盟主に気に入られちゃったし三馬鹿が美少女だった(仮題)   作:樽薫る

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三人娘出撃

 

 ビクトリア基地から離陸した輸送機、その格納庫。

 

 ロマはジンハイマニューバのコックピットで、ノーマルスーツを着ずに士官服のまま静かに目を瞑って座っている。それは“普段の”カッコつけではなくシミュレーターの結果、その方が成績が良かったからに他ならない。

 ちなみに三人娘他はもちろん通常のノーマルスーツである。

 

 サングラスを外すと目を開いたロマ。その手の震えはおそらくシンプルに“怖さ”からだろう。

 戦いだせばそうでもないだろうに、いざ戦場へと向かい“降下ポイント”まで待つということに緊張感を抱いていた。

 モニターにはクロトとオルガとシャニのジン。こちらの輸送機はその四機のみで“もう一隻の輸送機”にはジン部隊。

 

 ともかくここで生き残って帰らなければなんの意味もないと、深く深く息をついて、現在地を確認。

 

「そろそろ降下ポイントだ、各機着陸と同時に加速し強襲をかける。作戦は先ほど言った通り、ビクトリア基地の六機は固まって“いつも通り”動いてくれていい」

『ボクたちはどうするんですぅ、隊長ぉ?』

「クロト、オルガ、シャニは三機で私と前線基地へ強襲……ビクトリア基地部隊は散った敵を頼む。遅れてスピアヘッド部隊も来るので無理はしないようにな」

 

 いつも通りだがいつもと違う口調。それに物申そうとするクロトだが、大人しく従うことにしたのか淡泊に返事を返す。

 ロマも『危なければ撤退しろ』と言いたいところだが、彼女らにそれを言っても意味がないことぐらいは理解しているので言わないでおく。後続のスピアヘッド部隊が上手く援護してくれればいいが、あまり期待はできないものの、今後のことを思えばここで出させなければしようがない。

 

 フォローはするつもりだが、問題視しているのはハイータである。これまでの作戦経歴を見ても、彼女は明らかに陣形から突出しており、一回の戦闘での単独撃墜数は最高10機。ロマの初陣での撃墜数よりも少ないのは確かなのだが、それは前までの話であり、今やって見せるというのはやはり“異常”なのである。

 その“異常”の理由など考えれば一つなのだが……。

 

 いくつか操作を経て、モニターにハイータを映す。彼女は怯えているようにも見えた。

 

「……ハイータ」

『わっ、ろ、ロマくん……じゃなくてロマ中尉!』

「いや、プライベート通信だ」

『あ、ほんとだ』

 

 ホッとした様子を見せるハイータ。やはりロマと友人だということがわかれば、さらに孤立することは明白だからだろう。彼女はモニターに映ったばかりの時より、少しばかり安心した様子だった。

 胸に感じる“ありがちな痛み”に表情を変えることなく、ロマは口を開く。

 

「例の薬だが、戦闘前に飲むのか?」

『あ、うん……集中力とかは凄い上がるから、もう飲んでるよ。作戦時間に合わせて効果出るようになってて』

 

 飲ませたくは無かったのだが、慣れた様子で言うハイータ。副作用が凄まじいという話は聞いている。だが飲まされるのを知っていたとて、止めては不自然だ。今後のことを思えばここで止めないのが正解だったと、自分を正当化しつつロマは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ―――たいが、表に出さない。

 なにはともあれ、今回の戦闘を乗り越えなくては話にならないだろう。

 

「私がなるべくフォローに」

『う、ううん、大丈夫。放っておいて、良いよ……?』

「……なぜそう言う?」

『私は、強いから』

 

 ヘルメットを脱ぐと結われていない白髪が舞った。ヘアゴムを取り出していつも通りのポニーテールにすると、少しばかり俯いて“嬉しそうに”そう言う。

 妙な感覚に、ロマはやはり注意はしておかねばならないと思いつつ、他のジン五機についても頭に入れておく。身内が最優先であるのに変わりはないが、放っておいて良いわけでもない。

 

「なら頼んだ。いざとなれば頼るかもしれん」

『頼るのは私かもしれないけど、うんっ』

 

 ハイータの笑顔に、笑顔で返したロマはプライベート通信を切って味方全機に通信を入れる。

 

『各機、降下を開始する。作戦通り“俺は気にするな”、それと……応援は劣勢になる前に呼べ』

 

 そうは言うが先行するのは自分たちだ。囲まれている可能性は高い……それでも三人娘の誰かを行かせられる可能性はある。故にそう宣言した。

 お前たちは助けると、確実に生かすと言う意味を込めて、カッコつけたがりのガキが、本当の意味でカッコつけて言っているのだ。誰一人としてそれを理解できないのは、ほとんどがロマより年下であるからかそれとも……。

 

 輸送機のハッチが開き、赤銅色のジンハイマニューバがギリギリの場所に立つ。そしてその背後には三人娘のジン。

 

「ロマ・K・バエル、ジン・アガレスで出るぞ……!」

 

 上空の輸送機から、ジンハイマニューバ。否、ジン・アガレスが飛び立つ。

 色と右前腕が変わったぐらいで他に何一つ変わっていないというのに、ずいぶん大仰な名前をつけてくれたものだと顔をしかめつつも、空中で体勢を変える。

 

「うぉっ!」

 

 意外とあっさりといって、やはり最新鋭機のバランサーだなと感心しつつも、レーダーを確認して他の機体も降下しているのを確認。

 バーニアを駆使して緩やかに落下しながらも、レーダーにて基地の位置を確認。左手にライフルを持っているので、右手で重斬刀を引き抜く。

 

「このまま強襲をかける。クロト、オルガ、シャニ……! ザウートが多い、まずそちらから仕留める!」

 

 その声に反応して、三人の声が聞こえる。

 

『選り取り見取りじゃねぇか!』

『ハァン、どーせ雑魚でしょ……?』

『どーだっていいね、さっさとやっちゃおうよ!』

 

「心強いことだな、ではお先に行かせていただく……!」

 

 テンションが上がる三人を相手にフッと笑みを浮かべ、ロマはレバーを引きフットペダルを踏み込む。

 浮遊していたジン・アガレスが背中のウイングバインダーを展開、さらに両足を後ろへと向け―――加速。

 その加速度はジンの比ではない、そのままジグザクの軌道を描き、前線基地へと接近していく。

 

「ぐっ、殺人的な加速……ではないんだろうなぁ、この程度ならまだ!」

 

 前線基地が警報を鳴らし、赤いランプが着くのが確認できるが―――遅い。

 

 加速したジン・アガレスは真っ直ぐ基地の真上で急停止。中央付近のまだパイロットすら乗り込んでいないザウートに即座に加速し、重斬刀を真上から突き刺した。

 先の警報もあり、ザフト兵たちが逃げ惑う。

 ジン・アガレスが重斬刀を引き抜けばそのオイルが周囲に飛び散る。

 

「生身の人間を見ると、さすがにやりにくいな」

 

 顔をしかめつつ、視界に入ったザウートをさらにライフルで撃ち抜き爆散させ、すかさず立ったままのジンオーカーのコックピットを重斬刀で刺し貫き、脚をその胴体にかけて重斬刀を引き抜く。再びオイルが散れば、ジン・アガレスを汚す。

 ザフト兵も作戦準備中だったため行動は早かったようで、奥の方の格納庫から跳び出してきた三機のジン。

 

『裏切りものがぁ!』

 

 残念、男はナチュラルである。

 

「またこの展開か……いや、くるな」

 

 ジン・アガレスが動く必要もなかったようで、先頭にいたジンが“キャットゥス”を受けて吹き飛ぶ。残り二機はさらに接近してきた二機のジンに斬られ、貫かれる。

 三機のジン、此度初陣を飾ることになったクロト、オルガ、シャニだ。

 

「合わせるから好きに暴れろ!」

『ハッ、いいじゃねぇか! オラオラァ!』

「“誤射するなよ”オルガ!」

『アァ!? あたりめぇだろ!』

 

 オルガのジンがバルルスとキャットゥスで武器庫や格納庫を破壊していくのに合わせて、クロトが前に出て敵機を撃ち、切り裂く。そしてシャニは“本来ならばジン長距離強行偵察複座型”が持つスナイパーライフルを使い、遠距離から攻撃をかけようとする敵機を撃ち抜いていく。

 クロトの周囲に敵が増えると、さらにシャニが先行し共に近距離戦で敵を圧倒しつつ、オルガは援護を忘れない。

 ジン・アガレスが上空に跳びあがった直後の戦闘ヘリ・アジャイルを切り落とす。

 

「良いコンビネーションだ。私も見習いたいと思うよ……!」

『んなのは良いけど、敵増えてねぇか!?』

『ですね。どうすんのさぁ……ま、やられないけど!』

『うざーい』

「慌てるな、来る……!」

 

 後方も囲まれ始めている中、予定通りにジン部隊がスピアヘッド部隊と共に現れる。スピアヘッドが上空からの攻撃で武器庫などが破壊しようとするが、ザウートやジンが迎撃しようと上空に武器を向ければ攻撃を止め回避行動に移る。

 だが撃とうとするジンの胸部に投擲された重斬刀が突き刺さり、さらにザウートがそちらを確認すれば高速で突っ込んでくるジン・アガレスがもう一本の重斬刀を引き抜いてザウートを袈裟斬り。ジンが爆散し、ザウートはそのまま動かなくなった。

 三人娘の傍へと下がるジン・アガレスのコックピットの中で、ロマが顔をしかめる。

 

「五機だけ……ハイータはどうした!」

『や、ヤツでしたら薬の効果で』

 

 副作用。いや違うと、ハイータの言葉を思い出す……。

 

「違う。薬の―――効果時間か!」

 

 ジン部隊が来た方向から見て真横、森の中から―――ジンが現れる。

 

『あはははっ、死ねぇぇっ!』

「へ、はいーた?」

 

 笑い声は彼女のものだが、その笑い方は彼女のものではない。ロマの記憶では確かにそうだ。

 だが他のジン部隊の者たちは特に反応をするでもなく、つまりは“通常運転”なのだろう。冷静に考えればγ-グリフェプタンと同系統のものであれば、戦闘中の昂揚は付き物ではあったのだ。

 思考が甘かったと後悔するが、それはロマの元来の性格故か、それとも“焦っていた”からか……。

 

 現れたハイータのジンは、ジンオーカーを左手に持った重斬刀で串刺しにしたまま、まだ残っていた格納庫の壁におしつける。

 完全にジンオーカーが動かないことを確認すると、その頭を右手で押さえて重斬刀を引き抜いた。

 

 さらに奥、敵機を見つけるハイータ。

 

「ハイータ聞こえるか、危険かもしれんから私が先行し―――」

『やだなぁロマくんっ、いつも通りで行くって、言ったじゃぁないですかぁっ!?』

 

 加速したハイータのジンが、奥のザウートへと突っ込んでいく。放たれる砲撃を“全て回避”しながら、だ。

 ロマは顔をしかめつつ、まだ集まる敵機を確認、前線基地、小競り合いと言う割には敵機が多い気もする。

 

「クロトとシャニはジン部隊と共に掃討を、オルガはこちらに!」

『あ~あ、めちゃくちゃだよ。てかオルガ~?』

『ハァン、早く行きなよオルガ』

『うっせーよお前ら!』

 

「ハイータ……っ!」

 

 加速するジン・アガレスを駆るロマはハイータを追う。

 

 

 

 ハイータが一機のジンを腕を斬り落とし、ライフルをほぼ零距離で撃ちこむ。

 さらにアジャイル数機から放たれたミサイルをライフルで撃ち落とし、アジャイル本体すらも落とす。ガチャリと音がしてジンの持っていたライフルのマガジンが落ちた。

 リロードをしようとしたその瞬間、ハイータのジンが横に急加速。

 

「なにぃ?」

 

 聞こえるのはモビルスーツの足音、ではない。それは……。

 

「バクゥ……ワンちゃんだぁ!」

 

 跳び出してきたのは獣型モビルスーツ『バクゥ』である。

 森の中などなんのその、悪地でさえも悠々とその四足で走り、さらには無限軌道まで備えた陸の王者。そのバクゥがこの小競り合いに配備されていたとは、さすがに予想外であった―――故に反応が遅れる。

 

「あははっ、やるね!」

 

 笑う彼女は放たれた二連装レールガンをギリギリで回避するも、後方ではジンがライフルを構えていた。それをわかっていたハイータだが、先のを避けないわけにもいかない。ライフルを受けても致命傷ではないが、バックパックが損傷すれば戦闘に影響は出るだろう。

 迫る危機を前に、ハイータはそれでも笑っている。

 

 

 

 だが、その銃口から弾丸が放たれる寸前、そのジンの両腕が―――切り落とされる。

 もちろん切り落としたのは友軍、ジン・アガレス。それを駆る男は、バクゥに襲われていたジンを駆る少女ことハイータ・ヤマムラが憧憬し、彼女に好奇の熱を与えた男。

 

 ロマ・カインハースト・バエル。人知れず水面下で人知れぬ歴史を動かそうとする者。

 

「殺させるわけにはいかんのでな! それにまだ、ビクトリア基地をやらせるわけにはっ!」

 

 素早くジン・アガレスはそのジンに蹴りを打ち込む。吹き飛んだジンが倒れると、どこから放たれたキャットゥスの直撃を受け爆散する。

 オルガのジンであることを確認する必要もないと、ロマはその視界に“バクゥ”を捉えた。

 

『すり潰してやる。犬畜生ぉのくせにぃ!』

「ハイータ!」

『大丈夫、私達の邪魔するヤツ全部、ぶっ殺すからっ!」

 

 ロマの声をしっかりと聞きながらも、その意図までは理解せず、ハイータのジンがバーニアを吹かしてバクゥへと加速した。

 そちらへと援護に向かおうとするも、二機のザウートと二機のジンが現れてそちらに向かえない。

 地を走るバクゥへと射撃をしているハイータが、攻撃はしっかりと回避しているのを見るとロマはレーダーを見て、すぐにハイータ機へと攻撃できる敵機がいないことを確認。

 

「オルガ、援護を頼んだ。先に掃除する!」

『了解っと……オラァッ!』

 

 放たれるキャットゥスとバルルス。バズーカは回避されるも、ビーム攻撃の直撃を受けたザウートが一撃で爆散する。爆風と爆煙にジンの一機が怯むが―――即座にジン・アガレスが接近。重斬刀をその胸に突き刺し貫通させると、すぐにそのジンの腰にマウントされている重斬刀を引き抜き、ライフルを撃ちながら上空へと急上昇。

 地上でジンが爆散し、もう一機のジンがその爆風に巻き込まれながらもジン・アガレスへと接近する。

 

『赤い悪魔っ、エンデュミオンのヤツ!』

「御存じでなにより、だがわかっていながら来るとはなァ!」

『裏切り者のコーディネイターがぁっ!』

 

 自分はコーディネイターではないと何度言えばいいのか、ロマは答えた相手は“殺した”ので出回っていないので仕方ないのだ。だが、今回に至っては知れ渡ることだろう。

 

 連合の上層部の方はエンデュミオンでの事件を知っている。故にナチュラルがジンに乗って10を超えるジンを破壊したのも然り。

 だがそれを“どこかのバカ”は“ナチュラルでも操作できるモビルスーツがあればコーディネイターを凌駕するのでコーディネイターは必要ない”と勘違いしてしまい“消耗品”として使い始めた。

 確かにそのモビルスーツが完成すれば近づくことはできようが、それとこれとは話が別である。反コーディネイター思想の暴走かそれとも半端な希望故なのか。

 なにはともあれそれも、中途半端に動き出したロマ・K・バエルの知られざる罪なのであろう。それを罪と言うにはあまりに酷な話ではあるが……。

 

 接近してくるジンがライフルを撃ちつつ、重斬刀を引き抜く。

 

「恐れはないか、だがそれでは私には勝てんよ……!」

 

 放たれるライフルを、横に加速して回避。そのジンを中心に円の動きで背後に回りこみ、ライフルを連射、バックパックが小さく爆発を起こして空中のジンのバランスが崩れる。

 

『悪魔めっ!』

「結構、私は赤いなら彗星が良かったんだが、それも……悪くはなかろう!」

 

 だが瞬間、感じた感覚に従い後ろに下がれば、目の前を通る弾丸は―――真下のザウートからのものだろう。素早く重斬刀を投擲し、それはジンを真後ろから貫いた。

 

『ナチュラル共っ、娘の仇のために、俺はぁっ!』

 

 爆散するジン。

 

「10億も殺しておきながら、なんの言い訳になるっ!」

 

 真下を確認すればザウートが射撃をするので、空中で回転しながら回避するジン・アガレス。

 オルガ機を確認すれば、さらに現れたバクゥと戦闘を行っているようだが、重射撃武器のオルガ機では不利であろう。舌打ちを一つして、まず地上のザウートへと加速していく。

 放たれる主砲副砲、機銃に突撃銃、それらの隙間を縫っていく―――なんてことができるほど強くもない。そんなことするのは“白い悪魔”だけで充分だ。

 

「当たらなければ……!」

 

 急停止からの、急加速。第三者から見れば稲妻のようにすら思うだろうジグザクな軌道。その連続でザウートの攻撃を回避し、接近しながらライフルを連射していくジン・アガレス。

 少しずつボロボロになっていくザウート、その武装のほとんどが機能しなくると“零距離”まで接近し、コックピットに銃口を突きつけてトリガーを引いた。

 爆発する寸前にザウートの装甲を蹴り、オルガの方へと―――加速。

 

「オルガ!」

『遅ぇよ! くそ、ちょこまかと!』

「合わせる!」

『ハッ、上等ォ!』

 

 どこぞのお嬢様に言わせれば“不良みたいな口のきき方、おやめなさい”とか言われそうだとか、余計なことを思考しつつ“そのお嬢様の兄に憧れる”ロマは、フットペダルを踏み込み加速。超低空を飛ぶジン・アガレス。

 バクゥに向けて、オルガ機がキャットゥスを放てばバクゥは地を蹴り宙へと飛びあがり回避。だがその回避がよくはなかったのか―――いや、どちらにしろ“結果は同じ”ことである。

 

『どこを見てる連合の!』

『そりゃこっちのセリフだってのバァカ!』

『なっ、子供!?』

 

 オープン通信での会話を横耳に、ジン・アガレスを駆るロマは冷静だった。

 加速したジン・アガレスが爆煙を抜けて低空飛行のまま、180度回転し背を地に向けた状態で跳びあがったバクゥの真下を通る軌道で突っ込む。そしてバクゥの真下に差し掛かった瞬間、ジン・アガレスの持つライフルが弾丸を吐き出す。

 数十の弾丸が装甲の薄い真下からバクゥを貫く。

 

「私たちに勝てるはずもない……!」

『ハハハッすげぇじゃん!』

 

 爆散するバクゥをよそに、ジン・アガレスはそのまま真っ直ぐ格納庫へ。壁にぶつかる直前に、反対方向に足を向けてウイングバーニアも使い減速。そして格納庫の壁を蹴ってさらに別方向へと加速した。

 オルガはなにも言わなかったが、理解しているのだろう。すぐにクロトたちの元へと向かう。

 

 ジン・アガレスはハイータ機の方へと向かっていた。ロマのモニター、視界に映るのはハイータ機とバクゥ。

 レーダーを確認すれば離れた方からバクゥが3機向かってきていて、さらに近くからジン3機も接近してきている。

 バクゥの方がスピードはあるが、おそらくジンの方が近いので接敵は早いだろう。それよりもバクゥの方が問題とロマには思えた。

 

 ―――後続のバクゥの方から妙なプレッシャー……まさか、虎が降りてきた?

 

「猶更、早々に仕留めるっ!」

 

 ハイータのジンがバクゥに接近するため加速するも、バクゥはレールガンで応戦。それを回避しライフルを連射するが、バクゥはハイータ機に正面を向けた。硬い頭は遠距離からのライフルを弾く。もう少し近ければ違ったのかもしれないが、それを理解しているのかバクゥはさらなる接近での射撃よりも前にレールガンを放つ。

 ハイータはそれをさらに回避した。

 

「やはり腕は良い。しかしジンでは、だな……!」

『ロマくんじゃぁないですかぁっ!』

「元気そうでなによりっ!」

 

 ハイになっているハイータの蕩けるような瞳での笑顔がモニターに映る。可愛らしい顔でそんな表情をしていれば並の男であれば放っておかないところだが、ロマの精神衛生上はよろしくはない。

 加速したジン・アガレスはそのまま真っ直ぐに、バクゥへと突っ込む。正面から突っ込んでくるジン・アガレスに対して真っ直ぐに走るバクゥがレールガンを放つも、それを回避し、再び軌道を戻す。

 

『ハイマニューバの機動性は流石かっ……我がザフトの機体を好きにしてくれる!』

「すぐに用済みになるのでお返ししても良いが……!」

『悪魔めがっ!』

「せめて赤はつけてもらおう……!」

 

 このままでは衝突すると、バクゥが止まり横に回避。そのまま突っ込むジン・アガレスへとレールガンを向けるバクゥだが、アラートに気づいて後ろに下がれば正面を通る弾丸の雨。一瞬だけそちらに視線を向けて、飛び上がったハイータ機を確認。

 次いで、重斬刀が迫るのでさらに後方へ跳ぶ。

 

『その臓物まき散らして死んじゃえぇっ!』

『まるで羅刹じゃぁないかっ!』

 

 着地したバクゥの目前に突き刺さる重斬刀に肝を冷やすザフト兵。

 ジン・アガレスの方を向けば、変わらず加速してきている。レールガンを撃つが、ジン・アガレスは正面を向きながら地を脚で蹴り、無理矢理横にズレて回避して見せ、さらに落ちていた重斬刀を取る。

 

『そのような軌道でっ、化け物が!』

「失礼ながらただのナチュラルだよ。貴様らの足元にも、及ばんな!」

 

 動揺するザフト兵のバクゥにできた隙、ハイータ機の放ったライフルが左後ろ脚を直撃。バクゥはバランスを崩し減速する。

 体勢を崩したバクゥへと接近したジン・アガレスがその頭に蹴りを放って後ろへと転がす。背中を地に倒れたバクゥに抵抗する術はなく。ジン・アガレスがバクゥの胴体に足を乗せて、重斬刀の切っ先を向けた。

 

『ザフトに栄光あれっ!』

「戦争せずともあったろうに……!」

 

 重斬刀がバクゥの胴体に突き刺さる。

 

『さすがロマ君だぁっ』

「お褒めにあずかり光栄だよ」

 

 そう言いながら、勢いよく重斬刀を引き抜けばそれがジン・アガレスの足元をオイルで汚す。

 

『あっ! 新しい汚物だよっ!』

「そりゃご遠慮願いたいな」

 

 明るく言う見慣れぬハイータ。そんな彼女が乗るジンへと迫るジン三機。レーダーを確認すればバクゥの小隊もすぐに到着するようで、ジン三機相手に時間を取ってもられない。

 重斬刀のないハイータ機では接近するジン三機を相手にどうにもならない。だがハイータ機へと真っ先に近づいたジンの胴体に―――重斬刀が突き刺さる。

 

『ロマくん、愛しちゃうっ!』

「直線的にものを言うのは薬の影響かっ……!?」

『本心に決まってるよぉ、熱くなってきちゃったぁ!』

 

 ジン・アガレスが投げた重斬刀を見て楽しそうに笑うハイータが、ジンに突き刺さったその重斬刀を引き抜き、そのコックピットにライフルを乱射。近距離射撃により穴だらけになったジンが倒れるより早く、接近するもう一機にハイータ機が自ら近づいて蹴り倒す。

 

『あぁもぉ! ロマくんの前でこんな下品なことさせないでよぉ! ねぇっ!?』

 

 倒れたジンに馬乗りになったハイータ機が、重斬刀をその胴体に突き立てた。

 そして、最後の一機がハイータ機の真横から重斬刀を振り下ろそうとするも……正面に猛スピードで現れたジン・アガレスが、振り下ろされる右腕を左腕で弾く。

 体勢を崩すジンを前に、ジン・アガレスが武器を握っていない右腕を引く。

 

『やっぱりロマくんはいつだって私を助けてくれるねっ♪』

 

 昂揚したハイータの声が聞こえる。

 

「私にできるのは殺すことだけだ……!」

 

 吐き捨てるように言うと、ジン・アガレス(ロマ)はその右前腕の爪を揃えた状態で―――“突き出す”。

 

 その一撃はジンの上腹部へ突き刺さり、ジン・アガレスは内部で“何かを掴む”と、そのまま腕を引く。ジンから抜かれた手にはベッタリとオイルが付着しており、さらに抜いたときの勢いによりジン・アガレスの装甲にもオイルが飛び散った。

 

 その右手に握った鉄塊を投げ捨て、まるで血塗れたようなジン・アガレスの内部でロマは、そこから見える崖上を見据える。

 

 ―――バクゥが三機、先頭は隊長機っ……このプレッシャーはやっぱ虎か!?

 

『あっ、ロマくぅん、新しいワンちゃんだよ。かわいいね! 縊り殺してあげようよ!』

 

 立ち上がったハイータ機が前に出ようとするが、ジン・アガレスの腕がそれを阻む。止まったハイータは待てをされた犬の如く、合図さえあればいつでも視線の先にいる“獲物”を食い殺そうと飛ぶだろう。相手の技量も理解しないまま……。

 助けようとした友人が、バクゥ三体に集られて死ぬなんて“どこかのガンダム”みたいなことにするわけにはいかない。

 

『おや、もっと獣のように襲い掛かってくるものと思ったがね。赤い悪魔は』

 

 ―――やはりっ!

 

 まさかの通信、仮面も被らず顔をしかめたロマだが、すぐに表情を戻す。喋り方からして彼の知っている“砂漠の虎”で違いないのだろう。北アフリカを縄張りとするザフトのエース。英雄と言っても良い。

 

「……私とて理性ある生き物ですからね。砂漠の虎“アンドリュー・バルトフェルド”殿」

『ほう、初見で見抜くとは超能力でももってるのかな?』

「でしたら貴方が着く前に決着をつけていましょう」

 

 戦場に慣れた者であればわかるだろうこの威圧感。ただロマはそれに対して敏感なのだ。

 

『撤退するぞ! 今日戦ってもお互い利もあるまいよ……また別の機会に改めよう』

「ありがたいことですよ」

 

 それは紛れもない本心だ。

 ロマは現状“アンドリュー・バルトフェルド”に勝てるかと聞かれて首を縦にふることなどできやしない。突飛な行動や戦術が通用するのは一般兵までであり、エースは対応してくるだろう。

 機体性能は良いが、武器も弾薬もなければバクゥからは奪うこともできないだろう。

 

『またお会いしたいねぇ、赤い悪魔くん』

「自分は二度と会いたくありませんな」

『ハッハッハ! ……次は確実に狩らせていただこう』

 

 バクゥ三機が去っていくのを見て、コックピット内でロマは深い息をつく。

 ここがしっかりと重要な基地であれば、戦闘になっていただろう。だが、ここはただの前線基地で格納庫や武器庫を既に破壊されており、連合がここに拠点をつくるとも思えないから撤退したにすぎない。戦闘するよりも撤退の方がメリットがあると判断したのだろう。

 実際にロマの記憶ではビクトリア基地はそれほど時を立たずして制圧されるはずだ。それは砂漠の虎の手によってではないだろうけれど……。

 

「ふぅ……生き残った」

 

 気が抜けてどっと疲れると同時に、腹部や胸に痛みを感じる。それが徐々に強くなってくればロマの額には汗が滲み始めた。

 おそらく、また加速の連続でどこかしら痛めたか内臓が傷ついたか……。

 

『ねぇロマくん、ほめて! ほめて!?』

「あ、うん。ちょっと落ち着いてもらっていい?」

 

 キャラも忘れて、ロマは答える。

 

『うんっ♪』

 

 モニター内のハイータは蕩けたような瞳のまま笑顔を浮かべて元気よく返事をする。

 精神衛生上よろしくはないが、これで良いのだ。眼前の壊れかけの女を救うために壊れそうな男がやるべきこと、あとは―――仕上げのみ。

 

 





三人娘初陣ってことですが、あんまり活躍は書きませんでした
専用機手に入れてからが本番ですのでそこはまぁ

便宜上、ジンハイマニューバに名前つけましたがたぶん一発屋
ハイータはアッパー系で発狂、ロマはモツ抜き(一応右腕特別製なので)

そして砂漠の虎と遭遇、からの即解散
また会うこともあるでしょう

それでは次回もお楽しみいただければと思います

【阿井 上夫】さんに今回のアズにゃんいただきました

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