盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題) 作:樽薫る
月面、プトレマイオス基地の会議室に、B.A.E.Lの幹部数名が集っていた。
あの“
神妙な面持ちでいるのは、現状故か、こんな場所に引っ張り出された故か……。
どちらにしろ無視はできないだろう。
ニュースはどのチャンネルもソレを報道しているし、当然ながら連合も……否、B.A.E.L内もそれなりに慌ただしい。
「核、か……」
苦々しい表情で言うのはデュエイン・ハルバートンである。
「そして開戦、ですね」
宣戦布告と同時に、“
主力を十分に引きつけた後に放った核攻撃はプラントへの直撃コースかと思われたが、たった一発の新兵器での攻撃で全滅。
戦闘自体は収まったものの、睨み合いは続いている。
ウィレームとしては、ある程度は歴史通りにことが進んでいるようでなによりだと安心感すらも覚えていた。
戦争になることは明白であったので今更どうこうは言わない。
だがしっかりと核をすべて迎撃し、“本来の歴史”通りにことが進んだ。
ある程度は動きやすくもなろう。
「……オーブの動きはいかがか?」
「未だ不明ですが、アスハの姫を抱え込んだセイラン家が実権を握っているとなれば……結果は自ずと明らかになるのでは?」
「そう勿体ぶった言い方は好きじゃありませんねぇ……まぁ、違いないことですけど」
情報では大西洋連邦、つまりロゴス派とオーブの接近は明らかだ。
新たな同盟の締結となれば今後、B.A.E.Lと今までのように、とはいかないだろう……いや、もはや敵となる可能性も否めない。
ロゴス派の敵はオーブの敵になるだろうし、あの大戦力も合わさればザフトとB.A.E.Lを同時に相手にすることも可能だろう。
おそらくロゴス派にとってもB.A.E.Lは目の上の瘤であるから……。
「……君はどう思う。マクスウェル大尉」
ハルバートンの言葉に、他の幹部たちもアズラエルの斜め後ろに立つ金髪の男の方へと視線を向けた。
その目にあるのはハルバートンやアズラエルに向けるものと同じ、明確な信頼感。
とてもではないが、一兵士に向けるものではないだろう。
だが、彼には向けられるだけの“存在しない実績”があるのだ。
「今言っていた通りの展開にはなるでしょう。おそらくオーブは大西洋連合と組むのは間違いありません。それに大西洋連合もオーブを遊ばせておくとも思いませんから、足並みそろえて明確に攻勢に出てくるでしょう。すなわち、大西洋連合と戦闘になればオーブが増援としてくる可能性も否めない」
彼の言葉に、皆が頷く。
「我々は第一目標として、まずこのプトレマイオス基地を守り切ることを優先せざるを得ないわけですが……同時に立場を示す必要もある。大西洋連合本体が弱体化した時」
「B.A.E.Lが大西洋連合の実権を握る。そのためにですか」
「そういうことです」
アズラエルの言葉に、ウィルは肯定で返す。
そもそもB.A.E.Lは大西洋連邦の“中立を含めた自陣勢力以外への弾圧や差別”そして“
そう、大西洋連合内にて実権を握ることだ。
今しがた、その後に停戦協議まで持ちこむ、ということまで追加されたが……。
「今回は戦力が出揃っているところを見れば、前大戦の後半のような戦闘が序盤から始まると言って良い。戦力が圧倒的に偏ることもないでしょう……異常ではありますが」
「まぁ物量では圧倒的に連合だからね。よくもまぁザフトはあの数で……」
「ええ、放っておけばいずれ連合が有利になるように見えますが、デュランダル議長に関しましては侮れますまい」
直接会ったウィルがそう言うのであれば、幹部たちも頷かざるを得ない。
会談をしたということであればデュエイン・ハルバートンやムルタ・アズラエルも一度や二度はあるのだが、やはり彼はそれとはまた違っているだろう。
そして、従うとまではいかないものの、重要な参考とするに値する証言だ。
「つまり、連合が負けると?」
「いえ、不確定要素が数多あれば、ですな。アズラエル理事を盟主、否代表の座から引きずり下ろしたのがロゴスのジブリール。そして此度の戦争を無理矢理引き起こすようなやり方は、彼女が現状の大西洋連合を左右していると考えて良いでしょう。企業家でしかないどころか激情家の……つまり」
「つけいる隙があるってことですか?」
少しばかり悪い笑みを浮かべるアズラエルに頷く。
ウィレーム・マクスウェルは“変わる可能性がある”のも確かだが……未来を識る男だ。
ギルバート・デュランダルの“
そして、ウィレーム・マクスウェルはその“
つまり、いずれにせよザフトは敵となるのは確定した未来だ。
だが、だからと言ってこの場で『ザフトを叩け』と言うのはナンセンスであることも理解している。現状に至ってはザフトを攻撃する理由も意味もB.A.E.Lには存在しない。
むしろ、戦争を止めるにあたってやるべきことは連合を制することであり、この状態でザフトとも戦闘するなどロゴス派と変わらない。
むしろB.A.E.Lの
「だからこそ、今はアルザッヘルの戦力が手薄になったことを好機と捉えるべきでしょう」
「ほう、今が攻め時だと?」
幹部の言葉に、首を横に振る。
「我々の立場を明確に示すためにやるべきことは、手薄になった場所を早々に攻めて陥落させることではありますまい。むしろその逆でしょう」
「先の戦闘でアルザッヘルの戦力が減退し、ダイダロス基地を含めても、月の戦力だけで言えば我々が僅かながら有利なはずだが……やるべきことは、戦力を遊ばせておくことだと?」
「そういうことです。戦力を遊ばせます」
ハッキリとした物言いに、幹部たちは『またなんか言いだしたぞコイツ』と訝しげな表情を浮かべるも、どこかそこに信頼感はあった。
そもそもデュエイン・ハルバートンとムルタ・アズラエルの思想に共感して集まった幹部たちではあるが、ウィレーム・マクスウェルという男も、彼らが今ここにいる理由の一つであるのだ。
だからこそ、ハルバートンもアズラエルも彼の言葉を待つ。
◇ ◇ ◇
数日前、ウィレーム・マクスウェルがオーブを発つ日。
彼はたった一人で“ミネルバ”へとやってきた。
散々世話になったのに、そこでなにも言わずに帰ることもできないし、なによりも彼自身がもう一度、シンやマユに会っておきたかったのもある。
色々とかき回してしまったし、なによりも心配事も一つや二つではない故に。
ウィルはタリアとアーサーの二人と共に、艦長室にいた。
「しかしまぁ、厄介なことになりましたな」
「ええ、こうして貴方とここで話をすることですら、危ないものがありますわ」
いずれにせよ連合とザフトが新たに対立するのは明らかである。
だからこそ、ザフトの艦に連合兵が乗っているというのはそれなりに危ない橋を渡る行為。
それをわかっていながらも、ウィルはここに来たし、タリアもそれを受け入れた。
「すまんな、B.A.E.Lではそれを止めるに至る力はないようだ」
「えぇっ、大戦力って聞いてましたよ!?」
アーサーの言葉に、ウィルは苦笑を浮かべる。
「一派閥にしては、だな。大本の大西洋連合の所謂ロゴス派や中立派には及ばんよ……挙句連合の一部からはプトレマイオス基地不法占拠のテロリストじみた扱いだ」
「……いずれ始まる戦い、貴方達はどういった立場を取るつもりなんです?」
「私は政治家ではないし、一パイロットに過ぎんからなんとも言えませんよ。ただ、自分が選ぶのみです……なにを討つのか、なにを守るのか、そして誰の元で戦うのか……」
自身を待つ、すべてを託し委ねると、自分が選んだ相手を思い出し、ハッキリとそう答えた。
アーサーはいまいちその言葉の意味を理解していないのか首を傾げるものの、タリアは眉を顰めつつも、静かに笑みを浮かべて頷く。
理想とは千差万別であり、軍人としての正解など存在するかはわからないが、タリアにはそのハッキリとした物言いと思想が、どこか羨ましく感じられた。
深く息をついて、肩の力を抜いたタリアが、先ほどと違う視線でウィルを見やる。
「では、貴方は……組織が大義を失い迷うことになったら、どうするのかしら?」
「踏み込んだことを聞く」
「失礼、でもこれは私個人として聞いておきたいと思って」
良くあること、ではないものの前大戦を経験した者ならば誰もが思うことだ。
ザフトも連合も大義を失い、暴走の果て、結果的には丸く収まったものの、一歩間違えば全滅戦争。
それを目の当たりにした者たちは、その選択に迷うことは珍しくもない。
少しして、艦長室を出たウィルはザフトの護衛二人と共にミネルバを出るため廊下を歩いていた。
時たますれ違うクルーと言葉を交わしたり、敬礼をされたりと、連合の人間であるというのにと、どこか不思議に思うウィル。
だが、ふと立ち止まったのは、それだけの理由があった。
視線の先、いるのはシン・アスカ、ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレル、メイリン・ホークの四人。
マユがいないことに僅かながら違和感を覚えながらも、オーブにいる内は色々と不安定でもおかしくはないなと、納得しておく。
会っておきたいが、わざわざ言える立場でもないし、言えばあらぬ誤解が生まれそうだ。
「ウィレーム大尉!」
「やぁ、プトレマイオス基地に帰る前に少し立ち寄っておこうと思ってな。君らにも礼を言っておきたかったし丁度良かった。色々と助けられたし、我儘にも付き合ってもらったよ」
「いえ、むしろ助けてもらったのはこっちです!」
シンの言葉に、苦笑を浮かべて素直に頷き、次にルナマリアやメイリン、レイに視線を向けていく。
ふと、ルナマリアがニヤリと笑みを浮かべる。
「あ、そういえば大尉も隅に置けませんねぇ」
「ちょっとお姉ちゃん!」
「ん、なんの話だ……?」
───アサギとマユラとジュリと出かけたのを見られたか!? いやカリダさん!?
「金髪の美人さんと二人っきりでいたのを見たってメイリンが」
「お姉ちゃん!」
なぜ私を巻き込んだとばかりに声を荒げるメイリンだが、ウィルは内心でホッと息をついた。
金髪というとアサギもそうだが、二人でとなると選択肢は一人のみだ。
そもそも、アサギたちとはデートと言うより買い物に連れ出されているに近い。
「まぁなんだ……“妻”というかな」
「え、大尉って結婚してたんですか!?」
「ああいや、まぁ籍は入れてないが……色々とあるのさ」
そう言って苦笑を浮かべ、首を左右に振るウィルにルナマリアとメイリンが二人して首を傾げる。
ふとレイへと視線を向ければ、彼は相変わらず無表情であるのだが、黙ってそこにいた。
彼にかける言葉は見つからないが、それでも視線が交差する。
「……大変だとは思うが、君らも無事にな。色々と片付いたらまた会おう」
それだけを言って、彼らの返事を聞くなり再度歩き出す。
どちらにしろやるべきことも……いずれ刃を交えることも、間違いはないのだろう。
しばらくしてミネルバを出るなり、艦と港を繋ぐ鉄橋を歩くウィル。
これでもう、しばらくは会うこともないだろうと、僅かな名残惜しさを感じつつも歩いていれば、背後から鉄の橋を誰かが駆ける音が聞こえた。
もちろん気配も感じて、ウィルが振り返ればすぐに……マユが跳び込んでくる。
それを受け止め、腹のあたりでマユが顔を上にあげてウィルを見つめた。
「ウィレームさん……」
「マユ、君も色々と大変だったな。すまない、私に付き合わせた」
あの日、アーモリーワンで出会ってしまったばかりに、色々と厄介なことに巻き込んでしまったのも事実。
過程や『もしも』はどうあれ、それは紛れもないことだ。
だからこそ謝罪の言葉をかけるが、マユは少し離れると、瞳に涙を浮かべながら頭を左右に振る。
「私、ロマ・バエルさんと同じくらいに、ウィルさんのこと尊敬してます!」
「……あぁ、そうか、ありがとう。光栄に思うよ」
道化なことだと、心中で苦笑を零す。
膝を床について、頭の位置を近づけてそう言うウィルにマユは再度跳び込む。
自らの首に手を回して肩に顔を埋めるマユを横目で見て苦笑しつつも、そっと抱き返してその頭を撫でた。
背をポンポンと叩くと、僅かに嗚咽が聞こえる。
「ありがとう、ございました……」
「こちらこそだ」
そこまで入れ込まれるとは思わなかったものの、だが悪い気がするはずもない。
自らが“変えた未来”の結果がこれなのだ……。
◇ ◇ ◇
プトレマイオス基地での会議を終え、ウィルとアズラエルは、自分たちが普段いるべき場所である“アズラエルの執務室”へと戻った。
そして既に、我が物顔で三人の少女たちがそこにはいる。
わざわざ三人の部屋があるにも関わらずこうしてここにいるのは、よほどそこの居心地がいいからか、別の理由があるのか……。
どちらにせよ、ウィルとアズラエルが入るなり三人とも一応はそちらに視線を向けた。
一人はゲームしているし一人は読書しているし一人は音楽を聞くことに集中しているものの、だ。
「あ、おかえりなさい。どうなりました?」
ソファに座っていた連合の制服を着た“フレイ・アルスター”は、立ち上がるなりそう聞く。
「まぁ実りあるものでしたけど……色々と忙しくなりそうですねぇ」
「理事たちはこちらに残っていても」
「なんか言いました?」
「……いえ、なんでも」
そう答えて、ウィルは通常色の士官服を脱いでそれをソファに置く。
やるべきことは纏まったのだが、それ以前になぜフレイ・アルスターがここにいるのか、である。
アスハ別邸にキラたちと平和に暮らしていた彼女がわざわざ復隊した理由、なんてことはない“大切な者のため”という、特別でもなんでもない。普通の理由だった。
別にアズラエルたちを心配しているだとかではない。今更彼女らを心配などしない。
……いや、心配していないは嘘かもしれないが、だがそれでもわざわざ平和を捨ててまで来る理由にはならないだろう。
だからこそ、別の明確な理由が、目的が存在するのだ。
「あ~君たちも地上に降りますよ。方針が決定しましたんで」
クロト、オルガ、シャニの三人がしていたことを中断してアズラエルの方を向く。
何を言うでもなく、ただ素直にその話を聞く。
そしてその上で、フレイはただ一人、言葉を口にする。
「じゃあそっちに、ハイータさんがいるのね?」
そう、フレイがわざわざ復隊した理由はそれだった。
アスハ別邸にいたとき、ウィルがフレイにだけその事実を告げたのは、彼女がハイータと仲が良かったのをしっかりと理解していて、なおかつ“戦う”という選択を取らないと思ったからだ。
キラに話せば、キラは再度思わぬタイミングで剣を取ってしまう可能性があったから……。
だが、ウィルの思惑と外れてフレイは帰還当日に、大きなキャリーバックを持ってウィルとアズラエルの前に現れた。
当日突然というあたり、葛藤はあったのだろう。
だが彼女の勢いに押されてあっさりとウィルとアズラエルはそれを認めて、結果がこれだ。
「私の勘と感覚に過ぎないがな……」
「それが一番、信用できる」
そう言ったのはシャニであり、ヘッドフォンを耳から外し首にかけて言う。
オルガとクロトも同じように自身が持っていたそれをテーブルに置いて、笑みを浮かべていた。
ウィルは両の瞳を閉じ、そっと開く。
「では、色々な手続きを済ましてからプトレマイオス基地を出る」
クロト、オルガ、シャニ、フレイ、アズラエルと視線を向けていく。
腕を組んで、アズラエルはデスクの上に腰を降ろした。
「ってそれはともかく、目的地とか決まってるんですか貴方?」
アズラエルの言葉に、ウィルは頭を左右に振る。
「まだではあるが、当面の主戦場は地上になり、おそらく例の部隊はミネルバを追うだろう……勘だがな。それにこうなれば地上に置いてあるアレが役に立つ」
「……地上の拠点、一個しかないのキツイくね。そうなっとさ」
「ま、仕方ねぇだろ。ないものねだりしたってよ」
クロトとオルガの言葉に、フレイが苦笑した。
「だが、やるしかあるまいよ。ハイータを取り戻すために……誰かに討たれるより早くな」
「ハァン、ハイータをヤれるヤツなんていんの?」
「でもハイータがガチだったら、おにーさんが乗ってた戦艦なんてもう沈んでんだろ。ってことはデバフかかってるってことは……あんじゃね?」
まぁ事実なので否定もできずに、ウィルはアズラエルの方を向く。
「とりあえずやるしかないでしょ、一つずつ、目の前のことを……」
やるべきことは決まった。
そしてそれは、“死人”が残した未練で、さもなくば……。
───成仏もできまいな、ロマ・カインハースト・バエル。
今回は次にウィルがどうやって動くまで、みたいな感じでした
色々とごちゃごちゃしてきましたが、あまり原作と変えたくないウィルです
そしてどうあってもある程度は改変されるので……
ついでにフレイ合流ということで、書いてて思った
フレイ、ハイータへの想いが重くない……?
ともあれ、本来の視点の本放送版だとこっからウィルの出番がガッツリ減るんですね(存し記
ということで次回、諸々カットしつつダイジェストしつつな感じで
お楽しみいただければです