盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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二人だけの……

 

 あれから一日経った夕方頃、モルゲンレーテの工場。

 

 そこにやってきているのはキラ、ムウ、ロマ、ハイータの四人はもちろん、整備士たちもだ。昨日とは違い、それぞれ仕事をこなしているわけなのだが……。

 ハイータは無論その程度の知識はあるようで、ムウも並み以上ぐらいにはできるようだ。

 

 しかし、ロマはそうではない。

 せいぜいが士官学校や現場で多少齧った程度の知識しかなく、それ以上はない。故に現状、まるで役に立たない。

 ただそれっぽい雰囲気のまま立って時たま誰かに話しかける。そして呼ばれればシミュレーターぐらいが関の山であった。

 

 これほどまで無力だったことがあっただろうか……否である。

 

「……フッ、私は阿漕なことをしている」

『なに言ってますの、さっさと働いてくださいまし』

「わかっているさ」

 

 呟きつつ、工場内を歩いているロマの服装は、オーブの作業着である。やはり連合の制服を着たまま歩くのはマズい、ということらしい。

 

 ロマは、足を止めて視線を上げた。

 その瞳が映すのはプレディザスター。かの機体についても調べられているようだが、特別なものなど見つかるまい。唯一“特別製”である部分は“最新式のAI”によってリアルタイムで警備されているのだから。

 そうしていると、ふと近づく影に気づく。

 

「エリカ技術主任か」

「ええ、おはようございます大尉」

 

 エリカ・シモンズがロマの隣でプレディザスターを見上げた。

 

「ブルーコスモスの特別製だ。いい機体だろう」

 

 答えなんてわかっているが、そう言えば苦笑するエリカ。その意図を理解している故だろう。

 

「なんというか……ええ、大尉にしか乗りこなせないことを除けば、良い機体……という機体ではありますね」

「フッ、褒め言葉として受け取っておこう」

 

 フレームはXナンバーの流用だし、装甲も然り、PS装甲はないが機動力にそのぶん全振りされている。

 その装甲の薄さは“当たり所が悪ければ”即座に死ぬ。しかもその“当たり所が悪い部分”があまりに多い。

 そして、文字通り“当たらなければどうということはない”というコンセプトの機体なので機動力も異常、並のパイロットが乗れば反応速度もそうだが、身体がついていくものでもないだろう。

 正気でない。というのがエリカの印象であった。

 

「死角からの一撃があればおしまいですね」

「まったくだな」

 

 死角を作らないという意味でも、チェシャがいるのだ。

 

「で、どうしたんだ一体、わざわざなにもなしに話しかけにきたわけでもあるまい?」

「あ、そうでした。いやだわ大尉と話してるとつい夢中に」

 

 クスッと笑うエリカを見て、ロマは微笑で返すも……心中は穏やかであるはずもない。

 

 ―――ぐっ、強力無比! 俺がやられる!

 

「ではこちらへ、良いお知らせができますわ」

「ほう、それは楽しみだ」

『美人相手にカッコつけてんじゃねぇですわよ』

 

 歩き出すエリカへについていく、慣れない環境、慣れない美人人妻、ロマの心が穏やかになる瞬間など一時的なものである。

 美人は三日で慣れるとかつては聞いたことがあるが、彼としては美人と三日一緒にいること自体が大変なのだ。もちろんアズラエルや三人娘やハイータと相対した時もそうであったが……。

 

 ―――人妻って、エロスだな。

 

 悔しいけどロマも男なのである。

 

 

 

 エリカの後を追ってやってきたのは、昨日も立ち寄った管制室。その場には既にキラやムウ、ハイータがオーブの作業着を身に纏い立っていた。

 ロマの視線がサングラスの奥で泳ぐ。その理由はハイータ……いつもの制服でも中々だが、ツナギスタイルのその胸は凄まじいものである。

 故に“小僧”には、効果は抜群なのだ。

 

 ───オーブ来てから色ボケてないか、俺?

 

 少しばかり反省し、深く息を吐いて窓の外に視線を向ける。

 その視線の先には、M1アストレイが立っていた。そして、その意図を理解し頷く。

 いや、正確には理解したというより“思い出した”の方が近いだろう。

 

「もう調整が済んだか、流石だなキラ」

「いえ、ほとんど基礎はできてたので……」

 

 はにかみながら頷くキラは、素早くキーボードを叩いていく。リアルタイムで調整するつもりなのだろう。

 

「どうぞ」

「アサギ、おねがい」

『はい!』

 

 キラの許可と同時に、エリカがM1のパイロットであるアサギ・コードウェルに声をかける。

 突如、M1アストレイが“走り”出した。昨日とはまるで違う挙動、速度、機敏に動く様に全員が言葉を失う。

 

『あぁ! すごい!』

「よくもこんなに、この短時間に……本当に凄いわ」

「俺が乗っても、あれくらい動くってこと?」

「そうですわ少佐。お試しになります?」

『あの女いま「ですわ」って言いましたわ!』

 

 ───うるせぇ……。

 

「いやぁ、俺はいいよ……まだ戦闘機乗りでいるとする」

「あら残念、少佐と大尉の戦いも見てみたかったんですが」

「それは、少し興味があるな」

「おいおいやめてくれよぉ」

 

 ロマの言葉に、ムウが顔をしかめる。

 

 空気がどことなく解れる中、ロマは少しばかりキラに視線を向けるが、彼はただ画面を見ながらキーボードを弾いていた。その雰囲気はどこか淀んでおり、彼が心になにかを抱えているのは明らかである。

 そしてロマは、キラがなにを抱えているか知っているのだ。コーディネイターであったからこその葛藤、既に両親がいないフレイとの確執、自覚を始める間違い。

 親と会うという子供として当然のことにすら、悩みを抱える少年。

 

「……はぁ」

「ロマ君?」

「ん、ああ……なんでもないさ」

 

 すぐにムウやエリカとの会話に戻るロマだったが……ハイータはそんな彼を少しばかり意味深な表情で見るも、彼女もすぐに、にこやかな表情で会話を続けることになる。

 

 

 

 

 

 

 面々が自らの仕事に取り掛かる中、ハイータ・ヤマムラはキラを追ってストライクの方へとやってきていた。

 ムウが話しかけようとしているのを見かけてどうするかとも悩むが、ムウがハイータに気づくと後頭部を掻きながら近づいてくることに気づく。

 キラがそのままストライクへと乗り込むのを尻目に、ムウへと意識を向ける。

 

「あれ、キラくんいいんですか?」

「いいや、嬢ちゃんがいるなら嬢ちゃんの方が良い……ほら俺、そういうの向いてないからさ」

「そんなこと……」

 

 否定しようとするハイータに、ムウは笑う。

 

「いや、自分が一番わかってるさ。だから君に頼むよ……大概情けないよな」

「……タイミングが悪いだけですよ」

 

 そんなフォローに、ムウは苦笑を浮かべながらハイータの背に軽く手を添える。

 

「頼んだわ」

「セクハラですよ」

「えぇっ!」

 

 驚いたような声を出すムウに笑みを浮かべるなり、ハイータはキラの方へと歩き出す。

 ストライクを器用に上って、開いているコックピットハッチから中を覗けば、そこには当然キラ・ヤマトである。凄まじい速度でキーボードを叩きながら機体の調整を行っているのを見ると、少しばかり話しかけづらい。

 そうしていると、キラの方が先にハイータに気づく。

 

「あれ、ハイータさん、どうしたんですか?」

「あ~その……ロマくんがキラ君のこと心配してたみたいだから」

「え、そう、ですか」

 

 少しばかり暗い表情。なるほどこれか、とハイータは納得した。

 

「家族との面会も断ったって、みんな会ってるのに……どうしたの?」

「今会ったって僕、軍人ですから」

 

 そんな風に言うキラに、眉を顰めるハイータ。

 マードックが近づいてくるのに気付くなり、ハイータはキラに気づかれないようにそちらを見ると首を横に振る。それで察したのか彼は後頭部を掻きながら頷くと去っていく。

 再びハイータがキラの方を向いた。

 

「軍人でもキラ君はキラ君でしょ? いやまぁ、その、私が軍人がどーたらとか説くのはどうかと自分でも思うけど」

「ハイータさんは……」

「ん?」

「ハイータさんは……自分が、どうしてコーディネイターなのかとか、思ったりしません、か?」

 

 彼は、彼なりの疑問をぶつける。なにせ連合のコーディネイターなどキラはハイータしか知らないのだ。どこぞで活躍する【煌めく凶星J】や【ソキウス】など知る由もない。

 しかして、そんな彼の疑問に、彼が抱えている何かを察する。

 

「思ったこと、ないわけないですよ。地球のコーディネイターは沢山いても、連合のコーディネイターは限られてますから」

「こんなことばっかやってます。コーディネイターだから、できるから……今、両親に会ったら言っちゃいそうなんですよ。どうして僕をコーディネイターにしたのって」

 

 わからないでもないのだ。やはりそれも……。

 

「私は、お父さんはいないしお母さんとは会いたくないから、ちゃんとはわかってあげられないかな……私はロマ君がいればそれで良いし、コーディネイターだからロマ君とこうしていられるし……キラ君は? フレイちゃんは、そういうのじゃない?」

「僕ら、間違えたんですよ」

「間違った……?」

 

 ハイータが素直に疑問を浮かべるが、キラは笑うのみ。彼の方が大人な部分もあるということだろう……ロマと比べても、である。

 恋は知っていようと、恋人を知らぬロマよりもハイータよりも、“そちら”に関しては彼の方が幾分か大人なのだろう。

 

「両親に会ったほうが良いとは言ってくれたんですけど、やっぱり今は……それで、少し言い争いになっちゃって」

「……そっか、でもお母さんとお父さんと、仲良いんでしょ?」

「別に悪くはない、と思います」

 

 どこか気恥ずかしそうに言うキラに、年相応の雰囲気を感じてハイータがクスッ、と笑みを浮かべた。

 

「やっぱり、会ったほうが良いと思うよ。顔を見るだけでも、さ」

「……」

「コーディネイターじゃなきゃ、キラくんがロマくんに会うこともなかったんだし、他のみんなとも」

「そういう言い方は、ずるいじゃないですか」

「そうかも」

 

 笑うハイータに、キラも少し明るく笑う。

 その瞬間、キラの肩にとまっていた鳥型ペットロボットことトリィが飛び立つ。ハイータの顔面ギリギリを通って空へと舞い上がり、そのままどこかへ飛んでいく。

 

「うわわっ!」

「あ、トリィ! す、すみません!」

「う、ううん……トリィも休めってさ」

 

 ハイータがそう言うと、キラはストライクから出て困ったような表情を浮かべた。

 

「……行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 去っていくキラに軽く手を振るハイータ。

 なにはともあれ、少しは元気が出たようだと安心するが、肝心のロマがどこにもいないことに気づく。どこに行ったのかとも思うが、彼は忙しい男である。

 こちらに来たときのように“小娘たちに囲まれている”のであれば、周囲に姿が見えるはずだ。

 

 まさか誰かとどこかに行ったのではと一瞬ばかり想像するが、それはないだろう……そのような度胸がある男であれば、自分がこんなやきもきすることはないはずである。

 

 

 

 

 

 

 ハイータが拗ねつつもシミュレーションでハイスコアを叩きだしている頃、少年がかつての親友と出会っている頃、ロマ・K・バエルはとある一室にいた。

 ソファに座るロマ、その隣にはエリカ・シモンズ、そしてテーブルを挟んだ対面には、長い黒髪の“女性”がいた。

 やけに整った容姿から、おそらくコーディネイター。

 

 その者の名は───ロンド・ミナ・サハク。

 

 オーブ五大氏族サハク家当主、ロンド・ギナ・サハクの姉である。

 

「こうしてお会いできて光栄ですよ。ミナ・サハク様」

「貴公が“赤い悪魔”……まさか我々に接触してくるとは、しかもエリカ・シモンズを通して」

「いやはや、私にも色々とありまして、感謝していますよ。話を繋いでいただけたようで」

「構わぬ。こちらも“借り”はある……」

 

 それがどういうものかは、今更問うことでもない。彼女たちは今更、アズラエルを敵に回すわけにもいかないのだ。

 故に、多少のトラブルがあろうと、無茶があろうと協力関係は続く。

 

「して、盟主殿からの言伝を貴公へ」

「わざわざ相対して、でしょうか」

「ああ、直接言う方が良いだろう……ロマ・K・バエル大尉」

 

 ミナがしっかりとロマの赤と青の瞳を見据える。

 

「貴公とハイータ・ヤマムラには、アークエンジェルよりも早くにオーブを出てもらう」

「なっ!」

 

 彼女の言葉に声を発したのはエリカだった。心配するようにロマを見るが、ロマはミナの言葉の真意を理解しているのか微笑を浮かべて頷く。

 

「了解した」

 

 不敵に笑う彼に、ミナは少しばかり驚いた表情を浮かべる。エリカは変わらず心配そうな表情でロマを見るのみ。

 だが実際のところ、彼が言葉の裏などこの場に至って読めるはずもない。彼の“感じる能力”というのは、こと戦場でしか使い道のないものなのだ。

 故に……。

 

 ―――追い出されるとか、どうしよぉ……せめてハイータだけでも残してぇ。

 

 追い詰められていた。

 

「……あえて、意地の悪い言い方をしたつもりだったのだが、貴公には効かぬか」

「どういう意味ですかな」

「フッ、あえて言わせるか」

 

 そんなつもりはない。本当に意味が解らないのだ。

 

「詳しくは“帰って”から聞くと良い……迎えが来るそうだ」

「迎え、とは?」

「……公には言えないがそういうことだ」

 

 ロマは心底安心した。追い出されるのではなく、迎えが来て離脱する……ということになるらしい。

 

「なるほど、なにからなにまで世話になります」

「フッ、貴公に興味があったので丁度良い。ギナも気にしていた故に、いずれ見えることもあろう」

 

 そう言って笑みを浮かべるミナに、同じく笑みで返すロマ。

 エリカは気が気ではないようで、そわそわとしながら二人のやりとりを聞いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル。ロマの部屋。

 そこにいるのはロマだけではなく、ハイータも共にある。ベッドに腰掛けるもすぐに背を倒してベッドに横になるハイータを尻目に、ロマは椅子に座っている。

 スカートの中が見えそうにもなるが、そこは自制。ロマとて大人である。

 

 そうして欲望と戦いながらハイータに一連のことを話すが、ハイータから出たのは意外な言葉だった。

 ここでロマが驚いた表情を浮かべる。

 

「いま、なんと言った?」

 

 寝ていたハイータだったが、上体を起こす。

 

「ん……私、アークエンジェルに残ります。ジョシュアまで」

「どうしてまた?」

「……放っておけないんですよ。色々と」

 

 彼女が面倒見が良いことは知っているし、若いクルーたち、つまりはキラの友達ともそれなりに会話をしているのを知っている。

 キラやムウともまた然り、だからこそ、なのだろう。

 

「それにロマ君がいたときのままの戦力をもってこられても、このままじゃマズイじゃないですか」

「っ、確かにな」

 

 それを言われると弱い。自分のせいで追撃の戦力が増大している可能性が十分にあるのだ。

 

「でも、ロマ君は戻ってあげてくださいね。みんな寂しがってるでしょうし」

「そうか?」

「そうですよ。だからアラスカで降りたらまた、ですね」

 

 笑うハイータに、ロマも微笑で返す。

 

「助かるよ。ありがとう……頼んだ」

「その、も、もうちょっとこう、ご、ご褒美的なもの、あったり、しないんですか……?」

 

 りんごのように顔を真っ赤にして、もじもじとしながら言うハイータに、ロマは揺れる。そりゃ揺れる。彼はまだ小僧なのだ。

 故に彼の心は揺れるし、ハイータの揺れる胸に視線も向く。

 それでも、冷静な表情で口を開いた。

 

「……無事、戻って来たら応えるよ。なんでも言ってくれ」

 

 そんな言葉に、彼女は顔をパァッ、と輝かせる。

 

「ぜ、絶対ですよ! 約束だからね!」

「可能なことで頼むよ」

「は、はい! もちろんです! ロマ君にしかお願いできないこと、ありますからっ……!」

 

 数年前まで彼女が学生だったことを思い出す。自らと同じ、学生で、共に学んだ。

 

「やはり、君たちがいてくれるから……そう思うよ」

 

 彼が戦う理由。戦える理由。

 自らの両足の上に座るハイータを抱きしめながら、まだだというのに少しばかりの別れを惜しむ。

 抱きしめ返す彼女の柔らかさに、思わず睡魔が襲い来るが、それもまた悪くはないと思う。

 

 

 

 これが、どういう選択になるかも知らず……。

 

 

 







バトルアライアンス難しいなこれ!

ともあれ今回も難産、次回はさくっと書けると思いたいとこです
色々と話しを繋ぐ回というか、次と合わせて前半後半といったところになりそうです
ミナの喋り方はこれで良いのかどうか……

ようやくアズにゃんたちと合流できそうで、ハイータとは一旦お別れ
故にハイータメイン回というかそんな感じでございました

では次回もお楽しみいただければと思います

アウルとスティングは……?

  • 女の子だよ!
  • 男の子だよ!
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