「一夏。お前、この一週間何してた?」
「い、いや……その……」
「箒よ。お前は、何がしたかったんだ? 一夏の剣の腕を鍛えたかったのか? オルコットに勝たせたかったのか?」
「……」
「はぁ……てめぇらナメてんのか?」
あれから一週間が経った。その間、光太郎は情報整理やISを纏って機動や武装の確認を行なっていた。癒子たちもついてきていたが、益荒男の外観に驚いていた。まぁそれはおいておくとして、光太郎は心底呆れたように息を吐いた。
「まず、箒。一夏の特訓指南役に立候補したならそれを完全に遂行しろ。いいか? 個人的感情は押さえ込め。それができないなら指導者に回るな。そんなんじゃ教わる側はいろんな意味で偏る……不満そうだな?」
箒は不満そうだが、光太郎にとってはそんな事知ったことではない。箒の事情など興味はない。
「大方久しぶりにあった幼馴染が変わっていたから認められないとかそんなんだろ?」
「―――ッ」
「図星か。気持ちはわからんでもない。だが、今回はまずかったな。時間がないんだよ」
別に本職ではないのでそこまで期待はしていなかったし、まぁ聞いた話では売り言葉に買い言葉で引き受けたらしいので逆に微笑ましい感じだった。だが、時と場合が悪すぎた。
「つーか一夏よ。お前もオルコットのことを調べるくらいはしろ。インターネットで調べるだけでも役に立つ情報はある。何故それをしなかった? 自分は前情報なしでも勝てると思ったか? それともそんな事考えたことすらなかったか?」
「その…」
「甘い。実に甘すぎる。いいか? お前は織斑先生と比べられるのは嫌かも知らん。だが、周りはそうなんだよ。どこまで行ってもお前は『織斑千冬の弟』なんだよ。お前が負ければ織斑先生の名誉も傷つく。認められるか?」
「認められるかそんなこと!」
光太郎は内心シスコンパネェっすと思った。だが、好都合。むしろそのくらい単純な方が伸びしろがある。
「なら…少しの時間しか無いだろうが見ておけ。オルコットのデータを俺なりにまとめた資料だ。頭に叩き込め」
「え、でも「対戦相手の情報を調べておくのは基本だ。ですよね? 織斑先生」」
「まぁ、お前ほどではないがな」
光太郎が一夏に渡した資料はもはや一冊本が書けそうな量である。多分、あらゆる状況での戦術を書き込んだ結果だろう。千冬も現役時代は対戦相手の情報を調べあげたのだがここまではしていない。
「そんじゃあ頑張れよ新兵(ルーキー)」
光太郎はそれを告げるとピットを出ていった。本来なら公平を期すための処置なのだが、セシリアを調べ尽くしているので建前上である。
「さて、織斑。やれるか?」
千冬の言葉と同時にコンテナが運び込まれ、その扉が開いた。そこには『白』が鎮座していた。それを背に千冬は問う。戦えるのかと。
「ああ!」
一夏は力強く頷いた。
「さすがは織斑千冬の弟、というべきかね?」
「まぁ、潜在能力は高いでしょうね」
光太郎は観客席の隅っこで一夏の試合を見ていた。その隣に座るのは青い髪の美少女。彼女はIS学園の生徒会長にして学園最強、ロシア代表という肩書きを持つ更識楯無。しかし、彼女には何よりも優先すべきことがある。
「ところで、なんでカウンターテロのスペシャリストがいるんです?」
「あら、分かっているくせに」
日本のカウンターテロ組織である『更識』の現当主。それが彼女の持つ肩書きの中でも重要なもの。様々な人種が集まり、世界中の目が集まっているこの箱庭の守護者。まぁ、本人は飄々としているのだが。
「―――あら。負けちゃったわね」
「新兵(ルーキー)なら充分でしょう。ゲームで言うなら初期装備・初期ステータスで中ボスに挑むようなものですよ?」
「瞬間加速を使ったから成長は著しいわね。おねーさん将来が楽しみ」
「……婚約者さんが泣きますよ?」
「あら。泣くわけないでしょ。私があの人のことを心底愛しているって分かっているんだから」
「……さいですか」
砂糖を吐きそうなほどのろける先輩に辟易しながらも光太郎はピットへ向かう。次は自分の番。ピットには試合を終えた一夏が正座してうなだれていた。負けたのは確かに叱責ものだろうが、初心者にしては上出来である。
「光太郎…負けちまったよ」
「いいじゃねぇか。学んだことはあるだろ? 傭兵ってのは負けても生き残れば勝ちだ。負けてもそこから学べばいい。何故負けたのかを徹底的に洗い出せ。そして、次からはそれをしないようにしろ。そうすりゃ、次は勝てるさ」
「……」
傭兵の仕事は様々だったが、敵方がISを投入してくれば敗走するのが常だった。だが、本社から送られてくる新装備やORCA参謀のメルツェルや現場指揮担当のローディー、ネオニダスなどと協力して徐々に敗走から相打ちへと持ち込んでいった。
「俺は血反吐を吐こうが、砂を食もうが、糞尿に塗れようが生きろと教えこまれた。そして、敗走するときは少しでも多くの情報を持ち帰れとも。その情報があれば研究ができる。対策が立てられる。次は少しいい戦いができる。そしてそれは事実だった」
「そう、なのか?」
「お前の零落白夜の弱点は理解したな? だったら、その弱点をどう克服するか考えろ。そして、今の自分に足りないものは何なのかを自覚しろ。そして、現状自分ができる最善の行動をとれ」
光太郎はカタパルトに飛び乗ると首に下げていたドッグタグを制服の内から取り出した。
「んじゃま、行ってきますか。一夏、見ておけ。格上の相手を下す一つの戦い方をな」
それと同時に光太郎の体は展開されたISに包まれ、カタパルトを飛び出していった。飛び出していく彼の姿は『鉄塊』だった。
「ようやく次ですか―――ってそれがあなたのISですか?」
「ああ。ちなみに待たせたのは一夏へのフォローだな」
セシリアはカタパルトから飛んできた敵を振り向いた。先ほどの試合は確かに勝った。しかし、自分が慢心していたのは事実だし、なによりあれだけの熱い姿は自分に強烈な印象を与えていた。そして、次の相手は調べたら不破重工の次期社長としての身分だけでなく中東に於いてそれなりに名の知られたPMCの一人。ISを扱ったことはなくとも銃火器を扱う経験値は間違いなく自分以上。何より『場慣れ』しているだろう。つまり一夏以上に油断ならない存在。そして、彼の纏うISがその警戒心を跳ねあげていた。
それは彼女が見慣れているISと比べれば間違い無く『異物』である。全身装甲は問題ない。だが、自身のISのように見た目もこだわったものではない。色はカーキ。全身に備え付けられているスラスター。弾丸を受け流すように作られた装甲。そして2つに光るツインアイ。それはまさしく『兵器』だった。
「これが俺のIS『益荒男』だ」
「なんというか逆行していませんか?」
「否定はしない。だが、ISは兵器だろう? いくら取り繕うとも人を殺せる兵器であることには変わりない。何より俺にとっちゃこっちのほうがやりやすい」
どうも光太郎に最近のISの装甲は合わなかった。なんというか違和感があるのだ。防御力に問題がないのは分かっている。だが、どうも違和感が拭えないのだ。だから、父親から益荒男を見せられた時に『これなら問題ない』と思った。
「こいつには絶対防御はない。それに回すエネルギーはすべてスラスターや武装方面にまわしているからな。だいたいあんな『最終的には死なないから大丈夫』とかいうやつは俺は信用ならん。傭兵にとって重要なのは引き際だ」
「皆が皆傭兵じゃないのですが。それに絶対防御はないって……危険ですわよ?」
「はっ。甘いな。戦争が起こってみろ。お前だって前線に出るんだぞ?その時に必要なのは引き際だ。まぁ、そんなことはどうでもいいか」
光太郎は装甲の下で笑う。すでにセシリアに勝つための戦法ははじき出した。あとは試合開始の合図を待つだけ。そして、その時は来た。
「悪いなセシリア・オルコット! 初っ端から全力で行かせてもらうぜ!」
「な―――」
合図が鳴ったと同時に益荒男は両腕にガトリング砲、両肩にはビームランチャー、両腰にはキャノン砲、すねの部分にはミサイルポッド、そして地面に展開されたのは列車砲。
「トリガァァァァァァァァハッピィィィィィィィィィィ!」
それはまさしく弾幕。列車砲から放たれた砲弾はセシリアを狙わず上空へと向かい、そこで爆発を起こし小型機雷の雨を降らす。そして、益荒男はすべての砲口から弾やビームを吐き出す。セシリアは上空から降り注ぐ小型機雷と前から迫る弾幕を必死に回避しようとするが数が圧倒的に多すぎる。
「……すげぇ」
「だが、あれはどうなんだ?」
「篠ノ之。あれは不破がオルコットに勝つための戦法の一つだ。決して問題があるものではない」
「ただ…さすがは不破重工というべきですよね」
一夏は空を覆い尽くす程の弾幕や機雷に絶句しており、箒はどこか不服そうである。しかし、千冬はそんな彼女をたしなめる。
「そもそも不破は自身でも言っていたが傭兵としてISと戦ったことはある。これは間違いない。だが、ISを使うのは初めてだ。だからこそ圧倒的火力でオルコットを封殺する戦法をとったのだろう」
「確かにそうですよね。足を止めての撃ち合いなら勝率は跳ね上がります。しかも、使う武装は全部不破重工製。同社PCMに所属していたなら武装の癖とかも把握しているでしょうし」
いくらISとの戦闘経験があると言えども自分がISを使うのは一夏と同程度。ならばと光太郎が考えついたのは圧倒的火力による封殺。この戦法は弾数が多ければ多いほど勝率が跳ね上がる。ただ弾を吐き出すだけでは避けられる。だからこそ列車砲を展開して上空より機雷を降らせたのだ。ISが何故戦車や戦闘機を圧倒できたのか。それは三次元機動ができたからにほかならない。だから光太郎はセシリアに勝つためにその三次元機動を封じ込めることにした。空からばら撒かれる機雷。列車砲から次々と打ち上げられすでに上空は機雷により封鎖された。これにより高度を取ることは不可能。そして益荒男より放たれる弾幕。ミサイルは着弾前に爆発し視界を一時的に奪い、爆風により生まれた煙の中から鉛玉やビームが殺到する。
『くっ―――完全にこちらを封殺するのが目的ですか!』
『当たり前だ! ISを使った三次元機動ならこっちが負けるのは必然。ならそれを封じ込めれば問題ない! あとはアンタのエネルギーが切れるまで撃ち続ければこっちの勝ちだ!』
『そこまで銃弾が持つとおおもいで!?』
『益荒男のコンセプトは『重機動・重火力・重装甲』だ。この程度で重火力を名乗れるわけ無いだろうが! 必要と有らば三日三晩撃ち続けてやるわ!』
その雄叫びとともにガトリング砲が二門増え、さらには胸部装甲が展開しそこから拡散レーザー砲が飛び出してきた。まさしく武装ハリネズミである。
「さすがにあれは私でもきついな」
「相打ち覚悟で進むしか無いですものね」
千冬は全盛期の自分でも相打ち覚悟で懐に入り込むしかないと判断した。圧倒的火力で封殺するという単純な戦法。しかし、だからこそ厄介なのだ。
「お前ら覚えておけ。これもれっきとした戦法だ」
千冬は内心これからの世界情勢に不安をいだいた。なぜなら、この試合で証明されたからだ。圧倒的火力を持ってすればISを無力化できることが。
試合は数分後にセシリアのエネルギー切れにより光太郎が勝利した。試合を見ていたクラスメイトは圧倒的火力に絶句したが、概ね好意的である。まぁ、ド派手なやり方がおまつり好きな彼女たちに受けたのだろう。一方、試合を見ていた他のクラスの生徒たちは賛否両論といったところ。だが、実力者たちが光太郎の戦法を賞賛していたため一応黙った形になった。
益荒男はコトブキヤから発売されているFAシリーズの漸雷をイメージしています。轟雷とかも格好いいけどこっちのほうが好き。
列車砲は完全におまけ。でも、なにげに今後活躍する予定があったりする。