天竜王におれはなる!   作:リリーカーネーション

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第一話 原作にかかわらなければ勝ちだった

 

 

 ある日、目が覚めると俺は天竜人になっていた。

 

 

 何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった。ただいつも通り寝て起きてみただけで、それまで慣れ親しんだ天井は消え、体は縮み、ベビーベッドの上で巨人と見まごう女にオムツを替えられ、昼過ぎに現れた両親らしき男女のその奇怪な衣装を見て「あ、ワンピースの天竜人だ」とようやく落ち着きを取り戻しつつある。

 

 とはいえ正直大混乱の真っただ中。

 

 なんだろう。つまり、これは、いわゆる転生と呼ばれる現象なのだろうか。しかも神様転生というヤツ。

 もちろんばかばかしいとは思う。霊的存在なんて荒唐無稽だし、信心深くはないし、そも神なんぞに出会った記憶も無いが、心当たりが一つ。

 

 というのも昨日おれが願った状況そのままなのだ。

 昨晩夢に落ちる一歩手前で確かに「あ~、ワンピースの天竜人に転生してぇ」とか考えてた。いや、だからって叶うとも思ってなかったし、実際叶ってしまい後悔してる自分がいる。

 

 

 

 とりあえずまた願ったら帰れるだろうか?

 拝啓、神様聞こえてますでしょうか。確かに転生したいとは思ったけど、口にまでは出してないんで正直ありがた迷惑というか、ただの妄想願望でした。できることなら戻してください。

 願ったものの変化はない。どうやらクーリングオフは無理らしい。

 

 

 

 なんでそんなこと考えてしまったかといえば端的に権力が欲しかったというか、上流階級への憧れというか、命令ひとつで他人をこき使えるとか絶対気持ちいいだろうなとか、そんなモンである。というかぶっちゃけただの愚痴に近い。

 

 というか単におっぱいが揉みたかっただけだなんだよね!

 

 前世において「人間らしい生活」と呼ばれるものがどうにも俺には合わなかった。

 真面目に働いて金を手に入れても欲しいものが特にないのだ。自動車とか家とか家族とか子供とか全く興味がなく、強いて言えば面倒のない異性が欲しい程度。これで性欲までなかったら生活保護ニートを心置きなく楽しんでいただろう。

 

 とはいえおっぱい一つ揉むのに金をかけるのも時間をかけるのも声をかけるのもあほらしい。

 

 「これが中世貴族とかだったら問答無用で好みの町娘攫えるのに」とか願望垂れ流しでザッピングしているとワンピースの再放送が目に留まり、そこがちょうどシャボンディ諸島編だったのが運の尽き。不細工でキモくて鼻たれで根性のひん曲がったアホというおおよそ好かれる点の無いチャルロスなる人物が天竜人という肩書だけで好みの女を嫁にし飽きたら捨てて天竜人というだけで支給される莫大なお小遣いで美麗な人魚を購入しかける光景を見て「俺の望みはこれだ!」とストンと胸に落ちたのだ。つまるところ俺の倫理観とはそんなものであり、これ以上聞きたくないならば引き返すタイミングは今だろう。

 

 かくして俺は三日ぐらい「前世に戻して!」と内心唱え続け四日目の朝を迎えた時点でもうどうしようもないのだと悟り現在は絶望の淵にいるといっても過言ではない。きっと俺は生まれたばかりなのに死んだような眼をしていることだろう。

 両親は抱き上げた我が目を見て固まってしまった。つまりそういう事である。

 そんな不吉な子に授けた名前は「レリエル」。我が名はレリエル。夜の天使とは大層な名前である。チャルロスじゃなくてよかった。

 

 

「医者! こ、これはどういうことだえ!? ベイビーの目がなんというか⋯⋯死んでおるえ! 光がない! これ死体の目だえ!」

「赤子とは泣くものと聞いてたのに泣きもしないアマス。まあそれはイラつかなくていいのでアマスが、これひょっとして病気アマスか!?」

「えぇ⋯⋯。いやぁ、これは多分⋯⋯ただの生まれつきだと思われます。はい」

 

 

 上から父、母、医者の順にコメントいただきました。人間性がにじみ出ている。あと医者くんは怪訝そうな顔で何度もライトを目に当てないで欲しい。ちゃんと見えてるから。

 

 なお願ったのは天竜人の身分だけであり転生に付き物とされる覇気やオリジナル悪魔の実などのチートとは残念ながら縁がなく、戦闘能力に関しては一般人もいい所どころか、前世の性能を引き継いでるならば成人しても喧嘩慣れした子供にすら軽くひねられるだろうことは間違いない。冗談だと思うだろうがことワンピースにおける戦闘能力に年齢性別は無関係なことはモンキー・D・ルフィが未だ二十歳未満で無双していることやビックマムの過去回想から明らかである。

 女だから強くなれないとはなんだったのか。くいなが不憫でならない。

 

 だが今となってはくいな以上に自分の身の上が不憫だ。

 

 確かに願った、なりたいと。

 チャルロスのように愚鈍で厚顔無恥な横暴を働き美しい女と大きな乳房(ちぶさ)をこの手に抱き酒池肉林の余生を過ごしてみたいと思うのはもはや男のサガでありこれを否定できるのは修行僧かタマタマなんかいらない余程の聖人君子だろう。

 

 しかしあらゆる特権階級が次第に腐るのは世の常であり前述した横暴すらはや数百年におよぶ天竜人の歴史におけるほんの一ページどころかありふれすぎて記述すら端折られる日常茶飯事になってしまっている。

 そんなものを一般市民が愛すべくもなく世界秩序という崇高な理念で始まった天竜人という一族は現時点で恨みつらみのブラックホールと化している生きる破滅フラグ。

 

 

 ワンピースとは海賊をテーマにした漫画であり当然ながら主人公も海賊稼業に手を染めている。と言っても少年誌なので勧善懲悪の体裁を保ち場合によっては他海賊に乗っ取られかけた国家を救い差別を廃止し種族を超えた友情やハートフルなストーリーを20年あまり見せてくれている。

 不正不平差別暴力圧政等々あらゆる困難をはねのけ巨悪に正義が勝つというのは使い古されても王道として万人に受けるものであり、もちろん20年引っ張った少年誌が最後の最後で「勝てませんでした」なんてのは大ヒンシュクもの。当然最後は勝つなんてことは誰だって想像できるのだ。

 

 でも俺、天竜人(巨悪)なんだよね。

 

 権力とは後ろ盾があってはじめて機能する物であり、腐った天竜人を許す体制そのものが既に腐っていてこれが少年誌掲載である以上主人公に潰されるのはもはや既定路線。

 そうなれば数百年分の恨みつらみが利息までつけて叩き返されてしまう。

 目に見える泥船なんて乗りたくはない。

 が、主人公を倒せるほど強くもなれないし、なりたくもならない。誰だって痛いのは嫌だ。

 

 

 となればどうするか。

 

 まあいずれ滅ぶといっても『原作』が開始されてからのことであり逆説的にそれまでは何をしようが政府は磐石吉日大安泰で俺も横暴が働けるどころか死ぬまで遊び惚けられる可能性もある。

 そう、原作さえ始まらなければなにも不安がることはないのだ。不安がったところで所詮赤子にできる事とか無い。ならば当初の願い通り楽しんだほうが建設的である。

 

 むしろせっかくここまでお膳立てしてくれたのだから楽しまなければ罰当たりというもの。きっとその旨も理解してルフィの生まれる100年前あたりに転生させてくれたかもしれない。いやきっとそうだ。

 

 神(仮)は言っている。ハーレム王になりなさいと。

 美人の奴隷を買って、埋もれる程の乳を侍らせる。

 この世界には巨人族もいるので誇張なしで山のようなおっぱいが堪能できてしまうのだからやらない手は無いだろう。

 惜しむらくは巨女人魚姫ピンク髪でCVゆか〇のしらほしと絡めない事だが確約された身の破滅に比べたら諦めもつく。

 それに居ないとも限らないのだ。しらほし以外の巨大人魚。

 

 探せ! 巨乳美乳貧乳(このよのすべて)はそこらへんに置いてある!

 刈り取れぇっ!

 世はまさに大ハーレム時代!

 

 なんだかそう考えると一秒でも早く大人になりたい。人が言葉を発するのはいくつからだろうか。せめて自立歩行が可能な3歳程度。とっとと窮屈なベビーベッドから解放されてお外に行きたくてしょうがない俺はなんとかジェスチャーを交えて意思疎通を試みた。

 

 

「あぶっぁ、ばぶばぶばぶ⋯⋯。 ⋯⋯ど、どりぇい! どりぇい!」

「むむっ! 今この子、奴隷って言ったアマス!? ⋯⋯もう買い与えるべきアマス?」

「いやまさかそんなはずは。まだ生まれて間もない赤子ですよ?」

「何を言っているえ。ベイビーはわちきの子供え。赤子だって喋るに決まってるえ。下々民とは違うんだえ」

「それもそうアマス」

「えぇ⋯⋯」

 

 

 子供が最初に喋った言葉かそれをスルーした親馬鹿に隠しきれない困惑と嫌悪感が出てしまった医者をしり目に俺は父に抱き上げられた。

 

 

「それでは奴隷を買いにいくえ」

「ばぶー!」

 

 

 わぁい奴隷! レリエル奴隷大好き! 前世じゃ禁じられてたからね。一回買ってみたかった。

 

 

「ちょっと待つアマス。 今日はこれから処刑ショーを見る予定。そのためにわざわざこんな東の海(イーストブルー)くんだりまで来ておいてどうするアマス」

「ぬ? むむむ⋯⋯すまないベイビー。買い物はまた今度。それよりお前も一緒に見るえ」

 

 

 そう言って俺を抱いたまま父は部屋の窓辺へ。

 重苦しい高級そうな赤いカーテンへ歩み寄ると、どこからともなく現れた兵士がサッとそれを引いた。

 差し込む日差しに目が痛む。

 なんだよ処刑ショーって。そんなのより奴隷ぇぇぇええええええええええええええええ!!!!????(エネル顔)

 

 ソレを見た瞬間、自分の中でナニカが音を立てて崩れ落ちた。

 眼下にひしめく民衆と異様な熱気の中心には不思議と目を引き付ける一人の男がいたのだ。

 父がつぶやく。

 

 

「といってもベイべ、処刑も大詰め、ちょうどもう終わりのようだえ。よかったえ。 それにしてもメジャーだかボイジャーだか知らんが政府に楯突くとは全く愚かだえ」

 

 

 何が「よかった」だ。なにも良くない。最悪だ。俺がエネル顔してるのに気づいて欲しい。

 その光景を一言で表すなら終わりどころか「始まり」だろう。というかアニメで100回以上見た気がするので、これから男が何を言うか全部知っている。

 

 富、名声、力——って、ここはナレーションか⋯⋯。

 セリフは——

 

 

(おれの財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世のすべてをそこに置いてきた!)

「おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ⋯ 探してみろ この世のすべてをそこに置いてきた」

 

 

 ⋯⋯ってちょっと違う?

 しかしそれ以外はおおむね一緒。

 ()が死に際に放った言葉は、人々を海へと駆り立てるだろう。

 この処刑こそ、数多くに海賊王という夢を見させ、大海賊時代へ舵を切らせた転換点。ある種主人公のルーツと言える、ローグタウンでのゴール・D・ロジャーの公開処刑。

 

 

 どう見ても原作イベです本当にありがとうございました。

 

 

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