盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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RIVER

 

 あれから数週間後、ボロボロのアークエンジェルが海上を行く。

 

 射出されるのはスカイグラスパー。

 甲板に着地しているのはストライクとジン・アイズ。

 

 開かれたハッチ、カタパルト上には黒いフレーム、赤銅色の装甲を持つプレディザスター。

 飛行ユニットに搭乗した状態でそのツインアイを輝かせた。

 

 その機体に搭乗するロマは、変わらずノーマルスーツすら着用していないままであり、鋭い眼をしたままグリップを握りしめ、フットレバーに足をかける。

 あれから二度目の戦闘、前回は“機体には”損傷もなくザフトを退けたものの、今回はそうもいかないだろう。それに結局アークエンジェルは損傷しているのだ。

 

 敵機にはグゥルに乗った4機のG兵器とその他量産機まで確認されているし、これはどうしたものかと頭を悩ませるロマ。

 だがしかし、今はやれることなど限られているのだ。

 

 ロマが少しばかり視線を上げれば、サブモニターに映るのはフレイ・アルスター。

 

『カタパルト接続。システム、オールグリーン。プレディザスター、どうぞ!』

 

「プレディザスター、ロマ・K・バエル……出るぞ!」

 

 リニアカタパルトから青空の元に射出されたプレディザスター。

 陽の光がその赤銅色の装甲を鈍く輝かせる。

 

 飛行ユニットに乗ったプレディザスターのコックピットにて、メインモニターでロマは未だ小さい黒点である敵機を確認した。

 

「すぐに攻撃が仕掛けられるぞ……“あと少し”なんだ。なんとかするしかあるまいよ!」

 

 アラスカ(JOSH-A)までは、まだしばらくあるもののロマはそう呟く。その言葉が意味するところを誰も知るまい。

 

 敵もアークエンジェルの向かっている先がわかっているからこそ、アラスカ(JOSH-A)に近づけたくはないのだろう。だがロマにとっては目的地は“そこではない”のだ。

 しかし、今回攻撃をしかけてきたG兵器四機はアラスカに到達する前に撃沈しようと躍起になっている。何度も撃ち逃した大天使、苛烈な攻撃をしかけてくるのは間違いないのだが……。

 

 ロマは危機を察知し、素早く飛行ユニットを加速させる。

 

『っぶねぇですわね!?』

 

 先ほどまでいた場所を奔る高火力ビームは、バスターのものだ。

 

「ムウ、キラとハイータと共にAAに行くだろうGを頼む……!」

 

 ランチャーストライカーを装備したスカイグラスパーに近づき、ムウに声をかける。

 

『お前一人であれかよ、ディンが四機……Gが全部こっちに来るとは限らねぇぞ?』

「結構だ。なんとかしてみせるよ……でなければさっさと片付けてこっちを頼む」

『……考えとくよ』

「ありがとう」

 

 それだけ言って、飛行ユニットを加速させた。

 

「ユー・ハブ・コントロール」

『アイ・ハブ・コントロール……ですわ!』

 

 キラとハイータの通信は聞こえないロマだが、二人がきっと何か言っているであろうことはわかる。

 進行方向の四機のGが射撃攻撃をするが、ロマとしてはそれで良い。であればパワーダウンを狙うだけなのだ。

 だが、バスターとデュエルのミサイル、ブリッツとイージスのビームライフルを飛行ユニットから飛び上がって回避するプレディザスターのコックピットで、ロマは顔をしかめた。

 

「避けにくくなっている。練度が上がっているか……!」

 

 デュエルがレールガンことシヴァとビームライフルを放つも、プレディザスターは飛行ユニットから落下することで回避。バスターが狙いをすますが、飛行ユニットがミサイルをばら撒きながらプレディザスターを回収し、バスターが放ったビームを回避して見せた。

 

 プレディザスターのコックピットで、ロマは顔をしかめながらも笑みを浮かべた。

 

「おもしろい。歯ごたえがあるな……恐ろしいよ」

『んなこと言ってる場合ですの!? Gが全部攻撃してくるなんて想定外でしてよ!』

「いや、すぐに……!」

 

 イージスとデュエルがプレディザスターの攻撃を抜けてアークエンジェルへと向かう。

 ロマと相対するのはブリッツとバスターの二機であり、イージスとデュエルに対応するのはストライクとジン・アイズになるだろう。

 

 G二機であればキラとハイータに迎撃できない道理はない。どちらかと言えば自身の方が危ないだろうと、ロマは苦笑を浮かべた。

 ブリッツが左腕のロケットアンカー<グレイプニール>を放つも、飛行ユニットから飛び上がって回避したプレディザスターが、左手に持ったビームライフルでブリッツの乗るグゥルを狙い撃つ。

 

「負けてはやれんよ……!」

 

 だが、それが当たるわけもなくブリッツは回避、バスターがミサイルを放つも飛行ユニットが放ったミサイルと機関砲がそれらを迎撃。さらに残ったミサイルがバスターとブリッツを襲うも、後退しながらそれらを迎撃。

 だが隙はできたと、プレディザスターは空中で加速。ビームライフルを腰にマウントし、迎撃されたミサイルの爆煙、その中へと突っ込む。

 

『2on2でしたら、負けるわけはありませんわねあなた!』

「当然だ。差は歴然というわけさ、しかも……大したコンビネーションができていない部隊なのではな!」

 

 爆煙の中、敵意を頼りにプレディザスターが飛ぶ。機動性はエールストライクには劣るが、他のG四機を十分に凌駕するだけはある機体だ。ロマの戦闘スタイルに合わせて作られたので当然と言えば当然ではあるが……。

 

「そこか……私にも敵が見える!」

『貴方どうなってますの!?』

 

 それを機に、チェシャの声は届かなくなる。理由はと言えば、彼女がバスターとディンを引き付けて離れているからだろう。

 それとは別に、ディンが数機周囲にいるのがわかるが、ロマとしては別段問題もない。どうせ───援護攻撃できるような距離で戦うつもりもない。

 

 爆煙の中に放たれるビームライフルを回避しつつ、プレディザスターはその爆煙を抜ける手前で、右脚を振るう。その先に“なにがいる”かわかっているかのように、だ。

 その先、爆煙を抜ければそこにはブリッツ。

 しかして、やはり赤服。“ただのザフト兵”であれば対応できずにプレディザスターの餌食になるものの、ブリッツは攻盾システム「トリケロス」にて、ビームサーベルを展開してみせた。

 

「青いな……!」

 

 縦に振るわれるビームサーベルを右方向に逸れて回避するプレディザスター。

 振るわれた<トリケロス>、プレディザスターのコックピットのロマの瞳に、メインモニターに映るのはトリケロスの内側……弱い部分が確かに晒されていた。

 故に、ロマは素早く操縦桿を引きフットレバーを踏みしめる。

 

「やってしまえばできるものだな……!」

 

 プレディザスターの左脚部のクローが、トリケロスごとブリッツの右腕を挟み込む。プレディザスターは左腕でブリッツの右肩を掴み、ブリッツの胴体に右膝の装甲部分を膝蹴りで打ち込む。

 いくらPS装甲があろうと、その衝撃は計り知れない。コックピットの中で脳がシェイクされるような感覚、知らないわけではないロマだからこそ、その攻撃を選択した。

 

 そして、右脚を一度引いてから、再び打ち込む。

 

 だがもう一撃を打ち込む直前に、ブリッツは左腕を動かす。

 

「さすがに耐G能力も違うものか……しかし、甘いな!」

 

 ロマは素早く脚部クローを収納すると、バーニアを吹かし機体を後ろに倒れるように操作。放たれたグレイプニールがプレディザスターの胸部前方を通るも、ロマは眉を顰めることもなく、赤と青の瞳でそれを確認。

 

「だがやはり、赤服は手強いか……!」

 

 撃破するチャンスが無かったかと言えば嘘になるが、それに対応してこないとも言い切れない。そもそもする気もないのだから、試すこともできないのだが……。

 バルトフェルドはやらせられなかった。故に今度こそ“キラにやらせなくてはならない”のだ。故に、今ここで墜とすわけにもいかないからこそ……。

 

「“落ちろ”!」

 

 斜め向きだったプレディザスターが、一気に起き上がる。離れたはずの敵機が即座に眼前に迫る……それは十分に恐怖だろう。故に───反応が一瞬ばかり遅れる。

 だが“赤い悪魔(ロマ)”を相手に、その一瞬は命取り。

 

 そのまま、プレディザスターは脚部クローを展開してグゥルを刺し貫くと、即座にブリッツを蹴り飛ばして離脱。海に真っ逆さまに落ちていくブリッツとは反対に飛び上がるプレディザスター。

 爆散するグゥルの勢いを利用して、加速。

 

「不運だったな!」

 

 近場にいたディンの一機に蹴りを打ち込み、クローを展開。コックピットを貫かれその活動を停止するディンを、蹴り飛ばしてさらに近くにいたディンへと接近。

 散弾が向けられるが、放たれるより早くその銃口の先から回避───ディンから見れば消えたようにすら見えるのだろう。

 

 いつの間にやらディンの懐に飛び込んでいたプレディザスターのコックピットの中で、ロマは顔をしかめた。やはり無理な機動に体が追いつかないのだろう。

 だがそれでも、やめられはしない。やめるわけにもいかない。

 

「ぐぅ……!」

 

 腕を振るえば、マニピュレーターの先端にある鋭い爪がディンのコックピットを貫く。他の機体に狙われるより早く、その脚でディンを蹴って上昇。

 既に自身を狙うディンはいないことを確認し、加速。

 

 チェシャを狙うバスターとディン二機へと近づけば、聞きなれた金切り声が聞こえる。

 

『ぎゃぁぁぁっ!? さっさと援護しなさいな!』

「ずいぶんと賑やかだな……!」

『言ってる場合ですの!?』

 

 赤い悪魔が近づいてきたことに気づけば、ディン二機がロマの方へと向く。だが遅い。二挺のビームライフルを引き抜いたプレディザスターが放った二発のビームでディンを一機落とす。

 もう一機がミサイルを放ちながらライフルを撃つが、プレディザスターは右手に握ったビームライフルをディンの方へと投げ、ミサイルに当てて爆散させた。

 

 再び爆煙が巻き起こるも、先ほどの一連の流れを見ていたのであろうディンはそこから離脱。

 

「しかし……そこかッ!」

 

 放たれたビームライフルが、離脱するディンの頭部とバックパックを貫く。

 

「酸素が無くなる前に見つけてもらうのだな……!」

 

 爆煙から出てきたプレディザスターは落ちかけているディンを踏み台に、上昇。飛行手段を失ったディンはそのまま海へと落下していく。

 

 飛行ユニットは大量のミサイルを放ってバスターを牽制するが、バスターも散弾を使いそれらを迎撃していた。

 それを逃すロマでもない。バスターへの接近を図るが、バスターは振り向くと同時に散弾を放つ。

 

「チィ!」

 

 理解はしていつつも、舌打ちをしながら回避。チェシャがそんなプレディザスターを拾う。

 

『助かりましてよ! 命拾いしましたわぁ、あ~! 脳が痛ぇですわ!』

「がなるな。私の内臓に響く」

『まぁたやりやがりましたの!?』

「そんなことより、だ」

 

 そんなロマの視界にはバスターはもちろんだが、その先の海、アークエンジェルの行く先に“艦隊”が確かに映っていた。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルへの追撃をロマが凌いでいる一方で、ハイータはキラとムウと共にイージスとデュエルを相手に迎撃攻撃をしていた。

 さすがに赤服、突拍子もない攻撃がないアークエンジェルの艦砲如きではダメージすら与えられない。

 スカイグラスパーのガンランチャーも、少しばかり二機を遠ざけるのが関の山といったところだ。

 

 そんな中、ジン・アイズはビームライフルを右手に、ストライクの持つシールドの予備を左手にブリッジ近くに立っている。

 

「あんの“死体漁り(グゥル)”、うちにも一台欲しいんですけどぉ!?」

 

 グゥルを狙えと言われてもそれができれば苦労もしない。故に苦戦している。

 

 そしてこの海の領海線上にはオーブ艦隊が配置されており、既に侵入すれば撃つとまで言われていた。ブリッジではあの“跳ね返り娘(カガリ)”がなにかを騒いでいるらしいが、ハイータからすればそれもそうだろうと、思わないでもない。自身の国なのだ……だがしかし、いくらテンションが高かろうとハイータはハイータである。

 

「カガリちゃん黙らせなさいよぉ!」

 

 彼女のためだ。とてもじゃないが“ザフトにも聞こえる”ように言わせるわけにもいかない。

 

『行政府へ繋げ!』

『カガリ! いかん!』

『なっ、なんで止めるんだよっ!』

 

 今度は、しっかりとキサカがカガリを止めたようでコックピットの中でハイータは頷く。

 

 もしもここで“カガリ・ユラ・アスハ”等と名乗ろうものなら、非常に厄介なことになっただろう。そもそもこの状況下で信じられるとも思えないし、信じられたとしても表向きに入ることもできまい。

 だからこそ、意味はあっても反動が大きすぎるそんな行為をさせるわけにいかない……ともあれば、別の方法でオーブにこの艦を落とすわけにはいかないと、“遠回しに思わせる必要”がある。

 

「答えは知ってるんですよねぇ! これがぁ!」

 

 ジン・アイズがスラスターを使い飛び上がり、頭部からのビームを放つ。デュエルがそれをシールドで凌ぎ反撃とばかりにミサイルを放ってくるも、それらをビームライフルで撃ち落とす。

 イージスが旋回し、エンジン部分を狙ってスキュラを撃つ。

 

「なっ、やりましたか! この汚物共ッ!」

 

 下品に叫びながらも状況を確認。エンジンへの直撃、爆発と共に黒煙を上げながらアークエンジェルが激しく揺れた。ミリアリアたちの悲鳴が聞こえる。

 

『1番2番エンジン被弾! 48から55ブロックまで隔壁閉鎖!』

『推力が落ちます! 高度、維持できません!』

 

 アークエンジェルのブリッジ前方へと着地するジン・アイズ。コックピットでハイータが叫ぶ。

 

「私のロマくんはまだですかぁっ!?」

 

 ブリッジを狙いビームライフルを構えるデュエルに───蹴りを浴びせるのはプレディザスター。

 

「私のロマくぅん♪」

『ええい、こうも押されていては……!』

 

 その衝撃により後ろへと下がるデュエルだが、グゥルから落ちるでもなく少しばかり後退。

 飛行ユニットがプレディザスターを拾うと、そのままプレディザスターはアークエンジェルの前を旋回。

 

 まるで今一度、自らが誰なのかを見せつけるように、だ。

 

 そして、攻撃しようとするデュエルとイージスを牽制する。さらに遅れてバスターが現れるも、ストライクが放ったビームライフルにより牽制され、上手く攻撃できないでいるようだった。 

 しかし、それで状況が良くなったわけでもない。

 

『構わん、そのまま“領海内”に落ちろ……!』

『大尉!?』

 

 ロマからの通信に、マリューが困惑したような声を出す。他の面々もそのようだった。

 

『この私を落とすような度胸、オーブにはあるまいよ。キサカ、いいな?』

 

 その声に、ブリッジでカガリを押さえていたキサカに問う。

 

『ああ、第二護衛艦群の砲手は優秀だ。上手くやる……!』

 

 アークエンジェルは黒煙を上げながら、オーブの領域内へと落ちていく。

 

『警告に従わない貴官等に対し、我が国は是より自衛権を行使するものとする』

 

「ロマくん、よかったんですか?」

「これ以上はあるまいよ……!」

 

 そして、アークエンジェルにオーブから歓迎の祝砲が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 オーブ領内、オノゴロ島。

 酷く気遣いの行き届いた砲撃を受けたアークエンジェルは、ザフトが撤退したことが確認されるなりオーブ艦隊の案内を受けその島のドックへと入港しようとしていた。

 物々しい雰囲気のブリッジ、既にことが済んだからか大人しくしているカガリ、そしてその隣にはキサカ、さらに扉が開き、ロマが入ってくる。

 

「さて、なんとかなったようではあるな」

 

 その一言に、マリューとナタルは頷く。キサカを見れば、彼もまた頷いた。そしてカガリは……。

 

「なぜ睨む」

「だって、私の名前出した方が良かっただろ絶対……あんたがキサカに言ったって聞いた。オーブ領海付近で戦闘になれば私が“でしゃばる”から押さえとけって」

「事実だったろう?」

 

 実際にそうであったのだが、カガリにとってはそういう話でもないのだ。

 

「私の名前出した方がスムーズ、じゃなかったんだろ。あんたがそう言うんだから」

「そういうことさ、あの場で君の名前を出すとザフトにも聞かれるからな。地球の艦にオーブの姫が乗っていて、その口利きでオーブに入るのは色々と問題が起こる。君の父上にも、君自身にもな」

 

 そう言うロマに、頷くカガリ。

 

「納得したか?」

「ん、その……ありがとう。色々と、考えてくれて」

「良い子だ」

 

 その頭を軽く撫でるが、すぐに振り払われた。

 

「ガキ扱いすんなっ!」

「子供だろうに……」

 

 少し眉を顰めて言うロマに、キサカが苦笑を浮かべる。そこでハッとするなり、表情を引き締めた。

 

「君にもしっかりと名乗っておこう。オーブ陸軍、第21特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ」

「一佐なのだから、もう少し使える護衛になることだな」

「言葉もないな」

 

 顔をしかめるキサカに、カガリもバツが悪くなったのか顔をしかめた。

 別段、そこまで気にさせるつもりもなく軽口を言ったのだが、とロマはロマでバツが悪くなり、咳払いと共にブリッジからドック内を見やれば、整備士などが立ち並んでいる。

 アークエンジェルの解析でもするのだろう。

 

「さて、問題は……ここからだな、艦長」

「……その、大尉の力でなんとかなりません?」

 

 困ったように言うマリューに、ロマは思わず笑みを零した。

 

「君、ムウに似てきたな」

「えっ」

 

 本気と書いてマジで、マリューはショックを受けた。

 

「なにはともあれ警戒態勢は解いていいだろう。仕事が続くのは“我々だけ”で充分だ」

 

 

 

 

 

 

 結果として、入港したアークエンジェルから、クルーが降りることは許可されるわけもなかった。

 だが、数名が艦から降りることができた。もちろん、これからの話をするためなわけで、マリュー、ロマ、ムウ、ナタルの四人はウズミとの会談の場へと赴く。

 長いテーブル、四人が横並びに座り、向かいにはオーブの獅子───ウズミ・ナラ・アスハ。

 

 カガリの父であり、オーブで最も力を持つ男。

 

 そして彼の視線は現在、ロマに向けられている。

 

「……なにか?」

「いや、ブルーコスモス盟主の懐刀。気にならない人間の方がいまいて」

「仰る通りでしょう」

 

 その赤と青の瞳を細め、そう答えるロマに、ウズミは特別な反応をするわけでもなく頷いた。

 

「御承知の通り、我がオーブは中立だ。公式には貴艦は我が軍に追われ、領海から離脱したということになっておる」

「助けて下さったのは、まさか、お嬢様が乗っていたから、ではないですよね?」

 

 ムウの問いに、ウズミを首を横に振る。

 

「それを知ったのも先ほどだ。そういうわけもない……それに知っていたからと言って、国の命運と甘ったれたバカ娘一人の命、秤に掛けるとお思いか?」

「失礼、致しました」

 

 そんな謝罪に、片手を上げて構わないと意を示す。

 

「そうであったなら、いっそ分かりやすくて良いがな。ヘリオポリスの件、巻き込まれ、志願兵となったというこの国の子供達。聞き及ぶ戦場でのXナンバーの活躍……人命のみ救い、あの船とモビルスーツは、このまま沈めてしまった方が良いのではないかと大分迷った。今でも、これで良かったものなのか分からん」

 

 だが、そうする以外に選択肢は無かったのだ。その選択を取れない理由は、ロマ・カインハースト・バエルその人にある。

 ブルーコスモス盟主の懐刀、大西洋連合上層部から“露骨に疎まれているアークエンジェル”と違い、ロマは盟主のお気に入りであり、彼への扱いによりオーブの状況は変化を求められるだろう。

 だからこそ、ここであえて助けるという選択をした。なによりその案を出したのが、連合と結託し、モビルスーツ開発に手を出していた“サハク家”というのも気になるところではあるが、結局なにがあろうとこの選択を取らざるを得なかっただろう。

 良いか悪いかは、ともかくとしてだ。

 

「申し訳ありません。ヘリオポリスや子供達のこと、私などが申し上げる言葉ではありませんが、一個人としては、本当に申し訳なく思っております」

「よい……あれはこちらにも非のあることだ。“国の内部の問題”でもあるのでな。我等が中立を保つのは、ナチュラル、コーディネイター、どちらも敵としたくないからだ。力無くば、その意志を押し通すことも出来ず、だからといって力を持てば、それもまた狙われる。軍人である君等には、要らぬ話だろうがな」

「ウズミ様のお言葉も分かります。ですが、我々は……」

 

 マリューが言い淀む。

 ロマとしては、わからぬ理屈ではあった。散々戦ったからこその自論。力無くできることなど、何一つなく、オーブの理念はともかくとして、彼自身、力無くして今の自分は無い故に……。

 

「ともあれ、こちらも貴艦を沈めなかった最大の訳をお話せねばならん。ストライクの、これまでの戦闘データと、パイロットであるコーディネイター、キラ・ヤマトの、モルゲンレーテへの技術協力を我が国は希望している」

 

 その言葉に、マリューとナタルが驚愕に表情を歪めた。

 

 ―――やはりな、食えん男だよ。ウズミ・ナラ・アスハ……。

 

 あの突然の状況からこうすることまでを、即座に判断。そしてアークエンジェルのこれ以上の航行ができないこともしっかりと確認し、保護し、そして目の前のそれをチラつかせる。

 ロマがいようがいまいが、どちらにしろこの提案を跳ね退けるだけの余裕は、アークエンジェルにはない。

 

 これは所謂───。

 

「叶えば、こちらもかなりの便宜を、貴艦に図れることとなろう」

 

「ウズミ様、それがどのような意味か、おわかりで?」

「わかっているとも、ロマ・K・バエル大尉」

 

 ───決定事項、なのだ。

 

 

 

 アークエンジェルへと戻り、オーブの監視も無くなりようやく肩の力を抜くマリューたち。

 しかしてロマは、ほぼ普段通りだった。ウズミ・ナラ・アスハとの邂逅はやはり緊張するものではあったが、“偉い人間”と会うというのは別段珍しいものでもない故に。

 

 カガリとキサカは既に艦を降りたようで、状況も落ち着いたのか廊下には誰もいない。そんな人気のない廊下を歩いていると、ナタルが立ち止まった。

 

「私は反対です。この国は危険だ!」

 

 その言葉に、マリューとムウ、そしてロマまでもが立ち止まる。言いたいことはわかるし、わかっているのだ、当然。

 感情に理屈を添えて出しても、現実というのは変わらない。

 

「私も同感だがな。この場でNOと応えてアラスカまでたどり着けるか?」

「だよなぁ、泳いでいくってわけにもいかないし……」

 

 肩を竦めるムウに、ナタルは眉を顰めた。

 

「そう言うことを言っているのではありません。修理に関しては代価をと……」

「落ち着けナタル。君の言っていることがわからないマリューやムウではないさ、だから代案を思考して、それでも見つからないから困っている。君だけが色々と考えているわけではないよ」

 

 ロマの窘めるような言葉に、ナタルは少しばかり落ち込むような雰囲気を見せる。怒ったつもりもないので、ロマは少しばかり困りもするが、言う必要があったことだ。

 ため息を飲みこんで、マリューが口を開く。

 

「何も言わなかったけど、ザフトからの圧力も、もう当然あるはずよ。それでも庇ってくれている理由は……分かるでしょ?」

「……はい」

 

 既に決定事項なのだ。それ以外に選択肢はないのだから……だからこそオーブは、アークエンジェルを手厚く保護している。それを頭では理解しているからこそ、ナタルは素直に頷いた。

 ロマはというと、軽くその背を叩く。

 

「私もできる限りはなんとかするさ」

「……というより、大尉はよろしいのですか? その、我々もですが、大尉の方がマズイのでは……ブルーコスモス直々に、と捉えられかねない選択ですよ? そうなったら大尉の責任は我々の比では……」

 

 顎に手を当てて、ロマは少し思考する。

 

「さて、アズラエル理事が素直に私を売り渡すとは思えんからな、もしかしたらこの一連の出来事が丸々無くなる可能性すらあるさ、そうなれば君たちも問題なかろう」

 

 そんな言葉に、マリューとナタルは驚愕するように目を見開くが、ロマはあくまで可能性、と答えた。

 

「ホント良い上司だねぇ」

「確定ではないと言っているだろう。しかしまぁ、大西洋連邦の独断では私を裁けんよ」

 

 大西洋連邦へのブルーコスモスの影響からして、だろう。それらもあくまで可能性の話ではあるが……。

 ナタルが、杞憂を感じているような表情を浮かべた。

 

「……ヤマト少尉には、負担をかけますね」

「意外だねぇ。中尉殿からそんな言葉が出るとは」

「わ、私だって、思うところぐらいはあります……!」

 

 ムウが茶化すと、ナタルが言い返す。マリューはというとほほ笑みながらそんなやり取りを見つつ、ロマに視線を向けた。

 やはり、自分たちとは立場が違うからこその責任もあるだろうに、とは思う。それを次いで言葉にするのが野暮なことも理解してるが……。

 

 歩き出すマリューとムウとナタル。遅れてロマも歩きだす。

 

 ───オーブ、か……。

 

 来るところまで来た、と言ったところだろう。

 

 ───“賽は投げられた(ルビコン川を渡る)”か……後戻りなんて、できねぇぞ。

 

 

 

 流れる川が如く、未来はその方向と様相を変化させていく。

 

 

 





まずお気に入り10000突破、ありがとうございます
まさかこんなにも多くの人に読んでもらえる作品になるとは思いませんでした
これからも、ご期待に添えるかどうかはともかくとして書いていくので、よろしくお願いします



と言った傍から、結構難産でした
最近は忙しくて書く時間も減っちゃってどうにもです

とりあえずオーブ、ここからまたじわじわと変化があったりなかったり
三馬鹿娘とアズにゃんはお休み、次回は出番多めかも?

では次回もお楽しみいただければと思います

アウルとスティングは……?

  • 女の子だよ!
  • 男の子だよ!
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