プロローグ
IS―――インフィニット・ストラトスと呼ばれるマルチフォームスーツが生まれておよそ十年の時が経った。本来宇宙開発用として作られたISは、降り注ぐミサイルの雨を掻い潜り、その半数を破壊し、その武力を良しとしなかった各国が送り込んだ艦隊をも無力化する『イレギュラー』により現行兵器を圧倒する戦闘力を見せたことで本来の宇宙開発という目的ではなく、兵器として運用されることとなった。
「だが……高々470機程度で国防の要と言われてもなぁ。それにノウハウが圧倒的に少ない女がねぇ」
高価な調度品が置かれた部屋の主はそう言って息を吐く。ISの力がわかってからというもの世界は変わった。戦闘機や戦車はもう古いと言わんばかりに各国は『旧兵器』の配備数を減らし、その分の資金をISにまわした。結果として、現在の国防の要はISになっていた。さらにISは女性にしか扱えなかった。それにより、何に対しても女性優遇が叫ばれた。一般企業でも差はあれど、同じような状態だった。
「戦争は数だ。確かに質も重要だが……乗り手を『選びすぎる』ISは欠陥品ではないかな? 篠ノ之束博士?」
部屋の主である男は、そう言って向かいに座る美女に声をかける。美女―――篠ノ之束はオレンジジュースをストローで飲みながら笑う。
「それはひどいな~。ISが欠陥品なんじゃないよ。それを扱う連中が馬鹿なだけだよ」
「まぁ、一理あるな」
ここは、IS武装シェア日本国内トップにして、第二世代量産型IS『打鉄』を開発・販売し、世界でもトップクラスの企業に入る『不破重工』の社長室。部屋の主は社長の不破弦一郎。特定の人間以外に興味をもつことはないとされた篠ノ之束が「束さんの研究を一番最初に理解してくれたからね~」と、不破重工に貴重なISコアを3つも提供したことから世界的になの知られている人物でもある。
「しかし、弦さんには助かったよ。弦さんがいなければここまでできなかったからね~。ていうか、よく社内をまとめあげたよね。ヘタすれば政府から睨まれるのに」
不破弦一郎は『白騎士事件』と称された『イレギュラー』が起こる数カ月前に行われた篠ノ之束によるISの発表時に、スポンサーに名乗り上げた男で、現在世界中に追われている篠ノ之束の逃亡生活をサポートしている。篠ノ之束は確かに有能である。だが、個人だ。どうしても資金面での問題があった。だが、それを解消したのが不破重工の存在だった。元々日本トップクラスの企業の上、弦一郎に代替わりしてから更に業績を伸ばしたこの企業にとってISという存在は投資するに値した存在だった。
「うちの社員は基本的にネジが外れているからな。いまさらだ。それより、大事な幼馴染はどうした?」
「ちーちゃんは就職活動なのです。いっくんを育てるためにね」
「ふむ。何ならウチにくればいいのにな」
不破重工としても、世界的に有名な『ブリュンヒルデ』を擁するのは歓迎する。だが、やはり色々と問題があるのだろう。
「でも、ちーちゃんも感謝していると思うよ?」
「スポンサーとして当然のことだ」
世界から追われる事になった束の家族を保護したのは不破重工。保護プログラムにより日本を転々とする生活に入りかけたところに篠ノ之一家保護に名乗りを上げた。無論、反発もあった。だが、重工業から一気に軍事産業に転換した不破重工は、束から送られたISコアを使用したISを持って交渉のテーブルに付いた。いや、つかざるを得なかった。篠ノ之束をして「これを作った人は頭がイッちゃっているじゃない?」と言わしめるほどの火力を持ったISを使ったのだ。何しろスペックのみで語るなら一機で艦隊数個分の戦力を持つのだ。
「それよりも、篠ノ之束。君に一つ頼みたいことがある」
「ん? 何かな? 弦さんには恩もあるから余程のことじゃない限り叶えてあげるよ?」
「それはありがたい。なに…ISコアをもう一つ作ってもらいたい。『男でも起動できる』コアを」
「もしかして、こーちゃん?」
束の言葉に弦一郎は頷いた。こーちゃん―――弦一郎の息子である光太郎は、束の妹である箒、ここにはいない千冬の弟である一夏と同い年なのだが、弦一郎の方針で海外に留学しており、そうそうに飛び級で卒業をすると今度は不破重工お抱えのPMC『ORCA』に所属して現在中東の紛争地帯で戦闘中である。
「奴にもそろそろ自衛の手段を与えようと思ってな。それに、『お前の計画』の要の一つである織斑一夏の護衛も必要だろう?」
「ん~……それもそうだね。いいよ。ところで、コアだけでいいの?」
「ああ。すでにガワはできている」
そう言って弦一郎が取り出した設計図。それを見た束は苦笑した。
「相変わらずだね。不破重工を体現しているといってもいい機体だね」
設計図に書かれていたのは鉄塊。現在主流になっているISとは真逆の思想を突っ走る「重機動・重火力・重装甲」の機体。
「名は『益荒男』だ」
カーキ色のその機体の完成は近い。
「ところで弦さん。こっちの資料は何?」
「光太郎の見合い相手のデータだ」
「へー。うわぁ…名家のお嬢様が多いね」
「親としては、息子が選んだ相手なら問題はない。それが複数でもな」
「それって今の時代に喧嘩売っているよね」
「知らんな。本人たちが納得しているならそれでいいだろう」