盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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初志は再び

 

 あれから四ヶ月が経ったC.E.68年……。

 

 士官学校では、アズラエルに気に入られたとの噂はすぐさま広まってしまったが、別段校内であれば仕方ないことだ。そもそも目立ってしまっていたので今更、それに最近は“例の密約”もあり、コーディネイターの女生徒と一緒にいるから“よろしくやっている”なんて噂まで出てしまっている始末。

 

 週末は癒しを求めどこかにでかけたい気もするのだが、最近はそうもいかない。

 

 ロマは今日も今日とてアズラエルの“部下”の迎えを受け、再び施設へとやってきた。

 

 本来ならクロト、オルガ、シャニの三人とも別の施設の実験体ではあったようだが、アズラエルの一任でこちらに集めたらしい。

 おそらく、アズラエル自身の私兵にするためだろう。コーディネイターレベルの強化兵、自分がアズラエルの立場でもおそらくそうする。

 しかも、今はなにがあるかわからない状況だ……。

 

 

 

 週末といえばこの道。見慣れた通路を通るサングラス姿の怪しい男こと、ロマはそこに到達する。

 ポケットを探り、“なぜか渡されたIDカード”を使用して、部屋に入るとそこには噂の三人娘……ガラが悪いのがウリである。豊かではないが健康的な生活はさせてもらっているのか、発育が良いのが非常に彼の精神衛生上よろしくない。

 

 少なからず今世において、童貞(チェリーボーイ)なロマ。

 そんな彼には刺激が強い薄着で、挙句に良い匂いもする。別段良いもので身体を洗えているわけではないだろうに、そう感じるのはやはり彼が青い証拠だ。彼自身もそれを自覚しており、だからこそここに来るのはいかんせん億劫でもある。

 

 しかし、ロマが望んだ事とはいえその部屋はまるで一軒家のリビングだった。

 テレビにソファ、近くにはダイニングキッチンや、窓からは“液晶に映された外”も映っている。ついでにもう一部屋あってそこに着替えなんかもあるらしい。

 三人と“打ち解けろ”とのアズラエルの指示。それを完遂するための会話、それをするにあたって必要なものを聞かれた際、ロマが注文したのは『普通にリラックスできる空間』なのだが、思ったより“気が抜けてしまう”ものだった。

 

「おはよう」

 

 オルガとクロトがロマを一瞥するも、すぐにクロトはゲーム、オルガは小説に視線を戻した。シャニは椅子に座ったまま三角座りで耳に差したイヤホンで音楽を聴いている。なんなら音は漏れていた。

 ソファに横になったままゲームをするクロトが、一区切りついたのかゲームを置いて口を開く。

 

「今日もきたんだお兄さん」

「アズラエル理事に任されてるからにはサボれんよ」

「結局、あのおばさんになに頼まれたのさ?」

「普通に君らの世話だよ」

 

 実際には違うものの、おおよそ間違ってもいないことだ。

 

 首を傾げるクロトにそう返すと、ロマは静かに息をついた。

 キッチンのほうに向かうと乾燥ワカメのパックを取り出しいくつか口に放り込む。塩気が効いてよい。きっと頭皮にも良いのだろうと何度か頷いてすぐに戻す。食べすぎ厳禁なのだ。

 とりあえず、本日やるべきことを思い出す。

 

「ロマ、今日はなんか良い小説もってきたか?」

「今日はないな、オルガに教えて欲しいぐらいだ」

 

 二人とはなんとか“ある程度”は打ち解けることはできた。クロトは一緒にゲームをやったりするし、オルガはただ普通に雑談をしたりもする。

 普通だからこそ、二人にとっては珍しいからこそ、恐れるそぶりを“隠し切る”からこそ、それなりに打ち解けられたのだろうけれど、問題は一人―――シャニだろう。

 

「ゲームやろうよ!」

 

 立っているロマにソファに寝転がったままのクロトがそう言うが、軽く平手を出す。

 

「今日はアズラエル理事から“シャニの外出に付き添うように”との指示を承ったのでな」

「え~シャニだけ外~?」

「言ってもしょうがねーだろ。シャニが外行くなんて言うわけねぇし。おばさんの指示だろ?」

 

 おばさん、つまりムルタ・アズラエルを指しているのだろう。アラサーではあるが酷い言い様であると、ロマはサングラスの中で目を逸らす。同意なんてとてもじゃないができない……彼女が見ているかどうかはともかくとしても、ここも監視されているのだから。

 ロマはシャニに近づくと、その前で膝を床につけてシャニと目を合わせる。

 

「シャニ?」

「ん……?」

 

 左目は相変わらず前髪に隠れて見えないが、三角座りしたままのシャニは目の前のロマに気づいてイヤホンを外した。

 相変わらず特に思うところなどない様子でロマの顔を見る。

 

「なに?」

「今日の予定さ、聞いているだろう?」

 

 彼なりの大人らしさを演じた口調で言えば、シャニは軽く応えて頷いた。

 しかして、三角座りしているシャニの膝に圧迫された胸、シャツの弛んだ襟ぐりから見えるその谷間……彼の平静を崩すには十分すぎる威力である。

 

 ―――俺の平静って醜くないか?

 

「ふぅー……」

「どしたのお兄さん」

「いや、なんでもない……」

 

 不思議そうに言うクロトに平手を出して大丈夫、との意を伝え頷きつつ立ち上がる。

 それに合わせて正面のシャニも立ち上がれば、身長差もあり、相変わらずそのたわわな谷間が少し視線を下げれば見えることもあり、即座に移動してオルガの傍にあるソファに座った。

 故にすぐ近くのオルガに視線を向けると、彼女はわかっているのかジト目で自分を見ている。

 

「くっ……認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの」

「カッコつけてもわかってんだかんな」

「……情けない」

 

 フッと笑ってオルガのジト目に耐えられず視線を逸らすが、そんなロマにクロトは首を傾げていた。

 シャニは着替えに行くのだろう。そう思いながらその横顔を見ていると、シャニはシャツに手をかけるなり―――。

 

「なにっ!?」

「おいシャニ?」

「チィ! オラァッ!」

 

 ―――めくりあげる。

 

 肌色のたわわが下半分ほど見えたその瞬間、ロマに飛びかかってきたオルガがそのままロマをソファに押し倒して馬乗りになった状態でシャニへの視線を塞ぐ。視界をオルガが身を挺して塞いだせいで視界一杯に騎乗したオルガ。

 

「うおっ!」

「見るなテメェ!」

 

 視界はオルガで一杯、顔は逸らさないように両手で押さえつけられている。武器を常日頃から握っているのにもかかわらず柔らかいその手に驚く。なんなら馬乗りになられているので太腿やら色々と柔らかさにかなり感情を乱されそうだ。

 そんなオルガは怒った様子でシャニの方に顔を向ける。

 

「シャニっ、テメェもそんなとこで着替えてんじゃねぇよ!」

「え? 別に私らの裸なんておっさんたちに見られてんじゃん……」

「そういう問題じゃねぇだろ特にこいつはアイツらと違ぇんだから!」

「ハァン……そういうもん?」

「ですね。さっさと向こうで着替えてこないとオルガがまたキレるよ?」

 

 そんな言葉に、シャニは不服そうな表情で小首を傾げて別の部屋へと歩いていく。ロマには視えないがもれなく乳を放り出した状態で、だ。

 シャニが部屋を移動したのを確認すると、深く息をついて安堵したように、オルガはロマの顔を押さえていた手を離す。ロマは驚きながらも、どうするかと思考した結果、素直に言う他ないなと頷いた。

 

「……オルガ、女の子にこう乗られっぱなしは私の精神安定上よろしくないんだが」

「ッ!」

 

 気づいたのか、オルガがバッとロマの上から退いた。上体を起こすロマが、僅かにずれたサングラスの位置を正す。

 

「なに赤くなってんのオルガ」

「うっせぇよ……」

 

 不機嫌そうにソファに横になるオルガは小説を手に取り、ロマから顔を隠すように小説を置くと眠る体勢に入った。肩を竦めるクロトに、ロマは『気にするな』と言ってから、軽く頭を撫でる。

 くすぐったそうに目を瞑るクロトを見て微笑を浮かべ、ロマは深く深く深呼吸をした。いかんせん童貞には刺激が強すぎたのだろう。柔らかな太腿や尻の感触は想像すればすぐに思い出せてしまう。

 

 ―――ダメだダメだ。なんと破廉恥な! って俺の心の中のブレックス准将が言ってる!

 

 言ってないが、言っているということにしておいた。

 クロトはロマがゲームの相手をしないということが確定しているからか、興味なさげにソファに横になってゲームを始める。

 待っていると、すぐにシャニがやってくるがオレンジ色のシャツ。上に青い連合の軍服を前を開けた状態で着ているが……まぁさして問題もないだろう。

 

「……じゃ、行くよ」

「了解した。それじゃクロト、オルガ……シャニを借りていくぞ」

 

 借りるとはまた違うとも思ったが、それで伝わったのだろう。クロトは適当な返事、オルガは黙して片手を上げる。返事を確認してシャニと共にIDカードを使って部屋を出る。

 

 残されたのはクロトとオルガの二人。

 オルガが顔にかぶせていた小説を取ると上体を起こすが、その顔は未だ赤さが引いていない。

 

「……デートかよ」

「羨ましいんだ」

「違ぇよ、別にアイツがどうとかじゃなくてだな」

「“そんな小説”ばっか読んでるから頭の中がピンクになっちゃうんじゃない?」

 

 バカにするように言うクロトに、オルガが額に血管を浮かび上がらせる。ここで戦争をおっぱじめても自分は構わないが、そうなった場合に帰ってきたシャニと、なによりロマに『仕方ない奴らだな』的な顔をされかねない。それは癪であると、オルガは怒りの矛を収めて、小説に視線を戻す。

 

 直後に、男に女が騎乗する内容が出たことにより、先ほどのことを思い出す。オルガは顔を熟れたトマトの如く赤くしながら不貞寝に移行した……。

 

 

 

 

 

 

 色々な手続きはアズラエルが前もってしていたようで、書類に名前を書いてGPS等が内蔵された特殊な腕輪をつけるロマ。シャニは同様の型にも見えるチョーカーだ。

 二人で施設を出て街を歩くが、ロマはシャニの隣を歩きながら彼女の行く方向に着いていくのみだ。

 そもそもなぜシャニと二人で外出なのか? よくわからないが、きっとアズラエルなりの考えがあるのだろう。

 

 都会ということもあり人の数も多い。しかも外出時にはアズラエルの指示でシャニは音楽プレーヤーは没収され喧噪が耳に入ってくる。そうとう煩わしいのだろう、ロマは彼女がどこか不機嫌なようにも感じた。

 そんなことを思っていると、意外にもシャニの方から口を開く。

 

「たぶん……」

「ん?」

「おばさん、私らに護衛とかもさすつもりだから、パーティーとかに連れてっても慣れるようにしたかったんでしょ」

 

 この外出の理由だろう。素直に関心して頷くロマ。

 

「なるほどな、だから音楽プレーヤーも無しでか……それはまぁ、仕事だからな。慣れるしかあるまいよ」

 

 そう答えると、シャニはポケットから小さな端末を取り出した。

 

「ルート、決められてるから……」

「ああ、なるほどマップか……思いの外、歩かされるようだな」

「ん、さっさと行こ」

「そうだな」

 

 意外にも、ここ二ヶ月で一番話せているのではなかろうかと思うロマ。基本的にクロト、オルガ、シャニの三人共と一緒だったもので、どうしても雑談ができるオルガ、ゲームをやれるクロトに会話が集中しがちだったが、こうして二人になればシャニも会話相手が自分しかいないからか、口数は多い。

 フッ、と口元が緩むのは“彼女と打ち解け始めた喜び”からか“任務の成功が近い安堵感”からか……。

 

 ―――なに考えてんだ。原作通り進めてノーマルエンドで終わらす予定なんだから、あまり仲良くしすぎるのは良くないだろうに……。

 

 理性では深く理解しているのだ。コズミック・イラの歴史を詳しく知っているわけではないが、おそらく現在、彼女らの性別を除いて歴史は正常に進んでいるのだと……。

 だからこそ、このまま進めるのが良いのだと。

 

「おにーさん?」

「ん、ああすまない。どうしたシャニ」

「ここ、曲がるよ……大丈夫?」

「了解した。大丈夫だ」

 

 シャニに着いていく形で、さらに人がごった返す大通りに入る。シャニと逸れてしまわないように着いていくも、いかんせん人通りが多いせいでシャニも歩きづらそうであった。

 さすがに戸惑っていたせいか、人にぶつかってよろめいたシャニを、ロマは後ろから支える。

 

「大丈夫か?」

「ん……っ」

 

 左髪が少しわかれていて、右目の紫に対して左目の金が見えていた。ハッとしたシャニが急いで隠して歩きだすも、また人にぶつかってよろめくので、ロマが支える。

 さらに同じようにまた左目が出てしまったらしく、それを隠していた。

 ロマはシャニを連れて道の端までいくと、そっとシャニの顔を見る。

 

「っ……」

「そういうことか……」

 

 左目を隠したい理由がなにかしらあるのだろう。オッドアイが嫌というよりは、それによる奇異の目が嫌だとか、などと考察をしてみるも答えが出るものでもない。今現在わかっていることはシャニは左目は隠したいということだ。

 故にロマは自分のサングラスを外して、シャニにかける。

 

「え?」

「……ん、これで良いか?」

 

 そう聞くロマの瞳は、右目の青に対して左目の赤。

 初めて彼が来たその日、サングラスをしてなかった彼にシャニだけが興味を示した理由がそのオッドアイ。彼がそもそも校内で目立っている理由の一つでもある。

 

「いいの? 目、隠したくてこれしてたんじゃないの?」

「いや、“俺”がサングラスをする理由は……ただ、そういう人に憧れているだけだよ」

「……?」

「とどのつまり、カッコつけたいだけだ」

 

 正直に言って苦笑を浮かべると、シャニも少しばかり笑みを零した。

 大人びた雰囲気を“作っている”彼の、珍しい年相応の気恥ずかしそうに笑う姿に、シャニは零れる笑みを止められない。

 

「なにそれっ……」

「男ってのはそういうもんなんだよ」

 

 薄らとはいえシャニの笑顔を見て満足したロマは、軽くその頭を撫でるとシャニの手を取る。

 

「とりあえずここを出るまではこうしとこう、俺……私のあとを着いてきてくれればいい」

「……うん」

 

 歩き出すロマに着いていくシャニ、サングラスにより暗い視界。

 

 その中でも、前を行く青年の金色の髪は輝いて見えて―――。

 

 

 

 

 

 

 クロトとオルガは相変わらず、特に必要以上の会話をすることなくそれぞれやりたいことをやっている。四六時中一緒にいるのだから、それほど会話することもないということだろう。

 時折、時計を見ては時間を確認。そうしていると、クロトが口を開く。

 

「お兄さんが来るとさ、実験も無くて痛くも無いし、結構なことだねぇ」

「まぁその点に関しちゃありがてぇけどな」

 

 当初はアズラエルの部下、ということで警戒はしていたものの、時折出すポカを見る限りその可能性は低いということは、三人の中でも一致していた。それに“部下”と言うにしてはやけに“気安い”気もするし、アズラエルに対して“壁を作りすぎ”ているのだ。

 故に彼の話を信じるなら“気に入られた”だけなのだろう。

 結果、彼が来る日であれば実験もなにもなく、オルガたちにとっても唯一、一日ゆっくりできる休息日。

 

 そんな風に感慨に耽っていると、扉が開く音がした。

 

「ただいま、だな」

 

 戻ってきたロマとシャニ、どこも怪我をしていたり汚れたりはしていないようだし、時間としては1時間ほどだろうか……手荒な実験があったと言う風でもない。

 やはりただ単純に外出、外を見回った時の影響などを観察する実験だったのだろう。だが気になる点が一つあるとすれば、オルガは視線をロマの腕に向けた。シャニがその袖をつまんでいる。

 それになぜか、シャニはロマのサングラスをしていた。

 

「なんでグラサンしてんの?」

「少し貸したのさ」

 

 クロトの疑問に答えたのはロマ。シャニはなにを言うでもなく、ロマの袖から手を離してサングラスを外すと、両手でそれを返す。受け取ったロマが頷いてそのサングラスを胸ポケットにかけた。

 そそくさとシャニは椅子に座って音楽プレーヤー近くのイヤホンを耳に入れる。

 苦笑するロマに、クロトとオルガが首を傾げた。

 

「まぁなにはともあれミッションコンプリートだ。今度はクロトとオルガもあるだろうし、その時はよろしく頼む」

「ほんとお守りって感じだねぇ、おにーさん」

「アズラエル理事の指示だからね。今後ともよろしく頼む」

 

 三人に気づかれぬようにしつつ、“大人ぶって”そう言う彼に、クロトとオルガはフッと微笑。

 ロマは少しばかりの安堵感を感じていた。この三人と共にいるときの妙な落ち着き、その正体はわからない……。などと感慨に耽っていると、シャニが上着を脱いで、シャツに手をかける様子が視界に映る。

 またか、と思う。オルガは間に合いそうもない、クロトは別に気にしてない。

 

「……っ」

 

 シャニは途中で止まると、上着を持って別の部屋へと歩いて行った。

 

「……助かったようだ」

「見れなくて残念、じゃねーの?」

「茶化してくれるなよ」

 

 そう言いながら、肩をすくめるロマは時計を見てから頷く。

 

「少し出てくる。アズラエル理事に呼ばれているしな」

「んー」

 

 クロトの返事ともいえないような返事を受けて、頷いたロマが出ていこうとするがその前に着替えたシャニが戻ってきた。シャニは相変わらず椅子に座るのだが、凶悪な谷間にロマは気が気ではない……ものの、表に出さないのはこの18年間、他人の前では“仮面”を被ってきた成果だろう。たまにボロは出ているが……。

 シャニの傍に寄るロマ、気づいたシャニがすぐにイヤホンを外した。

 

「サングラス、シャニに似合うのを持ってくるよ」

「……ん、ありがと」

「ああ、ではまた後でな」

 

 軽くシャニの頭を撫でてから、ロマは部屋を出ていく。

 残される三人、クロトは相変わらずゲームをしているものの、オルガは口を半開きにしてシャニを見ていた。

 

「赤くなってんじゃねぇぞ……」

「うっさいオルガ」

 

 再びイヤホンをして、シャニは自分の世界に閉じこもる―――今は、一人の世界で色々と噛みしめたかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 ロマはアズラエルに呼ばれて、三人娘の部屋から少し離れた部屋へと入った。

 大きなテーブル、ソファ、来客用の部屋。偉い奴が座るのだろうなと思えばアズラエルが座っていた。本当に偉い人が座っていたので、ロマは動揺を顔に出すこともなく、敬礼。

 相変わらずのビジネススマイルのアズラエルと、その向かいにはこの施設の所長。

 

 止まっていると、アズラエルが息を吐いて自分の隣を叩く。軽く礼をしてそちらに向かって座る。

 

「御無沙汰しています。所長、アズラエル理事」

「あー、いいですよ今更そんなの」

「そういうわけにはいきませんよ」

 

 そう言うロマに、アズラエルは『でしょうね』と呟いて笑う。

 所長は先にそちらの話を、と平手でロマに促すので、素直に頷いておく。

 

「シャニとの外出は問題ありませんでした。何事もなく……ああ、サングラス必要ですかね。結構ナイーヴなんですよ」

「なるほど、それじゃ経費は出すので買ってきてください。君のセンスに任せます」

「……厳しいことを言いますね」

「センス無かったらお仕置きですよ?」

「なんですかそれ」

 

 今のとこただの一度もアズラエルの反感を買ったことは無いが、お仕置きとはなにをされるのだろうかと少しばかり気が重い。別に受けなくても良い罰を受けるのはごめんである。

 

「そうですね。一日私の護衛してもらうとか?」

「死にますよ。私は一般人ですから」

 

 よく言う、と所長は心の中で思った。所長にとっては、アズラエルとそこまで気安く話すというのはそれだけ異常であり、一般人の範疇におさめて良いものでもないだろうと思う。相手はブルーコスモス盟主。普通に話すのだって緊張するべき相手なのだ。

 しかもまだ17ほどの子供が……。

 

「ではこれであの三人とはそれなりに、仲良くはなれましたか?」

「さぁ、人の心などわかりませんよ。私から言わせれば大した事のない会話が成り立っているというだけで……」

「それでは今後は訓練の方にも顔を出してもらいましょうか、参加も」

 

 そこで、ロマは固まった。所長はわかってはいたが、顔をしかめる。

 

「……正気ですか? ブーステッドマンたちと?」

「当然です。私は君をあの三人の“まとめ役”にしたいんですから……“保護者”と言っても良い」

「歳はそんなに変わりませんが……」

 

 嘘だ。17年を生きている彼、は“前世”を含めれば彼女たちの2倍以上を生きている。やはり心と身体は年齢相当になっている気もするが……。

 しかし、今後のことを考えれば彼女に従っておくにこしたことはない。

 

 ―――それ以上の感情は無いはずだよ、な?

 

「とりあえず当面の間は、不承不承ながら了承しましょう」

「はい、良い子ですね。ちゃんと嫌そうなことは嫌そうに言うところ、好きですよ?」

「……無敵ですか」

「これでもビジネスウーマンですから」

 

 所長はアズラエルの一言には頷くしかない。故に、彼はあの三人娘との訓練に参加させなければならないのだろう。しかも重傷を負わせるわけにもいかないまま……厄介なことである。

 所長が悩む中、アズラエルはニコニコと笑顔を浮かべたまま、ロマの耳元に口を寄せた。

 

「それではお願いします。くれぐれも怪我のないように……君は私のなんですから」

「……胸がときめきますね」

「そりゃ結構」

 

 笑うアズラエルに、苦笑で返す。

 

 ロマは今すぐ頭を抱えて天を仰ぎたい気持ちで一杯である。別段アズラエルに対して、ではない。状況にである。

 

 心の中で初心を噛みしめる。“原作組に関わらず史実通り”に……これから始まるであろう戦争を収めるためには“必要な犠牲”が存在するのだと、反芻する。

 ただ“自分が平和に生きるため”に、今は彼女たちと共に行動せざるをえない。

 

 ここさえ超えればいずれは、そんな甘い欲に踊らされる。

 

 “必要な犠牲を受け入れる”……それができるほど特別な人間でもないくせに。

 

 

 ―――とりあえずサングラス、買ってくるか。

 

 

 





三馬鹿娘と仲良くなってきたっていう回

まだちょっと退屈な話でもあるかもですね
次回は少し時は飛んで、大きな動きがありそうです

まだまだ始まったばかりですが今後もよろしくお願いします

オリキャラ(コーディネイター娘)一人追加、すりゅ?

  • オリキャラはもう充分!
  • すりゅうううううううううううう

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