「今頃クラス対抗戦ですかね?」
「そうね~。ところで君は行かなくていいのかな?」
「ちょっと確かめておきたいことがありまして」
IS学園の屋上でカップ麺を食べている光太郎は後ろに立つ楯無の問いかけにそう答えた。何故光太郎が現在行われているクラス対抗戦の観戦にアリーナにいないのかというとこのクラス対抗戦に於いて篠ノ之束の介入が予想されるのだ。いくら現在不破重工の下にいるとはいえ、かつてISの性能を見せつけるため『白騎士事件』を引き起こしたのだ。今日の『織斑一夏の初公式戦』に介入しないはずがない。それ以上に―――。
「(不破弦一郎という危険人物が動かないはずがない)」
自身の父親にひどい評価だが、光太郎をして父親の弦一郎は合理主義にして結果主義者である。未だに何が目的なのかは分からないが、自分をここに送り込んだのだって一夏の護衛だけではあるまい。
「ところで楯無さん。あなたの婚約者とその従者の人ってどこです? 確か、秘密裏に学園に入り込んでいるんですよね?」
「まさちゃんたちは有事に備えて潜伏中。さすがに今日の試合は何が起こっても変じゃないからね」
『男性IS操縦者の初の公式戦』である今日は全世界が注目していると言ってもおかしくはない。試合の様子は全世界とまでは行かないまでも、IS委員会などが見られるように中継されている。何か事を起こすには絶好とも言えるべき状況。そのため、光太郎はアリーナの外で待機している。アリーナ内で何かあっても壁をぶち破って突入するつもりである。ちなみに、まさちゃんとは『更識』所属の仙石雅樹という青年で楯無の婚約者であり、狙撃から近接戦闘までこなせるなにげに高スペックな男である。現在従兄弟兼従者である本郷巽とともにIS学園に潜伏中である。ちなみに、学園敷地内において『森の妖精』『緑色のムッ○』『モ○ゾーとキッコ□』を見たという証言があれば正体はこの二人である。
「まぁ、そうそう事件なんざ『光太郎! 大変なの……なんかアリーナがハッキングを受けているらしいの!』わ~お。癒子。とりあえず、織斑先生の指示に従っとけ」
「まさちゃん!?」
『巽にカウンターハッキングを行わせている。内部に侵入したのはアンノウンIS一機。織斑一夏と鳳鈴音両名が現在交戦中。両者とも消耗はしているが問題はないだろう。玉櫛。そこに不破光太郎はいるか?』
「いますよ。お久しぶりですね雅樹さん」
『ああ。それよりも、巽がハッキングしているときに得た情報だが……アメリカの監視衛星にパルヴァライザーが映ったそうだ。方角的にここを狙っているらしい』
楯無の通信機から聞こえてきたのは先ほど話題に上っていた仙石雅樹。そして、彼からもたらされたのは自身と因縁が深いパルヴァライザーがここを狙っているらしいという情報。パルヴァライザーの目的は理解できないが、ろくなことではないのだけは分かる。
『アリーナの方はこちらに任せろ。パルヴァライザーとまともに戦えるのはお前ぐらいだろう? 期待しているぞ? 『バンカーバスター』』
「やるだけはやりますが、ね」
中東にいた頃の通り名を持ちだされて少し遠い目になるが、すぐに顔を引き締めてISを展開する。本来はアリーナ等の決められた場所以外での展開は認められていないが、緊急事態である。もみ消し等は父親に任せる。そもそも権力とはそういうものである。
「楯無さん。一応、校舎には被害が行かないようにしますが……万一の時はお願いします」
「了解よ。さすがにパルヴァライザーはねぇ……」
パルヴァライザーの情報はすでに各国は掴んでおり、『更識』も当然その情報は持っている。本来ならどこかの国が情報を独占してもおかしくないのだが、パルヴァライザー自体が危険過ぎるため情報共有がなされている。
「とりあえず、パルヴァライザー用に弾幕張るか。『SOM』『ギガベース』展開」
仙石より送られてきた情報からパルヴァライザーがやってきそうな方角に移動した光太郎は、開けた部分にサポートメカを展開した。今回展開したのは『スピリット・オブ・マザーウィル』と『ギガベース』の二機。共に長距離攻撃を得意とする兵器のスケールダウンである。
「つーか、うちの会社は戦争でもおっぱじめるのかよ? アームズフォートなんつーもんを開発しおってからに……いや、んなことはどうでもいいか」
あの父親が何の考えもなしにこんなものを開発するはずはないので、それは今おいておく。今はパルヴァライザーである。
「ただ……いくら益荒男のサポート用にスケールダウンしたとはいえ結構大きいんだよなぁ」
セシリア戦で使用した『列車砲』は移動砲台なので大きさは大型トラック並とそこまでなかったが、今回展開したアームズフォートはIS学園の校舎と同程度の大きさである。当然、校舎側からも確認できるわけで当然校舎で授業を受けていた生徒たちに発見され一気に騒ぎになった。
「これでパルヴァライザー来なかったら馬鹿じゃん」
展開したアームズフォートに射程内に不審物体が入り込んだら攻撃を行うように設定すると、両手にアサルトライフルを持ちギガベースの連結部で標的を待つ。今回は相手が無人機のため機動戦になる。下手に弾幕を張って防衛戦を抜かれれば問題なのだ。
「癒子。そっちはどんな感じ?」
『え? 光太郎!? こっちはって……あ、なんか今扉が壊れて男の人二人が入ってきたよ』
すでにIS学園の妖精はアリーナに突入しているらしい。アンノウンISがどれほどのものかは分からないが、本職二人に対IS戦に特化した白式がいれば問題無いだろう。問題は一夏が本職二人の指示にしっかりと従ってくれるかなのだが。
「とりあえず、織斑先生かその入ってきた二人の指示に従っていれば問題はないからな」
『それはいいんだけど光太郎はどこにいるの!?』
「いやぁ…なんでもお客さんが来るらしくてお出迎えの準備をば」
癒子にそう返しつつ通信を切ると両肩に散弾を詰めたキャノン砲を展開する。ギガベースのレーダーに反応があった。速度はおおよそ音速を超えている。どこかの国の所属の戦闘機やISが一機で動くはずもないし、裏の人間が衛星に捉えられたまま動くはずもない。
「さぁて……中東での借りを返すぜ。ギガベース、SOM……弾幕展開!」
パルヴァライザーとの日本における初の戦闘が始まる。
同時刻、IS学園敷地内アリーナ
「巽!」
「すでにコンピュータは奪還しました。織斑教諭、システムはそちらに預けます。先輩!」
「分かっている。織斑一夏、鳳鈴音。悪いが協力してもらうぞ!」
「それはいいんだけどあんたら何なんだ!?」
「説明は後だ。織斑一夏。お前には期待しているぞ?」
扉を爆破してアリーナ内に入り込んできた関節等にプロテクトアーマーを装着した特殊装備に身を包んだ男たちに一夏たちは驚くが千冬から二人の指示に従えと通達が来たので疑問は後回しにする。
「織斑一夏、鳳鈴音。ISのエネルギーは後どれだけある?」
「えっと…『零落白夜』を一回くらいなら」
「龍砲をフルパワーで二発程度なら」
「充分だ。俺達が隙を作る。そこに零落白夜をぶち込め」
「で、でも動けない……いや鈴! 俺を砲弾にしろ!」
動けないなら動かしてしまえばいい。そう結論づけた一夏は自身を砲弾として鈴に撃ち出してもらいアンノウンISを無力化することを考えた。
「ふむ。賭けになるが、問題は無さそうだな。いいだろう織斑一夏。その案で行こう」
「あ、はい……えっと「仙石雅樹だ。こっちのは本郷巽。好きに呼んで構わん」わかりました。仙石さん。お願いします」
「了解した。巽」
「準備はいつでも」
大型のライフルを構えた巽はそれだけを告げるとすぐに動き出した。雅樹もサブマシンガンを構えてアンノウンに向かい走りだす。アンノウンもそれを察知してレーザーを放つが、雅樹たちには当たらない。
「何故当たらない?」
「いくらなんでもIS無しでレーザーを避けるなんて」
管制室で生徒たちを誘導しながらアリーナ内の様子を見ていた千冬たちは『更識』所属の二人がアンノウンを手玉に取っている光景を見て絶句していた。
「やっぱりあの特殊装備のおかげなんでしょうか?」
「恐らく、な。だが、それと同時にあの二人の能力も高いのだろう」
特殊装備を着込んだ二人はヘルメットに投射されるデータなどを確認してアンノウンの攻撃を避け移動しながらアンノウンに弾丸を吐き出している。ISと同じように筋力補助機能が付いているのか、通常なら取り回ししづらい対物ライフルを器用に操っている巽と、アサルトライフルからデザートイーグル二丁に持ち替えた雅樹。両者ともアンノウンの動きを止める方向に移ったようだ。
「巽、タイミングを合わせろ」
「了解です」
「あ、あの俺らは?」
「合図に合わせて飛べ。織斑一夏……失敗するなよ?」
雅樹と巽はアンカーユニットを肩部に取り付けると鉛球を吐き出しながらアンノウンが動きを止めた一瞬をついてアンカーを打ち出した。そのアンカーはアンノウンの装甲に突き刺さり、アンノウンは両側から引っ張られる形で動きを抑えられた。しかし、完璧とはいえずジリジリと均衡が崩れかかっている。
「織斑一夏!」
「ッ! 鈴!」
「分かってるわよ…行っけぇ!」
龍砲をにより撃ちだされた一夏は自身の得物である雪片弐型を構えてアンノウンへと向かう。零落白夜を展開してこのアンノウンを止める。今の一夏はそれだけを考えていた。これ以上このアンノウンを放置すればどうなるかわからない。唯一どうにかできそうな友人はこの場にいない。ならば自分がやるしかない。
「うぉぉぉぉぉぉぉ! 落ちろぉ!」
雄叫びとともに展開した零落白夜はアンノウンを袈裟斬りにした。そして白式に向けレーザーを放とうとするが、それもかなわず機能は停止した。
「や、やった」
「ご苦労だった。巽、アンノウンは?」
「完全に機能停止しています。コアは無事なようですが……」
大きく息を吐いている一夏を労いながら雅樹はアンノウンの情報を集めようと巽に問いかけると切れの悪い返事が返ってきた。つまり、ここでは言えない何かがあるということ。
「とりあえず、撤収するか。織斑一夏、ISを解除して鳳鈴音と共に織斑教諭の指示に『悪いけどすぐにそこから離れてくれ!』ッ」
ISを解除して地面に座り込んでいる一夏の首根っこを掴むと雅樹と巽はすぐにその場から飛び退いた。同時に壁を破壊して現れたのは益荒男と鋼の人形。両者は組み合いながら地面を滑り、途中で益荒男の胸部よりビームがはなたれたことにより距離をとることができた。益荒男は足裏に装備されている無限軌道により後ろに下がりつつ鉛球をバラマキ一夏たちと合流した。
「糞が! 危うくギガベースとSOM取り込まれるところだったわ! 一夏! お前戦えるか!?」
「え……って無理だって! こっちだっていっぱいいっぱいだったんだよ!」
「マジか!?」
しかも、アリーナにはまだ一般生徒も残っており色々とまずい状況である。一夏や鈴も戦えない。パルヴァライザー相手に雅樹と巽という生身の人間を当てれば速攻で取り込まれて死ぬ。パルヴァライザーが中東で恐れられていたのはその『取り込み』なのだ。爆弾だろうがビームだろうが構わずその身に取り込み、力としてしまう。戦うたびに強くなっていき、最終的には勝つことができないのではないかと思ってしまう。故に『破砕する者(パルヴァライザー)』なのだ。
「せめて取り込むタイミングがわかればなぁ」
パルヴァライザーの目的は恐らく自分と一夏だろう。基準は分からないがパルヴァライザーは『イレギュラー』を排除するために動いているというのが各国の見解。現状、この地球上で最大のイレギュラーといえば『女性にしか扱えないISを扱える二人の男』である自分たち。どうにかしてこの場を乗りきらなければならない。
「さて……どうするか」
「な、なぁ光太郎。何を警戒しているのかわからないけど爆風とかじゃダメなのか?」
「……ん?」
どうやってパルヴァライザーを追い返そうかと考えていると一夏がそんなことを言ってきた。その瞬間、光太郎に衝撃が走った。例えるなら穴にAMSが逆流した時のような。
「こいつは盲点! よくやった一夏! お前、今度の休みにうちの会社にきて研究員をファックしてもいいぞ! 男女問わず変態だがな!」
「いらねぇよ!」
一夏のツッコミを無視して弾頭を全てグレネードなどに変更して全てをパルヴァライザーへと発射する。
「吹っ飛べやぁ!」
グレネードはパルヴァライザーに当たる直前で爆発し、パルヴァライザーには爆風のみが殺到する。攻撃が取り込まれる恐れがあるなら取り込めないような攻撃を放てばいい。一夏の言葉がヒントになり考えついたのが爆風を当てる方法。そして、どうやらそれは効果的だったらしく黒煙の中から現れたのは左腕を失ったパルヴァライザーの姿。
「出来ればこれで帰ってもらいたいんだが……」
一応、最終手段はあることはある。ただ、調整が済んでいない上に使えば理論上半径数キロを更地に変えてしまう兵器なので使えば確実に色々と終わる。
「ビームバズーカで良ければ援護するぞ」
「そりゃありがたいんですが……出来れば一夏のほうがいいですね」
ガトリング砲やビームキャノンを構えながら心のなかで帰ってくれと願い続けている光太郎。その願いが届いたのかパルヴァライザーは、手近な瓦礫をその身に取り込み、無くなった腕を再構築すると空へと戻っていった。つまり―――。
「見逃されたにしろ何にしろ終わったか」
「な、なぁ…光太郎。あれは一体何だ?」
「ん~……どのみちアメリカの衛星に映っているんなら隠しきれるもんでもないな。いいぜ。なんだったら織斑先生たちも交えて話そうじゃないか。ISを超える化け物の話を」
光太郎がパルヴァライザーを退けた映像を見ている二人の男女がいた。不破弦一郎と篠ノ之束である。二人は光太郎が一夏に話しかけている映像を見ながらコーヒーを飲んでいた。
「かくして、織斑一夏と不破光太郎は危機を自らの力で乗り越えた、か」
「パルヴァライザーが現れたのはびっくりしたけど…やっぱり弦さんの子供だね。なんだかんだで善戦していたし」
「やわな育て方はしていないのでな。それより、宣伝効果はあったな。こちらはすでにアメリカからギガベースの発注が来ている」
「こっちはいっくんの立場がある程度固まったら行動しようかな」
「マクシミリアン。待機中のレイテルパラッシュを帰還させろ」
IS学園に襲撃をかけたアンノウンは、不破重工の秘密裏のサポートを受けて束が作り上げた。理由は、未だに実績がゼロに等しい織斑一夏の箔付けのため。万が一のためORCA旅団所属のレイテルパラッシュを待機させていた。パルヴァライザー乱入はさすがに『予定外』だったが、それも結果から言えば撃退できたので問題ない。
「しかし、パルヴァライザーの調査を進めなければならんな。あれはIS以上のパワーバランス崩壊要因だ」
「うーん。調べてみても情報が少なすぎるんだよねぇ。あ、そうだ。ORCAの何人か借りて行っていい?」
「構わん」
束はそれに礼を告げるとスキップしながら部屋を出て行った。残ったのは不破弦一郎のみ。彼は、息を吐くと立ち上がり窓の外を眺めはじめた。
「いつまでも多頭竜ではな。そろそろ……首を減らしたほうが人類のためだろう」