盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
―――なんか死んだ。
今は見ることもなくなった壊れかけのブラウン管テレビの如く、ブツンと視界が真っ暗になった。死んだ理由は、別の場所で語ることもあるだろう。目下の問題はそこではないのである。
ブラウン管は叩けば直る(直らない)けれど、こればかりはどうにもこうにもだな、と彼は達観的に思う。
強い光。それに眼が慣れない感覚、暗闇から初めて光が当たる場所へと出た。そう、彼は……。
―――なんか生まれた。
真っ先に思ったのはそれだ。
「この赤ちゃん泣かないんですけど!」
「大変! うちの子泣かしてください看護師さん!」
「どうすればいいですか!?」
「しらんがな!」
言いたい放題聞こえてしまうのは転生故にしかたあるまい。しかして、ここまでハイテンション出産あるだろうか、ちなみに彼は経験などないので知らない。
しかし、泣けと言われて泣けるほどの演技力などないので彼は困った。
「コーディネイターなら安心なんですけどナチュラルで泣かないのは心配ですね!」
―――ウソでしょ……。ここコズミック・イラなんっすか? 地獄やん!
「うおっ、堰を切るように泣き出した!」
「あとパパは最近若禿に悩んでるわ!」
転生後のあまりに辛い現実に慟哭する。
そして彼は、ワカメを貪りながら生きることを決めた。
◆◇◆◇◆◇
彼はロマ・K・バエル。秀才児である。
このコズミック・イラことガンダムSEEDの世界における“ナチュラル”と呼ばれる者でありながら、一般的学力はコーディネイターに引けを取らず、運動能力もコーディネイターレベル。探せばいなくもないほどの“普通の秀才”だった。
身内の期待は概ね好評。枕詞で“ナチュラルなのに”がファンネルみたいに着いて来るのもまだ許した……。
―――だが
しかし、この環境でいるとそりゃナチュラルとコーディネイターが一緒にいたらナチュラル側は擦れるな、とは思わざるをえなかった。
良い悪いではない。純粋に基礎能力が違いすぎるのだ。
父母両家系共にこぞって軍属。大西洋連邦にはお世話になっているものの、反コーディネイター思想が強い方ではないので良いことだが、これで延々と反コーディネイター教育をされていれば普通の子供であればもれなく『青き清浄なる世界のために』な思考が植えつけられるだろう。
しかしてまぁ、なにはともあれ……。
「……大変だなぁ」
ソファでくつろぎながらテレビを見るのは、ワカメを貪る少年。そうロマである。
食べすぎ注意、と書かれた袋から乾燥ワカメを取り出してポリポリ食べていく。いつぞやに乾燥ワカメが“腹の中で10倍界王拳”をかまして苦しむハメになったのはトラウマである。
時は
四年前の、従来のワクチンが無効なS2型インフルエンザの流行からナチュラルとコーディネイターの溝は深まる一方だ。
その流行病によりナチュラルに多数の死者が出た。そう、ナチュラルのみである。
反対にコーディネイターの死者はゼロ。これをコーディネイターがファーストコーディネイターことジョージ・グレン暗殺の報復及びナチュラル殲滅のためにおこなった作戦であるという噂が広まった。
大西洋連邦内ではただでさえ顕著な反コーディネイターの風が増すのは想像に難くない挙句、彼はシーゲル・クラインとパトリック・ザラ、プラント評議会議員に初当選というニュースを眼にしてしまう。
「これ、史実通り進むんだろうなぁ」
父や母と同じく軍属でも後方の方にいるのであれば問題ないだろうと思いたい……しかし大西洋連邦。どうなるかわかったものではない。おもに第二次ヤキン。
そこを上手く回避するために奔放するには、やはり自分も前線に出ないで済むような地位についておく必要があるかもしれない。
転生特典みたいなものがあれば良かったが、そんなものはなさそうだ。
頭脳明晰であるなら良かったのだが、そうでもなさそうで、一般教養や知識はあるので、この世界専門の知識を勉強する時間が多かったから学力が優秀なように“見えているだけ”。運動神経は上がっている気がしないでもないが、それでも並のコーディネイターレベル。
「なんか才能とかないものか……」
コーディネイターに生まれたかったとは思わないが、コーディネイターなら楽だったんだろうなと思うことはある。それでもきっとコーディネイターたちの中でまた順序が決まるのだから酷な話ではあるのだが……。
「とりあえず、後方支援面できるようにしようか……」
御察しの通り“面”はいらない。
「……でもまぁせっかくの週末ぐらいはゆっくりしよう」
そう言うなり、週末の陽気に身体を心地良いクッションの海に沈める。
◆◇◆◇◆◇
時はC.E.67年、心苦しいが数年の月日は割愛せねばなるまい。
毒にも薬にもならないロマの、極々一般的な秀才の半生であるからに刺激など一ミリもないのである。
ロマ・K・バエル17歳。悲しいかな、彼はまだ―――童貞であった。
士官学校の模擬戦。
本日は大西洋連邦の偉い方が観覧に来ているため、実にはりきっている訓練生の中に、彼はいた。
大体にして今更チームを分け、わざわざサバゲレベル100の白兵戦訓練などなんの意味があるのかとも思うが、ロマ以外からすれば将校に力を見せ付ける十分意味のある行為なのである。
ロマは連合軍の制服に身を包みライフル片手に塹壕に身を潜めていた。
隣にやってきた同期が焦ったようにロマの顔を見る。
「コーディネイターがいるんだよ向こう!」
まさにズルだ! と言わんばかりに自分に迫るその男の顔を手で押しのけた。
「その代わりこっち、人多いだろ? コーディネイターとて人だよ。寄って集って勝てないのは端から恐れてるからだ」
「でもよっ!」
実際に、コーディネイターがそれほど無双の強さを誇っているならば端から戦争になんてならない。しかして“戦争になる”のだから、勝てない道理もない。
「デモもストもないさ。こっちのが人数多くて、あっちのもあのコーディネイター以外は結構倒れてるんだろ?」
それに大西洋連邦の士官学校にいるコーディネイターというだけで、精神的負担は底知れないのだ。せめて明らかに戦力差が出る場所でぐらい活躍させるのは大事だ。
別にお偉い方に活躍を見せたいとかいう野心はない。だがしかし、それなりにやっておかなければ“それなりの地位”すらも手に入らないかもしれない……それは不味い。後方にいたい。
仕方ないと息をついて、思考をめぐらせる。
「アイツらあのコーディネイターばっか前線にやってほとんどなにもしてねぇんだよ! 誤射しそうな銃撃とかもするしさ!」
「……ほぉ」
そう言ってロマは“サングラスの奥の瞳”をギラつかせた。悔しいけど彼も男、赤い彗星に憧れるのも仕方ないことなのだ。
フッ、と笑みを浮かべて上空に特定の間隔で数発を撃てば、すぐに塹壕の真上部分に模擬弾が飛んでくる。
「うわっ! な、なにやってんだよ!」
「耳が良い、眼も良いな。出て行ったら速攻で片付けられるだろ……」
ロマの銃撃での合図に集まってくる20名ほどの仲間たち。今襲われたら即座にゲームオーバー。
「指示を出すからなんとか頼む。あれは怯えている……上手くやればなんとかなるさ」
「でもこっち、もうあっちより人数少なくて……」
マガジンを取り外して残弾を確認しつつ、ロマは相変わらず笑う。否、笑うしかない。
分の悪い賭けをする気はないタイプの男なのだが、分の悪い賭けを……強いられているんだ! 状態。非常に不本意ではあるが、やらざるをえない。後方で、平和に過ごすためにだ。
故に、深く息をついて隣の同期に合図を出す。
外したヘルメットを持った同期がそれを塹壕から出せば、即座に銃弾が飛んできてヘルメットを弾き飛ばす。さらに他の仲間も同じことをしてみせる中、ロマもチラリと頭をのぞかせる。
位置を確認、即座に頭を下げるも頭上を銃弾が通り髪が散った。
「禿げてないか!?」
「うおっ、急に必死! だ、大丈夫そうだけど」
「ならよし……どちらにしろ失敗すれば終わりだよ。これにベットするしか君らに選択肢はないだろ」
「なぁ、でもこんなの無理じゃ」
大きく息を吐くと、笑みを浮かべる。
「無理を無理と言うことくらい誰にでも出来る。それでもやり遂げるのが優秀な人物……どの世界でも常識だろうさ」
そう言って黙らせて散開させるものの、ここでふと気づく。
―――そういえばマイクで会話拾ってるんだっけ、向こうもヤバイけどこっちは逆の意味でヤバイ。なにがヤバイって俺、結構デカいこと言ってる? 恥ずかしくない?
諸々と考えることが山積みだが、今はその時間すら惜しい。
深く息をつき……ワンテンポおいてから、眼を見開く。
「南無三ッ!」
彼はスモークグレネードを放り投げた。
結果として―――勝ったには勝った。
あの一手を打ってから、ロマのチームには明確な“脱落者”も出ず、なんなら人数を“増やして”勝つということを可能とし、実現させてすらみせた。
なにも知らなければ別に彼がなにかをしたとも思えないのだが、いかんせん会話が駄々漏れ。
仲間内は結局コーディネイターに勝てたわけじゃないじゃん、と話をしているがそれもそうだとロマは頭を抱えたくなった。コーディネイターに勝てないわけはないが“この面子”で勝つのは無理があった故に、方法を変えたのだ。
目的は“相手チームに勝利”であり、そこを履き違えたつもりはない。
だから余計に不本意である。
「ロマ・K・バエル……」
訓練終わりに、よくわからない部屋に呼び出された。
立っているのは彼と教官、正面にいるのは士官学校の校長と、さらにスーツを着た金髪ロングストレートの女性が一人、凹凸のついたボディ、線の細さからしておそらく軍人ではないのだろうと予測。
別段、なにか悪いことをしたつもりもないし、目標は達成したしあのコーディネイターも上手い具合に“手加減”してくれたはずだ。マイクもあのコーディネイターとの会話を拾わないようにしたのだが……。
「ご苦労でした教官」
「いえ、しかしなぜバエルを!」
―――しかしこの女。どっかで、見たことあるんだよなぁ。
「先程の模擬戦を見て理事が興味をもったようでな」
「理事……?」
「おいバエルっ」
金髪の女性が、ビジネススマイルを浮かべる。
「国防産業連合理事、ムルタ・アズラエルです」
―――え、どゆこと?
失礼のないように、全身をジロジロ見るわけにもいかずなんとか“全体を見る”ようにしてムルタ・アズラエルが“女性”であることを確認。
そんな馬鹿なと叫びだしたいところだがそういうわけにもいかない。
こんな変化を目の当たりにすれば、色々と状況が変わってくるというものだ。
「理事が、君に関心を持ったようでな」
「いやぁ……良いじゃないですか、使えるものは使う。勝つために手段は選ばない。それが“コーディネイター”であっても、ね?」
ねっとりとした話し方、肩に手を置かれた校長の顔がまんざらでもなさそうだ。
―――校長が紅潮か、やかましい。
心の中の一人ノリツッコミ。クールな秀才で通っている彼としては決して公にもできまいて。
それよりも、流石に“ムルタ・アズラエル”であればあのコーディネイターと密約を交わして、逆転したという事実を誤魔化しきれもしないようで、見抜いてると言った様子。
どうするかと考えつつ、その様子をおくびにも出さぬよう努める。
「あのレベルの、訓練したコーディネイターと十数分も一対一でやりあいつつ、誤射をさせたりなんて普通できるはずないでしょう。なにをしたんです?」
答えるべきだろうかと教官に横目を向ければ、全力で何度も首を縦に振っている。
「密約を交わしました。訓練ですので見返りは“孤立しがちな彼女を甘言で惑わした”に近いのですが……ただ一人あの扱いをされてる彼女に仲間意識もないでしょうし」
「分の悪い賭けをしたものですね。不確定要素が多いギャンブルをするとは、正気ですか?」
笑みを浮かべて言う彼女は、やはりムルタ・アズラエルなのだと、ロマは少しばかりの実感を得た。
「詳細は省きますが、切れるカードは全部切って確率は限りなく成功に近づけました。それにそれ以外の選択肢があったとも思えません、自分一人では勝てない。しかし味方もコーディネイターに“怯えて”いたので、あれ以外はなかったかと」
ふぅん、と彼の足元から頭の天辺までを見定めるようにするアズラエル。
「……無理を無理と言うことくらい誰にでも出来る。それでもやり遂げるのが優秀な人物ですか」
―――しまった台詞パクらせていただきました!
ここは機嫌を損ねるわけにはいかない。目指すはパーフェクトコミュニケーション。
「コーディネイターを、どう思います?」
「ただの人でしょう……過半数がナチュラルに“敵対心”を持ってますが、そうでないなら“使える人材”かと思います」
「はははっ、良いですね。改めまして、私はムルタ・アズラエルです」
―――なんか知らんがこれ、ヤバイパターンでは?
胃がキリキリと音を鳴らすのを感じつつ敬礼をして、しっかりとムルタ・アズラエルの眼を見て言う。
「ロマ・カインハースト・バエルであります」
「ではバエルくん。君、今週末は空いてますね?」
―――認めたくないものだな……。
「ハッ! もちろんであります!」
「よろしい。少し付き合ってもらいましょうか、それによっては……将来的な君の立場も、ね?」
近づいてくるムルタ・アズラエルが彼の耳元に口を寄せて言い放った。
女性らしい良い香り、甘い香水の匂いが鼻孔をくすぐれば、ロマとてムルタ・アズラエルが“彼ではなく彼女”であると認めざるを得ない。
悲しいかな、彼はまだ―――童貞である。
―――悔しいけど、僕も男なんだな……!
「ハッ! 同行させていただきます!」
「はい、それでは、お願いしますね。バエルくん」
少し離れて、ムルタ・アズラエルは笑顔を浮かべ頷いた。
顔が良すぎるアズラエルに、悲しいかな彼は手も脚も出ないのも仕方がない。彼は女と権力に弱い、ちょっと転生しただけの、思春期を切腹させた青年である。
眩しい営業スマイルを浮かべるアズラエルに、彼はどうする術もなかろう。
―――ああ、貴重な週末が
オリ主の掘り下げ、キャラ出せないのでオリ主周りの話はパパッと終わらします
アズラエルと邂逅、三馬鹿も早めに出したいしMS戦とかも書きたい
まぁなんとかやってきたいです。色々と
PS、ちょっと修正かけました