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「...では また あとで あおう!
けんきゅうじょで まって いるぞ!」
オダマキ博士との通信が終わったタイミングで、緩やかな衝撃と共にトラックが止まった。
到着してすぐに開けられたトラックの扉の外から、太い光が入ってきた。移動中の明かりが、機器の画面と電源の入った懐中電灯から灯る僅かな光のみだった事が、余計に日光を明るく感じさせたのかもしれない。
「よっと」
トラックから降りる頃に、ようやく目が光に慣れてきた。
だが、それでも少し眩しいと感じる位に太陽は辺りを照らしている。
天気は快晴。あの光を狭める雲は一切見えない。何処までも広がっている青空をぼんやり見つめていると、母さんがトラックの近くに歩いてきた。
「ユウキ、お疲れ様!」
母さんが先程までいた方角から、引っ越し屋さんのポケモンがやってくる。筋骨隆々なゴーリキーは、忙しそうにトラックから荷物を運び出していた。
(ゴーリキー、ありがとう)
心の中で小さく礼をしていると、母さんが心配そうにこちらを覗き込んできた。
「大丈夫?長い間トラックに揺られて、疲れちゃった?」
ぼんやりとしていただけだったが、どうやら母さんに心配をかけてしまったらしい。慌てて母さんの目を見ながら、少しだけ頭を下げた。
「ご、ごめん。ぼーっとしてた...」
「そう?なら良いんだけど...無理はしないでね」
安心したように笑った母さんを見て、俺の心の中にも安心が広がる。そしてその後、罪悪感から口を一瞬噤んでしまった。
母さんと会話に、少しだけ訪れた間。それが、鳥ポケモンのさえずりや、優しく吹く風を感じる時間になった。
「...いい所だね」
「そうよね!あっちに見える新しいお家も、少し古風な感じがして住みやすそうな所でしょ?」
母さんが指差した家は、先程からゴーリキーが荷物を持ち運びながら出入りをしている、少しだけ外見が古い所。街にあれば目を引くかもしれないが、ここは周りの家も同じような建物が多いので、寧ろ雰囲気に溶け込んでいた。
「今度はユウキの部屋もあるのよ」
「マジ!?」
「本当本当!さあ、中に入りましょ!」
長年の夢だった自室の存在を知って、思わず声が高くなる。
高揚した気分で母さんに続いて中へ入ると、そこにはほのかに木の香りがする、落ち着いた空間が広がっていた。
「ほら!お家の中も素敵でしょう?」
「うん...!」
こう答えた時の目はきっと、海面に映る日の光のように輝いていたと思う。
母さんも、少し興奮したように中の説明を始めた。
...システムキッチンとか、収納スペースとか、よく分からない話も多かったけれど、最後に言った「お家の片付けは引っ越し屋さんのポケモンがしてくれるから、らくちんね!」という言葉は、本当にその通りだと思う。
作業を終えたゴーリキーに、母さんと共に礼を言う。そして引っ越し屋さんの所までゴーリキーが向かった事を確認した後、母さんに自室に行ってもいいか確認した。
「ねえねえ!自分の部屋行ってもいい!?」
「もちろん!2階の右側のお部屋がユウキの部屋よ!...あ、父さんが買ってくれた時計があるはずだから、時間、合わせておきなさい」
「了解!」
勢いよく返事をした後、階段を駆け上がる。下から、もう少しゆっくりすればいいのに、と母さんの声が聞こえたけど、早く自室へ!という思いがその言葉をかき消す。
高揚が止まらないまま自室へ入ると、空いた窓から入ってきた少し冷たい風が、心を落ち着かせるように体を通り抜けた。
(...。)
1呼吸おいた後に部屋を見渡す。
流石引っ越し屋さんのポケモンによる片付け。決して少なくは無い私物達が、とても整然と置かれていた。
愛用のベット、勉強机、カビゴンドール。しっかり、ゲームもテレビの横で充電されている。
ニマニマとしてしまう頬を少し叩いてから、早速ベットに横たわった。
今まで寝室に置かれていた物と同じはずなのに、全く別のベットに寝そべっているような気分に包まれて、再び口角が上がる。
「自分の部屋ってだけなのに、なんか凄いな」
しばらくすると窓から入る風の勢いが弱まり、室内の温度が少し上がった。
(...少しゴロゴロしようかな)
...そう思ってうつらうつらしていると、いつの間にか1時間経っていた。
(.........。)
「...マ、マジか!」
少しだけお店の匂いが残っている水色の時計は、規則正しく時間を刻んでいる。
そんな時計の短針と長針が指している時刻は、太陽が南中したばかりなのにも関わらず18:10。
急いで時計を現在時刻に合わせた後、もう一度ベットに身を投げた。
だが、自室へ上がってからもう1時間が経っている。母さんもそろそろ細かい荷物整理を終えている頃だろう。
(...早くリビングに戻った方が良いよな)
うんしょ、と体を起こすと、すぐそばの窓から新しい風が入ってくるのを感じた。
少し目を細めながらベットに座り、窓の外の景色を眺めてみる。
目に入ったのは、スバメが庭の木に止まって、葉の影で涼しむように休憩をとる姿。
スバメは体を前後に揺らしながらも、木から落ちないよう、器用にバランスを取っていた。
「新しい生活が始まる...の、かな?」
寝息を立てるスバメに向けて小さく呟く。
起こさないよう静かに窓を閉めて、今度こそ階段へ足を向けた。
最後はスバメ祭りでした。今後、戦闘描写や僅かなユウハル要素入れる予定です。