盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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変わらぬ世界

 

 ザフト軍新造艦ミネルバは、オーブ連合首長国はオノゴロ島へと入港をしていた。

 奇しくもかつてのアークエンジェルを思わせるその状況に、諸々の事情を知っている“彼”は苦笑を零していたのだが、それももちろん筋書き通り、わかりきっていたことだ。

 そうでなくとも、カガリ・ユラ・アスハを乗せているのだから、艦長であるタリアとしても第一の目的はこちらであっただろう。

 

 インパルスのパイロットことシン・アスカも、これで少しは肩の荷が下りるというものだ。

 すっかり激情家みたいな扱いの妹の心配もしなくて済む。

 いや、それでなくとも心配はするが……。

 

 ミネルバに掛けられた鉄橋を渡るのはカガリ、アスラン、タリア、アーサー……そしてウィレームの五人だ。

 

 階段を降りればオーブの政治家たちが揃って立っているが……代表のお迎えともあれば妥当であろう。

 

「カガリぃ!」

「ユウナっ!?」

 

 突如、その中から一人が駆け出し、カガリへと抱き着く。

 他の政治家たちと比べればずいぶんと若く、威厳と言うものにかけているが、五大氏族セイラン家の“ボンボン(跡取り息子)”であり、甘やかされて育っているのだから仕方も無い。

 すると、その父であるウナト・エマ・セイランがカガリの前に出る。

 

「これユウナ、気持ちはわかるが落ち着きなさい。ザフトの方たちも見ているぞ」

「ウナト・エマ……」

 

 宰相である彼はカガリを迎え、さらにミネルバを労う言葉をかけた。

 彼はそのままカガリへと近づくなり、なにかを耳打ちするが、政治家同士なのだからそうあって当然であり、他国に漏らすわけにもいかない話が多々あるだろう。

 特に“ザフト”には話せない話が……。

 

「ああ、えっと……」

 

 ふと、振り向いたカガリが見やるのはアスランやウィル。

 この場ではウィルもさすがにサングラスを外している。その赤と青の瞳は“彼が誰なのか”をハッキリと証明するものであるが、その場にいる者はほとんどが彼を誰かなど理解していない。

 いや、彼を───ウィレーム・マクスウェルとしか認識していない。の方が正しいだろう。

 さらに言えば、彼をB.A.E.Lの軍人だと理解できているのも一部だけだ。

 

「ウィレーム・マクスウェル大尉も、手筈は整っている」

「ええ、ありがとうございます……して、いつに?」

 

 口元を綻ばしながら言うウィルではあったが、内心穏やかではない。

 ブチギレられるかどうかはともかく、心配をかけたのは事実。

 

「まだ数日かかるとのことだ、貴殿もごゆっくりと」

「感謝致します。セイラン宰相」

 

 ウィルがふと、ユウナの方に視線を向けるが、彼はその視線を浴びるなり怯えたような表情でビクッと震えた。

 別に鋭い視線を送ったわけでもないが、とウィルは心の中で苦笑。

 ユウナはウィルへと愛想笑いを返し、カガリの肩に手を回すと、ウィルへと背を向けつつもそっとアスランの方へと視線を送った。

 

「君も本当にご苦労だったねぇアレックス。よくカガリを守ってくれた……ありがとう」

 

 ───もう自分のものみたいに言うじゃん。

 

 思わず心の中でツッコミを入れるウィル。

 

「報告書などは後でいいから君も休んでくれ。後でパイプ役を頼むかもしれない」

「はっ」

 

 短く返事を返すアスランに、軽く手を振ってカガリと共に去っていくユウナ。

 詳しい話は後々、ということなのだろうとタリアとアーサーは鉄橋を戻っていき、ウィルはアスランと共に黒塗りの車両に乗り込む。

 オーブの者と同じ扱いになるとは思わなかったなと、意外に思うウィルではあったが……裏で誰かしらが上手いことやってくれているのだろうとも思う。

 

 ふと、隣のアスランがやけに脱力した表情なのに気づく。

 

「さすがに疲れたか、君も」

「さすがもなにも、俺だって疲れますよ。それに……」

「ユウナ・ロマ・セイランか」

 

 運転手に聞かれぬように小声で言うと、アスランは露骨に顔をしかめた。

 

「そういえば大尉は数日間はこちらですか……キラたちと会っていきます、よね?」

「ああ、今日の夜にでもお邪魔しよう。その前におそらくこのまま私は連れて行かれる場所があるだろうしな」

「え……ああ、そっか」

 

 苦笑するアスランに、ウィルも同じく苦笑いで返す。

 

「女性関係は流石ですね。大尉」

 

 ───いや、お前に言われてもなぁ。

 

 

 

 軍令部に入りアスランと別れたウィルは、オーブ兵の案内の元、その部屋へとやってきていた。

 案内されて入ったものの誰もおらず、仕方あるまいとソファに座り自らを“呼んだ”者を待っていれば、数分ほどでその相手はやってきた。

 茶色のウェーブがかったポニーテールを揺らして入ってくる女性。

 

 あれから二年経ったが別段変わった様子もない。

 

「久しいな、エリカ技術主任」

「ええ、たい、いもお変わりないようで……ふふっ慣れませんわね。やはり私たちの中では“大佐”ですから」

「そろそろ慣れても良い頃合いだとは思うがね。アスランもだが……」

 

 どこか抜けていて“危なっかしい”彼のことを思って微笑を零す。

 

「大尉もそろそろエリカと呼び捨て、慣れません?」

「それはな……」

 

 苦笑いを浮かべるウィレーム・マクスウェルという男の弁護をするとすれば、アスランが言っていた相手とは、決してエリカ・シモンズその人ではない。子持ち人妻とランデブー等タブーも良いところだ。

 彼女は戦友、以上の間柄ではない……はずである。

 

 アスランが言っていたのは、次いで入ってきた三人。

 

「大尉!」

「きゃ~! 久しぶりの大尉!」

「お元気でしたか?」

 

 姦しいことだが、そういうのは慣れているようで特別なリアクションをするでもなくウィルは笑みを浮かべた。

 溜息をつくエリカを余所に、三人の少女はウィルへと駆け寄る。

 ちなみに困ったようなふりをして笑うウィルではあるが、内心満更でもない。

 

「アサギ、マユラ、ジュリ……君らもな、しかし少し見ない内にまた大人の女性らしくなった」

 

 その三人はアサギ・コードウェル、マユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェン。

 前大戦ではM1アストレイを駆り、カガリと共に戦ったパイロットたちで、モビルスーツ開発にも量産化にも体制を整えるにも後れを取っていたオーブではすっかりベテランエースパイロットだ。

 ウィルのことを知る者たちの間では、中々どうして会うことも多かったせいかすっかり懐かれている。

 

 いや、よくよく考えればずいぶん前から懐かれてはいたのだが……。

 

「大尉ったら相変わらずですね」

「ホントねぇ、なにかと重要なことには関わってるんだもの」

「そう言われると否定はできんがな。私とてトラブルの種を消すために戦っているのだが、結果的に中途半端に終わっていつもコレだよ……君らも知っているのだろう?」

「まぁその、はい。数日前に大西洋連邦。ブルーコスモスの方から」

 

 苦々しい表情で言うアサギに、ウィルは頷く。

 つまり、すでに“ブレイク・ザ・ワールド(ユニウスセブンでの事件)”はザフト脱走兵……コーディネイターの起こした事件だというのは世間に知れ渡っているということだ。

 彼自身も彼女らが求めていた空気ではなくしてしまったことを自覚している故か、多少の罪悪感はあるものの、既に“戦争まで秒読み”状態であれば、これも致し方ない。

 やれることもやるべきことも、できることすらも限られている。

 

「ジャンク屋組合は?」

「あら、大尉はそんなことまで既にご存知ですのね」

「生憎と耳は良いものでな」

 

 本当にどこから情報を仕入れて来るのか、とエリカは苦笑しながら頷く。

 

「プラント政府が事件後の放送でテロリストのジンが使っていた“刀”からジャンク屋がテロリストを支援していたって表明してからかなり風当りが強くなってるみたいです。確かに特殊なものですけど、武装だけで判断なんてかなり早計と思いますが、連合も真に受けてるみたいですし……」

「またひと波乱あるな、だがまぁ……そちらはミナに任せておいて良いだろう」

 

 そう言いつつ、軽くジュリの方に視線を向ける。

 彼女も一時は件の“ロウ・ギュール(ジャンク屋)”と親交があったはずであり、ウィルはもちろんそれを知っているし、アサギとマユラにも度々からかわれていた。ジュリも満更でもなさそうな時期はあったのだが、いつの間にやらすっかりだ。

 だがまぁ、普通の友人はやっているせいか、彼女の表情はどこか暗い。

 

 なんだかんだで上手くやることを知っているウィルとしては『心配するな』と声を掛けてやりたい気持ちもあるのだが、余計なお世話だなとエリカへと視線を戻す。

 

「愚痴を零してましたよ。貴方の期待は重いって」

「仕方もあるまい。能力があるものには期待してしまうものさ」

 

 そう言いながら肩をすくめる。

 

「それと、カガリ様がいない間にセイラン家がだいぶ動き回って、色々と厄介なことになりました」

「ほう、それはまた……」

 

 言いながらも、彼は良く理解していた。故に、今後の動向が気にもなるが、おそらく彼の識る“原作(歴史)”通りにことは進むだろうことも理解する。

 カガリがいかに成長していようと、いない間に“顔の利く”宰相が企てをしてしまえば現状、一部の老人たちにはお飾りとしか認識のされていないカガリでは圧倒的に不利だ。

 隣へと座りながら、アサギが溜息をついて不満気な表情を浮かべる。

 

「ウナト様、というよりセイラン家はブルーコスモス派よりですからね。今はB.A.E.Lとの親交が深いオーブですが、たぶんこのままじゃって感じです」

「他の五大氏族、マシマ家もキオウ家もセイランの方に寄ってますし、これじゃカガリ様が立場ないわよ……!」

 

 マユラは憤ったようにそう言うが、それもそうだろう。

 戦場を共にし、慕った姫がこんな状況に晒されては怒りたくもなるというものだ。

 

「……私もB.A.E.Lに行こうかしら」

「ちょっとジュリ」

 

 ジュリを諌めようとするエリカだが、アサギとマユラまで考える様子を見せるので溜息を吐く。

 

「貴女たちがカガリ様を支えないでどうするの」

「そういうことだ」

 

 エリカに次いでウィルもそう言うので、三人は不満そうではあるが揃って間延びした返事を返す。

 彼女らもカガリを支えたいという心持ちではあるのだが、いかんせん国が、内政がこうでは嫌気が差しても不思議ではない……しかし、それはどこにいっても同じだ。

 B.A.E.Lだってブルーコスモス派との睨み合いが続いているし、おそらく戦争が再度始まってしまえばこちらに燻っていたものも火種というだけには済みはしない。

 

 立ち上がるウィル。

 

「せっかくの再会だったが、暗い話になってしまったな。すまない」

「いえいえ、こうして大尉とお話ができただけでも十分です。と言っても、まだ数日はこちらにいるんでしょう?」

「ああ、迎えが来るまではな。まだ顔を合わせることもありそうだ」

 

 そう言うと、両側に突然の重みだが、誰かはわかる。アサギとマユラだ。

 

「それじゃたまには買い物とか付き合ってくださいよ大尉!」

「デートですよデート!」

「あんたたちも懲りないわね」

 

 先ほどの空気を一変させるような明るさで言うアサギとマユラに、ジュリは額に手を当てて笑いながら溜息をつく。

 そういう明るいところに助けられたのも事実で、ウィルは微笑を浮かべて肯定の意味を含めて頷いた。

 すると二人がウィルの目の前で手を合わせて喜ぶものだから、ウィルも内心で満更でもなくなる。

 

 ……内心とはいえ、こういうところでクールでいられないのはこの男の性分なのだ。

 

「ジュリはどうする~?」

「え~でも前は散々私たちのことミーハーだどうだって言ってたしなぁ」

 

 意地悪く笑う二人に、ジュリは肩をすくめて『なんのことだか?』と白を切る。

 そしてフッ、と笑みを浮かべつつ、中指でズレた眼鏡の位置を直す。

 

「やはりデート、私も同行するわ」

 

 ───ウーニェン院!

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 エリカたちと別れて軍令部を出たころにはすっかり陽も落ち始めていた。

 ウィルは暗くなってきた夕焼けに妙なセンチメンタルを感じながら、一人で歩きだす。

 目的地に着くまでに、“アスラン”から話を聞いた誰かが迎えにでもくるだろうと、海岸傍の道路、その歩道を歩いていると、想像よりもすぐにその迎えはやってきた。

 

 通り過ぎた車が少しして止まるので、隣に行けばその窓が開く。

 

「久しぶりね。ウィレームさん」

「まさかカリダさんとは思いませんでしたよ」

 

 運転していたのは“カリダ・ヤマト”……キラの義母であり、実叔母。

 

 

 

 複雑な関係性ではあるのだが、すっかり慣れたカリダとの会話は悪いものでもなかった。

 

 そもそも彼女が迎えに来た理由は、今日は夕食を共にするからと食材の購入に行くのも兼ねて、だったそうだ。

 コペルニクスに在住時には幼かったアスランの面倒を見ることも多く、その時からアスランは彼女のロールキャベツを好んでいて、だからそれを急遽作ろうと思ったらしい。

 アスランの気の落ちようを察した故、だろう。

 

「色々と雲行きが怪しくなってきたみたいね」

「ええ、残念ながら……」

 

 ハンドルを握る彼女の手に力が籠るのを、ウィルは見逃さなかった。

 

「また、前みたいにならないわよね。キラとアスランがっ!」

「大丈夫ですよ。キラもアスランもオーブです。それに……」

「っ、そう、よね。もうキラは、戦う必要なんてないんだものね」

 

 嘘だ。ウィルは識っている。

 もう止まらないこと、止められないこと……そしてこうなってしまえば、キラとアスランがもう一度、ぶつかりあってしまうこと……。

 そして、彼自身も既にそこを止める気はない。もはやその方が彼にとって都合が良いのだから……当然、気持ちの良いことではないが。

 

 だから視線はカリダの方ではなく、窓の外、茜色の海へと向けられる。

 

 

 

 ほどなくして、現在カリダたちが暮らすアスハの用意した屋敷へとやってきたウィル。

 本来であればオーブ本島から少し離れた島に暮らしていた彼女らではあったが、落下したユニウスセブンの破片により発生した高波は、“やはり”アスハ邸を押し流した。

 結果、オーブ本島のこちらに住居を移したわけだが、結果的にはこちらの方に来て正解だっただろう。

 

 食材の入った紙袋を手に、カリダと共に屋敷へと入るウィル。

 ソファに座っている相手を見れば、そちらも入ってきた母とウィルに気づいた。

 

「っ……ウィルさん!」

「久しぶりだなキラ」

 

 明るい笑顔を浮かべるキラに、ウィルもまた笑みを浮かべる。

 向かいに座っていたアスランとも視線を合わせるが、先ほどぶりなので別に言葉もいらない。

 そしてもう一人、男性がそこにはいる。

 

「マルキオ導師……」

「お久しぶりですね。ごゆっくりなさってください、貴方の話も後々聞かせていただきたい」

「ええ、後で」

 

 ウィルはそのままキッチンへと向かうが、その後をキラは付いていく。

 まるで犬かなにかのようで、アスランは苦笑を零し、カリダは思わず笑みを零す。

 彼がウィルに懐いているというのも今更なのだが、そんなキラは最近では珍しいのもまた事実だ。

 

 孤児院もかねているこの屋敷では、むしろキラは逆の立場である故に。

 

「すまないなキラ、最近はこちらに寄る余裕もなくてな」

「いえ、忙しいのは知ってますから」

 

 食堂のキッチンに着くなり、ウィルは紙袋を置いて腕を組み壁に寄り掛かる。

 キラへと視線を向ければ、先ほどと打って変わりどこか表情は暗いが……言いたいことは理解していた。もちろん、彼の杞憂も。

 だからこそ、かけるべき言葉を選ぶべきなのだろう。

 

「……また、戦争になるんですか?」

「そうならぬように努力はしたさ、そしてするつもりだ。これからもな……」

 

 だがもう、全ては手遅れだ。

 開戦は避けられないだろう……戦争がしたい連中がいるし、その思惑通りに事は運んでしまったのだ。

 

 ならばやれることは、その戦火の中、いかに守るべきものを守るか、である。

 

 同じだ。やることも、やれることも、やってしまったことも、なにも変わりはしない。

 

 新たなる戦いの始まり。

 

 

 ───そんなに戦争がしたいのか、お前たちは……。

 

 







次回はさらに久々の面子と会話も
まだ特にウィルに動きはないのでここらへんは原作通り進んでいく感じですが、諸々と変わるのは開戦してからになります
こうなったら下手に歴史改変するよりもある程度歴史通りの方が都合が良いので見て見ぬふりのウィル……精神にだいぶダメージ

そろそろヒロインにも出番を与えたいのに、やることが、やることが多い……!

では、次回もお楽しみいただければです
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