盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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阿井 上夫さんより支援絵いただきました!
普段は胸元閉じてるので、開いてる時はロマ専用です

【挿絵表示】


それとアンケートの結果、出過ぎない程度にオリキャラことハイータ参戦です


立ちはだかること

 

 ロドニアラボでの出来事から、一月ほどが経った。

 

 戦況はすっかり膠着状態であり、連合とザフトは共に大規模軍事作戦は無い。最近はすっかり小競り合いばかりである。

 そんな中、最近にしては少し大きい攻勢に出るとの情報が出たので、ここぞとばかりにロマ・K・バエルはビクトリア基地への参戦を提言。ムルタ・アズラエル以下四名は<ビクトリア基地>へとやってきていた。

 

 大型輸送機がビクトリア基地に到着。そこから降りるのはロマ。周囲を警戒しつつ、その次にアズラエル、クロト、オルガ、シャニと四人も降りてきた。迎えるのは基地司令官である連合の士官と兵たち。

 ロマは横目にマスドライバー施設<ハビリス>を視ながら、自分の前に出るアズラエルのために横にずれる。

 

「御苦労さまです。状況は?」

「情報によれば前線基地の方にザフトがモビルスーツを集めていると、攻勢に出るのは確かのようです」

「なるほど……ロマ中尉はどう見ます?」

 

 アズラエルの言葉に、内心で『俺に振るなよ』と思いもするが、仕方ないと脳をフル回転させる。

 

「まだ準備段階であちらは攻める気満々なんでしょう。なら強襲を仕掛けた方がいいかと」

「とのことですけど、私達は指揮権なんてありませんから、ねぇ?」

 

 そう言うアズラエルに、連合の指揮官が敬礼。即座に横にいた兵士に何かを耳打ちすると、その兵士が施設内に走って向かっていくが、おそらく、アズラエルの“提案”通りにするのだろう。

 情けないと思う反面、長い物に巻かれるのは今の世の中じゃベストとも思った。それにロマとしてはありがたい限りだ。

 

 アズラエルはロマの方を見て軽くウインクをして見せる。

 

 ―――かわいいなコイツ……。

 

「ではご案内します。アズラエル理事、お付きの方々も」

「はい……行くぞ」

 

 クロトたちの方を見ると、三人揃ってやる気なさそうな顔。実際ないのだろう。

 

「は~い」

「了解」

「ん……」

 

 気の抜ける返事を返して、アズラエルに、ではなく“ロマに付いていく”三人。周囲の連合兵のヒソヒソとした話声は快いものでもないが、気にしないようにしつつ歩く。

 それは少女兵三人が十中八九ブーステッドマンだからであり、ロマに対してもろくでもない噂があるからだ。慣れたものでもあるが……。

 

 ロマにとっては二度目の戦い。そして三人娘にとっては“初陣”。

 戦いが近づいてきているのを肌で感じて、ロマはサングラスの奥の瞳を細めた。

 

 

 

 応接室にて、質の良さそうなソファに座るアズラエルと、傍に立つロマ。

 クロト、オルガ、シャニの三人は別室に移動しており、現状は二人でビクトリア基地の司令官、並びに副司令官、さらに士官二名と対面している。

 さすがに“余所行きの(カッコつけた)”顔をするロマではあるが、いかんせんこういうことは慣れないものだ。そもそもこういう場に適した人間ではない。

 

 どれだけ“前世”があろうとも、体も精神も今は20代なのだ。それ以上以下でもない。

 

「……もうちょっと肩の力を抜いて良いんですよ?」

「そうさせてもらっていますよ」

 

 肩を竦めて笑うロマは、外側から見ればまるで緊張している様子ではない。故に司令官たちは不思議そうにアズラエルとロマを見るが、依然“緊張する様子は見られない”のだった。

 ともかくだ、話を始める司令官。

 

 此度は防衛……ではなく強襲作戦への参加を感謝するということ、それから資料を取り出しアズラエルに渡すと、主な作戦や戦力についての話……なのだが。

 ロマは頭を抱えたくなった。おそらくアズラエルもだろうけれど、これが今の連合なのだろうと理解する。

 ……圧倒的にモビルスーツを使う戦闘の経験不足。

 

「え~、つまり貴方達はコーディネイター部隊のMSを使ってこれまで“小競り合い”で勝利してきたので、それでいきたいと?」

「こぜ……は、はい、ウチのコーディネイター部隊は一味違いますから」

 

 その言葉に、眉を顰めるロマ。

 

 ―――ハイータもいる部隊、確かにアイツは優秀だが……。

 

「……ですから、ジン数機を前線に出してなんとかしてると、でも資料を見る限り“コーディネイターの消費”が激しいようですが、入れ替えも多い。小競り合いにモビルスーツ部隊を初めて出撃させてから残ってるのは、このハイータ・ヤマムラだけ」

「ほう、ナチュラルのスピアヘッド部隊は?」

「一応出てるようですが、前回も前々回もまったく手出ししていないと」

 

 小馬鹿にするような彼女の言葉。実際しているのだろう、コーディネイターを使っている気でいるのだろうけれど、これではコーディネイター頼りの作戦だ。逆に非効率極まりないと、ロマは内心で憤慨した。

 アズラエルが首をできるだけロマの方へ向け、視線だけで伝えつつ資料を渡す。受け取ったロマがそれに軽く目を通したが、それだけで更に頭が痛くなることだ。

 

「コーディネイターとて人ですよ。私が倒せるんですから、この作戦は撃破理由が……誤射? 錯乱?」

「ええ、困ったものですよ。貴重なジンを……」

 

 ―――なにをどうしたら一体こうなんだ?

 

 数度の戦闘において、コーディネイターは大体2~3人は死亡。その度にコーディネイターを要請しては、これまでで15人ほどが死亡している。連合でコーディネイターは少ないが疎まれてもいるので、要請があればすぐ配属はするだろう。だが、それにしても……。

 

 ―――なにか、してるのか?

 

 ここには友人もいる。故に、少しばかりサングラスの奥の瞳を鋭くして司令官の横、副司令の方を向く。ハイータからはなにも聞いていないし、先週も連絡はした。『ここに来る』とは一言も言っていないものの、なにかあれば彼女ならば説明してきても良いはずだが……。

 

 息をついて、アズラエルの方を向き資料を返す。いまいち中身が見えない資料に何度目を合わせても同じことだ。

 

「……コーディネイター部隊でしたか、今作戦は“私の指揮下”になるので顔合わせをしても?」

 

 ロマはそう言った瞬間、少しばかり場がピリつく感覚を肌で感じる。

 不愉快な感覚。なにか渦巻いているその雰囲気にロマはさすがに失敗したかとも思ったが、司令官が頷き副司令も頷いて見せたことで、少しばかり安心した。

 しかし、コーディネイターの扱いが悪いというのは珍しいことでもないはずだ。それはロマとて理解しているが、どのような扱いをしていたらこんなにも警戒するのか……しかもブルーコスモスの盟主とその私兵を前に、だ。

 早くハイータの現状を確認したいと、内心で焦るロマ。

 

 副司令がスッと前に出る。

 

「どうぞ……お連れします」

「アズラエル理事?」

「これ以上の確認事項もありませんから、今回の強襲作戦の隊長は貴方です。どうぞお好きに」

 

 実際にその通りだろう。書類通りの規模の前線基地であれば補給なしに“強襲制圧”してそのまま帰ってこれる。

 珍しくピリついているロマの雰囲気を察してか、アズラエルもいつもと違う様子。

 

「……オルガを連れて行きます」

「はい、どうぞお好きに」

 

 ―――さて、状況によっては自分を抑える自信なんてねぇぞ……。

 

 

 

 

 

 

 副司令の案内の前に、オルガを迎えに行った。オルガだけということでほか二人が不満そうではあったが、アズラエルの護衛に回ってもらうことにし、そのまま副司令へと付いていく。

 まさかの基地を出た時は何事かとも思ったが、まさか格納庫まで連れて行かれるとは予想外であった。

 

 歩いていて見えるのはモビルスーツ。自分たちが乗ってきた輸送機にもモビルスーツが乗っているらしいが、それらは三人用のチューンがされてるとのことなのでスタンダードのジンというのを見ると、普通はそういうものだと頷く。

 

 ―――ジンが六機、これならば指揮もできるか?

 

「おい、なんか嫌な感じすんな、ここ……」

「オールドな感覚でもわかるものだな」

「……バカにしてるか?」

「違うよ。必ずしも感じるのが良いものとは限らないだろ?」

 

 その役者じみたセリフに、オルガは顔をしかめて頷く。淀んだ雰囲気を敏感に感じ取るとしたら、ここはきっと地獄だろうとすら思う。実際に“彼が来る前”の研究所施設はそうだったし、アズラエルもやはりピリピリとしていたものだ。だから鈍感である方が良かった。自分の世界に没頭できるものを三人とも見つけた……。

 妙なことを考えてしまい、オルガは顔をしかめて後頭部を掻く。

 

「どうした?」

「なんでもねぇ」

 

 副司令が止まると、目の前にまた新たな将校が現れる。驕傲な雰囲気が滲み出ているが、多少階級が高かろうと、ロマ・K・バエルに対して堂々と命令できるような者、そうはいない。

 むしろ階級が高ければ高いほど、彼の価値を理解しているほどにロマと関わるのは難しいことであろう。

 ロマと、その隣にオルガが立てば副司令は手をそっと出す。

 

「大尉、こちらは……」

「わかっております。アズラエル理事の私兵、ウィリアム・サザーランド大佐に次ぐと言う……ロマ・K・バエル中尉殿ですね」

「数刻後に指揮するコーディネイター部隊と顔合わせのためにと来たのですが、ここでは整備までコーディネイター頼みですか?」

「……ハハハ、ブルーコスモス盟主の片腕である中尉殿が、わざわざコーディネイターとですか? それにブーステッドマンまで連れて、ちゃんと“首輪”はしてありますとも」

 

 嫌な雰囲気だ。オルガを足元から顔までねっとりとした視線で見る男に、オルガは不快感を顔に出すので、ロマは軽く前に出て手を差しだす。

 その将校はそれに対して手を差し出して握手に応じる。おかげでオルガへの視線はそれたようで、オルガは少しばかりロマの後ろに隠れるようにする。

 

「ではご案内しますよ。丁度訓練が終わり休憩中、隔離してますのでそちらへ」

 

 ―――隔離、だと?

 

 副司令と別れると格納庫外を再び出て歩き出す。そしてその少し先には無骨な平屋の建物。

 自動ドアを開きそこに入れば、思ったより広く廊下もあることに驚く。将校に付いていく形でそこを進み、一つの部屋の前で止まると将校はIDカードを読み込ませ扉を開ける。さらに将校に付いていく形で、ロマとオルガも中に入り―――唖然とした。

 それなりの修羅場をくぐってきたつもりだし、ロクでもないものも見てきた。しかしだ……。

 

「本日の作戦で貴様らの指揮を執るロマ・K・バエル中尉殿だ! わざわざ顔を見にいらっしゃった。並べ!」

「んだよ、これ……」

 

 オルガの呟きに、ロマは冷静な仮面を被って立っている。

 最低限のものしかない部屋だった。簡易的なテーブル、パイプ椅子、パイプベッドがいくつか、テレビなどもあるが壁の汚さなどから清潔感は一切なかった。8人ほどのコーディネイターであろう男女が前に並ぶものの、その表情は―――死んでいる。ああそうか、とロマは仮面も被れないまま頭を押さえた。

 誰も彼も、首には黒いチョーカーのようなものを着けていて……。

 

 ―――チョーカーにしては大きいか?

 

「あの化け物はどうした……おい」

「……大尉」

「ハイータ・ヤマムラ!」

 

 ベッドの上、シーツの塊がビクッと震えるのが見えた。

 

「チッ!」

 

 将校が取り出したボタンを押すと、絹を裂くような悲鳴と共にシーツの塊が床に落ちる。その反動でシーツが剥がれ、そこに倒れているのはハイータ・ヤマムラ。ロマの士官学校の同期であり、友。今でも連絡を取り合っている友人で、一年前から青髪を―――白髪に染めていた少女。

 その少女が、首を押さえてのた打ち回る。

 おそらく黒いチョーカーから電流のようなものでも流れているとみて間違いない。しかもコーディネイターが悶えるほどのものだ。

 

「あっ、アアァッ!!? ガッ……!?」

 

 将校がもう一度ボタンを押すと、ハイータが力なく垂れる。将校はそんなハイータに近づいて勢いよく足を振るおうと―――。

 

「素直に言うことを聞いていれば良いのだ化け物めっ!」

「大尉殿、そこまでで……この後の作戦に影響が出ます」

 

 振りかぶった足を静かに下ろして、将校は目を細めた。煩わしそうに、涙目のまま肩で呼吸するハイータを見やり肩を竦める。

 ニッコリと快く笑みを浮かべた将校は、本気でこの行為に疑問を持っていない。どれほどの期間、こうしているのかは不明だが、これがここでは“普通”なのだろう。

 

「中尉、こやつらはこの程度のこと問題じゃありません……獣には躾が必要でしょう?」

「そうです。ですから“そのリモコン”を渡していただきたい」

「……ですな、スペアもありますからお渡ししておきます。では私は外でお待ちしておりますので」

 

 リモコンをロマに渡すと、将校は部屋を出るために歩き、扉を開く。その間際に並んでいるコーディネイターたちを一睨みすれば、コーディネイターたちはびくっと肩を震わせる。それに満足したような様子で、将校は今度こそしっかりと部屋を出て行った。

 オルガは顔をしかめて、ロマの傍に立つ。

 

「オレ、アイツ嫌いだね」

「同感だよったく……すまない。座ってくれ、今回の作戦について打ち合わせをしよう」

「ろ、まくんっ……」

 

 上体を起こしたハイータを支えると、他のコーディネイターたちは驚いた表情を浮かべるが、この扱いを見る限りそうもなるだろうと思わざるをえない。ハイータを椅子に座らせると、ロマとオルガも自分の椅子を用意して座った。

 そうして話をしようとした瞬間、扉が開かれる。

 

 今度はなんだと、ロマがそちらを見ればやはり将校。

 

「……なにか?」

「いえ、あと30分もすればハイータ・ヤマムラに薬が届くのでご報告をとね」

「薬?」

「ええ、θ(シータ)-グリフェプタンですよ。聞いていませんか?」

 

 ―――聞いてねぇよ……クソっ。

 

 

 

 

 

 

 その後、至って冷静に今作戦の説明。配置や装備、陣形や撤退時のこと……緊急時の作戦等々だが、黙ってそれを聞くコーディネイターたち。頭が痛くなるどころか胃も痛くなってきて、説明をすべて終えた後に、ロマはハイータとオルガを連れて部屋を出た。

 良いのかはわからないが―――この際、どうでもいいのだ。

 部屋を出れば、一応の休憩所のようなものがあって椅子とテーブルが二組ずつとベンチが一つ、自販機が一台。

 

 ここに着くまで一言たりとも会話はなかった。ベンチに座るロマとハイータ。

 オルガは少し離れて読書中だが、どこか集中できていない様子だった。彼女はここしばらく、いかんせん“優しい世界”にいすぎたのだろう。

 仕方がないのでロマから口を開く。

 

「……こんなことになっていたとはな」

「うん」

 

 素直に返事をするハイータに少しばかりの安心感もある。

 

「長いこといたようだが、俺になんで言わなかった」

「だってブルーコスモスの人のお付きって言うから……私、言ってもしょうがないって、ロマ君が困るかなって」

 

 ブルーコスモス盟主と共にいれば、そうなりもするだろう。それに卒業のあの日に言ったのだ『俺はブルーコスモスの私兵』だと……。だからだろうか、自分のせいだろうか……ロマは思考する。

 なにかあればと言った気もするがブルーコスモス盟主の私兵ともなれば、言えるわけもなかったことだ。『コーディネイター虐待』が起こっていますなど……。

 アズラエルはコーディネイターを有効活用することはあっても無駄に死なせたり、叛逆心を煽ったりするタイプでもないが、それを知っているわけもない。

 

「……薬ってのは?」

「その……」

 

 ハイータが一つ一つ零した言葉によると、ブーステッドマンへの薬を応用したものだそうだ。作っているのもアズラエルとは別のブルーコスモスの幹部であり、コーディネイターの能力を底上げするものらしく、いかんせん実験中とのこと、それを投与してまともに残っているのはハイータのみらしい。

 いかんせん優秀だったせいで生き残ってしまった。いや、ロマにとっては朗報なのだが、今回のことを知らなければハイータは永遠の生き地獄にいただろう。

 

「γ-グリフェプタンのコーディネイター版……禁断症状は?」

「ない、かな……」

 

 禁断症状が無いと言う言葉に、ホッとする。

 一度だけロマは“その眼”で三人娘の禁断症状が出た現場を見たことがあるが、思わず目を逸らしたいほどに苦しんでいたのを思い出す。

 苦虫を噛み潰したかのような表情で、ロマは俯くハイータの方を見た。

 

「副作用と拒絶反応がすごいけど、そのせいで……白くなっちゃったし」

 

 そう言って自らの髪に触れて笑うハイータ。

 

「……そんなものを」

「飲まなきゃ連合には、いられないって、言われたから……」

 

 ―――なんで、そこまでして。

 

「連合で、いてほしいって……だから、頑張れたんだよ?」

 

 ―――俺か。

 

 ロマのたった一言は彼女にとって支えであったが、呪いでもあっただろう。彼女自身がそう思っていなくとも、少なからず終始を聞いたロマにとっては十分そうであると言える。そしてそんな呪いを彼女に与えてしまったという罪悪感から来るのは、新たなロマへの呪いであろう。

 なんの意識もせずにはなった呪いが、彼女をこうまで“地獄”に縛りつけた。

 

「……ごめん」

「えっ、ど、どうしたのロマくんっ?」

 

 いつも通り仮面を被る(カッコつける)こともできないまま、静かに謝罪のみを零す。しかして、その謝罪の意味を、彼女は知ることなどないのだろう。

 彼女も気づいていない“その淀んだその瞳”での明るい表情は、仮面を被った男を刺し穿つには十分な刃である。

 

 この世界において、ただ唯一の自らが自覚し、背負うべきと思った罪。

 

 それを横目で見たオルガは、顔をしかめて小説に視線を戻す。

 

 

 

 

 

 

 格納庫でパイロットスーツへと着替えたクロト、オルガ、シャニが鹵獲された“ジン”の前に立っていた。やれ装備がどうたらと話をしているが、すべてロマの指示通りに役割分担され、しっかりとセッティングされているし今更変えることもできまい。

 作戦時間も近いのだがロマはパイロットスーツに着替えもせずに士官服のまま、カバーが被され横向きに倒されている機体の前に立っていた。三人娘の機体はともかく、ロマのものはまだ“シークレット”とされている。

 

 サプライズ好きなわけでなく、目を離した隙に解析などされたくないアズラエルの一存だ。

 

 離れた場所に置いてあるジン六機の元に先ほどのコーディネイター部隊がいた。全員いるようで、それぞれ会話はあるようだが、いかんせんハイータだけは孤立している気がする。話を聞いている限り、そうもなるだろう。あの大尉もその近くにいるし、近づこうにもハイータに皺寄せが行っては元も子もない。

 

 ため息をついて、自分の機体の裏に入ると、自分の機体の装甲に寄り掛かりつつ、ズルズルと床に座る。元々強い人間ではないのだ、そうして直視することもかなわない。

 

「おや、いつになく沈んだ顔をしてますね」

「……アズラエル理事」

「二人きりですよ?」

 

 その言葉の意味を探し、しっかりと“ロマなりの理解”を示す。

 彼はサングラスを外すと、ゆっくりと言葉を吐き出す。

 

「……ムルタ、私は、俺は、なにか間違えたらしいんだ」

 

 親しい友人として、彼は言葉を口にする。アズラエルの“意図”を理解したかはともかく、アズラエルは満足そうに頷く、彼女もロマの隣に座る。

 驚愕するロマ。それもそうだろう、汚いだろうこの床にわざわざ彼女が座るとは思えなかった。

 

 ありていに言えば―――らしくない。しかし、横目で見るアズラエルの表情はいつもより晴れやかに見る。だからこそ混乱しているのだ。

 

「まったく、貴方はもう少し……ほら」

「な、ムルタっ!?」

 

 突然、アズラエルの腕に引かれロマが体勢を崩す。否、崩させられる。

 そしてそのままに、ロマはアズラエルの腕に引かれ、そっと抱かれた。顔に当たっているのは服だが、その下のアズラエルの、ふくよかで柔らかな胸の感触も確かに感じている。

 驚きながらも、そのまま抱かれているロマの頭の上に、そっとアズラエルは顔を近づけて頬を当てた。

 

「……弱音はしっかり吐いてください。まだまだ全然、政治のことだって汚い世界だって知らないんですから」

「……良いカッコしたい女性の前でそうは」

「そういうとこですよ。じゃないと……私だって弱音、吐けないじゃないですか?」

 

 そんな言葉に、彼女の胸に頭を預けたままのロマの口元がフッと緩む。

 

「弱音なんて吐くのか?」

「失礼ですね女性相手に」

「……ごめん」

「……今日は許してあげます」

 

 そのまま、作戦時間までの間アズラエルに身を任せ、ロマは静かに目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 作戦開始時間が近づきだし、ジンたちが格納庫を出ていく。そこから輸送機に乗り込み移動し、ある程度で降りてから敵基地へと強襲をかけるということだ。

 ロマとアズラエルの提案によりしっかりとスピアヘッド部隊も待機している。

 

 六機のジンとは装備が違う、三機のジンが格納庫を出る。

 

 クロトのジンは<MMI-M8A3 76mm重突撃機銃>と<重斬刀>を装備。

 オルガのジンは<M68キャットゥス>と<M69バルルス改 特火重粒子砲>装備。

 シャニのジンは<スナイパーライフル>と<重斬刀>装備。 

 

 全機が格納庫から出たことを確認して、最後はロマの機体のカバーが剥がされる。

 コックピットに座るロマはサングラスの奥の瞳を細めた。

 

 現れる機体は―――赤銅色。

 

 鈍く輝く赤黒い装甲こそ違うものの、その機体ジンハイマニューバに違いなく。

 右肩には“悪魔”が描かれている。両翼にて自らの身を抱くような悪魔。言わばパーソナルマークだろう。禍々しいその雰囲気に、格納庫にいた整備士や士官、将校はゴクリと息を呑む。

 

 一見して色違いのジンハイマニューバだが、その右腕の肘から先、前腕が少しばかり違う。左と比べても少しばかり長く、その先のマニピュレーターには鋭い爪がある。

 それはジンが“悪魔に憑りつかれている”ようにも見えた。

 そのジンが、傍にあった二刀の重斬刀を腰にマウントし、ライフル一丁を手に持つ。

 

「オールクリアだな……」

 

 機体の状態を確認する。“後付けのコックピットと右前腕”も正常に起動している。

 そうしていると、通信が入った。それも基地からではなく輸送機の方からで……モニターに映るのはアズラエルである。先ほどのこともあってか、少し気恥ずかしいのか彼女の顔は赤みがかっていた。

 フッと、ロマはクールに笑みを零す。

 

 ―――感謝の念しかないな……。

 

 嘘である。彼も彼で気恥ずかしさでサングラスの奥の瞳が泳ぐ。

 

『あー聞こえます?』

「アズラエル理事……」

『プライベート通信ですよ?』

 

 いつも通りといきたいが男にそんな度胸はなかった。

 

「……む、ムルタ」

『な、なに照れてるんですかっ、この彼女いない歴=年齢ぇ』

「なっ、彼女ぐらいできます。これでも中尉ですよ」

『ざんねぇん、貴方の周りには私達ぐらいしか女の子はいませんねぇー』

 

 ―――子じゃないじゃんメスガキムーヴBBAじゃん。

 

 そんなことは口が裂けても言えない。

 

『……私の隣を歩いて良いの、貴方しかいないので』

「え、あ……お、おっす」

 

 すでにカッコつける余裕もない。

 

『あの娘たちも、死んだら寝覚めが悪いので』

「……はい」

『前回は急だったので言えませんでしたが、これでも心配はしてるんですよ?』

「承知してます」

『ですので、無事に帰ってきてくださいよ?』

 

 こうハッキリと言われては、素直に答えないわけにもいかない。ロマはサングラスを外し、しっかりとモニターの中の彼女に視線を合わせる。

 

「帰りますし帰しますよ。俺が帰る場所は貴女の元しかないんだから」

『っ……ま、まぁ良いでしょう。及第点です』

 

 ―――なにが?

 

「では、トラブルなく―――」

 

 瞬間、轟音が響いた。

 

「なっ!?」

『っ、敵襲ですか!?』

「あ、いえ……」

 

 せっかくの初陣だというのに、ジンハイマニューバが左腕を上げて固まっていた。

 コックピットに座るロマのモニターに映るのは三人娘のジン。そしてその一機、オルガのジンのキャットゥスの砲口が煙を上げている……。

 

 その砲口の先には跡形もなく吹き飛んだ―――先ほどの“隔離施設”。

 

『アーこのバカモビルスーツ勝手に撃ちやがっター』

『なぁにやってんのこのバカ!』

『あーあ、怒られるよ?』

 

 通信で聞こえてくるクロト、オルガ、シャニの三人。

 ロマは思わず、吹き出してしまう。

 

「ハハハハハッ!」

『……誰もいなかったから良いものの、あとでお仕置きですね』

 

 ジトっとした目でアズラエルはため息をついて、笑みを零して通信を切る。

 唖然とするジンたち、今頃アズラエルの元には山ほど本部からの通信が入っているのだろうと、未だ笑いが収まらぬロマは思う。モニターに映るオルガが笑うのを見て、頷く。

 彼女もまた、自分を思ってやってくれたのだろう。彼女たちを助けるつもりが、すっかり助けられてしまっている。

 

 だがそれが嫌なわけはない、むしろ……。

 

 ロマのジンハイマニューバが格納庫を出て、陽に照らされる“赤い悪魔”。

 

 

 

 ―――ハハッ、一緒に謝るか。

 

 

 





今回は珍しいくシリアスしっかりしつつ胸糞ありつつ
最後にやってくれました

それと今回のロマの機体、ハイマニューバほぼまんまです
右前腕はバルバトスルプスみたいな感じと思っていただければ

いかんせんアズラエルは常に一緒のことが多いのでヒロインムーヴがすごい
三人娘もしっかり活躍させてあげたいところです。オルガはこのあとある気がします

前書きでも報告させていただきましたが阿井 上夫さんに支援絵いただきました
モチベーション爆上がりで、これからも頑張っていきたいと思います

では次回もお楽しみいただけたらと思います
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