盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
あの模擬訓練から最初の週末。つまりは“盟主女王ことムルタ・アズラエル”との約束の日、当日である。
彼、ロマ・
なにはともあれ、所謂“原作組”に関わることに忌避感を抱いているのは確かだ。自分が“あの戦場”に放り込まれて生き延びれる保障もない。そもそもここでアズラエルに粗相をし、色々と終わる可能性すらある。
本当にただ転生しただけのロマから見たら、全てが不確定。なまじ未来を知っているだけに、ただ普通に過ごすことも叶わない。
あまりにハードな人生にいっそのこと記憶喪失になってしまいたい気分でもある。
―――ローエングリン止めてくるか! それか自爆ショー!
おそらく死ぬ。人は宇宙で爆発に巻き込まれれば死ぬのだ。
そんなことを考えていると、一台の黒い車が目の前に止まる。とうとうやってきた審判の時だ。
今ほど未来から来たシュワルツェ・ネッガーが襲い掛かってきて、全てが有耶無耶になれば良いとおもったことはないがこの世界にはシュワちゃんもスタローンも神もいない。
「おはようございます。アズラエル理事」
「おはようございます。バエルくん。良い天気でよかったですねぇ……まぁ今から行く所のことを考えればそれほど関係ないんですが」
そう言って笑うアズラエル。
助手席から出てきた黒いスーツの女性が後部座席、アズラエルの隣のドアを開けるとロマは軽く会釈をして乗り込む。
車内はそれなりにゆとりをもった作りになっており、前の席と後ろの席の間に透明な仕切りがされていた。音までは遮断されていないようだと思っていると、アズラエルが手元のボタンを押し音までもが遮断される。
―――なんたるエロ車!
不埒で冒涜的な思考。しかして彼は純然たる思春期の男である。
そんな思考を振り切るために煩悩と内紛を始めていると、車が走り出した振動を合図にアズラエルが口を開く。
「あ~バエルくん、君のご両親、大西洋連邦の士官だったんですね」
「はい。現場に出るタイプではないようですが……」
「君もそちらを望んでるんですか?」
どう答えるのが正解かはわからないが、いままで通りにするしかあるまいと、ロマは高を括る。
「なにをするにも理由がありませんからね。まだ……いずれやりたいことが見つかればその時“立つべき場所に立つ”それで良いかと思っています。楽観的ですが」
「いえ、それでは丁度良い」
「丁度良い、ですか?」
笑うアズラエルに、嫌なものを感じるのは彼自身が“偽りの平和”が崩れるのを予見したからだろう。しかしてなんの変哲もない“転生者”たる彼にできることは、これ以上はない。
「ところで君、ナチュラルとコーディネイターが戦争になった場合、ナチュラル側に必要なものはなんだと思います?」
「兵士でしょう。兵器ならば同じものを作ればそれで済む話です。コーディネイターは確かに優れてますが、所詮は人の範疇……ナチュラルの一部の天才であれば、同じ兵器やソレをさらに改良したものを作るのだって、無理じゃない」
「天才頼みと」
「それが人でしょう。やれる人がやる」
少しばかり口が過ぎたかとも思い、アズラエルの眼を見るが彼女は笑いながら手を出して“続き”を催促してくる。
「……兵器の問題であれば“強奪”だってありましょう。しかし、個人的には兵士のほうが問題だと思います」
「そうですね。戦いは数と質、どちらに偏っても勝てるものではありませんから」
戦いは数だよ兄貴! という言葉がある。しかして数だけでは勝てない。質だけでもまた然り。
「コーディネイターを作るとかですか、地球連合側に服従する。極まった戦争にタブーなどありませんから……」
「へぇ、良いこと言いますね」
どこぞの御大将の言葉を借りたものではあるが……。
褒める言葉をもらえるのであれば、それに越したことは無い。相手は理事でありブルーコスモス盟主なのだ。機嫌を損ねたくはないだろう。気に入られすぎるのも彼の方針上よろしくはないのだが。
なにはともあれ、彼はそれほどこの“
「コスト面で気になるならやはり、薬物強化でしょうか」
「なるほど、あ~バエルくん」
しまったと、焦る。
「はい」
「君、余計なこと知っちゃってます?」
「……その言葉で、邪推をしてしまうのですが」
素直に言葉を口にする。自分はなにも知らないが貴女の言葉で、知ったのだと言う。ここまで話をしておいて今更になって“鈍感なフリ”でもしようものなら、彼女の機嫌を損ねかねない。
故に、素直にたった今、勘付きましたと白状をしておく。
「そうですね。知っちゃいましたねぇ~」
「……」
「ご安心ください。どうせこのあと知るんですから」
「……はい?」
思わず食いついてしまう。つまりは、そういうことだろう。
「君が今から見るのはそういうことです。やはり私の目は確かでしたねぇ……君、もう逃げられませんよ?」
妖艶に笑うアズラエルに、男としては魅力を感じざるを得ず、少しばかりの緊張を感じながら正面に向き直る。彼女は彼ではないが、その内側は彼に等しいものがあるのだろう。
しかし、問題はアズラエルという人間に魅力を感じていることではない。純粋に、彼女と関わらないという選択肢が消えてしまったことにある。
恐れるべきはバタフライエフェクト、てふてふ怖いのである。
車は真っ直ぐ進んでいく。アズラエルもそれ以上は話すことはない。
十分ほどして、どこかの施設の地下へと車が進入していく。
嫌な予感が沸々と湧き出てくるものの、さすがにここで“処理”されることなんてないとは思うが、相手はビジネスのプロ。感情を隠すのなんて他愛ないことであろう。
それでもロマは冷静を装っているのは、なにも知らないフリをする必要性を理解しているからだ。
いざとなれば“未来の知識”をフル稼働してでも生き残りたいところであるが、その状況になればそんなもの焼け石に水であろう。
「さ、到着ですね」
「ここは……?」
「すぐにわかりますよ。バエル君」
ドアが開かれると降りるアズラエルとロマの二人。最初にいた黒スーツの女がそこに立っており、車はそのまま地下駐車場を走っていく。
どこかの施設の地下、自動ドアの前には銃を持つ警備員が二人、アズラエルを確認するなり敬礼を見せ、黒スーツの女がなにかを取り出せば頷いてどこかと通信をした。
「どうぞ、アズラエル理事」
スーツの女に着いていく形で二人は歩き出し開いた自動ドアをくぐる。
真っ白な通路を行くアズラエル。その少し後ろを歩くロマに視線を向けたアズラエルが、少しばかり歩みを緩めてロマの隣を歩く。少しばかり驚きながらも、それをおくびにも出さない。
彼にとってムルタ・アズラエルという人間がそういうことをするとは思えなかったので、意外ではあった。
「君、ここから先はトップシークレットですから漏洩でもしたら首が飛びますよ?」
「物理的に、でしょうか」
「御察しの通り、それで済めば良いことですが……」
最悪、死んだほうがマシな目にあいかねないということであろう。
「怖いですな。手の震えが止まりません」
「よく言いますよ」
その後、エレベーターを経由したり、時たま白衣を着た所員とすれ違ったりなどを繰り返しつつ道を行く。数分歩いた後にスーツの女が止まったのは、両開きの大きな扉の前だった。
スーツの女がカードをかざして扉を開けると、アズラエルに着いていく形でロマもその部屋に入る。
そこは、なにかをモニターしている部屋であり、全機器が窓の向こうを見えるようにそちらを向いていた。窓の向こうでは、戦闘訓練なんかをしているようで、数人の“少年少女”が近接戦闘をしていた。
「……強化人間、と言ったところですか」
ロマは眉をひそめてそう言う。さすがに目の前のそれがあるのは知っていたが、見るとなると気分の良いものではないからだろう。
しかし、それでも的中させたことをアズラエルは笑顔で賞賛する。
「ご明察です。どうです?」
「動きはコーディネイターを凌駕していますね。薬物強化ですか?」
「脳内インプラントもしています。いやぁ、君は本当に……」
手を口に添え、目を瞑ったままクスクス笑うアズラエル。
―――本当に、見た目だけはドストライクなんだよなぁ。
余計なことを考えてしまうものの、すぐに頭を振って邪念を消し去る。
とりあえずご満悦なようなので一安心だが、訓練生にしてこんなものを知ってしまってどうしたものかと、顎に手を当てて考え込む。窓ガラスの真上にあるモニターに映る少年兵。否、ブーステッドマンたち。
気持ちの良いものではないが、歴史を“史実通りに進める”のであれば必要なものだ。
自分に力があるなら変えたい未来もある。だが、それが良い影響を及ぼすかなど想像もできないし、そんな重い物を持てる器でもないのだ。
「さて、バエル君にはこちらに来ていただいて」
「はい」
―――ん、なにか引っかかる。なんだ?
アズラエルに着いて行って部屋を出ると、スーツの女がいた。そのまま女にすぐ近くの部屋へと案内され、アズラエルと共に入る。
先程の部屋ほどではないが、モニターが存在し数人の所員が計器をチェックしているようだった。アズラエルが見るモニターへと視線を向けると、そこには―――裸体の少女たちが検査を受けているのが見える。
「っ!」
バッ、と空気を切る音を鳴らして即座に視線を逸せば―――アズラエルと目が合う。
しまった! と思う頃にはすでに遅い。
口に手を当ててバカにしたような表情で、肩を震わせ笑うアズラエル。
「な、なんですかその反応っ、ま、まさかっ……は、はじめてですかぁ~?」
「……アズラエル理事」
「ぷっ、くくくっ、はははっ……ま、まさかここまで私と堂々と会話するような子がっ、くくっ」
「これでも私は未成年ですよ」
「そっ、そうでしたねっ……あははははっ、くっ、ははっ、だめっ、ツボにっ」
ロマにとっては見たことのないムルタ・アズラエル。彼自身はそう思っていたが、他の所員やスーツの女なども驚いているようだった。
ひぃひぃ言いながらロマの腕をバシバシ叩いて笑うアズラエルに、冷静を努めていたロマも流石に顔をしかめる。別段、本当に嫌なわけではない。なんならここまで笑ってもらえるとおいしいとすら思ってしまう。そんな自分の芸人根性に感心した。
「ともかく……なんなんですか、これは」
「ふぅ、はぁ……こほん、そうですね。あの娘たちはブーステッドマン、その中の最高傑作です」
「ブーステッドマン、ですか」
脳のインプラントと薬物強化を施した、強化人間ブーステッドマン。それの最高傑作、つまりコーディネイターと戦えるように作られた兵士。
あの三馬鹿か、と脳裏に思い浮かべるのは三人の少年たち。
しかし、そこで思考が止まる……。
―――待て、ブーステッドマン、最高傑作。いやいやいや、理事だけで俺の思考は追いつかないのに、そんな馬鹿な。
「お願いします」
アズラエルの言葉と共に、ドアが開いた。そちらに向かうアズラエルにほぼ無意識に着いていき、先程まで少女たちが検査を受けていた部屋へと入る。
すでに目の前の少女たちはガウンタイプの患者衣を着ているが、身体はしっかりと女性らしく起伏があった。
ロマはしっかりと並んだ三人の少女を見やり、心の中で頭を抱える。
―――そうかいそうかい、そうやって遊ぶのかい。ファッ○ン、ジーザスクライスト!
「ほら君たち、ご挨拶」
―――なぜに!?
「オルガ・サブナックっす」
「クロト・ブエル」
「シャニ……アンドラス」
彼は知っている。その三人を……しかし、知らない。
ロマの記憶にある三人は、少年であったはずである。この感覚は先日経験したそれだ。ムルタ・アズラエルが女性だったのと同様、彼の知っている歴史と違う。性別が違うというのはそれだけでグルンと諸々が変わってしまうことに等しい。故に、読めない。
アズラエルが笑って頷く。
「はい。よくできました」
赤寄りのオレンジ髪を肩ほどまで伸ばしている少女、クロト・ブエル。
薄緑の髪が背中の半ばほどまで伸びている少女、オルガ・サブナック。
ウェーブがかった緑色の髪を腰ほどまで伸ばしており、左目を前髪で隠している少女、シャニ・アンドラス。
―――これでは道化だよ!
「俺、失礼。私はロマ・K・バエルです」
―――あ~! 名前に悪魔の名前ついちゃってるし! バエルってガンダムしか出てこなかった!
「良い名前だと思いませんか?」
アズラエルがそう言うが、ブーステッドマンたちはあまり興味無いようだ。あちらの世界で言えば三馬鹿、こちらで言うなら連合三人娘と言ったところだろうか、一瞥するがすぐに視線を逸らす。
あまり興味はないようで結構、とむしろロマは安心する様子を見せた。
この状態であれば、どうにかこうにか逃げられるかもしれないと、アズラエルのほうを向く。
「サブナック、ブエル、アンドラス、それにバエル……ぴったりじゃぁないですか」
―――なにが!?
「では今後も、お願いしますね」
「なにを、でしょうか……」
知らないしなにも見なかったことにしたい。なにごとも無く、ことなかれ主義の人間としてロマはあっさりと終わることを祈る……ただ神にだ。
しかして、現実はそうもいかないらしく、アズラエルが指先をロマの胸に突きつける。
「あ~今日から君、私のものなので」
―――ですよね。やっぱり許さねぇ……この世界に神はいない!
「それとこの子達のこと、お願いしますね?」
「……自分は、訓練兵ですが」
「色々と融通利く様になりますよ?」
彼は権力に弱かった。そしてゴヨウ・ガーディアンが極めて苦手だった。
「では、これからお願いしますよ。ロマくん」
「ご期待に応えて見せましょう。アズラエル理事」
そう答えてから、視線を三人娘に向ける。
クロトもオルガも興味無さげ、シャニだけがチラッとこちらを見る。
だが。とてもじゃないが自分の言うことを聞いてくれるタイプには見えない。性格が変わってないとすればまず、その三人を御せるとも思えない。
しかして、ここで反論する力などあるわけないのだ。ならばやれるだけはやって、駄目でしたの方がまだ救いがあるかもしれなかった……。
「ふふっ、期待していますからね?」
―――無理難題を仰る!
ようやくメインメンバー揃いました
まだMSすら表舞台に出てきてない時期なんでまだ刺激的なものはなにもなし
そろそろ白兵戦ぐらいは入るかもですが
序盤なので更新なるべく早めにやってきたいとこです
それとそのうちアンケートとかやるかもしれませんが、よろしくお願いします