盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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ノー ウェイ バック

 

 

 パナマ基地防衛から数日後、地球。

 ブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルを含めた地球連合の高官たちが会議を行うために集うのは大西洋連邦首都、ワシントン。

 そして、そんな彼女について地球へと降りたロマ・K・バエルとクロト、シャニの二人。

 彼らはアズラエルと別れて、“彼女ら”と合流するために、別の部屋へとやってきた。

 

 無機質な自動ドアが開くと、その部屋にあるソファに座していたのは……オルガ。

 

「あ、オルガだ」

「ん」

 

 笑顔を浮かべて軽く手を上げるクロトと、軽く頷くシャニ。

 オルガが興味無さそうな表情で頷きながらも、おそらく内心ではそれなりに喜んでいるか安心しているのだろうと、クロトもシャニもロマも察する。

 部屋をキョロキョロと見ながらも、ロマはそっとオルガの隣に腰降ろした。

 クロトとシャニも各々好きな場所に座る……シャニはロマの隣で、クロトはオルガの隣。

 

「ハイータは?」

「検査だってよ、そろそろ帰ってんじゃねぇか?」

 

 オルガがそう答えると丁度そのタイミングで、自動ドアが開いた。

 

「ただいま戻りました……あ、ロマ君にクロトちゃんとシャニちゃん」

 

 戻ってきたのはハイータ・ヤマムラ。後ろにいた女性スタッフがロマに目配せだけして去っていき、ハイータは“電動の車椅子”を操作して部屋の中、ロマの近くに移動してくる。

 こうして会うのはおおよそ一週間ぶりほどになるが、やはりその姿を見慣れることもない。

 

 ザフトとの戦闘で彼女は重傷を負った。右腕と左足を失っており、既にそこには存在しない。

 そして、右目には眼帯───視力はもはや回復することもないだろうとのことだ。

 

 彼女をそういう風にしたのはイージスだと聞いている。

 そして、そのパイロットをロマは知っていた。

 

 ―――アスラン・ザラ。

 

 知り合いでもない、ただ一方的に彼を知っているのだ。

 血のバレンタインで母を亡くし、現評議会議長パトリック・ザラの息子にしてエリートである赤服を身に纏い、今頃はフェイスの称号すら得た者。

 そして、ロマが“殺すわけにはいかない”と思っていた者だ。

 

「あ、そういえば……あの、アズラエル理事に聞いちゃいました?」

「……ああ、聞いた。パナマ防衛に出撃したそうだな」

 

 その言葉に、ハイータは困ったと言う風に笑う。

 

「その、あれですよ! アズラエル理事に指示されたとかじゃなくて!」

「わかっているさ、理事がそんなことするわけもあるまい。むしろ相当止めたんだろう」

「わかっちゃい、ます?」

 

 いつも通りの表情、そんな彼女にロマは笑みを浮かべて頷いた。

 彼女がこんな状態のハイータを“新技術を使ってまで戦いに駆り出すわけがない”と、理解しているからこそハイータの我儘なのだろうということも予想がつく。

 ロマの識る“リユース・サイコ・デバイス(システム)”に近いなにか……。

 だが、それで彼女が構わないと言うのであれば、あとは自分が“なんとかしてやる”だけだ。

 

「……さて、問題はアズラエル理事だな」

「ん、なにが問題、なの?」

 

 シャニが隣で小首をかしげる。

 

「次の、戦場さ」

 

 今、この時に進行している会議こそが、彼にとってのターニングポイントの一つなのだ。

 

 

 

 

 

 

 会議室に、テーブルを叩く音が響く。

 叩いたのはムルタ・アズラエルであり、その勢いのせいで舞い上がった髪が、ゆっくりと下に垂れる。そこでようやく、アズラエルはその会議室にて座す連合構成国の高官たちに目を配った。

 誰も彼もが驚愕の表情をして、少しばかり狼狽えているようにすら感じる。

 

 場の支配は完了した。出鼻は挫かれたが、都合の良い状態には持ち直せただろう。

 

「で、なんと言いました?」

 

 ゆっくりと、座って聞くアズラエルのその瞳は鋭い。

 少しばかりの沈黙の後、高官の一人が咳払いをして話を始める。

 

「貴女のやり方が」

「私のやり方が? 手ぬるいと? で、貴方達は一体全体どうするつもりですか……代案も無いのに文句を言っているわけじゃあないんですよねぇ?」

 

 テーブルの上に乗った片手の人差し指がトントンとテーブルを叩く。

 

「再三徴用要請をしても、頑固者のウズミ・ナラ・アスハは、どうあっても首を縦に振らん……」

「だから? 私達に関係ありますか? ザフトとオーブが繋がっているのであれば、背中から叩かれるわけにはいきませんからね。戦うのを私だって推奨しますが、今回に至っては違うでしょう」

 

 マスドライバーもある。ビクトリア基地奪還の目途も経っている。

 オーブを攻める理由が見当たらない。むしろアズラエルとしてはオーブがMS開発を進めているということを知っている故に、むしろその戦闘によっての戦力の低下を懸念せざるをえない。

 勝って手に入る利益があるとしても、戦わないと言う選択肢を上回るわけもないだろう。

 

 故に、アズラエルはハッキリと口にする。

 

「しかも、よりによって“私達”にそちらをやれと?」

「……でなければね、アズラエル。そちらを“ロード・ジブリール”がやると、そう言っているのですよ」

 

 その言葉に、アズラエルは露骨に顔をしかめた。

 ロード・ジブリール。立ち位置としては、次期ブルーコスモスならびロゴスの盟主候補、と言ったところであろう。反コーディネイター思想ではアズラエル以上であり、過激っぷりもまた然り。

 まさしく“イメージされるブルーコスモスそのもの”と言ったところだろう。

 

「正気ですか……?」

「そういう方向に話は動いてしまっているのだよ」

 

 アズラエルとて『地球の一国家であるのなら、オーブだって連合に協力すべき』だとも思ってはいるが……。

 

「パナマ防衛が失敗した、とかならまだ理解できますけどね。よりにもよって……」

「しかし、もうビクトリアの方はウィリアム・サザーランドが動いているからに」

 

 再び、アズラエルはテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「どうして私が知らないところで話が進むんです!?」

「わ、我々に言われても……ブルーコスモスで、伝達し合っているんではないのか?」

「ロゴスも然り、だよ。アズラエル……」

 

 高官たちは恐る恐るながらも言葉を発していく。

 

「っ……」

 

 顔をしかめながらも、アズラエルは両手をテーブルから退けて真っ直ぐに立つ。

 恐れる中に下種な視線も感じながら、アズラエルは深く呼吸をしつつ、頷く。

 

「良いでしょう……“オーブとの交渉”は───こちらで引き受けます」

 

 

 

 

 

 

 アズラエル財団が保有している航空機の中で、アズラエルは不満そうな表情を浮かべていた。

 テーブルを挟んで向かいに座っているロマは難しい表情をしており、クロト、オルガ、シャニは別になんでもよさげ、ハイータはというと複雑そうな表情を浮かべている。

 

 ゆっくりと、ロマは口を開く。

 

「つまり、オーブ襲撃の指揮を取ると?」

「まぁ結果的にそうなるでしょうね。一応は“交渉”に出向く、という話ではありますがね……」

 

 だがロマは識っている。

 いや、彼でなくともわかっているのだろう。ウズミ・ナラ・アスハが首を縦に振ることなどありえないと……。

 

「私だって」

「わかっているよ。私とて君がなんの“利益もない戦い”に出向くわけもないと思っているさ。それに君のことだ……気を遣って自ら行くのだろう?」

 

 その見透かしたような言葉に、アズラエルは不快になるどころか快い気持ちにすらなる。

 彼女にしてはロマンチスト的な思想にはなるが、それは“通じ合っている”ように思えたからだろう。

 身体だけでなく、心さえも……。

 

「……件の“ロード・ジブリール”に任せたら『コーディネイターと結託している見せしめ』とか言って焼野原にしかねませんからね」

「それはナンセンスだな」

「意味あるんですかそれ、無駄に敵対心を買うだけですよ……しかも“ブルーコスモス(私達)”は特に強く」

 

 それもロマは識っている。ロード・ジブリールはそういうことをする者だ。記憶の中に、“明けない夜(ソレ)”がしっかりと焼き付いている。

 そしてそれは、ステラと出会ってから、なお強く意識するようになった。

 故に、彼にとっても“ロード・ジブリール”の台頭など許すわけにはいかないのだ。

 

 ───ここでジブリールに大きな顔をされるわけには、な。

 

「で、ボクらでオーブを叩くってわけ?」

「やれって言われりゃやるけどな」

「ん、おにーさんもいるなら」

 

 クロト、オルガ、シャニのスタンスは作戦であればやるというだけだ。そこになんの感慨もない。

 討つべき相手が“ロマやハイータやアズラエル”でもなければ、なんの抵抗も無く受け入れることだろう。それがいかに非人道的作戦だったとしても、だ。

 故に、あとはロマの判断のみなのである。

 

「……いくさ、どちらにしろ作戦は決まっているのだろう。ともなれば君の下でオーブを討つ方がよほどいい」

「はい、決まりですね」

 

 ロマの言うとおり、彼らの答え云々を余所に、オーブとの交渉については既に“指揮はアズラエル”ということで決定しているのだ。

 ただ、アズラエルが聞いたのは『この作戦に参加するか否か?』ということである。ロマにも、もちろんハイータにも気を遣ったのだろう。

 相も変わらず身内に甘いなと考えて、ロマは苦笑を浮かべる。

 

「む、なに笑ってるんですか?」

「ああいや、優しいな、君は……」

「……」

 

 顔を赤くして、ジトっとした目で睨みつけられるロマ。

 フッと微笑を零すなり、ロマは脳内に彼女のあらゆる姿を思い出す。

 危うく鼻の下が伸びかねないので、すぐに思考を別の方向へと向け、ついでに視線を向ければその先にはハイータ。

 車椅子に座っている右眼右腕と左足を失った彼女と向き合うと、彼女は何かを察したように頷く。

 

「……ロマ君とアズラエル理事、さてはちゃっかり進んでますね」

「なっ!?」

「っ!」

 

 珍しく声を上げて驚くロマに、ハイータはおかしそうに笑う。

 それを見て顔を赤くして俯くアズラエルと、顔をしかめて目を逸らすロマ。

 そしてクロト、オルガ、シャニはオーブでの作戦を聞いたときより強く反応を示し、驚いていた。口をあんぐり開けているクロトとオルガをよそに、一足先にシャニはいつも通りの雰囲気に戻ると、ロマの顔を覗き込む。

 

「ん~……ヤったの?」

「ぐっ、ストレートに聞く奴があるかっ」

 

 顔をしかめて言うロマに、シャニはニヤリと口元を歪める。

 

「え~お兄さん、ちゃんとそういうことできたんだぁ」

「どういう人間だと思ってたんだお前はっ……」

 

 すっかりカッコつける余裕などありはしないが、何とか体裁を保つために足を組んで大人らしい雰囲気だけだしておき、手元にあったコーヒーを啜る。

 横のシャニから視線を感じ、視線だけをそちらに向ければ視線が合う。

 

「……私とも、する?」

「ぶふぉっ!」

 

 思わず吹き出すと、向かいのアズラエルが顔をしかめつつティッシュでテーブルの上を拭く。

 

「す、すまない」

「まったく、かっこつかないですねぇ」

「そんなこと言われてもだなぁ」

 

 情けない奴であるが、それがロマなのである。

 わかっているからこそ、みなどこか“笑顔”なのだろう。

 

「おめでとうございます」

 

 そう言うハイータを、ロマとアズラエルの二人が見る。

 笑顔で、一切の曇りなく祝福の言葉を投げかける彼女は、そんな笑顔のまま。

 

「でも、私の方がおっぱい大きいです!」

 

 ―――どういうことだ! まるで意味がわからんぞ!?

 

「私の方がおっぱい大きいです!」

 

 ―――なんか知らんが二回も言った!?

 

 

 

 

 

 

 会議のその日から半月ほどして六月半ば、海上の大西洋連邦艦隊の旗艦にロマはいた。

 甲板にて潮風を肌に感じるが、既にそうして海上に“二日”もいれば思うところ等ない。

 しかして、視線の先に存在するオーブには、何度見ても様々な思いを抱かずにはいられない。なぜならロマだけが知っているのだ。そこに“戦友”がいるのだと……。

 

 六月の頭に、地球連合はオーブ連合首長国を含めた中立を保っている赤道連合、スカンジナビア共和国に対して『ワン・アース』をアピールした。

 大がかりなイメージ作戦だが……その実、水面下では、各国政府に恫喝に近い連合への加入要求を行っている。

 そしてその参加を蹴って、さらには協力すら蹴り、まんまとこちらの手の上で踊らされているオーブ。

 

 そもそも連合は最初からオーブを潰す気だったのだから、何の不備もあるまい。

 

 大西洋連邦も含めて、連合に参加しないのであれば全て敵という思考なのだろう―――知れば知るほどロクでもないなと、思わず苦笑を浮かべる。

 

「どうしたんですか、こんなところで?」

「アズラエル理事……」

「そろそろ出撃準備ですよ。作戦が開始されます」

 

 二日前、46時間前に地球連合軍はオーブに対して“武力放棄”のみを要求したが……当然ながら受け入れられるはずもなかった。それどころか、即座に拒否という回答はきていたのだが、アズラエルは結局48時間後の答えによって動くという判断を取ったのだ。

 しかして、答えは恐らくNOであると、アズラエルも他の兵士たちも理解していた。

 

 故に───オーブ解放作戦は発動される。

 

 手すりに寄り掛かっていたロマの隣にアズラエルが立ち、同じように手すりに寄り掛かった。

 

「せっかくの新型専用機、使えなくて残念ですか?」

「……あの日からチェシャが不調なんだ。仕方あるまいよ」

 

 複雑な機構をしたディザスターを完全に使いこなすには、どうあってもチェシャは必要不可欠なのだ。ファウスト・ヌルを使わないとしても、それでなくとも彼女の存在あっての機体ということでやっていたものだから、今更チェシャ無しで乗っても逆に使いこなせないとわかっている故に、ロマは今作戦でのディザスターの出撃を棄権した。

 まぁかといって戦わないわけでもないが……否、戦わざるを得ない理由があるのだ。すべてを変えると決めて、試行錯誤したものの、結局ここに至ってしまったのだから、自らは戦わざるをえない。

 

「これで無理をさせて、チェシャが演算に使っている大事なパーツの“どこぞの誰かの脳”に不調が出る方が厄介だ。」

 

 詳細はロマはおろかアズラエルすら詳しくはしらない出所不明の“脳髄”になにかあっては、代わりを探すのも苦労する。保管された“脳”程度いくらでもあるが、“同調する脳”となると話は変わってくるのだ。

 故に、そうそう無理させるわけにもいかず、今回のロマの出撃する機体は新型量産機の試作機と言ったところ。

 

「まぁ例の機体も私の専用機と言っても過言ではないだろう? ストライクの量産機という点であればダガーと変わらんし、使えん道理はないさ」 

 

 既に資料は目にした。妙に“既視感”を感じるその機体。

 ストライクの量産型を目指した105ダガーよりも、さらにストライクに近い機体。

 

「一応、貴方が乗る前提で今回の試作機は作られましたからね。たぶん量産が成功しても“ああ”はなりませんよ」

「だろうな、一般兵が乗るにはいらぬものが多すぎる」

 

 苦笑しながら言いながら、ロマは手すりから離れた。

 それに合わせてアズラエルも手すりから離れると、ロマの方を向く。

 彼も彼でアズラエルの方を向いたものの、固まる。

 

 そのブロンドの髪が潮風により靡く。

 

「……変えてみせるさ」

 

 アズラエルにも聞こえないような声で呟きながら、ロマはアズラエルの頬に手を添えゆっくりと近づく。

 彼女は一瞬だけ戸惑う様子を見せ、周囲に視線を配りながらも、誰もいないことに安堵するなり、すぐに瞳を閉じた。

 ゆっくりと影が近づき、その唇が重なる。

 

 触れるだけの、ただそれだけの口づけ。

 

「こ、こんなとこでっ……」

「あ、悪い……」

 

 ついつい、だったのだろう。素で謝るロマに、アズラエルは困ったように笑う。

 

「別に構いませんけど……」

「まぁ見られても私が本命だとは思われんだろうさ」

 

 そういう噂があるのも確かだ。アズラエルは若い男を傍に置いて遊んでいると……。

 周囲の者は大体そんな噂無いだろうと思っているし、他にも“あの悪魔が遊ばれるわけがない”という層もいるので、真実は闇の中。

 歩き出すロマとアズラエルが、艦の廊下を歩く。

 

「しかしまぁ、私もコーディネイターを侍らせてるなどと言われるしな……」

 

 無論、ハイータのことである。さすがにブーステッドマンを侍らせているという噂は無い。

 

 もちろん───侍らせているのは事実なわけだが。

 

「あら、ハイータとはすっかりシテるのかと思ってましたけど」

「君とが初めてだったさ、知っているだろう」

「いえ、その後に」

 

 右腕と左脚がなかろうとハイータはハイータだし、無理ではないだろうとロマは思考してから、頭を振る。

 

「なにを……」

「別に良いですよ。ハイータとやっちゃっても」

「ファッ!?」

 

 つい変な声を出して立ち止まってから、ハッとして周囲を見渡す。

 

「……ふぅ」

 

 誰もいないことを確認してから胸をなでおろす。

 

「なに言ってんだ。君は」

「別に変なことじゃないですよ。私、状況は理解してるつもりですよ……“あの娘たち”の」

 

 クロト、オルガ、シャニのことを言っているのだろうとは容易に想像がつく。

 ロマ自身、クロトとオルガはいまいちわからないが、シャニは確実に自分を好意的に想ってくれていることは理解しているし、だからこそ男心としては揺れる。

 だがアズラエルは今、それを自ら肯定した。

 

 むしろいっちゃえと言っている。

 

「いや、しかしだな……」

「短い命なんですから、良いんじゃないですか? ハイータも、酷な話ですが貴方以外いませんよ。あの子、それに……」

 

 クロトもオルガもシャニも、今は多少マシだったとしても過酷な訓練とそれに伴う肉体強化、薬物強化で彼女らの命は当然普通の人間の半分もない。それは確実で、既になにをどうしても仕方がないことなのだ。

 それにハイータも、彼女もあの身体ではそうそう貰い手は見つからないだろう。挙句……。

 

「……子供もできませんからね」

「っ」

 

 例の負傷時の怪我によって、そういった機能を喪った。それはロマも理解している。

 

「だからね、良いですよ。特別です……」

「俺は……」

 

 顔をしかめるロマを見て、アズラエルは眉を顰めて笑う。

 別にそんな顔をさせたかったわけではないから、だ。

 そっと頬を撫で、今度はアズラエルの方から顔を近づけ……。

 

『アズラエル理事、作戦開始時刻が近づいています。ブリッジへお越しください』

「っ!」

 

 ビクッと震えて離れるアズラエル。

 

「……はぁ、いいところで」

「帰ってからで十分だ……」

 

 そう言ってアズラエルの頭にポンと手を置いて軽く撫でる。

 

「……それでは、また後で」

 

 軽く駆けていくアズラエルが、ふと止まって振り返った。

 

「あと、ノーマルスーツは着てくださいよ!」

 

 そんな言葉に苦笑で返すロマは、彼女が見えなくなってから壁に背を付けて深いため息をつく。

 その表情はどうにもならないことに、歯痒さに当て所のない苛立ちに、心が苛まれている故か悲痛である。

 わかってはいたが、ハイータや彼女たちのことを思えば色々と、考えてしまう。

 

 もう少し早くなんとかなったのではないか、など……。

 

 

 

 行きたくは無い、などと思いながら彼はそこ……格納庫へとやってきた。

 

 キリキリと胃は痛んで、その表情は青い。

 この格納庫にいる整備士たちは、アズラエルの私兵ともいえる者たちばかりで、少しばかり気を抜けるからか、多少情けない姿をさらしても問題もないだろう。

 とはいえ、彼が青い顔をしていればすぐにでも医務室に連れて行きたくなるものだが……。

 

「あぁ~胃が痛ぃ……」

 

「なぁに! 暗い顔してるんですかぁ?」

 

 後ろから誰かが大きな声を出しながら背中に抱き着いてきた。

 誰かなど確認する必要もあるまい。声や、感触でわかる。わかってしまう。いかに傷ついていようと、やはりそれは彼自身の性。

 先ほどのアズラエルの発言で、余計に意識してしまっていることもあるのか……。

 

 クロト、オルガ、シャニの三人娘を視界に入れた。

 とうとう“決意の砲火(この日)”がやってきたことを、彼女たちと、そして格納庫に立つ三機のGにより実感する。

 オーブを討ちたいわけがない。そこには“アークエンジェル(戦友たち)”もいるのだ。

 

 だが、全てを変えるために今は戦うしかない。

 

 

 

 新型機のコックピットで、ロマは深く息をつく。

 既に作戦は開始されており、オーブ本土では既に戦闘が始まっている。

 

 通信が入り、サブモニターにはアズラエルが映る。

 

『あ~君たち?』

 

 モニター内のアズラエルは片眉をぴくぴくと動かしており、先程シャニが言った『おばさん』という発言が、通信で聞こえていた故だろうということは、容易に想像がつく。

 彼女のことを見ると、また“あの話”を思い出してしまう。

 顔色は幾分かよくなったが、逆の方向に顔色が変わりそうだが……相当なことでもない限り顔に出ないタイプである。

 

『マスドライバーとモルゲンレーテの工場は壊してはいけません、いいですね?』

『他はやってもいいんでしょ?』

『ですね』

『うっせーよ』

 

 相変わらず姦しい三人娘に、微笑が零れる。

 

『では、いってらっしゃい。徹底的にお願いしますね』

「了解でございます。アズラエル“理事”」

 

 真横のハッチが開き、三人娘の機体───レイダー、カラミティ、フォビドゥンが出撃するのを確認。

 

 遅れて彼の機体もゆっくりと前へと進んでいくと、日に当たり鈍く輝く錆色の装甲。

 赤い悪魔の名を名乗るにしては、色が少しばかりいつもと違うが、是非もあらず。

 

「ロマ・K・バエルは、ウィンダムで出る!」

 

 背部のエールストライカーパックの大型スラスターを点火。発艦と共に海上を飛行して三人娘の機体に追いつくために、加速する。

 

 その新型エールストライカーパックによる自由飛行は、ロマの記憶では“二年後の新型ダガー”がしていることだが、その試作型ということであろう。

 機体ウィンダムすらも、ロマの記憶では二年後の機体である。

 随所が僅かに鋭い気がするのは、おそらく見間違いでも感じ方の違いでもなく、ロマが乗る試作機として生まれた故なのだ。

 

 色々と違いはあるが、ロマの目的は既に固まっている。

 嫌だと言う気持ちは確かにあるし、今すぐ帰って胃袋の中身を全て吐き出したいような嫌悪感に苛まれてもいるが、それでもやはりやりたいことは既に決まっているのだ。

 

 サブモニターに映るアズラエルからの通信。

 背景を見るに、場所は先程の艦橋ではないようだった。

 

『さぁて、なにが言いたいかおわかりですね?』

「……わかってますよ。ムルタ」

『はぁい、よくできました♪』

 

 ノーマルスーツのこともそうだが、彼女の名を呼ぶということもだ。

 

「それでは、行って来ます。やばそうだったら三人を戻すんで」

『はい、了解です。では……死なないでくださいよ?』

「かしこまりました」

 

 通信を切ると、静かに息をついてヘルメットを外し、息苦しさに苛立ちながら、“赤いノーマルスーツ”のファスナーを胸元まで下ろす。

 すっきりした表情でフットペダルを踏み込み、ウィンダムは三機にさらに近づいていく。

 レイダーに乗ったカラミティ、そしてその隣を飛ぶフォビドゥン、そしてその三機の後を飛ぶウィンダム。

 

「キラ……」

 

 徐々に戦場が近づいてくる感覚と共に、視界には爆発やビームや実弾が奔っているのが見える。

 上空を舞う“ガンダム”が視界に入れば、していたはずの決意が一瞬、揺らぐ。

 

 彼女たちの元へ帰りたいという感情が溢れるが、やはりそれでも……戦う必要があるのだ。

 

 故に、三機へと近づき通信を繋ぐ。

 

「……クロト」

『はぁい♪』

「オルガ」

『あぁ?』

「シャニ」

『ハァン?』

 

 三人の返事を聞き、しっかりと赤と青の瞳で自らが“戦うべき場所”を見据えた。

 

「往くぞ……!」

 

 

 

 ───見せてもらおうか、ザフトの核機動モビルスーツの性能とやらを!

 

 

 







序盤がかなりハイペースになりましたがこんな感じでオーブ攻めです

とうとうここまで来て、次回からはオーブ解放作戦ということで
ちなみにウィンダムですが若干尖った感じに仕上がりました……バリグナーみたいな?

盟主から変な許可でましたが、しょうがないね
情け深いアズにゃんでした

色々と変化していくと、いいなぁ……
あと三人娘のイベントも入れたいとこで

では、次回もお楽しみいただければなによりです


PS
ここらへんからOP変わってロマが敵としての再登場なんだよね(存在しない記憶)
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