盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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消えていく灯り

 

 プールでの一件、その夜。

 

 アズラエル財団が所有しているその高級ホテル内のバーで、ロマは一人、カウンター席に座っていた。

 時刻はすでに0時を回り、深夜と呼べる時間である。

 設置してあるテレビから聞こえる音は、なんてことはないニュースの報道。

 

「演説でもあればな……フッ」

 

 名場面の再現をしたいなどという俗にまみれた欲が出るのは、酒のせいだと思いたいところ。

 なにも誘った相手に振られたからこうして一人でいるというわけではない。単純にアズラエルは“疲れて寝ている”し、ハイータもクロトもオルガもシャニも眠っているというだけだ。

 だからこそ一人。それもたまには悪くないだろう……。

 一人になると余計なことを考えたりもするが、酒の力があればそんなこともないはずだ。

 

「大佐……?」

「む、ナタル。君か……」

 

 そこにいたのはナタル・バジルールだった。

 軍服を着ているが、軍人なのだから正装は当然そうである。わざわざロマのように“コスプレ(スーツ)”で来る者の方が軍人では少ないくらいだ。

 故に、ナタルは少し驚いた様子だが、そのままロマの元へと進む。

 周囲を軽く見渡すのは、“いつも一緒の相手”が誰一人としていないからだろう。

 

「今日は一人さ、付き合ってくれるのか?」

「その、お邪魔でなければ……」

「いや、嬉しいものさ」

 

 隣に座るナタルを前に、サングラスをそのままにロマは静かに笑みを浮かべた。

 

「ん? ……酒、飲めたか?」

「ああいえ、たしなむ程度には……さ、砂漠でのことは」

 

 砂漠の虎との戦いの後、勝利を祝してムウやマリューたちと共にサイーブと乾杯した時のことだ。

 中々にアルコール度数の高い酒を用意されたせいか、ナタルがむせていたのを思い出す。

 下戸、かはわからないがそれほど強い酒を飲む習慣はないのだろう。正しい軍人ではある。

 

「まぁここはバーだ。アルコールに弱い者の飲みやすいものから、潰しやすいものまである」

「つ、潰しやすい、ですか……」

「ホテルの中だからな。君もロクでもない男に潰されないように気を付けた方が良い……敵に鹵獲されたくはないだろう」

 

 物々しい言い回しで生々しいことを言うと、ナタルは少しおかしそうに笑みを浮かべながら頷き、カウンター越しに酒を頼む。

 少しばかり無言で設置してあるモニターに視線を向けているが、報道番組はジブラルタル侵攻作戦ぐらいしかしない。

 ロマとナタルにとっては重々知っていることである。

 

「もう一杯、おかわりをくれ」

 

 ロマがそう言うと、マスターらしき男が頷く。

 程なくして、酒がナタルとロマの前に出された。

 

「では……」

「ああ、乾杯」

 

 二人がグラスをぶつける。

 同時に口をつけるが、あまり多く飲むものでもない。少しだけを口に含み、飲み込む。

 ナタルは度数の低いものではあるが、喉を通るアルコールの感覚をしっかりと感じた。

 

「えっと、大佐はなにを飲んで?」

「芋のショーチューだよ。独特の香りがあって悪いものではない」

「日本の、ものですね」

「良く知っているな。まぁなに、慣れ親しんだ味が一番ということさ」

 

 そう言いながらもう一口。

 すると、ロマはサングラスの奥の瞳をしっかりとナタルへと向けた。

 黒い短い髪の下、その両の瞳が揺れている。酒のせいだけではあるまい。

 

「どうした?」

「え……」

「良いさ、酒の席だ……」

「……その、アークエンジェルのこと、です」

 

 ―――まぁ、それ以外ないわな。

 

 もう一つだけありもするが、それについては今更ロマに言うことでもないだろう。

 故に、アークエンジェル。

 

「あれだけいたんだ。情がわいて当然というものさ……軍人である前に人だよ。我々は」

「バエル大佐も、迷いますか?」

「迷わないわけがないさ……ただ、私は君ほど優しくないのさ」

「優しいとは、違うと思います。これはただ、割り切れていないというだけで……」

 

 一方的に裏切ったと言うならば、撃って当然だろう。

 しかし、アークエンジェルに限って言えば事情があまりに違うから……同情の余地があるからこそ、迷うのだ。

 連合に捨て駒にされ、挙句に逃げ込んだオーブも焼かれ、そして逃亡艦として狙われる。

 マリューたちと旅を共にしていたのだから、彼女たちが手前勝手な理由からそうなるとは思えないのだろう。

 だからこそ、迷う。

 

「君はそれでも良い」

「え……?」

 

 ロマはそれら全てを識っている。その上で言うのだ。

 アークエンジェルの事情も、オーブの事情も、キラの事情も、アスランの事情も……すべてを理解し、識った上で、彼らを“甚振る”ことをして、全てを理解した上で核の力を手にし、ザフトを討ちに行く。

 最初の頃の良心の呵責すら、今ではずいぶんと薄くなってきた。

 決して辛いと思わないわけではないにしろ、それは自分が人でなしになってきたようで、そういう余計なことを思考する。

 

 そこで、ロマは頭を振る。

 

「なに、これからアークエンジェルとやりあうとは限らんさ、逃亡艦アークエンジェルは他に任せ、我々は次の作戦に備えよう」

「……はい」

 

 素直にナタルは頷いた。

 次の作戦、ボアズ侵攻、アークエンジェルたちが立ちはだかることはまずない……ともなれば、気も楽というものだ。

 ただしボアズへの侵攻後、軽い補給だけを済ましてすぐに次の作戦というハードスケジュールではあるが……。

 

「君に任せる。セラフィムのことは」

「も、もちろんですっ」

「アズラエル理事のこともな」

 

 その言葉に、ナタルはハッとする。

 

「私達は艦を離れることが多いからな。余計に、さ……君を信用している」

「しかし私は、まだ艦長としての実戦など」

「君は良い艦長になる」

「ッ……!」

 

 それは奇しくも、ナタルが別れ際にマリューに言われた言葉。

 ロマ自身が意識して言ったつもりはなかろうと、それは確かにナタルに響くのだろう。

 だからこそ、頷く。

 

「お任せください」

 

 しっかりと、サングラスの奥のロマの瞳を見据え、ナタルは言葉にする。

 来たるべき日までは、そう時間もない。

 

 

 

 その後、かなり酔ったナタルを部屋まで送り届けてからロマは廊下を歩いていた。

 ふと、視界に映った赤い髪。

 

「フレイ・アルスター……?」

 

 その言葉に、赤髪の少女はロマの方を向く。

 最近は会うことも話すことも増えたものの、彼女はどこか緊張した面持ちでロマに会釈を返す。

 どうしたものかと思いつつも、どうしようもないと理解し、ロマはそのままフレイの横を過ぎて去ろうとすれ違うものの、腕の裾が引かれる。

 振り返れば、ロマの腕の裾をつまんでいるフレイ。

 

 ―――え、なにその可愛いモーション、シャニあたりにやられたい。

 

 真面目な時とは別のベクトルでロクでもないことを考えるロマは、それでも凛とした表情を崩さない。

 

「どうした?」

「え、あっ……その……」

「いいさ、この時間だ。誰も通るまいよ……」

 

 そう言いながら口元を少しだけ歪め笑うと、フレイの緊張感も少しだけ解れた。

 

「その、キラのこと……」

「ああ、話した通りではあるが……」

 

 コロニーメンデルでの戦闘の後、月基地に到着するまでの間に、ロマはしっかりとフレイにキラのことは伝えることに成功している。

 彼が元気そうだったこと、無事そうだったこと、そして現状、自らの意思で連合と戦ったりする様子はないこと……。

 この先を識っている身でよくもそんなことを言えたな、とも自分では思うが……。

 

「また、戦うことになるんですか?」

「否定はできんよ。他の部隊が送られる可能性もあるがな……」

「私、キラと話したい。キラと会って、しっかり謝らなきゃいけないことが沢山あるんですっ」

 

 それを識っている。ロマは彼と彼女のことを識っているのだ。

 だが、そこで素直に頷いてやれるほど、彼の立場は自由ではないし、その方法を安易に教えてやれるほどの蛮勇はない。

 だからこそ、ただ聞いて……。

 

「でも、出会っちゃったら、戦わなきゃ、なんですよね?」

 

 それを否定するわけにはいかないし、否定する術を持たない。故に、頷く。

 

「戦いの中で人と分かり合う方法もあるはずだ……」

「そんなの、あるんですか?」

「……やってみなければわからんよ」

 

 適当にものを言うが、フレイは素直に頷いた。

 それが意外で、内心で面食らうロマではあったが、表にはおくびも出さないままただフレイの頭に手を伸ばし、そっと撫でる。

 

「あっ、その……」

「すまん、つい、な……」

「いえ……キラがお兄さんみたいって言ってた理由も、その……」

「ふっ、兄代わりをよくやっていたと思うよ」

 

 そっと手を降ろしてそう言う。

 彼女の想いに応えてやる気は間違いなくあるのだ。

 それにもし本当に、ことがロマの計画通りに進んだのであれば……フレイの望み通りになる。

 彼女の命運すらも変え、彼女とキラの再会を実現できるだろう。

 

 故にどちらにしろ、セラフィムを落とさせないために動き続ける必要があるのだ。

 

 ―――しかし、見殺しにした人間たちも山ほどいるのに、よくもまぁ……。

 

「そのっ、ロマ、さん……っ」

「ん、どうした?」

「いえ、その……なんだか、今……こ、怖い顔をしてたので」

 

 自らの顔を押さえて、苦笑する。

 

「……すまんな。いつまでたっても私はこんなだ」

「ロマ、さん……?」

 

 フレイが不安そうな表情を浮かべるが、ロマは首を横に振る。

 今更、自分が良心の呵責に苛まれているというのに対する嫌悪感。“だろうな”という案の定な落胆。人間らしい自身への安心感。

 色々と複雑な感情、内側に混沌としたものを感じる。

 

「大丈夫だ、私の使命は……いつだって一つに帰結するのさ」

 

 生まれた当初とは、そしてあの出会いまでとは正反対の……。

 

 

 

 

 

 

 一月以上前の、あの日の会話を思い出しながら、ロマは“セラフィムの格納庫”で浮いていた。

 その身に“普通(ノーマル)でない赤いノーマル(専用)スーツ”を纏いながら、“完成した”ディザスターを見やる。

 様々な要素から実装の遅れたトランスフェイズ装甲を搭載し、赤い装甲をそのままに纏うディザスター。NJCこそ搭載していないが戦闘できる時間が伸びたのは確実だ。

 そして隣にレイダー、フォビドゥン、カラミティと並び、さらに奥にはもう一機、黄赤色の装甲を纏う機体。

 

 足場へと辿りつき、手に持ったドリンクを飲みつつ整備士たちの様子が落ち着いてきたのに気づく。

 

「……さて、そろそろだな」

「波状作戦、だったか? でっけー要塞ぶっ壊した後に、すぐにでっけー要塞まで行くんだろ?」

「オルガ……いや、間違ってはいないがな」

 

 今作戦はボアズ攻略戦、制圧後一気にザフトはプラントの最終防衛ラインたるヤキン・ドゥーエまで侵攻。

 そして彼らの降伏を引きだせれば勝利、といったところだろうか……。

 ロマの計画通りにことは進んでいる。

 

 ただし、ここからのイレギュラーは自ら起こすことであり、それに連なることだ。

 自らだけの道を進めばそうもなろう。

 

「……つくづく運命とは御し難い」

「運命って……おにーさんってそんなロマンチストなタイプだっけー?」

 

 隣へとやってきたクロトに頷く。

 

「私は元々そういう男だよ」

「だよね、じゃなきゃこんな機体乗らないし」

「フッ……痛いところをつく」

 

 フッ、と微笑を浮かぶのは思い切り図星を突かれたからだろう。

 彼のリクエストが散々に反映された機体だ。PS装甲を“抜きすぎぬよう”意識された実弾が多めの高機動特化機。

 クロトの言葉に返答もできぬままのロマの近くに、さらにもう一つの影が現れた。

 

「シャニか」

「お兄さん、今回……大変そうだけど大丈夫?」

「私はこれでも連合のエース、赤い悪魔だよ」

 

 ザフトから言わせれば“悪魔憑き”でもある。

 

「そっちを心配してるんじゃなくて……お兄さんの身体のほう」

「あぁ、そういやお前、いっつも体壊すからなぁ」

「慣れてきたものだよ。多少の無理は効く」

「無理すんなっつってんの! おばさ……」

 

 オルガは言いかけてから周囲を見渡す。

 息を吐いてから頷くなり、また話を再開。

 

「アイツが機嫌悪くなんだよ。別にこっちに実害があるってわけじゃねぇけど……やだろ?」

 

 困ったようなオルガの言葉に、少しばかり驚きながらもロマは首を縦に振る。

 愛されているのは良いのだが、それ故にロマの無茶があればいい気はしないだろう。当然のことだ。

 しかし、ロマとて無理をしないという選択肢はなかった。

 

 所詮はただの人間であり、世界の在りようを、行く末をどうにかしようと思えば、自らのなにかを削らざるをえない。

 

「すまないな、苦労をかける。だが理事のことはお前たちになら任せられるからな……」

 

 なんだかんだ、彼女たちがいればアズラエルも安心はすると理解していた。

 だからこそ“安心して無茶をできる”というもので、ここからの“最終決戦”に赴くこともできる。

 

 あれだけ死を忌避し、あれだけ恐れ、“もう二度と普通でない死を経験したくなどない”と強く思い、その悪夢にすら苛まれてきたロマではあったが……今、男は自らその道を往く。

 

 ロマの言葉に、シャニが怠そうにしながら微笑を浮かべる。

 

「良いように使ってくれるよね、おにーさん」

「ですね。ま、いいけどさ」

「お前が無茶したぶんはなんとかしてやるけど、オレらにできることだってたかが知れてっかんな」

 

 オルガの言葉に、再びロマは頷く。

 

「しっかりと報うつもりではある」

「ハァン……それじゃ、終わったらデートしてよデート」

「かまわん、が……」

 

 ―――しまっためっちゃ死亡フラグ!

 

 ロマは焦った。ここ最近で最も焦った瞬間かもしれない。

 しかし、現実は意外となんとかなるものだと自分を鼓舞し、シャニの頭をそっと撫でる。くすぐったそうに眼を細めて気持ちよさそうにする少女。

 守りたい対象ではあるのだが、やはり戦場に出さざるをえない。出さなければならない。

 

「えぇシャニだけずるい! ボクも!」

「わかったわかった。オルガも、な?」

「は、ハァ? オレは別に……」

 

 ほんのりと頬を赤くして言うオルガに、ロマは昔懐かしいツンデレの味を感じた。

 

「四人で行こう、な?」

 

 瞬間、三人娘の冷たい視線が突き刺さる。

 

「はぁ?」

「なに言ってんのおにーさん?」

「お前っ……ホント、お前なぁ」

 

 ―――ダメだったらしい。

 

「その、すまん。うん……一人ずつ、な」

 

 その言葉に三人娘は頷く。

 兄代わりの男に寄せる好意でないというのはロマとて理解してはいるが、それでも上手いことやれない辺り、やはりどこまで行ってもロマはロマであるのだろう。

 だが、そういうところに惹かれる者もいる。惹かれる者たちが実際にいた。目の前に。

 彼女らの冷たい視線を受けながら、ロマはとりあえず誤魔化そうと視線を逸らす。

 

「……サボテンが花をつけている」

「は?」

 

 もっと視線が冷たくなるのは、自明の理である。

 

 

 

 大規模作戦前だとは思えぬ軽いやりとりを終えたロマ。

 先ほどと打って変わり、満足そうな顔をしたクロト、オルガ、シャニが自らの乗機へと浮遊していくのを見送る。

 そろそろロマ自身もディザスターへと向かおうとしていると、彼の傍に三人ほどのパイロットがやってきた。男性二人、女性一人、ロマより年上なのは間違いないだろう。

 

「ん、君たちか……」

「大佐、ブリーフィングではどうも……プトレマイオス基地、エンデュミオン・クレーターでの防衛戦以来ですね」

 

 ロマが初めてジンに乗って戦ったあの日、ムウが『エンデュミオンの鷹』の異名を授かった戦いで生き残った元メビウス・ゼロ部隊の者たち、つまりはムウ・ラ・フラガの元同僚。

 彼らは今作戦にて“ロマの部隊”に配属され、部下として戦う。

 離れた場所に存在する<105ダガー>三機が彼らの乗機である。

 

「今回は頼む」

 

 微笑を浮かべて挨拶がてらそう言うと、三人のパイロットは強く頷く。

 

「大佐の部隊に入って一緒に戦える、光栄ですね!」

「胸を借りる気持ちで戦わせてもらいますよ!」

「あまり期待してくれるなよ……?」

 

 苦笑するロマに、パイロットたちはおかしそうに笑う。

 赤い悪魔、ロマ・K・バエル。期待するなという方が難しいのだが、ロマはいつだって必死であり、ギリギリで戦っている。余裕に見えたとて内側がそんなものだから、ロマ自身は周囲からどのように見えているか理解し難いのだろう。

 そしてやはり、連合のパイロットたちにとって彼は絶対的エースなのだ。

 

「そんなご謙遜を、大佐の話は聞いてますから!」

 

 ここでこれ以上謙遜しても無意味だなと思い、ロマは頷いてその場を離れることとする。

 作戦開始時間も間もなくだ。

 

「敢えて言おう、死ぬなよ……!」

 

 それだけを言ってから、赤銅色を纏う機体、ディザスターの開いているハッチからコックピットへと乗り込む。

 まだ開いているハッチの先に、一人の女性が現れる。

 身なりから整備士だということは理解できる知った顔。

 

「大佐! ディザスターですが」

「取扱いについては説明書は見たつもりだが……?」

「一応ですよ。トランスフェイズになってからバッテリーの持ちはよくなって、そのぶん“隠し腕(ファウスト・ヌル)”の徹甲弾、ビーム兵器になってますから」

 

 間違ってもキラたちに当てるわけにはいかないなと、ロマは思考するが……そもそも当てることができるわけもないだろう。

 そして今作戦の“第一段階”に至っては、おそらく出会うこともない。

 しかして、万が一“何かの間違い”で、ザフトにPS装甲持ちの機体がいてもやりやすくなるのは良いことだ。

 

「承知している」

「……それとファウスト・ヌルですけど」

「もしチェシャがダウンしても私が扱えるようにはなっているのだろう?」

「ええ、大佐の空間認識能力テストの結果は見ましたけど……」

 

 ロマはガンバレルを扱えるかという適性検査に見事に不合格。故に、ガンバレルの派生であるファウスト・ヌルをチェシャなしで使用することはできないと、書面には記された。

 

「問題は私にサイコミュ兵器を扱う素養があるか、だな」

「さいこみゅ、ですか?」

 

 ───あ、やべ。

 

「いや、気にするな。ともかく了解している……チェシャが不調になればそうそうに切り離すか、回収するつもりだ」

「お早い帰艦をお待ちしてますよ。帰って来たらキスでもしましょうか?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて言う整備士に、ロマは微笑を浮かべる。

 

「期待させてもらおうか?」

「い、いや冗談ですって! ファンになにされるかわかったもんじゃないしっ、そもそも理事になんて言われるか……っと、そろそろ時間かっ! えっと、それじゃ大佐、壊さないでくださいよ!」

 

 ディザスターの装甲を蹴って離れる整備士。

 おそらく整備士の彼女は気づかなかったであろうが、ロマのその手はわずかながら震えていた。

 

「いつまで経っても、だな……」

 

 ロマがハッチを閉じるなり、モニターが起動画面へと移行、映る“GUNDAM”の文字。

 それを見ると、ロマは自身が“ガンダム”に乗っていることを実感する。

 夢と言えば夢であったが、やはりそれは悪夢の類。

 

『どーしましたの憂鬱そうなお顔なさってぇ~』

「チェシャ、戦争が終わるかもしれないんだ。こんな顔もしたくなるさ」

『戦いたがりってことでよくって?』

「そうでないだろうに、私の性格も私のこともよくわかってると思うが?」

『オーッホッホ! 当然ですわ!』

 

 姿があれば手を口に当てて高笑いしていたであろう支援AIことチェシャ。

 彼女のサポートがなければ自分がこの“ガンダム”を使いこなすことはできないだろうと思えば、やはりエースパイロットたちの異常さを身を持って思い知る。

 おそらく、真っ当にやりあっては自分が太刀打ちできないことでさえも……それでもなお、やらずにはいられない事情と私情が男にはあった。

 

 チェシャが口早に色々と話すが、ロマはそれに苦笑しつつ相槌を打つ。

 

『ていうかプール! わたくしもプール!』

「濡れられないだろ。というよりどうする、お前のボックスごと脳の入ったカプセルをプールに?」

 

 ―――いや地獄絵図。

 

『はやく人間になりた~い!』

 

 ―――妖怪人間……?

 

『あっ! ワンコから通信でしてよ!』

「ハイータか、繋いでくれ」

『私黙ってますのでどうぞ!』

 

 ―――クソ人見知りAI……。

 

 すぐにサブモニターにハイータが映し出される。

 それに気づくなり、彼女の表情が、パァッ───と音を付けたくなるほどに明るいものに変わった。

 

『ロマ君!』

「ハイータ、接続は問題ないか?」

『はい、右腕も左脚もしっかりシステムに繋いであって、問題も無しです』

 

 アスラン・ザラとの戦闘の折に失った右腕と左脚は、専用のシステムで機体に直接接続されているし、右眼にも、上から眼帯のように機械の端末を装着している。

 神経接続によって彼女の機体は、今までとは比べ物にならないほどの反応速度を有していた。それはブルーコスモスが当初ブーステッドマンに求めた“生体CPU”の完成にほど近いものだ。

 彼女が望んだこととはいえ、アズラエルもロマも、快い気分ではない。

 

 少しばかり特殊なノーマルスーツを着用する彼女だが、やはりヘルメットはしていなかった。

 曰く、息苦しいから。とのことだが……そこはロマも同様なので特に言及するでもない。

 

「一応、訓練は重ねたとはいえ、その機体を使って宇宙での実戦は初めてだろう。なにか不調があればすぐに戻るように」

『はい、無茶しないようにって理事からも言われてますからっ!』

 

 セミロングほどまで伸びた白い髪を舞わせ、ハイータは満面の笑みで頷く。

 

「しっかりと付いてくるようにな」

『了解です。隊長っ!』

 

 通信が切れると、静かに息を吐いてロマは操縦桿を握った。

 チェシャが話しかけてくると思ったが、サブモニターに次いで映ったのはアズラエル。その場所は艦橋ではないらしいが、その近くなのは間違いないのだろう。

 目が合ったものの、なにか言いだしづらそうな表情。

 

「……どうしました。理事」

『……言葉遣い』

「どうしたムルタ?」

 

 その言葉に、少しばかり満足気な表情を見せる。

 

『正直言うと、顔が見たくなっちゃっただけ……』

「かわいいかよ……」

『え、なんて?』

「いやなんでも」

 

 ―――かわいいかよ。

 

『君、今回で初めてのこと多いから……ピースメーカー隊への合図とか、モビルスーツ部隊の指揮とか』

「なに、ピースメーカー隊への号令はともかく、モビルスーツ隊の指揮自体はやっている」

『規模が違うでしょうに』

 

 尤もなことではあるのだが、それでもやらねばならない理由もある。

 セラフィムを守るためともなれば嫌でもそうなるし、彼自身もすっかりそういう立ち位置であることに慣れたというものだ。

 おかしな言い方ではあるが、“生前の自分”とはまるで違った思考。

 

『ともあれ、貴方も、あの子たちも……無事に帰ってくれば言うことなしってことで』

「っ……!」

『……なに、その表情?』

「いや、あまりに有り体にものを言うから驚いただけだ。優しい物言いでな」

 

 そんなロマの言葉に、アズラエルは頬を赤らめて少しばかり動揺を見せた。

 

『ともかく、とりあえずこんなとこで躓くわけにはいかないんだから、あとよろしく……!』

「ああ、ムルタ……いってくる」

『いってらっしゃい』

 

 通信が切れるなり、作戦開始のタイムリミットがサブモニターに映る。

 

『はぇ~相変わらずイチャイチャと……にしても羨ましいことでして』

「なんだ、恋愛に興味が……?」

『乙女ですから!』

 

 ―――乙女とな……?

 

「まぁなんだ……良い相手、見繕ってやれればな」

『機械と恋愛とか、正気ですの……?』

「なんだお前」

 

 

 作戦開始時刻が、迫る。

 

 

 

 

 

 

 プラント本国、アプリリウス市。

 プラント最高評議会の拠点にて、現議長であるパトリック・ザラは忌々しげな表情を浮かべた。

 その周囲には議員たち、イザーク・ジュールの母であるエザリア・ジュールや、さらにパトリックの懐刀でもあるラウ・ル・クルーゼの姿もあった。

 今しがた入った報告に、エザリアが狼狽える。

 

「ザラ議長閣下……!」

「月艦隊のボアズ侵攻など想定外のことではなかろう! 全軍への招集は?」

 

 パトリックの声に、通信をしている士官たちが即座に反応する。

 

「完了しております!」

「報道管制!」

「は! 既に!」

「詳細を報告しろ!」

 

 まだ“戦闘が始まって間もない”ボアズの状況を求め、パトリックは声を荒げた。

 現在では、ザフトの戦況は不利であり、月基地から攻撃部隊が攻めてくることは想定していた。故に意外性はない。

 資材と戦力が潤う連合の攻撃、かといって要塞ボアズの堅牢な守り、そうやすやすと落とせるものではないだろう。

 

「しかし……」

 

 剣呑な雰囲気に包まれる部屋で、クルーゼの声がパトリックの耳に入る。

 

「なんだクルーゼ?」

「ボアズ突破が容易でないことくらい、地球軍とて承知のはず。何の勝算もなしに侵攻を開始したりはしますまい。今踏み切った……そのわけが気になります」

 

 不穏な物言いに、エザリアが顔をしかめた。

 

「そんなもの、大方例のモビルスーツ部隊と新型あたりであろう? ふふっ、それで落とせるとでも踏んだのであろう!」

「なら、いいのですが……」

 

 内心でほくそ笑みながら、クルーゼは“その時”を待つ……。

 

 

 

 

 

 

 ボアズの守備軍は、奮闘していた。

 連合の大艦隊は、視界一杯に広がっており、さらに奥にも山ほどの艦影。

 さらにストライクダガーや105ダガー、バスターダガーにロングダガーのフォルテストラ装備、資材と資源に溢れた連合の力。それでもなお、守備軍は士気を落とすでもなくやっているのは───やはり、圧倒的な自信。そしてそれを裏付けるだけの撃墜数。

 

 並のナチュラルの操縦するストライクダガーでは、新型量産機ゲイツ相手では数機程度では各個撃破により呆気なく落とされる。ジンにすら苦戦もするだろう。

 大局的に見れば、その程度で戦力差が覆るわけもないのだが、それでもその“思い込み”は力である。

 

『ナチュラル共の細胞を真空にぶちまけてやる!』

『このボアズ、抜けるものなら抜いてみろ!思い上がったナチュラル共め!』

 

 景気の良い情報だけが耳に心地良いボアズ守備軍であったが───すぐに状況は一転。

 

『例の三機がいるぞ!』

『撤退できた地上部隊からの報告にもあった“ヤツ”もだ!』

『“悪魔憑き”もいるぞ……いや、あれは、うわぁぁぁ!!?』

 

 フォビドゥンのフレスベルグが二機を薙ぎ払い、カラミティのシュラークとスキュラが三機を撃墜するが、迫る攻撃をレイダーがミョルニルを回転させて防御、即座にツォーンでの反撃でその敵機を撃破。

 

『なんだこれは……尾か!?』

『ふふっ、かわいいでしょぉ!? 崩壊(コラプス)の尻尾はさァ!?』

『なっ、女のうおぁ───』

 

 さらにジン三機が背部から鋭いビーム刃に貫かれる。

 そのビーム刃を持つブレードは有線であり、それが回収された先には黄赤色の機体。

 

 どことなくディザスターに似通っているが、腕はそれほど長くもなく、ディザスターより装甲は厚めであるし、背中のユニットはデュエルの追加ユニットであるザフト産のアサルトシュラウドに似通った追加スラスターのみ。

 だが、後腰部のリアアーマーに装備されるのは、先ほどジンを貫いた尾と称されたブレード。文字通り、テイルブレードといったところだろう。

 その数───九本。

 

『なんだあの機体は!』

『胸部装甲を見てみろっ! あのエンブレム、悪魔憑きじゃないか!?』

『いや、他の三機にも……ん、あれは!?』

 

 赤い光が宇宙(ソラ)を奔る。

 

 ビーム煌めき、宇宙(ソラ)を裂き、赤い閃光はゲイツを背後から“串刺し”にした。

 

 赤い閃光の正体、ディザスターがゲイツに突き刺した腕を引き抜く。近くにいたジンはそちらに向けて突撃機銃を構えるが、引き抜いた腕はそのままそのジンに射出され、撃つよりも早く貫かれる。

 もう一機のゲイツが動きだすが、展開したサブアームの手首から放たれたビームがコックピットを貫く。

 瞬時に撃墜された三機のモビルスーツ。

 

 その異様な雰囲気を持つモビルスーツ部隊に、ボアズ守備軍の雰囲気は一転する。

 

『なんてこった……あの部隊は全部“悪魔憑き”だ……』

 

 レイダー、カラミティ、フォビドゥン、新型機(コラプス)

 さらにはその後ろからやってくる105ダガーのガンバレルストライカー三機、ランチャーとエールが二機ずつ、ロングダガーフォルテストラ三機。

 もれなくすべての機体のどこかに“悪魔のエンブレム”がある。

 

 

 

 そして、その中心たる“赤い悪魔”ディザスターの肩部には、“王冠を頂く悪魔”が描かれていた。

 

 

 







終わりが近づいて参りました
ナタルやフレイともだいぶ打ち解けたロマ
セラフィム組、全員に出番を作りつつ、ボアズ攻略戦開始───ってことで文字数がだいぶいってますね
まぁともあれ、連載当初から書きたかった部分の一つに到達

お金かかってそうなバエル隊

ちなみにハイータのはディザスターの姉妹機
次終わった辺りで機体紹介あたり入れとくか悩む

では、次回もお楽しみいただければと思います

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