盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
ウィレーム・マクスウェルは車を走らせる。
二日ほど前に、自分の迎えにやってきたムルタ・アズラエルと数名。
軍令部で部屋を借りていたウィルもそれによって無事、ホテルへと宿泊場所を移しゆっくりと羽を伸ばし……否、羽を伸ばせるわけもない。アズラエルへの負い目から少し、いやかなり姿勢は低かったし、かなり気を使っていた。
別に彼女の怒りも初日で収まってはいたのだが、尻に敷かれるのがすっかり板についてしまったというとこだろう。
オーブも今は形式上“B.A.E.L”側と親密という扱いではあるが、水面下ではセイラン家が徐々にブルーコスモス派に近づいている。
いや、ブルーコスモス派というより、ロゴス派ではあるのだが、それを大衆が知るわけもないので語る意味もない。
ともあれ、ウィルはこうしてオーブへとやってくるのも最後になる可能性もあるということを考え、なおかつアズラエルへの埋め合わせも兼ね……彼女に“
ウィルは“待ち合わせ場所”の最寄にある駐車場へと“アスランから借りた車”を止め、車から出て十月後期の肌寒さに僅かに眉を顰めた。
サングラスをかけ歩きだしたウィルは、ふとここ二日のことを思考する。
一日目はオーブの政治家たち、つまりカガリやウナト等との談合と空いた時間でのお説教で終わり、二日目も変わらず政治家たちとの会合、会食……。
アズラエルとしては前大戦で多少なりとも世話になった“アークエンジェル”の面々の元に顔を出しておきたかったそうだが、そうもいかないだろう。
結局、次に会うのは戦場なのだろうと、ウィルは歩きながら思わず苦笑を浮かべる。
二日目にアズラエルと共にロンド・ミナ・サハクと顔を合わせもしたが、大した話もしていない。
別に“
だからこそ、今はただ流れに身を任せるのみ、と言ったところだろう。
動くのは十一月の“審判の日”が訪れてからで十分だ。
「む、いかんな……」
───せっかくムルタと久々にゆっくりするのに、こんな顔してちゃぁな。
そのぐらいの気遣いをできる程度には大人になったつもりだが、やはりそういう顔をせざるをえないこともあるので、ウィルにとっては憂鬱なことである。
センチメンタル的になるのもまた仕方のないことであろう。
深く深呼吸をして、目的地へと脚を進めていると、ふと……立ち止まる。
「むる、た……」
近づいて、彼女を見て途切れつつ名を呼ぶ。
「ん……あ、まったく遅いですよ。私を待たせるなんて貴方以外じゃなきゃ許されませんから」
そう言って微笑を浮かべる彼女は───至極、普通の女性であった。
いや、普通ではないだろう。普通よりもよほど整った容姿をしているし、その身体は凶悪である。ウィルは良く知っている。
だがそうして待ち合わせ場所で、両手で小さな手提げバッグを持っている彼女は、やはり“普通”であるだろう。
すっと身体をウィルの方へと向けると、肩口から前に垂れた金のルーズサイドテールが揺れる。
一応身分を隠すためだろう赤縁の眼鏡。
「まぁ、あの娘たちも結構待たせてきますけど」
クスッと笑う彼女の青い瞳が細められる。
「あ、あぁ……」
白いニットのセーターと、灰色のロングスカート、足元はブーツ。
その凶悪なボディラインがハッキリと理解でき、ウィルはやはり身構える。
仕方もあるまい、長年“
「どうしたんです?」
「あ、い、いやなんでもない。すまないな、待たせた」
「ん、まぁ許してあげましょうか」
クスッと笑みを浮かべて頷くアズラエルを見て、ウィルはいつも通りな彼女に頬を綻ばせた。
───どえらいおっぱい美人とか緊張するんですが。
一方、揃い並んで歩いていく二人を見やる影。
ムルタ・アズラエルのお付きとしてやってきたディアッカ・エルスマンである。
腕を組んでその後ろ姿を見送るなり、溜息をつく。
「微笑ましいことで……」
「なに言ってんの?」
そんな彼に横から声をかけるのはミリアリア・ハウ。
現在、戦場カメラマンとして世界を駆ける彼女とこうして直に会う機会は少ない。
今回はアズラエルが気を利かせて、こうして地球へと自分を付添いとしてつけてくれたおかげで二週間ぶりであるが、でもなければ一月近く会わないこともざらにある。
だからこそ、ディアッカ自身としては彼に少し感謝してるところもあった。
「まぁおっさんのせいで色々大変だったって話さ」
「ウィレームさんも大変だったんでしょ、色々と聞いたけど」
歩き出すミリアリアの隣を歩くディアッカはその言葉の意味をよく理解しているし、なんならミリアリアよりも思っている節はある。
ただ、性格上小言を言わないということもできない。
彼のおかげだと素直に言いだせるタイプでもないし、だからこそ微笑を浮かべながら静かに頷く。
「ちっとは大人しくしてて欲しいもんだよ」
大人しくしていられるよう、そうなればそれが良い。
「……てか、ゆっくりしたいんだよなぁ、俺も」
「なに言ってんの、ちゃんと仕事してんの? アズラエル顧問たちに迷惑かけてないでしょうね?」
「信用ねぇなぁ」
◇ ◇ ◇
ミネルバ艦内、食堂にいたシンが、ふと思い出すのは前日のことだ。
オーブへの上陸許可が出たことによりはしゃいでいたクルーたちを尻目に、レイは上陸などすることもなく射撃訓練に勤しみ、マユもまたMSのシミュレーターに“余計な思考を排除する”が如くかじりついていたし、シンもそのつもりではあったが、結局は“忌わしい記憶”が存在するオーブへと足を踏み入れた。
実際に足を踏み入れ、歩いて見て思うことは勿論ある。
真新しい道、見知ったはずの道が存在した場所は知らない場所になっていたが、それでもその匂いや潮風はあの時を想起させた。
だからこそ、感傷的になってしまったのだろう。
『いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす』
それは自分の言葉だ。
優しげな青年に、わざわざ口にしてしまい後悔した言葉。
慰霊碑の傍に咲いた花が波を浴びて枯れると言う言葉に対する……。
「なにやってんだろ、俺……」
自分でこうなのだから、マユを連れて行けばどうなったかわかったものではない。
心の傷を癒すには、もっと時間が必要なのだろうと深く息をつく。
「なんて顔してんのよ。大丈夫?」
「ルナマリア……」
食事を持って隣に座るルナマリアが、心配そうにシンの顔を覗き見る。
微笑を浮かべつつ、軽く首を縦に振るシンが顔を上げれば、正面にレイが座っていたのに気づく。
二人が同時に来るなんて珍しいなと思っていれば、ルナマリアが少しばかり唇を尖らせるのを見て、やはり一緒に来たわけではないのだと察っす。
どうにも折り合いが悪いように思う二人だが、性格上納得できる。
「ん、大丈夫」
「なら良いんだけど、しっかりしてよね」
そう言って肩を軽く小突かれるが、シンは変わらず笑みを浮かべて頷く。
少し遅れてヨウランやヴィーノ、メイリンとマユもやってきた。
すっかりクルーの一員のような扱いの妹に、少しばかりモノ申したい自分もいるのだが、艦内のことを手伝ってもいるようで、他のクルーやタリアも何も言わないので、気持ちは胸にしまっておく。
ちなみに昨日、ミネルバへと戻ってきたシンの顔を見るなり放ったマユの第一声は───。
『だから行かなきゃ良かったのに』
である。
そんなことを思い出していれば、ふとメイリンが思い出したかのように言う。
「あ、そういえば今日、市街でウィレーム大尉見たよ」
「え、大尉がまだオーブに? てか市街?」
ルナマリアが首を傾げてそう言うので、おそらく同行していなかったのだと察する。
「意外だよなぁ、大尉って街歩くとかするイメージないし」
「そうそう、休日でも仕事とかモビルスーツのことばっか考えてそう」
「偏見凄いわねあんたたち」
まぁ、言いたいことはわからんでもない。
ごく一般的な楽しみを享受しているイメージがないのだ……目の前にいるレイもまた然りだが。
「なのにまさかデート中とはなぁ」
「デート!?」
大きな声を出して立ち上がったのは───マユだった。
「あっ……す、すみませんっ」
顔を赤くして大人しく椅子に座るマユを見て、ヨウランたちは『狂犬』的なイメージを持っていた彼女に一抹の安心感を抱く。年相応であるということは良いことだ。
メイリンとルナマリアは苦笑を浮かべ、シンはというと複雑な表情を浮かべていた。
彼を慕う気持ちはシンにもわかる。説明できないものの空気感からそれは理解する。
だが、そういう意味の“慕う”とはまた違ったなにかを感じるのも事実だ。
口をへの字にしているシンに、横のルナマリアが近づく。
「まぁまぁ、あの年頃の子は一回は初恋ぐらいするものだから」
さらに口が歪み眉が吊り上るシン。
だが、やはり納得はできないが理解できないものでもないのだ。
シンはそうでもなかったが、思春期なのだからそういうのもあり得ない話ではないし……これで相手が身近な者だったら全力で考え直すように言いに行くところだが、そうではない。
強張った顔の筋肉を徐々に緩め、深く息を吐く。
「そうそう、変な男が相手なら私もなんとかしてあげるから」
頼るべきは身近な女友達である。
「でも大尉も興味ありませんって顔してブロンド美女とデートとかすげぇよなぁ」
「いや、大尉はモテるだろ。あの感じ……にしてもおっぱい大きかったよな」
子供の前で下種な会話はやめろ、とシンが視線を送れば二人は気まずそうな表情を浮かべて視線を逸らす。
そしてマユとメイリンは自分の胸を見て大きなため息をついた。男はやはりそこなのかとヨウランとヴィーノに軽蔑の視線を送りながら、次にルナマリアの方を見て、やはり大きく息を吐く。
一瞬止まってから、ルナマリアが自分の胸を見下ろして少しばかり顔を赤くする。
「な、なによぉ……」
「いいなぁ、ルナさん」
マユの言葉にルナマリアはさらに顔を赤くして、無言で食事を進めていく。
シンはと言えば“そちら”に向きそうな視線を精神力で制しつつ、やはり同じく食事を続けるのだが、ふとメイリンがナニカを悩むような表情を見せつつ呻く。
「あの女の人、どこかで見たことあるんだよねぇ……」
そんな言葉に、レイが僅かに食事をする手を止めるものの、すぐに手を動かし始める。
レイの僅かな変化を見たシンではあったが、彼も構わず食事を続けることにしたのだった。
◇ ◇ ◇
特筆すべきこともない、普通のデートであった。
だが、ウィレーム・マクスウェルとムルタ・アズラエルにとっては、そうではない。
らしくもない、ごく普通の男女らしいデートコース。
買い物、ランチ、映画、カフェ、再度買い物、そしてようやく“らしい”ディナーとホテル。
だが、あくまでウィレーム・マクスウェルとムルタ・アズラエルにとっては、である。
かつての“
「ん、なに黄昏てるんです。“らしく”もない」
「ああいや、別にその気は無かったんだがな」
深夜、すでにデートが前日となった時間帯。
ホテルの窓際の椅子に座すバスローブ一枚を羽織ったウィルは、お高いワインを飲みながら苦笑を浮かべる。
すっかりそれらしい仕草が板についてしまったし、役者じみた言葉遣いも同じく染みついてしまったが、やはり内面にそれほどの変わりはない。
どこかおかしそうに笑う彼は、他の者たちの前にいる彼とはまた違う彼だ。
「ん、私は赤にしときます」
そう言いながら、ウィルの飲んでいた白ワインとは別の赤ワインを冷蔵庫から取り出しグラスに注ぐなり、ウィルの膝の上へと座る。
彼女もまた、バスローブ一枚を纏っているだけなのでウィルとしても非常に眼の毒だなと思いつつ、視線を窓の外へと向けた。
街は一部を除けば徐々に明るさを失っていく。
「で、どうするんですか……?」
膝の上でワインを飲むアズラエルの言葉に、ウィルは苦笑を浮かべた。
今日は“仕事の話”はしないように努めては来ていたが、こうなればそうもいかないだろうと正直に頷いて思考する。
いや、思考はずっとしていたのだが、言葉をまとめている。
「ああ、そうだな。ともかく戦争になるのはほぼ確定だろう。戦争にしたい者たちがいるからにはな……だが問題は“ハイータ”の方だ。彼女を取り戻そうと思えばやはり、大西洋連邦と争うことにはなるな……いや、ロゴス派と、か」
「別に今でも一触即発ですからね。戦争になったら向こうがしかけてくるでしょうけど……あとはこっちが上手くザフトとやりあわせて戦力を削りつつ戦うしかないでしょう」
前大戦での余力を“
B.A.E.Lと分裂していることもありウィルの識る歴史ほど戦力は集まらないと思いたいところではあるが、中立派もこのままではロゴス派と合流することになり、結局は識る歴史以上に戦力差は連合に傾くだろう。ユニウスセブン落下での被害が“比較的に抑えられた”こともその一因である。
だからこそ、B.A.E.Lを牽制しつつザフトとの戦闘もやりかねない
「厄介なことだが、ハイータがいるんだ。我々が引く理由はあるまいよ」
「……ん、わかってるなら良いんですよ」
「にしても、エゴイスティック的なことだ」
実に軍人らしくはないが、それでも人間ではあるのだ。
「ふふっ、まぁでも良いんじゃないですか」
ワインを口に含んだウィルを見るなり、アズラエルは顔を近づけ、当然のように唇を合わせる。
深い口付けにウィルの飲み込む前の赤ワインが垂れていき、アズラエルの口の端からその首を通り胸元へと伝っていく。
数十秒と続いた接吻を終え、少し呼吸を荒くしながら離れるアズラエルは悪戯っぽい笑みを浮かべウィルの顔を見上げる。
彼の手が“再度”アズラエルの肌を撫でていく。
「欲望によわよわですねぇ~♪」
無言のウィルに、変わらず挑発的な表情で挑発的な言葉を投げかける。
「でも、そういうとこ……好きですよ」
「……ああ、ありがとう」
微笑を浮かべ頷いたウィルは、すっかり馴染みとなった自らの金色の髪を掻き上げ、続いてアズラエルの顔に手を添えた。
自分と同じ金色の髪をかきわけ、後頭部へと手を伸ばし、再度顔を近づけていく。
やはり彼女の言う通り、欲望に弱いのだろう。
赤と青の双眸に映るのは、この時ばかりは、世界のことなどではなかった。
お待たせしました。お待たせし過ぎたかもしれません
とりあえずのほほん(?)とした回です
アズにゃんとウィルの関係性やら、ディアッカとミリィやらその他もろもろと
箸休め回というヤツですね
こういうののほうが書くのに時間がかかったりする
そしてお茶の間が凍りつきそう(
では、次回もお楽しみいただければです