盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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ディープダイバーズ

 

 ディオキアの海岸沿いを、シン・アスカはバイクで走っていた。

 ミネルバがこの街に寄港してからまだ二日。

 街に出ても住民たちから聞こえる声はザフトを称賛するものばかり……シンは先の戦闘で勝利し、ディオキアを解放できたことに対する達成感というものも確かに感じていた。

 

 だが───同時に、懸念が存在するのも確かであり、思い出すのは昨日の、議長との会談だ。

 

 ミネルバの艦長であるタリアと、パイロットたちが召集され、もちろんその中にはマユもいた。

 

 昨日、議長に放った“自分の言葉”を思い出す。

 

『確かに戦わないようにすることは大切だと思います。でも敵の脅威がある時は仕方ありません。戦うべき時には戦わないと。何一つ自分たちすら守れません』

 

 連合側が譲歩してくれないからこそ、戦いたくなくても戦うしかない。戦わないという道を選びたいが、それはとても難しいことだ。

 

 そんな議長の言葉に、シンはフォローするつもりだとか一切そういうつもりはなく、本心からソレを言った。

 経験に基づく、とはまた違うのかもしれないが、“あの時”……自らの無力を感じたのは確かだったから……そしてそれは、やはりマユも同じようで……。

 

『普通に、平和に暮らしている人は守られるべきです! だから、向かってくる敵がいるなら全部倒さなきゃ!』

 

 些か過激な、“優しく明るい妹らしくない(今のマユらしい)”言葉である。

 だが、それについてはアスランが遠回しに苦言を呈し、殺されたから殺しての連鎖で戦争は無くなり平和になるのか、とかつて問われ、未だ答えが見つからないと言った。

 それが本当に言われた言葉なのか、彼自身の言葉なのかはわからないが、マユも次の言葉を言い淀んだからには、思うことがあったのだろうと思う。

 前大戦に最前線で参加していた者だからこその重み在る言葉……アスランには少しばかり感謝している。

 

 だが、議長は一パイロットたちに聞かせるには大きすぎる話もした。

 

「ブルーコスモス、ロゴス」

 

 利益のために戦争を推し進めるロゴス。あのブルーコスモスの母体でもあるその組織。

 それがある限り、戦争は続くことだろうと……議長は言った。

 そしてそれを何とかするのが、何より本当に難しいことだと……。

 

「ウィレーム大尉……」

 

 マユだけでなく、自分たちも守ってくれた彼を思い出すのは不思議なことではないだろう。

 B.A.E.Lの特別顧問、事実上の幹部であるムルタ・アズラエルもかつてはブルーコスモス、ロゴスの人間だったとギルバート・デュランダルは言っていた。

 そして、その下についている“彼”もまた然り。

 

「いや、でも今は……」

 

 それでもやはり、脳裏をチラつくのは“あの日”のことだ。

 オーブで、両親と、右腕を失ったマユ……。

 あれがもしもロゴスの思惑で進んだことで、ムルタ・アズラエルや“ロマ・K・バエル”が仕組んだものであれば……

 

「ッ……!」

 

 今、それを考えるべきではないとシンは息をついた。

 

 当面の問題はまだ尽きない。

 会談後、シンはさらに議長に呼ばれて“マユのことについて”もまた話をした。

 マユにあのライセンスを与えた理由は、概ねタリアの推測した通りであり……勝手をするマユが、処罰を受けないようにと気を利かせて与えたものだったそうだ。

 他の基地で勝手なことをしたり、戦場に出たりするよりは、シンや見知ったルナマリアやレイたちの元に居ればかえって安全でシンも安心できるのではないかと……。

 

 結果として、シンの心労が増える羽目になったが、シンとしては自らとマユにそこまで気を回してくれた議長には感謝もしよう。

 

 マユも少し冷静になったのか、話もしたがやはりどこかぎこちない。

 故に、今日はオフということでルナマリアに街に出ようと誘われもしたが、マユの方を頼んだ。

 彼女は溜息交じりにだったが『しょうがない』とシンの頼みを聞いて、マユと共に街に出ているらしい。

 

 だが結局、自分は色々と考えたいこともあり一人で出てきてしまった。

 

 ルナマリアの誘いを断っておいて申し訳ないという気持ちはあるが、部屋に一人でいても鬱屈した気分になるだけだ。

 だから、こうして潮風を浴びて思考している方がまだ良い。

 

「……」

 

 シンは黙って、バイクの速度を上げた。

 

 

 

 

 ジープを運転するウィレーム・マクスウェルは、バックミラーで後部座席のオルガとフレイをチラリと確認する。

 二人とも仲良さそうにやっているようでなによりだが、オルガがどこか不満そうなのも確かだ。

 まぁ昨日、フレイとミリアリアによってさんざ着せ替え人形にさせられたのだからそうもなろう。

 

 結果的に戻ってきた時には随分と女性らしい恰好をしていたが、オルガがあまりにも恥ずかしがっているのを見てウィルは『目立つ』という理由で助け舟を出しもしたが……今日も今日とてそれなりにだ。

 いつも鬱陶しがっている前髪を降ろしている姿は新鮮で、ウィルとて素面の状態でそう何度も視たことがあるわけもない。

 だからまぁ、少しばかりそういった何気ないイメチェンや、そうして普通に生きている姿を嬉しくも思う。

 

 彼女ら“強化人間(ブーステッドマン)”は、そう長くはないのだ……。

 

「うッ……ぐっ!?」

「ん、ウィレームさん?」

 

 ふと、ウィルは激しい不快感、次いで頭痛を感じた。

 急いで路肩に停車すると、その感覚に頭を押さえながら苦悶の声を上げる。

 後部座席から、オルガが助手席に急いで移動しウィルの顔を覗き込む。

 

「おい、大丈夫かよっ!?」

「ぐっ……い、今はまだ……」

 

 先の一瞬がピークではあったようで、徐々に収まってはくるが……頭痛は今しばらくは続くだろう。

 

 言葉にするなら……。

 

「蛇が頭の中でのたうつような感覚、だな……」

「わかんねぇけど、今日は大人しくしてた方がいいんじゃねぇの?」

 

 凄まじい不快感は、今まで感じたことのあるソレとは違った。

 本能かなにかから来る拒否感、そして深い……。

 

「……いや、平気だ。少しはマシに」

「お前だけの体じゃねぇだろ。お前になにかあったら全体に関わんだ」

「フッ、真っ当なことを言う」

 

 冷や汗を額に浮かべながらそう言うウィルに対し、オルガが眉を顰めた。

 

「バカにしてんのか、クロトとかシャニだって同じこと言うだろ……“アイツ”ならもっと心配しててもおかしくねーんだぞ」

「いや、まぁそうだな……それにバカにしたつもりはないさ、そう聞こえたかもしれんが……私は馬車馬のように使われる方が性に合ってるからどうにもな」

 

 ふと、後ろからフレイがペットボトルの水と薬を前に出す。

 

「痛み止め。生理痛のためのやつだけど、頭痛にも効くから飲んで?」

 

 こういう時は彼女のような人がいてくれて助かると、ウィルは素直に頷いてそれを受け取る。

 二錠を口に放り込んで水を飲み、真上を向きながら深く息を吐く。

 ペットボトルを隣のオルガが受け取り、ふたを閉めてフレイへと戻す。

 

「ふぅ……」

「効くまでもう少しかかるだろ、とりあえず運転代われ、帰るぞ」

「いや、だが……」

「ここに来たのだって、ただの偵察だろ。明確な目的もない」

 

 そう言われると返す言葉もない。

 この街にステラがいて、このあと海岸沿いで溺れてザフトの少年に救助されるからその隙を狙って彼らにバレないよう、共に来ているスティングとアウルも一緒に取り返そう、などと言えるはずもない。

 それに、エクステンデッドが三人。できる可能性も低い。

 

 ならば戦場で、の方がウィルにとっては可能性が大いにあるのだろう……。

 

 ───仕方ない、か……。

 

「すまないな」

「いいよ別に、気を付けろよ。マジで……お前が倒れたらどうにもなんねぇだろ」

 

 車から降りたオルガと変わって、ウィルが助手席へと移動しながらも『そんなことはないだろう』と思考する。

 別に自分がいなくてもB.A.E.Lはどうにでもなるだろうし、アズラエルはどうにでもしてくれるだろうという信頼感が確かにあったが……その認識は大きく間違っているだろう。

 彼がいなくなったからといって瓦解することはないが、組織内への影響力は小さくない。

 

 前大戦後“ロマ・K・バエル(赤い悪魔)”がいなくなった時も、彼は理解していないが連合内での動揺や影響は凄まじいものだった。

 それほどまでに、赤い悪魔ロマのネームバリューというのは大きい。

 ザフトにおけるラクス・クラインのように、それは信仰と言っても良いほどのものだ。

 

 運転席に座ったオルガが車を走らせる。

 

 風を浴びていると、少しばかり気分は良くなっていく。

 

 ───俺は結局、ここでなにもできていない、か……。

 

 だがやはり、人々の彼への理解と違って、彼は自身を無力な者としか思えないのだろう。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 すっかり日も落ちたディオキアの街のはずれ……シン・アスカは一人の少女と共にボートに乗り込んだ。

 

 バイクで海岸線をドライブしていたシンが、その金髪の少女───ステラが崖から海に落ちたのを目撃、助けるために跳び込んだ故にそうなっている。

 二人がそうして落ち着くまでに、紆余曲折もあった。

 

 ステラがシンの『死にたいのか』という言葉を聞いて発狂、どうにかシンが『守る』という対になる言葉で落ち着かせ……さらに脚を怪我したステラのためにシンは脚にハンカチを巻いて応急処置。

 シンはステラの様子から彼女を『戦災孤児』と認識したが、それは間違いだが……だが、シンがそれを知る術など、今あるはずもない。

 

 泳げないステラを抱えて崖を回り込めるはずもなく、シンはやむをえずエマージェンシーをかけ洞窟で暖を取り、救助を待った。

 その間に、彼女はシンに心を許したのか、すっかり彼に甘えた様子で、シンは彼女から『小さな貝殻』を受け取る。

 そうして心を通わす二人の元に、アスランたちがボートで救助に来たわけだが……。

 

「名前以外、身元もわからないとなると……基地に戻って調べてもらうしかないな」

「ですよね……」

 

 アスランの言葉に、シンは横のステラの肩を抱く。

 ふと、一緒にボートに乗っていたマユと視線が合った。

 心配した故にこうしてアスランと一緒に来ただろうに、彼女は案外と笑顔である。

 

「おにーちゃんやるぅ」

「茶化すなよマユ」

 

 どこか意地の悪い笑みを浮かべる彼女は、ルナマリア以外の女性と親しげにしているシンにどこか新鮮さを覚えたからだろう。それに距離感でいえば比較のしようがない。

 アスランとしても、そうして兄妹間で仲良くしている様子を見れば安心もする。

 マユがステラに視線を向ければ、彼女は少し怯えた様子でシンへと抱き着く。

 

「ステラ、大丈夫……こいつはマユ、俺の、妹だから……」

「いもうと……」

 

 そうして皆、深く深く、陥る。

 

「……うん」

「あははっ! よろしくね、ステラ……さん?」

 

 もがいても抜け出せない深い深い場所へ……。

 

 







今回は繋ぎ回なので少し短めです
諸々と不穏な感じになってまいりまして
次回はダルダノスの暁(ユウナ)作戦ですね

ついでに前回、更新時には間に合わなかったやつ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=304636&uid=120091
もしかしたら特殊会話とかもねつ造するかも……もしかしたら

では、次回もお楽しみいただければです
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