は会話をした覚えのないロマ。それもそうだろう、上官とああなったのならば謝罪しようと、普通は避けて然るべきだ。

 

 先ほど上からサイを見つけて、ロマは思い出した。この後に、彼がストライクを無断で動かそうとする事件が発生する。

 今、このアークエンジェルでそういうことを彼が起こすかはわからないが、その可能性はあるのだ。

 だからこそ、ロマはサイの方を向いて口元を緩める。

 

「ストライク、凄い機体だよ。彼が彼のために調整した機体……とても私には扱えるものではないな」

「えっ、でも大尉ってモビルスーツに乗れるんじゃ」

「通常のコーディネイター用のOSならば、な。これは無理だろうさ」

 

 事実、キラの扱うストライクに乗ることは不可能だろう。動かせても戦闘にはなるまい。

 

「件のアルスター嬢はブリッジの仕事をするそうだな」

「はい……意外でした」

 

 俯いてそう言うサイに、先日のような怒りの念は感じられなかった。

 冷静になってから色々と理解はしたのだろう。サイの方がフレイと付き合いは長いのだろうから……。

 

「でもフレイって……強かですから」

「女性はそうさ、それで苦労するものだ」

「バエル大尉も、ですか?」

 

 そんなサイの疑問に苦笑で応える。

 

「そういうものさ、男も女も苦労かけるし苦労するものだ。ナチュラルもコーディネイターもそれは変わらんだろうさ」

「……キラ、あいつお人よしだから、きっとわかってるのに」

「アルスター嬢のことか、それもそうだろう。私とてわかるよ」

「でもきっと……キラ、良い奴なんです。ホントに」

 

 理解してはいるのだろう。フレイ・アルスターが本当にキラ・ヤマトのことを愛しているわけではないと……しかし、彼は同時に彼女がキラにきっと惹かれるということも理解していた。

 だからこそ今、彼は色々な葛藤に整理がつかないのだろうと理解し、ロマは息を吐く。

 

 いずれ至る“結末”を知っているだけに……。

 

「わかってるよ。だから君らを守るために……残ったんだろう」

「そう、なんですよね」

 

 理解していたのか、したのか……頷くサイ。

 

 交代時間になってブリッジへと向かうことになるまで、そうしてサイと会話をする。ロマはそれ以外に道を知らないからだ。

 なんだかんだ“同じ年齢を二度繰り返した”ところで、人を慰める方法などわかるわけもないのである。

 

 ただ話をするだけが関の山。そうしているうちに、サイは交代時間となりブリッジへと向かった。ロマに微弱ながら笑顔を向け、礼をして……。

 

 残されたロマはというと、その後はマードックたちと会話をしつつある程度の時間で、“そろそろ”かと予想し、遅れてブリッジへと向かうこととする。

 

 

 

 ブリッジに辿りつくと同時に、“タイミング良く”キラとカガリがいなくなったとの情報がもたらされた。

 迎えに行ったキサカが、合流地点にいつまで経ってもやってこない彼女たちを心配して連絡をよこしてきたわけだ。

 曰く、電波状況が悪くキサカたちはサイーブたちとも連絡が取れないらしい。アークエンジェルと連絡を取れたのは幸いのようだったが、市街ではブルーコスモスのテロもあり、誰かが巻き込まれていないかという話もあるらしく、今はナタルに連絡を取っている最中とのことだ。

 

 ロマはというと、マリューとムウの二人に顔を向ける。

 

「私が行こう、こうなれば襲撃はあるまいよ」

「キラとお前を出すのかよ」

「勘だが、襲撃はないよ」

 

 そう言うロマに、顔をしかめるムウ。それもそうだろう……戦場において“勘”を持ち出されて気持ちのいい顔で快諾はできない。

 

「フラガ少佐、ブルーコスモスが活動しているならバエル大尉の方が良いと私も思います」

「え、艦長もかよ。いや……まぁ確かにそうだが」

「そういうことです少佐殿」

 

 ムウも少し悩む表情を見せるが、すぐに頷いた。

 ブルーコスモスが活動しているともなれば、ロマしか頼りにできないということもあるのだろう。

 

 しかし、ロマ自身は理解している。バナディーヤで活動している“ブルーコスモス”が本当にあるべき正しい“ブルーコスモス”か、だ。

 十中八九違うのだろう。テロ行為をするブルーコスモスなど、九割九分“自称ブルーコスモス”である。

 故に、ロマ・K・バエルの顔も知らないだろうし、ほとんど意味が無いと言って過言ではない。

 

「それに……白兵戦なら私が良いだろう」

 

 なにが起こるかわからない。キラとカガリが帰ってくるという“描写が原作には無い”のだ。

 

 

 

 

 

 

 紆余曲折を経て夕方。ロマはバナディーヤの街に到着した。

 なんてことはない私服に着替え、迎えに来たキサカのバギーで街へと到達するなり歩き出す。もちろん一人ではなく、キサカも隣にいるのだが……。

 向かう先は無論、レセップスの方“砂漠の虎の邸宅”だ。

 

 徐々にその進路を理解してきたのか、キサカがロマの肩を掴む。

 

「おい、それ以上は……」

「可能性としてはそこしかありえんよ。それに話さなかったがブルーコスモスの構成員がここにいたとして、端の者に私の顔はわからんさ」

「……ならどうしてきた」

「適任だと思ったからだ」

 

 そう答えると、キサカはロマの肩から手を降ろす。

 

「強行突破するには厳重だぞ」

「しない、近くに行くだけで充分だ……いや、この距離でも良い。砂漠の虎がわざわざキラとカガリ・ユラを拘束するとも思えん」

「……なぜだ?」

 

 勘、と答えるほかはあるまい。“ここゼミで見たところだ!”と同様“ここ原作で見たところだ!”などと口が裂けても言えやしないのだ。

 だからこそ、静かにそこで待つことにした。

 砂漠の虎の邸宅から出て大通りを行くならその道を通らざるをえない。

 

 近くの階段に腰を下ろすと、キサカも近くに寄る。

 

「お姫様に社会勉強させるならもう少しあっただろうに……」

「ッ……気づいて?」

「ブルーコスモス盟主の懐刀だよ。知らないわけがあるまい」

 

 顔が公に公表されていようがいまいが、ブルーコスモス盟主が知らないわけがない。アズラエルなら一瞬で気づくだろうし、自分も“こちらの世界”でちゃんと見せられたことがある。

 他人の空似の可能性もあるが……ロマに至ってはまずない。

 

 ―――平和の国の姫様がザフトを撃つのはマズいでしょ。

 

 とも言いたくもなるが、ここで言っても仕方のないことである。

 

「言わんさ、こちらの利になることもあるまい」

「……助かる」

 

 そう言って頭を下げるキサカに、片手を上げて別に構わないとの意を示す。

 夕日が徐々に傾いてくる中、足音が近づいてくるのを感じて立ち上がると、視線の先に見知った顔を二つ見つける。

 

「カガリ……!」

「キサカっ、それに……!」

 

 出かけた時と変わらない恰好であるが、どこか小奇麗なカガリ。その横でなんとも言えない表情で荷物を抱えるキラ。

 駆けだしたカガリがキサカへと近づくと、キサカは安心したように息を吐く。それとは反対にキラは立ち止まっており、むしろロマの方が近づいてキラの前に立った。

 ロマは知っている。“砂漠の虎”との会話を……。

 

「帰るぞ、“みんな”心配している」

「あ、はい……!」

 

 頷いたキラの背を押すと、ゆっくり歩き出す。そんな彼の背中を見ながら、軽く振り返る。

 

 アロハシャツを着た男が離れた位置に立っており、目が合う。知っていなくても感じることはできただろう。敵意と共に妙な感覚―――砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルド。

 お互い、サングラスに隠された瞳、だが理解はした。次に会うときはやはり戦場なのだろうと……。

 

 どちらかが滅ぶまで、戦えなくなるまで、戦うしかない。

 この小さな戦争では、そうする他ないのだ。

 

 

 

 バギーの運転席に乗り込んだキサカ、助手席にカガリで後部座席にはキラとロマの二人。

 街中ということもありそれほど速度は出さず、比較的ゆっくりと進む。なんなら本気で走った人間に追いつかれかねない速度であった。

 早々に街を出たいのは確かだが、急いで目立ってしまっては本末転倒だ。

 

 今すぐ通信をしたいところだが、電波状況が悪いので街を出てからになるだろう。

 

「買い出しは済んでるのか?」

「あ、はい……なんとか」

「そうか、ならこのまま直帰で問題ないな」

 

 アークエンジェルに襲撃は無いと踏んでいるロマだが、実際のところわからない話でもある。

 マリューたちはキラとロマの二人がいない状況で、気が気じゃないだろうし、カガリのことを知っているサイーブも頭を痛めていることだろう。早めに連絡を取って短めに要点を伝えて、さっさと合流したいところだが……。

 

「ロマくん!?」

「は?」

 

 ―――そうはいかなさそうだった。

 

 自分の名を呼ばれた。いやもしかしたら別人かもしれないが、そちらを向く。すでに街中とは言っても出口付近、そろそろスピードを上げようかという瞬間、かけられた声。

 キサカとカガリとキラもそちらを見る。

 

 ロマを呼んだのは―――白髪の女性。

 

「ハイータか……!?」

「やっぱりだぁ……!」

 

 なぜか“ボロボロの服”を着ているハイータが駆けてくれば、察してかバギーを止めるキサカ。

 キラもカガリもポカンとしているが、そっとキラの方へと寄るロマの隣に飛び乗るハイータ。シャツはなぜだか赤い血がベットリ付着しており、彼女に怪我はないようだが……当初の目的だった“目立たず出る”という目的の達成が難しくなってしまう。

 そしてキサカは先ほどよりアクセルを強く踏み、バギーを加速させる。

 

 後部座席で深く息をつくハイータ。

 

「よ、良かったぁ……」

「ハイータ、どうして……?」

 

 ロマが疑問を口にしながら水を渡すと、頷きそれを飲む。

 

「ぷはぁ……えっと、アークエンジェルへの補給のために……アズラエル理事が輸送機飛ばしたんだけど、一機以外は撃墜されちゃって、その一機も被弾してて私と数人はなんとか生き残ったんだけど」

「それで、どうしてバナディーヤに来ることになるんだよ。連合の支援なんだろ?」

 

 カガリが後ろを向いてそう言うと、ハイータは少しばかり驚きながらも頷く。

 

「この街、砂漠の虎さんの本拠地だって聞いてたんだけど、一応ブルーコスモスの末端組織もあるって聞いて来たんだよ」

「しかし、ここは……」

「うん、色々調べてアジトまでこぎつけて、入れてもらえはしたんだけど……ちょっと不穏というか敵意を感じて」

 

 それもそうだ。自称ブルーコスモスなどに本家ブルーコスモスですと言って近づいてどうにかなるものでもない。

 ブルーコスモスの規模の大きさは、そこの区別がつき辛いのが問題なのだ。しかして、ハイータは知らなかったとはいえ今日、テロを起こしたような団体が“正式なブルーコスモス”であるはずはない。

 故に、カガリは顔をしかめた。

 

「よく無事だったなぁ」

「あ、うん……なんとかまぁ、制圧して逃げたんだけど、よかったよぉロマ君と合流できて」

 

 あっさりと言い放った“制圧して逃げた”という言葉にさらに顔をしかめるカガリ。やはりブルーコスモス盟主の私兵、そしてロマの仲間。普通ではないのは確かであり、キラも苦笑気味だ。

 

「私もそう思うよ。早々に艦長に報告してそちらと合流だな……物資の運搬などもしなければ、か」

 

 顎に手を当てて考えるロマだが、補給は真剣にありがたい話である。

 

「そ、それにしても、ロマくんが、無事で……良かった、よ?」

「こちらも同感さ」

 

 フッと笑みを零すロマ。

 

「イチャイチャしてんじゃねぇよ!」

「いっ、そ、そんなんじゃありませんよっ! ね、ロマくん!?」

 

 真っ赤な顔で否定するハイータを見て、カガリはおもしろくなさそうに前に向き直る。

 

「そうだな」

 

 呆気らかんと答えるロマに、ハイータはどこか不満そうな表情をした。

 そんな“女の子”らしく拗ねた可愛げのある表情と、返り血がベッタリついた服装のギャップにキラはどういった表情でいればいいのかわからずにとりあえず苦笑いをしてしまう。

 なにはともあれ、アズラエルに助けられたことに感謝しつつ、ロマは帰ったら頑張って機嫌を取ろうと誓うのだった。

 

「そういえばハイータが来たのは妥当だな」

 

 呟くと隣の彼女は微笑しつつ首を傾ける。

 

「あ、いえ、誰が来るかわからなかったんです、本当は」

「そうなのか?」

「はい、じゃんけんで勝ったから私になっただけっていうか……」

 

 

 

 ―――じゃんけん?

 

 

 





結構急ぎで書いたので変なとこなければいい

繋ぎ回というかそんな感じの回です
キラとは順調に仲良くなりつつ、ハイータ登場

次回は砂漠の虎との決戦ということで、戦闘です
ついでにちょっとずつ変化も発生しつつ……って感じですね

とりあえず次回もお楽しみいただければと思います
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