天竜王におれはなる!   作:リリーカーネーション

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 まえがき
これ書いてる時に弟とキャラに合うBGMの話になった

レリエル
 笑う金剛童子
 Battle-b8
 Battle -dancing crazy murder-
 星条旗のピエロ

ネジ
 トロピカル無職 (本人談)
 走れ!走れ!それ走れ! (俺イチ押し)
 輝く針の小人族


 合うかどうかは人次第。




第九話 そしてだれも勝てはしない

 

 

 

三行で暴露する前回の悪行。

 

1、魚人島を買った。(買ってない)

2、白ひげに喧嘩を売った。(売った)

3、ハンコックに一服盛った。(盛ってない)

 

あと、なんか、色々あって、ハンコックにキスをした。

決戦前のキスって死亡フラグじゃね?

 

 

 うるせェ!!! 逝こう!!! (ドンッ!)

 

 

 状況を整理しよう!

 魚人島の占有権と利権諸々を欲していた俺は同時進行で体を蝕む九蛇流のシゴキ(大人用)という劇薬から逃げるため札束で新聞社を殴打して「魚人島は俺の物!」という白ひげに真っ向から喧嘩を売るセンセーショナルな誤報を流布しつつ何も知らない屈強な兵士数名に数多の雑兵と可愛い三姉妹を従えていつもの演習航海に見せかけ白ひげに先んじて上陸し政治的優位性を確保していた。

 大事なことなのでもう一度。戦力は3人だ!

 

 それから3日。港に艦隊(くじら)が乗り上げた。

 

 

「なあクザン。白ひげ海賊団って何隻編成だっけ?」

「あー、確か本隊が4隻で傘下が……たくさん?」

「じゃあ本隊だけだと何人?」

「最新の情報だとォ……千……1500ちょいですかねェ……」

 

 

 なるほど。実質500対1か。燃えてきたな!

 

 

 ……すんません嘘言いました。

 やはりと言うべきか小説のように転生したからと言って性格がガラリと変わるような事があろうはずも無く小市民の心臓には悪い光景だ。

 

 

「今からでも謝りますかね。ほらァ、『誤報』だし?」

 

 

 そんな内心を読まれてかこともあろうに全て無に帰す提案をするクザン。それはそれで一見最もらしいが

 

 

「違うなクザン。間違ってるぞ。我々はもう勝っている。これから起こるのは事後処理。あわよくばボーナスタイムだ」

「へぇ……? そりゃまた初耳だァ」

 

 

 だって言ってないもん!(伝家の宝刀)

 

 ついでにこれはテストでもあった。

 私が本気で策を弄した時、邪魔になるのは誰か?

 

 答えは〝誰も〟

 

 読心(オトヒメ)対策にその殆どを地上で済ませたのが奏したのか終ぞ何人(なんぴと)も邪魔立てせずに今日という日を迎えてしまった。

 振り返れば、状況の再計算でもしているのか思いふけるクザンにいつも通り寝ぼけたような表情のボルサリーノ、そして“正義”に駆られたゼファーの顔。全く頼もしい連中だ。

 

 皮肉ではない。傾向を見るためのテストだ。

 海兵(きみら)は戦争をスポーツか何かと考えているフシがあるが俺はフェアプレーが嫌いなんだ。イカサマの無いギャンブルはギャンブルではない。

 

 

「お言葉ですが……戦争は賭け事ではありません」

 

 

 いいや同じ、作られた狩り場にカモが来る。

 ではカモ(ゲスト)を迎えよう。

 

 クザンがな。(いつものパターン)

 

 ついに「来い」とも言ってないのに危険で過酷な魚人島演習に無理やりついて来るほど人一倍〝課題〟や〝困難〟が大好きだろう修行僧のような高潔で美しい魂を持った彼に出会い頭一発目で殺されかねない来賓の案内という大役はまさに適材適所。その感激たるや五体投地で床に頭を叩きつけかねないほどだったので思わずこちらも

 

 「大人が簡単に頭をさげちゃあいけないよ」

 「うるせぇついてきたのはお前だろ?」

 「自然(ロギア)系は死なねーんだからガタガタ()かすな」

 「関係ない。行け」

 

 等々、激励の言葉でその背を押さざるを得なかった。因みに自然(ロギア)系だって死ぬ時は死ぬ。彼の勇気には感服するばかりだ。

 そうして部屋が寂しくなる。

 

 

「……恨まれますよ」

「生きてりゃね」

「…………恨みますよ」

「それも、生きてりゃね」

「……レリエル聖?」

 

 

 ここでクザンが死ぬようなら俺も終わりだ。

 『天竜人』が偉いだけでその実おれは『弱者』であり分不相応を望めば相応のリスクを負うしかない。

 

 

「レリエル聖、クザンから入電です」

「繋げろ」

 

 

 重苦しい部屋に緊張が走る。言ってしまえばこの電話が全て。丁か半か、クザンかその他か、俺か白ひげ(ヤツ)か。この作戦の合否を決める開演にして終演の報せ。

 そして、聞こえてきたのは――

 

 

『――こちらクザン。あァ……異常事態?発生。なんか白ひげがガキに石投げられたんですけど……これも()()()なんですかね?』

 

 

 勝利の上のさらなる勝利。それは一つの時代の終わりを告げるCV子安(ひえっひえ)の困惑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、白ひげは英雄だった。

 ()()で荒れ果てていた魚人島、その国防を担った彼は、島民が手放しに信じたかもしれない唯一人の『人間』だった。

 

 しかし()は違う。俺の介入により先に海軍がその地位についた。いや、厳密にはそこまでの信用もないだろうが、少なくとも簡易的な平和は与えてやったつもりである。

 

 そこに後から()()は来た。少なくとも安定しつつあった治安の場所に、その敵たる勢力が、後からやってきた。

 

 

 ――紛争の火種を抱えて

 

 

「警察が犯人を捕まえても当たり前だが、取り逃せば叩かれる。太陽に感謝しないが、雨が降ると文句を言う。『親』は食わして当たり前、小遣いくれて当たり前――それができない海軍と白ひげは、なんて不甲斐ないのだろう……」

 

 

 人は「あたりまえ」に感謝しない。

 良かったな。魚人も『ヒト』というわけだ。

 

 

「だから、ありがとうゼファー。君らの頑張りが『誤報』をさらに『誤報』せしめた。誰を信じるか、何を信じるかで人は人を殺せる」

「貴方はッ、初めからこのつもりで()()使()()()のか!? ――レリエル聖ッ!!」

 

 

 仕事を終え死地から帰ったクザンを待っていたのはその顔をさらに青くさせる恩師の怒号だった。

 かわいそうに、わけわからんだろう。

 その顔が見たかった。

 

 ヒントは『内乱』 簡潔に言えば、現在ゼファーに()()をはめている。()()()()は困るからな。

 

 かわいそうに、(ゼファー)ももう二度と俺を信じないだろうが俺とていつ離反(ばくはつ)するかわからんイケおじ*1を飼う趣味はない。

 だから最も効果的に使い捨てる事にした。

 戻るならヨシ。

 爆ぜてもヨシ。

 爆弾は二度爆ぜないからな。

 

 

「食えないパンには毒を盛る。それがあなたの正義ですか……!」

 

 

 正義漢の奥底で狂犬が燃え上がる。義憤に駆られた独善が、背負う正義と理性の鎖を溶かそうと、ゼファーのはらわたで荒れ狂っていた。

 

 とはいえ?

 

 たとえ鎖が千切れても使えるに越したこともない。だからここにも毒を盛る。「止めたければ止めろ」と。

 君もなかなか食えないからな。

 

 

「……それはどういう意味です」

「ここまでしておいて本当になんだが、俺は別に全能でも万能でもない」

「面白くもない冗談ですな」

「冗談なものか。酷な話、頭が一つじゃ後ろが見えん、故に君を選んだわけだ」

 

 

 事実、信念(もちあじ)を通せる者はあらゆる意味で強い。その逆も然り。だからゼファー君にも()を盛る。

 

 理解した上で「裏切っていいよ」の一声を。

 

 

「あなたは……一体どこまでッ!? わたしにっ……老いたこの身に何を……どうしろと……!」

 

 

 原作を知ってるだけとは言え限定的な『読心』と『予言』にさしものゼファーと言えど動揺を隠せないどころか()()()()()()()()()()()さえ感じたろう。

 

 だからわからない。己の心が本物か。それが彼を縛り付ける。

 

 (こころ)ないゼファー君に俺の排除(ひとごろし)はできまい。

 

 以上、最終調整の終わった者は部屋から追い出した。帰り際にクザンはともかくボルサリーノまで信じられない物を見た様な顔芸をしていた気がするのは見間違いだと願う。

 いや、だって、英傑(モンスター)とか飼い慣らせないし。

 飼うならやっぱ九蛇(ええケツ)だよね!(激ウマギャグ)

 確かにあれを手元に置ければ最良だろうが維持と管理が面倒過ぎるし俺は庭師じゃなくて貴族。であれば、どう転ぼうが業務委託できる関係がパーフェクトなんじゃない?

 

 それにしても――

 

 

「最後まで喋んなかったな、あいつ(ボルサリーノ)

 

 

 彼は本当に作戦をわかっているのだろうか?

 一抹の不安を胸に抱きながら、決戦のバトルフィールドである宴会場へと俺も踏み出すと胸の電伝虫が震える。取り出してみれば特有の通話先モノマネ芸がここ3日見てない少女の美貌を精巧に模写していた。

 

 ()()にもまだ役目がある。それこそ本作戦で一、二を争う重要な仕事が。恐らくその最終確認だろう。キスの後遺症で顔すら見せなくなった時はどうかと思ったが――やはり、責任で動けるやつも強い。

 さて仕事の話だ。

 

 

「なにか確認かな、レディー?」

『――この前の事。なかった事にしましょう』

 

 

 おっと、開口一番予定が狂ったぞ?

 唐突な内定辞退に若干焦るが幸い代打の効く範囲。魔法のパワハラ「じゃあ妹ズにする?」により逃げ道を消す。

 

 

『……! そ、そんなのダメよ! それはダメ!』

 

 

 俺もそう思う。

 妹ズの精神性はアップダウンが激しく冷静を要する今回のミッションにマッチしてると言い難い……

 

 

「ボクの考えが分からないわけじゃないだろ?」

『それはそうだけど……だけど! でも……その、やっぱり良くないと思うの……』

「なにが?」

 

 

 ――て、そりゃ『俺』がか。

 彼女は唯一〝作戦〟の全容を軽くだが知っている。ただでさえ「悪魔ね」と評された内容にドン引きして帰宅を決意しても無理もない。

 

 

『〝なにが〟って……と、ともかく九蛇では()()()()()はだめなの!』

 

 

 なるほど、戦闘民族では汚い手は禁じられると。納得の理由だ。じゃあなんで3日もダンマリだったんですかね? あ、キスのせいか……(自問自答)

 

 だからって当日は無理だよなあ。逃げていいとは言ったけど何事にも限度があるぞ!

 

 

「いまさらすぎる。悪いが、もう君以外に考えられない」

『うえぇっ!? わ、わたしだけ!? で、でもその……いつもいる海兵とかじゃだ、だめなの? 気に入ってるんでしょ……ほら、あの、もじゃもじゃの……』

 

 

 嫌がられても、驚かれても他に手がない。ワンチャン妹ズでいいやという気もしたが、やはり今から仕込む時間はない。というか海兵は論外だ。

 

 にしても今日のハンコックはやけにゴネる。その上なんだがしおらしい。まあ、俺も白ひげを前にビビり散らかしているから人のことは言えんが。

 

 

「はぁ、気持ちはわかるよ? 僕だっていきなりこんな事になれば怖いさ」

『……そうなの? そう、あなたも、怖いと思うんだ……』

「だがもう後に引けん。退かなきゃ死ぬが、退けば未来はつかめない。ならつかもうぜ、未来!」

『……あるのかしら、こんな事して。未来なんて……』

 

 

 今日は本当にしおらしいなあ!ネガティブホロウでも食らったんか!?

 キスか? キスなのか!?

 そんなに嫌だったの!? ガードできなかったくせに!

 

 ……てか、本当に時間がない!

 

 

「やかましいッ! 俺は世界の王になる! お前もその妹たちも面倒見れなくて何が王だ! いいから黙って俺が白ひげをぶっ倒す瞬間を見に来いって言ってんだ! 未来なんざ作ってやる!」

『どうしてそこまで……』

 

 

 こういう時の口から出任せ、大言壮語、「あ〜あ、言っちゃった」と後悔した時には既に遅し。結果を出さなきゃ返せないとんでもない負債の出来上がりだ。あたしってホント馬鹿!

 

 しかし俺は知っている。ハンコックは多少強引なのに弱い、と……!

 

 

 ……だったよね?

 

 

 ともかく! 本当に、本当に時間がなくなって来たので端的に「来いよ!?」とどやしてGOダッシュ。宴会場前では既にゼファー以下魚人島演習に()()()()()()()()特務部隊の連中が得物を片手に整列済みだ。

 

 後出しジャンケンのようで度々悪いが簡単で、不可能だろう? 有能故に出した実績で拡大しつつあるイベントに紛れ込んだ異分子を排除するなんて。

 

 

「来賓の数と内訳、様子は?」

「白ひげ、隊長格、そのほか30名ほど。他は船上で待機してます。様子は……大人しいんじゃないですかね? んなことより……()()、マジでやるんすか……?」

 

 

 そのための“お願い”だ。使えたのは今日までのだいたい2日間。それまで彼らには作戦の肝たる動きを徹底的に叩き込んだ。

 

 これから起こすのは絶えず()()()を行く奇襲。戦力を分けたことから警戒してる、ともすれば戦死すら想定済だろう白ひげの斜め上を何があろうと走り抜ける覚悟と自信を彼らには持たせたつもりだ。

 

 

「……もし先手を取られたら?」

「その気ならそもそも会場に来んよ。ま、そん時は3秒稼げ。できるだろ?」

「……軽く言っちゃって!」

 

 

 さあ、時は来た。

 

 俺の一振りで、黙示録にあるように天使がラッパを吹き鳴らし、今ここに終わりの始まりを告げる。同時に、俺達はなだれ込んだ――

 

 蹴破ったドアの先で、目標(ホシ)と視線が交差する。しかし一瞬だ。メインはゼファーか。

 

 

「野郎おいでなすっ――た!?」

 

 

 そして生じる特大疑問符。それもそのはず、彼が目にしたのは殺意に満ちた暗殺者などではない。

 

 

 踊り狂うおっさんだ。

 歴戦の猛者(おっさん)と、若将校(わかぞう)と、天竜人(ガキ)だ。

 

 

 海兵(てんし)がラッパを吹き鳴らし、ギターとベースが掻き鳴らし、(おれ)将校(てんし)が舞い踊る。これぞ魅惑の歓迎ダンス!

 演目は『ベイビーダンス ~ダンスは求愛の印?~』*2

 シキ役(センター)はもちろん俺がやる。俺がな。

 

 それを真顔で、死んだ目で、なんとなく、おっさんの殿方たちが一糸乱れぬ正確さで追従する。羞恥心という呪縛を解いて大の大人が非常識な存在へと変わっていく。天と地と万物を紡ぎ社会性という巨大なうねりから逸脱した彼らは自らを限りなくカオスな存在の凝縮体に変身させられているんだわ。

 

 純粋に、上司の無茶振りを叶える

 ただそれだけのために!

 

 カオスだね? カオスだよ!

 イッツ、ルナティックターイム!

 狂気の世界へようこそ!

 

 

 真面目な話カリスマとは雰囲気を作る力なので主導権を握るために白ひげ(ヤツ)の持つカリスマを含有した『空気』そのものをぶち壊す必要があった。

 ワンピのキャラは()()()()した方が記憶に残るしね!

 挙げ句そのカオスを演出した俺に主導権(カリスマ)は移りつつあり、ここから巻き返すには負けじとダンスバトルでも始めりゃいいが――

 

 

 おっさんには辛いでしょうね……!

 

 

 そして白ひげは理解する。嫌でもわかる。彼らに繋がれた糸がどこへ向かい、誰が手繰っているのか。自ずと視線は交差した。  

 飼い犬の質は飼い主の質。そのためのゼファーだ。

 

 

「ようこそ()()()()へ。狭いとこだが存分に寛ぐがいい」

「なんだこのクソガキィ……」

「今しがた君に勝った男さ。海賊王(ロジャー)の次にね」

「――!」

 

 

 あんまりな即答に方々から圧が飛ぶが即座にゼファーがインターセプト。力ない海軍音楽隊はあわれ四散したが、そいつ等はもうどうでもいい。良い仕事だった。

 

 

「躾がなってないぞ野犬の王。……もとい、それも繰り上がりだったかな?」

 

 

 煽りに煽りを重ねる無礼のミルフィーユに「もう限界だ」とばかりに奴の手下が音を立てて立ち上がる。

 

 が、

 

 

「テメェらは口出すんじゃねェよ。座ってろ」

「でもよ、おやじ!」

「〝これ以上恥かかすンじゃねェ〟って言ってンだ!」

 

 

 一喝する白ひげ。

 俺への警戒か、文字通りか、真意はどうであれ自分以外の発言を禁じたのは実にいい流れだ。まがいなりに「敵は自分と同等」だと認めた彼はそれを恥じることも、侮りもなく、原作よりも若い鋭い目で探るように射抜いて来る。

 

 

「……ここまでさせてくれたンだ。まあ〝なにか〟はあるんだろうな。……まずはネプチューン。()()を呼んでくれないか? ここはあいつの城だろう。なぜいない……!」

「彼がいないのはその()を案じてなので構わないが、保険は下りないぞ?」

 

 

――業務連絡業務連絡。ネプチューン王、来られたし――

 

 

 彼が来たのは電伝虫の放送が城中に響いてからすぐだった。尾ひれで走って?来たのか異様に顔色が悪いが怪我の一つもない健康体に、眉を寄せる白ひげ。

 

 

「……おい、オトヒメは無事か?」

「あ、ああ……不思議なほど、なにもないんじゃもん……」

「そうか……」

 

 

 であれば、()()余裕はなにか?

 急所を認識していながら『答え』にたどり着けないのは愚鈍だからでなく、単純に俺の発想がよっぽどだからか。

 

 

「もういいだろう? 料理も冷める。毒見しようか? 君が帰れば平和になる」

「違うな。……テメェは〝話し合い〟と言った。椅子取りゲームじゃねンだ。あるんだろ? 切れるカードが」

「さてどうかニャ〜?」

「その薄気味悪ィ笑いをやめろ」

 

 

 ま、役も揃ったのでそろそろ進めていいだろう。

 

 

――業務連絡。オペレーション・ラプラスの箱、開演――

 

 

 

 

 

「――なんだそれは!?」

 

 

 

 動揺を隠せない白ひげ。それもそのはず。今度の放送に最も反応し、声を荒げたのはなにを隠そう敵サイド。俺の横にいる――ゼファーだったのだから。

 

 

「話が違う! 〝ラストダンス〟は!?」

 

 

 ダンスならもう踊ったろ? 事は次だ。

 

 

「そんなものは知らない――ッ! クザン!?」

「いやッ!? おれも、なんも!?」

 

 

 速攻で怪しまれ詰め寄られるクザンに涙を禁じ得ない。

 ああすいません()()()。それまた言ってないんですよ。

 

 これでブレーキが居ないのバレちゃったね。そして真に主導権が俺にあることも、きっと、骨の髄まで理解してくれたことだろう。

 

 次の瞬間、完全に潮目の見えなくなった会場にバン!と大戸が開け放たれた。皆の注目が一点に集まる先では、子供だろう、小柄な誰かが身を隠すフードを纏い、1m立方の『Z』と書かれた木箱を台車に乗せて入って来る。言うまでもなくハンコックである。……ハンコックだよね?

 

 ハンコックである事を信じ、持ってきた木箱をボルサリーノに開封させる。出てきた中身に白ひげは首を傾げたが……いい反応してくれる人間はこちらにいる。

 

 

「――!? 馬鹿な、なぜそんなものが!? この国を消し飛ばすつもりかッ!?」

「何だとッ!?」

「じゃもん!?」

 

 

 魂からの悲鳴に近いゼファーの叫びは、予想通り全員の尻に火を着けた。

 現れたのは大きなガラス管。中は炭酸のように時折泡立つ桜色の溶液で満たされていて、そこに大きな卵のような物体が中央で固定されたように浮いている。

 

 ()()がなにかわからない。わかるのは〝とても恐ろしいもの〟ということ。無知はパニックを助長する。

 

 

「おい()()! ありゃなんだ!? 奴はいったい何を持って来やがった!?」

「あれはッ! ……爆弾だ。空気と反応し、衝撃を受けると爆発する……! この島くらい軽く消える、な」

 

 

 正式名称を『ダイナ岩』。そこで良識人ぶっているゼファー君が後々世界の6分の1くらいをぶっ飛ばす為に使うかもしれないトンデモ兵器だ。

 

 そこへ、指に(レーザー)を溜めた男が銃口を突きつける。

 こ〜わ〜い〜ねェ〜!

 

 

「ボルサリーノお前……! そうか、お前を呼んだのはこの為に……ならダイナ岩を持ち出したのも……! ()()()()()()……」

 

 

 ゼファーがそう吐き捨てる。ちょっと気づくのが遅かった。

 

 クザンへの嫌がらせだけで配役すると思ったか?

 誰が初対面だと言った?

 〝準備は上で済ませた〟

 そういう事だよ。

 コイツはそういう事できる奴だよ。なあクザン?

 

 

「いや〜〜すいませんねェ〜〜〜〜〜〜ゼファー先生。わっしもコレが何かは知らなくて〜〜〜〜」

「おっと、全員動くなよ? コイツはピカピカの実の光人間だ。光より速く動けないなら、大人しくしたほうがいい」

 

 

 でもこれ70歳で心肺機能中心に目茶苦茶弱体化したゼファーすら0距離&多重起爆で殺せないんだけどね。どうせ白ひげも死なんでしょ。お前ら人間じゃねぇ!!

 

 だか島民はどうかな?

 大切な息子たちはどうだ?

 ここは深海。能力者もいるだろう。

 何人残るかなぁ?

 

 

 そして最後のダメ押しにこの保管機は改造品。座ればあら不思議、尻の下から「カチリ」とスイッチを押し込んだような嫌な音がするではありませんか。

 

 

「俺を殺すのもお勧めしない。もし俺が軽くなったら保管機は割れる。傾いてもダメ。ちょっとした衝撃でも水銀レバーが作動してお陀仏だよーん」

 

 

 そんな俺の発言に「作動する前に切り落しゃいいんだろ……!」と怖い呟きが聞こえたのでさらに先手を打っておく。

 時にボルサリーノ君。君はこれを何個持ち出した?

 

 

「えェ〜〜〜〜と、7個でしたねぇ〜〜〜〜」

 

 

 それじゃゼファー君。船には木箱をいくつ積んだ?

 

 

「……300以上」

 

 

 それじゃ最後に運んで来た子に聞こうか。これと同じものをいくつこの国ばらまいた?

 

 

「…………AからZの26」

 

 

 明かされる最悪の情報。これには頭の回る連中から青くなる。「全て偽物だ」なんて細すぎる希望にすがる様じゃ新世界で生きていない。おまけに指揮系統はズタズタのバラバラで、考えつくのは最悪の可能性——「海軍がアテにならない今、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その木箱に仕掛けはしてないか?

 港に残した船は無事か?

 もし第三者が開けたら?

 自分で考えついたことほど信じたいのが人間だ。彼らは脳内で地雷原を作るしかなく、故に動けない。自縄自()ってね。

 

 

「いつのまに……いや、アレ(ダンス)か。()()は練習の方でしたか……!」

 

 

 ボクの奇行はよく目立つので姉妹は楽に動けたそうな。それにダンスだって全く無意味ってわけじゃないんだぜ?

 

 最期かもしれないだろ? だから、踊っておきたかったんだ……(シキ好き)

 

 

「因みにいくつかは配送業者にシャッフルさせてある。 ので! この子に聞いても無駄だよーん!」

「……それで? テメェは一生そこに座ってるってか?」

「いんや? マスターキーはこの世で最も信頼できるヤツが持ってるぜ」

 

 

 そう言ってわかり易くボルサリーノにウィンクしておいたが相変わらず何もわかってなさそうな顔だった。

 

 

 ともあれ、これにて俺の絶対無敵化は完了した。

 

 

 島が欲しいのに壊しに行ってどうするんだと思われそうだが、取らぬ狸の皮算用をする気はない。まずは勝ってから。歴史はどうとでもなる。

 

 白ひげ君の勝利条件(もくてき)は俺を倒す事でなく島民の保護だ。俺の誤報を無視すれば面目丸つぶれ、来たら来たで『暴力』『カリスマ』『組織力』の通じないゲームに替えてしまえばこの通り。よしんば()()()()()()守れなかった奴はみんな罪人。魚人島どころか『魚人』も道連れ――

 

 俺は君に勝てない()()()()()()

 けれど君は()()()()()()、この状況。

 もう何かで負けるしかないんだよ。

 さて、何を捨てる? 命か、勝利か、島民か……

 

 

 てゆーか、実質一択?

 

 

「わかるかな? ここでの勝敗は意味を成さない。これを『戦略』というのだよ。エドワードお兄ちゃん」

 

 

 気安く呼ぶんじゃねェと強がりはするものの、白ひげの顔には一筋の汗が流れる。その部下も誰一人として余裕はない。

 

 

「……おいティーチ、お前電話持ってたよな?」

「だめだ。さっきから繋がらねェ」

「……こっちもだ」

ツノ電伝虫(ジャミング)か……」

 

 

 竜宮城はそこだけ本島から隔離されてる構造上、館内だけ生かして島との交信を切るのがとても容易だ。このままでも下界は目視確認できるしね。

 

 悪役がベラベラ喋ってるのが「実は放送されてましたー!」なんて創作でしゃぶり尽くされた起死回生の逆転劇を対策しないわけないんだよね。残念でしたー!

 

 

「しかし時間をかけて増援が来ても嫌だな。よし、10分間だけ待ってやる。城から出ていけ。この国からもな」

「なッ!? ふざけるなァ!」

「親父にナワバリを、家族を見捨てろって言うのか!?」

「出ていけば何もせん。あと()()が喋ったな? 悪い子だ。マイナス2分!」

「な――ッ!?」

「更にマイナス。あと7分」

「てめェいい加減に――」

「のこり6分! おいおい死ぬ気か?」

「喋るんじゃねェ馬鹿息子ども!」

 

 

 死ぬのは怖いが舐められたら交渉にならないので素気(すげ)なくいくが、ふとハンコックの事が気になってしまう。勝つためとは言えどちゃくそダーティな手段過ぎてやはり引かれてるかな?と、不意にチラ見したら目があったのでなにか思うものはある様子。なんかもう遅いかも知れないが微笑みかけておく。そして速攻で逸らされた。悲しかった……

 

 

「う〜ん。なんか、マイナス1分ッ!!」

 

「「「ざけんなッ!」」」

 

 

 俺はそういう事をする。覚えとけ!

 これには白ひげも大慌て。ついに、ついにようやくコトのヤバさを理解する。「こいつマジだ」と。

 

 

「待て! テメェ天竜人だろ!? 奴隷目的ならとっくに攫ってる、それが命がけでここまでする理由はなんだ!? そこまで海賊が気に入らねぇってか!?」

 

 

 ……その質問を待っていた!

 

 つまらない授業よりエロサイト巡回したほうが外国語を覚えやすいのはそこに熱意と興味があるからだ。そして、一方的に教わるより、調べた方が信じやすい。

 

 今ここに『天竜人』とかいう世界一信用ならん存在の言葉が命を担保に興味を引いて白ひげの内に実体を持つ。

 命()()の言葉は重い!

 

 

「君が海賊であることは、まあいい。この島をくれてやるのも、それはそれでいいのさ」

 

 

 突然のちゃぶ台返しに敵味方騒然となるが、本当に予想外だろうか? 戦略ゲーでも直轄管理はダルい。白ひげの評判を道連れ的に下げた今、()()が最も注目すべきヤツが見えるはずだ。

 なのに誰もが()()()を無意識に除外している。白ひげですらも。

 

 それがこの国を腐らせるというのに……!

 俺の指した指先に皆の視線が流れていく。

 

 

「気に入らないのはほれ、そこのソイツよ――!」

「じゃもんッ!?」

 

 

 この期に及んでほぼ背景みたいだったこの島本来の主ネプチューン王、その人に。

 

 的中率100%の占いを鵜呑みにするのは百歩譲って仕方ないとしてもぶっちゃけ原作からだいぶ事なかれ主義で土壇場まで動かない等その行動には問題が多く白ひげ死後なんか寄る辺を変えただけ――

 

 軍拡とかなさらないんですか?

 最低限の自衛力を持たなくていいと?

 よしんばそこまでいいとして、防衛費代わりの〝お菓子〟をその場のノリで消費する?

 相手は悪名高いビッグマムだぞ!?

 お前この国つぶしたいの!?

 海賊はボランティアじゃねーんだぞ!?

 

 箇条書きマジックとは言え、事は『王政』

 極めつけは天竜人(おれ)への対応だ――

 

 

「ゼファーがこの島来るようになったの天竜人の命だよね? しかも初日来たよね? 肝いりだよね? その後白ひげが来てなんで何も言わなかったん? ――なあゼファー、ネプチューンは国が賊に占有された時なんか言ってきたか!?」

「…………なにも」

 

 

 さしものゼファーも改めて状況を客観視したせいか苦い顔を向けている。

 

 

「だがまあ互いに権力者、下手なことは言えない! なら仲の良い白ひげに、助けてもらった白ひげにはなんて言ったんだ?――コイツ(ネプチューン)これからどうしたいって?」

「いや……助かった、今後とも宜しくと、礼は言われたが……」

「ほう! 海軍は嫌か! 差別大好き天竜人の犬だもんな! じゃあなんとなく人格者っぽいゼファー君か、白ひげにそれとなく相談とかした?」

「…………されてません」

「こっちも別に……」

 

 

――お前もう国王やめちまえ!――

 

 

 吐き出したのは限りなく本音に近い最上級の罵倒だったが全員苦い顔するだけで誰も擁護に回らなかった。本音故に多少の私怨が見えてもだ。それもう答えだろ。

 

 

「なんでなんの外交努力もしないの!? 人間は嫌だ、人間は悪いって言い続けたらいつか謝ってくれるって? 言いに来いよ! 4年に一回世界会議(レヴェリー)に来いよぉおおッ!」

「むぅっ!? じゃ、じゃがもし上で、もしもの事があったら――!」

「じゃあ他でいいから国交結んどけよォ! 魚人の国はここだけなんだよ! お前が動かなきゃ仲間なんて永遠に出来ねぇよバーカ!」

 

 

 もうほぼただの罵倒だが、思うのだ。なまじ白ひげの生き様がカッコ良かっただけに「コイツらなにしてたんだ?」って。ビッグマムの庇護だって名前書けば入れる大学みたいなもので――

 

 じゃあ何もしてなくね?

 その上学費(おかし)は使い込んだ?

 ただのカスじゃん。

 

 明確な精算があれば問題の先送りも悪くないがコイツは外圧(滅亡レベル)がかかるまで何もしないと努力の「ド」の字も見えてこない上に古今東西軍事力の低い国は外交か財力でカバーしているが全部低いってどういうことだよ!?

 

 挙げ句原作(20年後)の外貨獲得手段として確認できたのは喋るヒトデ(ペット)がデザイナーのアパレルとほぼ海賊メインの観光業だよね?

 

 

 防衛問題そのままに外敵が収入源!?

 俺の介入も悪かったがこのままじゃしらほし生まれる前にこの国なくなるわ!(大問題)

 

 主に天竜人(おれ)関係で!

 

 

 ここまで言えば最早どんな熱心なファンだろうが親友だろうがネプチューンの政治能力を擁護できまい――

 

 そう、つまり、本作戦の目的は現状放置のヤバさ加減を白ひげと共に認識し、()()()()()()この国の延命と蘇生を図る事にある!

 

 お義父様を軽々しく無能とは呼びたくないが激動の世に平時の賢王は無用の長物。ビッグマムに関しては擁護不可だ。

 だからネプチューン、お前もう王降りろ。

 

 

「なんなら王になるか白ひげ?」

「……ガラじゃねェ」

「名前は貸してるのに?」

「ガワだけだ」

 

 

 知ってた。つーかお前も中途半端なんだよ!(怒りの飛び火)

 

 

「さあ選べネプチューン! 白ひげがいいか、世界政府がいいか、()()にな!」

「そ、そんな急に……!」

「数年猶予があったよなァ!?」

「じゃ、じゃがレリエ――」

 

 

 なんか反論しそうだったので「気安く呼ぶんじゃねェ!」と一喝。しかし、流石にあんまりだったのか「……言わせてやれよ」と渋顔の海賊にたしなめられた。

 

 

「むぅ……! じゃが……聖は、聖はその爆弾を……最悪この島が滅んでいいと見えますじゃもん」

「有象無象にくれるくらいならな」

「そ、そのような方にどう恭順しろというのですか!?」

 

 

 ほう? 一見正論だな? だが穴がデカい。

 

 

「そうして『愛』だの『誠意』だの求めた結果がこれか? じゃあ聞くが、臆面もなく海賊を友と呼び、我々と天秤にかける相手を〝世界政府は受け入れろ〟とでも? 〝会費は払ってるんだ〟って? 魚の『誠意』は独特だな」

「――ッ、おい!」

「ああ、悪かった。訂正する。〝何様だおまえ?〟」

「…………」

 

 

 引きこもって信用を蔑ろにしたのはコイツも同じ。故に擁護もない。謂れなき差別は咎めても、誰も助けない。

 白ひげは自分のケツも拭けない相手を友と呼ばない。

 

 しかし政府を選べば国家公認で白ひげは外敵となり、逆を選べば潜在的な敵であるとし晴れて世界政府から堂々除名。即答できないのも叛意ありとし、魚人界隈唯一の()()が吹っ飛んでしまう。せっかく助けに来た白ひげ君もこのルールは変えられない。

 

 実質一択。それでも選ぶのが王の責務。

 ネプチューンの意志?

 切り分けられるだけのパイが喋んな。

 

 

「――その通り。全ては私たちの不義理によるもの。その怒りは最もでしょう」

 

 

 そんなこんな半ばネプチューン王の処刑場と化していた宴会場に凛とした声が鳴る。荒れ狂う俺が占領していた中でその清涼感は場の流れを持っていくのに充分すぎた。

 潮目が変わる――

 

 

「ですが、ネプチューンも人の子です。その責任は重く、しかし間違えぬ事など不可能……我々の世界政府に対する思いも思慮深い聖は存じられているはずです」

 

 

 ここに来て()()()()()

 最初期から想定していた仮想敵の出現に思ったことは完全にモンスターのソレである。

 覇王色を脳と心臓に、心の壁をマシマシにして振り返れば()()が居た。政治的センス全てにおいて作中随一かもしれないトンデモ女傑。

 

 

「お、オトヒメ……、なぜここに……! わしは来るなと……!」

「わたしとて国に身をささげました。この島の未来のため、どうして休むことができますか」

 

 

 死に体とは言え夫を一言(いちげき)で屠る様は夫婦間のヒエラルキーを感じさせる。

 ある意味ラスボス。美人薄命を地で行く貧弱ボディにその実一番骨太な心を持つ天性の指導者。オトヒメお義母様のエントリーだ。

 

 

「……であれば、無条件に許せと?」

 

 

 震える膝でケツ下の信管が作動しないよう祈りながら、まるで苛立ち故の貧乏ゆすりと見せかける。理詰めで感情ぶっ叩く俺にして感情を感情で煽られるのは不確定要素が多すぎて初対面にして恐ろしい。

 覇気も突貫そのもので、いずれ心を曝す。予備(ハンコック)がいてもタイムリミットはそう遠くない。

 

 暴れんなよ……暴れんな……!(祈祷開始)

 

 

「いいえ。しかし聖は『世界』を第一に考えられているご様子。ならばこの島もその一部のはずです」

「……つまり?」

「聖の指摘は正しい。ですが民草を思えばどうしても、いま白ひげの加護を失うわけにはいきません。それは大きな衝突を避けながら手を差し伸べた聖もご存知のはず……この国を思うなら、どうか今一度国防を再建する時間をいただきたいのです!」

 

 

 うっわ、今日の流れを知らないの?

 こいつど真ん中で二股宣言しやがった。

 叩き潰してもいいが……彼女の目になんか嫌〜なものを感じる。

 

 

「だがそれは……」

「はい。全ては口約束。信用していただこうにも、そのための信用すら無いのが現状……なので」

 

 

 なのでェ?

 

 

「聖の示した通り、わたくしは世界会議(レヴェリー)に出ようと思います!」

 

 

 ほ〜ん……え? そう来る?

 外交は仲良しこよしの学級会じゃない。長、短期的にいかに自国の利益を取り付けるかが重要だ。

 今一度、オトヒメの顔を見る。

 これはもしかするかもしれない……

 

 

「……しかし、こちらのメンツはどうなる?」

「そこは、大変心苦しいですが、白ひげ様の御心次第かと……」

 

 

 とか言っちゃってますけどどうなん?と白ひげを見る。

 仕向けたの俺だけどお前切り捨てられたぞ?

 ま、そんなこと気にする男でもないか。

 

 

「……おれとしちゃァこのガキにそこまでの信用はできねェが……」

「なら共同管理と行こう。今後、ゼファー隊と白ひげは互いに不干渉でどうだ? ただしナワバリは撤回しろ」

「わたしは構いませんが……」

「……黒腕が責任を持つってもテメェはその上行くじやねェか」

 

 

 その一言に思わず吹き出す。存外、評価が高いようで。

 

 

「笑い事じゃねェ……テメェが顎で使ってるそこの黒腕は頭もキレる。そンで天竜人が正論振りかざすだァ? よっぽど悪夢だろうが」

 

 

 なるほど、たしかに、言われてみればその通り。

 しかし君は大きな勘違いをしている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「「「はあぁぁぁあああッ!?」」」

「こんどはなんなんだテメェ!?」

 

 

 いやそんなに驚かんでも……

 だってそもそも名乗って無いしこんな場所でレリエル聖自らが海賊と密会なんてできるわけないでしょ。ジョーシキ考えてよね!

 だからこの場に天竜人は存在しない。いいね?

 

 

「あーはいそうですか! じゃあテメェは誰だってェ!?」

 

 

 今日一番眉毛がピクついてる白ひげが詰め寄り気味にそう聞くが……海軍を操り、君をここまで追い詰めた僕の正体とは――!

 

 

「うちゅーぢんだよ~〜!」

「…………あ?」

「……………………う、うちゅ」

「で、誰だって?」

 

 

 今日一番眉毛がピクついてる白ひげが詰め寄り気味にそう聞くが特に用意はしていない。

 偽名――ジョン・ドゥ、フェイスレス、ビル・クレイ。なんでもいいがどうせなら……

 

 

「そうさな、俺の事はカースン・D・カースンと呼んでくれ」

 

 

 まさかの名乗りに会場はまたも騒然となる。

 

 

(ディー)だと!? テメェその意味わかってんのか!?」

 

 

 教えてくれよ。知ってるんだろう?

 僕はキメ顔でそう言った。

 

 ……いや実際問題その昔、何かの秘密を抱え落ちしたドンキホーテ家とかいうアホどもの所為で情報統制が厳しいのだ。ほんと何でもいいから教えてくれない?

 俺は大穴で支配(Domination)だと踏んでるけど、どう?

 おだっちはそーゆー事をする。

 

 

「いいや違う! テメェがそれを名乗る意味を理解してンのかって聞いたんだ!?」

 

 

 しかしそんな原作最大のネタバレを隠すように白ひげは叫ぶ。が、天竜人が『D』を僭称する意味なんてよほど愚かか、でなければ一つだろうに――

 

 かくいう彼も察してか、既に口角が歪み気味。期待の狂人を見る目である。

 だから明言する。情けないネプチューンに代わり白ひげのご機嫌取りといこう。

 

 

 仮に私が神として――、神が神に噛みついて何が悪い?

 

 

「……ハ……ハハッ! マジか……! こりゃ黒腕の手に余るわけだ。ハナからおれは踏台かよこのクソガキが……!」

 

 

 そう言う割に俺の答えがウケたのか「グララララ」と独特な声で会場を震わせる白ひげ君。頭がそうなら手足は最早逆らえない。

 

 

「……いいぜェ、気に入った。テメェが()()である内は海賊として仲良くしようや。なあ、カースン?」

 

 

 悪い笑顔の白ひげを前に、思う。

 ――完璧な計画とは、全てが想定通りことが運ぶことではなく、トラブルが起きても柔軟に対応出来る、そんな可塑性があってこそ完璧な計画となるワケで……

 

 終わったからこそ身に沁みる。

 また、ノリで言ってしまったよ……!

 

 まあいい。主目的は果たしたので〆に入ろう。

 やってみせるよレリエル。どうとでもなる筈だ!

 

 

 そんなこんな()()()()()()()()()()()()()平和という名の裏取引が交わされた。内訳は大きく3つ、

 

 ①、白ひげは縄張り宣言を解除する。

 ②、魚人島購入は誤報として撤回。

 ③、ゼファー隊と白ひげ海賊団は不可侵かつ魚人島の外敵は排除すべし。

 

 その他細々としたものが付随するが島の平穏はほぼほぼ確約されたような物。

 であれば魚人も働くべきだよなぁ?

 

 

「……そうですね。自分すら守れないままでは、他国に認められる事もないでしょう。ですが、強制的な徴兵は――」

 

 

 しなくていい。縛っても逃げるだけだ。

 働くのはオトヒメさ。

 

 

「……おい黒腕の、コイツまた碌でもないこと考えてるぞ」

「聖の笑顔は元よりこうだ」

「マジかよ…………マジ?」

「マジだ」

 

 

 姦しいおっさん達を他所に計画の前倒しを行う。

 オトヒメが次の世界会議(レヴェリー)に出ると言うのならその護衛は責任持ってゼファー隊がすべきだろうが、しかし、魚人はそこまで信じてくれるかな?

 

 

「それは……、でも、だからこそ互いに信用が生まれると思っています!」

 

 

 俺もそう思う!

 だが一番は()()()()()()()()事だろう?

 そこまで言えば勘づいたのか「あ!」っとクザンが目を引いた。

 

 

「え、いや、あの……まさか魚人海兵計画ですか?」

「……あれかぁ」

 

 

 その通り。守りたいなら入ればいい。軍に必要なのは忠誠と実力とやる気でありこの条件なら全部セットで来てくれる。

 

 言うなれば運命共同体。互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。だからこそ戦場で生きられる。軍隊は兄弟、軍隊は家族!

 不穏分子はこっそり淘汰……

 てことでゼファー、()()()()()働けよ?

 こうすれば逆らえまい。それが正義。せいぜい爆ぜるまでコキ使おう。

 

 

「お前も……色々あるとは思うが、性根を正しとけネプチューン! ……あんまりおれをがっかりさせんな……」

「……すまん白ひげ」

「謝る相手が違ェだろうが……――だからテメェ、カースンもそれでいいな?」

「やだ!」

「オイっ!」

 

 

 まあ、冗談だ。そんな軽めのジョークに白ひげは「……テメェのはシャレにならねェンだよ!」と天を仰ぎ、ふと、ため息交じりに、思い出したように懐から小汚い宝箱を取り出した。

 

 

「取引だカースン。コレをくれてやるから、コイツらのこと――くれぐれも頼んだぞ」

 

 

 取引なのに「頼む」 その意味を履き違える

ほど鈍感ではない。この押し付けられた小箱の価値は相当だろう。

 

 

「……これは?」

「もしもの時の手土産だ。テメェが持って来いって言ったモンだよ」

 

 

 え、もしかして自然系悪魔の実ですかーッ!?

 ほんとに持って来ちゃったの? なんという棚ぼた。あれは白ひげを煽るため適当言っただけだが……いやぁ、言ってみるもんですな!

 

 

「因みになになにの実?」

「はっ、聞いて驚くなよ? ソイツは、ソイツは……まあ……珍しいモンだ」

 

 

 ……いや、だから何さ!?

 急に歯切れの悪くなった白ひげに裏を感じるが嘘を吐くタイプでもないので判断しかねるもその瞳はここでない、ひどく遠くを見るようで……なにこれ、怖いんだけど……

 

 

「ソイツは古い知り合いの忘れモンでな……バットバットの実モデルバンパイア。動物系幻獣種だ」

 

 

 バットバットの実モデルバンパイアだって!?

 なにそれ……(無知)

 

 

「バットバットの実だと!? まさか……」

 

 

 ゼファーは心当たりがあるらしい……え、こんなの出てきました? ここに来てまさかのオリジナル悪魔の実の出現か……

 

 

「え、要らない!」

「はァ!? おまッ! 要らないってなんだよ!?」

 

 

 いや、だってこれ幻獣種じゃん! 動物系じゃん!? 確かに幻獣種ともなれば自然系よりレアだろうが物理無効化能力は得られないだろうし意識ある動物系が()()()()()から転がり込むなんて厄ネタ以外の何だと言うのか!?

 だから自然系がいいって念押ししたのに!

 

 

「ひとの送りモンにケチつけてんじゃねェよ! いいから貰っとけ……!」

「なんか押し付けて来てない!? 確実になんかあるよねコレ!?」

「…………………………気にすんな!」

「なんかあるじゃねぇか!」

 

 

 なんだ今の尋常じゃない溜めは! やはり呪いか?

 

 

「大切なら可愛い息子にやりゃいいだろ!?」

「遠慮して誰も食わねェんだよ」

「そんな物押し付けるな! 自然系にしろ!」

「自然系より珍しいンだからいいだろォが!?」

「安い方でいいっつってんだからそれでいいだろうが!? ――もういい! クザン、捨ててこい!」

「――え?」

「ざけんな! ンなことしてみろ! ぶっ殺すぞ!」

「――うえェ!?」

 

 

 捨てたら殺すとかいう呪い(物理)!

 なんでそんなものを!?

 

 

「これはな、何でもいいからおれを負かした奴にくれてやる。そう決めてたんだ! だからそんな扱いすんじゃねェ! ああそうさ、認めてやった証だよ! だから胸張って持って行けってンだ!」

 

 

 なんでそーゆー言い方するの!? 断れないじゃん!

 

 勝者にもそれなりの流儀が存在する。紛いなりに協力関係を築くとあらば尚の事。俺は渋々受けった。

 

 

「…………ありがとな」

 

 

 短い礼。そして渡される二箱目。なんぞこれ?

 

 

「イヌイヌの実モデル化狸(ばけだぬき)。できればいっしょにしてやって欲しい」

 

 

 ほらなんかある! ゼファーなんて訳知り顔で「やはりそうか……」とか俯いて確実に()()()を想起してる。つまりロジャー世代の遺産ということがわかるだろう?

 だがその他一切のことはわかりません !(恐怖)

 

 

「それとだな……」

 

 

 まだあるの!?

 さらなる因縁の押し売りに戦々恐々としていると白ひげが食い殺さんばかりに顔を寄せて来た。視界にはただの二人きり。その目は有無を言わせない。

 

 

「……()()()()じゃねェ、テメェの名を聞かせろ。俺はエドワード・ニューゲート。知っての通り海賊だ」

「……レリエル。俺はレリエル。天……いや、ただの4歳児さ」

「よんッ!?」

 

 

 あ、意外とショック受けてる。そう思ったのも束の間。

 

 

 

 

「……まァいい。負けは負けだ。だがテメェの後ろにいるフードの首――奴隷を使って俺が黙ってると思ったか?」

 

 

 

 

 咄嗟に海兵を制した俺は褒められるべきだろう。

 白ひげから放たれた明確な敵意は息を止め、音を無くし、視界を黒く蝕んでいく――

 

 発覚すれば身内でさえ殺す程に白ひげは奴隷制を嫌悪している。だからこそ()()()()()を考慮し、論理武装は用意してあった。

 海賊(ひとごろし)が倫理を語るなんて片腹痛い。

 むしろ殺人の方が不可逆的に人権を犯している。

 この程度、客観性とすり替えと正論の殴打でどうとでも言いくるめ、納得できなくても平行線へ叩き込んで有耶無耶にできる。できるのだ。俺ならできる。

 

 

 だが……動けない。

 

 

 これ以上この男の機嫌を損ねれば殺される。

 それは明確に初めて感じた死の恐怖……なのだと思う。

 

 

 ……これは獣だ。生きた恐怖だ。

 死んだ恐怖。自殺の覚悟は誰にもできる。

 俺もそう。だから爆弾を用意した。

 しかし、犬や熊に食い千切られ、これからバラバラにされるなら――?

 

 

 ……そう考えるとなんだかちょっと腹立たしい。

 いや結構イライラする。

 極めて歯痒い。

 圧縮された恐怖が突然、自分の中で転化し、生まれた謎の苛立ち。遅れてその意味に気付いた時、体は素直に笑っていた。

 心臓が、勇気の代わりに悪意を回し、脳細胞が元気になる。想起するのは常に『最低の手法』――

 

 殴られたら()()()()

 負けるなら()()()()()()()

 取られるなら()()()()()

 

――やっとわかったわ『覇王色』の意味! 俺の悪意は並の勇気を上回り、この期に及んで、それでも「(ヤツ)を道連れにしろ」と喚き散らして牙を剥く!

 

 恐怖だろうが()()()()()()()()()()()()

 妥協はしても(プライド)が服従を許さない!

 はた迷惑なくらい我が儘さ!

 そりゃゼファー君には無理だよな……

 

 認識してしまったが最後、蝶が羽化するように、今まで感じたことのない膨大な覇王色がこの身を包んでいた何かを押し返すのを知覚する。……これは白ひげの覇王色か? 味な真似をしてくれる。

 

 だが、悪意(いし)の力に年季は要らない。むしろ老いれば角が取れる。そんでもって国王夫妻(オーディエンス)を気に掛けて出力絞っている奴に若さと悪意と欲の権化(ごんげ)が負ける理由はない。

 

 国王夫妻(それ)が死んだら殺すからちゃんと守れよ?

 

 

「――んなッ!? この……ッ」

 

 

 解き放った覇王色は落ち葉を散らすように押し返し、俺と白ひげのちょうど中間、なにもない虚空でせめぎ合い、境界線上の物体を押しのけるように弾き飛ばした。

 

 ……え、覇王色って物理的な破壊効果あんの?

 そう言えばスタンピードでなんかあったな……

 それに覇気が衝突し合う空間からは謎の黒い火花が飛び散っている。まだまだ知らない()()がありそうだ……

 

 ともあれ、

 『覚醒イベント』をありがとう。

 怖いから二度としないでね。

 

 

「ハッ……その勝ち誇ったような気味悪ィ顔やめろ。なにが4歳だ……ホラも大概にしやがれ……ッ」

 

 

 そして変わらず不評な笑顔も今ばかりはやめられない。

 『試し』の類いだったのだろう。全てをご破産にしかねないあの発言は。あるいは意識確認か。

 だが事が事だけにもう一波乱ありそうだ。

 

 

「やぶ蛇が過ぎたな……で? この場で全て決めるか? それとも……彼女を奪い、反奴隷主義を貫くか?」

「……いや、もういい」

「…………なん……だと……?」

 

 

 それは何の冗談だ?

 あっさり過ぎる現実味のない返答に、しかし事実として敵意を引っ込める白ひげに俺も(なら)うほかない。

 

 

「そう警戒するな。……っても無駄か」

 

 

 ああ無理だ。()()を知る者からすれば白ひげが奴隷を容認するなど西から日が昇るようなもの。流石にそこまでのズレは呑み込めない。

 依然として、我々は、ささやき声で睨み合うほかないわけだ。

 

 

 なのに白ひげは背を向けた。まるでもう終わったと言わんばかりに突風が荒らした様な会場の無事な席へと腰掛け、挙げ句酒瓶を空けた。

 

 

「――酷ェ顔だぜ。ま、バケモンにしちゃァ可愛げある方か」

 

 

 ……何ゆえ急に拒否(ディス)ったの?

 文句を言おうとして、違和感に気づく。

 

 

「あ……あァ……? へ……? なん……うぉぉぉ……!」

 

 

 声が出ない。おまけに眠い。陸で溺れる魚の気分。この感覚は……嫌と言うほど覚えがある……!

 

 

「限界超えてンのさ、とっくにな。その根性だけは褒めてやらあ」

 

 

 これは常識知らずの育成馬鹿、妹ズによる地獄のブートキャンプで来るアレだ。体がシャットダウンの準備中だ。

 ヤバい……ッ! あと10秒くらいで電池切れる――

 

 

「か……かか……くそ……くじゃん……くいィィィィ……!」

 

 

 最後の力で腕を伸ばすが視界はボヤけて何も見えん。声も出ない。覇王色もなんか出ない。()()()()()()か――

 

 

 

 

――心配すんなテメェの勝ちだ。……そうか女か。女にあんな顔されちゃあな――

 

 

 

 

 なんか遠くの方で『勝ち』だの『負け』だの白ひげ君がボヤいてる気がするが根本的に間違っている。

 

 こんな……とこで……ねる……わけ……!

 あ、ダメだわ――

 

 落下速度が背骨を冷やし、何かの上に横たわる。保管機にそんなスペースはないので落ちたのだ。せめて痛みで目が覚めれば良かったが脳はそれすら感じない。

 

 ふしぎだ。少し下に床が見える。まるでおしょらをとんでりゅみちゃい。なのに意識は沈んでく…………

 

 

 

 ごめん。あとがんば。

 

 

 

 

 

 

 

 

――眠ったか……さァ、出せよ。起爆解除のマスターキーってのを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はあ!? 〝()()()()()()()〟!? ざけんなッ――

 

 

 

 闇の中、隣でガラスは砕け散った。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それでどうなったんだ!? 死んだのか!?」

「「「生きとるわッ!」」」

「なんだ生きてんのか……」

「「「がっかりするな!」」」

 

 

 だって頭痛が酷いんだもん……

 

 そんなこんな目が覚めて訓練所。私室にて。

 後日談。というか、本件の落とし所だ。

 

 それは誤報の謝罪から始まった。

 

 

――かねてより世界政府加盟国でも海賊の脅威に晒されていた魚人島はついに白ひげ海賊団に占拠された。事態を重く見た海軍本部は秘密裏に結成していた特殊精鋭部隊を派兵し、黒腕のゼファー率いるそれは4隻からなる白ひげ艦隊を見事撃退せしめ、悪逆非道の輩に正義の鉄槌を下したのである――世界経済新聞号外「英雄!黒腕のゼファー!白ひげ撃退!」より抜粋。

 

 

 ベッドの上に投げ捨てた新聞を指し、震える声でゼファーが問う。

 

 

「白ひげが帰ったのは昨日。あまりに早すぎる……! なんですかこれは!」

「ボクって文才有るでしょ?」

「書いたのですか……いつ……!」

 

 

 当然〝初め〟に。

 ストーリーテラーだ、エンディングだって用意する。あとはパターン化して連絡役(ボルサリーノ)があらまし言えば即日発行ってスンポーよ。

 あ、添削されてる……

 

 

「では……魚人島の未来は嘘だったと?」

 

 

 残念それも『目的』だ。

 

 ゼファーもクザンも確かに強いが、『軍事力』とはコントロールをその第一の要件とし。代替不能な個人にこれを委ねることは厳に慎まれるべきである。

 俺は俺の軍隊が欲しいのさ。強いのが。

 今度の結果を容れ物に後から人員を流し込む完全事後承認制だが海軍は英雄譚(じっせき)、市民は安心、君は功績、俺は力が手に入り文屋(モルガンズ)はバカ売れする全方善しの一石n(えぬ)鳥。

 

 これを誤報にできるかどうかはメンツと信用の問題だが……文屋(モルガンズ)は死ぬほど嫌だろう。短期間に2度はマズい。

 

 

「全ては貴方の手の上か……」

「そう言えればカッコもつくんだけどね」

「……違うと?」

「主に〝順序〟が」

 

 

 それが『完璧』に見えるコツ。

 

 ゲームでも同時にクリアできそうなクエストは纏めてやるタイプなので「1つ絶対に勝てる作戦を立て、取れそうなオマケは全部取る」というのを実行したまで。

 

 メインは「白ひげに勝つ」、これ一本。

 〝大人げない〟と言うように世界は相当理不尽で強者と弱者の引き分けは引き分け足り得ない。

 

 そして『勝利』は飾って嬉しいコレクションじゃあない。抵当(ていとう)に入れて信用を買う費用だ。さらに大きな『勝利』の為に。

 

 

「んで、白ひげ帰ったって事は残りのダイナ岩見つけたんだ」

「……ええ。まさか出立前にファウス島に返却されてるとは思いませんでしたよ」

「そこはボルサリーノじゃないからね」

 

 

 島民に触られて困るのは俺も同じだしこれは少し簡単だったか。俺も誤爆はしたくない。

 

 ――で、残る1つがあのザマか。

 

 怒涛の如き無言の圧。寒いくらい垂れ流される冷気の中でダイナ岩を浮かせる保護液ごと凍らせたウニみたいな氷のオブジェを抱いた男がいた。題名は「爆発3秒前」かな?

 

 

「いやぁ、白ひげは強敵でしたねクザン君! おつかれ」

「全部あんたの所為でしょォ!? てかコレどうすんの!?」

 

 

 わかってるくせに。君しか冷やせないでしょ?

 

 

「あ・げ・る♡」

「いらんわッ!」

 

 

 一応、起爆には『衝撃』と『酸素』が必要なので液ごと凍ってる間は問題ないハズ。だが他に方法がないので暫く君の抱き枕だ。仲よくするよう言いつけて俺は部屋から退散する。

 

 最中(さなか)、クザンに呼び止められた。

 もしかして〝気がついた〟?

 

 

「なにかにゃ?」

「……この通り、この爆弾は凍れば止まる。初めから欠陥品だった」

 

 

 ま、()()でもそうだったからね。

 

 

「止めようと思えば止められる……なのにおれを同行させた。()()()()ことも、何もかもが予定通りだったんですか……?」

 

 

 なんて読解力のない野暮な質問。けれど、野暮でも、面白そうだし振り返り、面白そうな言葉を投げる。

 

 

「だから言ったろ〝頭が一つじゃ後ろが見えん〟と。マスターキー君?」

「じゃあまさか――ッ!」

「助かった。ナイス判断(はんぎゃく)だったよ」

 

 

 いい表情で凍りつく氷結男とその同僚。

 やはり()()()は動いてこそ。

 本当に酷な話。動作不良は困るのに、傀儡になってもそれはそれでつまらない。お人形遊びより、お人間遊びの方が好きなのだ。

 

 ――って最近知った。

 これも全部「白ひげ」って奴のせいなんだ!

 だから、こういうイレギュラーも好きである。

 

 

「――待ってたわ」

 

 

 待たせたようだ。

 野郎共を捨て置いて確認しに行った大事な首輪は、やはり()()()()()()。あーあ。こりゃ妹ズもだな。

 

 

「白ひげかな? いや、その方がずっと可愛いよ。ハンコックおねーちゃん?」

「……は? な、なに馬鹿なこと言ってるの……そんなことより、()()()()わね? 覇気で首輪が外せるの」

「知識はね。一か八かで爆死される身にもなってよ」

 

 

 今更取り繕って何になる。既に彼女の中で俺は「腹黒性悪貴族」とかだろうし。

 

 

「そう……でももう自由よ」

「だね〜」

「…………い、いいの?」

「えー、全部白ひげのせいなんだからどーしょもなくない?」

 

 

 だから()()()()()は想定済み。だーから寝たくなかったのに、オイシイとこ全部持って行きやがってあのクソジジイ!

 

 んだらば目的(オマケ)の確認だ。

 九蛇にとって美とは強さ。であれば世界最強に勝った俺は世界最強にふつくしい……ってことにならんかなと密かな好感度アップを狙ったが……やっぱダメかな。

 

 ……ダメかなぁぁぁ?

 

 男性嫌悪、飛んで男性恐怖症にキスするラッキーアクシデントはあったけどそれを踏み越えて作戦に参加したのだからそれなりの信頼はある筈なんだが……

 

 多少食い下がるようにハンコックの顔を覗き見るがその顔は感情を押し殺したように硬い。こりゃ監禁コースですかねぇ?

 

 

「それでぇ? 自由を手に入れたおねーちゃんはどうしたいのかにゃあ?」

「そ、それは……その」

 

 

 できれば()()が良かったが七武海じゃなくてもいいかな〜?

 

 

「〝言い淀んだ〟ね。〝言い淀む〟ってのは迷いがある。胸を張れないなら止めたほうが身のためだ」

「……かもしれないわね」

「? ……逆に聞くけどそれでいいの? もっと自己主張してみたら? 援助くらいはするけれど……」

 

 

 ……〝また〟だ。なんだろう、この違和感は。

 認識と実態の乖離。予測のズレ。主にハンコックの行動が俺の知るソレじゃない。原因はキスだろうが、踏まえた上で尚ズレるのは参照データ自体が既に間違ってるからだろう。

 

 データ――つまり原作。()と原作で彼女のなにが違う?

 

 その意図した鉄面皮は何の為か。射抜くように見つめ続けると彼女の瞳が揺れだした。否。目だけじゃない。全体的に落ち着きが消えて頬が朱に染まる――――朱?

 

 男嫌いが、睨め付けられて、なんで赤くなんの?

 ……これなんか好感度バグってね?

 

 

「……で、結局どうしたいの? 〝自由〟なんでしょ?」

「そう、ね……リリーに帰りたい……けど今戻っても変わらないわ」

「変わらない? 変わりたいの?」

「こうなったのはわたしの弱さだもの……強くならなきゃ。そう、だから…………もう少しあなたの所にいてもいいかしら」

「…………ついて来る気!?」

「なに、嫌なの?」

 

 

 これやっぱ好感度バグってんな。

 

 全体的に恥じらう乙女は初恋模様。それ自体は都合が良いが、しかし解せない。男嫌いがなんで――……〝男嫌い〟?

 もしや男に嫌悪を抱いていない?

 それこそあり得ない……の、か?

 まさかチャルロスが手を抜いた――――いや、違う!

 

 

 彼女は天竜人(チャルロス)の所に()()いた!?

 

 

 原作では最低数年。逃亡時既に『女』として成熟していたが()の彼女はまだ12。乳臭いガキである。それはそれで大好物だがそもそも持ち主(チャルロス)4歳児(おないどし)――

 

 男性嫌悪のその前に、よもや『男』をご存知ない!?

 あなや。まさかの初心(おぼ)コック!?

 

 だとすれば元より恋愛関係ポンコッツな彼女唯一の好感度ブレーキが存在しないことになり下がってる前提で上げたつもりが知らぬ間に天元突破してもおかしくない。

 

 素晴らしい!

 

 

「へぇ……ボクと一緒に居たいんだぁ。そっかぁ」

「な、なによその顔は! 言っとくけどあなた別に〝勝って〟ないからね! 全く、最初から痛み分けが目的なんて……!」

「けど君の思う『強さ』にボクは影響あるわけだ」

「ん……! まあ……方法はアレだけど、結果はアレだし……そういう『強さ』も知った方がいいかなって……!」

「そうだね〜。対策するにも知識いるしね〜!」

「………………だから、嫌なの!?」

「ごめん()()笑顔なの」

 

 

 愛だの恋だのショージキようわからんがその中毒性は肉欲(おっぱい)と似たり寄ったりで一回くらい破産しないと目が覚めない。

 であるなら、生かさず殺さず、恋の奴隷(ラジコン)として使い倒すまで。勝ったなガハハ!

 

 

「それで……どうなの?」

 

 

 ああ、なんと言うことか。あのハンコックが拾って3日、信頼と疑心の狭間で肉をねだる犬のよう。こうなりゃ全てがいじらしい!

 答えは当然「YES!」しかないが、それでは(しつけ)にならんのよ。恋愛においても絶対的な上下関係を叩き込まねば。(支配したがり)

 

 

「……条件がある。君そのものがボクを吹き飛ばす爆弾なのはわかるかな? 来たいなら、一時的に〝九蛇〟も〝ボア〟も捨ててくれ」

「……〝奴隷に戻れ〟っていうの?」

「いや『妻』になって欲しい」

「…………はい? ……え? 今なんて……!?」

 

 

 だから『妻』になって欲しい。

 それが最も合理的で楽な処置である――と言いかけたあたりで夏場の太陽みたいになったハンコックから「シュー」と煙が噴き出した。ギアセカンドかな?

 

 

「勘違いするなよ、これは『契約』だ」

 

 

 灼熱暴走フリーズ状態で聞いてるかも怪しいが、()()結婚する訳にいかない。故に、少女漫画でよくあるやつだ。

 

 目的の為の仮面夫婦がその関係性から次第に恋を意識して――

 

 くッッッそベタだが効果はてきめん。恋も愛も所詮は『心理』だ、心理的仮面(ペルソナ)は否が応でも作用する。元より好きは更なり。

 

 もはや実態などどうでもいい。意識したが最期、加速度的に増加する数多の勘違いが本心を塗りつぶし取って代わり多数の初恋を自爆させた地獄のブービートラップだ!

 さあ言えハンコック! 「愛します。一生どこへでもついていきます」と!

 

 「行きたい(YES)」と言えェ!!!!

 

 

「――ッごめんなさい! それはダメ!」

 

 

 NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?

 なんで!? なんで!? 好感度高かったじゃん!?

 ……………………え、本当になんで?

 

 

「え……なんで……!?」

「……だから……やっぱりダメなのよ、それは……()()()()()()結婚なんてやっぱりダメっ!!」

「ふぁ!?」

 

 

 女の子……同士?

 誰よその女!?

 

 全てを置き去りにハンコックだけが加速する世界で俺は振られた。……振られたんだよな? 振られた筈だが少女の好意は尚も消えない。

 

 

「あなたのこと、嫌いじゃないわ……初めは嫌だったけど」

 

 

 じゃあいいじゃん……

 

 

「その……ちゅー……せ、せっぷ……キ……口づけをされた時、嬉しかった……のだと思うわ。でもわからなくて、それがなにか。……あなたが〝ソニアやマリーで良い〟と言った時、すごく嫌だった」

 

 

 それを『嫉妬』と言うのだよ……!

 つまりは『好き』の裏返し!

 だったらいいじゃん……ッ!

 

 

「でも、この気持ちが『恋』だと知って、あなたも同じように不安だと聞かされた時……すごく嬉しいのに怖かった。だって九蛇でそれは通じない。わたしはまだ皇帝に……なりたいから!」

 

 

 ――だからごめんなさい。

 

 優しく俺を押しのけて廊下の先へと消えていくハンコック。彼女が残した言葉を整理するなら、これ〝女〟ってもしや俺か、俺のことか?

 俺は『女』だった!?

 ……あーそういうことね完全に理解した。(超速理解)

 

 

 そ……そう来たかァ〜〜〜〜ッッッ!!!

 

 

 

*1
イケてるおじさんの意

*2
金獅子のシキのアレ






※レリエル聖は男です


 あとがき

Q.遅かったじゃないか……
A.全ては前話まで含めた内容で「8000字くらいで1話に纏めたいな〜」と考えていた馬鹿のせいです。つまりは私。コメントは全てありがたく読んでいます、はい。


 以下余談
 本編で語らないだろうちょっとした裏設定

 レリエルの笑顔は覇気を抜いても元々アレ。特に相手を舐め腐ってると画風が藤田和日◯のダメなヤツの笑顔になる。
 フェイスレス 笑顔 で検索するとだいたいそれ。

ちな↑で書いたBGMのシチュエーションは上から順に「日常(悪巧み中)」「上司が暴れ出した海兵の心境(垂れ流される覇王色を添えて)」「楽しい蹂躙」「レリエル劇場開演」みたいな感じ。
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