天竜王におれはなる!   作:リリーカーネーション

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第五話+第六話 悪くなりたいわけじゃない

 

 

 三行で分かる前回のあらすじ。

 

 1、原作開始まで20年とわかる。

 2、テゾーロとステラに66兆2000億ベリーの借金を背負わせる。

 3、九蛇三姉妹が食べさせられる悪魔の実がなぜか集まる、俺の手に。

 

 結論。わりい、おれ死んだ。⋯⋯かも。

 

 

 左手から右手へ、右から左へ、ハンバーグでも作るようにそのリンゴ大の奇妙な実を弄ぶ。否、持て余していた。

 

 どーすんのよコレ。

 

 悪魔の実の大半はビジュアルが公開されていないので図鑑にないこの実がなにか、本来は分からないのだが同時に手に入った二種類のヘビヘビの実の存在と俺が天竜人でありそれらをマリージョアに保管してるのを踏まえると、このハート形の()()だらけな実は99%メロメロの実なのだろう。なぜかといえばそれが一番『原作』に向かうだろう組み合わせだからであり1%はエロエロの実の可能性だ。

 

 まだだ、まだあきらめんぞエロエロの実!!

 俺の夢は終わらねぇ!!

 エロエロの実を食べたエロ人間。超性感人間になってやる!!!

 超性感人間ってなんだ!?

 

 いっそ食ってしまおうかとも考えたがメロメロだった場合手が付けられないので断念した。ハンコックがエロエロった場合は原作大崩壊は避けられないがそれはそれでいいのでとにかくヨシ!

 

 

「⋯⋯エル聖。レリエル聖。劇場に着きましたよ」

 

 

 思考の中で右往左往してると多少くぐもった御者の声で呼び覚まされた。着いてしまえばしょうがない。九蛇がいつ来るか分からない今、立ち止まっている暇はないのだ。

 悪魔の実を懐に仕舞い、八頭立ての馬車ならぬ()()()()()()()()から舞い降りる。

 空いた手に鎖をもって。

 

 

「それじゃ行こうか——ステラ」

「⋯⋯はい」

 

 

 浮かない顔のステラ君。

 それも当然、繋がれる先は美女の首の破壊輪こと悪名高い爆弾首輪である。

 ごめんね。飼い犬に()()()は常識だし、俺にも世間体というのがあってだね。もう少しの辛抱だ。けっぱれ!

 

 俺は手綱を引き、陰気な中古劇場へと足を進めた。

 

 中に入れば歓迎より先にまばらにいる従業員が気付いた順に床に膝をつく、いわゆる「ひざつき」の態勢に入り一心に目を合わせないよう顔を伏せた。

 海軍、魚人島、マリージョアくらいしか行き来してない俺にはいささか新鮮だが、そういえばこれが当然なのだ。触らぬ神に祟りなし。黙して服従を示し、嵐が過ぎるのをただ待つばかり。無駄な争いを避けるため関わり合いにならないというのは賢い選択だろう。

 

 俺がスポンサーでなければな。

 時間給なのになにサボってんだ。バスターコールすっぞ。

 

 若干苛立って責任者を目で探すと、不意に硬質な靴底が床を叩く音が鳴る。古時計の秒針が動くように一定のリズムで、指を鳴らす裏打ちまで添えた簡素なBGMが無音の闇を切り裂いた。

 発生源は舞台袖。

 そこから一人、照明も音楽も衣装も無しに歩み出る。膝をつく有象無象は神をも恐れぬ行動に恐怖するばかりだが、その姿は華もないのに堂に入っていた。一目見ればだれもが分かる、理解する。

 

 

 ()()が主役だ、と。

 

 

 センターで立ち止まった青年は少し溜めてから腕を振り上げた——

 

 

「イッツァ——ショータァイム!!」

 

 

 始まるのは1人舞台。伴奏もなければ光も当たらない。誰に引き立てられることのないソロプレイ、と文字にすればリハーサルにも劣る地味さだろうが、芸術に疎い俺がなんとなく眺めてるまに気が付けば半刻も見ていたのだから、なるほど「魅せられた」のだろう。

 

 それはギルド・テゾーロに舞台を与えて2週間ほどの出来事だった。

 

 

 テゾーロの舞台適正高すぎだろ!

 

 

 正直なぜレア人種でもないステラを自由にする金が稼げなかったのか不思議なくらいの才能と恐怖を感じたが冷静に考えると場末の飲み屋でこれやられてもウザいだけでありこの空気感が受け入れられる劇場が街のチンピラに舞台を貸すかといえば否なので当然と言えば当然な埋もれかたをしていると言える。

 

 とはいえだ。世界一のショーには程遠い。()()()()()を今一度睨みつけてからステラを引いてそこら辺の席に腰かけるとこの場唯一の足音がそっと駆け寄って来た。

 

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ど、どうだっ!?」

「うん、いいんじゃない? 薄々君の才能を感じてはいたが、ここまでとは思わなかった」

「才能⋯⋯? ⋯⋯期待なんてしてなかったくせによく言うぜ」

 

 

 いや才能があるのは知ってたんだよ。問題は百点満点に百万点出されたことだ。リハ独唱であの引き込まれよう、君ひょっとして覇王色の覇気持ってなーい?

 

 

「ともあれ、君がただの大ぼら吹きじゃないことは確認できた。謝罪しよう。劇場は見合ったのを用意する。人員(せつび)ももっといいのを手配しよう。それから」

「なあ、待ってくれ。 お眼鏡にかなったのならステラの首輪を外してくれ。約束だろ」

「⋯⋯三日だけだ。劇場からでるなよ?」

 

 

 馬に人参。テゾーロにステラの自由。いわゆるボーナス。

 カギを取り出すとひったくるように受け取ったテゾーロは悪趣味な首輪を外してステラと抱擁した。映画を考えると感動的な光景だ。邪魔しても悪いので奴隷車を走らせ早々に退散しよう。

 

 どうせ、首輪があろうとなかろうと、逃げられないのだから。

 車の中でほくそ笑む。

 

 

「うわぁ⋯⋯二歳児がしていい顔じゃないっすよソレ」

「あ、居たのクザン?」

「自分で乗せておいて⋯⋯! 最初っから居ましたよ! あんたが金髪美人のねーちゃん連れて来た時も、この悪趣味な車に奴隷をつないだ時も、なんだったら繋がれてる海賊(どれい)を連れて来たのもおれなんですけどねェ?」

「それはすまない。私にとってもはや君は片腕、一々自分に右手があるか気にしないだろう? ところでさっきのかわいいねーちゃんの顔は覚えた? 逃げたら犯罪者だ。捕まえてくれ中将」

「⋯⋯そりゃァ言われりゃしないわけにはいかないけども……それより、道中でステラさん?に言ってたの、あれマジですか。もし逃げたら」

「“もし逃げたら、きみとは何の関係もないその辺の誰かに何かして晴らすかもね”? ()()()だ。 そも逃げなければいい話、そもそもしっかり借金を返せば自由になれるんだ。なのに首輪まで外して超優しいでしょう?」

「⋯⋯()()もおれにやらせるつもりっすか」

 

 

 どこか覚悟したような声で確認をとるクザン。それを見て評判の悪い笑みが深まってしまう。

 

 

「フフフ⋯⋯! 安心してくれ。そん時はボルサリーノ君に頼むよ」

「——ッ!!」

 

 

 瞬間冷却、車内が冷蔵庫になった。

 オハラの件以来クザンの思う正義は揺れ動いている。が、それだけじゃない。サカズキとクザンの両極端を見て中庸を選ぶ男もいる。それがボルサリーノ。

 掲げるは「どっちつかずの正義」と、要は命令には忠実に任務には私情を挟まず言われたことをこなし、たとえ相手が恩師()だろうが潜入捜査中の部下(X・ドレーク)だろうが職務遂行するという覚悟の決まりきったモノ。X(ディエス)・ドレークは泣いていい。

 

 もっとも俺の関与でどうなったか知らないが、反応から少なくともボルサリーノなら()()のだろう。

 

 君は肝心な時に動作不良を起こすからね。二度はごめんだ。

 

 

「⋯⋯おれ、あんたのこと⋯⋯少なくとも奴隷とかいう悪趣味なものには興味ないと思ってました⋯⋯」

「興味がないと言えば嘘になる。だが別に好き好んではない。すべては目的の為。完済したら彼らだって自由にする。本当だよ」

「⋯⋯信じますよ? もう降りられないんだ、せめて信じさせてください。 ⋯⋯逃げるなよ、ねーちゃん」

 

 

 逃げないさ。だって、彼女は劇場版ヒロイン(ステラ)なのだから。

 

 

「じゃあ、次の悪巧みでも始めようか? 走る車の中ほど秘密に向いた場所もない」

 

 

 

 それから二年。レリエル四歳。全ては何事も無く順調に進んだ。シャボンディから始まったテゾーロの公演は当然成功し今やグローバルに展開され、魚人島使節団は少しずつ日常へ溶け込み今や島に海軍宿泊用の施設がある。なお海軍基地は建ててないのでまだ守っているわけではない。

 それが理由か半年前には原作通りに白ひげが島を縄張り宣言した。

 

 いや何勝手やってくれてんの白ひげ君。原作より治安良かったじゃん。知らんけど。

 

 まあ神の目ビフォーアフターできるのは転生者ぐらいなので彼からすれば原作もクソもない。海軍が働いてないと思えばそうなのだろう。彼の中では。

 

 だからって「はいそーですか」と手を引く俺ではない。何のためのクザンとゼファーだと思っているのだ。クザンは不用意な争いは起こさない人情派。ゼファーは今や逮捕より後続育成に力を入れているのは確認済み。

 というわけで白ひげ傘下は見なかった事にする方向で演習続行となった。もちろん道案内兼売名として奴隷解放も行っている。

 

 それに対し「海軍が海賊を見過ごすなどメンツに関わる!」等々反対意見が挙がったが、俺知ってるからね?

 海軍が裏でドフラミンゴから武器買ってたり政府が百獣海賊団に巨人兵士の失敗作横流したり結局四皇の一勢力に海軍本部だけじゃ力が足りず七武海の協力を経てやっと同等レベルなのでどの道見過ごすしかないの俺知ってるからね?

 

 いつも平気でやってる事だろうが! 今更御託を並べるな!

 

 

 しかし以降の魚人島演習に俺の姿はない。地上でいつハンコックが来るかわからない為である。

 とはいえそれも今日までの話。

 

 なんたって、今や目の前にいる。

 手足、首に鎖をつけられた三人の子供。黒髪の小柄な少女。それより少し高い、緑髪で頭身の低い少女とウェーブのかかったブロンドの少女。

 彼女らは人間屋(ヒューマンショップ)の薄暗い天蓋の下、ひしめく人買い達に恐怖しながらライトアップの上お立ち台で司会に指さされる。

 さあ、競りの始まりだ。

 

 

「それでは今日の目玉商品! それは男たちの夢。偉大なる航路(グランドラン)のどこかにあるという女しか産まれない女島出身。屈強な九蛇海賊団から命がけで連れてきた三姉妹、セットでの販売です! まずは3000万ベリーから!」

「5億で買うえ~~~!! 5億ベリィ~~~~~!!!」

「⋯⋯⋯⋯はい?」

「だ~か~ら~5億! 天竜人がそう言ってるの!」

「は、はい! 5億で決定! お買い上げェッ!!」

 

 

 即決即断のハンマープライス。競り終了。

 一般客はわざわざ天竜人に目をつけられたい訳もなく、乗り出してきた時点で一人勝ちは確定。出品されるオークションさえわかれば我々天竜人が買い逃すわけもないのだ。

 故に、アホな四歳児でも購入可能。

 

 

「やったえやったえ! 生まれて初めて奴隷を買ったえ!」

 

 

 俺は横にいる落札者へ拍手を送った。

 よかったな、チャルロス君。

 

「すごいよチャルロス君! おめでとう。九蛇なんて滅多に出ないのに、一発だなんて」

「むっふふふふーん! なんだかよくわからんが、珍しい「くじゃ」を買えたえ~! むふん!」

「ウンウンスゴイスゴイ、ヨカッタネーハイハイ」

 

 

 隣で小躍りする不細工でキモくて鼻たれで根性のひん曲がったアホというおおよそ好かれる点の無い天竜人のチャルロス——少年。御年四歳。

 覚えているだろうか、俺が転生した要因である彼だが、なんと同い年だったという。それを知った当時は背筋の凍るif(イフ)展開が脳裏を駆け巡り震えたが今ではこうして一緒に買い物に行く仲である。

 

 だから友情の印にハンコックをプレゼント——するわけもなく、原作との整合性を考えた結果、彼に一時預けたに過ぎない。いずれ返してもらう。そう遠くない未来に。

 今は幼いが、あの巨乳と美貌は絶対にハーレムに入れたい。絶対にだ。

 

 

 同日夜、マリージョアにて所有者問わず一括で奴隷を管理する地下牢へ向かった。窓からの月だけが照らす牢屋と言うよりもはや動物の飼育檻めいた箱を付き添いの持つランタンで照らし巡り、そして見つける。彼女たちの檻だ。

 鉄格子の奥、冷たい床ではハンコック以下三名が背を上にして呻き、浅くつらそうな寝息を立てていた。

 

 あちゃー、あの()()()。これは背中に焼き印入れられましたね。まったくチャルロスのアホめ。

 でも、それも色々都合がいい。

 

 

「それじゃあ、鍵を()()()くれ」

「⋯⋯⋯⋯やばいって⋯⋯こんなの⋯⋯」

 

 

 付き添いの男は誰か分からないよう全身が隠れる衣装に身を包みながら、手から溢れる冷気で牢のカギをアイスメイクする。おかげでチャルロスの奴隷牢に難なく侵入した俺は、取り出した薬を少女の背に塗り込んだ。

「ん゛ん゛——ッ!!!???」

 

 

 当然だがどんな妙薬だろうと焼けただれた皮膚には酷なもの。突如身を襲う激痛に覚ました目を白黒させ少女は反り返りながら悲鳴を上げるが、既に誰かを起こす力も鎖で繋がれた手足を上げる気力も残っていない。

 

 

「————ッ!!!!」

「おちついて。火傷薬だ。塗れば少しは楽になる」

 

 

 目算小学生の震える肢体。ええと確かルフィが17で旅に出て、ハンコックが10歳上で、今はその20年前の2年後だから⋯⋯ん?

 およそ9歳。成人でもショック死する激痛に激痛を重ねて尚生きているすさまじさはさすが将来の大海賊。いわゆる王下七武海(おうかしちぶかい)

 まもなくして苦痛にあえぐ彼女がこと切れるように眠りに落ちるが、その寝息はいくらかマシになっていた。これをあと二回やってから熱さましに素敵な氷をプレゼント。鍵を閉めて退散した。

 

 次いで翌日、今度は夕方。昼間チャルロスに方々見せびらかされたあとの三姉妹を訪ねるとハンコックが妹をかばい歯をむき出す。

 

 

「——ッ! 今度はなに!? 私たちになにするつもりなの!?」

 

 

 ⋯⋯あれ、「私たち」?

 ”わらわ”ってないつうか”のじゃ”ってないつうか⋯⋯未来の口調となんだか違うが元気そうで何よりだ。空元気だろうけど。

 夜は見えなかったが三人ともだいぶ泣きはらしている。

 

 

「⋯⋯別になにも。 それより背中はまだ痛む? 薬いる?」

「薬⋯⋯? ⋯⋯まさか昨日のはあなたが」

「さてね。 塗り薬ここに置いておくから。じゃあ」

「ちょっ、ちょっと待って! ここはどこなの!? ねえ待って!」

 

 

 薬を牢の前に置いてそそくさ退散すると、興味が恐怖に勝ったようだ。奥で震えていた彼女の鎖が檻にあたる音がした。

 プレゼント渡して即退散とはとんだ腰抜けじゃのうレリエル聖とか謗られそうだが物事には順序がある。今日はこれでいい。

 

 あくる日の牢。今度は遠目に姉妹の檻を眺め、生存確認が済めばまた踵を返し即退散。

 

 

「待って! ねえお願い、話を聞いて!」

 

 

 お願いならしょうがないにゃあ⋯⋯。

 踵を返し、互いに興味と警戒、鉄格子を挟みながら、触れられない距離で向かい合う。その黒い瞳には恐怖の色が濃いものの守るべきものがいるからか、強い意志を感じた。

 とはいえ本当に俺が来てくれると思わなかったのか、数分は沈黙していたが。

 

 

「⋯⋯ねえ、その、名前。あなた何ていうの? 私は⋯⋯ハンコック。九蛇のボア・ハンコック」

「そう。 ボクはレリエル。見ての通り天竜人だよ」

「⋯⋯てんりゅう、びと?」

「君たちの飼い主と同じ、この世でも最も高貴な一族のこと」

「”飼い主”って私たち動物じゃない! ねえお願い、お家に帰して!」

「それはできない、ごめんね、君たちを買ったのはチャルロスだから⋯⋯。 たぶんもう会ってると思うけど、こう鼻水を垂らした僕と同じくらいの奴」

 

 

 彼女もかの鼻たれを思い出したのか青ざめて震え上がる。すかさずハンカチを差し出すが、受け取られることは無かった。

 その日はもう喋れる体調には戻れなさそうだったので再々退散し、さらに翌日。

 

 

「やっほーチャルロス! この前買った九蛇の姉妹はどう? 面白い?」

「んぁーレリエル。それが聞いてよ。あいつら全然⋯⋯ズズ⋯⋯、全然いう事聞かないんだえ。どうしたらいいと思うえ?」

「うーんそっかー⋯⋯。そういうのは身近にいる、奴隷をうまく乗りこなしてる人とかに聞けばいいんじゃないかな。だれかいる?」

「ズズ⋯⋯、奴隷をうまく⋯⋯お父上様(ちちうえさま)かえ?」

「え、君のお父さん? 確かに躾が上手いって聞くね! そんな事に気が付くなんてチャルロスすごーい!やばーい!超すごーい!」

「むふっ、そうかえ? むふふん! そうかえ、凄いかえ? むふふーん」

 

 

 ちょっろ。

 

 同日、夜、地下牢。

 今日のハンコックは昨日より傷だらけで、なんだかとってもぐったりしていた。虚ろな目で呼吸するだけの姉を二人の妹が抱きしめている。きっとチャルロスに酷い事をされたのだろう。

 

 

「⋯⋯ハンコックはどうしたの?」

 

 

 ぼくが聞くと、すすり泣いていた二人はしばらくしてから責めるように、すこしぐちゃぐちゃな内容だったけど、なにがあったか教えてくれた。

 チャルロスに「しつけ」と称して鞭でうたれたのだ。しかも妹たちのぶんまで。

 首元に見つけた蚊にさされたようなあと。とどめに鎮静剤をいれられたに違いない。彼の親は、よく薬をつかうのだ。

 ぼくは何も言うことができなかった。

 

 翌日。

 

 

「おっはーチャルロス! 九蛇どうなったえー楽しんでるー?」

「黒いやつはいう事聞かない! 緑と黄色は泣いてばっかでうるさいえ! ねえレリエル、新しい奴隷買いに⋯⋯ズズ⋯⋯買いに行きたいえ。わちき人魚ほしい」

「ええ~、もう飽きたの? じゃ要らないなら貸してよ」

「んあ?欲しいならあげるえ」

「えマジで!?やったータダで五億手に入ったー。超レアな、しかも3姉妹セットだー。ウワ~まさかタダとはなー俺ナラモッタイナクテテバナセナイ。……モッタイナイ!……モッタイナイ!」

「う~、そう言われると何だか惜しいえ……。やっぱ貸すだけだえ」

 

 

 ちょっっっっろ。

 チョロチョロの実の盆暗人間か。

 

 


 

 

 俺の必死の交渉により何とか借り受けた三姉妹は、我が自室で用意したフルーツの盛り合わせを涙ながらに頬張っていた。

 

 

「姉さま⋯⋯姉さま、おいひい⋯⋯! おいひいよお⋯⋯!」

「ううっ⋯⋯うわ゛わ゛わ゛ぁぁぁ⋯⋯!!」

「二人とも落ち浮いて⋯⋯もっとゆっくり⋯⋯ぅぅぅっ」

 

 

 当初こそ警戒してたが今やがっついている。奴隷とはいえ使い潰し労働者と違い普通の食事は出ているはずだが、それでもむせび泣くか。まあ一番の要因は首輪以外の拘束を解かれた事だろうけど。

 それからしばらく部屋には二つの空間に分かれた。基本的に俺からの接触はなく、姉妹も姉妹で常に一定の距離を置いている。

 俺は決まって書き物。姉妹は置いてあるフルーツを勝手に食って腹を満たす静かな午後。そんな生活が続き、彼女たちの身動から「背中の痛み」が消えた頃。遂にハンコックから声がかかる。

 

 

「ねえ今さらなんだけど、あなたは何のためにこんなことを? ⋯⋯ここの人たちはみんな酷い。でもあなたは⋯⋯何もしてこない。 薬といい、なんのために」

 

 

 場所がどこかだとか、帰らせてくれとか、薬はまだあるかとかでない。それは明確に()への質問だった

 

 

「なぜ優しくされるか、知りたい? どうしても?」

「そ、そうよ」

 

 

 愛の反対は無関心だという。関心がすべて愛になるわけではないが、無くてはなにも始まらない。

 そして今俺は関心を持たれた。0は1に変わった。長かった。面倒だった。それもこれも原作崩壊を防ぎながら女だけぶっこ抜いてハーレム作るとかいうよく考えなくても矛盾した夢の為だ。

 

 これでようやく唾を付けられる。⋯⋯スタートラインが遠いなぁ。

 

 だが抑えるべきは抑えた。

 

 奴隷時代の経験から男嫌い、世界政府嫌いのハンコック。その背の忌まわしき印をルフィは見てしまい、男子禁制も合わさり死刑になるも、彼の思いやりに触れた結果ハンコックは惚れ、彼の兄救出および2年間の修業に協力する。

 ルフィの女ヶ島訪問がこちらで操作できない以上、この流れは必須。

 

 あとは島の掟を破るのにルフィに惚れるか俺かの二択というだけの話。

 

 

「それは君たちがアマゾン・リリー出身だからだよ。あの島にはすごく興味があるんだ」

「興味⋯⋯⋯⋯? ⋯⋯ッ! まさか私たちの島に来てみんなも攫う気!? させないわ! 絶対に場所は教えない!!」

「ん、なにか勘違いしてないか?」

 

 

 海賊になるような女を奴隷と天竜人でどう気を引くのだと思うかもしれないがそこは彼女らの文化を使う。

 はてさて、男のいない過酷な場所で女はいったい何をもって美醜を決めるか。気にならない?

 

 

「ボクが興味あるのは覇気(はき)だよ覇気。纏わせれば矢で石を穿つという」

「覇気⋯⋯? う、うそ! あんなもの誰だって使えるじゃない! 騙そうとしても無駄よ!」

「⋯⋯それが誰でも使えるのはたぶん君の島だけだとおもうよ? ボクが知る限りあれは大人でもそうそう身に付けられないものだし」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯本当なの?」

「疑うなら、覇気の事だけ話せばいいじゃない」

「それもそうだけど⋯⋯。じゃ、じゃあなんで必要か教えて。 ここにいるたくさんの人たち。あ、あんなにひとを従わせて、これ以上どうして強くなりたいの」

 

 

 答えは『強さ』。屈強こそ優れ強者こそ美しい。そして最強が皇帝になり海賊団を率いるという生粋の戦闘民族にモテたいならば⋯⋯

 なんだ、簡単じゃないか!

 

 

「ボクたち天竜人は、生まれながらに王なんだ。いや神様とさえ言える」

「⋯⋯だから、なに。 あ、あぁ、あの鼻たれも言ってたけど、てんりゅう人というだけで酷い事していいと思ってるの!? なんのための王様よ! 九蛇はね! 皇帝はね! 偉いけど。偉いんだけど、みんなのために戦ってくれるのよ!」

 

 

 はぐらかされた挙句の傲慢な話にハンコックは震えながらも、その白い手を血の気が引くほどに握り込む。血統より実力で成り上がる部族には到底許しがたい暴挙の応酬にその気は立場すら忘れて吠えられるほど高ぶっている。

 つまり、興奮。

 

 

「じゃあ同じだね。ボクも君たちの王と同じように戦いたい。だから知りたいんだ」

「戦うって、誰と!?」

「神だよ」

「か⋯⋯み? それってつまり——」

 

 

 時に、一人でも成してみせたテゾーロの舞台。ただ青年が歌って踊るだけのソロプレイになぜ引き込まれたのか、俺は考えた。思い返せばやはりショボいような気もする30分。しかし「魅せられた」のはなぜか?

 それは存外俺もワクワクしていたから。映画で見たキャラが生き生きと動く様に期待して。

 要は観客として出来上がっていたのだ。

 

 さてハンコックにぐっと注目されたところで——イッツァショータイム!!

 

 

「天竜人がおかしい。それは知っている。王としての義務を捨て今や権力の豚だ。 だから強くなりたい。主神になるため。 神を正せる力が欲しい!!」

 

 

 私が天に立つ!

 

 当然、突然のクーデター宣言に気圧されるハンコック。この場においてこれ以上のインパクトもないだろう。それが目的。本当はそんな気ないし。

 

 今回はあくまで「唾をつける」だけ。それ以上でも以下でもない。ないとは思うが今惚れられてもそれはそれで彼女の命に関わってしまう。

 そう、死に至る恋煩いで!

 

 美しいからなにをしてもいいと前を遮る子猫と子犬と子アザラシを蹴散らすような高飛車で高慢ちきな女が恋を知った途端超しおらしく従順な初恋少女(27)になるとかいうサンジの「女湯!」やフランキーの金玉騒動で笑ってる小学生視聴者には直視し辛い属性をブチ撒けお茶の間を凍らせた彼女であるが、男子禁制の島の頭なのに男に恋したことで責務と情動の板挟みになり意中の相手が出国してしまいそうになると息も絶え絶え文字通り恋の病で死にかけるという結構難儀な存在だ。まあそのギャップがいいのだが。

 しかしなぜ熱帯っぽいリリーに子アザラシが……?

 

 

「まあ、無理強いはないよ。断っても君たちにはなにもしない。チャルロスのだから自由にはできないけど、できるかぎりの事はしよう」

 

 

 という訳でこの奴隷地獄で唯一安住の地を提供し爆弾発言まで残した俺が記憶に残るのは決定的に明らか。覇気のレッスンなど些事でしかない、が……

 それはそれとしていち読者としてメッチャ気になるんだよね、『覇気』。

 

 

「……もし、もしも教えたら、逃してくれる?」

「だからそれはできないって。首輪の鍵はチャルロスが持ってる。ボクにできるのは君らを借りることくらいだ」

「そう……」

 

 

 しかしあまり期待できそうにないな。あって困るものでもないし「今度ゼファーに習おうか」とか考えていると、俯いていたハンコックが妹達の方を見る。

 

 

「教えても……いいわ。でも条件がある。 覇気の練習なら家の外、森なんかがいいけど、あの子たちも一緒でいい?」

 

 

 願ったり叶ったり。

 姉妹ということは残る2人も巨乳遺伝子を持っている。当然お近付きになりたい。

 ところで将来的にハンコック2mの妹5mくらいの身長だった気がするが、同じ遺伝子でなんでそんな差が出たのか結構気になる。あれか、やはりちゃんこ鍋か?

 

 

 という訳で運良くも将来の巨乳3人に「ドキ!ほぼ肌着みたいな軽装。女だらけの覇気習得大会!!!」を開いてもらった俺は、まずは体力づくりだと聖地マリージョアを囲む人工の森の中を駆け巡っていた。

 

 

「ハァ——ッ! ハァ——ッ! 腹痛てェ……ちょ、ちょタンマ……! もうっ……走れないっ……! げっほげほ!うェ——うぉろろろろ」

「……だ、大丈夫?」

 

 

 美少女達と追いかけっこするだけで覇気が目覚めるかよとも思うがそこはほら転生者だからこの身に溢れんばかりの才能がありそれがひょんなきっかけで開花しようにもご飯が美味しすぎて贅肉に埋もれたというか()()や船ばっかで歩いてないのが祟ったというか歌って踊れないタイプのFUNK(ファンク)になりかけてたというか運動嫌いっつうか。

 

 現状、大地を背に蒼天を見ゆ。

 体のあちこちは軋み、喉からは風呂場のアヒルみたいな音がする。

 

 もぅマヂ無理。覇気とか諦めた。ちょぉ大好きだったのに……

 

 あまりの体力のなさにハンコックを抑え俺にすら恐怖していたはずの妹達までどうして良いやらわからない視線を向けてくる始末。なお一番困惑してるのは俺自身だ。

 

 

「あの……だい……じょうぶ……です?」

「ね、ねえ様どうしよう……!? この人死んじゃう……!」

 

 

 死なねェよ。

 どうしよ。遂に心配されてしまった。たかが走り疲れたくらいで俺の死に場所だって決められてしまった。

 ここは俺の死に場所じゃねェ!!! しかし言い返す元気も酸素もない。

 

 おかしいな。疑わないこと、それが強さだって言うから武装色、武装色硬化、黒刀生成くらい余裕だと思ってたのに芝のにおい染みついてむせるだけじゃないか。

 

 

「あの、立てます? 手を………ど、どうぞ」

「げっほげほ、あァ、ありがとう……げっほ……。 そういえば、君の名前は?」

「私はサンダーソニア……せ、背中さするね?」

 

 

 もう向こうから接触してきたどころか完全に要介助者の扱いである。哀れみである。恐怖と警戒がないのを喜べばいいのか、これもうわからんね。

 肩まで借りて立ち上がるとハンコックを確認。その顔はどう見ても呆れ顔だ。無表情に近いが目がそう訴えかけている。それもあれはもう養豚場の豚を見る目である。あながち間違ってない。

 

 くそう……このままでは計画が……!

 

 原作の為に自由奪って焼印入れてトラウマ入れて、その上で俺にヘイトが来ないようチャルを唆して所有権まで与えたと言うのに。ここで完全に興味を失われてはこの後事故で悪魔の実を食わせる為に餌付けしているのも全てが無意味だ。

 

 笑っている膝を殴りつける。

 一つ、教えてくれないか。なぜ、私より先に笑う?

 嫌だぞ、俺は。こんな事で合法化した一夫多妻を諦めてなるものか。せっかく努力に見合うお宝があるのだから、取らないバカはいないだろッ!!

 立てッ、膝!!

 

 

「ふぅ……ふぅ……待たせてすまない。さあ、続きを——ふぎゃん!」

「ああまだ歩いちゃ——きゃあ!」

「わぁッ!? 顔から転んだ!」

 

 

 一歩踏み出し、盛大に転んだ。否、立てなかった。ソニアを離した瞬間のしかかった体重についていけない。

 こんな……! こんな情けない事があるのか……!?

 

 10分追いかけっこしただけだぞ!?

 

 長編漫画の修行編みたいな空気なのに! どんだけ運動してなかったんだ俺は!?

 一応、首に重めのノーパソくらいの重りをつけて木の上をピョンピョン飛び回っていた姉妹もすごいが、思えば座りっぱなしの4年間だった。ポテンシャル以前にサボり抜いていた所為だ、完全に鈍っている。

 

 だがまだ俺はあきらめ

 

 

「……教える以前の問題な気がするわ。頭痛がしてきた」

 

 

 なんでそんな事言うのハンコックさん!? 心が折れちゃうでしょうが!!

 

 

「はっきり言って、今のあなたはアマゾン・リリーのどの子より弱い、絶望的に。ふぅ……。 いい? 覇気っていうのは心と体、両方の力よ。内にあるそれを鎧みたいに纏うの。 ……これで「教える」という約束は守ったから、時間まで好きにしていていい? それともここで見てて欲しい?」

「……是非もなし」

「そう、……気を使ってくれた事には感謝してる、色々と。 ——マリー、ソニア、行きましょう」

「ああ待ってよ、ねえ様!」

「ねえ様! え、えと、いいの……かな……」

 

 

 ヤメテ! これ以上憐まないでソニアくん! 

 しかし、なんとなく身に染みた。覇気の難度。

 

 2年()編、そのうちメリー号に乗っていた期間は一説にふた月未満とされるもその間に身長が倍になり()()から海軍曹長にまで登ったコビーからして「実は覇気って簡単なのでは?」疑惑を生み相対的に俺の中でほかモブ海兵の評価を落としていた彼であるが今やその説は覆った。

 あいつめっちゃ才能あるわ。身体能力の伸びとか、六式体得の速さとかサイファーポールか。というか半年経たずに身長倍とかバケモンかよ。

 

 物語のインフレにより初期キャラ、特についドンキホーテと比べてしまい過小評価されがちなバロックワークスの面白エージェント達がいかに恵まれた人材かわかった気がする。そういえばザコ海兵だってそんじゃそこらの海賊には恐れられているのだ。

 

 逆説的に、幼少から『覇気』が使えるアマゾン・リリーの方がイカれてる。あいつら海兵にできないかな……?

 

 なんであれ致命的な問題が露見してしまった本作戦だが、ワンチャンこのあと鍛え続けたらルフィみたいになるかもしれないので続行する。

 

 例えハンコックに見られずとも、

 

 

「ひぃ〜、ひぃ〜、腹が……痛、痛い……」

「れ、レリエル聖! どうか奴隷にお乗りください、転んでしまいます!」

 

 

 雨の日も、

 

 

「かひゅー、かひゅー、ぜーはー、かひゅー」

「見つけた! レリエル聖がまた倒れておられるぞ! 早く医者を!」

 

 

 風邪の日も、

 

 

「……今日は外に行かないの?」

「……筋肉痛」

 

 

 たまに本気で体が動かなくなる時以外は走り込んだ。

 少しづつだが体力が改善されるのを感じる毎日。それでも彼女達との差は明確であり、時折様子見に来るソニアとマリーは汗一つかいてない。

 

 

「だ、大丈夫? これ、お水持ってきたから飲んで?」

「ありがとう。でも、無理。溺れる——うぉろろろろろ」

「あ〜あ〜、見てらんない。もっと食べて肉つけないと」

 

 

 なんか一周回って妹ズとの距離感が縮んでいるが、肝心のハンコックの眼中に入らないと最悪強権発動原作度外視で一生俺の奴隷としてしらほしにバレないようどこかで幽閉しなければいけなくなってしまう。

 

 

 俺は諦めんぞ。しらほしに振られたらそん時はそん時だとか言ったが、それは目的の為に手段が選べなくなる、つまり「なりふり構わなくなる」という事だ。

 

 人権? クソ食らえ。 俺は天竜人だぞ。

 

 ここがアニオリ世界線であればペトペトの実も辞さない所存。メモメモの実による記憶編集。殺してカゲカゲ。オペオペで中身を替える。SMILEを食わせてからキビキビコンボと、心を消す方法はいくらでもある。

 

 

 一部は既に登場キャラが食ってる実だが……能力者から能力を奪う方法にある程度()()()はついてる。

 

 

 とはいえ嘘を隠すのは面倒なのだ。だから、させないで欲しい。

 レリエルさんは裏表のない素敵な人でいたいかな。






あとがき
※作品に関係あるようでなさそうな話※
大変遅くなりました。そのかわりの倍化です。纏められなかったともいう。
幼少ハンコックの口調ですが、全ては原作で「のじゃ」ってないコマを見つけたことから始まった⋯⋯

次回は番外編の予定です悪しからず。

追記
ハンコックの年齢ですが正しくは今12歳の原作開始時29です。これはレリエルの記憶ガバとかでなく素で勘違いしてました。お恥ずかしい限りです。いやほんと恥ずかしい。
しかしレリエルの知識も完璧でない(特に時系列関係)ということでそのままにします。
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