不破光太郎は考える。何故自分がここにいるのかと。小学校一年生の時点で高校卒業レベルの勉強を教えこまれ、小学校四年生に上がると同時にアメリカに留学。そこで飛び級に飛び級を重ねた結果、日本で言うと中学校に入る時期に自身の父親が経営する不破重工お抱えのPMC「ORCA」に所属して中東の紛争地帯を傭兵として渡り歩いた。別に少年兵という存在があるためそれ自体には文句はなかった。だが、何故ここまでするのかがわからなかった。だから何度か日本に戻ってきた時に父親に聞いてみた。
「戦場には人間の負の感情が渦巻いている。人を殺したいという欲望、どんな手段をとってでも生き残りたいという渇望。視点を広くすれば、権力者の欲望が見える。それらを感じろ。そしてそれらを飲み込み、自らのものとしろ。お前はいずれ私の跡を継ぐ。私がいる世界、そしてお前がいずれ飛び込む世界はそういうところだ」
父親の言葉は理解もできたし納得もできた。企業間の競争とはそのようなものだと知っていたし、留学していた頃は普通に相手を蹴落として上に立つことが日常だった。だから人間の素を見るということで戦場に放り込まれたのはいい。正直、ORCAの連中は一癖どころか百癖くらいある連中ばかりだったが、面白い連中だった。だから、戦場での生活も楽しいものだった。
「(だが、何故今度は学生なんだ?)」
突然戦場から呼び戻され、父親のいる社長室に入るとそこには現在世界中が躍起になって行方を追っている篠ノ之束がおり、なぜか友好的に話しかけられ暫く会話したら「うん。合格!」と言われ、父親からドッグタグを渡された。曰く「お前専用のISだ」と。状況がいまいち理解できないまま、IS学園に入学することや織斑一夏の護衛を行うことなどを教えこまれたら、そのままメイドたちに抱えられ車に押し込まれた。そして、気が付けば―――。
「誰でもいい。俺の現状を教えてくれ」
周りは女子ばかり。一応、見知った顔もいないわけではないが席が離れているため助けは期待できない。父親から言われた護衛対象である織斑一夏はすでに一杯一杯の状態のようで何やら怪しい状態。
「……まぁいい。つまりは普通に学生をすればいいんだろう?」
父親から言われたのは『織斑一夏の護衛』くらい。あとは好きにして構わないと言っていた。ならせいぜい楽しむとしよう。まぁ、後でORCAの連中には連絡を入れておこうと思う。ただ、絶対なにか言われる。ロイやオールドキングたちは完全にからかってくる。ほかはどうだろうか。リリウムは拗ねる。ダンは……まぁどうでもいい。
「しかし……前途多難だな」
光太郎の視線の先には混乱しまくった挙句、実姉に出席簿で叩かれている一夏がいた。
「いようご同輩。さすがに参考書を古い電話帳と間違えて捨てたのは自覚がなさすぎだろう」
「えっと?」
SHRも終わり、授業も一つ消化したあとの休憩時間に光太郎は一夏に話しかけた。きっかけとしては先程の授業で一夏がやらかしたことについて。SHRのあとに話しかけなかったのは一夏が篠ノ之箒に連れて行かれたから。その時に幼馴染に挨拶しようと思ったのだが運悪く父親からのメールが来たのだ。内容は自身の専用機の仕様データだったので仕方ない。
「ああ失礼。俺は不破光太郎。呼び方は好きにしてくれ。まぁ、女の園に放り込まれたイレギュラー同士仲良くしようじゃないか」
「あ、ああ。織斑一夏だ。俺も好きに呼んでくれて構わない。えっと……」
光太郎が話しかけてきたことに驚いた一夏だったが、すぐに調子を取り戻すと趣味などを聴き始めた。最も、光太郎が不破重工の御曹司と言ったら大層驚かれた。そこにやってきたのは篠ノ之箒。
「その…不破社長には大変お世話になった。私は篠ノ之箒という。えっと…よろしく頼む」
かしこまった箒に一夏は首をかしげるが色々と事情があると考え、何も言わなかった。光太郎のほうは、肩をすくめるだけ。
「かしこまらなくてもいいぜ? うちの親父は篠ノ之一家を保護することで利益が出ると判断した。感謝することはないと思うぞ?」
もっと言うならば、篠ノ之束との友好的な関係を保つため。光太郎から見て父親はそんな男だ。
「そ、そうなのか?」
「そうそう。それより、一夏よ。お互い大変だな?」
「そうだな~。でも、光太郎は平気そうだよな?」
先ほとは混乱していたが、光太郎はすぐに持ち直した。まぁ、戦場で鍛えられた結果と言えるだろう。
「まぁ、経験の差だわな。それよりも……いたいた」
「「ん?」」
光太郎はこちらを遠巻きに見ているクラスメイトを見渡して目的の生徒を見つけるとそちらの方へと歩いていった。男子が来るので当然女子が避ける。それを見た一夏が「モーゼ?」とつぶやいていた。まぁ、ある意味人海ではあるが。
「久しぶりだな。癒子」
「ひ、久しぶり……」
光太郎からすれば幼稚園からの付き合いの幼馴染に挨拶しただけなのだが、谷本癒子はそうではない。周りの女子の目が一気にギラつき始めた。なんせ二人いる男子の内一人が自ら歩み寄ってきたのだ。ここ重要である。一夏の場合は箒の方から向かっていったのでまだ良かった。まだ抜け駆けとか言い訳が考えられた。だが、今回は『光太郎の方から』やってきたのだ。
「(空気呼んでよ~)」
癒子は若干冷や汗をかきつつ光太郎に向き直った。
谷本癒子は改めて幼馴染を見る。幼稚園からの付き合いで、小学校も一緒だった。だが、四年生に上がると同時に外国に留学していった。年末などは日本に戻ってきて一緒に遊ぶこともあったが、中学校に入る頃には今度は中東で少年兵をやらされることになった。
『なんで光太郎がそんなことしなくちゃいけないの!?』
『親父曰く人間を見てこいだとさ』
そう言って光太郎は中東へと向かった。一応、手紙や電話のやり取りはしていたため一夏と箒のようではなかったが、面と向かって会うのは久しぶりだった。
「その……結構日に焼けてるね」
癒子の目の前にいる光太郎は健康的に焼けており、アスリートと言われても違和感がない。顔は整っており、身長も高い。一夏とはまたベクトルの違うイケメンだろう。
「まぁ、中東は日差しが強かったからな。しかもクーラーなんかないから裸で水浴びするくらいしか涼がとれん。お陰で服の下も焼けてるよ」
「あ、そうなの?」
癒子も周りを気にしないようにしたのか世間話がするすると出てくる。例えば、身長伸びたね。お前は……うん。ちっこいまんまだな。待てこら、180超えているアンタと比べるななど。周りはその中の良さに放心状態である。一夏も「この状況でよくあそこまで話せるな」と感心していた。
「あ、あのさ癒子」
「ん? ナギに清香。どしたの?」
二人の会話に入ってきたのは癒子の友人二人。そこで癒子も気づいた。この状況まずいんじゃね?と。
「二人ってどんな関係なの?」
「えっと「まぁ、あれだ幼馴染だな」そうだけど、少しは空気を読め―――痛い」
「お前さぁ…それクリスマスの時もやったよね。だいたい、お前の細腕で俺にダメージが通るわけないだろ」
癒子のパンチは確かに光太郎の腹に打ち込まれたが、そこは戦場を走り回っていた光太郎。腹筋の硬さで無傷。むしろ癒子が痛がる始末。
「おのれ……」
「「ゆ、癒子?」」
ナギと清香は信じられないとばかりに絶句していた。癒子がそんな行動に出るとは思わなかった。そして、ふと考えた。確か不破くんは不破重工の次期社長だったはず。そして、癒子の父親は不破重工の取締役の一人だったはず。つまり―――。
「「も、もしかして二人は婚約者!?」」
ナギと清香の声はなぜか教室に響いた。続いて起こるのは生徒たちの絶叫。多分、放課後あたりには学校中に広まっているだろう。ISを扱える男子の内一人はコブ持ちと。
「ちちちちちちち違う! 違うから! 光太郎も何とか言ってよ!」
顔を真赤にそめて否定する癒子は光太郎に助けを求めようと振り向くと―――。
「なるほど。見合いを断るには婚約者がいると言っておけばいいな。よし、癒子! そこら辺を前提に付き合って「このバカヤロー!」甘い―――なに!?」
癒子のパンチなどたやすいと思っていたのだが、飛び出したのはスクリューアッパー。しかも偶然だろうが、的確に顎を狙ってきた。
「癒子よ……強く、なったな」
そう呟いた光太郎は車田落ちで倒れた。一方の癒子は質問攻めである。この騒動は千冬が来るまで続いた。
余談ではあるが、イギリスの代表候補生はイベントを起こそうと立ち上がろうとしていたのだが教室の空気がそれどころではなかった。