盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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さだめの軛

 

 アークエンジェルの格納庫内。

 

 結果としては敵部隊は撤退、被害も最小限で結果的には勝利と言って差し支えないだろう。

 

 ロマはプレディザスターのシートを降ろすと、そこから降りて暗い空間を光差す方へと歩く。

 砂漠の虎との戦いに比べれば、敵戦力はG兵器も無いしで落ちているはずだったが、今回はなかなかどうして気を遣う戦闘ではあった。

 

 ディンを操縦していたであろうマルコ・モラシムはしっかりとこちらの攻撃をさばいていたし、反撃もしてきていた。プレディザスターにはライフルが掠ったことによる損傷もちらほらある。

 ストライクは途中で海に入り、ロマはそれをモラシムと戦闘しながら確認するなりハイータをアークエンジェルへと降ろし、ジン・アイズにて海中から攻撃してくるグーンを攻撃してもらった。

 

 結果、ロマは一人でモラシムのディンと他一機を相手取ることになってしまった。故にこれである。

 キラとハイータがグーンを撃破したことで敵が撤退せねばどうなっていたか、わかったものでもない。

 

「そろそろ潮時か……」

『わたくしはいつでもよろしくってよ~!』

「でなければ困る」

 

 チェシャと会話をしながら、プレディザスターを出て格納庫に立つ。

 

「さて、まずは……むっ」

 

 ―――プレッシャー、そこか!

 

「ロォマァくぅぅぅぅぅん!!」

 

 明らかな邪気を感じてそちらを向くロマ。視線を動かすでもなく、素早くスッと腕を組んだまま横にスウェイ移動。それと共に、先ほどまでいた場所へと勢いよく跳び込むハイータ。

 普通ならば顔面から頑丈な合金製の床にキスをする羽目になるのだが、そこはコーディネイター。素早く手を着いて倒立の要領で一回転して着地。

 それを理解しているからこそ、ロマとて安心して回避できるのである。

 

「なんで避けるんですかァ!」

 

 ───やめろハイータ。お前の身体は俺に効く……やめてくれ。

 

 そう素直に言えたらどれほど良かっただろうか、しかして今更そんなことを言うわけにもいくまい。ロマ・K・バエルという男は後には引けないのだ。

 前回もそうだったように、整備士たちもキラもムウもロマとハイータの方を向いている。キラは、今回もハイータを止めようかと急いで降りたのだが、心配も無さそうだと一安心。

 

 なにはともあれ、ロマは───意味深に笑ってみた。

 

「……フッ」

「やだぁ、ロマくんしゅてきぃ、しゅきぃ……」

 

 ───俺は俺のことを好きな子が好きになってしまうタイプ。このままではこちらがやられる!

 

 童貞の悲しき(サガ)だ。しかして、未だにこうしてただ純粋にハイータを“好き”でいられている。それもまた童貞の悲しき(サガ)なのかもしれない……。

 

「ほどほどにしておかんと後が辛いぞ」

「こんな世界で後なんて気にしてたら死んじゃいますよぉ?」

 

 ぐぅの音も出なかった。悲しいかな、同意せざるをえない。

 ということで! とかなんとか言ってハイータはロマの背中に飛びつき抱き着く、つまりはその背に存分にその大きな二つの果実が押し当てられるわけであり、もちろん童貞(純潔)のロマは外面にこそ出さないがその状況に脳を震わせ歓喜するのである。

 なにが問題かというと、やはり動揺など一切見せないわけなので……周囲の整備士から『すげぇ』『やっぱり大人なのか』『あの感じだもんなぁ』等々、妙な憶測が飛び交う。

 

 そんな中、近づいてくる者がいた。揺れる金髪、身長はロマより明らかに低い。

 

「カガリか」

「なにやってんだよ格納庫で、あんたが被弾してんの見てきたら」

「……心配してくれたのか、ありがとう」

 

 そう言ってほほ笑むと、カガリの頭を軽く撫でる。

 もちろん子ども扱いされたことによりカガリはキレる。しょっちゅうキレてるのでそれほど深刻視されないのが深刻だが、キレる。

 勢いよくロマの手が払いのけられた。

 

「そういうんじゃなくてなぁ!」

「ロマくん勝手にフラグ立ててんじゃねぇですよぉ! むらむらしたら私の身体で遊ぶって約束したじゃぁないですかぁ!?」

 

 もちろんしてない。

 

「なぁっ!? こんなとこで何言ってんだお前!」

「してない」

「ほらこいつも、そうだそうだと言っている!」

 

 ―――俺はラドンか。君が鳥になるなら俺も鳥になっちゃうか。

 

 童貞の脳のキャパはオーバー寸前だ。いやもう手遅れかもしれない。

 そんなわけのわからない混沌と化した場に颯爽と、否、恐る恐る現れるのはキラ・ヤマトである。ムウが口笛を吹きマードックがおもしろそうに状況を見ている。

 キラはそっとロマとカガリの近くへと寄った。

 

「ま、まぁ落ち着いてカガリも、ハイータさんは薬で気分が高揚してるだけだから……」

「普段の私も同じようなこと考えてますよ!」

「やめた方が良いぞハイータ」

 

 冷静にものを言うロマだが、それで止まるハイータではないのだ。仕方ないので、そのまま歩き出すのは圧倒的な“慣れ”の成果である。

 そういえば、とロマはキラの方を見た。

 

「アルスター嬢だが、大丈夫か?」

「え、なにがですか?」

「……いや、なんでもない」

 

 ―――船酔いは? さっき普通にCICしてたけど、え、どゆこと?

 

 混乱が混乱を呼ぶ。おそらく思考の80%を背中の“たわわ”に割いているせいに違いない。

 

「なにはともあれだ、キラも付き合ってくれ」

「あ、はい」

「ロマくんちょっと顔が可愛ければ男の娘でも良いんですかぁ!?」

「違う」

 

 背中から飛び降りて正面に回るハイータにきっぱりと否定の言葉を投げつける。声音はいつも通りで表情も変えていないが心の中は全力投球、160キロのストレート。

 しかしてやはり、見た目は平常を保っているせいか必死感がない。いや、この状況で必死でもいらぬ誤解を招きかねないが……。

 

 なにはともあれ、歩き出すロマの隣を腕を組んで歩くハイータ。そして反対側を歩くキラ。

 

 そんな三人を見送る───カガリ。

 

「なんなんだよ、あいつら……ていうかアイツ、いつも涼しい顔して大人ですって感じでさぁ」

「あいつも良いお兄ちゃんやってるよなぁ」

 

 いつの間にか隣に来たムウがそう言い捨てて、ロマ達の後を追って歩いていく。

 

 兄、存在はしないが、カガリもその言葉がやけにしっくりと来た。いたこともないからこそ、なんとなくそう思ってしまったのかもしれない。

 しかしてカガリは、そんな自分の考えを頭を左右に振って振り払って、余計なことを思考しないようにと、近くにあった“スカイグラスパーのシミュレーター”へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ここ数年でもっぱらアズラエルの本拠地と化した研究所。

 今日も今日とて、データ収集のためにクロト、オルガ、シャニの三人娘はシミュレーションで課された課題を即刻終わらせ、シミュレーションルームを出たその足で自室へと向かっていた。

 

 そう、圧倒的にスケジュールを巻いた……それが間違いだったのだ。

 

 その日、彼女らに肉弾戦の訓練かなにかでもあればまた変わっていただろう。シャワーを浴びたり、あるいは“お仕置き”でもあれば、やはり汗は出るわ涙は出るわ、シャワーを浴びる必要がふんだんにあっただろう。

 しかし今日は無かった。そう、無かったのである。

 

 彼女らの部屋。二重になっている扉、その内側の扉を開いた瞬間、三人娘は固まった。

 

「ん~♪ 案外似合ってるんじゃないですかぁ、これならあの子も───」

 

 そして、部屋の中の姿見でクルクル回りながら“ピンク色の連合制服を着たアズラエル”も固まった。

 

 人は時だって支配できる云々を言った電波も別の世界にはいたが、そう言う問題ではないのだ。純粋に人は状況を理解できなければ固まるのである。

 数年前までは殺意すら湧くこともあったブルーコスモス盟主ことムルタ・アズラエル。最近ではすっかり“慣れ親しんで”しまった故に、それ故に……その姿に固まったのだ。

 

「……え~」

 

 クロトが口に出したその音は、純粋なこのタイミングの悪さに対してだ。神などもちろん信じていないが、信じていたら中指を天高く突き上げただろう。

 

「なんつーか、うん」

 

 最近はロマがいなくても実験は痛みを伴うようなものはないし、それなりに充実した環境でストレスなく過ごせているわけだが───今、膨大なストレスが三人娘、ついでにアズラエルに襲い掛かっていた。

 

「……コスプレじゃん」

 

 シャニの歯に衣着せなさすぎた言葉に、アズラエルの顔が怒りか羞恥か真っ赤に染まる。漫画的表現をするならばボンッと音を立てているところだ。

 クロトとオルガは『言ったわコイツ』みたいな目でシャニを見やるが、アズラエルはそれどころではない。

 

「あなたねぇっ!」

 

 わなわなと震えてシャニを指さした、その瞬間───バツンッ、と音がしてアズラエルの着ていた制服のボタンが弾けた。

 

 そのボタンは勢いよく、オルガとクロトの間を通って後ろの壁にぶつかる。

 おもわずオルガは戦慄し、クロトは『ひぇっ』と小さく鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルの艦長室に集まる面々。

 まず艦長であるマリュー、副官であるナタル。さらにパイロットであるロマ、キラ、ムウ、ハイータの四人……なのだが。

 マリューは苦笑しながら、ハイータの方に視線を向ける。

 

「えっと、大丈夫? ハイータさんは……」

 

 部屋の隅、顔を両手で覆いながら壁の方に体を向けて蹲っているハイータ。ロマはそちらを向いて“安産型だな”等と余計なことを考えつつも前を向く。

 

「放っておいてやってくれ、死ぬほど疲れてる」

「少尉、その……」

 

 規律に厳しいナタルさえも、さすがに不憫に思ったのだろうなにも言わない。

 疲れているというわけでもないのだが、ロマの微妙に的外れなフォローを受けてマリューは苦笑いを浮かべたまま頷いた。とりあえず時間はどれだけあるかもわからないのだから、対抗策は早めに立てたいところではあるのだ。

 故に、マリューは口を開く。

 

「えっと、ハイータさんはそのままでいいから聞いてくれる?」

「……はぃ、しゅみませぇん」

 

 情けない声でそう言うハイータ。笑うムウを肘で小突くキラ。ハッとしてから無駄にきりっとした表情でマリューの方を向いた。

 それを確認するなり、さて、とマリューが口を開く。

 

「今回の襲撃ですが……あなたたちはどういう見解?」

「おそらく基地ではないでしょうな。カーペンタリアからにしたら非効率だ……モビルスーツであれば往復だけでエネルギーが底を尽きましょう」

「潜水母艦……と言うこと?」

 

 マリューの疑問にロマは頷く。それについてはムウも同じようで、口を開いた。

 

「俺も大尉殿に賛成かな。洋上艦や航空機なら、いくらなんでも見逃さないだろうけど、水中はこっちも慣れてないからねぇ」

「今度の交戦ではそちらも潰さなくてはどうにもならんよ。アラスカまで追い回されても、だろう?」

 

 ロマの言葉にナタルも納得したようで、マリューに視線を送る。

 

「ですわね……」

 

 ―――『ですわ』口調は余計な奴が脳裏に現れるからやめてほしい。

 

 その思いは通じない。通じたところで誰も取り合わないと思うが。

 

「ガンバガンバ! どうにかなるよ。なるべく浅い海の上行くようにしてさぁ……これまでだって、どうにかなってきたんだから」

「少佐、また根拠なくっ」

「それが励ましってもんでしょ!」

 

 マリューとナタルがジトっとした目でムウを見ると、後頭部を掻きながら笑っていたムウが固まる。味方はいないかとハイータを見るが、変わらず蹲っており、キラは苦笑している。

 すると、ロマが顎に手を当ててフッと笑みを浮かべた。

 

「……一理ある」

「えぇっ」

「だろぉ!?」

 

 驚愕する面々、喜ぶムウ。だがそれも一瞬だ。

 

「だが、その根拠のない励ましを現実にするために、頑張ってくれ少佐」

「お、おいおい俺だけぇ!?」

 

 ムウの言葉に、艦長室が笑いに包まれる。困ったように笑うムウ。

 ハイータもいつの間にやら起き上がっていてクスクスと笑っているが、キラがそちらに目を向けると『ごめんなさいごめんなさい』を連呼しながら視線をよそに向けた。

 ロマは心の中で『本当にごめんなさいだよお前』とも思うが、気づかないふりをしておく。

 

 すると、突如艦長室に通信。もちろんマリューに向けてであり、机に設置された通信機のスピーカーをONにして出る。

 

「どうしたの?」

『あ、艦長。アルスターなんですが』

「え、フレイがなにか?」

 

 キラが真っ先に反応するのも必然と言えよう。

 

「落ち着いてキラ君。それで、フレイさんがどうしたの?」

『ああいやその……船酔いらしくてですね。少し早いんですが交代をしましたと』

「船、酔い……?」

 

 なんだそんなことかと、周囲が安心して一息ついた。

 

 しかし、ロマ・K・バエルは外面にこそ出さないが心の中ではアラートが鳴りっぱなしだ。それもそうだろう、賢明な理解あるパイロットくんは気づくのである。

 そりゃ気づかないわけがない。先ほどロマが意味深に聞いた言葉を……。

 

「ロマさん、フレイのこと、わかってたんですか?」

「……勘だ」

 

 そう、この危機的状況を何とかする方法は……。

 

「勘だ」

「さすがロマさん」

 

 ……ゴリ押しである。力こそパワー。

 

 

 

 

 

 

 アズラエル財団が所有する研究所。

 その三人娘の部屋にて、ソファに座る部屋の主ことクロト、オルガ、シャニ。そして向かいに座っているのは“いつも通りの恰好”をしたムルタ・アズラエルである。

 

 先ほどのアズラエルが“コスプレ”をしていた事件から数十分。

 彼女は監視カメラを取っ払っておいて正解だったとここまで思ったことはない。

 

 連合の士官が制服を着ているのと、まったく関係ない30歳社会人女性がその制服を着てるのは、大きく意味が違ってくるということを心から理解したアズラエル。その顔は未だに赤い。

 気まずい空気、クロトとオルガはバツの悪い表情をしていた。

 それは、目の前に用意された先ほどアズラエルが着ていた制服と同じようなもの、のせいだろう。

 

「……そもそもね、私は貴女達に制服を届けに来たんですよ」

「なんで着てたのさ」

「う゛っ」

 

 シャニの手痛い口撃、クロトとオルガは『余計なこと言うな』という目で見るが、相変わらず唯我独尊なシャニが意に介すわけもない。

 

「……ともかく、あなたたちにいつまでもその恰好させとくのもなぁ、と思ったわけです」

「どした今更?」

 

 この状況で華麗なスルーを選択したアズラエル。突っ込みどころはあるが、さわらぬ神にはなんとやら、オルガもそれに乗りつつも、訝しげな表情でアズラエルを見やる。

 普段三人娘は、最初に適当な連合の制服を渡されたので、男性士官用の青いものを着用しているしボトムスはズボン。クロトとオルガは半袖にしたりしているが、シャニに関しては袖がダボダボ、それを見たアズラエルは今更ながら女性士官用の制服を用意したわけだ。

 

 だが、本当に今更である。今更スカートの作法など知らぬオルガ。

 ロマと出かけた時にクロトがたまに着用しているのは知っている、シャニはロマと出かけるとなると10割それであるが、オルガは違う。

 

 唸るオルガに、ニヤリと口元を緩めるアズラエル。

 

「え~♪ その歳になってスカート穿くの恥ずかしいとか言うんですかぁ?」

 

 口元に手をやってニヤニヤしながら言うアズラエルにイラッとするオルガ。お前らのせいだろ、とは言わない大人なオルガではあるが、イラッとはする。

 このアズラエル相手に何も言わないロマは大人だなぁ、と見当違いな発想をする。奴は心の中で「わからせてぇ」精神であるが、それを知るオルガではない。

 なにはともあれ、オルガはその制服を顔をしかめて見やる。

 

「……これで良い。ズボンの方が実用的だろ普通に」

「貴女達、せっかく素材は良いのに、嘆かわしい」

 

 笑うのをやめてため息をつくアズラエル。

 オルガから言わせたら“余計なお世話”ではあるのだが、シャニとクロトはどこか悩んでいる様子だった。そもそもスカートとはなにか、なぜスカートである必要があるのか、そこがオルガにはわからない。

 まぁなにはともあれ、とアズラエルの隣に綺麗に畳まれている女性士官服を見やる。

 

「……おねーさん、さっきのキツかったでしょ」

「シャニてめぇっ!?」

 

 とんだ発言にはっとするオルガ。さすがに気の毒だとは思ったし、怒りをかおうものならとんだ災厄が降りかかりかねない。

 アズラエルの方を見れば───ただ、固まっていた。

 

「私もわかるなって、ボタン跳ぶよね」

「ああそっち」

「そっちって……?」

 

 墓穴を掘った! そう思ったオルガがチラリとアズラエルを見る。

 

「……なんて?」

「あ~なんでも」

 

 オルガは、気まずそうに目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 就寝時間。ロマは“帰るべき場所”が混沌と化しているなど露知らずに、自室のベッドで横になって眠っている。

 疲労からか、倒れ込むようにベッドで横になっているロマは、魘されるように唸っていた。

 

 そしてそんなことも知らず、警戒心もなくロックもしていない故に、扉を開いて入ってくるのは───ハイータである。

 まさか開くとも思わずに、恐る恐ると言った様子で入って、驚いたように目を見開く。

 

「ぐっ……うぅっ……」

「ろ、ロマくん……」

 

 珍しく苦しそうな表情でいるロマへと駆け寄る。

 

「え、えとっ、えと、こういう時はっ……」

 

 起こして良いものかと悩みながらも、そっとその手を握った。それによる効果かはわからないが、魘されていたロマが少しずつだが安心したように表情を和らげ、唸り声も鳴りを潜める。

 呼吸の音だけになり、そこでようやくハイータも安心したのか空いていた片手で胸をなでおろす。

 そっと、ロマのベッドに腰掛けると笑みを浮かべ、その金色の髪を撫でる。

 

「……ん」

「あ、起こしちゃいました?」

 

 ふと、目を覚ましたロマ。自らの状況を確認して一瞬固まるも、すぐに理解した。

 

「ロックをかけ忘れたのか」

 

 彼女が部屋に入ってくることはなんら不思議なことではないと思っているのだろう。そこには疑問を呈さずにただ自分がロックをかけ忘れたということだけを理解。

 即座に上体を起こすと、握られている手を一瞬見る。

 ハッとしたハイータが即座に手を離した。

 

「そ、そのっ、う、魘されてたので安心さっ、し、してもらおうとっ」

「ああ、そうか、そうだな。夢見が悪かったのさ」

 

 そう言って笑うと、近くに置いてある水を取り半分以上を一気に流し込む。寝汗もかなりかいたようで、顔をしかめた。

 

「また、あの夢を見るように……」

「え?」

「いや、なんでもない。最近は少し、色々とありすぎてな」

 

 心穏やかである時間があまりないせいもあるのだろうと、ロマは自身で自覚した。そしてあまりにも“死を身近に感じる”機会が多すぎたのだ。

 故に、生きる者の識るはずもない“死”を夢見るのだろう。

 インナーであるタンクトップを迷いなく脱ぎ捨てると、ハイータが顔を赤くする。

 

「あ、悪りぃ」

 

 思わず素で謝罪をするロマだが、ハイータは真っ赤な顔のままジーッとロマの上半身を見ていた。

 

「……さすがに羞恥心ぐらいあるぞ私も」

「ふぇあっ!? すす、しゅみましぇんっ!」

 

 勢いよく謝罪するハイータだが視線はがっつりロマを捉えている。言っても仕方ないだろうし、別に上半身だけ、ならばそれはそれで構わないかと、ロマは自分を納得させた。

 別の黒いタンクトップを着ると、ハイータの隣に腰を下ろす。

 ハイータがチラチラと自分を見るのも理解するロマだが、ここでなにかをできるほど彼は“大人”ではないのだ。

 

「さて、寝るか」

「えっ!? しゃ、シャワー浴びてきてもいいですかぁ!?」

「……いや一人で寝るんだが」

 

「ッ~~! しゅみませんでしたぁっ!」

 

 猛ダッシュで部屋を出ていくハイータ。その様子を唖然としたまま見送ったロマ。

 開いていた扉が閉まると共に、ゆっくりと頭を抱える。

 

 

 ―――いや今の、もったいねぇ。

 

 

 だから今も、彼は大人になりきれない。

 

 




あとがき

戦闘はキングクリムゾン、あまり変わり映えしないものなので
今回は日常回というか繋ぎ回で、ロマやアズにゃん周りの展開でした
ちなみにハイータは普通の連合士官服

据え膳を食い損ねる男、でも食ったら自分が日和りそうでこわくなる
日和ってるやついる? いるんだよなぁ……という男

でも、そのうち覚悟を決めなきゃなこともあるでしょう

そして次回はモラシム編後半、驚愕の展開……かはわからないんですが

では次回もお楽しみいただければと思います

アウルとスティングは……?

  • 女の子だよ!
  • 男の子だよ!
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