盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
ボアズ攻略戦が開始してからしばらくが経ったが、戦況は明確に連合の優勢であった。
艦隊攻撃に連合の高級量産機の活躍、なによりも連合のエース、赤い悪魔ことロマ・K・バエルが指揮する部隊の参戦によるザフトの士気の低下。
様々な要因と諸々な理由から、予想よりも早くボアズ守備軍は瓦解させられていく。
ザフトの予測はおろか、連合の予測よりも圧倒的に速い侵攻。
ガンバレルストライカーを装備した105ダガーこと、ガンバレルダガーが三機、計十二機のガンバレルを飛ばし、オールレンジ攻撃にてジン四機を瞬時に撃破。
即座に三機の105ダガーが回避行動をすれば、その三機のいた場所へと、少しばかり離れたローラシア級が艦砲射撃。
『ローラシア級か……ランチャー!』
『はい!』
ランチャーストライカーを装備した105ダガー、ランチャーダガー二機はアグニを同時に放ち、甲板とブリッジ近くを撃ち抜く。
『撃破……!』
『おいおい、このままいけば撃墜スコア更新だぜ!』
少しの間の後、爆散するローラシア級。
別方向から現れたジンD型装備五機が<M66キャニス 短距離誘導弾発射筒>と<M68パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒>を一斉射。
ランチャーダガー二機を狙うそれらが到達するより早く、展開されたガンバレルが弾幕を張りミサイルを全て迎撃、爆煙が広がり視界は塞ぎられる。
『吶喊する!』
『大佐たちにばっかやらせるわけには、ね!』
瞬間、爆煙の中から現れた“
二機のエールダガーはビームライフルをリアアーマーにマウントしており、空いた手でビームサーベルを引き抜きつつ、敵機の合間を斬り抜ける。
二機のジンが爆散するも、残り三機のジンが腰部にマウントしていた突撃機銃を引き抜く。
『こっちにもいるんだよ!』
『んなのでやられてたら、このエンブレムが泣くのよね!』
二機のジンをレールガンが貫き、さらに大量のミサイルがもう一機のジンを撃つ。
討ったのはロングダガーフォルテストラ二機。
『っし、大佐たちは!?』
『もうちょっと前線、部隊って言ってもやっぱ違うわねぇあの人らは、レベルがさ』
『そんな言い訳がエクスキューズになるかよ。追うぞ!』
ロマの部隊のダガーたちが、加速していく。
どの機体も、どこかにロマがつけていた自らの身を翼で抱くデフォルメされた悪魔のパーソナルマーク……だが、今のロマのパーソナルマークはそれに王冠が乗っている。
事の発端はアズラエルによる提案、ロマ・K・バエルのための部隊の発足。
精鋭を集め、そしてそれと同時に、ロマのパーソナルマークを与えることによる、その部隊そのものが存在することによるタクティカル・アドバンテージ。
実際ザフトは動揺し、ダガーだけでも落とそうとしたがこの始末。
さらに前線では大暴れしている“悪魔王”と愉快な仲間たち。
後方からは不沈艦アークエンジェルの同型艦、赤き三番艦『セラフィム』と共に黒き二番艦『ドミニオン』を擁する大艦隊。
ボアズ守備軍といえど士気の低下は否めない。
前線をどんどんと押し上げていく連合軍。
ど真ん中を突破されていき、後方からやってくる量産機の部隊が防衛ラインの穴をさらに広げていけば、ボアズ守備軍はみるみると機体数を減らしていく。
プラント本国のパトリック・ザラが全軍召集をかけたところで、その後のボアズへと向かわせたところで、今更戦況が逆転するわけもないだろう。
ザフトのエースパイロットたちもボアズにはいない。つまり、赤い悪魔を止める術を持つ者たちなどいないのだ。
故に───。
『選り取り見取りってねぇ!』
カラミティがケーファー・ツヴァイの先端をシグーの胸部に突き刺し、そのまま射撃しながら後退。
爆散したシグーの近くにいるジンが、さらにシュラークの直撃を受け撃墜される。
『地球の悪魔どもめっ!』
近くにいたゲイツがカラミティへとビームライフルを放つが、その間に割り込んだフォビドゥンがビームを湾曲させ、フレスベルグを放つ。
回避しようとするが、そのビームは歪曲、ゲイツを貫きさらに近くにいたジンもろとも爆散させた。
『ハァン、いいじゃん……最近ケチつきっぱなしだったからさぁ?』
『ハハッ! ちがいねぇ。くるぞ!』
十機近いジンが射撃攻撃をしかけるも、フォビドゥンはそれらを回避、その背後にいたカラミティはどこからか現れたレイダーMA形態が、爪で肩を掴み回避させる。
『やるじゃねぇかクロトォ!』
『ま、当然だけどねっ♪』
旋回しレイダーとカラミティは装備する火器を一斉射撃。
それに巻き込まれて五機のジンが破壊されるも、散開し回避した半分のジンたち。
『一時撤退して籠城戦に……!』
『そんなこと言っている暇───なんだ!?』
それらを───“尾”が襲う。
有線で繋がれた九本の<テイルブレード>は先端にビームの刃を展開し、ジンの腕や足を切断し、抵抗する手段を奪っていく。
『な、なんだこれはっ!?』
『うあぁっ!?』
トドメとばかりにコックピットを貫き、五機のジンを撃破するなり、テイルブレードは持ち主たる“コラプス”の元へと戻る。
燃えるような黄赤色の装甲を持つディザスターの姉妹機、その胸部装甲にも勿論パーソナルマーク。
ロマの部隊の者たちの証。ブルーコスモス盟主の懐刀たるエース、ロマ・K・バエルの眷属たる象徴。
彼が必死に積み上げてみたものの形、と言っても良いだろう。
『アハハハッ! こんな木端コーディネイターが相手になるわけないんだよねェ、私達のさァ!』
『こえーなハイータ』
『ハイータ、無茶するとおば……お姉さんに怒られるからね?』
『アハァ♪ わかってるよォ♪』
わかってるんだかないんだか、と思いながらもオルガはなんだかんだ彼女が理性的に戦うのを理解しているし……あの機体とのシミュレーション結果では、自分たちも勝てた試しがない。
別段、問題もないだろうと理解する。
精神が安定しないだとかそういうわけではなく、純粋にテンションが上がっているだけのハイータがそんなミスを犯すとも思えない。
だとしたら問題は……。
『悪魔祓いをするッ!』
『こけ脅しに怯むなっ、所詮はナチュラルだっ!』
コーディネイターもいるのだが、そんなツッコミも野暮だろう。
接近するゲイツとシグーが二機ずつ。動きは不規則で予測しにくく、一般兵とは違うということをハッキリと示す……だが、所詮はその程度だ。少なくとも“
一機のシグーが、ビームに貫かれた。
『なっ!? 動いていたはずだっ!』
不規則な速度と動きで翻弄するつもりだったが、撃破された機体。
そちらに視線を向ければ───赤き閃光。
『悪魔憑きだと!? 憑いてるどころかっ、悪魔そのものじゃぁ───』
ゲイツ二機とシグーがそちらに武器を構えるが遅い。
どちらにしろ、動こうと思えば三人娘かハイータが十分に処理できるレベルだが、しないのは別にする必要がないからに他ない。
閃光と共に訪れる“
「遅いな……!」
『遅くってよ!』
両手から展開したビームクローを振るい、すれ違いざまに二機のゲイツを切り裂く。
シグーが背後に回ったであろうディザスターへと振り返ろうとするが、サブアームが持っていたビームライフルが“銃口下部から大型ビームサーベルを展開”し、その胸部を貫く。
ビームの刃を収めるなり、そのシグーを蹴って離脱したディザスターが四機のGへと近づく。
さらに後方から敵機を撃墜しながら追いついてくる105ダガーとロングダガーたち。
ディザスターのコックピット内で、ロマは軽く息を吐いた。
「“ゴエーティア隊”全機、損傷なしか……補給が必要な者は戻れよ……!」
『まだいけますよ大佐!』
『さっき補給してきたばっかですし、ブエル中尉たちは大丈夫ですか?』
接近してきたガンバレルダガーがカラミティたちの方を向く。
『ボクら? 全然平気ですよぉ~』
『あ~今回は手持ちで何個か持たされてるしまだ余裕あるしな』
『ハァン、私達より自分の心配したら?』
自分たち以外の相手にも物怖じするわけでもなく、いつも通りな三人娘。
同じ部隊なので余計な不和に恐れていたロマではあったが、子供たちの言葉に別に腹を立てるような人材もいないようでなによりだった。
すぐに、ディザスターをボアズの方へと向ける。
「なら、このまま戦闘を継続する。我々の目的は敵機の撃破は勿論だが……重きを置くべきは、敵軍の士気を下げることと陣形の瓦解だ。前哨戦ではあるが、ここで踏み外せば軌道修正に苦労するぞ」
『はァ~い♪ 前戯は大事ってことですよねロマくんっ♪』
「全然違う」
相変わらずブッ飛んでいるハイータだが、怒ろうにも戦闘終了後に悶えているのを見ると、不憫でいつもなにも言えなくなってしまう。
むしろ言ったところで対して意味を持たないのも理解はしている……。
ともあれ、部隊の中年が大笑いする声が聞こえた。
『はははっ! ヤマムラ中尉はユーモアがおありのようだ!』
『ちなみにロマくんは意外とねちっこいぜん』
「やめないか!」
『えっ、ハイータ中尉そこ詳しくっ!』
なぜだか女性パイロットが食いつく。
ロマは片手で顔を押さえながら、フットペダルを踏みしめて前進する。
それでも三人娘とハイータを含めて、部隊員たちはしっかりと後ろから追いかけてくるので、ちゃんと作戦を理解しながら“無駄話”をしているのだと、なんとも言えない気分であった。
『やべ~なハイータ、やっぱアイツは未来に生きてるわ』
オルガの言葉に同意したいロマではあるが、ハイータが上手いことこの部隊のコミュニケーションを取り持ってくれているのであまり責めきれない。
あれはあれで、良い緊張の緩和になるとも思いたいところだ。
でなければ報われない───
◇
エターナルのブリッジにて、モニターに数刻前の“ボアズの戦況”の情報が流れる。
そこに集まるのは主たる面々であり、艦長であるラクス・クライン、マリュー・ラミアス、レドニル・キサカは勿論として、キラやアスランやカガリ、ディアッカにムウまで集まっていた。
当然、ブリッジなのでバルトフェルドやアイシャ、ダコスタもいる。
それらの面々で、今話し合うべきなのはボアズのことであり───<
モニターに映し出されるボアズを見れば、連合が圧倒的であるということが一目でわかる。
「月艦隊と言えど、ボアズが10時間ほどでこうも追い詰められるなんて……」
アスランの疑問に、バルトフェルドがコーヒーを飲みながら頷く。
「まさか、だねぇ。ボアズは堅牢な要塞と聞いていただけあって、少し思うところがあるよ」
「防衛ラインが、あの“赤い悪魔”に穴を開けられてからあっさりだったらしいわ……アークエンジェル級も二隻、連合は資金も資材もありあまってるみたいね」
「うらやましいねぇ、そりゃ」
アイシャの報告に、苦笑するムウ。
だがここで、やはり気になるのは“ロマの戦果で防衛ラインに穴が開いた”程度のことではない。
ロマが強いことは理解している。その部下たる新型G兵器も然り……しかし、最も知りたいのはそこではなかった。
一時はしていた出撃準備を取りやめた原因はそこにある。
「核攻撃、なんかの情報は?」
マリューの言葉に、アイシャは首を横に振った。
訝しげな表情で、ムウはモニターに視線を移し、じっくりと戦況を見やる。どこからどう見ても核を使う気配はないし、使用するなら、もう少し早くても良い。
こうも通常通りの侵攻戦をしてからでは、意味もそれほど感じない。
「じゃあロマは……連合側はすくなからず核兵器を使うつもりはないのか?」
「正直、意外だねぇ。ザフトはナチュラルを絶滅させるまでやめるつもりはないし、ブルーコスモスもそのつもりだと思ってたけど、さ?」
「ロマさん……」
ホッとした表情のキラを、アスランは何とも言えない表情で見た。
「でも、油断はできませんわ。彼がキラたちの言うとおりの人物だとしても、その上にはブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルがいます」
「……あっちも、そんな悪い人には見えなかったんだけどな」
ムウのぼやきに、カガリが顔をしかめる。
それに気づいたマリューに肘で突かれると、ムウはそれを理解し後頭部を軽く掻いた。
自分の国を焼いた人間を擁護されれば良い気はしないだろう。カガリと親交があったロマはともかく、ブルーコスモスの首魁、アズラエルならなおさら。
「いや、昔に見たときの話だからわからんがね!?」
そんな言葉に、カガリは首を横に振ってから頷く。
「いや、いい……アスランはどう思う?」
「俺は……父上がこのまま終わるとは、どうしても思えない。父親だからとかではなく、元ザフトの軍人として」
アスランの言葉の重みを、彼らは理解する。
深く考え込むようなアスランの横顔を見て、キラはなにかに気づく。
二ヶ月前のあの日、コロニー・メンデルでロマが去り際に言っていたこと……。
「ロマさんの言っていた“アレ”っていうのが、気になりますね……」
「アレ? 秘密兵器だとかは聞いたことないぜそんなん」
「ザフトが新兵器を隠し持っていると? ……バルトフェルド隊長、アイシャさん」
ラクスが二人の方を向くが、二人とも揃って首を横に振る。
彼らが知らないような新兵器があるとして、なぜそれをロマだけが知っているのか、それこそ甚だ疑問だが、彼について不思議が尽きないのは今に始まった話ではない。
何を考えているのかわからないなんて、今に始まった話ではないが、アークエンジェルのマリューたちにとって、彼が“大衆が知るブルーコスモスの理念”を持っているわけではない、というのは理解している。
だからこそ、ザフトの殲滅こそ行えど、プラント殲滅を企てるように思えなかった。故に、彼がNJCを“その大義の持ち主”に預けることも、だ。
ならばやはり、自ずと深く考えるべきは……。
「少し調べたほうが良さそうね……?」
マリューの言葉に、一同は頷く。
キラは元来、優しい性格でかなり情に流されやすいことは周知の事実であり、ムウもかなりそのきらいがある。しかしマリューがロマについてそう認識しているとなると、話は変わってくるだろう。
彼女もキラやムウに近い性格ではあるが、敵となった相手にはもっと合理的かつ理性的にものを判断するタイプではあるという認識だからだ。
少なからず前者二人よりは……だからこそ、彼女の言葉にラクスたちも思考する。
しかし、直後……。
「ほ、報告ですっ!」
エターナルのブリッジにザフトのクライン派兵士が転がり込んでくる。
「なんだ騒々しい。ブリーフィング中だぞ」
「ば、バルトフェルド隊長っ……し、しかしっ」
焦るような表情を浮かべる兵の背後に回ったディアッカが、彼の背中を叩いて落ち着かせたが、片手を出して感謝を述べるなり、大きく息を吸いこむ。
その表情は青白く、ろくでもないなにかがあったのは確かなのだろう。
「ぼ、ボアズでの戦闘が終了しましたっ」
「なっ……速すぎるッ! 見積もりでもあと五時間はかかっていい状態だったはずだ!」
ダコスタの声に、兵は首を横に振る。
「ザフト新兵器により、連合艦隊のおおよそ三十パーセントが壊滅っ、同時にその兵器によりボアズも五十パーセントが破壊され……さらに直後、連合がボアズを核攻撃っ!」
「なっ!」
「新兵器に、核攻撃……!」
「ザフトはボアズごと撃ったのか!?」
面々が驚愕に顔を歪めている最中、兵は報告を続ける。
「既に連合はおおよそ七十パーセントの戦力のまま、ヤキン・ドゥーエ……プラント本国へと移動を開始しましたっ!」
そして、最後の扉が開かれる。
◇
時は遡り、ボアズ攻略戦の最中。
セラフィムのハンガー、ゴエーティア隊を指揮する者、ロマは赤いノーマルスーツを身に纏いディザスターのコックピットに入り込んだ。
前線はかなり押し上げられ、すでに連合の一部艦隊はボアズへと取りついている。
そして立役者たるロマは、落ち付いたころに補給ついでに休憩を経て、今に至るというわけだ。
「チェシャ、戦況は?」
『はへぇっ!? なにかおっしゃいまして!?』
「……寝てたな、AIのくせに」
『演算にどこぞの脳使ってんだから休憩ぐらいしますわよ!』
ただ、寝るのは違うだろと思わないでもない。
『スリープモードですわ!』
「ガチで寝るスリープモードって……」
しかし、終わりのない話である。
これ以上は追及しまいと、ロマはすぐに各種の機体状況を確認して、機体に不備がないことを確認。ハッチを開けっ放しのまま、ブリッジと通信を繋げた。
少なからずチェシャはこれで黙る。
「さて、聞こえるかブリッジ、再度出撃するぞ」
サブモニターに映るのは、フレイ・アルスターであった。
セラフィムは主力であるロマ、遅れてクロト、オルガ、シャニが休憩に入ったこともあり、前線から退いている。
現在はガンバレルダガー三機とハイータが護衛に回っており、ボアズへの攻撃は他艦隊が担っていた。
『あ、了解です! 大佐出ます!』
少しばかり雑把ではあると思うが、それで充分通じるだろう。
「出ると同時に予定通りハイータと交代する。私はそのまま護衛に移るぞ」
などと話をしていると、サブモニターに映るフレイがナタルへと変わる。
彼女もロマと同時に休憩に入ったおかげか、やけにすっきりした顔をしている。
『大佐、出撃後に護衛のネルソン級二隻からロングダガー二機と105ダガー二機が出撃します。セラフィムはそのまま前線へと進行し───』
ナタルが説明を続けているその瞬間、ロマは自身に鳥肌が立つのを感じる。
そして、一瞬にして吹き出す冷や汗。
ロマが感じるのは、悍ましいまでの殺意と敵意───憎悪。
「ッ! ……今すぐ撤退命令を出せッ!!」
『えっ……は?』
「理事は!?」
すぐにサブモニターに映るアズラエル。
フレイの座席からインカムだけを受け取って通信しているようで、隣にはフレイが映っているが、そこを気にしていられるほどロマは“感覚的”な余裕がない。
だがアズラエルの方も、深刻そうな表情を浮かべているのは……ロマのことを何一つとして疑っていないからだろう。
『……わかりました。すぐに出します、貴方は?』
故に、彼女が発したのは“疑い”の言葉ではなく“確認”である。
「出撃しておく……っ!」
『わかりました。それで、なにが来るんです?』
「憎しみと人の渦……あれは、終末の光だっ!」
言うなり通信を切り、ハッチを閉じ、ディザスターはリニアカタパルトに乗ることもないまま加速し、出撃した。
セラフィムから少しばかり前方にハイータのコラプスを確認、ダガーもいる。
即座に、背後のセラフィムから放たれた信号弾は“全軍撤退”を意味し、周囲のモビルスーツもモビルアーマーも戸惑ったような挙動を見せているが、撤退を開始し始めるが……問題は前線だ。
今更、間に合うとも思えない……。
「撤退する! 聞こえるか撤退だ!」
『た、大佐一体なにが!?』
『あと数時間でボアズは落ちますよ!?』
戸惑うエールダガー二機だが、ハイータの声は聞こえない。
「ハイータ聞こえているか……!?」
『は、はい。ちょっと驚いてしまって……撤退ってどうして?』
―――薬が切れてるのか。
「ともあれ撤退だ。間に合うかわからんが前線の艦隊にも───」
『え?』
瞬間、ボアズの方面に───“光の渦”が横切る。
その巨大な光の渦は、ロマ達の視界にあるボアズと、連合艦隊を飲みこむ。
前線にいた連合艦隊は爆散、消滅し、ボアズに取りついていたモビルスーツ部隊も然り……それはおろか、ザフト軍とて無事では済まないだろう。
味方ごと焼き払ったその一撃は、連合の戦力を確実に削った。
『な、なんですかアレっ!?』
『巨大な、レーザー!?』
『ろ、ロマくんはわかってたんですか、あれ!?』
戸惑うような自分の部隊の者たちの声に顔を顰めるロマだが、その表情は青ざめている。
まさか“先行して使用される”とは思わなかった。
見通しが甘かったと言えばそうだが、こちらが“切り札”を切っていないにも関わらず味方共々に撃ってくる等と……。
「っ! 感じただけだ。故に正体こそはわからんかったがな……!」
勿論、嘘である。
ロマはその光の渦、レーザーを識っていた。故にあれを一瞬で葬るために“核の力”を求め、温存したのにも関わらず、<
なればこそ、ザフトが“ジェネシス”と名付けたその新兵器を前に、ロマは選択を強いられる。それ以外に、選択肢など無かった。
苦渋の決断ではあるが、その命令が早くなっただけであり、それ以上も以下もない。
「セラフィム、聞こえるか!」
ディザスターを後ろに下げ、セラフィムのブリッジに近づきながら叫ぶ。
『大佐っ、これが……わかったのですか!?』
「話は後だ! ピースメーカー隊を発進させる。ボアズを仕留め、早々にあの兵器を……ヤキン・ドゥーエを攻略するッ!」
『……はッ!』
切羽詰まったロマの声に、ナタルはハッキリと返す。
間髪入れず、放たれる信号弾。
それと共に後方支援であったアガメムノン級、ワシントンと共に多数の艦が前線へと出てくる。
ロマの言うピースメーカー隊、メビウス部隊が出撃していく。
武装に“核弾頭”を持つ数十のメビウスたち。
前線に出たロマはコックピットから、すでに半分以上がボロボロとなったボアズに視線を向ける。
戦力はまだ残っている。ここで温情をかけて背後から撃たれてピースメーカー隊がやられることの方が問題だ。
ならばこそ、徹底的に倒す必要があった。
「遠慮はするな! 奴らにこれ以上“アレ”を撃たれる前に仕留めるぞ……!」
『ハッ!』
戦場の最前線にある姿、そしてその背を見る者たち。
本来ならば嬉々とした心持ちで放ったであろう“ソレ”を、恐怖心で一杯の心で撃つことになろうなどと、思ってもみなかった哀れな者たち。
彼らは次が撃たれるよりも早く、という逸る感情を胸に、トリガーに指をかける。
赤い悪魔、ロマ・K・バエルとディザスターは最前線にて、必死になる心をなるだけ抑えつつ、号令をかけた。
「往け……!」
―――青き清浄なる世界のために……!
いつもよりペース速めな更新でした
本編と明確な差異が発生
色々と見せたいところが多かったのでもっと刻んでも良かったんですが、刻み過ぎると短くなりすぎてしまうというジレンマ
ともかく、ボアズが終わりとうとうヤキン・ドゥーエ突入
三隻同盟はどう動くか、あとはロマの落としどころ、ですね
ロマの当初の思惑とかは次回あたりに入れられるはず
別枠で機体説明とかも書いておきたいとこです
では、次回もお楽しみいただければです