Dark Matter In Fairy Tail 作:bbbb.
一話
「…」
垣根はゆっくりと身体を起こし、周りを見渡す。そこは緑が広がる広大な草原だった。辺りは暗く、空に浮かぶ月がその光で草原を照らしていた。そして背後を振り返ると、そこには一本の大きな木が立っていた。どうやら自分は草原の木陰で一眠りしてしまったらしい。
「いやどこだよここ」
垣根は訝しげに呟く。草原で居眠りなどした記憶は無く、そもそも学園都市にこんな大きな草原はない。垣根は自分が寝る前の記憶を辿りながらその場で立ち上がり、再び辺りを見渡すもやはり垣根には全く馴染みのない場所であった。
「…ったくどうなってんだよ」
何が起きているのか混乱していたが、とりあえず辺りを散策するために歩き出した垣根。しばらく草原の中を歩いていると突然草原が途切れ、見晴らしが良く開けた場所に出た。垣根はそのまま眼下の景色を見下ろした。
「おいおい、こりゃ一体なんの冗談だ?」
驚いた様子で言葉を口にする垣根。垣根の目に飛び込んできたのは、ここから下って2km程の所に広がる見覚えのない街の姿だった。
「どういうことだ…?学園都市じゃない…?俺は今、学園都市の外にいるっつーことか?だが、だとしたらなぜ?俺はあの街から出た覚えはねぇぞ…」
次々と湧き上がってくる疑問を口にするが、その疑問に答えてくれる者は誰もいない。街を見下ろしながらしばらく考えていた垣根だったが、やがて心が決まると再び前を見据える。そして、
(とりあえずあの街で情報収集だな)
そう心の中で呟くと、垣根は山道を降りて街へと向かっていった。
◆
「ここは…ヨーロッパか?」
それは、垣根が街の中を見渡して最初に思い浮かんだ印象だった。家屋などの建造物の特徴や人々の話す言語がヨーロッパのそれとよく似ていたからだ。国としてはフランス辺りが一番近い雰囲気かもしれない。
(まだ全然よく分からんが、これで一つハッキリしたな。ここは学園都市じゃねぇ。それに、この街の奴らが使ってる言語が日本語じゃねぇってことは、ここは日本ですらねぇってことだ)
垣根は少ないながらも得られた情報を整理していく。どうやら垣根は知らず知らずのうちに外国に連れてこられてしまったらしい。またもや謎が深まっていく中、垣根は次の行動について考える。
(情報収集は人に聞き込むのが一番手っ取り早い。夜でも人が集まりそうな場所…酒場らへんを探すか)
素早く行動指針を立てた垣根は早速人が集まりそうな場所を探しに街の中を歩き出した。垣根は歩きながら改めて街の中に目を向ける。街の建物や人の話す言語も学園都市とは違うが、他にも人々が着ている服装も学園都市の人間とは違っていた。学園都市のものと似ていないというより、現代風でないと言った方が正確かもしれない。どこか昔の時代っぽさというものを垣根はこの街の至る所から感じていた。
(中世ヨーロッパにでもタイムスリップしてきた気分だな)
垣根は心の中で呟きながら歩を進める。すると、前方から一人の男がこちらの方に向かって必死に走ってくる姿が目に入った。そして、
「大変だぁ!!!ビーストが出たぞぉぉ!!!」
その男は大きな声で叫ぶ。垣根を含む道行く人々がその男に視線を集めていると、突然、
ボォォォォォォン!!
男が走ってきた方角から爆発音が鳴り響いた。人々が一斉に音の方角へ目を向けると、遠くの方から火の手と煙が空高く舞い上がっている光景が見えた。さらに、
ドォォォォン! ドォォォォォン!
連続して轟音が鳴り響く。呆然とした様子で人々がその場で立ち尽くす中、走ってきた男が一言、
「逃げろぉぉぉぉ!!!」
大声でそう叫ぶと、人々は悲鳴を上げながら一斉に走り始めた。
「キャアアァァァァ!!!」
「クソッ…!ビーストだと!?なんでこんな街中に!?」
「そういえば今日、フェアリーテイルの魔導士がビースト退治に向かったって…」
「きっと失敗したんだ!」
「逃げろぉぉ!ヤツに遭遇したら殺されるぞぉぉぉ!!」
悲鳴や怒声が飛び交い、人々は逃げ惑う。向こうから走ってきた男もまた、他の人々と同様に一刻も早く逃げ去ろうとしていたが、突如その腕を掴まれ動きを止められる。
「な、なんだよお前!?」
突然のことに驚いた様子を見せる男だったが、腕を掴んだ人物である垣根は構わうことなく男に質問した。
「おい、これはどういう状況だ?」
「はぁ?さっきも言っただろ。街の反対側でビーストが暴れてんだよ!」
「ビースト?なんだそりゃ」
「お前ビースト知らねぇのかよ!とんだお上りさんだな…」
男は驚きながらも呆れた様子でため息をつくと、早口で説明し始めた。
「獣の王ザ・ビースト。この辺の森に住んでる化け物の事だ。これまで何人もの魔導士がヤツの討伐に向かったが、生きて帰ってきたヤツはいない。それくらいヤバい化け物なんだよ」
「そんな化け物がなんでこの街に?」
「知るかよそんなもん!ただ、今日フェアリーテイルの魔導士三人がそのビースト討伐に向かっていった。もしかしたらそれが関係してんのかもな」
「フェアリーテイル?魔導士?なんだよそれ」
「はぁ?何馬鹿なこと言ってんだ?そんなことより早く逃げろ!じゃないとお前もビーストに食われちまうぞ!」
そう言って男は垣根の手を振りほどくと、人々と共に走り去っていった。走り去る男の背中を見ていた垣根はゆっくりと振り返り、街の反対側から立ち上る火の手や轟く雄叫びに意識を向けると、いつものように頭の中で演算を開始した。
「問題ねぇ。ちょいと懸念はあったが、どうやら能力は問題なく使えるらしい」
垣根がそう呟くと、
ファサッッ!!
突如垣根の背中から純白の白い翼が出現する。そして三対六枚の翼を広げると垣根の身体はゆっくりと宙に浮かんでいった。
「訳分かんねぇ所に来たと思ったらいきなりこれか。とんだ厄日だな今日は」
ブツクサ文句を言いつつも垣根は背中の翼をはためかせ、ビーストがいると思われる方角へ飛んでいった。
◆
「く…っ!?」
銀髪ポニーテイルで露出度の高い服装をした少女が、右腕を押さえながら地面に座り込む。彼女の名前はミラジェーン・ストラウス。魔導士ギルド・
ズシン!ズシン!ズシン!
巨体から発せられる大きな足音と共に、エルフマンの理性を乗っ取ったビーストが岩の影からゆっくりと姿を現した。
「エルフマン!!しっかりしろ!」
目の前に迫るビーストに向かってミラが必死に叫ぶも、エルフマンは何の反応も示さずミラの下へ歩みを進める。すると、
「ミラ姉ェェェーー!」
空からミラの名を呼ぶ声が聞こえた。ミラが視線を上げると、一羽の鳥がミラの下へ飛んでくるのが見える。その鳥はミラのすぐ近くで着地すると、突如その姿が一人の少女の姿へと変わった。
「街の皆は避難させたけど、何があったの!?」
ビーストを見上げながらミラに問う少女。彼女の名はリサーナ・ストラウス。ミラ、エルフマンの妹でこの任務に同行していた魔導士の一人だ。彼女も
「逃げるんだリサーナ…私が迂闊だった…私を庇ってエルフマンがビーストを接収しようとしたんだ!」
「え!?それじゃ…」
「だが、ヤツの魔力は強力すぎる…!エルフマンは理性を失っている」
「そんな…!?」
リサーナが悲鳴にも似た声を上げる。そして負傷したミラに肩を貸しながらビーストを見上げた。
「エルフ兄ちゃん、どうなっちゃうの…?」
「早く目覚めさせないと、このままビーストに取り込まれちまう…」
「ガァァァァァ……」
ズシン!と大きな地ならしを鳴らし、ビーストはミラ達の目の前で止まる。低いうめき声を発しながらミラ達を見下ろすビースト。すると、ミラに肩を貸していたリサーナがミラから離れ、ゆっくりとビーストの下へ歩き出した。
「リサーナ!?なにを…!?」
驚愕の表情を浮かべるミラを他所に、リサーナはビーストのすぐ近くまで行くと顔を上げて話し始めた。
「エルフ兄ちゃんどうしたの?妹のリサーナだよ?ミラ姉のことも忘れちゃったの?」
温和な声と優しい笑顔で語りかけるリサーナ。弟が化け物に身体を乗っ取られ、暴走状態だというのにリサーナの顔には一切の恐怖はない。
「ガァァァァァ…」
喉の奥を鳴らしながらリサーナを見下ろすビーストに、リサーナはさらに語りかける。
「エルフ兄ちゃんが私たちのこと忘れるわけないよね?だってリサーナもミラ姉も、エルフ兄ちゃんのこと大好きだもん」
「ウッ……」
一瞬顔をしかめたビーストだったが、次の瞬間、
「ウオォォォォォォォォォォ!!!」
轟く咆吼と共に自らの巨大な右腕を振り上げる。しかし、尚も動じずにビーストを見上げるリサーナは大きく腕を広げた
「さあ、もうお家にへ帰ろう。エルフ兄ちゃん!」
最後まで優しい表情で語りかけたリサーナ。しかし、理性を無くしたエルフマンにリサーナの声が届くことはなく、無情にも振り上げられた巨腕がリサーナ目掛けて振り下ろされた。
◆
「リサー…ナ……」
悲痛の表情を浮かべながら妹の名を呟くミラ。ビーストの腕力が強すぎたせいなのか、ミラはリサーナの身体が吹き飛ぶ瞬間を目で捉えることが出来なかった。だが、そんなことは彼女にとってはどうでもいいこと。最愛の弟の意識を乗っ取った化け物が、最愛の妹の身体を吹き飛ばしたということは疑いようもない事実だったからだ。ミラにとってはこれ以上無いほどの絶望であり、その絶望は彼女の身体からあらゆる気力を奪い取った。どうすればよいか分からず、ただ呆然と目の前の虚空を見つめるミラ。すると、
「イカレてんのかお前」
突然ミラの後方から男の声が聞こえる。その声を聞き我に返ったミラは急いで振り返ると、ミラから少し離れた所に一人の青年が背を向けて立っていた。髪は金髪で服は茶色のジャケットを着ている。そしてなにより、背中から純白に輝く謎の翼が生えていることが特徴的だ。ミラがその青年に目を奪われていると、青年が腕に抱えていた誰かをそっと地面に降ろした。そして青年が降ろした人物がミラの視界に入ってくると、ミラは思わず大きな声を上げる。
「リサーナ!!!」
ミラは妹の名を叫ぶながら急いで駆け寄ると、リサーナの身体を強く抱きしめた。
「リサーナ…!良かった…!無事で…本当に…!」
「ミラ姉…」
強い力で抱きしめてくるミラにリサーナも応える。数秒間抱きしめ合っていた二人だが、やがて離れると二人は青年の方へ向き直った。目つきは悪いが端整な顔立ちをしていて、身長は170後半はあるだろうかという程。年はさほどミラと離れていないように見える。
「あんた…」
ミラが青年に話しかけた瞬間、
「ウォォォォォォォォォォ!!!」
「「!?」」
突如獣の咆吼が響き渡る。ミラとリサーナが慌てて顔を上げると、
ズシン!ズシン!
と大地を鳴らしながらこちらに向かってくるビーストの姿が目に映った。
「ヤバい!こっちに来る!リサーナ、一旦逃げろ!」
「エルフ兄ちゃん!」
「ダメだリサーナ!今のエルフマンには私たちの声は聞こえてない!さっきので分かったろ!?」
「でも…!」
「でもじゃない!あんたも早く…」
ミラが青年にも早く逃げるよう伝えようとしたその時、
ダンッ!!
大地に一際大きな衝撃が伝わり、ビーストの巨体が加速する。あっという間に青年との距離を縮めたビーストはそのまま左腕を大きく振りかぶった。
(狙いは男の方か!まずい…!)
いきなりの加速に反応が遅れたミラは、またもや動けずに目の前で振り下ろされる左腕をただ見ていることしか出来なかった。大気を切り裂き、背後から迫り来る巨腕に対し、青年はゆっくりと振り返った。
◆
「…ん…ちゃん…エルフ兄ちゃん!」
「はっ!」
リサーナの呼び声と共にエルフマンは目を覚ました。パッと目を開けると、すぐ側にリサーナとミラが心配そうに自分の顔を覗き込んでいるのが見える。エルフマンはなんとか顔をリサーナ達の方へ向けると弱々しく言葉を発した。
「リサーナ…姉ちゃん…」
「…!エルフ兄ちゃん!!」ガバッ!
エルフマンが意識を取り戻したことに気付くと、リサーナはパッと顔を輝かせ、勢いよくエルフマンに抱きついた。
「もう!本当に心配したんだから!」
「リサーナ…」
「良かった…!エルフ兄ちゃんが無事で本当に良かった…!」
声に涙をにじませるリサーナをそっと抱きしめ返すエルフマン。身体中が痛むが、リサーナの嬉しそうな表情を見ると痛みも気にならなかった。すると後ろで立っていたミラもエルフマンの下へ近づいてくる。
「エルフマン…」
「姉ちゃん…」
エルフマンが無事で安心したのか、ミラも微笑みながらエルフマンを見つめていた。そんなミラに視線を向けるエルフマンだったが、ミラの傷だらけの身体を見ると目を見開いた。
「姉ちゃんその傷…!」
「ん?…あぁ、大丈夫。これくらい大したことない」
「……俺がやったのか?」
「……」
ミラはエルフマンの問いには答えず、気まずそうに視線を逸らす。それを見たエルフマンは、答えを聞かずとも何が起きたのか察し、その顔を歪ませた。
「俺が…姉ちゃんを…」
「ち、違うんだエルフマン!お前はビーストから私を庇ってくれたんだ。悪いのは私だ」
「そんな訳ない!全部俺のせいだ。俺が弱いから、ビーストに意識を乗っ取られた…」
「……」
「俺が弱いから!姉ちゃんやリサーナを危険にさらしたんだ!」
「エルフ兄ちゃん…」
俯きながら悔しそうに涙を流すエルフマンをミラとリサーナは悲しげに見つめる。
「俺はいっつもこうだ…いっつも姉ちゃんやリサーナに助けられてばっかりだ。本来なら俺が二人を守らなきゃいけないのに…」
「…そんなことない。私だってそうだ。お前を乗っ取ったビーストを前に私は何も出来なかった。アイツに助けられなきゃ私は今頃、大切な姉弟二人を失っていたかもしれない」
「…アイツ?」
ミラの言葉にエルフマンは目を丸くする。エルフマンはてっきり自分を正気に戻してくれたのはミラとリサーナだと思い込んでいたが、今のミラの言い方だとミラでもリサーなでもない全く別の誰かが介入していたことになる。必死に自身の記憶を辿りその人物について思い出そうとしたエルフマンだったが、暴走状態の頃の記憶は曖昧で誰も思い当たる節はなかった。
「アイツって誰だよ、姉ちゃん」
「…さぁ。私にもよく分からん」
「分かんないって…」
「天使…」
「えっ?」
リサーナが突然呟く。エルフマンが思わず聞き返すと、リサーナは短く答えた。
「天使みたいな人がね、私たちやエルフ兄ちゃんを助けてくれたの!」
「天使…?どういうことだ?」
「言ったろ?私たちもよく分かんないって。名前も告げず、すぐにどっかに行っちまったんだよ」
「そ、そっか…」
自分達を助けてくれた人を知ることが出来ず、またも気を落とすエルフマン。すると、
「大丈夫だよ、エルフ兄ちゃん!」
リサーナが明るい声音でエルフマンに声をかけ、微笑みながら言葉を続けた。
「またどこかできっと会えるよ!」
「リサーナ…ああ、そうだな」
「うん!」
リサーナは大きく頷くと、そのまま立ち上がりエルフマンにそっと手を差し伸べた。
「さ、帰ろ!エルフ兄ちゃん!」
「…ああ。帰ろう」
エルフマンは力強い返事と共にリサーナの手を取った。
別にあっちを書くのやめたわけじゃないですよ?
ただの気まぐれです。