盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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ロマの選択

 

 L4コロニー群、コロニーメンデル。

 C.E.68年に発生したバイオハザードにより、多数の死者を出し放棄されたコロニー。

 しかし、彼にとっての問題はそこではない。彼にとっての現状での問題は、内部に残った大量の資料と、内部にいる者たちだ。

 

 コロニー内部に侵入した赤きモビルスーツ、ディザスター。

 そのコックピット内で、パイロットであるロマはどこか“見覚えのある”建造物の近くに、見覚えのある機体が待機させられているのを確認する。

 そしてもう一度、独特の形状の建物に視線をやり苦笑を浮かべた。

 

 ───連ザを思い出すなぁ。

 

「この場で破壊……するわけにはいかんか」

 

 フッ、と口を綻ばせるロマは、片足を失い小破したストライクと無傷のフリーダムから離れた場所に機体を降ろす。

 

「チェシャ、私は出てくる」

『はぁ? 正気ですの? あのフリーダムっつーのを持って帰ってくればそれでオールオッケー万事解決でしてよ?』

 

 ―――元も子もないこと言うじゃんコイツ。

 

「そうはいかんよ。アークエンジェルたちは私にとっての鍵なのだから」

『……あなた、なに考えてますの?』

「いつも同じさ、“お前たち”のことだ」

『よくそんな台詞平然と言えますわね……はい、行ってらっしゃいまし』

 

 しっしっ、と聞こえてきそうな声でそういうチェシャに微笑を浮かべながら、膝を降ろしたディザスターのコックピットから手に飛び乗り、そのまま地上へと降ろしてもらうと建物へと走る。

 やることは一つ、目的はこの戦場に来るときから決まっていた。

 だからこそ、道化を演じるために“素顔のまま仮面をつけた”男は走る。

 

 

 

 

 

 

 ロマが侵入した建造物───研究所の中、ムウはキラを連れて隠れていた。

 ラウ・ル・クルーゼの足音と声が聞こえる。

 そもそもムウはクルーゼのことを感じ、ディアッカを連れてコロニー内へと入ったのだが、ディアッカは友人であるイザークとの対話を望み、キラがさらに援軍に来て、結果こうなった。

 

 ロマで言う“原作”と違い、エールストライクを駆るムウは、本来するはずの負傷をしないままここにいる。

 故に、ラウ・ル・クルーゼを前にしてもそれほど切羽詰まった様子でもない。だが、余裕がある表情でもないだろう。

 クルーゼは異常である。コーディネイター云々を抜きにしても、普通でないと感じる。

 

「人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレン……フッフッフッ」

 

 近づいてくる感覚。

 隣のキラは先ほど“自らの出生の秘密”を聞いてから、上の空だ。

 それもそうだろうと思いながらも、ムウは歯噛みする。

 

「奴のもたらした混乱は、その後どこまでその闇を広げたと思う? あれから人は、一体何を始めてしまったか知っているのかね?」

 

 自らの子供を“遺伝子操作(コーディネイト)”で思い通りの容姿に、そして思い通りの才能を与えると言う行為。

 科学者は『優れた能力は子供への未来の贈り物』等と称し、そして結果は様々な光も、闇も生み出す。

 思い通りにならなければ捨て、思い通りにならないのは母体のせいなどとのたまい、そして求められたのが、終ぞ数多の者たちの届かぬことがなかった夢、“スーパーコーディネイター(キラ・ヤマト)”。

 

「高い金を出して買った夢だ。誰だって叶えたい……誰だって壊したくはなかろう」

 

 そして生み出した。鉄の子宮で……完璧に調整されたコーディネイターを。

 

「だから挑むのか! それが夢と望まれて、叶えるために!」

 

 クルーゼがムウとキラの隠れる部屋に足を踏み入れる。

 

「人は何を手に入れたのだ! その手に、その夢の果てに!」

 

 徐々に足音が近づいてくるのを感じ、ムウはキラの肩を揺らすがやはり心ここに非ずと言った様子。

 無理もないだろう、彼には重すぎる事実だ。

 こんなことになる前は、普通の両親の元育った争いなど望まぬただの学生だった故に……。

 

「知りたがり、欲しがり! やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う!」

「ほざくな!」

 

 キラを撃たせるわけにはいかないと、ムウが立ち上がり動き出す。

 お互いに拳銃を撃ちあうも、周囲の備品が破壊されるのみでお互いに直撃するでもなく、ムウは転がるようにキラから少し離れた壁の裏に隠れた。

 お互いに負傷もないが、時間の問題だろう。

 

「何を知ったとて! 何を手にしたとて変わらない! 最高だな人は……」

 

 皮肉めいたように言い、嗤うラウに、ムウが顔をしかめた。

 

「そして妬み、憎み、殺し合うのさ! ならば存分に殺し合うがいい! それが望みなら!」

 

 クルーゼがさらに拳銃を撃つが、ムウの傍の壁にぶつかる。

 そしてそこに、新たな足音と共に銃声が響き、吐き出された銃弾がラウ・ル・クルーゼの足元を跳ねた。

 

「ッ!」

 

 余裕だったはずのクルーゼがムウともキラとも違う第三の方向を向いて顔をしかめる。

 

「しかし、そんな権利が貴様にあるのか?」

 

 そこに立つのは、一人の男。

 このC.E.の宇宙において、今では知らぬ者などほとんどいなくなった英雄であり殺戮者、そして彼らにとっても因縁浅からぬ者。

 その赤と青の瞳で“この世界の闇”を見据え、舞台に立つ。

 

「ロマっ!?」

「えっ……ロマ、さん……?」

 

 まさかの乱入に驚愕するムウとキラ、そしてラウ・ル・クルーゼは笑みを浮かべる。

 

「ほう……ロマ・K・バエル、異物が紛れ込んだようだな」

「否定はせんがな、ラウ・ル・クルーゼ」

 

 ラウ・ル・クルーゼに拳銃を向けながら、微笑を浮かべる男。

 自分たちを助けにきたのか、それとも別のなにかか、ムウとキラは彼を見極めかねているが、ロマは彼らを一瞥したのみですぐにクルーゼに視線を向け直す。

 銃を向けられたクルーゼは、少しばかり顔をしかめながらも、銃口はしっかりとムウに向けていた。

 

「質問に答えよう……私にはあるのだよ。この宇宙でただ一人……全ての人類を裁く権利がな!」

「ふざけるな! この野郎!」

 

 ムウが声を荒げるが、反するようにクルーゼはその口元に笑みを浮かべる。

 

「なぜなら私は、己の死すら金で買えると思い上がった愚か者……貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな」

 

 その言葉に、驚愕の声を漏らすムウとキラだが、一方のロマは至って冷静であった。

 当然、それは彼がそのことを知っているからに過ぎず、“見ていた当時”は思うこともあったのかもしれないが、この世界に至り彼にとってそれは当然のことだ。

 なにも驚くことはないし、彼らとの関係性故に知らなかったとて『だからどうした』以上の感情を見せるわけにもいかない。

 違法なクローン実験? ブルーコスモスに所属し“チェシャ”を使っておいて何を今更、という話だ。

 

 故に、ロマはそのまま口を開く。

 

「貴様はすべての人類を裁くという野望のため……連合にザフトの情報を流したか」

「ほう、よくわかっている。それも君の“並外れた勘”というやつかな?」

「いや、ただカマをかけただけさ」

「フッ、大した役者だよ。ロマ・K・バエル」

 

 ロマはゆっくりと銃口を、クルーゼから降ろす。

 それを見て、ムウは驚愕に言葉を無くし、キラもハラハラとした様子でロマを見やる。

 だがクルーゼは笑みを浮かべたまま、ムウから銃口を逸らさない。

 

「貴様が持っているのだろう、渡せ……ニュートロン・ジャマー・キャンセラーのデータを」

「なっ、ロマお前!?」

「ロマさん!?」

 

 その言葉に、ムウとキラが表情を歪め、その男の名を呼ぶ。

 だが正反対に、沈黙するロマとクルーゼ、この世界において世界を歪めようと暗躍する二人の男。

 誰にも悟られるわけにもいかず、ただそれを内に秘めたままに、自らの存在を取り巻く者たちを利用し、思い通りに動かし、世界を己が望む結末へと導く。

 クルーゼは目の前の男が“識っている”ことを知らず、ロマは自らが目の前の男と同じ類の人間だということを“理解(わかって)いない”。

 

「フッ、フハハハハハハッ! なお求めるというのか、聞いてなお!」

「貴様の野望通りに踊ってやろうというのだ」

「結局、君も愚か者たちの一人だったということだ。人間の性であり業、だな」

 

 ロマのそれは、人間同士欲望の元、殺し合えばいいというクルーゼのスタンスに、加担するような行為である。その自覚はロマにもあるが、それ以外の道はない。

 このままであれば、ロマの知っている未来よりも連合───いや、アズラエルたちの未来は暗いものになってしまう。なればこそ、ロマは今ここでその“力”を手にする必要があるのだ。

 だからこそ、ここに来た。

 

「ロマ、君は間違いなく“悪魔”なのだろう。ディザスター(厄災)をもたらす……」

「悪魔が必要になるなら悪魔にもなる。私にも私の目的があるのさ……ラウ」

 

 ラウ・ル・クルーゼは空いた右手で内ポケットから一枚のデータディスクを取り出し、ロマの方へと投げると同時に、ロマから距離を取る。

 そしてロマは、足元まで転がってきたそれを一瞥した後、拳銃をクルーゼに向けるが既に彼はロマから離れた位置であり、彼はそのまま足元のデータディスクに手を伸ばす。

 ムウもキラも、その姿を見てハッとした表情を浮かべるが、もう遅い。

 

「フハハハッ、最後の扉は君が開くが良い! 赤い悪魔……そしてこの世界は終わる。そして、この果てしなき欲望の世界は……」

 

 ―――ラウ・ル・クルーゼ。あの汗、薬切れが近いな……。

 

「ロマっ、そんなもの手放せ!」

「そこであがく思い上がった者達! その望みのままにな!」

 

 データディスクを拾おうとするロマに、ムウが銃口を向けるが、ロマは静かにそちらを見たままデータディスクを拾う。彼は理解しているのだろう。ムウに迷いがあることを……故に恐れなく拾う。

 そして、クルーゼは早かった。

 ムウに向けられる彼の拳銃、その引き金が引かれようとする───その瞬間。

 

「そんなことっ!」

 

 物陰から飛び出したキラが落ちていた空き瓶を投げた。

 回転して飛んでいくそれが、クルーゼのマスクに直撃し、その勢い故にマスクは飛んでいくがクルーゼにダメージが入っているとは思わない。

 だが、クルーゼは顔を押さえながら忌々しげにムウとキラを睨みつけていた。

 異物、と称されたロマとしては何をするでもなく、拾ったデータディスクを内ポケットに入れるのみ。

 

 ―――待てよ、ここで俺が、コイツを……。

 

 クルーゼのその顔に、驚愕するムウとキラ。

 ムウは記憶の中の父親とまったく一緒だったことに、キラは先ほど見た写真のアル・ダ・フラガと瓜二つだったこと故に。

 ロマが銃をクルーゼに向けようとするも、途中で止まる。

 クルーゼがどう暗躍するか理解している故に、数多の可能性が、思考と彼の動きを重くさせていく。

 

「っ、貴様等だけで何が出来る! もう誰にも止められはしないさ。この宇宙を覆う憎しみの渦はな!」

「ッ……!」

 

 走り去るクルーゼにハッとして拳銃を向けるが、既にロマの死角に入ってしまったクルーゼにどうすることもできず、感覚に従いその場から転がれば、元居た場所に銃弾が奔る。

 撃ったのはムウで、位置的には足を狙ったものなのだろうと予測がつく。

 優しいことだと、ロマは内心で苦笑するが……ここで倒れるわけにいかないのも、また事実。

 

「ロマっ、まだ間に合う……それは連合に、ブルーコスモスに渡していい力じゃないだろっ!」

「いいや、これがあればもしかするかもしれん、ザフトの“アレ”に諸共蹂躙されるわけにはいかんのだよ」

「……あれ、だと?」

 

 ムウの声に、ロマが答えることはなく、ただムウが隠れる場所に拳銃を向けたまま、少しずつ下がっていく。

 キラが物陰から顔を出し、ロマがその表情に手を一瞬震わせるが……そこで止まるわけにも、全ての事情を話すわけにもいかない。

 なればこそ、彼はただいつも通り“赤い悪魔”でいるべきなのだ。

 

「これ以上の戯言は必要あるまい……」

「ロマさんっ」

 

 キラからの呼び声に背を向け、ロマはクルーゼとは違う方向へと走り出す。

 

 それ以上そこにいては、自らが揺れる気がする故に……。

 

 

 

 

 

 

 コロニーメンデルの外、宙域では既に戦闘が始まっていた。

 ザフトが動くよりも早く動かなければならないとうアズラエルの提案を、ナタルが飲んだ形で戦闘を開始したが、中々戻ってこないロマにナタルやクロトたちもがしびれを切らしたせいもある。

 しかし交戦を始めるなり、三機の新型G兵器に対して、アークエンジェル側が出撃させたのはジャスティスのみであった。

 

 フリーダム、ストライク、バスターの出撃がない。

 アークエンジェルと交戦を続けるセラフィムの中でアズラエルが目を細めて考察する。

 クロトたちを相手に、ジャスティスだけで長時間持たせるのは無茶だ。ともなれば出撃させられざる理由がある……そしてコロニー内部から偵察に行くと言っていたロマと交戦しているのか、それとも撃破されたか……。

 

 揺れるセラフィム。

 ブリッジのアズラエルは顔をしかめながら座席で上体を揺らす。

 

「くっ……」

「理事っ、やはりこの状況では……」

「ここって時には頑張らないと勝者にはなれませんよ……ずっとこのままじゃいられないんだ。うちのバエルが戻ってくるまでは頑張らないと」

 

 彼女が言うことに、ナタルは素直に頷いた。

 このままここで彼を見捨てて撤退などできようはずもなく、おそらくアズラエルも……いや、ジャスティスと交戦している三機すらもそれを認めはしないだろう。

 それに、あの“赤い悪魔”を置いて帰るなどしようものなら、軍法会議にかけられても不思議ではないし……ナタル個人としても、彼を見捨てるという選択肢は存在しない。

 

 

 

 レイダー、カラミティ、フォビドゥンの三機がジャスティスを追い詰めていく。

 三機からの連携のとれたコンビネーション攻撃に、SEEDを発動していてもなお、押されていくアスラン。

 カラミティのスキュラとシュラークでの攻撃の合間を縫うことで回避するジャスティスだが、次いで放たれたレイダーのミョルニルを避けること叶わず、シールド防御。しかし勢いに弾き飛ばされる。

 吹き飛んだジャスティスにフォビドゥンのフレスベルグが放たれるが、ジャスティスはどうにかそれを回避───しかし、そのビームは曲がった。

 その一撃はジャスティスの右脚を破壊。ようやく得た目に見えるダメージに、三者三様に笑みを浮かべた。

 

「ハァン、これなら殺れるかもね……!」

『ですね。おにーさんが帰ってくる前にやっちゃおうぜ!』

『おめーら! 気ぃ抜くんじゃねぇぞ!』

 

 さらにジャスティスを追い詰めるため、囲むように展開した三機。

 レイダーは左腕に装備された<2連装52mm超高初速防盾砲(機関砲)>、フォビドゥンは両腕の<115mm機関砲(アルムフォイヤー)>、カラミティは<115mm2連装衝角砲(ケーファー・ツヴァイ)>を放つ。

 連射される攻撃、PS装甲があろうとこの三機からの攻撃であれば当たれば隙が生まれ、致命的な追撃を受けかねない。ともなれば、ただの一撃も当たらないようにと立ち回るのだ。

 そしてアスラン・ザラは、それをやってのける。

 

 挙句、反撃にビームライフルとファトゥムに装備された二門のビーム<フォルティス>を放った。

 レイダーに向けて放たれたそれを、フォビドゥンがバックパックに装備された、エネルギー偏向装甲<ゲシュマイディッヒ・パンツァー>で逸らすも、ジャスティスは素早く、三機の包囲を突破して不利な状況から逃れた。

 

「マジ?」

『おいおい、おにーさんより強いんじゃないのコイツ!?』

『チッ……みてーだなっ!』

 

 

 

 アークエンジェルと交戦するセラフィムのブリッジで、アズラエルは歯噛みする。

 

 あの三人がしっかりと連携しているのであれば、間違いなくロマより強いはずで、それはアズラエルから見ても“最強クラス”であるはずなのだ……にも関わらず、決着はつかない。

 ようやく足の一本をもぎとった程度、出撃させたストライクダガーもM1アストレイたちと二隻の戦艦、エターナルとクサナギに足止めされ、撃墜されはじめている。

 そんな時、オペレーターのフレイ・アルスターが声を上げた。

 

「あっ! こ、コロニーメンデルから……ディザスターです!」

「ようやくですかっ……!」

 

 安堵した表情を浮かべるアズラエル。

 他のブリッジクルーやナタルも同じような表情だが、フレイだけが不安そうな表情を浮かべる。

 ディザスターは全身のバーニアを使い、クロトたちとジャスティスの交戦ポイントを大きく回り込みつつ、セラフィムへと接近した。

 

 

 

 

 

 

 セラフィムのハンガーへと戻ったディザスターのコックピットが開き、中からロマがその身を出す。

 周囲を見渡し、離れた出入り口近くに一人のノーマルスーツを纏った女性を見つける。その女、ハイータは左腕と右脚を器用に使って、そこからロマの方へと浮いて進む。

 ディザスターのコックピット前で進んできたハイータを受け止めたロマ。

 

「すまないな、呼び出して」

「いえ、みなさん忙しいから……どうしたんです?」

「これを頼む」

 

 そう言って、ロマがハイータに受け渡すのはデータディスク。

 

「え、これは……」

「戦闘が終わったらアズラエル理事に渡してほしい。この戦争を終わらせるための“鍵”をな」

「鍵、ですか……?」

 

 ヘルメット越しに彼女の額に自らの額を合わせるようにして、ロマは囁きだす。

 

「……君に託す」

「え?」

「戦場に出たなら帰ってくる主義だが、どうにもな」

「ちょ、ロマ君!」

「頼んだ」

 

 そのまま軽くハイータを出入り口方面へと押すと、ハイータは力のままに飛んでいくので、ロマは問題ないことを察してディザスターのコックピットに戻った。

 リニアシートに座りコックピットハッチを閉じると、ヘルメットを取って胸元を開け、深く息を吐く。

 モニターに映ったハイータは、出入り口近くの柵に掴まっていて、それを確認するなり微笑を浮かべ頷いた。

 

「チェシャ、もう一度出るぞ……」

『まったく、あなたなにをやってやがりますのやら』

「阿漕なことさ、さらに道化だ。挙句、冷静でない」

『あちゃ~こんなところ、わたくしの死に場所にしては華がなくってよ?』

 

 違いない、と同意する。

 

「ロマ・バエルだ! 発艦準備!」

 

『大佐、ディザスター出るぞ!』

『ディザスター出ます!』

 

 慌ただしい声、時たま揺れるセラフィム。

 突如、サブモニターが点く、オペレーターであるフレイのはずだが……。

 

『あなた!』

「アズラエル理事……」

 

 フレイの横で彼女のインカムを耳に当てているアズラエルがそこには映る。

 隣にいるフレイはというと、なんとも言えない表情を浮かべているので思わず笑いそうになるが、そこはいつも通り“仮面”を被って冷静。

 アズラエルの色々な表情を見てきたので、その力云々を抜きにしたって彼女が今何を考えているかはわかる。

 だからこそ、頷く。

 

「アレを渡すわけにはいかないでしょう。話であれば“帰ってから”でお願いします」

 

 その言葉に、アズラエルは思い切り顔をしかめる。

 

『……わかりました』

「ありがとうございます」

 

 そう礼を言えば、アズラエルはフレイへとインカムを返し、フレイも戸惑いながらそれを受け取った。

 そんなことをしている内に、ディザスターはカタパルトへと運ばれる。

 サブモニターに映るフレイは、どこか不安そうだ。この状況ならば他の者に会話は聞かれまい……。

 

「フレイ」

『え、はい』

「……キラのことだが、無事だった。後でもう少し詳しく話す」

『あ……はいっ』

 

 安心したように頷くフレイの目元には、少しばかりの涙が浮かんでいた。

 

『あ、ナスカ級からモビルスーツが出撃! 熱紋照合、ジン12、デュエル、シグー!』

「了解した……ディザスター、再度出撃()るぞ!」

 

 そして再び、セラフィムから出撃するディザスター。

 出撃と同時に身を翻してセラフィムから見て真上を向くような体勢になり、アンフィスバエナを低出力モードで放ち、アークエンジェルに損害を与え、目標ポイントを正面になるように姿勢を再び変える。

 前方の宙域でレイダー、カラミティ、フォビドゥンと戦闘するジャスティス。そして合流したフリーダム。

 片足を失ったジャスティスを見て、ロマは眉を顰めたが、撃墜されることはないだろうと高を括る。

 

「フッ、抜けるぞチェシャ!」

『あらやだ下ネタでして?』

「おい」

『失敬』

 

 加速するディザスターを見つけ、フリーダムがクスィフィアスを展開するが、即座にカラミティのトーデスブロックにより体勢を崩される。

 ロマはそのままディザスターを加速させ、ジャスティス、フリーダムから離れると、向かう場所はザフトが展開したポイント。

 

 つまり、エターナルとクサナギの二隻、さらにナスカ級三隻が相対する戦場である。

 

『M1が六機、ジンが十機、バスターとデュエルが戦闘中、ストライクもランチャーで出てますわ!』

「フッ、どうということはないな……!」

 

 あっという間に辿りつくなり、まず目先のジンへとさらに加速。

 その右腕でジンの背中を突き刺し、そのまま貫通させた。

 

 ジンの腹部から突然飛び出した、禍々しい鋭い爪をもつマニピュレータ。その腕の持ち主たるモビルスーツに、周囲の機体がほんの一瞬だが気を取られる。

 それだけ、ロマの存在というのはここコズミック・イラにおいて大きなものなのだ。

 ガクガクと動くジンの背中に左腕を添えて、右腕を勢いよく引き抜けば、それと共にオイルが飛び散り、ディザスターの装甲へと付着する。

 

『バスターとデュエル、こちらを視認……これ絶対やべぇ奴でしてよ』

「仕方あるまいよ」

 

 そう言いながら、懐から取り出した一本の注射器を首に突き刺し、中の液体を体内に入れた。

 所謂ドーピング、一時的な薬物強化……ハイータが飲んでいたθ(シータ)-グリフェプタンの研究によって生み出された副産物的なものだ。

 人によってかなり副作用も出るが、ロマはそれでも“出ない方”ではあったので、服用を許可されていた。いや、許可してもらった。

 服用するのは相当に切羽詰まった時のみという条件ではあったが、今がその時だ。

 

 故に、ロマはM1とジンとバスター、デュエル、ストライクに囲まれた状況で動き出せる。

 

『やれますの? どうせ面倒な“縛り”付きなんでしょう?』

「ああ、やってみるさ。私には帰りを待つ者たちがいる……これは絶対的な力だ」

 

 そう言いながら、操縦桿を握りしめた。

 自らにまとわりつくプレッシャーを肌に感じながら、口元には笑みを浮かべつつ───フットペダルを踏みしめる。

 突如の加速、それと共にジン数機がマシンガンを撃ってくるも、それらを放った時にはジンのモニターにディザスターは映ってすらいないことだろう。

 そしてそのジンを、M1が攻撃する。

 

 それをディザスターのコックピットで見ながら、ロマは苦笑した。

 

「ほう……!」

 

 M1とジンが戦闘を再開、だがこちらを攻撃するM1やジンも存在する。

 乱戦、ここに極まれり……おそらくだが最初にジンを攻撃したM1はアサギあたりだろうと、ロマは察した。

 バスターが拡散弾とミサイルを撃つのを確認し、距離故に大きな隙間ができていることを悟りそこへと加速し回避、さらに迫るミサイルを胸部の115mm機関砲<アルムフォイヤー>で迎撃。

 

「もらいうける……!」

 

 バスターへとアンフィスバエナを低出力モードで放つ。

 回避しようとするバスターだが、そのビームライフルは回避先へと放たれており、その一撃が右腕をわずかに焼いた。

 舌打ちをするロマが、素早く動きだしデュエルの<レールガン(シヴァ)>を回避。

 

「やるなバスター、腕を落とすつもりで撃ったのだが……即座に理解し止まったか」

『一般兵とダンチじゃありませんの!』

「わかっていたことさ……ちぃ!」

 

 接近してきたデュエルの縦に振るわれたビームサーベルをあえて紙一重で回避し、左足で膝蹴りを打ち込む。

 衝撃により離れたところを、右腕にビームクローを展開して振るうが、デュエルはそれを左腕のシールドで防御。

 そのままデュエルへとアンフィスバエナを向けるが、妙な感覚を感じたロマはデュエルの腹部を脚底で蹴って離脱。

 

「チィ、決めさせてはくれんか……!」

 

 ディザスターがいた場所を真っ直ぐに奔るバスターの高エネルギーライフル。

 アルムフォイヤーを放ちながら、デュエルと距離を取りつつバスターへとアンフィスバエナを放ち牽制。

 離れた位置からストライクが放ったガンランチャーを回避しつつ───加速。

 

 直線加速、からの急停止、そして直線加速。

 

 それらを繰り返し稲妻のような軌跡を描きながら、バスター、デュエル、ストライクへ牽制射撃を行いつつ───ジンの背後を取り、再び背中から腕を突き刺す。

 そのジンと交戦していたM1アストレイが、その腕の先にはいる。ジンを貫いた腕、その手首から徹甲弾が放たれ、正面にいたM1アストレイの頭部を穿つ。

 

「ぐっ……!」

『あなた無理しないでくださいまし!』

「無理難題を言う……!」

 

 またしてもジンを蹴り、離れる。

 そのジンを他方向から放たれた───アグニが貫く。

 

「ムウ、やる気になってしまったな……」

『まぁ敵ですものねぇ、むしろ今までよく手加減してくれてたと───っぶねぇですわね!?』

「見えていたさ……!」

 

 紙一重で、バスターが放った<超高インパルス長射程狙撃ライフル>を回避。

 だが、その攻撃を感じていても紙一重になってしまうのは、余裕がないからに他ない。故に、追い詰められているということに間違いはないのだろう。

 クサナギとエターナルがナスカ級へと攻撃しているのがモニターで見える。

 

 ―――そうだ、それでいいラクス・クライン!

 

 笑みを浮かべるロマだったが、直後にその表情を歪めた。

 妙なプレッシャーは今まで以上に彼を追い込むのに十分なものだ。

 

「ッ……貴様がくるか!」

 

 だが、即座にその場から退けば、目の前を通るのはアグニ。

 そう何発も撃てる攻撃ではないが、まだエネルギーに余裕はあるだろう。

 ディザスターを加速させ、近場のM1を足蹴にして加速、さらに接近するジンをビームクローで切り裂きながら、ストライクへと接近。

 展開していたビームクローを振るうが、ストライクはギリギリで回避。

 

「だが……!」

 

 ディザスターの脚部底をアグニにぶつけるなり、装備されたクローが展開されアグニを挟み込み……切り裂く。

 さらにアンフィスバエナをストライクの頭部に向けるが……妙な感覚。

 

「しまっ」

 

 ―――遅いっ!?

 

 アンフィスバエナの銃身が、突如現れたシグーの重斬刀にて真っ二つにされる。

 PS装甲を纏っているはずもないそのビームライフルはあっさりと実体剣で切断され、顔をしかめながらもロマはフットペダルを踏み込みその場を離脱。

 再びバスターとデュエルからの攻撃を回避しようとするも、拡散弾が装甲をかすめる。

 

「ぐぅ!」

 

 さらに、シグーのシールドに装備されたバルカンを受け、機体はともかく中のロマが揺さぶられた。

 

 シグーのコックピットで、ラウ・ル・クルーゼは笑みを浮かべる。

 

「私の勘が君を生かしておくべきではないと言っているのだよ。アレを持ち帰ったのならば、君はもう死んで良い……今は協力と行こうじゃないか、ムウ?」

 

 シグーを即座に移動させれば、その軌道上を奔るのはストライクのガンランチャー。

 ムウにとってはロマよりも倒すべきと感じる存在は、やはりクルーゼなのだろう。だが、それも理解はしているのかクルーゼはコックピットで嗤う。

 もとより協力できるなどと思っていないが、その状況そのものが“彼ら”に対する挑発であり嫌がらせであり、クルーゼ自身の目的に近づくことだ。

 だからこそ、どのような形であれロマ・K・バエルを討てるかもしれないこの状況は悪くは無い。

 

「私はお前が嫌いなのだよ。他の誰よりも貴様には討たれたくないと思う」

 

 それは彼の持つ才能が、アル・ダ・フラガを思い出させるからなのか、それとも……。

 

「私も、ムウも、もちろんキラ・ヤマトも……だから、ここで墜ちてくれると、助かるのだがね!」

 

 彼を討つのは別段、今でなくても構わないが、討てるならば討っておいて損は無いだろう。

 まぁ、もしもこの場で討てなかろうと、場合によっては自らが手を下すまでもなく、彼は消えるかもしれないが……。

 

 バスター、デュエル、ジン、M1、ストライク、シグーの攻撃を掻い潜るディザスター。

 致命的な攻撃は回避しているものの、もはや時間の問題だろう。

 コックピットの中、ロマは顔をしかめる。

 

『あなた、やりますわ』

「ッ、認めん……まだ調整が完全でな───」

『ここでやられたら調整もなにもありませんわ! 守るのが私の仕事でしてよ、あなた!』

 

 顔をしかめながら、ロマは加速して各機から離れた。

 無言であり、なにを言うでもないロマではあったが、チェシャは彼の言いたいことを“感じ、理解し”て、そして起動する。

 彼がそうであるように、彼女もまた戦士なのだ。

 

「チェシャ……!」

 

 その声と共に、手元のモニターに表示されている画面が変わる。

 真っ赤な背景に浮かび上がる白い文字は、起動画面。

 

『General Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver Synthesis System……接続、有線式サブアーム【ファウスト・ヌル】起動』

 

 ディザスターのツインアイの色が緑から赤に変わり、ウイングバインダーから二対四本の“腕”が展開された。

 バインダーの先に延長するように一本、下部分に一本の隠し腕。上腕は黒く、前腕はディザスター本体のそれと同じもの。

 

 四本の腕を、まるで翼のように広げ───赤き悪魔が羽撃(はば)たく。

 

 

 







これ絶対ラスボスの奴!

ということで、今回は少し早めに投稿できました
そのぶん荒がある……かもです

メンデル、これを初めてから書きたいとこの一つでした
ロマはめっちゃ暗躍してNJCまで手に入れました、キラ(原作)視点だとめっちゃヤベー奴
三馬鹿も奮闘、たまにはちゃんと連携させたいんですが、そうするとパワーバランスが崩れるので避けてます
そしてラウにはめっちゃ嫌われるという、しょうがないね。このタイプのナチュラルをラウが嫌わないはずがないね

ディザスター(とチェシャ)がようやっと全力モード
たぶんディザスターの能力開放的なのは気力130以上か超強気で発動するタイプ
VSシリーズだとたぶん時限強化……とか考えるのが最近おもしろい

では、次回もお楽しみいただければです
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