盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
コズミック・イラ71年9月24日から翌未明まで続いた第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦は、パトリック・ザラ死亡とそれを機に発生した穏健派のクーデターにより、台頭したアイリーン・カナーバによる停戦の申し入れ、そして終戦に向けての講和会議を受け入れたムルタ・アズラエルによって終わりを迎えた。
その作戦により、地球連合はプラント攻撃の実質的主導者であったウィリアム・サザーランドとその攻撃艦隊の七割、プトレマイオス基地の戦力の半数以上を喪失、さらには英雄ロマ・K・バエルすらも……。
一方、ザフト側は議長パトリック・ザラと最終兵器であったジェネシス、さらに連合よりも甚大な総戦力の半数もの戦力を失い、戦争継続が不可能となった。
そして、そこに至りようやく両軍は講和会議を実施。
しかし最初の『ナイロビ講和会議』で、地球連合はプラントに対する『国家としての』独立と引き換えに軍事力の放棄を迫るが、プラントは断固として拒否。
幾度もの会議を重ね、提唱された『リンデマン・プラン』を経て、紆余曲折の末に……前大戦の悲劇の地であるユニウスセブンで、条約締結が結ばれる運びとなった。
コズミック・イラ72年1月1日、こうして連合とプラント間に停戦条約『ユニウス条約』が締結した。
だが、こうして“痛み分け”でことが済んだのも、双方の大量破壊兵器に“最後の”狼煙を上げさせなかったことにあるだろう。
そして、その殺戮を防ぐことはできたのは、大戦の英雄と囁かれる“三隻同盟”の活躍があったからだ。
連合、ザフト、そしてオーブの三隻の艦からなる独立した戦力、三隻同盟。
そしてその三隻同盟と共に“連合・ザフト”双方と戦ったのが、ムルタ・アズラエルとロマ・K・バエルである。
ブルーコスモス盟主であるアズラエル、そしてロマが率いる“セラフィム”はウィリアム・サザーランドに反旗を翻し、“三隻同盟”と共にその連合の闇を打ち、さらにはザフトの闇も打ち払い、地球とプラントの間に対話という橋を掛け、永遠とも思えた戦争を終わらせた……などと子供騙しのストーリーが、今はどこでも信じられている。
ムルタ・アズラエル本人はそれを聞くたびに背筋がむず痒い感覚に襲われるだとかなんとか……。
「い、今なんと言ったね、アズラエル?」
厳かな雰囲気の部屋、一人の役人が狼狽える。
いや、口にはしないだけで、その大きな部屋にいる者たちは誰も彼もが狼狽えていた。
誰も彼も身なりは良く、位が高い人間なのは明らかだ。
それもそうだろう。そこにいるのは連合構成国の高官ばかり。
そして彼らの視線の先にいる“ムルタ・アズラエル”は不敵に笑みを浮かべてたまま立ち上がる。
「ですから、私……ブルーコスモスとは縁を切りますんで……まぁ“ロゴス”ともゆくゆくは手を切るつもりですけど、今すぐとなれば経済崩壊とか起こしかねないので、ゆくゆくは……ですけど」
飄々と言うアズラエルに、役人たちはなおも狼狽えるだろう。
「そ、そんなことをすれば君もただでは」
「アズラエル財団を今すぐにでも切ろうなんて……そんなことすれば、あの人たちもただでは済みませんよ。経済的なことを考えれば私達との取引を切るにしても、突然に、というわけにはいきません……潰そうなんてもってのほかです。お互いはおろか世界規模の経済崩壊になりますよ」
元ロゴス代表が明言するのだ。それは間違いない。
そして散々、そのロゴスと関わってきた人間たちにとっては、先の代表とはいえ、アズラエルの言葉は重くのしかかる。
「だからお互いの利益を考えればゆるやかに切るのがベストなんです。“
「ぐっ……」
それに、既にブルーコスモス盟主も“ロゴス代表”も“ロード・ジブリール”となっているのだ。
今更、未練も責任もあったものではないし、出回ってしまった噂を鑑みれば、とてもじゃないがこのままブルーコスモスを続けてはいけない。
本来の“
そもそも、かなりコーディネイターに対して穏健的な思考の持ち主だったアズラエルも、都合が良いからそこに身を置いていただけで、後年はまるで反コーディネイター思考などなかったのでさもありなん。
さらに、現状のブルーコスモスには敵しかいない。ロゴスも然り……ならば、彼女がそこにいる道理などどこにもないのだ。
この面々も今のアズラエルに召集される謂れなどないのだが、彼らの公私にわたる諸々の事情を知る彼女に、半場強制的に集まらされており、故に悔しげにする彼女なんかを期待してみたりはしたのだが、そうはならなかった……むしろ、させられている。
「……しかし、君の手駒、英雄ロマ・バエルは───“
その一言に、アズラエルはピタリと動きを止めた。
「奴を表舞台に出して支持を得ることはもう」
「結構、私一人で充分ですから……少なからず、今の状態であればね?」
それで、十分物語性は生まれるし、一般大衆の支持を集めるには十分だ。
だからこそアズラエルは変わらず笑みを浮かべるが、それはどこか目の前の面々を“小馬鹿”にしたような笑みで、片手を口元に当ててクスクスっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「え~それに貴方達の方がこれから大変じゃないですかぁ~♪」
「ぐっ……」
それも事実だろう。
ザフトとの停戦協議の最中に発生した南アメリカ独立戦争は、大西洋連邦の実質的な敗北であったし、色々と今後出てくることもある。
それらに関して、アズラエルは関与していないし、関与していることにしようにも、アズラエルの実績がそれらを“虚偽”だと暴いてしまう。
故に、アズラエルは余裕の表情で笑うのだ。
「ま、頑張ってくださいよ。ただ後々、私に縋りたくなるかもしれませんけどぉ~♪」
一人の役員がテレビの放送コードに引っかかりかねないような汚らしい罵声を飛ばすが、アズラエルはそれに眉一つ動かすことなく、変わらずクスクスと笑うのみ。
そしてそのまま歩き出すと、会議室の扉を開ける。
前に立っていたのは“
そのまま出て行くかに思われたアズラエルだったが、ふと何かを思い出したように振り返る。
「ッ!」
その部屋にいた全員が息を呑む。
それほどに冷たい表情と目線であったから……。
「あとですけど、ロマは“
ニコッと笑顔を浮かべて、扉が閉じられた。
そこにいた高官たちは、揃って安堵するように息をつきつつ、背もたれに体を預ける。
ブルーコスモス盟主でなかろうと、ロゴス代表でなかろうと、彼女は恐ろしい女であると、彼らの認識は変わることもないだろう。
そしてなによりも、世はそんな彼女に味方し、そんな彼女を英雄と讃えるのだ。
◇ ◇ ◇
ムルタ・アズラエルの現状の立場は複雑なものであった。
元ブルーコスモス盟主であり、元ロゴス代表、今残っている肩書きはアズラエル財団の長だけ……しかし、現状ではもはや連合の幹部とばかりの表現のされ方をメディアでもされており、大西洋連邦の会議などにも“特別アドバイザー”として召集までされる始末。
それに関しては“デュエイン・ハルバートン”すらも了承……というより、むしろ彼の方がアズラエルを大西洋連邦に取り入れんばかりに推している。
よって、自分の財団を管理しているだけで済むと思っていたアズラエルは想定外の忙しさとストレスで頭を痛めていた。
挙句、アズラエル財団系の会社もムルタ・アズラエルのネームバリューで売り上げが跳ね上がりさらに忙しくストレスが溜まる。
さらにおまけに、自分の私兵とも言える三馬鹿娘の末っ子である“
結果的に定期的な爆発によりアズラエルも助かっていたりするが、それを言う彼女でもない。
ともあれ、彼女には癒しが必要なのだ。
数少ない者だけが知っている、彼女の秘密の癒し。
「ん~♪」
鼻歌混じりに上機嫌のアズラエルが、清潔感のある白い通路を歩く。
そしてその後ろには、連合の制服ではなく私服姿のクロト、オルガ、シャニの三人。
いつものアズラエル財団の所有する病院、その高層階……窓からの景色にはその高さに匹敵するビルもなく、街を一望すらできる。
「おば……おねーさん、めっちゃ機嫌いいね」
「あ? いやそりゃ、そうだろ……」
前を歩くアズラエルに聞こえぬようにこそこそと話すクロトとオルガ。
会話に参加していない二人の隣のシャニは……ヘッドフォンを首からかけて歩いているが、彼女もまたどこか上機嫌で、足取りも軽そうに見えた。
いつもダウナー的な彼女にしては珍しいことで、“あの戦い”が終わってからはさらに稀であり、クロトとオルガは少し驚く。
「シャニもめっちゃ機嫌良いし」
そう言うクロトもどこか機嫌が良さそうに見えるし、オルガも口角がわずかに上がっている。
しかし、それも当然のことなのだろう。
アズラエルは上機嫌のまま、一室の前で止まり、ノックもせずにボタンを押してドアを開く。
「おはようご」
「大佐ぁ、おくちあけてくださ~い♪」
「はい大佐、あ~ん♪」
「おいお前らそこまでに……あ」
「フッ、もう腕も動かせるのだが……ん、カガリどうし、た……」
瞬間、その“病室”の空気は凍った。
否、凍ったのは病室のベッドで上体を起こしている“赤と青の瞳を持つ男”と、今ドアを開いたアズラエルの二人。
遅れて、男の口元にブドウを運んでいた“アサギ・コードウェル”と“マユラ・ラバッツ”も一瞬固まるが、即座にそれをお互いの口に放り込んで立ち上がった。
その間も、もちろん男とアズラエルは固まっているのだが……。
「あっ、そ、そのっ、あ、アズラエル理事!?」
最初にアズラエルに気づいた少女、カガリ・ユラ・アスハは裏返った声で彼女の名を呼ぶ。
もう一人いた少女、ジュリ・ウー・ニェンは呆れたような表情を浮かべながら二人の首根っこを掴んでそっとカガリの後ろへと下がった。
カガリとて二人を止めていた立場ではあったのだが、やはり側近ともいえる部下二人がそのような行為に出てたのを放置していたのだから、彼女自身としても気まずい雰囲気は拭えないのだ。
動揺しながら、カガリはポン、と手を叩く。
「か、会談の時間までもうしばらくありますのでっ、その、の、後ほどですねっ」
ふと、アズラエルが笑顔を浮かべる。
「ええ、アスハ代表、後ほど」
中に一歩入ったアズラエルの横を、アサギとマユラとジュリが冷や汗を浮かべながらも笑顔で通る。
カガリもどこか気まずそうな表情ではあるが、明らかにオーブ三人娘と比べても作り笑いが下手であった。
これで政治家とは嘆かわしい、アズラエルが“通常の状態”であれば、教育されていたことだろう。いや、後々されることであろう。
カガリも次いで去っていくと、部屋に残されるのはアズラエルと連合の三馬鹿娘。
そして……。
「なぁにやってんの、あ・な・た?」
「……サボテンが花をつけている」
ベッド脇の棚の上に置かれた“小さなサボテン”を見ながら───“ロマ・K・バエル”は笑みを浮かべた。
「つけてないけど!?」
それからなんやかんやとありつつも、状況は落ち着いた。
ベッドの上で、上体を起こしているのは“死んだ”とされているロマだ。
世間一般も当然のことながら、連邦高官にも悟られぬように隠し通している理由は……。
「あなたを“行方不明”にするのって大変だったんですからね?」
アズラエルが溜息をつきながら、ベッド脇の椅子に腰かけて言う。
どこか不満そうに言う彼女だが、本気で怒っているわけでないことは、女性の感情の機微に疎い方である彼とて察せられた。
だからこそ、少しばかり申し訳なさそうな表情を浮かべて笑みを浮かべる。
「無理を言ってすまないな」
「ま、なにか考えがあってのことなんでしょうけど……それにその方が今後、こっちも使いやすいしね。英雄さん?」
「フッ、茶化すなよ」
苦笑する“
なんてことない話だ。自らを死んだことにしてもらったのは“
もっと良い方法もあったのかもしれないが、彼も必死で“死んだことにしてくれ”とだけ伝えたのだ。
ヤキン・ドゥーエでの戦いの後、回収されアズラエルと再会するなりそれだけを伝えて意識を失ったロマは、薬物の“
「まぁ、あの娘たちも……心配してたみたいだし、仕方ないか」
「そう言ってもらえると助かる。年上の男というだけで物珍しいのだろうさ」
そんなことを言う彼に、アズラエルは目を細めてジトっとした視線を送るが……当の本人であるロマは内心で『かわいいなぁ』などと能天気な感想を浮かべるのみ。
ふと視線を下げて、ベッドに腰かけてロマの膝に頭を乗せるようにしているシャニの頬にそっと触れれば、くすぐったそうな表情を浮かべた。
強力無比な胸部装甲が気になりもするが、ロマは頭からそんな煩悩を振り払う。
「お前たちにも心配かけたな」
「起きてから会う度に毎回言うね、それ」
それも仕方のないことなのだ。
いつも天真爛漫だったりする彼女たちの“泣き顔”を見てしまっては、何度でも言いたくなる。
シャニと同じようにベッドの反対側に腰掛けて、ロマの腕を触っているのはクロト。
「にしても、細くなっちゃいましたねぇ」
「運動もできていないからさ。身体の方もおおよそ問題はない……そろそろ戻すさ、元に」
二ヶ月もの間眠っていた彼にとって、それは簡単なことでもない。
だが、それでもやらなければならない理由があった。
彼が起きて、アズラエルと話せるようになった頃にはもう“ロドニアのラボ”は閉鎖されてしまったし、ステラ・ルーシェ、アウル・ニーダ、スティング・オークレーの所在は不明。
記憶を頼りに立てていた“計画通り”とはならず、記憶の通りの“
「無理すんなよ。とりあえず戦いも終わって……いや全部終わったわけじゃねぇけど、お前が出る必要なんてねぇんだから」
「心配をかけているからな、さすがにこの身で無茶をする気はないよ」
「お前はそう言いながらすっけどな」
リンゴの皮をむいているオルガが、苦笑しながらそう言うので、ロマも思わず苦笑を浮かべた。
無茶をしないとは言い切れないし、おそらくするだろう。
今後起こるであろう“次の戦い”でも、彼女らを守るためならば無茶でもなんでもしないわけにはいかないのだ。
ロマの知る歴史と違う歴史が始まる。
極力、ある程度同じように進めるつもりではあるが、それでも“アズラエルたちが存在している”ということがどれだけ影響を与えるかわからない。
世界には“バタフライ・エフェクト”と言う言葉もあるのだ。
「戦うの、怖いんでしょ?」
アズラエルの言葉に、フッと口元をゆるませた。
かつて、誰かに聞かれた気もする。いや、もしかしたら自分で自問したのかもしれない。
いつだってそうだった。
「怖いさ、震えが止まらん時もある」
それでも、飛ばないわけにはいかないのだ。
かつての生とは違う。生きる意味がしっかりとあるからこそ……。
死の恐怖を知っている。
じわじわと自らの命のカウントが消費されていくあの感覚を……かつてのその感覚を、彼は未だ忘れてはいない。未だ夢に見ることだってある。
だが、それ以上の恐怖は、視界と両手の温もりが喪失されることにあるのだろう。
此度の戦いで、“大切な者たち”を失った故に、ハッキリとわかる。
───キリエ、ターニャ、ケン、トーマス、オランド……チェシャ、ハイータ。
次に同じことがあれば、“自分の弱い心では耐えられる保証があるかもわからないほど”に。
だからこそ、未来を変え、未来を守る術を……。
「他に方法を知らんからさ」
それしかないと理解しているからこそ……恐ろしくとも、痛かろうとも、戦わないという選択は取らない。戦う
誰かのように完璧ではない。迷いも早々と振り払えない。いつまでも同じところでグルグルと回る……ただ心弱きが故に。
ただの一般人で、ただの人間だから……。
だが───“ただの人間”で十分だ。十分だと思っているが故に、最後まで“台詞”を言ってしまう。
「……だから、いまだに嫁さんももらえん」
瞬間、空気は凍る。
───突如、ロマの脳内に溢れる存在した“
「……は?」
ロマは震えた。
◇ ◇ ◇
その後、ケラケラ笑っているクロトと、呆れるような視線を向けるオルガとシャニを見て、怒るアズラエルを止めてくれとも思ったが……しっかり自分が悪いので大人しくお怒りを受けて謝罪した。
だがしかし、死んだ人間では、嫁だってもらえまい。それも事実だ。
いや、事実故にアズラエルも怒りを抱いたのだろう。
責任もとれなくなってしまった故に……。
「だが、そうだな……いずれは、な」
カガリ・ユラ・アスハとの会談もあり一人病室に残されたロマは、フッと笑みを浮かべてひとりごちる。
「私は、オレは……生きるよ。死んだ身だろうと、戦うさ……」
あの戦いの最後の瞬間を思い出す。
ロマがキラを“
あれが夢でなければ間違いなくプロヴィデンスのドラグーンだったはずで。
『せいぜいあがけよ。“こんな世界”で……!』
あれが幻聴でないのなら……。
「やってみるさ」
なんとなく、生きてきたが、今は違う。
はっきりと生きなければならない目的があるのだ。
こんな世界でも、こんな世界だからこそ……。
「守りたい世界があるんだ……ラウ」
【挿絵表示】
【阿井 上夫】さんよりいただきました
SEED篇ラスト、かつ運命篇に続くといった感じの爽やかな支援絵です
そしてSEED篇、これにて終了です
最後ということもあって、シリアスになる前の感じも思い出しつつ
ラストに相応しい感じに書けた、と思いたいとこです
そして最後にヒロインレースはラウがぶっちぎる事態
残念ながらロマは死にました()
アズにゃんは婚期を逃しました
これバッドエンドでは……?
ともあれ、続編のデスティニーではアズにゃんやロマはどういう立場になるか
どう動くのか、デスティニー篇もお楽しみいただければと思います
・蛇足
オンエア版の場合ロマの生存はハッキリさせないまま運命篇の予告でチラッと映って総ツッコミくらってましたね(存在しない記憶