―エドラスから魔力が失われて、10年―
「―――すみません…
お聞きしたいことがあるのですが…」
城の門番に話し掛けたのは
淡い色のフードを深くかぶった女性だった…
フードの隙間からは隠し切れない
紺色の長い髪がサラサラと流れていた
「怪しい奴だな…」
「…この城に、ミストガ………
いえ、ジェラール陛下はおられますか?」
「…何故、お前のような不審者が
陛下に会おうとする…?」
「…私は17年前、親に捨てられ
路頭に迷っていたところを
陛下に救って頂きました…
だから…御礼を言いたいのです」
「………城に入ることは許すが
不審者として捕らえたということにさせてもらう…」
「はい、それで構いません…」
「では、着いて来い」
「はい…
(ミストガン……やっと、会えるんだね…)」
*~*~*~*~*~*~*
私はジェラール……エドラス王国の王だ
「……父上、何故…貴方は
あのようなことを言ったのですか…?」
*~*~*~*~*~*~*
少し前に連れ戻した父は病魔に蝕まれていた…
「おお……ジェラール、か…」
「父上…」
衰弱しきった体は…父の命が
もう長くないことを示していた…
「儂は、夢を見た…」
「夢…?」
「…10年前、儂の野望を砕いた3人の滅竜魔導士…」
「………」
「その中に…少女がいた筈だ…」
「…ウェンディがどうかしたのですか?」
「夢の中で…その少女が儂に語り掛けてきたのだ…
『もうすぐ、そっちに行くから…
だから…待っててね、ジェラール』と言っていた…」
「…!ウェンディが……?」
「…お前はあの少女のことを
今も尚、愛しているのだろう…?
……儂の…最期の……願い…だ…
せめて……幸せに………なりなさ………
…………………………」
私の手から父上の手が力なく滑り落ちた…
「っっ………父上っ!!」
何度呼びかけても返事はなかった…
私の父であり前国王でもあった
ファウストは……今、息を引き取った…
*~*~*~*~*~*~*
「……ウェンディ…
君は、本当に来る気なのか……?」
私の私室に向かって来る足音が聞こえた…
人数は……3人、か…?
2人は兵士、もう1人は……誰だ?
「…失礼します、陛下
不審者を捕まえたのですが…
この者はどう致しましょう…?」
「……………」
入ってきたのは兵士2人と
フードを表情が確認できない程深くかぶった
体のラインから女性と分かる少し小柄な人物…
女性のフードからは紺色の長い髪が
サラサラと流れていた…
「………(まさか…)」
「……ミスト…ガン……なの…?」
「!」
女性の口から零れたのは、柔らかな声…
その人物が呼んだのはアースランドで
私が正体を隠す為に使っていた名で……
その声を聞いて、私は一歩、また一歩と歩み寄った…
「ミストガン…?何を言っているんだ、この女は!
この方は!ジェラール陛下だ!」
「…知っています
17年前…陛下は私にそう名乗ったのですから…」
「そうか……知った上で違う名を呼んだのか……
…その罪、万死に値する!」
兵の1人が剣を振り上げるのが見えた
「待て!」
剣の切っ先がフードの女性に………
「っウェンディ!!」
ウェンディが口元を緩めるのが分かった
隠し持っていたナイフで剣の矛先をずらし
剣が衣服を少し切り裂くのも構わず、
私の元へ走り寄ってきた…
「ミストガンっ!」
そう言ってウェンディは私に抱きついてきた…
勿論、私はそれをしっかりと受け止めた
抱きついた拍子にフードが外れ
隠されていた顔が露になった
鳶色の大きな瞳…
紅く上気した頬…
薔薇色の唇…
間違いなく、私が別れても尚
愛し続けたウェンディ・マーベルだった…
「陛下!その女からお離れ下さい!」
「…いや、この娘は私の知り合いだ
少し二人で話をする時間が欲しい……人払いを頼む」
「わ、わかりました!おい、行くぞ!」
「あ、ああ…」
兵士達は去って行った…
「……ミストガン…」
「ウェンディ……綺麗になったな…」
「ミストガンは…王様っぽくなったね」
「ところで、どうやって
アースランドからエドラスに来たんだ…?」
「…空間を捩曲げる魔法を
ある魔導士に使って貰ったの…」
「そうか、妖精の尻尾の皆は…?」
「………」
「…ウェンディ?」
「私一人で来たの…」
「……一人で…?」
「…うん、皆…結婚したからね…」
「結婚?」
「ナツさんには幼なじみのリサーナさん
ルーシィさんには星霊でもあるロキさん
グレイさんにはジュビアさん
ミラさんにはフリードさん
エルフマンさんにはエバーグリーンさん
ガジルさんにはレビィさん
アルザックさんにはビスカさん
そして、エルザさんには…
アースランドのジェラール…
…皆が幸せになっていくのを見て
私は胸が苦しくなっていくのが分かったの…
どうして私は幸せになれないんだろう…
アースランドにもジェラールはいるけれど
彼はエルザさんのことが好きだったから…
私が大好きだったジェラー………ん~ん、
ミストガンに会いたいな…って思ったの…」
「ウェンディ…」
「どうしたの?ミストガン」
「私は、ジェラールだ…」
「…え?」
「また昔のように…
ジェラールと呼んでくれないか…?」
「……ジェラー…ル…っ」
ウェンディは私の背中に腕を伸ばしてきた
「ウェンディ……リリーと…シャルル、
あの二人はどうしている?」
「リリーは相棒のガジルさんを見守ってるよ
シャルルとハッピーも結婚したんだ…」
「アースランドには…戻れるのか?」
「……戻る方法なんか無いよ…
妖精の尻尾を脱退して…
皆、少し悲しんでたけれど…
笑顔で送り出してくれた…
…あと、グランディーネと別れるのも辛かった…」
「グランディーネ?」
「天竜グランディーネ…
私に滅竜魔法を教えて育ててくれた…お母さん…」
「………」
「『どんなに離れてしまっても
例え一生会うことが出来なくても貴女は私の娘……
だから、幸せになりなさい』って…」
「ウェンディ……すまない…」
「…ジェラール……大好きだよ…」
「……私もだ…」
*~*~*~*~*~*~*
その後ウェンディを解放して
城の散歩をさせたのだが…
散歩を終えて帰ってきた
ウェンディは顔を真っ赤にしていた
……人払いを頼んだはずだったが何故か城中の人間に
一部始終を見られてしまったようで
かなりの人数に質問攻めにされたらしい…
『陛下にはこんな素敵な恋人がいたのか』やら
『結婚はいつですか』やら…
「……………」
「ウェンディ」
「…?」
「私と結婚してくれないか?」
「っっ………!!?」
顔がこれ以上ないという程真っ赤になった
「駄目か…?」
「ぇ……あ、その…っ!」
「…ウェンディ……」
「…ジェラー…ル?」
ウェンディの耳元に唇を寄せ…
「愛している」
そう囁いた…
直後に耳まで真っ赤になった
ウェンディは倒れてしまった
…すぐに返事を聞くことができなかったのは残念だが
目覚めた時の彼女の反応が楽しみで
自分のベッドにそっと横たわらせた…
ウェンディの額にキスを落とし
傍のソファーに腰掛け
彼女が目覚めるのを待つことにした…[newpage]
私は気絶したウェンディをまじまじと見ていた。
…そして、そんな私を扉から見ている城の者達……
私は『見るな』という意味を込めて睨んだ。
*~*~*~*~*~*~*
(グランディーネ……
どこ行ったの?グランディーネ…)
大好きな…突然いなくなってしまったグランディーネ
……泣いていた時、出会ったのは旅をしているという
男の子だった。名前は……ジェラール…。
大好きだった……ずっと一緒にいてもいいか
聞いてみたら、『勿論』と言ってくれた。
だから…信じてたの、ずっと一緒にいられるって……
…だけど、貴方は私に別れを告げた。
すごく辛かった……どうしてグランディーネも
ジェラールも私の元から去っていくのか、
わからなかった…
(……会いたいよ、ジェラール…っ!)
*~*~*~*~*~*~*
「…ん……」
「…ウェンディ、起きたのか?」
「…!ジェラールっ!!」
私は思わずジェラールに抱きついた。
「…ウェンディ…?」
「ジェラール…!」
「…どうか…したのか?」
「っ……!!」
夢の影響を受けて抱きついてしまったけれど、
私はそこでやっと思い出したの。
どうして気絶したのかを…
―私と結婚してくれないか?―
―愛している―
顔が赤くなっていくのがわかったから、
すぐにジェラールから離れた…
「ウェンディ?」
「ぁ、…う……」
「…エルザ・ナイトウォーカーはいるか?」
「何でしょうか」
「その扉の前にいる全員を
自分の持ち場に戻らせるんだ」
「わかりました」
「ウェンディ」
「………」
とりあえず私は顔を背けた。…けど、
ジェラールは背けた顔を指で持ち上げて……
固まってるとジェラールが顔を近づけてくるのが
見えたから、ベッドの奥へ逃げようとしたら
後頭部を押さえられて……唇同士が
触れる寸前で止まった。…目の前には
微笑んでいるジェラール…
「…驚いたか?」
「………」
ちょっとだけ…本当にちょっとだけ期待してたから
少し怒って頬を膨らませた。
「…嗚呼、なるほど…」
低く笑って、頬に唇を当てたジェラール
「………」
「唇がよかったんだな…?」
「っっ………!」
「ウェンディ……
言わないと何もわからないだろう?」
…とりあえず、アースランドでもエドラスでも、
ジェラールは変わらないんだなぁ…と思った。
どっちも本命に対して意地悪だから…
「…ウェンディ?」
「……………まだ、いい…」
「そうか…」
数回、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
「…ジェラール、私ね…まだ一応魔力はあるんだ」
「………」
「けど、使わないし使えない……使う気も無いの」
「……ウェンディ」
「もうエドラスは魔力が無い世界だから…」
「…ありがとう…」
「ジェラール…」
「なんだ?ウェン…っ」
一瞬だけジェラールの唇を塞いだ…
直後、多分離れないように後頭部に手を当てられた。
「……え…」
「…お返しだ」
唇を押し当てられた後、少しだけ舐められた…。
唇が離れて安心した瞬間、抱き寄せられた。
「…ジェラー…ル……」
「…愛している…」
何故か、すごく甘い声でそう言われた。
……心臓が、壊れそう…
「もう一度言う。…私と結婚してくれないか?」
「ジェラール……わ、私…」
「………」
「ジェラールの事が、好き……大好き…っ」
「…それは、承諾と受け取っていいのか?」
「………うん…っ」
「…嬉しいよ、ウェンディ」
「……すごく、恥ずかしい…っ」
「こういう事に慣れていないんだな…」
「うん、それに…っ」
私は外へと繋がる窓を指差した。そこには、
沢山の人がこっちを凝視している姿があるから…
「………ね?」
「………ああ…」
ジェラールが遠い目をしていた。チャンスだと思って
ジェラールの頬にキスをしようとしたら、
すぐに気付かれて片腕を掴まれて……
頬を舐められた後、キスされた…。
…絶対にジェラールには敵わない、
そう思った瞬間でした…。
*~*~*~*~*~*~*
ジェラールは王様だから、
私だけに構っていられない……
ちょっと寂しかったけれど、
ジェラールの後ろ姿を見送った。
「……………」
…まだ私の部屋が無いからジェラールの部屋で
一月程過ごすことになるらしいけど………
それって、寝る時も…だよね…?
……幼い頃は毎日一緒に寝ていたけど、
今…一緒に…寝れるのかな…?
想像したら、目の前が真っ暗になった…
*~*~*~*~*~*~*
「…ディ……ウェンディ…」
「っ……?」
「大丈夫か?」
映ったのは、超至近距離のジェラールの顔
「……!!」
逃げようとしたけど、動けない……
理由は、お姫様抱っこされてるからで…
「ただいま、ウェンディ」
「……おかえり、なさい…」
ソファーに降ろしてもらえたから、気絶する直前に
考えた事を話すことにしたんだけど…
「ジェラール…」
「なんだ?」
「あの、本当に……
この部屋で一月も……一緒なの?」
「…嫌なのか?」
「い、嫌じゃないけど……
すごく…恥ずかしいから…っ」
「…ウェンディの意思次第で
別の部屋にすることもできる」
「!じゃ、じゃあ…」
「だが、そうなると俺は寂しいな…」
「!!」
少し悲しそうなジェラール……
そんな顔されたら断るなんて出来ないよ…っ
「ジェ、ジェラール…」
「どうした?」
「わ、私……一緒の部屋が、いいな…」
勇気を出してそう言うと
ジェラールは微笑んでくれた…
「ウェンディ…」
「…?」
「食事と入浴、どっちを先にしたい?」
「?…食事…」
「わかった、…入って来てくれ」
部屋に入って来たのは…
専属のコックさん?と豪華な料理で…
「陛下、この女性が…?」
「ああ」
「綺麗な御方ですね……
この方が王妃となるなら、皆も納得でしょう…」
王妃?……私が?王妃って何だったかな…?
…あ、王様のお嫁さんだ!
………ジェラールって、本当に王様なんだね…
「ようやく御結婚相手を決められましたか、
皆の苦労も浮かばれますな…」
「そうだな…」
「…ジェラールって、
どうして今まで結婚しなかったの?」
「…それは、」
「陛下が見合い話を断り続けたからですよ」
「え!?」
「『初恋の少女が忘れられない』と
言っておりましてな…」
「…あの、まさか……ジェラール…?」
「君の事に決まっているだろう?ウェンディ…」
「…!!」
体温が一気に急上昇した気がする。
「お熱いですな、
では邪魔物は退散するとしましょうか…」
ジェラールの顔を見てられなくて、
食事に集中することにした…
*~*~*~*~*~*~*
「美味しかった…」
「それはよかった」
「………」
ジェラールは食事をしている間、
殆ど私の顔だけを見ていた気がする…。
「ウェンディ」
「…?」
「一緒に入るか?」
「………何に?」
…なんとなく、答えはわかってた。
けど、当たらないで欲しかったの…
「バスルームだ」
当たって欲しくなかったのに…!!
「…え、遠慮します…」
「何故だ?」
「…アースランドから、
何も持って来れなかったから…」
要するに『着替えが無い』ということで……
『きっと諦めてくれる』
……この時の私はそう思っていた…
「………」
何か考えている様子のジェラール
「…ココの服を借りて来る」
「……えぇ!?」
ジェラールは部屋から出て行ってしまった。
…そんなに私と入りたいの!?
―数分後―
「ウェンディ……ウェンディ?」
とりあえず私はベッドの下に隠れていた。
…けれど、すぐに見つかってしまって…
「ココに何着か貸して貰った」
「ジェ、ジェラール……私、
今日はお風呂は…いいから…っ」
「…?」
「私、もう眠たくて…」
「…じゃあ、俺も寝ることにする」
どこに行っても爆弾しかない!!
確実に毎日これが続くんだよね…!?
…慣れないと、ダメ…だよね…
「………ジェラール」
「どうした?」
「先にお風呂、入ってて欲しいな…。
私、少し時間が経ったら入るから…」
「…わかった」
―数分後―
少し破れてしまったローブと下着を脱いで、
バスタオルを体に巻き付けてバスルームに向かった…
少し広い浴槽に浸かったジェラールがいた…。
………ジェラールも、オトコノヒトなんだね。
改めて実感して少し赤くなった…
「……………」
「ウェンディ、体でも流そうか?」
「だ、大丈夫!!」
ジェラールに背を向けて、スポンジに
ボディーソープを垂らした後、
泡立てて体に擦りつける。
…ただ、それだけの行為なのに
ジェラールの視線を感じる…。
ちょっと後ろを向いたら視線が合った。
…なんとなく気まずくなって体を洗う作業に戻った。
…暫くして、シャワーで体中の泡を落とした。
次は髪を洗わないと……シャンプーと
コンディショナーは見つかった。……頑張らないと!
*~*~*~*~*~*~*
シャワーで髪を洗い流して、
顔に付いた水滴を払うように
数回顔を横に振った。すると…
「…色っぽいな」
ジェラールがそう呟くのを聞いた。
…浴槽に入りたいけど、それはジェラールの傍に
行くということで……だけど、こういう事は
毎日続くだろうから慣れないといけなくて…っ
「っ…ジェラール」
「なんだ?」
「…私がそこにいる間、後ろ向いてて…」
「……………わかった…」
私はほっとして浴槽に体を沈めた。
ジェラールは言われた通りに
後ろを向いていてくれてる。…記憶にある限り、
彼の髪は跳ねてたけれど今のジェラールの髪は
まとまっていた。その髪に触れてみたいという衝動を
抑えて、浴槽から上がった。
「先に上がらせてもらうね…」
「ああ」
バスルームから出て着替えを済ませる。
部屋で暫く待ってるとジェラールが
バスローブ姿で上がってきた。
それを見た私は瞼を指で擦った…
「眠いのか?」
「……うん…」
「じゃあ、もう寝るか?」
「……うん…」
頷くとベッドに入るように促されたから、
ゆっくりと布団を体にかぶせた。
眠る為に瞼を閉じて……頭に何か硬い物が当たった。
何かと思ってみると、ジェラールの胸板…
「…俺の事は気にしなくていい」
「……………」
絶句する私をどう思ったのか、私を抱き寄せて…
頭を何度も撫でてくれた…。すごく恥ずかしいけれど
それと同時に同じくらい幸せ……
少しウトウトしてきて、瞼が重い…
「…おやすみ……ジェラー…ル……」
私はそう言って眠りについた…。
「おやすみ、ウェンディ…」
ジェラールがとても優しげな声で
そう言った事を私は知らない……
*~*~*~*~*~*~*
眠りについたウェンディ……
穏やかな寝息を立てて眠る彼女を見て
ふと昔の事を思い出した。
(そういえば、17年前も
こうして一緒に眠っていたな…)
紺色の髪に触れ、口付けた…
(随分と、大きくなったものだ…
あんなに幼かったというのに…)
思い出されるのは幼い彼女と旅した日々
そして…彼女をギルドに預け、別れたあの日………
仕方がなかった。自分はアニマを塞ぐ為に
アースランドに来ていたのだから……
まだ幼いウェンディを危険な事に巻き込むのは
駄目だと思った。だから……離別を選んだ。
「………すまなかった…」
だが、もう何があっても手放さない…
そう強く誓って眠りについた…
*~*~*~*~*~*~*
鳥の囀りで目が覚めた
腕の中にいるのは、幸せそうな寝顔のウェンディ……
自然と笑みが浮かぶのがわかった
「………さて」
ウェンディが起きてしまう前に
色々とやらなければならない事がある
早く済ませなければ…
*~*~*~*~*~*~*
「…っ………」
「起きたか?ウェンディ」
「…ジェラー…ル…?…あれ?ここは……」
「…まだ寝ぼけているようだな
顔を洗って、これに着替えて来るといい…」
「…うん」
*~*~*~*~*~*~*
蛇口を捻って水を出し、顔を洗った
(そうだ……私、エドラスに来たんだ…)
顔と手に付着した水滴をタオルで拭き取って
服を着替えた後、部屋に戻った。
「おはよう、ジェラール」
「…おはよう、ウェンディ」
ジェラールは余所行きと思われる服装で
サングラスをかけていた。
「ジェラール、どこかに出掛けるの?」
「ああ、ウェンディも来るだろう?」
「え……いいの?」
「というより、来てくれないと困るんだ
今日は君の為に出掛けるのだから…」
「私の為…?」
「主に君の衣服や下着を買おうと思っている」
「し、下着!?」
「君の下着を俺が買うのは流石に嫌だろう?」
「私も一緒に行く!」
「では、行こうか…」
「うん!」
差し延べられたジェラールの手を握った…
*~*~*~*~*~*~*
―城下街―
なんか、道行く人々に
ジロジロと見られている私達…
「……ジェラール。もしかして
私達の事…ばれてるの?」
「…ああ、私の事は確実にばれている。
だが、ウェンディ…君の事は知らないはずだ
だから…私と一緒にいる君が珍しいのだろう」
「そ、そっか…」
「………ウェンディ…」
「どうしたの?ジェラー…」
握っている手を突然引き寄せられて
バランスを崩した隙に唇を重ねられた。
………街中で、公衆の目の前で…
「ジェ、ジェラー……ル…っ」
唇を離された直後、私は体を離そうとしたけれど
ジェラールの力が弱まることはなくて…
施された2回目のキス
…けど、それは凄く荒々しくて……
舌を侵入させて絡ませる…
所謂ディープキスと呼ばれるものだった
「…ン………ふ…ッ」
離れたくても後頭部は押さえられていて……
角度を変えながら施される濃厚な口付け…
だんだん白い靄みたいのが見えてきて……って、
ダメ!このままじゃダメ!
躊躇ったけど、ジェラールの舌を少し強く噛んだ…
「っ……!」
ようやく離れてくれたジェラール
「…ジェ、ジェラールの…いじわる…っ」
「……すまない。だが、君が
あまりにも可愛らしかったのでな…」
「いきなりなんて、ひどいよ…」
「…例え街中であっても、
君に了承さえ得ればいいのか?」
「!!」
「…どうした?」
…ジェラールは、意地悪だ…
この10年で凄く意地悪になってる…
「…ウェンディ?」
「…いきなりで、いいけど……
あまり人目が無い所がいいな…」
そう言うとジェラールは嬉しそうに微笑んだ
「わかった」
「じゃあ、早く行こう…?」
一刻も早く、この好奇の視線から抜け出したくて
私は速足で歩き始めた…
*~*~*~*~*~*~*
衣服(と下着)を買ったんだけど、
とにかく私は一刻も早く帰りたかった
いや、だって衣服を買うのはともかく、
ジェラールはランジェリーショップにまで
着いて来たんだよ!?
恥ずかしいし恥ずかしいし恥ずかしいし……
下着を選ぶ所も見られるし………
ジェラールは『男性が女性に
服のプレゼントをするのは脱がせたいから』って……
帰っても何をされるかわからないよ~!!
助けて、グランディーネ…!
そんな事を思っていると…
「…大丈夫だ。君が
了承するまでは、絶対に手を出さないから…」
「…うん!」
安心してジェラールに抱きつくと、
離れようとした時に一瞬だけ唇を重ねられた。
「ウェンディ、愛している…」
「…私もだよ、ジェラール…」
二人で手を繋いで、帰る為に歩き出した…
(正直に言うと手を出したいのは山々だが、
こちらの一方的な気持ちでそういう事をするのは……
やはり互いの合意の上でなくてはな…)
ジェラールがそんな事を考えていたなんて、
私は知る由もなかった…
*~*~*~*~*~*~*
…今、私はジェラールと一緒に
バスルームの浴槽にいます。
さらに詳しく言うと、
後ろから抱きしめられている状態で……
ものすごく恥ずかしいです…。
早く、この状況から抜け出したい…
お互い殆ど裸で…
後ろから抱きしめられてるって、
なんだか危ない状況だと思うのは私だけかな…?
「…ウェンディ…」
「っ!!」
み、耳元で甘い声で囁かないで…!
すごく心臓に悪いよ…
「今、何を考えているんだ…?」
「…ジェラールは本当に意地悪になったね」
「ウェンディ限定だ…」
耳に息を吹き掛けられて
なんか背筋がゾクゾクした…
「ジェラー……っ!」
今度は耳朶を甘噛みされて軽く舐められた…
「…んっ……!」
必死に声を抑えると
聞こえてきたのはジェラールの笑い声…
「…感じたのか…?」
「!!ち、ちがっ…!」
「じゃあ、いちいち可愛い反応をしないでくれ…」
その後に付け加えられた言葉を聞いて
私は顔が真っ赤になるのを感じた…
―襲いたくなる…―
恐る恐る後ろを見ると、
そこには少し微笑んでいるジェラールが……
ただ、ちょっと目が変なだけで…
いや、身の危険を感じる程で……
「あの……ジェラール?
手は出さないって、言ってた…よね?」
「ああ、君が了承するまでは手を出さない」
確認して、少し安心したのも束の間…
「だが、我慢するのが大変なんだ…」
「は、離して!ジェラールっ」
「嫌だ、と言ったら…?」
「………手は、出さない?」
「…ああ、約束する」
「……なら、いいよ…」
「………こっちを向いてくれるか?」
「………うん…」
向かい合わせの状態で抱きしめられ、
黙ってしまったジェラール…
居心地悪いし、恥ずかしい…!
突然、体同士が離れて温もりが消えた。
何かと思って彼の名を呼ぼうとしたら
「ジェラー……っ!?」
胸元に、違和感…
見ると、ジェラールが私の胸元にキスを落としていた
バスタオルのすぐ上、胸を見られていないと
少し安心して……さらに違和感を感じた。
………吸われてる…?
え、ジェラール?手を出さないって
そういう事はしないってだけで、あの…
愛情表現はどんな事をしてでもするって事?
「…ジェラール、何…してるの?」
「………」
ジェラールの唇が胸元から離れた
私の胸元には紅い痕……
所有印とかキスマークとか
呼ばれるものが刻まれていた…
「……ジェラー…ル?あの……こ、これ…」
「君が俺のだという証拠だ」
「っ……!」
「…俺はそろそろ上がるが、
君は気持ちが少し落ち着いてから
上がって来るといい」
「……うん…」
バスルームから出て行ったジェラール
「……………」
胸元の所有印を指でなぞった。
感じるのは愛されている実感と幸福感…
「だけど、やっぱり
ジェラールは……意地悪になったね…」
そう呟いた後、
脱衣所から出て行くような音が聞こえたから
私も腰を上げて、脱衣所へ向かった…
*~*~*~*~*~*~*
パジャマを着て、髪を乾かしてから
ジェラールの待つ部屋に戻った。…だけど、
そこにいたのはバスローブ姿のジェラール
……そして、知らない紅い髪の女性だった…
「ジェラール様、何がしたいですか?
私(わたくし)、ジェラール様の為なら
何でもしますわよ?」
「………」
硬直して動けない私に気付いた女性は
「あらあら、こんな汚らわしい方が
王城にいるなんて……貴女は
お呼びではありませんことよ…!
すぐにこの城から出てお行きなさいっ!」
「………っ…」
涙が、零れ落ちた…
ジェラールに顔を見られたくなくて、
部屋から…城から走り去った…
「ウェンディっ!!」
ジェラールの引き止める声が
聞こえたけれど、無視して走り続けた…
*~*~*~*~*~*~*
走って走って走って……走り疲れて、
浅い呼吸をしながら、ゆっくりと歩く…
「……私、ジェラールと釣り合わないのかな…?」
シャルルがいてくれたなら
慰めの言葉をかけてくれたんだろうけど、
もう会うことはないから……
「………ジェラー…ル…っ」
涙が、溢れた…
とめどなく溢れて、止まってくれなくて…
「…わたしじゃ、だめ……なの…?」
「そんな事はない…」
「っ誰!?」
聞こえた声に驚いて、振り向かずに
少し大きな声でそう言うと
誰かに後ろから抱きしめられた
この、香りは……
「……ジェラー…ル?」
「…ああ」
「あの女の人は?親しいなら、
ちゃんと仲良くしないと……」
「…あの女性は見合いを断った者達の中の一人だ」
「……?」
「俺が一方的に断って腹が立ったのだろう。
城に押しかけるようになってな…
だが、君にプロポーズしたことを話した」
「………」
「…もう城に来ないよう言っておいた」
「………」
「…ウェンディ…?」
「……私……ジェラールと釣り合」
『釣り合わないよね』
そう言おうとしたら、強引に
体をジェラールの方に向かせられて
キスで言葉を封じられた…
「っ……!」
さらに涙が零れ落ちたのがわかった
「………そんな事はないと言っただろう…?
俺が君を選んだのだから……
『釣り合わない』というのは周りの勝手な意見だ。
君が気にする必要はない」
「……でも…っ」
「…ウェンディ、泣かないでくれ…」
そう言ってジェラールは
目尻に溜まった涙を舌で舐め取った後、
私の体を強く強く抱きすくめた
「……ジェラール…」
「…ウェンディ、何があっても
俺は君を手放すつもりはない」
「…あり、がと…っ」
私は知らなかったけれど、
その時ジェラールは冷たい目である一点を見ていた。
そこにいたのは、さっきの女性…
「……ジェラール、さま……お幸せに…っ」
女性がいなくなって
ジェラールは私を抱く力を強めた…
「っ…ジェラール…?」
「…ウェンディ、
悲しい思いをさせてしまってすまない…」
「大丈夫だよ…」
「……そうか」
「……ちょっと、苦しい…」
「すまない…」
*~*~*~*~*~*~*
「…ウェンディ、安心して眠るといい…
君は…俺が守るから……」
「……ジェラール、あの……」
「どうした?」
「…覆いかぶさられてる状態で
私が眠れると思うの…?」
「………すまないが、
今日一日我慢してくれると助かる」
「……わかったけど…
恥ずかしくて眠れないよ…」
「………早く眠らないと…」
ジェラールは私のキャミソールの内側に
手を侵入させて、ブラジャーで隠されている
胸を撫で回した…
「…今から俺が
しようとしていることは、理解できるだろう…?」
「っ…ジェラールは
そんなことしないって信じてるから…」
そう言うと、ジェラールは笑みを浮かべた。
「…我慢の限界かもしれない…」
ブラジャーの外側にあった
ジェラールの手が少し内側に入っ、て…?
「ジェラールっ!?」
混乱してきて、彼の名を呼んだ直後、
唇を塞がれて……舌で唇を舐め上げられた…
一旦離れたジェラール…
……私、すごくドキドキしてる……だけど、
「ジェラール、眠れば…いいんだよね?」
「……………ああ」
「私…寝る事にするから、あの…
できれば、離れて…欲しいな…」
「………嫌だ」
そう言ってジェラールは私の胸に触れていた手を
服の内側から引き抜いた…
「ウェンディの姿を真近で見ていたい」
「……わかった、この状態で寝てみる…」
「……ああ」
「お、おやすみ…」
体を撫で回されたり、
あちこちにキスされたりするのを
必死に我慢し続けて、いつの間にか私は眠っていた…
―ジェラール視点―
ウェンディが眠ってしまった…
「………」
彼女から体を離して
隣で仰向けの状態で天井を見上げる。
(………明日から、
ちゃんと我慢できるか不安でならない…)
隣のウェンディの寝顔を見た。
(眠ってくれなかったら、恐らく………)
…とにかく精神的に強くなろう。
そう思って、寝る事だけに集中した…
*~*~*~*~*~*~*
…目が覚めた。
少し暗いが、どうやら朝になったらしい…
隣に寝ているウェンディを見た。
………昨晩、襲いかけたからか
罪悪感しか沸いて来ない…
もう少し一緒に眠っていたいが、
……俺が何をするかわからない…
名残惜しいが、ベッドから起き上がり、
衣服を着替え、書き置きを残して部屋から立ち去った
*~*~*~*~*~*~*
「……ん…」
目覚めると、隣にいたジェラールがいない…
「………」
少し沈んでたら、書き置きを見つけた…
「『行ってくる
昨晩はすまなかった』…?」
昨晩?昨晩、昨ば………
………絶対、思い出さない方がよかった…!
とりあえず、買って貰った服に着替えたけど
「………」
退屈で…否応なしに思い出してしまうのは
昨晩……寝る直前に、襲われかけた時の事…
「………っっ」
お風呂では、まだ大丈夫だったのに…!
……あれ?私、お風呂で何かされたような…
―君が俺のだという証拠だ―
「っ……!!」
確認の為にキャミソールの下の肌、
胸元を見ると…紅い痕があった…
「これって………キスマーク、だよ…ね?」
普段は見えない場所に付けてくれた事は
嬉しいけど、その…気付くと恥ずかしい…!
多分、私の顔は耳まで真っ赤だと思う…
今日、ジェラールとどんな顔して話せばいいの…!?
*~*~*~*~*~*~*
今日分の仕事が終わって私室に戻るところなんだが…
ウェンディにどのような
顔をすればいいのか全くわからない…
……共に入浴する事や寝る事は
はっきり言って、かなり……きつい…
まだ初日は大丈夫だった。
だが、昨晩から非常にまずい事になっている。
「………」
あれこれ考えている間に
私室に着いてしまった。仕方ない…
「…ウェンディ、いるか?」
扉を開けてそう言った瞬間、
窓の外から僅かに音がした。
「……………」
ウェンディは確実にベランダにいる。
…一応、話をしなくては…
出来る限り平常心を保つんだ…
*~*~*~*~*~*~*
「………ジェラール」
「ウェンディ」
「…どうかしたの?」
私は笑ってみた。
けど、絶対上手く笑えてない…
「…別の部屋に移りたいか?」
「……え?どうして…?」
「(…そんな風に聞かれても困るんだが…)
…また昨晩のような事が起こりかねない」
「…!」
「まだ、嫌だろう…?」
「………………ジェラールの事は大好き…
だけど、離れるのは寂しいから嫌だよ…」
「また、ああいう事になってもいいのか?」
「……一緒にお風呂に入るのも眠るのも、
すごく恥ずかしいけれど、ジェラールの事が
大好きって気持ちの方が強いから…」
「(…すぐにでも押し倒したい…)
……このままで、いいんだな?」
「……うん」
「………結婚するまでは、何とか我慢する」
「……け、結婚…」
「…どうした?」
「…私が赤くなる原因とか
わかってて聞いてる、よね…?」
「…どうだろうな…」
「ジェラールのいじわ…っ」
体を抱き寄せられて、一瞬キスをされた…
「…部屋に戻ろう
(何とか、我慢しなくては…!)」
「………うん」
ジェラールは本当に意地悪というか…
少し、Sなのかな…?
まあ、どんなジェラールでも大好きだけど、
やり過ぎないでね…?
幻のバレンタイン
―10年前、アースランドの妖精の尻尾―
今日は、バレンタインデー
好きな男の人に気持ちを込めた
チョコレートをあげる日で……
「…できた…っ」
他の皆さんは、もうチョコを作り終えていて、
私は……ようやく作る事ができて…
他の皆さんに好きな人がいるように、
私にも…好きな人が……会いたい人がいる…
「……ミストガン…」
だけど、彼は別の世界の人で……
エドラスに戻ってしまったから、
もう…会いたいと思っても……
「どうしたの?ウェンディ」
「シャルル……ハッピーにはチョコ、渡せたの?」
必死に笑顔を作って、尋ねた。
「なっ!どうして私がハッピーなんかに…!」
「傍にいるんだから、
ちゃんと渡さないとダメだよ…?」
―いなくなってからじゃ、もう遅いから…―
「…ウェンディ」
「なぁに?」
「そのチョコ……」
「っ!!」
遅いだろうけど、急いで後ろ手に隠した。
「……それ、ジェラールって奴に渡す気?」
「…『ジェラール』には、エルザさんがいるよ?」
「違うわよ、もう一人の方」
「!」
「…ミストガン…だったわね」
「……渡せないよ…」
「ウェンディ…」
「…ごめんね、シャルル……
私、少し一人になりたいの…」
「わかったわ……ごめんね…」
ラッピングしたチョコを傍に置いて、
いつの間にか私は眠っていた…
*~*~*~*~*~*~*
「………」
自分が眠りに落ちているのが分かった。
…だが―――…自分がいるのは、
アースランドの妖精の尻尾……それも、
ウェンディの部屋で……しかも何故か
自分は昔のように複数の杖を背負っていて……
「……ウェン…ディ…?」
「………」
眠る彼女の頬には涙の跡があった…
ふと、可愛らしくラッピングされた
小さな箱が目に入った。
「…これは……」
「……ジェラー……ル……」
「!」
「……会いたい…よ……」
「ウェンディ…」
ラッピングを解き、箱を開けると…
『ジェラール ずっと大好きだよ』
と書かれたチョコが姿を現した。
「………ありがとう、ウェンディ…」
チョコにかじりつくと、広がったのは
甘味と、その中に潜む僅かな苦味…
「………」
杖を持っているという事は
恐らく今だけは魔法が扱えるはず…
俺は眠る彼女に、手紙を書いた…
*~*~*~*~*~*~*
「……ん…」
私、寝ちゃってたんだ……あれ?
チョコの箱が空になってる…
……仕方ないよね、渡す事はできないから…
「……?」
なんで手紙が浮いてるの…?
私はその手紙を取って、読んだ…
書かれていたのは………
『君が眠っている間に
チョコを食べさせてもらった。
とても、美味しかった……
俺も、君の事が好きだ
ミストガン』
「………え…」
次の瞬間、感じたのは…
ミストガン……ジェラールの、匂いで…
―…また、いつか会えるといいな…―
「っジェラール…?」
匂いはすぐに消えてしまったけれど、
確かに聞こえたジェラールの声…
「……ジェラール…、
私……絶対に会いに行くから…。
だから…待っててね…?」
私がアースランドから
エドラスに渡る事になるのは、
それから約10年後の事だった…
チョコに込めた想いと……
「ジェラール……喜んで、くれるかな…?」
今日はバレンタインデー
好きな人にチョコをあげる日…
私は頑張って
チョコレートケーキを作ってみたんだけど……
「誕生日でもないのに、おかしくないかな…」
バレンタイン…といえば、
10年程前…不思議な事があった…
渡せるはずがないチョコを作った私は
自分の部屋で眠ってしまって……
起きたら、作ったはずのチョコが無くなっていて……
ミストガン…ジェラールからの
手紙があって、彼の声も聞こえて……
すごく嬉しく思ったのを覚えてる…
「…ジェラール…」
思い出して、幸せな気持ちになった…
「ウェンディ様、ちゃんと作れましたか…?」
「はいっ!」
「それはよかった……ささ、陛下がお待ちです」
「…え?」
「お部屋へお急ぎ下さい」
「あ、あの…?」
…よく分からなかったけれど、
ケーキが入った箱を持って部屋に急いだ…
*~*~*~*~*~*~*
「………ジェ、ジェラール…」
「…どうした?」
「あの、ね………その…っ」
「……」
「…今日は、何の日か…分かる…?」
「バレンタインデーだろう」
「っ……!!」
私は恥ずかしさのあまり、
ケーキの箱を無言で突き出した。
「…ウェンディ?」
「…っ……」
「…口で言ってくれないと、
何も分からないだろう…?」
耳元で囁かれて、顔が赤くなって……
「…バレンタインの、チョコ…」
「ああ、それで…?」
「?」
「義理か、本命……どっちだ?」
「っっ……!!」
―ジェラールの意地悪っ!!―
「っ……本命、だよ…?」
「…よく言ってくれた。
本当に…嬉しいよ………ただ、」
「…?」
「俺達のこういう所を覗き見するのが
城の者達の楽しみというのが………」
「……………え?」
見ると、窓や扉の隙間に沢山の人達が…!
「見せつけてみるか…?」
「……はい?」
「俺達の愛情の深さについてだが…」
―もう、無理だよ…―
そこまでの記憶を最後に、
私の意識は完全に途切れた…
*~*~*~*~*~*~*
………私は今、
ウェディングドレスを脱いでいる最中です。
り、理由は……ジェラールと、その…
結婚、したからで……っ
ジェラールが結婚を決めるまでの時間が
すごく早かった気が………決断して、
行動して……もう、あっという間で…
「終わりましたよ、ウェンディ様」
「!ありがとうございます…」
「是非、陛下と幸せになって下さいね!」
「はい…!」
元の服に着替えて外に出ると
「お姉さん、一人?」
「…?」
現れたのは、白髪の青年だった。
「ねぇ、一人?」
「…大切な人を待っている最中です」
「そんな奴よりさぁ、俺と遊ばない?」
「嫌です」
「そんな冷たい事言わないでさぁ…」
「っ!」
左腕を強く掴まれた。
振り解こうとしても、全然ダメで…
「…遊ぶって、何をするんですか?」
嫌な予感しかしないけど、聞いてみた。
「ん?ラブホでヤるに決まってんじゃん♪」
「は、離して!」
「離す訳ないだろ?」
気付かれないように懐からナイフを抜いて……
「あ…っ!」
気付かれてナイフを奪われた。
「せっかくお姉さん綺麗なんだから、
こんなの物騒なの持ってちゃダメじゃん♪
罰として、ここでヤらせてもらお~♪」
「!!」
青年が私を押し倒して服に手を伸ばす…
「…ジェラール…っ」
「…ん?なんで王様の事、呼び捨てにしてんの?
あっ!もしかして王様の彼女!?」
「ジェラール、たすけて…っ」
「そんな人を襲えるなんて光栄だな~♪」
上着が切り裂かれた…
「っっ―――…!!」
「じゃ、いただきま~…」
(ジェラール…っ)
目を閉じてジェラールの事を思い浮かべた。
………すると…
「がっ!?」
青年が倒れてきた。
「………?」
誰かが青年を持ち上げて道端に放り投げた。
見えたのは青色の髪と
顔の右側の特徴的な赤い刺青…
「…大丈夫か?ウェンディ」
「ジェラー…ル…っ!」
すごく嬉しくて…思わずジェラールに抱き着いた。
「……帰ろう」
そう言ってジェラールは
羽織っていた上着を私にかけてくれた…
「…心配かけて、ごめんなさい…」
「………」
「…ジェラール、やっぱり怒ってるの?」
「……いや…」
「………」
お互い、ほぼ無言で城に帰った…
*~*~*~*~*~*~*
―バスルーム―
ジェラールに後ろから抱きしめられてます…
「ジェラール……何か喋ろう…?」
「………ウェンディ」
「?」
「君を誰かに取られるのは、我慢ならない」
「…私も、ジェラールじゃないと嫌…」
「…嬉しい事を言ってくれるな…」
「私…ジェラールと結婚できて、すごく幸せ…」
「…結婚、か…」
「…?」
「…もう、我慢しなくていいだろう…?」
「っ!」
ジェラールの手が胸に触れた…
「ジェ、ジェラー…っ」
「…こっちを向いてくれるか?」
「う、うん…」
ジェラールの方を向くと、一瞬キスをされた…
「…続きはベッドで…」
「……っっ」
*~*~*~*~*~*~*
私が先に上がって待つ事になりました。
……これまでにない程にドキドキしてます…
体温が急上昇している気さえして…
「待たせたな…」
「っ!」
そこにいたのはバスローブ姿のジェラール…
ジェラールは私の前に立つと
瞼、頬、額、そして…唇にキスをしてきた。
唇にキスをした時、ジェラールは
私の後頭部に手を添えて…ベッドに押し倒した。
ベッドのスプリングが軋んだ気がした。
私に深い口付けをしながらも、
片手で器用に私の服を脱がしてくジェラール…
「…ン……んん…っ」
「………」
唇を離す際に、舌を強く吸われて、
私は少しびっくりして固まってしまった…
唇が離れると、舌同士が
銀色の糸で繋がってるのがわかった…
ジェラールはコツン、と額を合わせて
「…ウェンディ…」
「…ジェラー…ル…」
彼の仄暗い瞳が眼前に広がってる…
「覚悟は、できているか?」
「………」
私は返事の代わりに
一瞬、唇を押し当てて精一杯笑った…
「…あまり優しくできないかもしれない…」
「…それでも、大丈夫だよ…」
「……ありがとう…」
…それから先は、覚えてはいるけれど、
恥ずかしくて…幸せな時間でした…。
…ジェラールは、すごく…激しかったです。
彼とずっと一緒にいられる。
そう思うと、とても幸せで…
例え何があっても、ずっと大好き…
ううん、愛してるからね?ジェラールっ!
*~*~*~*~*~*~*
「……………」
ウェンディは初めてだろうから
出来れば優しくしたかったのだが、
途中から歯止めが効かなくなった。
途中から……………
いや、思い出すのは止めておこう…
「…ウェンディ…」
堪らなく愛しい存在……大切に、したい…
眠るウェンディを抱き寄せ、瞼を閉じる。
「…おやすみ…」
そう呟いて、俺も眠りについた。
*~*~*~*~*~*~*
「…っ………」
目が開いた…。ぼんやりとした意識で
温もりが傍にあるのが嬉しくて、
ジェラールに擦り寄った…
(まだ、寝てるのかな…)
ジェラールの顔を見ようとして、固まった。
理由は、お互い上半身裸だったからで…
昨晩何をしたか、一瞬で思い出した。
「っっ………」
ジェラールに抱きしめられている中で、
私はなんとかこの状況から
抜け出そうとしたんだけど………
「……ウェンディ…?」
「っ!!」
「今日は起きるのが随分と早いな…」
「…ジェラール…」
「どうした?」
「あの……下着、だけでも…」
「………」
「恥ずかしい、から…」
「……ダメだ」
「ジェ、ジェラー…」
一瞬の口付けの後、
「…何もかも見せ合ったのだから
今更恥ずかしがる事も無いだろう…?」
そう囁かれて、私は真っ赤になった。
「昨日は、とても可愛らしかった…」
「……ジェラールは、今度から
もう少し優しくして欲しいな…
今、すごく腰が痛いの…」
「…努力はする」
「……ジェラール…」
「なんだ?」
「何か…胸を隠せる物が欲しい…」
「…布団で十分だろう?
俺はウェンディの裸体を
誰にも見せる気は無いから大丈夫だ」
「…何が、大丈夫なの?」
「他の者達に見られる心配は無い」
「………ジェラールでも、恥ずかしいよ…」
「何もかも見せ合った仲だろう?」
「で、でも…っ」
「…それ以上言うと、また手を出すぞ?」
「……!!」
仕方なく、口を噤んだ…
「いい子だ…」
頭を撫でられて、囁かれる。
「起きるのは、まだ早い。もう少し寝るか…?」
「……うん…」
「………」
ジェラールは少し微笑んで、
私に数回啄むようなキスをしてきた…
「おやすみ、ウェンディ…」
「…おやすみ、ジェラール…」
私は顔を赤くして、目を閉じた。
大好きなジェラール……
ずっと、ず~っと一緒にいようね!
間接キスとプレゼント
今日はホワイトデー…
妻となったウェンディにバレンタインの
お返しをと考えているんだが……
―バレンタインデーのウェンディが気絶した後―
気絶したウェンディと、彼女が
持っていたケーキの箱を抱き留めて…
睨んで『見るな』と訴えても
観衆(城の者達)には効果がなく……
「………ウェンディ…」
「………」
真っ赤になった彼女は可愛らしいが、
俺は彼女を起こすために
「早く起きないと手を出すぞ」
観衆がどよめいたが、そんなことは関係ない
「っ!!」
目の前の鳶色の瞳は見開かれていて…
「ようやく起きたか」
「……っ…」
「ウェンディ、ケーキを一緒に食べないか?」
「……うん」
ケーキの箱を開けると
表面に『大好き』と書かれていた
「……」
少し笑みが浮かんだ…
ナイフで切り分けず、スプーンで
少し掬い取り、口に運んだ…
「……」
真剣に俺を見ているウェンディ
「…腕を上げたな…」
「…!」
はにかんだウェンディの口元に先程
俺が使ったスプーンで掬い取ったケーキを近づけた…
「………ジェラール……何、かな?」
「食べるだろう?」
「いや、あの……
それはジェラールのために作った…」
「俺一人では食べ切れそうにない」
「………」
「…ウェンディ」
「………っ!」
真っ赤な顔で口を開けて、スプーンに乗ったケーキを
素早い動作で取り、すぐに口を離したウェンディ
…俺はウェンディが先程口に含んだ、
何も乗っていないスプーンを
自らの口に運び、再び口に含んだ…
予想通り、動きを止めたウェンディ
…まぁ、間接キスをしている訳だからな……
観衆の目の前で、『見せ付ける』のは実に簡単だ…
キョロキョロと何かを探しているウェンディだが、
探しているであろう別のスプーンは生憎、
今日はこの部屋に置いていない。
口に含んだスプーンを引き抜き、
再びケーキを掬い取って彼女の口元に運んだ――…
*~*~*~*~*~*~*
あの日は幸せだった…
普段の何倍もの時間をかけながらも
ケーキを一緒に食べてくれた彼女は
最後まで真っ赤な顔をしていて
本当に可愛らしかった…
「………」
何故か可愛らしい服を買いたくなった。
よし、買って来よう。
……ウェンディのためではなく、自分のために
やっているような気がするのは気のせいか…?
*~*~*~*~*~*~*
色々買って、部屋に戻って来た。
…正直、何故買うことになったのだろうと
思い始めているし、ウェンディの反応が不安だ…
「………」
扉を開けようとして、後ろから声が聞こえた。
「ジェラール、おかえり!」
「ウェンディ…」
「…?」
「バレンタインのお返しをと思っていたんだが…」
「何か買って来てくれたの?見せて!」
無言で袋に入れていた一応
ラッピングをしてもらった箱を渡した。
「部屋に入ってから開けてくれ…」
「うん!」
*~*~*~*~*~*~*
「………」
絶句されるのはわかっていた。
何故ならプレゼントは
『メイド服』と『猫耳&尻尾』で…
「………ジェラール?」
「……それらは着なくていいし、捨てても構わない。
…もう一つ、あるだろう…?」
「…?……ぁ…」
先程の二つは軽い冗談のつもりだったが……
買ったら買ったで、何か……
まぁ、残る一つは相当選んで決めた。
「…ドレ、ス……?」
「王妃なのだから、民の前に出る際には…っ」
言葉の途中で抱き付かれた。
「嬉しい…!」
「…喜んでもらえて何よりだ…」
「これもちゃんと着るから安心してねっ!」
そう言って彼女は先程の二つを持って行って……
「……ああ、楽しみにしている」
……あれらは買わない方が
よかったかもしれないな……
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