パーティの翌日、一組ではある噂が立っていた。それは、二組に転入生がやってきたということ。一夏の実力を重く見たどっかの国が送り込んできた、いやむしろ光太郎を攻略するためだ、など情報が錯綜している。
「なんかすごい噂になってるな」
「一夏。お前はいい加減に俺らが置かれている状況を理解しろって。例えば、お前が自慰行為をやったと知られたら使用済みティッシュが捨てられているゴミ箱を盗まれることもありえるんだ。今回の転入生の噂もそれと同じだ」
「ちょっと待て。お前こそここがどこか分かっているか!? ここ俺ら以外は女子! 下ネタを口にするなよ!」
さっきから女子生徒の視線が怖い。まるで獲物を狙う肉食獣のようだ。ちなみに光太郎は癒子からチョークスリーパーを決められているが至って普通である。
「まぁ、ゴミ箱云々はともかくとして転入生はお前の知り合いだぞ一夏―――「ひやぁん!?」―――相変わらず首すじが弱いな」
「……」
チョークスリーパーをかけられていては喋りづらかったのか癒子の耳に指を入れてみたら嬌声を上げてへたり込んだ。一夏は顔を赤くしていたが、他の生徒達は違った。
「(え? 今、腕が変な方向に曲がったような)」
いくら身長差があろうともチョークスリーパーを決めている相手の首すじを触るのは難しい。だが、光太郎はやってのけた。腕が変な方向に曲がっていたけど。
「それより俺の知り合いってどういうことだ?」
「そのままの意味だ。ついでに、入り口にポーズを決めようとしているちびっ子がいるんだが」
「え?」
一夏とそれに釣られた生徒たちが振り向くと、今まさに扉に背を預けようとしていたツインテールの少女がいた。その少女は一斉に顔を向けられたため驚いて肘を扉にぶつけて悶絶していた。
「お前、鈴か!」
「ちょっと一夏さん…お知り合いですの?」
「説明してもらおうか!」
悶絶しているツインテールの少女に一夏が近づくと箒とセシリアが嫉妬して噛み付こうとしたが―――。
「……貴様らいい度胸だな」
「「あ」」
朝礼のために教室にやってきた千冬によりまとめて出席簿で叩かれていた。ちなみに光太郎は復活した癒子にフルボッコにされていた。
「―――前が見えねぇ」
時間は過ぎて昼休み。光太郎たちは一夏たちと一緒に学食へ向かっているのだが、箒とセシリアの機嫌は悪い。授業中に一夏と転入生の関係を考えていたら千冬に叩かれたのだ。自業自得である。
「でも、あの娘って織斑くんとどういう関係なんだろうね? 光太郎くんはなにか知っているの?」
「俺が調べていないとでも思ったか? すでにこの学園の関係者のすべての情報は調べ尽くしているわ!」
「んじゃあ、癒子のスリーサイズは?」
「上から8じゅ「死ねぇ!」ぞなもし!?」
「……あいつら仲いいな」
「そうですわね」
「仲がいいのか?」
癒子にアッパーを喰らい車田落ちでふっ飛ばされた光太郎。ナギがどこからか取り出したマイクで「おーっと不破くんふっ飛ばされたー!」と実況している。清香はワタワタしている。もはやカオスである。
「遅―い! 何していたの……って本当に何していたのよ」
「いや……まぁ、その……聞かないで」
学食で仁王立ちして一夏たちを待っていた鈴。しかし、一行の中になんか紅蓮腕を放ちそうな包帯男がいたため絶句した。ちなみにこの包帯男は癒子にお仕置きされた光太郎である。
「それより…久しぶりだな。元気だったか?」
「え……う、うん。アンタも元気そうね」
和やかに会話をする二人。しかし、箒とセシリアは一夏を睨みつけている。癒子たちは一夏に呆れた視線を向けるが、ふと光太郎の方を見ると―――。
「あいつら昼飯食べないで平気なのかねぇ」
普通に日替わりランチを食べていた。なんか悔しくなったので癒子たちも普通にごはんを食べることにした。なんかラブコメってる友人たちはほうっておくことにした。
「ところで光太郎。あのツインテールの娘って何者?」
「光太郎くんの口ぶりだとなんかすごい人なの?」
「現中国IS国家代表候補生の一人である鳳鈴音。専用機は燃費と安定性を重視した機体。その最大の特徴は「ちょっといきなり人のISの情報をばらさないでくれる?」おっと」
光太郎の言葉を遮ったのは他ならない鈴だった。彼女は光太郎をジロジロと見定めるように眺めている。
「それよりアンタが二人目のイレギュラー、か。本国の連中は気をつけろって言っていたけど……どうやら本当のようね」
「お褒めに預かり恐悦至極ってか。多分、アンタの上司の発言は正しい。こっちには王小龍がいるからな」
「はぁ!? なんで王大人が不破重工にいるのよ!?」
「んなもんウチの親父が雇用したからに決まっているだろう。つーか、王大人は高齢ではあるが死に場所を戦場と定めている仙人だぞ? ISの台頭故に仕方ないかもしれないがあのジジイを前線から下げた時点でこうなることはわかっていたと思うがね」
不破重工PMC「ORCA」所属の王小龍。通称「王大人」と呼ばれる老人はかつて中国軍において高い知名度を誇る。というのも、彼に見出された者は全て軍人や科学者として大成しているからだ。だが、本人は前線に出ることを望み続けていた。しかし、ISが台頭したことにより軍部再編が行われ彼も軍学校で教鞭を取るように通達された。だが、彼はそれを不服として退役、ちょうど知人であるネオニダスより不破重工社長である不破弦一郎と面会、そしてそのまま同社PMCに所属することになった。ちなみに、王小龍が退役したと同時に十数人の軍人も退役し王大人に続いて不破重工入りしため、中国軍は秘密裏に王大人を連れ戻そうとしている。
「こっちとしてはいい加減に諦めろと言いたい。大体、お前ら中国軍って人の多さはアメリカ並みだが、やり方がおかしいんだよ。適材適所という言葉を調べてこいよ。つーか、わざわざ不破重工本社に連絡入れてくんな。そろそろ親父の我慢も限界だぞ? そこら辺を国のお偉いがたに言っておけよ」
「はぁ? そんなの無理に決まっているでしょ。国家代表でもないんだから」
「はっ。織斑一夏がIS学園にいるとわかった時点で転入させるように迫った女のいう台詞じゃねえな」
「……なんで知っているの?」
「さてな」
まさか王大人の命令で軍に残った者が情報を流しているとは思わないだろう。といってもタイミングと公開されている一夏の経歴と、鈴の噂を照らし合わせればすぐに分かるものなのだが。
「ふぅん。まぁ、いいけど。それより、アンタの立ち位置は何?」
「二人目のイレギュラーにして普通の学生ですが?」
「……普通の学生に中国政府が私に気をつけろって言うわけ無いでしょ」
「そんなのはそっちの都合だろう。それより、昼休みも終わるぞ?」
どこか光太郎を不審者を見るような目で睨む鈴。光太郎はそれに気づきつつも軽く流す。暫くたって鈴はため息を吐くと一夏たちに声をかけて食堂を後にした。一夏たちは怪訝そうな顔で光太郎を見るが、本人は静かにコーヒーを飲んでいる。だが、光太郎の存在は各国にとってある意味で一夏以上に厄介なのがこれで光太郎自身にもわかった。
「まぁ、ウチの親父はいろんなところから恨み買っているしねぇ」
「光太郎?」
「いやなんでもない。それより、急ぐぞ。もう始業まで時間がない」
「うわ本当だ!」
光太郎の指摘に時計を見るとすでに午後の授業まで10分を切っていた。一夏たちは急いで食器を片付けてかけ出すが、癒子は静かに光太郎を見つめていた。
―――同時刻 中東某国
「お、おい……本当に大丈夫なんだろうな? これ以上反政府組織にいいようにやられてはたまらん。だからこそ君に依頼したのだ」
不安そうに初老の男が自身の右横に立つ男に声をかける。声をかけられた男は二十歳くらいの東洋系の男。しかし、彼は薄く笑いながら左手にデリンジャーを握った。
「ご心配なく将軍。すぐに済みますよ……あなたの死で」
初老の男が目を見開いて横を向いた時には全てが終わっていた。初老の男の額には風穴が空き、その穴から流れでた赤黒い血が流れ地面を染めていた。
「騙して悪いが……これも仕事なんでね」
男はタバコを取り出すとそれに火をつけふかし始めた。ついでに死んだ男の服の下にダイナマイトを複数仕掛け始めた。
「アンタの依頼を受けて機を見て殺害が依頼だったんでね」
タバコをくゆらせる前に連絡を入れておいたので後数時間もすれば依頼人である反政府組織の使いが来る。そうすれば今回の仕事は終わり。
「しかし…ORCAも中東から一時的に退いた上に、パルヴァライザーも行方知れず。つまらんなぁ」
男はORCAと殺しあったり共闘したりしていたフリーの傭兵。尤も、この男はかつて一人の標的を殺すためだけに街を一つ消滅させたため危険度で言えば光太郎以上である。
「しかし…『バンカーバスター』がISを使うとは……まぁ、どうせ不破重工トップが関わっているんだろうがな」
男は懐からPDAを取り出すと光太郎が一面を飾っているニュース項目を見ていた。
「ISねぇ……そんなものがあればどれだけ仕事が捗るか。そしてそれが使えればどれだけ殺せるか」
「おまたせしました。仕事はしっかりと完遂したようですね。では、これが約束の金です。それと、将軍の遺体はこちらで引き取らせて頂きます」
「おう。あとはよろしく」
男はそう言ってタバコの火を消した。やってきた依頼人の使いからアタッシェケースに入った金を受け取ると長居は無用とその場を後にした。
「さて、と」
街を後にして車を運転している男は路肩に車を停車させると、少し大きい端末を操作し始めた。その画面には何らかのカウントダウンが表示されており、そのカウントがゼロになった。それと同時に男が先ほどまでいた街の方から複数の爆発音が響いた。
「騙して悪いが、あんたら反政府組織も殲滅対象なんだよ」
先ほど仕掛けたダイナマイトは遺体を反政府組織が拠点に持ち込んだと同時に起爆するように仕組んでいた。発信機付きだったので起爆は楽だった。
「さてと次はアメリカで仕事か。依頼人は……スコール・ミューゼル、か」
男の名は「詐欺師(ハスラー)」という。東洋系の若者で一のためなら百を殺すのも厭わない危険人物である事以外は不明の男。
というわけで、名前はハスラーになりました。でも、エヴァンジェも何らかの形で出そうと思います。