盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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たましいの声

 

 C.E.69年。

 

 晴れて士官学校を卒業したロマ・K・バエル。

 

 同級生ともある程度の関係は築いていた彼自身も、中々感慨深いものはあった。これから“戦争”が起こることを知っているロマとしては入れ込み過ぎて後悔しないように、なるべく気をつけていた。そのはずだったのだが、やはり詰めが甘いのだろう、仲の良い相手というのはそれなりにできてしまうものだ。

 故に彼は、泣きつかれていた。

 

「まだなぁ゛~」

「食事ぐらいはできるだろう。別に今生の別れでもない」

「一度配属されたらっ」

「俺は異動も多いだろうから、な?」

 

 その言葉に、ロマに泣きつく青年は何度も頭を振る。

 笑うロマから離れて数言を交わし去っていく青年、それと入れ替わるように同じ歳ぐらいの少女が一人近づいてきた。

 長い青髪を揺らすのは“あの日以来、それなりに仲良く”やってきた連合で数少ない“コーディネイターの少女”である。

 涙目で、今にも泣き出しそうな少女は大西洋連邦内であれば迫害されがちなコーディネイターではあるが、ロマが尽力したこともありそれなりの友人関係を築くことができた。

 

「っ、あ、ありがとうございましたっ、ロマくんっ」

「いや、気にしなくていい。今後色々と大変だと思うが……なにかあれば連絡してくれればいい。相談ぐらいには乗る」

「う、うんっ……」

 

 卒業証書を握っている少女の手は必要以上に力んでいるようで、ロマは軽く笑いながら少女の頭を撫でてから、彼女に声をかけようとしている他の生徒に視線をやる。

 

「わ、私ねっ、ロマくんの、その……」

「俺はブルーコスモスの私兵、だからな」

 

 そう言うと、少女はビクッと跳ねた。

 この士官学校では有名な話ではあった。ロマが盟主ムルタ・アズラエルと密な付き合いがあるということは、それでも大西洋連邦では別段問題はない。むしろ羨ましがられたりもするのだが、コーディネイターの少女にとってそれは……。

 

 しかし、それでもロマは確かに少女の“友達以上”のなにかだったのだろう。

 

「……なにかあれば話ぐらいは聞く。それではな、友達が待ってるぞ」

「……うんっ、ありがとう!」

「すまん、ちょっと待ってくれ」

 

 去ろうとした少女を、呼びとめる。少女は驚きながらも、横髪を弄りながら赤い顔でもじもじと、ロマの言葉を待つ。しかして現実は非情である。

 

「な、なにっ、かなっ……」

「君とは戦いたくないから、連合でいてほしい」

「……うん」

 

 一瞬だけ、落胆したような表情を浮かべるも、すぐに笑顔になった。

 それは自分だけが特別と言われたような感覚で、少女の心はそれだけで舞い上がるに十分である。

 

「……ありがとう」

「こちらこそっ……それじゃぁ、またねっ!」

 

 少女が、涙を振り切り笑顔を浮かべて去っていけば、残されたロマは静かに息をついて胸ポケットに入れていたサングラスをかける。

 未だロマを見る友たちに軽く手を振り、校舎を背に歩き出す。

 両親とは既に話しはした。しばらくの別れは済ましている。

 

 校門を出て歩けば、見慣れた黒い車があった。そしてそれに寄りかかる金髪の女性。

 

「おめでとうございます♪」

 

 楽しそうに笑うムルタ・アズラエルに彼自身も笑みを浮かべて頷く。

 

「ええ、これで晴れてアズラエル理事の私兵ですよ」

「嫌ですね私兵なんて、私としてはお仲間なんですけど?」

「それはどうも」

 

 車に乗り込む二人。すっかり顔見知りである運転手の男性と助手席の女性からも『おめでとうございます』の言葉をかけられて、軽く返す。

 あれから、ずいぶんと周囲の相手とは気安い関係になってしまった。

 

 どうせ平和のために“犠牲となる”というのに……否、“犠牲にする”というのに。

 

 アズラエルが後部座席の音を遮断すると、板のような端末を取り出し、画面を操作してなにかを表示させると、ロマの方へと寄る。

 それに気づいて、ロマの方もアズラエルの持つ端末に視線を落とした。

 

 ―――とうとう来たか。

 

「これプラント側、“ザフト”の兵器、MS(モビルスーツ)ジン。前々からそういう兵器の情報はあったんですけどね」

「人型兵器、ですか」

「ええ、プラント理事国の宇宙軍は大敗、ダメみたいですね」

 

 ため息をつくムルタ・アズラエル。二年以上の付き合いにもなれば彼女の言いたいことは理解できるし、その兵器を見せるのは本題の前フリだということは理解できる。

 

「デュエイン・ハルバートン大佐を知っているでしょう?」

「ええ、もちろん」

「彼が言ってるんですよ。地球軍も独自のモビルスーツを開発するべきだと……却下されたようですけど」

 

 ―――これが正史なのか?

 

 わからない。“宇宙世紀”であれば知っていることも多いが、C.E.に関して詳しいかと聞かれれば、並以上ではあった自信はあるが、政治的なことまでは一切不明。故に悩みつつも、答えを出す。

 どちらにしろ異常な変化を起こすわけにはいかない。正史こそが正しいと信じて……。

 

「表だって作れないのでしたら、裏で作るしかあるまい……といったとこですか」

「同意見です。極秘裏に進める気ではありましたが、もうちょっと出資しても良いかもしれませんね。それにこちらも独自で……」

 

 どうやら正解。と思って良いのだろう。

 

「それとですね。このMSジンのプロトタイプ、プロトジンと呼ばれるものをとあるルートで入手したんですが」

「さすがに手が早いですね」

「情報は生ものですからね、ビジネスの鉄則です」

 

 なにはともあれモビルスーツをリアルで見られるというのは、“ファン”として胸躍らざるをえない。

 少しばかりそわそわとしているのが、自分でもわかりハッとして隣を見ればアズラエルはニヤニヤしながらロマを見ており、思わず顔をしかめる。

 アズラエルが人差し指でロマの腕をつつく。

 

「なんですかぁ~? 楽しみって顔してぇ、でもざんね~ん、ただのナチュラルには操縦できませぇ~ん」

 

 ―――このBBAァ、メスガキみたいなムーヴかましやがって……ありですね。

 

 俗な発想は彼の元々の性格故、なのだろう。

 

「あははははっ……まぁ、あの子たちは操縦できましたけど、ブーステッドマンですからねぇ」

「確かに、ナチュラル用のMSができたら少し乗らせていただければ十分ですよ」

 

 ただし、あまり深入りする前にアズラエルたちからは距離を取らねばとは思っている。このままでは“ドミニオン”コースだ。今のアズラエルとの関係を鑑みればありえないどころではなく確定であると、疎い彼にでもわかっていた。

 しかし、今はまだと現状にまで至っている。

 

 ―――そろそろ本気で考えねばなるまいか……。

 

 そんなことを一人、心の中で思っていると隣のアズラエルが意外なことを言う。

 

「とりあえずためしに乗ってみますか?」

「……では、とりあえず」

 

 ―――ワクワクが止まらねぇぞオイ!

 

 ファンとしてはやはり一刻も早く乗ってみたい。乗れるだけでも十分。ただそれだけの、たったそれだけの感情だったのだ。

 メビウスやスピアヘッドでは満足しかねていたからこそ、気軽に受けてしまう。

 

 壁をつくろうと仮面を被ろうと結局、ロマはただの男なのだ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ―――そんなことも、あったよなぁ。

 

 彼、ロマはただ一人で静かに“1/6の重力下”の通路を移動していた。サングラスをしていない裸の視線の先、窓の外に広がる―――月面。そう、ここは月面プトレマイオス基地。

 

 

 C.E.70年6月2日。

 地球連合がプラントに“宣戦布告”をしてから約4ヶ月。

 

 その期間で起きたことは数多あるがやはり“血のバレンタイン事件”は最もたるものだろう。

 ブルーコスモス派将校が放った一発の核弾頭。それは農業用コロニーユニウスセブンに直撃、24万3721名の命が犠牲になり、プラントでは“パトリック・ザラ”筆頭のコーディネイター強硬派が激しい報復攻撃を開始した。

 

 宇宙だけならず地上の侵攻すらもどんどんと進めるザフト、地球連合上層部の焦りは計り知れない。

 

 最近では、流石のアズラエルも少しばかり苦い顔をすることが増えてきた。いや、その原因は“ブルーコスモスが核を使った”ということが公になっているからだろう。

 

 らしくもなく、彼はアズラエルに『核など使うまい』ということを言ったのだ。そして彼女は『使いません』と宣言した。今更、彼女がロマに対して嘘をつくわけもない。故に本当に使う気はなかったのだろう。それは“原作と違い”心境の変化があったか、それとも……。

 

 しかして、核は放たれた。ブルーコスモス派将校、ウィリアム・サザーランドによって。

 彼がアズラエルの私兵であることは連合内では有名な話であり、ロマも面識はあったがさすがにそこまでするまいと思っていた。しかし―――実際には撃った。

 

 止まらなかった凶行、知っていた未来。止められなかった未来。24万人を死なせた。

 なんとかできる立場であったのにもかかわらず、だ。しばらくは頭痛と腹痛と吐き気、身体のあらゆる不調が止まらなかったせいで、ずいぶん“仲間たち”には世話をかけた。

 心配しながらも困ったような表情で『意外とナイーヴだったんですね』と言ったアズラエルの表情は忘れられない。

 

 それでも『正しい未来・正史』だと自分を納得させて今はすっかり立て直した。

 

 そして今、彼はムルタ・アズラエルたちと共に月面・プトレマイオス基地へと上がってきている。つい2ケ月前にあったヤキン・ドゥーエ攻防戦で受けた損害と、現在このプトレマイオス基地を侵攻するために作られたザフトの基地との小競り合いの状況の二つを視察するためだ。

 

 

 

 ロマにとって宇宙というのは初めてではない。親に何度か連れてきてもらったことはある。

 

「……これからこんなんでやってけんのかねぇ」

 

 クロト、オルガ、シャニ、ムルタ・アズラエル、全員の死。

 

「あ~こういうタイプじゃないのにな」

 

 軽くボヤいてサングラスをかけると、目的地である部屋の前に壁を蹴って着地、横の端末を叩いて扉を開ける。そこに入ればいつもの三人娘。

 ロマに気づくなり、シャニはイヤホンを外してクロトがゲーム機をベッドに放って飛んでくる。

 

「おにーさんじゃん、おばさんは?」

「怒られるぞ……また」

 

 ふわっと飛んできたクロトを受け止めるも、そのまま壁に背をぶつけた。痛いわけではないので軽く笑ってその頭を撫でつつ『危ないぞ』ぐらいで済ます。ふとその横髪に触れてみる。

 

「髪、伸びてきたな」

「ん~そろそろ切りますよ~、おにーさんは長い方が好き?」

「別に好きとかはないよ。短すぎなきゃなんでもいいさ」

「そっか」

 

 そうとだけ答えて、クロトはロマの足もとの床を蹴り、元のゲームのある位置に戻ってベッドで横になりゲームを再開する。視線をシャニとオルガに移すが、二人ともいつも通り。

 シャニは再び音楽を聴くのに戻り、オルガは小説に目を向けていた。彼女にしては珍しいSF小説ではあるが、それはロマが薦めたものだ。

 アズラエルが来るまではこの部屋で待機だが、いかんせん暇なので自分もなにかしら持って来ればよかったとは思う。

 

「……オルガ」

「んぁ? なんだよ……」

「その小説、おもしろいか?」

 

 軽く、無重力下でベッドに座っていたオルガの方へと近づく。小説から視線を逸らして、ロマの方を向く。

 

「……悪くねぇ」

 

 ロマ自身もオルガの近くで浮遊しつつ、言葉を続ける。

 

「もし、だが……その小説にさ、自分が入ったとするだろ」

「はぁ? 突然どうした」

「誰だって一度は想像するだろ、俺ならどうするかとか……」

 

 そんな言葉に、オルガは否定もしない。つまりはあるのだろう。

 

「で、それがなんだよ」

「もしその世界に入ったらさ、自分は未来を知ってるわけだろう?」

「……未来を変えるかって?」

 

 なら答えは一つ。

 

「オレはやりたいことをやるね」

 

 ロマは彼女の言葉は理解している。助けたい者を助けたり、一番幸せに至るだろう結末へと導く。ということ……言い方は粗悪だがつまりはそういうことなのだ。

 

「じゃあその物語がそもそも、ハッピーエンドだとしたら?」

 

 謎の質問が過ぎる。ロマはやはり、冷静なわけではないのだろう。精神的に追い詰められているのは確かだ……24万人がわかっていたのに犠牲になったのだ。止められる術はあったのだと、なんども同じことを考えるほどには……。

 だからこそ、こんな質問をしてしまった。

 

「助けたいヤツを助けたら、未来がどうなるかわからないとして、だ」

「……じゃあ、余計にやりたいことやりゃ良いんじゃねぇのか?」

「それでハッピーエンドが崩れたりする可能性は」

「どっちにしろ自分が入った時点で未来なんかどうなってるかわかんねぇんだし、バタフライエフェクトって知らねぇのかよ」

 

 その言葉に、ロマは静かに目を瞑る。

 

「……なるほど、な」

「なんの質問だよ、お前そういうタイプだったか?」

 

 オルガの疑問も尤もだと、顎に手を当てて天井を見上げた。

 何を言うでもないオルガ、思考するロマが視線を下げる。そうすると、視界にクロトがフェードインしてくる。

 どこか呆れた表情でロマのことを見ているのは、やはり呆れているのだろう。くだらない質問にだろうか、否。

 

「お兄さん、難しく考えすぎなんじゃない?」

「んぁ?」

 

 ついつい、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「自分がそこにいるなら、そこで好きなことやりゃ良いじゃん……だってそこは“自由”なんでしょ?」

「そう、か……自由か」

 

 フッ、と笑みを浮かべて項垂れるロマ。 

 クロトとオルガがなにかを口にしようとしたその瞬間、扉が開いた。現れるのは金の髪を靡かせる女性、ムルタ・アズラエルだ。

 彼女は部屋に入ってくるなり、ジト、とした目でロマのことを見やる。

 

「目を離すとすぐこの子たちのとこですね」

「嫉妬かよ」

「なにか言いました?」

「なんでも~」

 

 クロトの言葉にアズラエルがニコニコと言うが、ニュータイプでなくたって笑っていないことはわかった。ロマは軽く笑みを浮かべて体勢を整え床を蹴るとアズラエルの隣で器用に着地。

 とりあえず、自分がやるべきことはやった。それにここを紹介したのは、あの“整備士”の方だ。

 

「身体検査も機動実験も終わってからここにと言われたので……もしかして迎えに来てました?」

「いいえ、別に」

「……」

 

 絶対迎えに来たやつである。

 

 ―――くっ、このBBAかわいい。

 

「それは良かった。このあとは?」

「ユーラシア連邦のビラード准将とジェラード・ガルシア大佐にご挨拶していただくのでそちらの部屋です。もちろん貴方には来てもらうとして……」

「私もですか」

「そりゃそうでしょう。ブーステッドマンを除けばモビルスーツを“動かせるナチュラル”なんてそうはいませんからね」

 

 それもそうか、とロマは頷く。時計を確認するアズラエルだが、まだ余裕があるのか出ていく様子はない。

 クロトはゲーム、オルガは小説、シャニは音楽といつも通り。まとまってないようで逆にまとまっている。

 

「そういえばあれはどうだったんですか?」

「ん、ああ、空間把握能力ですか、俺……私には適性がないようでした」

 

 ドラグーン、使ってみたかったがそんなことになったら前線不可避である。良かったんだか悪かったんだかと思うも、結果的には良かったんだろうと納得しておく。

 浪漫もなにもあったものではないが―――モビルスーツを動かせただけ良しとしよう。散々万年秀才と呼ばれてきたがようやく、天才に一歩近づけただろうか。

 

 ―――まて、俺は前線に出たくないんだろ。モビルスーツなんて動かせてどうする。

 

「そうですか、まぁ適性あろうものならメビウス・ゼロ部隊に引っ張られてもおかしくないですし……まぁ私がさせませんけど」

「……メビウス・ゼロ部隊?」

「ええ、前に資料は見せたでしょう。オールレンジ攻撃ガンバレルの~」

 

 ロマは顎に手を当てて思考する。

 

 ―――月面、メビウス・ゼロ部隊、ジェラード・ガルシア……くそ、なんで忘れてた。

 

「アズラエル理事、ザフト部隊の」

 

 

 

 ―――瞬間、基地に警報が鳴り響く。

 

 バッ、と体勢を整えるクロトとオルガ、それにシャニ。

 前線に出るのは初めてであり、警報を聞くのも初めてだろうに、素早く体勢を整えるのは訓練の結果か……基地が揺れる。この重力なので勢いよく倒れる心配はないものの、ロマはアズラエルを支える。

 アズラエルもアズラエルでロマに掴まったが、別段問題もないだろう。

 

 ―――やらかい。

 

 別段問題はないだろう。ロマの思考が汚染される以外は。

 

「ん」

 

 シャニがぬっとアズラエルとロマを引き離して、アズラエルの片腕を取る。

 ロマは、シャニに『仕事熱心だなぁ』だとか能天気なことを考えつつ、すぐに状況を把握するために扉を開く。クロトとオルガにもアイコンタクトで、アズラエルの周囲を固めるようにと指示を出して自分が通路を確認し、通路へと出た。

 次いで四人も出てくると、前方から血相を変えて飛んでくるのは―――ジェラード・ガルシア大佐。

 

「アズラエル理事、ご無事で! ザフトの長距離ミサイルです。迎撃部隊も出しています……今は前線をエンデュミオン・クレーターで維持していますが」

「いつこちらまで下がるかわからない、と?」

「はい!」

 

 いつでも脱出できるようにシャトルに、とのことらしい。

 ロマは思考する。これが本来の歴史だったのかと、エンデュミオン・クレーターでの戦いはわかるのだが問題はそこではない。アズラエルがここにいるということだ……自分はこの基地へと来ることに関与はしてないのだが、世の中には“バタフライ・エフェクト”というものが存在するのだ。

 息を吐くロマが外を見れば、メビウス・ゼロが発進するのが見えた。

 

「……アズラエル理事」

「なんです」

「アレで出ます」

 

 その言葉に、アズラエルがそれは珍しく、目を見開いて驚愕する。それもそうだろう、それに驚いたのはアズラエルだけでなく、クロト、オルガ、シャニの三人もだ。

 ここはともかく、少なからずエンデュミオン・クレーターは“マイクロ波発生装置サイクロプス”で吹き飛ばされるのだが、それで確実になんとかなるかはわからない。

 

 だからこそ、彼は自らの意思で“介入”する。自分が強いなんて思っていない。

 実戦なんてしたことはない。だがそれでも……。

 

「……ムルタ、頼む」

 

 サングラスを外して、真っ直ぐとアズラエルの瞳を視る。

 

「……わかりました。けど忘れないでくださいよ。貴方は」

「貴女のものでしょ。わかってるよ」

 

 フッ、と笑みを浮かべてから、三人娘の方へと視線を移す。

 多くを語る必要はないと思った。ここで死ぬならそこまで、しかし自分はそうではないはずだと、信じているのだ……ここまでかき乱すのであれば責任を果たさず死ぬわけにはいかない。

 そう思っていたのだが、意外にもシャニが口を開いた。

 

「お兄さん、ダメだよ。死んじゃ……外、また連れてってもらうんだから」

「わかってる」

 

 クロトとオルガが驚いたような表情でシャニを見ているのがおかしくて、ついついロマは緊張感にそぐわず笑ってしまう。

 

「イルミネーションってやつ、見てみたい。綺麗なんだぜ、あれ」

「了解した」

 

 踵を返して、ロマは“格納庫”へと向かう。

 

「……俺はやりたいことをやる、ね」

 

 

 

 扉を開き、格納庫へと入るロマ。

 ライトも点いていない暗くて狭いそこにはただ一機の“モビルスーツ”が立っていた。

 1/6の重力化の格納庫。地を蹴ってモビルスーツの胸下あたりに開いているコックピットへと乗り込むと、電源を入れて準備を済ましていく。

 締まるコックピットハッチ、機内が明るくなる。

 

 道中は心臓がやかましく鼓動していたものの、コックピットに入るとやけに冷静に、しかし熱くなっていくのがわかる。

 

「案外、これが転生特典だったりしてな」

 

 薄く笑いながら、起動準備を済ましていく。

 そして最後のスイッチを入れて起動準備を済ますと、暗闇の中でその赤い“モノアイ”が独特の音を鳴らす。深く息をついて、どう出るかと思っていれば、突如、通信が入る。

 どうやら“整備士”のようだ。

 

『すみません少尉! すぐにハッチを開きます!』

「ん、ありがとうございます。しかし何故こちらに」

『貴方の愛しの上司様ですよ!』

「アズラエル理事か、ありがとう」

 

 格納庫のライトが点き、連合が鹵獲した“モビルジン”が姿を現す。

 ザフトのモビルスーツだが、連合のせめてもの意地なのか色は塗り替えられている。どうせ分解するくせにと思うのだが、それもまた仕方ないことだろう。

 装備は腰部左に近接装備<重斬刀>、腰部右に中距離装備<76mm重突撃機銃>の二つのみ。

 

『無理しないでくださいよ。MSでの実戦するナチュラルなんて少尉が初めてっすからね!』

「……無理そうなら即座に撤退してくるから、ハッチは開けといてくれ」

『いえ、それは閉めますけど』

「……了解した」

 

 いまいちカッコつかないな、と整備士は笑った。

 ハッチが開いていくと、ジンの全身に付けられたワイヤーやコードがパージされていく。

 ガラス一枚隔てた先に存在するジンが、両腕とモノアイを動かしてみせた。

 

『行ってらっしゃい少尉! ちゃんと帰ってきたらキスしてあげます!』

「君みたいな美人にそう言ってもらえたら男はやれるさ……!」

 

 カッコつけてそれっぽい口調を使う彼は、サングラスの奥の青と赤の瞳を輝かせ、フットペダルを踏み込む。

 

 その“赤銅色のジン”が、姿勢を低くしてから、全身のバーニアを吹かす。

 

「ロマ・カインハースト・バエル、ジン……出るぞ!」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 基地から離れたエンデュミオン・クレーターにて、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 連合は精鋭部隊、メビウス・ゼロ部隊を出撃させるものの、ザフトも最新鋭機ジン・ハイマニューバを投入。

 戦力を見てもやはり今作戦もザフトに有利である。

 時代はモビルスーツ。一機でモビルアーマー数機分に相当する強さ、挙句に敵はすべて自分たちのスペックを凌駕しているのだ。

 

 それでも、前線を維持してプトレマイオス基地へは行かせまいとそれぞれが決死の覚悟で戦う。

 

「こんなんでやれるのかよっ!」

 

 悪態をつくのはメビウス・ゼロ部隊のムウ・ラ・フラガ。だがそんな中―――赤黒い閃光を見た。

 

「なんだっ!?」

 

 赤黒い閃光は、一機のジンへと接近し止まる。それでようやくその閃光の正体が、ジンだということがわかった。

 敵のジンへと接近した赤銅色のジンは、両手で持った重斬刀をジンへと突き刺している。

 

「識別コード、味方だと!?」

 

 

 

 ロマ・K・バエルは安堵していた。まず一撃目の重斬刀での刺突は成功、一機は落とす。

 さらに周囲のジンの動きも十分に把握できるし、しっかりと戦えそうではある。あの“女整備士”にも『情けない奴!』とかの罵倒を受けなくて済みそうだと、息をついて笑みを浮かべる。

 ふと、背後に反応。ジンだ。

 

「そうやって狙いを定めてる暇があったら……撃つもんだろうよ!」

 

 素早く重斬刀から片手を離すと、突き刺されたジンの腰に装備してある重斬刀を引き抜きつつ、その装甲を蹴って加速。放たれた別のジンのアサルトライフルは、今しがた離れたジンに直撃、初めてのモビルスーツ戦なのか、照準は確実に焦ってブレている。

 ロマはさらにフットペダルを踏み込み、そのジンへと接近。

 

「当たらなければなぁっ!」

 

 前方に加速しながらも、左に加速、次いで右に加速、さらに左に加速。左右へと機体を振ることでジンは焦るように銃口を左右に向けるが―――遅い。

 素早く接近した赤銅色のジンはその左右の手に持った重斬刀でジンの両腕を切り裂き、さらにその胴体を切り裂く。

 

「切れ味が良い……こんなものか?」

 

 爆発する寸前、そのジンを蹴って加速、さらに爆風で加速し、その先にいるメビウスを切り裂こうとするジンを切り抜けて撃墜。

 不意打ちとはいえ、三機のジンを瞬時に撃破したことによりザフトの注目はその赤銅色のジンへと向かうだろう。

 二本の重斬刀を持つジンが、戦場の中心にいた。

 

 未だ戦闘は続いているというのに、周囲のパイロットはまるで時が止まっているかのように錯覚したことだろう。それほどにそのジンは、注目を浴びていた。

 しっかりとその両目で“自分が立つべき戦場”を見据える。

 

 やりたいことをやる。なぜなら自分は自由。そして帰るべき理由、約束があるのだ。

 

 故にそのジンは片手を上げ、重斬刀を鈍く輝かせた。

 ザフトを挑発するかの如く、自分の“守りたい者”に視線など向けぬように……。

 

 すべてのモビルスーツは視よ、そう言わんばかりに、ロマは宣言する。

 

 

 ―――このロマ・K・バエルのもとへ集え!

 

 

 





キリのいいとこまでと思ってたらめっちゃ長くなりました
とりあえず初モビルスーツ戦、次回はちゃんと戦闘
チートっぽく見えるかもしれないけど、ある程度のエースにはちょっとみたいな感じで

こっから君の罪は加速する。じゃなくて物語は加速する……予定

結構急ぎ足で書いたけど大丈夫、たぶん

では次回もお楽しみいただけたらと思います!

PS
アンケート入れました
ただしオリキャラはどんなに曇っても良いものとする

オリキャラ(コーディネイター娘)一人追加、すりゅ?

  • オリキャラはもう充分!
  • すりゅうううううううううううう
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