盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
識らない未来
相互理解に努め、平和を誓い、人々は二度とあのような戦いが起きなければ良いと、皆がそれを望んでいると願い、祈っていた。
“あんなこと”はもう誰も望まないと……故に、世界は穏やかであったのだ。
───
水面下で、彼らは徐々に動き始めていた。
それは、
◇ ◇ ◇
アーモリーワン……そこは大戦以降に、他のプラントのあるL5宙域ではなくL4に立地を構える
兵器工廠たるそこで、ザフトは戦後初の新造艦の進水式を控えており、プラント内はどこも慌ただしい。
それは宇宙港とて変わりないようであり、新造艦の進水式を見るために、多数の人々が集まってきている。
その船を見るのを楽しみにする子供の無邪気な声の中に、ナチュラルに対する敵対心をむき出しにする大人の声も聞こえた。
宇宙港なのだから色々な人間がいて当然ではあるが……。
数多の声をそこで聴き、彼女―――カガリ・ユラ・アスハは顔をしかめる。
世界は変わっても、変わらない人間もいる。
手すりに掴まって無重力の中、目的地へと真っ直ぐ運ばれていくカガリの後ろに控えていたサングラスの青年が、スッとカガリに近づく。
眉をひそめるカガリに、青年は続けた。
「本当に、ドレスはいいのか?」
「だから良いって……女だからって舐められたら嫌だろ。そういうのは肝心なとこで使ってこそだってアズラエルが言ってた」
「彼女の場合は別だろうに……」
呆れるように言う青年だったが、カガリは構わず進む―――と思いきや、突如止まる。
それに驚きながらも勢いを殺せず、カガリにぶつかる青年。
「カガっ、アスハ代表っ……!?」
「すまんっ、でも……」
カガリの視線の先に、周囲をキョロキョロ見回すサングラスをかけた紺色のスーツを纏う男がいた。
金色の髪をなびかせながら、そのサングラスの奥の瞳は“誰かを探している”ように見受けられる。
二人の案内をしているザフト将校二人が振り返ってカガリの方を見ると、彼女に合わせて動きを止め……その鋭い視線でカガリが気に掛ける男を見るも、知った顔に“表情を緩めた”。
カガリが口に手を添えて、すっかり出し慣れた通る声で男を呼ぶ。
「“ウィル”!」
「アスハ代表っ、極秘訪問なのですから目立つことはっ」
「こんなところでそうそう目立つかよ」
言い争うカガリと青年。
件の男は、自身が呼ばれたことに気づき床を蹴ってそちらへと浮遊しながら、やはりキョロキョロと誰かを探しているが、お目当ての人物は見つからないのか、そのままカガリへと近寄り通路へと合流する。
ザフト将校が進みだすと、カガリと青年と金髪の男はその後をついていく。
少しばかり眉を顰めるカガリに、男は苦笑を浮かべた。
「すまないな、前乗りをして……少し用事があったんだ。だが、おかげで私の方は“デュランダル議長”との会談は終わらせておいたよ」
「なんで先にやっちゃうんだよっ」
抗議するカガリだが、男がする“最高評議会議長ギルバート・デュランダル”との会談は、カガリとはまったく無関係のものだ。
そしてカガリの会談もまた男にとっては然り。
ただ、やはりそういう甘えたことを口にするのは、彼女が男に“懐いている”故なのだろう。
「何事も速い方が良い。速さこそこの世の理、クーガーも言っていた」
「なんて?」
「いや、なんでも……」
男は時たまわけがわからないことを言うが、もう慣れたものだ。
後ろにいた青年が、男───ウィルの隣に行く。
「“マクスウェル”大佐、久しぶりです」
「……私は大尉だよ。アレックスくん」
ウィルの言葉に、青年───アレックス・ディノはハッとした後、苦笑して頷く。
「すみません……大尉」
お互い想うことがあるのだろう。だからこそ、意味深にウィルも笑みを浮かべた。
黒いサングラスの奥、ウィルの瞳がアレックスのサングラスの奥の瞳を覗く。
「なに気にすることはない。カガリ、アレックスくん……再会できて早々ですまんが、私は少し離脱させてもらうよ」
「はぁ!?」
ウィルの言葉にカガリが少し大きな声を出すので、再びアレックスが眉を顰める。
同じくウィルが眉を顰めているのを理解し、カガリがバツの悪い表情を浮かべるのは、さすがにオーブの代表としてはしたなかった自覚があるから……だが、それだけではない。
問題は、それがバレるとウィルの背後にいるカガリにとって仇であり恩人である“彼女”のお叱りを受けかねない。
だからこそ、口をすぼめつつ、カガリは静かに言葉を続ける。
「なんでまた?」
「調べたいことがあってな、デュランダル議長にも“ある程度自由な行動”の許可はもらっているしジープも借りた……なに、後ほど工廠で会おう」
彼がそう言いだしたのだから、自分が止めることはできないだろうとカガリは察し、溜息をつきながら頷く。
そんな彼女と彼に、アレックスはどこか穏やかな笑みを浮かべた。
ウィルは手すりを掴んでいた手に力を込めるなり、器用に通路から離れる。
「では、後ほどだな」
そう言うとウィル・マクスウェルは宇宙港の一般通路、出口へと向かって行った。
残されたカガリとアレックスはといえば、ザフト高官についていく形で手すりに掴まって流されていくのだが、彼女はどこか不満そうで、アレックスはそれを察して苦笑。
彼のことだ、きっとなにかしら目的はあるのだろう。
だが……それがわかるのはいつだって先の話なのだ。
「あいつ、あれで自分が有名人ってわかってないんだよなぁ」
「違いない」
◇ ◇ ◇
街まで降りてきた金髪の男、ウィル。
彼は借りたジープを走らせるより先に、宇宙港からほど近いそのショッピングモールに赴く必要があると考えたのだ。
いやむしろ、目下彼の目的はそこにあった。
その地でとある人物たちを探す……それだけが目的であり、そのために性急に必要なわけでもない会談を取り付けて、今日ここにいるのだ。
「しかしまぁ……“マクスウェル”より“マックスウェル”だったな」
この世界の万人が聞いたとして万人が首を傾げるようなことを呟き、ふと足を止める。
視線の先にはアパレルショップで、そこに近づくと周囲を見渡す。
なにがあるわけでも、特別な誰かがいるわけでもないと判断すれば、ため息をついて再び歩き出す。
「いない、か……」
だが、目的の“彼女たち”がいなくとも、“彼”がいればまだ近くに彼女たちがいるということだ。
ウィルの“かつて”の記憶が正しければ、ここで遭遇するはずで、よもや彼女の胸を彼が触ると言う暴挙を犯すのだから……。
彼女と関わり合いをもってしまったウィルの立場からすれば、それはとても複雑なことであるのだが。
妙な考え事をしながら歩いていると、むしろウィルが、道から出てきた誰かとぶつかる。
「きゃっ!」
「おっと……」
すぐさま、自分にぶつかったことにより倒れかけるその“少女”に手を伸ばした。
素早く伸ばされた右手は、しっかりと少女の左手を掴み、間髪入れずに力を込めて少女を引き寄せれば、それが自分よりも二回りは身長が低い少女だと気づく。
少しばかり力を入れすぎたのか、少女はその勢いのままウィルの鳩尾あたりに軽く顔をぶつけた。
「わぷっ!」
「ぼけっとしていた。すまな、い……?」
そのままでは良くないと判断して少しばかり離れたウィルだったが、そこで気づく。
目の前の、少女に“見覚え”があることに……。
茶色の髪、左右の横髪と後ろ髪を下の方で結っており、あどけなさが残るも、綺麗な顔立ち。記憶よりは幾分か大人っぽくもなっている気はするが……。
ウィルは思わず目の前の少女の“生存”に固唾を飲むが、非常に危険な絵面でもある。
「い、いえ、マユの方も、ボーッとして、て……」
謝罪の言葉を返そうとしながらも、少女はウィルを見上げる。
彼がかけていたサングラスを外せば、その下にあった赤と青のオッドアイの瞳が姿を見せ、マユはそれを見て、いや彼の顔を見てぽかんと口を開く。
そんな少女の反応に、ウィルは心の中で疑問符を浮かべた。
一、二秒そうしていれば、少女はようやく口を開く。
「きれい……」
そういう風に眼を褒められるのに慣れていないわけでもない。
ウィルは軽く咳払いをしてから、しっかりと少女と目を合わせた。
「すまない、怪我はないかい?」
「あっ! だっ、大丈夫です! こ、こちらこそごめんなさいっ!」
まさかの遭遇に、ウィルの動揺は激しい。
だが、それでも仮面をするのも“慣れた”もので、軽く笑みを浮かべ首を横に振るなり、サングラスをかけなおす。
この遭遇はいいことなのか悪いことなのか、だがこの周囲の様子だと“目的”はここでは達成できそうになかった。
ならば、場所を変えるしかないだろう。
少し離れるなり、ウィルは笑みを浮かべながらなるべく優しい声音で少女に話かける。
「すまない。少し道に迷っていてね……」
「あ、ここらの方じゃないんですか?」
少女がスカートを揺らしてそう聞けば、ウィルは軽く頷いた。
「月の方から昨日来たばかりで、疎いのさ……」
「月っていうと、コペルニクスですか?」
実際は違うが、それをここで言う必要もないし、言えば余計な疑惑をかけられかねない。
許可を出した“デュランダル”曰く、なるべく“そちら”と関わり合いがあるということを知られない方がいいとのことだ。
軍事工廠プラントなのだから、敵対的な行為をしようとしているのだと思われかねないのも確かだし、仕方のないことなのだが……。
「そういうことになるかな、仕事できたのだが……迷うとは、良い大人が恥ずかしいことだ」
「そんなことないですよっ、初めての場所なんだから……あ! それじゃマ、わ、私でわかる場所ならお教えしますよ!」
そう言われるが、ウィルは少女が場所をわかっていようともそうでなかろうとも問題はないと考えている。
それに本当に道に迷ったわけでもない。場所は理解しているが、ただ咄嗟に出てしまったのがそういう言い訳だっただけだ。
だからこそウィルは、正直にものを言うことにした。
「工廠さ、道だけでもわかれば助かるが……」
「えっ!? マっ、私も今からそこに行くんです! 丁度よかったぁ!」
───え、なんで?
思わず口に出そうになった言葉を飲み込むが、もうすでにことは遅い。
こうなれば一緒に行く、という選択肢以外は存在しないことだろう。
それに、どういうことかはわからないが、目の前の少女が遅かれ早かれ“そこ”に行くとするのならば、一緒にいた方が“安全”な可能性すらある。
できれば“ソレ”が起こる前に止めたいところではあったが、“主犯”の足取りもわからなければどうしようもない。
仕方がないと吐こうとした溜息を飲みこむと、ウィルはポケットから左手で“許可証”を取り出し少女に見せる。
「え、それって、軍の……」
「ライセンスさ、ウィレーム・マクスウェルだ……すまんが、道案内を頼む」
それを説明するなり、自己紹介と共に右手を差し出せば、提示された許可証に戸惑いながらも、少女は頷いた。
目の前の相手が誰なのかいまいちはわからないが、それは確かに本物なのだろうと確信し、目の前の相手が“なにかしらの大物”だと理解している故に……。
「はい! えっと、ま、私っ……マユ・アスカです!」
彼が“識っている”通りの名を名乗り、少女───マユ、アスカは“彼の識らない”であろう“黒い皮手袋”に包まれた右手を上げるも……止まる。
疑問に思うウィルを前に、マユはすっと右手を降ろした。
申し訳なさそうな表情で、左手で右手を掴む。
「ご、ごめんなさい。右手は機械義手なので……」
その言葉の意味を即座に理解して、ウィルは“なぜか”苦虫を噛み潰したような感覚に陥るも、それはもちろん隠しきる。
そのまま、“
「なに、私の配慮不足だ」
「あ、えっとそれで……なので……」
言葉を続けるマユに、ウィルは優しげに『ん?』と声を発した。
「左手で……その……いいです、か?」
まだ13にもなっていない少女なのだが、少しばかり申し訳なさそうな顔で上目使いをされ、ウィルの弱い心は少しばかり揺れそうにもなったのだが……そこは大人として、なんでもなかったことにする。
危うく誤った方向に自らの“守備範囲”を広げるところだったと、内心でべらぼうに焦りながら、自制しつつ、そっと左手を差し出して、マユの左手と握手を交わす。
柔いその左手は、確かに“どこかの誰か”が守ったものなのだろう。
なにはともあれ、ウィルにとっては、ここから“先も”未知の領域だ……。
「借りた車がある、それで向かうとしよう」
「あ、はい……よろしくお願いしますマクスウェルさん!」
なぜか、“家”に残してきた家族が脳裏にチラつく。
「ああ、よろしく頼む……“マユ・アスカ”」
彼が識る。彼の識らない物語が、ここより始まる。
識っている悲劇、識らない悲劇、識らなければよかった真実。
それは、彼の識らない出会いから───生まれた。
始まりましたデスティニー篇
謎の男が出てきて……いったいどういう立ち位置の何者なんだ……
まぁそれは置いといて、あまり説明を入れてないのはプロローグなのでご察しください
徐々に現状の世界情勢は明かしていくつもりです
ちなみにSEED篇との間に、なにかしら他のキャラたちとの会話とかを入れようかとも思ったんですが、語りすぎることになるので割愛しました
過去の話として中盤あたりに入れるか、それか外伝として、ですね
運命篇の序盤は旧メンバーの出番は少なそうですが、中盤あたりからは一気に増える予定です
序盤はミネルバ組が多い、かも?
では、運命篇もお楽しみいただければです