盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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閃光の果て

 

 あれから半月ほどが経ち、四月も半ば。

 すっかり懐かしかった三人娘、そしてアズラエルといることに慣れたロマは、今日はそのアズラエルに連れられて“クロトと共に”とある場所へとやってきていた。

 

 白い部屋、椅子に座るロマ。そんな彼の“膝の上”に座る金髪の少女───ステラ・ルーシェ。

 

 そう、ここはロドニアラボである。

 

「しかし、私もつくづく道化だな……」

 

 思わず口に出したその言葉とて、口調はともかく間違いなく素の言葉なのであろう。視線の下にある頭が向きを変えて自分を見上げる。

 こうしてロドニアラボに来るのも久しい。最後に来たのは、アークエンジェルと合流する一週間ほど前のことだ。

 故に、“子供(ステラ)”がそれだけベタつくのも自明の理、なのだろう。

 

「また道化?」

「すまないなステラ、独りごちてしまったよ」

 

 微笑を浮かべてそう返す。

 こうして父親役に甘んじている自分に対する皮肉、でもあったのだ。故に、やはりそれは独り言以上でも以下でもないのだ。

 しかし、彼が自分の世界に入るのも仕方のないことなのである。

 

「相変わらず小難しいことばっか言うじゃん」

「カッコつけてるだけだろ」

 

 やはりあの三人組と違い、慣れないのだ。

 

 ―――なんでこっちまで女の子なんだよ!

 

 水色の髪を小さなツインテールにした少女と、薄緑の髪をオールバックにした少女。

 ステラ・ルーシェと共にいるその二人。

 

「スティングはいつも手厳しいな」

「いつも澄ましてなんでも知ってますって顔してる奴がいれば、気にも障るだろ」

「そのつもりはないさ」

 

 ―――ちょっとドキッとするようなこと言うんじゃないよ!

 

「ホント、ロマ相手にいつも厳しいよな、スティングって……気になる人に突っかかるタイプ?」

「うるさいぞアウル」

 

 ロマの近くの椅子に背もたれの方を前にして座るアウル・ニーダと、ソファで足を組んで座っているスティング・オークレー、二人の少女。

 そう、二人の“少女”である。

 この現象をロマは知っていた。知りすぎていた。慣れ過ぎていたと言っても良い。

 

 ―――三人組は女になる法則でもあるのか?

 

 そうなると該当する組がいくつかあるが、まさかと首を横に振る。

 そもそもどうして性別逆転でなく、少女になっているのか……考えても詮無きことではあるが、あまりにも“自分に都合がいい”ことがありすぎて、不安にもなってくるというものだ。

 自問自答を繰り返すロマ。

 一方で、立ち上がったアウルがスティングの手を引く。

 

「バスケしよーぜ!」

「たく……」

 

 立ち上がったスティング。

 二人が出ていくのだろうと察したロマが、真下のステラを見る。ステラもロマを見ていたようで至近距離で目が合い、ロマは少しばかり緊張した。

 やはり“原作キャラとの邂逅”というものはいつまで経っても慣れるものではない。

 

「ステラは良いのか?」

「ん……おと、ロマはどうするの?」

「私か?」

 

 その問いに、ロマは頷く。

 

「では、私も参加しよう」

「お、ノリ良いじゃん!」

「ハッ、おもしれぇ……やれんのかよ、おっさん」

「私とて伊達にクロトたちと動いてないさ……それと、まだおっさんじゃない」

 

 二人がロマの参戦に乗り気なのを見て、ステラは少しばかり眉を顰めた。

 立ち上がるステラに合わせて立ち上がったロマだが、その腕をステラが掴む。

 

「私も、やる」

「っ、珍しいなステラが」

「いいね~! なんかかける!?」

「賭けるものがないだろ」

 

 ロマは顎に手を当てて、頷く。

 

「ならば、私がなにか褒美でも用意しようか」

「マジかよ」

「おぉ! いいじゃんいいじゃん!」

 

 乗り気の二人、そしてステラはロマの服の袖を引く。

 部屋を出るアウルとスティング、ロマは立ち止まったままステラの方に視線を向けた。

 儚い雰囲気を持つ少女、それは“全てを識る”ロマの視点だからこそなのか、それともただそう思ってしまうだけなのか、色々と自身を勘ぐってしまうのも良くないなと思いつつも、それもまた思わずにいられない。

 ステラが、抑揚のない声で言う。

 

「私、ロマと……お出掛けしたい」

「……そうだな、そうしようか」

 

 まだ勝ってもいないのに、ロマはそう約束した。別段、そのぐらいの願いを叶えてあげても罰は当たらないだろう。

 

「いこうか、ステラ」

「……うん」

 

 少しばかりの笑みを浮かべて、ステラは頷く。

 そんな儚げな少女に手を引かれて、ロマもまた金色の髪を靡かせて歩き出した。

 いずれ訪れる未来、それを幻視しながらも……。

 

 

 

 

 

 

 オーブの保護下から離脱してからほどなくして、アークエンジェルはザフトはザラ隊の強襲を受けた。

 相手は相も変わらずXナンバーが四機だが、今まで以上に苦戦を強いられたアークエンジェル。

 ロマがいるいないの話ではなく、純粋にあちらの士気も練度も、上がっている故なのだろう。

 

 だがそれでも、アークエンジェルは深刻なダメージを回避しながら、ハイータとキラ、そしてムウとスカイグラスパー二号機のトールでそれらと相対し───。

 

 

 

 振るわれたイージスのビームサーベルを、頭を低くして回避するジン・アイズ。

 その狂ったような輝きを宿す(モノアイ)が放つビームが、イージスのコックピットを狙うも素早く上昇して、回避して見せる赤きモビルスーツ。

 だが、そこにキラのストライクが参戦。蹴りを打ち込んでイージスを倒す。

 

「キラきゅんさすがぁ!」

 

 海上の孤島、足場と言っても良い。姿を隠すものもなにもない戦場。イージスを挟んで立つジン・アイズとストライクの二機。

 コックピットの中でハイータは相変わらずヘルメットは放り投げてシートの後ろに、胸元は大きく開けていた。舌なめずりをして、狂気の火に蕩けた瞳はその“色素を失った獲物”を捉える。

 

「あはぁっ♪ フェイズシフトもダウンしちゃえば私のぶっといのを挿れてあげれるよねぇ!?」

 

 ジン・アイズの赤銅の右腕、その手首から先の部分の鋭い爪が鈍く輝き、回転を始める。

 

「ドォリルでさァ!?」

 

 動き出そうとした瞬間、ハイータは妙な感覚を感じて下がった。

 真上から放たれたライフルを回避し、それを放ったディンへとモノアイを向けてビームを放ち、その胸部を貫き撃破。

 だが、ディンが撃破直前に放ったミサイルがジン・アイズの周囲を破壊、砂埃と爆煙を巻き上げる。

 

「くぅっ……ッ!」

 

 瞬間、ハイータが察したが―――遅い。

 

 ジン・ハイマニューバの改造機たるジン・アイズですら、彼女にはついてこれない。

 爆煙の中、放たれたビームがジンアイズの右腕を奪う。

 

「デュエルぅ!」

 

 ストライクにやられ、海へと落ちていたデュエルが上がってきたのかビームライフルを構えていた。

 顔をしかめたハイータが、残った左腕を使いストライク用のバズーカを素早く放ち、空中のデュエルへと直撃させる。だが、バスターも上がってきた。

 

「弱ってる奴からならさぁ!」

 

 左腕でもう一度バズーカをバスターへと放つと、バスターはそれを迎撃。

 

「キラくん! イージスを!」

 

 その叫びは届いていないだろう。しかしチャンスはチャンス、ストライクの方へとハイータが視線を滑らせるが、気づき、感じる。

 

「躊躇、してる……!?」

 

 シュベルトゲベールを振り上げたストライクが、僅かに固まったのを見逃さない。そして彼の躊躇もまた、彼女は“感じた”のだ。

 しかしそこで、もう一つを感じ取る。

 声にしても意味は無い、すでにその(ブリッツ)は、姿を現したのだから……。

 

「ブリッツ!?」

 

 ランサーダートを片手に、イージスを庇うようにストライクへと走るブリッツ。

 横にシュベルトゲベールを構えるストライク。

 

 そして―――“ストライクはブリッツを撃破”した。

 

 

 

 とうとう成したXナンバーの撃破を、アークエンジェルのクルーは喜んだ。ただ、キラ・ヤマトを除いて、だ。

 そして、彼の複雑な感情を感じてしまう妙な自分に戸惑うハイータもまた然り。

 

 殺されたから殺して、殺したから殺されての連鎖、その始まり。

 

 そして、ブリッツ撃破の二日後、マーシャル諸島のとある島にて、アークエンジェルは再びザラ隊とザフト空戦部隊の強襲を受けた。

 仲間を撃墜されたせいか、イージス・デュエル・バスターの士気は異様に高い。

 

 キラとハイータ、二人の高い戦闘能力を持つコーディネイターでさえも苦戦を強いられる。ザフトの勢いは凄まじいものだった。

 

 片腕の修理が間に合わなかったジン・アイズと、ストライク、そしてムウのスカイグラスパー。

 その三機ではできることなどたかが知れている。

 それでもデュエルを戦闘不能にし、バスターもアークエンジェルとスカイグラスパーで追い込む。

 

 そして、残りのXナンバーことイージスを追い詰めていくエールストライクとジン・アイズ。

 

「あははっ、引導を渡してやるってのにさァっ!」

 

 θ(シータ)-グリフェプタン(改良)の効果で変わらずテンションは有頂天、しかして彼女自身も気づいているが効果の切れはずいぶんと早くなっている。

 本能的には理解しているだろう、早々にケリをつけなければ“余計なことを感じてしまう”ということも……。

 故に、左腕のみのジン・アイズでストライクと共にイージスへと攻撃を続ける。

 

「ぐっ、決め手に欠けるなァ!? っ、トールくん!?」

 

 ストライクを攻撃しようとしたイージスを、ビームが襲う。

 それを撃ったのはスカイグラスパー二号機であり、パイロットはトール・ケーニヒ。今戦闘では待機命令を受けていたはずの彼が出撃していることに驚愕するハイータだが、遅い。

 

「こんな戦場に出てくんじゃぁないよチェリーボーイがさぁ!?」

 

 遅いのはハイータがではない、ジン・アイズが、である。

 

 イージスが投擲したシールドが、真っ直ぐにスカイグラスパーへと突き刺さった。

 

「え」

 

 ハッとするハイータの視線の先、モニターに映る爆発。

 ジン・アイズのコックピットではハイータが驚愕に顔を歪める。

 別段、思い入れがある人物ではない。しかし、それでも共に戦場を駆けたし、同じ艦で戦った仲間なのだ。話だってする。

 初めてではないが、仲間の死に慣れるタイプの彼女でもなかった。

 

 それに(トール)には、彼女(ミリアリア)がいる。帰りを待つ者が、家族以外にも……。

 

「あっ、あぁっ……イージスゥ!」

 

 ハイータが憎しみの目でイージスを睨みつけるも、それより先にストライクがイージスへと飛びだした。

 すぐにフットペダルを踏み込んでジン・アイズで飛ぶも、敵意を感じてそちらに視線を向ける。ディンが並んで二機。

 

「邪魔ぉするんじゃぁないよねぇ!? 今の私のさぁ!?」

 

 左手のライフルをディンへと投げつけると、素早くディンはそれを迎撃。

 だがその隙を見逃すはずもなく加速し、クローで一機の胸部を貫く。もう一機のディンがライフルをジン・アイズに構えるも、顔とモノアイをそちらへと向け、ビームでその胸部を貫き撃墜。

 クローを引き抜けばオイルがジン・アイズを濡らす。

 

「死ぬんだからさぁ、出てこなきゃぁ良かったんだよ。出てこなきゃさぁ!?」

 

 それは誰への言葉なのか、ハイータはディンを蹴ってさらに上昇し、イージスを捉える。

 左腕を失ったイージスが右腕と両足からビームサーベルを展開しており、対するストライクも左腕を失っている。そしてそんな彼らの間に、別にディン一機が入り込む。

 ストライクへとライフルを撃つも、キラは素早くそれを回避。

 

「邪魔者ばっかで、さっさと墜とさないと、でしょぉに!」

 

 イージスにストライクを討たせるわけにもいかないと、加速。

 距離的にも、キラがディンを討つのが良いと理解したハイータが、“異様な雰囲気を纏ったイージス”へと飛ぶ。

 接近するハイータに気づいたのか、イージスが素早くジン・アイズの方へと向いた。

 

「私でもある程度はさァ!?」

 

 ジン・アイズでXナンバーとも遜色ない戦いはしてきたつもりだ。故に、負けるはずはない―――それが普通の相手であれば。

 

「えっ」

 

 接近から、その瞬間までは一瞬だった。

 

『お前もっ、いつまでも!』

「子供の声っ!」

 

 キラと年齢が変わらなさそうな声音に、僅かに動揺する。いや、そちらよりもやはり動揺の元は、一瞬で右脚が切り払われたせいなのだろう。

 即座にフットペダルを踏み込んでさらに上昇。

 だが、イージスは素早く距離を詰めてくる。

 

「んなっ、ならさァッ!」

 

 そのモノアイが淡い光を宿したその瞬間―――イージスの右腕が振るわれた。

 ジン・アイズの頭部と背部バインダーが同時に切り裂かれる。

 

「……は?」

 

 ロマも三人娘も、確かに強い。しかし、ハイータは対応ができる。

 機体性能もあるのかもしれないが、反応できたとてジン・アイズはついてこないだろうが……だが、今のは違う。ハイータは反応できなかった。いや、されないと思っていたのだ。

 先読みし、回避するロマともまた違う。

 

「ッ!」

 

 しかしいつまでも呆けているわけにいかない。機体にダメージを残せなくともパイロットに衝撃を与えれば良いと、ハイータはイージスに組みつこうとするがさらに腕が振るわれる。

 ジン・アイズの残った左腕が吹き飛んでいく。

 

「こ、れは……」

 

 投げ出された左腕の向こうで、ストライクがディンを撃破するのが見えた。

 ハイータはメインカメラ、正面のイージスに視線を向ける。既に足が振るわれようとしており、それをやけにゆっくりと感じた。

 オレンジ色の光、それが真下から迫る。

 

「ははっ……」

 

 ロマを、アズラエルを、クロトとオルガとシャニの姿を思い出す。楽しかった記憶、走馬灯が駆け巡る。

 彼女の楽しかった思い出すべてには、それでもやはり彼がいて、彼女たちがいて……。

 

 衝撃と、光と、熱を感じる。

 

 

 

 

 

 

 ふと、ロマは目を開く。

 正面にいるのはクロトで、ここはロドニアのラボからの帰りの飛行機であった。

 テーブルを挟んで向かいのクロトは目を瞑って眠っていて、その口の端から垂れる涎を、クロトの隣に座っていたアズラエルが眉を顰めて拭う。

 ふとアズラエルが、ロマが“目覚めている”のに気づき、少しばかり頬を赤らめて目を右往左往させてから、立ち上がりロマの隣に座った。

 

 そしてアズラエルはほんのりと赤い顔のまま、ロマの顔を覗き込む。

 

「どうしたんですか、変な顔して」

「あ、ああいや……」

 

 ―――言葉が走った?

 

 いやまさか、と頭を左右に振って雑念を捨てる。自身が戦闘以外で“その力”を発揮できるわけがない。

 戦闘マシーンであるという事実を突きつけられているようで愉快な気分ではないが、それでも“それが事実で現実”なのだ。戦う才能しかないのだから、致し方あるまい。

 しかして、確かに何かを感じた気がし、手が僅かに震える。

 

「……なんだ?」

 

 震える左手を、柔らかな白い両手が包む。

 

「り、理事……?」

「なにを怖がってるのか知りませんが、戦いはありませんよ。ここには……」

 

 ビジネスの場では決して見せない柔らかな笑みを浮かべて、アズラエルはそっとロマの手を撫でる。

 

「たまには何も考えずに、ゆっくり休んだらどうですか……」

「私はいつも余計なことは考えていないよ」

「私、貴方の事わかりますからね。これでも結構」

 

 その言葉に、顔をしかめるロマ。やはり見破られているのだろう。

 彼女は、彼女たちは自身の素も知っているのだから当然と言えば当然だろう。結果的に“共に出かけることになったステラ”にもその内バレてしまいかねない。

 自分は詰めが甘い男だという自覚もある。

 

「……そうだな、そうしたいと思う。早く終わらせたいものだよ、こんな戦争は」

 

 少なからず“原作知識”の無い戦後ならば……“続編”が始まるまでは、多少はゆっくりできるだろう。

 だがそれまで、自分は“正史で散るはずの彼女たち”を救わなければならないのだ。そのためにできることはしなければならないし……。

 

 ―――くそっ、余計なことを考えるっ。

 

 キラたちをなんとかしてやりたいとも思う。オーブでの戦いも然り。

 

 考えれば考えるほど泥沼だが、左手にやはり暖かな感覚。

 

「ありがとう、ムルタ」

「へ……な、なんですか突然っ」

「いつも思っているさ……君たちには」

 

 間違いない事実。そして思うところがある故に、それを言葉にする。

 俯くアズラエルの“温度が上がってきた手”がロマの左手から離れた。

 

「貴方、誰にでもそんなこと言ってるんですか?」

「君たちだけに決まってるが」

 

 さも当然のように言う男。童貞(ロマ)の癖に言うことだけは一丁前、だがしかし、アズラエルはいつだって“負けた方”なのだ。

 故に視線を合わせることもできないまま、赤い顔で余所を向く。

 

「っ……そう、ですか」

「……なぁに、見てるこっちが恥ずかしくなるようなやりとりしてんですぁ?」

「なっ、起きてたならそう言ってくださいよ君!」

「いや今起きたし」

 

 それもそうだ。涎垂らして寝ていて、挙句アズラエルに口元を拭いてもらっていて、実は起きてましたということはないだろう。

 右を見れば、飛行機が高度を落としていくのが確認できた。

 

「愛しき我が家、だな……」

 

 その研究所を家と認識するにはあんまりであると思う者もいるだろう。だが、ロマにとってはそれが事実なのだ。

 父と母を招いたこともあるし、なにより新たな家族がそこにはいる。

 

「ずいぶんと味気ない我が家ですね」

「まぁ、愛しき家族がいれば、問題もないさ」

「また君はっ、そうやって……歯の浮くようなことをっ」

「事実、そう思っているからな」

 

 口調はともかくとしても、本音だ。むしろこの口調でなければこうもハッキリ、ものは言えないだろう。

 

「ほんと、おにーさんってそういうとこありますよねぇ?」

「お前たちも同じように想っているさ」

「っ、わかってんだから言わなくていいよ……っ」

 

 そっぽを向くクロトに、微笑を浮かべるロマ。

 オルガとシャニも待っていることだろう。おそらく先と同じことを言えば、オルガはクロトのように顔を赤くしながら文句を言い、シャニは……たぶんとんでもないことになる。

 だが、それらはこの心休まらぬ世界において、ロマの愛しき日々。

 

 童貞(ロマ)の心臓には悪いかもしれないが……。

 

「ハイータも、早く帰ってくればいいがな」

「……ですね」

 

 同意するクロトに、ロマは頷く。

 アークエンジェルの進路予測からして、あと二ヶ月ほどだろう。

 短いようにも思うが体感はきっと長いのだろう。

 

 自分の背を押し、彼ら(アークエンジェル)を守るために残った彼女との最後の夜を、思い出す。

 

「なんかニヤついてます?」

「ニヤついてないが」

 

 ないったらないのである。ハイータの胸の感触など微塵も思い出していない。

 

 そして、ふと……。

 

「……そういえばチェシャもいたな」

「また怒られますよ。忘れてたなんてバレたら」

 

 ―――もちろんバレた。

 

 

 

 

 

 

 マーシャル諸島の孤島。

 森の中で、大破と言って過言でもない無残な姿の“ジン・アイズ”が存在していた。

 上空での攻撃、爆発により“二人(キラとアスラン)”の戦場からかなり離れた場所に倒れているジン・アイズ。

 そのひしゃげたコックピットは僅かな光が差し込むだけでほぼ暗闇、計器も破損し、すでに機能を停止したモニターには血が付着している。

 

「ッ、ァ……」

 

 暗いコックピットの中で、彼女―――ハイータは確かに呼吸をしていた。

 

「……ぅ、ぁ」

 

 既に視界は薄れているし、身体の感覚もなくなってきている。

 感じていた燃えるような熱い痛みもまた然り。無事なはずの部分もすっかり動かないし、焦げた計器のせいか自身のまき散らした血液のせいか、鉄の匂いだけを感じていた。

 口から出る音は、それ以上の意味を持たない。

 

「……っ」

 

 空気が漏れるかのような呼吸、せりあがってくるソレで窒息をしないために体力を削ってでも、血塊を吐き出す。

 ダラッと垂れた赤いそれが、どうなっているかも自身でわからない体に垂れる。

 

「……ご、め」

 

 ハイータのぼやけた視線の先───彼らを見た。

 

「ろ、まく……」

 

 少しばかりの意識の覚醒。

 

 左腕を伸ばそうとするが、なにかがぶつかってそれはかなわない。

 右腕を伸ばそうとするが、それもまた然り……たしかし、右腕は伸びるわけがない。

 

 存在しない、その右腕では……何一つとして掴むことなどできやしない。

 

 ―――約束、破っちゃったなぁ。

 

 そして彼女は、深い深い闇の中へと堕ち逝く。

 

 

 






ゆるい感じからのシリアス、からのゆるい感じからのシリアス

ぅゎアスランっょぃ

クロトとオルガとシャニの三人ともっとわいわいさせたいけど、もうちょっと後の予感です
なにはともあれ、ロマも行動を起こしたり起こさなかったり起こしたり

では次回もお楽しみいただければと思います
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