盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

66 / 80
悪魔のチカラ

 

 ウィレーム・マクスウェルは、キラたちが住まうアスハ別邸のバルコニーにいた。

 

 月光がそこから見える海を照らし、地球でゆっくりすることも忘れていた彼にはそれがひどく美しく、かつ残酷な光景に映る。

 ウィルは根本的にこの世界の人間の感性とはやはりどこか離れているせいか、この世界に住む人々と比べても、地球に対する愛着が一際強い。

 

 だからわかる。そして、許せないこともある。

 

「こんな綺麗な星をよくもまぁ汚してくれるものだな」

「おや、環境保護団体のようなことを言うんだねぇ、君は」

「実際そうでしょ?」

 

 そう言って現れるのは“アンドリュー・バルトフェルド”と“アイシャ”の二人。

 片腕を失ったはずの二人ではあったが、今は義手をつけてそれほど不自由もなく暮らしている。

 バルトフェルドが義手である左手で差し出すコーヒーを受け取り、ウィルはそれを一口……。

 

「っ……」

「おや、猫舌かい?」

 

 顔をしかめるウィルに、バルトフェルドとアイシャの二人が笑みを零す。

 目の前でひっついてイチャつかれて少しばかり思うところもあるが、それはそれでウィルの心を満たす光景でもあるのは事実。いや、満たすというよりは安心する、と言ったほうが正しいかもしれない。

 彼自身が掴み取った未来でもある。

 

 再度コーヒーに口をつけ、少しばかり啜る。

 

「ん、悪くないが……もう少し濃くても良いな」

「ほう、君とは味の好みが合いそうだねぇ」

 

 少しばかり嬉しそうなバルトフェルドに、ウィルは苦笑を零して所詮は素人の戯言であると論ずるが、あまり聞いているようにも見えない。

 柵に寄り掛かりつつ、ミネルバに乗っていた時とはまた違った感覚で潮風を感じる。

 そうして飲むコーヒーというのも乙なものだとは思うが、自身が格好つけすぎている気もして少しソワソワとした気分になってきた。

 

「お! 久しぶりじゃないのロ、ウィル!」

「ムウ……」

 

 隣から聞こえる声にそちらを向けば、そこには“ウィルの識るこの時代のムウ・ラ・フラガ”よりも二年前に近いムウ・ラ・フラガがいる。

 ヤキン・ドゥーエでの戦いで、彼がしっかりと帰艦したことの証でもあるだろうから、ウィルとしてもその結果には満足しているのだが……。

 

「久々だってのに辛気臭い顔してんなぁ、キラの奴ちょっと心配してたぞ?」

 

 その言葉に眉を顰めるのは、諸々と表情に出てしまうぐらいキラたちがいると気が緩んでしまうということに少しばかり思うところがあるからだ。

 アズラエルたちの前ならば構わないが、これから色々とあるであろうキラをはじめとしてここの者たちに心配をかけるということに抵抗はある。

 

「憂鬱にもなるわよね。軍人さんは」

 

 さらにやってきたマリュー・ラミアスの言葉に、肩をすくめた。

 

「君らとて他人事ではいられんだろうさ、セイランが連合……ブルーコスモス派と協定を結べば、おそらく戦火を完全に回避とはいくまい」

「いやなこと言うねぇお前さんは」

現実主義者(リアリスト)なのさ、それだけではダメなんだな。だから理想主義も必要になる」

 

 やや凝った物言いをするものだから、ムウは『いつも通りだな』と溜息をつく。

 

「どうせ色々一人で考えてるんだろ」

「そういうこともする。私には守りたいものが多いからな、君ら然りだよ」

 

 そう言いつつ、コーヒーを一口すすって息をつく。

 もう少し毒気の無い話をしたかったのだが、いかんせん状況が状況で、面子が面子なだけに、どうあってもそういう話になってしまうのは、やはりウィル自身が世界を考えすぎているから、なのだろう。

 大舞台に立つ人間でもないのに、余計なことばかりが頭を過り思考する。

 

 だが、そうでなくてはならない理由がある故に……。

 

「少し下に降りてキラたちと話してくる。帰る前にはもう一度顔を出すよ」

「そうしてくれ、次はいつ会えるかわからんからねぇ」

 

 バルトフェルドの言葉に、やはり苦々しい笑みで返したウィルは、コーヒーカップを持ったまま中に入ろうとする。

 だが、バルトフェルドは次いで不敵な笑みを浮かべた。

 隣のアイシャが眉を顰めるのは、彼が何を言うか理解し、ウィルがそれを快く思わないと理解しているから……。

 

「戻るのかい。戦争が始まったら……“赤い悪魔”に」

「……“ロマ・K・バエル(赤い悪魔)”は死んだ男だ。今更表舞台に彼の居場所は存在しないさ」

 

 少しばかり空気が張り詰めるも、それをバルトフェルドが笑い飛ばす。

 

「そうかい。そうかもしれないねぇ……ま、物騒な奴らに居場所なんて無い方がいいのかもだけど、“虎”も“鷹”も“悪魔”も、さ」

 

 バルトフェルドたちに背を向けたまま軽く手を上げて応え、ウィルは消える。

 残された四人の中、アイシャがバルトフェルドの脇腹を軽く突く。

 咎めるような彼女の視線に、困ったような笑みをうかべつつ、バルトフェルドは今一度肩をすくめた。

 

 

 

 下の階、リビングへと入るとそこにいると思っていたはずのキラはいない。

 むしろ誰もいないことに気づき、溜息をついてソファへと座る。

 バルトフェルドとの会話を思い出しそうになるも、頭を振って忘れるのは、今は必要ないと理解しているからだ。

 

「あら、ウィレームさん」

「ラクス嬢……」

 

 桜色の髪の少女、ラクス・クラインがそこにはいた。

 

「キラなら子供たちと一緒にお風呂ですわ。もう少しすれば出てくるとは思いますけど」

「そうか、ならここで待つとするよ」

 

 そう言うウィルの対面のソファに座るラクス。

 彼女も湯上りなのか、ウィルの視線にはいつもより、どこか色っぽく映る。

 らしくないといえばらしくないが、らしいといえばらしいウィル自身の思考を、ウィルは否定して封印しておく。

 弟のような相手の恋人を相手に、妙なことを考えてしまったという嫌悪感に僅かに眉をひそめた。

 

「キラは、ウィレームさんが来るといつもより元気になりますわ」

「慕われているというのは悪いことではないがな、やはり私などを慕うべきではないよ。キラは……」

「それは“自由”でしょう?」

 

 違いない、とウィルは頷く。

 

「時々、思います。わたくしも……」

「……なにを?」

 

 その言葉に、ラクスは微笑を浮かべた。

 元ザフトの歌姫ラクス・クラインのその笑顔は、どこか迷っているようにも見えるのだが、それを視た記憶はウィルにはない。

 彼女はここでキラと仲良くにこやかに過ごしていたはずだ。それを“視聴()”たはずで、それしか見ていないはずだ。

 

「アズラエル顧問のように、表舞台で悲劇を止めるためになにかできたのではないのか、と……やるべき義務があったのではないか、と……」

 

 そこでキラたちと平和に暮らすことに後悔があるわけではないだろう。

 ただ、それでも別の可能性があって、それをやることによって回避できた悲劇があったのではないだろうかという迷い。

 それを理解してしまうからこそ、ウィレームはやや間を取ってから、吐き出すように言葉にする。

 

「同じさ、なにをしても諸々の悩みなど尽きんよ」

「ウィレームさん……」

「あの時ああしてなければ、あれをやれてたら……もしも等言っていても尽きんよ。私も何度も選択を間違ったと思いながらも、その選択をしなければどうにもならなかったと思っている。ヤキン・ドゥーエで自らの生みの親を見捨てたということも然りだ」

 

 正確には『第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦』で、だ。

 月、増援艦隊に両親がいることはわかっていたし、月基地か増援艦隊のどちらかにジェネシスが放たれることも理解していたが、それでもウィレーム・マクスウェル。否───ロマ・K・バエルはそれを許したのだ。

 自らの最も大切な者たちを守るため、そちらを“見殺しにする”ことを選択した。

 

「別に取り返しがつかない事態になったわけではない。それに君がいたとて、そうなっていたかもしれない。詮無い話だ。今、君がするべきことは心に傷を負った子供たちを包み込んでることだろう」

「……はい」

「状況はいつだって不変ではないよ。君がやるべきことは常に目の前にある……キラや、私、ラクスや……君もな、フレイ」

 

 そう言うと、ラクスがウィルの向いている方向に視線を向けた。

 赤い髪の少女、フレイ・アルスターがそこにいて、苦笑を浮かべている。

 彼女もまたここで戦争から離れて暮らしていた者の一人だ。

 

「あ、あはは、別に立ち聞きするつもりは無かったんだけど……」

 

 あの頃よりずいぶんと柔らかい雰囲気になったフレイが、そのままウィルの隣に座る。

 

「あ~なんていうか意外っていうか、ラクスがそんな悩んでたなんて思わなかった」

「いえ、そこまで深刻なことでは、ただ少し……そういう方向もあったのではないか、なんてことを思ってしまうぐらいで」

 

 少し暗い表情で言うラクスに、フレイは手を軽く振った。

 

「ないわよ。ないない、あんたがここにいなくて誰があの子たちの面倒見るのよ」

「……それはみなさまが」

「なんだかんだみんなアンタに懐いてるんだから、アンタのおかげで立ち直った子だっているのに、その子たちのこと放っとけばよかったって思ってる?」

 

 呆気らかんとしたフレイの言葉に、ラクスは首を左右に振れば、彼女は満足そうに数度頷く。

 昔、色々と抱えていた彼女を思えばずいぶん変わったものだとは思うが、ウィルはそんな彼女にどこか“ハイータ”の影を感じた。

 ラクスが、口に手を当てておかしそうに笑う。

 

「ふふっ、ありがとうございます。フレイさん……それに、ウィレームさんも」

「私はなにもしとらんよ」

 

 心底、本気でそう思っているウィルがそう答えると、フレイとラクスは顔を合わせて、また可笑しそうに笑った。

 なぜ笑われているかわからずに眉を顰めるも、それにつられてかあらたに一人、リビングへと脚を踏み入れる。

 

「ん、キラか」

 

 顔を出したキラが、そのままラクスの隣へと腰を降ろす。

 

「ウィルさん、降りてたんですか?」

「ああ、少しな……子供たちは?」

「寝室に連れて行きました」

 

 子供は寝る時間ということだろう。

 ウィルも時計を確認し、ぼちぼち帰る時間だなと思いつつ、もう少し話しておきたい気もした。こうしてゆっくり会話をするのが、この数日を逃せば、いつになるかわかりやしないのだから……。

 足についてはアスランは先に帰ってしまっているので、帰りはムウの車を借りていく手筈となっている。

 

「ウィルさん、食堂で一緒に御飯もしなかったですけど、子供苦手なの?」

 

 フレイの言葉に、苦笑するウィル。

 

「子供たちは私を怖がるからな。純粋にモノを見るから、私のような大人は彼らにとっては少しやりづらいんだな」

「あ、そういえばフレイも昔はロマさんのこと」

「えっ、私ってめっちゃ子供だったってこと……?」

 

 いまいちハッキリ覚えていないからそう言うフレイだが、キラもウィルも彼女がロマを怯えていた理由を理解している。

 逆に内面を僅かにでも感じてしまったから、当時の周囲に気を張っていたロマに苦手意識を持っていたのだろうと……。

 

「年長組は逆にウィレームさんのことを慕っている子が多いんですのよ?」

「ん、そうだな。彼らもよく話しかけてくるようになった」

「初恋はウィレームさんですわね」

 

 ラクスの言葉に動揺を見せないようにしながら、コーヒーを飲む。

 

「しょ、少女にとっては私のような存在は珍しいだけさ、そういうものだろう……?」

「ここにはウィルさんみたいな、紳士な大人の男はいないから……ムウさんもあれだし、バルトフェルドさんもそう言う感じじゃないし、10代前半の女の子は憧れるわよねぇ」

「フレイ、茶化すなよ」

 

 からかうように笑みを浮かべるフレイに、はっきりと眉を顰めながらコーヒーをさらに一口。

 

「やっぱウィルさんってすごいんだなぁ」

「いや、そうはならないでしょ」

 

 呑気に言うキラに、フレイが即座にツッコミを入れるのだが、当の本人であるキラは小首を傾げた。

 彼はウィルを盲信しているようなきらいがあるので、フレイとラクスは少し心配にもなる。

 ウィレーム・マクスウェルが非道なことをするような人間ではないと、思ってもいるのだが……。

 

「え、そうかな。でもウィルさんってカッコいいし……」

「いやいや。タラシよタラシ、みんなに気を付けろって言っとかないと」

「私の名誉のためにお手柔らかに、な?」

 

 苦笑を零しつつ、ウィルはコーヒーを一気に飲み干した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 それから数日後の早朝のことである。

 

 オーブ軍令部の応接室に、ウィレーム・マクスウェルはいた。

 ふと、“生前(前世)”で読んだコミックに書いてあった言葉を、思い出す。

 

 ───笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。

 

 そんなとんでも起源説のことを思い出したウィレーム・マクスウェルであったが、無理もないだろう。

 いや、その文を読んだ時、どう思ったかは重要なことではない。問題は、実際にその場でそう思ったということが問題なのである。

 そう思わせられた。それを思い出さざるを得なかった。

 

「お久しぶりですね。大尉」

 

 ウィルの正面には、いつも通りの白いスーツを纏った女性がいた。

 事務仕事でもないからか、髪も結っていないし眼鏡もしていない見慣れた“ムルタ・アズラエル”その人だ。

 彼女は笑顔を浮かべながら、ウィルの前に立っている。

 

 約束通り、数日以内に彼を迎えに来たのだ……顧問自ら。

 いや、顧問であるからこそできたのだろう。

 盟主時代ではできなかった話だ。

 

「で、では私たちはこれで……」

「ご、ごゆっくり~……」

 

 アズラエルを案内してきたエリカとアサギが部屋を出る。

 引きつった笑みで冷や汗を流していたのは、この軍令部応接室がこれから戦場になると思っているからだろう。

 

 ───通行人はどいてた方がいいぜ! 今日この応接室は戦場と化すんだからよ!

 

 妙なことを思考してしまうのも、追い詰められた者の末路なのだ。

 

「さて、とりあえず明日は“埋め合わせ”してもらうとして……」

「あ、ああ、任せてくれムルタ」

 

 広げた両手を勢いよく合わせてパンッと破裂音のようなものを響かせる。

 

「……お説教ですねぇ♪」

「お、お手柔らかに、な?」

「ん~?」

 

 笑みを浮かべたまま首を傾げるアズラエルに、ウィルは静かに平伏。

 

「と、とりあえず言い訳を」

「良いですよぉ♪ 聞いた上で捻じ伏せますからぁ♪」

 

 満面の笑みに、ウィルは首を縦に振る。

 

「あ、はい」

 

 ウィルはこれが自身の最後の戦いになることすら覚悟するのだった。

 

 







今回はほぼ会話だけって感じでしたが、前篇じゃ会話あまりさせられなかったキャラたちと会話もさせられました
アズにゃん見ててラクスも思うところができてしまったりしてますが、とりあえず悪魔的カウンセリング
一番カウンセリング必要なのは悪魔本人な気もしますが(

そして最後にラスボス登場
次回「ウィレーム死す」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。