Dark Matter In Fairy Tail 作:bbbb.
「はっ…はっ…はっ…!」
とある森の中。暖かい日差しが木々の隙間に差し込まれる中、一人の少女が荒い息づかいと共に森の中を必死に走っていた。呼吸を乱し懸命に走りながら、その少女はふと自身の後ろを振り返った。すると、
ドドドドドドドドッッ!!
地鳴りのような激しい音と共に何か巨大な生き物が追ってきていた。その生き物はゴリアン、またの名を森バルカンと呼ばれていて、全身が緑色の毛で覆われゴリラと猿を掛け合わせたような姿形をしていた。
「ウホホッ!逃がさないよォ~」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げながら森バルカンから逃げる少女。しかしスピードの差は歴然で、少女の努力虚しく少女と森バルカンの距離はどんどん縮まっていった。
「どうしよ~シャルルぅ…」
「だからやめときなさいって言ったのに!」
少女の嘆きに、翼を生やし空を飛びながら少女と並走している一匹の白いネコがたしなめるように答えた。
「だってぇ~…」
「全く仕方ないわねぇ…ほら、飛ぶわよ!」
「シャルル!」
シャルルと呼ばれる白いネコの言葉に顔を輝かせる少女。早速そのシャルルにつかまろうとしたその時、ゴソッと音を鳴らしながら目の前の茂みから一人の男が姿を現した。
「えっ!?」
「ちょっ…!?」
「あ?」
男の突然の出現に危うくぶつかりそうになりながらも、なんとか回避する少女とネコ。そしてその場で立ち止まると、少女は急いで男の方を向き、叫ぶように言った。
「速く逃げて下さい!でないと森バルカンに襲われます!」
「あ?なんだよそれ」
「あれよ!あれ!」
シャルルが指さした方角へ男が顔を向けると、巨大なゴリラのような化け物がここ目掛けて勢いよく走ってきている光景が目に入った。森バリカンもまた、新たな人間が現れたことを視認する。
「ウホッ!また新しいエサが現れたなァ!二人…いや、三匹まとめて食ってやる!」
顔を邪悪に歪ませながら森バルカンはさらに加速し、ついに男達の目の前に到達すると、その右腕を大きく振りかぶった。
「何してんのよ!逃げるのよ!」
少女の警告を受けたにもかかわらず、微動だにしない目の前の男を見て、シャルルもまた慌てて叫ぶ。しかし、それでも男はその場を動かず、目の前まで迫った森バルカンを気怠げに見上げていた。
「まずはお前からだァ!死ねェェ!!」
「イヤ…!」
森バルカンの右腕が男目掛けて振り下ろされ、思わず目を覆う少女。シャルルもまた顔を横に背ける。ドンッ!という衝撃が辺りに響き、二人とも目の前の男が森バルカンによって吹き飛ばされたことを悟った。そしてそれは森バルカンも同じで、森バルカンは男の身体を捉えたことを確信していた。だが、
「ハァ…」
突如大きなため息が聞こえ、再び意識を眼下へ戻す森バルカン。少女とシャルルも恐る恐る視線を戻すと、そこには森バルカンの拳を左手一本で受け止めている男の姿があった。
「片手で…!」
「受け止めた…!」
「な、なんだとォォォォ!?」
目の前の光景に驚く少女達や森バルカン。三者が目を丸くする中、その男は吐き捨てるように呟いた。
「こちとら昨日から飲まず食わず寝れずでただでさえイラついてんだよ…」
「え……っ?」
「テメェ、死ぬ覚悟は出来てんだろォなァ!?」
「いや、ちょ…っ!?」
凄まじい怒気を含んだ眼光をぶつけられ、思わず後さずりする森バルカン。そして、
ドォォォォォン!!
凄まじい轟音が森中に響き渡った。
◆
「……」チーン
「あー、気持ち悪ィ…」
土煙が辺りを漂う中、白目を剥き気絶している森バルカンに背を向けながら垣根帝督はダルそうに呟いた。昨夜ザ・ビーストと戦った後、宿を探そうとした垣根だったが、そこでようやくこの世界の金を持っていないことに気付いた。なんとか金を作ろうと質屋などを探してみたが、すでに時は真夜中だったため開いている所はなく、結局昨夜は一文無しで過ごすこととなった。そのため、一睡も出来ず飯も一口も食えていない最悪の状態で朝を迎えることとなり、そんな最悪のコンディションの中次の街へ向かうため森の中をさまよい歩いていると、先ほどの森バルカンに遭遇したというわけである。思わぬ寄り道を食った垣根は、早く次の街へ向かおうと再び歩き出そうとすると、突然背後から声をかけられた。
「あ、あの!」
「あァ?」
自身の体調不良も相まってか、鬱陶しそうに振り返る垣根。するとそこには長く青い髪で緑色の民族衣装のような服を着た一人の少女と、背中から翼を生やし宙に浮いている一匹の白いネコがいることに気付いた。
「えっと、その…さ、さっきは助けていただいてありがとうございました!」
少女が緊張した面持ちでそう言うと、頭を深く下げ感謝の意を示した。そんな少女を垣根は怪訝そうに見つめる。
「助ける…?あぁ、あのゴリラのことか。別に助けたつもりなんざねぇよ。結果的にそうなっただけだ」
そう言って再び身を翻す垣根。するとまたもや少女が垣根に声をかけた。
「あ、あの!」
「…今度はなんだ?」
ため息をつきながらも、垣根は再び少女の方へと向き直る。すると少女は遠慮がちに話し始めた。
「あ、いえ…その…顔色があまり良くないように見えたので、つい…」
「…お前には関係ねぇだろ」
「そ、そうですよね…すみません…」
垣根にあしらわれ、あからさまにションボリと肩を落とす少女。すると、
グゥゥ~
突然お腹の鳴る音が聞こえた。
「え…っ?」
「今の…」
「……」
少女とネコが目を丸くしながらも、音の出所である正面へ視線を向けると、垣根は気まずそうに視線を逸らした。そんな垣根に少女はおずおずと尋ねる。
「もしかしてお腹空いてるんですか?」
「思いっきりお腹鳴ったわよね?」
「…うるせぇ」
「あの、もしよければ私のギルドに来ませんか?ご飯くらいならご馳走できると思います」
「あ?」
少女の言葉に垣根は眉をひそめる。すると隣のネコも驚いた様子で少女の方を見た。
「ちょっ、ちょっと!?ウェンディ!?何言ってるのアンタ!?」
「だって助けてもらったお礼まだ出来てないし…」
「そ、それはそうかもだけど、だからって…」
「別に助けたわけじゃねぇって言ってんだろ。変な気遣いしてんじゃねぇ」
「そうだとしても、私があなたのおかげで助かったのは事実です。何かお礼をさせてください」
また面倒くさい奴が現れたな、と呆れ果てる垣根だったが、またもやグゥゥ~と腹の虫が鳴り思わず口を閉じる。
「「「………」」」
気まずい沈黙が場を支配する中、垣根は咳払いをすると再び口を開いた。
「言っとくが金はねぇぞ。それでもいいなら考えてやる」
「はい!勿論!」
「何で上からなのよ…」
シャルルが小声でツッコむ中、ウェンディと呼ばれる少女は笑顔で頷いた。
◆
垣根はウェンディとシャルルと並んで歩き、ウェンディの所属するギルドとやらに向かっていた。その道すがら、垣根とウェンディはお互いのことを話し合っていた。
「私はウェンディ・マーベルと言います。そしてこっちはパートナーのシャルルです」
「…さっきはツッコまなかったけどよ、なんでネコが空飛んでしかも喋ってんだ?ありえねぇだろ普通」
「フン!」
垣根の質問にそっぽを向き突っぱねるシャルル。どうやらまだ垣根に対して心を開いていないらしい。そんなシャルルの様子を見たウェンディは苦笑いを浮かべる。
「あはは…シャルルとの出会いは、私が小さい頃に森の中でシャルルの卵を見つけたのが始まりなんです」
「卵ォ?こいつネコなのに卵から生まれたのか?」
「はい!ギルドで生まれたんですよ!とっても可愛かったんです!」
「ちょっとウェンディ!余計なことまで言わなくていいの!」
シャルルはウェンディをたしなめると、今度は垣根に尋ねた。
「で?そろそろアンタも自己紹介くらいしたらどうなのよ」
「ちょっとシャルル!失礼だよ」
シャルルのぶっきらぼうな物言いにウェンディが注意すると、垣根が小さく笑いながら言った。
「なんだよ、随分と嫌われてんな俺」
「す、すみません…!シャルルって誰に対してもこんな感じで…」
「いや、別に気にしてねぇよ。つかむしろそのネコの反応の方が正しい」
「え?」
「お前が不用心すぎんだよ。突然見ず知らずの男をギルドに連れ込むとか、そりゃ誰でも警戒すんだろ」
「はぁ…」
ウェンディはキョトンとした表情を浮かべながら垣根の話を聞いていた。どうやらいまいちピンときていない様子で、垣根は呆れたようにため息をつく。
「まぁいい。で、俺の自己紹介だったな。俺の名前はかk…じゃねぇや。テイトク。テイトク・カキネだ」
「テイトクさんですね!よろしくお願いします!」
「あぁ。よろしく」
改めて垣根とウェンディは挨拶を交わし、シャルルはそれを黙って見つめていた。そしてウェンディが垣根に尋ねる。
「それで…テイトクさんはどこから来たんですか?」
「…分からねぇ」
「え?」
「はぁ??」
ウェンディとシャルルは同時に思わず聞き返した。ウェンディの質問は至ってシンプルで、普通ならすぐに答えが返ってくるような質問だが、隣を歩くこの男は「分からない」と答えたのだ。予想外の返答にいささか面食らう中、ウェンディが遠慮がちに尋ねた。
「分からないとは一体どういう…」
「分からないというより、正確には覚えてねぇ、だ」
「覚えてない??」
「あぁ。自分自身に関する基本的な情報以外何も覚えてねぇ。昨夜隣の街近くで目が覚めた。これが今俺の覚えている限り最初の記憶だ」
「それって…」
「記憶喪失ってこと?」
ウェンディとシャルルが驚いた様子で言うと、垣根は横目で彼女らを見ながら心の中で呟いた。
(まぁ嘘は言ってねぇ。実際、あの草原で目覚める前の経緯とかは全部覚えてねぇんだからな。ちと誇張はしすぎたが、今は情報を得るのが先決。こういう設定にした方が色々と都合が良さそうだ)
すると案の定、シャルルがうさんくさそうなものを見る目つきで垣根を見上げた。
「記憶喪失?なによそれ」
「一体どうして…?なにか心当たりはないんですか?」
「ねぇな。俺がテイトク・カキネだということ以外、何も覚えてねぇ」
「…本当なの?全然信じられないんだけど」
「それはもっともだが、本当なんだからしょうがねぇ」
そう言いながら垣根は大げさに肩をすくめてみせる。シャルルは依然疑いの視線を向けていたが、ウェンディは心配そうな表情を浮かべていた。
「記憶喪失…私の魔法で治せるかな…?」
「まぁそういうことだからよ、出来ればこの世界について色々教えてくれると助かるんだが…」
「はい!そういうことでしたら喜んで!」
垣根の申し出に笑顔で応えるウェンディ。するとシャルルが垣根に問いを投げかけた。
「この世界について教えろって言ったって、アンタはどこまで知ってんのよ?今が何年くらいかは知ってるの?」
「今?あー…にせん…」
「782年よ!」
「は?」
シャルルの言葉に垣根は思わず目を見開きながら呟く。782年というと、垣根が生まれる1000年以上も前のことだ。街の景観などが現代離れしているとは感じていたが、まさか本当に時代が違っているとは思わなかったので、流石の垣根も言葉を無くしていた。
「782…だと…?」
「はい、そうですけど…」
「基本なんてレベルじゃないんだけど。アンタそんなレベルから覚えてないっていうの!?」
「…もしかして、魔法についても覚えてないんですか?」
「…あぁ、どうやらそうみてぇだ。すまねぇが根本的な所から頼む」
「これは重症のようね…」
シャルルが呆れたようにつぶやく。ここがどこか、レベルならともかく、この世界なら常識のハズの魔法についても知らないとは流石に予想外だった。シャルルは垣根に対しより猜疑心を強めたが、ウェンディは相変わらず親身になろうとしていた。
「分かりました!えっと、じゃあ順を追って説明しますね!」
そう言ってウェンディは説明を始めた。この世界や、魔法、ギルドについて。一通り説明を聞いた垣根はブツブツと呟き、情報を整理していた。
「イシュガル大陸にフィオーレ王国…魔法という力…魔導士…魔導士が集う魔導士ギルド…」
「とりあえずざっとこんなものかと…」
「どう?なにか思い出した?」
「いや、さっぱりだ」
シャルルの問いにさらりと答えた垣根だが、内心ではかなり動揺していた。
(どういうことだ…?イシュガル大陸にフィオーレ王国?聞いたこともねぇぞ。地球上にはまだ未発見の大陸が残ってたっていうのか?それに、魔法だァ??オイオイ勘弁してくれ。魔法だなんだは空想の世界の話だろ。科学が発展したこの時代、んなもん信じてる奴なんざ一人も…ってあれか、時代がそもそも違うんだったな…ダメだ。意味不明にも程がある)
あまりの新情報の嵐に流石の垣根も頭を悩ませていたが、表面上ではあくまで平然さを装いながらさらにウェンディに問う。
「とりあえず大まかなことは大体分かった。んで、お前さっき『私のギルド』って言ってたよな?ってことはアレか?お前もその魔法使い…いや魔導士って奴の一人なのか?」
「はい、まぁ一応…」
「ほぉ、どんな魔法使うんだよ?」
「えっと、一応サポート魔法はいくつか使えます。攻撃系の魔法は全然ですが…」
「サポート魔法…」
垣根はウェンディの言葉を反芻しながら興味深げに聞いていた。
「色々ありますが、一番得意なのは治癒の魔法です」
「治癒?傷を癒やす魔法って事か」
「はい。他にも解熱や解毒、痛み止めなども一応出来ます」
「まじかよ。そいつはすげぇな」
「い、いえ、そんなこと…」
垣根に褒められ、頬を赤らめるウェンディ。するとシャルルがウェンディに小声で咎めた。
「ちょっとウェンディ!安易に自分の魔法のこと言っちゃダメじゃない!まだ信用できると決まったわけじゃないんだから!」
「何言ってるのシャルル。テイトクさんはさっき私たちを助けてくれたでしょ?充分信頼できると思うよ」
「それはそうだけど…」
「それに、なんとなく分かるの。この人は悪い人じゃないって」
「けど!この世界のことも魔法のことも知らない記憶喪失なんて、いくらなんでも怪しすぎるでしょ!」
「んーそうかなぁ???」
依然垣根に警戒心を持ち続けるウェンディとは対照的に、ウェンディは垣根のことを少しも疑っていない様子だった。一方の垣根はさっきからなにやらブツブツと一人で呟いていた。
「治癒の魔法か…確かに学園都市では聞いたことねぇ。科学的に生み出される『能力』では恐らく発現し得ない力だ…面白い」
すると独り言を言っていた垣根にウェンディが尋ねた。
「あの、テイトクさん」
「あ?」
「テイトクさんは自分の事以外は何も覚えていないと言ってましたが、それはご自身の魔法についても覚えていないんですか?」
「俺の魔法?」
「はい。先ほど森バルカンを倒してくれた…あれがテイトクさんの魔法じゃないかと思って…」
「…あぁ、そういうことか」
垣根はウェンディの言葉の意味を理解した。どうやらウェンディは先ほど垣根が森バルカンを倒したあの力が垣根の魔法によるものだと考えたのだ。この世界では異能の力=魔法という認識なので、ウェンディのこの思い込みは至って自然なものだった。するとシャルルも疑問を口にする。
「言われてみれば変ね。魔法のことすら知らなかったアンタがあの時なぜ魔法を行使できたの?」
「…さぁな。俺に言われても分かんねぇよ。あの時はただ、身体が勝手に動いてたってやつだ。俺の力が魔法だなんて知らなかったのは本当だぜ」
「なるほど。危機的状況だったからこそ、無意識的に身体が動いたんですねきっと」
「…ふーん」
垣根の咄嗟のデタラメに、ウェンディはなぜか納得していた様子だったが、シャルルは釈然としない表情をしていた。
「じゃあ、自分の魔法の詳細についてはまだ思い出せていないってことでいいのね?」
「あぁ。その内思い出したらまた言うさ」
シャルルの質問を垣根が適当にやり過ごしていると、
「あ!見えてきましたよ!私たちのギルドが!」
ウェンディが前方を見ながら嬉しそうに声を上げた。
◆
「ただいま!マスター!」
ウェンディはネコの顔の形をしたテントの中に入り、高齢な老人を見つけると元気に挨拶した。
「おお!ウェンディ!帰ったか!」
ウェンディの声を聞いた老人はこちらを振り返り、嬉しそうに出迎える。黙ってウェンディに連れられるがまま歩いてきた垣根だったが、改めて背後を振り返りこのギルドの全体図を眺めた。
(アフリカ辺境の地にある原住民の部落みてぇなとこだな。こいつこんなとこに住んでんのかよ)
心の中でそう呟きながら、再びウェンディの方を見る。ウェンディはテントの中に入り、マスターと呼ばれる老人やその他のギルドのメンバーと楽しげになにやら話していた。ギルドの外観同様、ギルドのメンバーも皆、民族衣装のような服を着ている者ばかりで、ギルドとはこういう民族的な側面が強いものなのか、と垣根が考えていると話が一段落したのかウェンディが垣根の下に戻ってきた。そして、
「マスター!皆!この人が森で私を助けてくれたの!名前はテイトクさん!」
マスターやギルドのメンバーに垣根のことを紹介した。それに応じて垣根も軽く自己紹介をする。
「テイトク・カキネだ」
「おぉ!それはそれは。うちのウェンディがお世話になりました。なんとお礼を言ったら良いのやら…」
「…別に気にする必要はねぇよ。ただの成り行きだ」
「それでねマスター!テイトクさん昨日から何も食べてないんだって。だから、助けてくれたお礼に何かご馳走してあげたいんだけど、どうかな?」
「それは良い考えじゃ。目一杯ご馳走しよう」
マスターはウェンディの提案を快く受け入れた。
「ありがとうマスター!」
ウェンディが喜びを露わにする中、マスターが垣根の前に進み出てその名を名乗った。
「自己紹介がまだだったな。ワシの名はローバウル。このギルド、
「…よろしく」
垣根はローバウルに短く挨拶した。すると今度は既に楽しげなウェンディが垣根の側まで近づき、垣根の袖を引きながら話しかけた。
「さぁテイトクさん!外でみんなが食事の準備をしてくれてます。私たちも行きましょう!」
「…あぁ、分かったから引っ張るな」
ウェンディのハイテンションさに辟易しながらも垣根はテントから出て、ウェンディやシャルルと一緒に食事会に参加しに行った。
「うぅ…もう食えねぇ…」
垣根が口元に手を当てながら、うめき声を上げる。昼頃に始まった垣根のための食事会はかなり盛り上がり、気付けば辺りは真っ暗になっていた。最初は空腹で仕方なかった垣根だが、ギルドのメンバーがあまりにも垣根に食べさせるので、もう当分は動けないのではないかという程身体が重くなっていた。そんな苦しそうな様子の垣根をウェンディが心配そうに覗き込む。
「テイトクさん、大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫じゃねぇよ…お前ら俺を食わせ殺す気か…」
「食わせ殺すってなによ。ウェンディも心配いらないでわよ。ただの食べ過ぎだから」
「でも…」
依然ウェンディが垣根を心配そうに見つめていると、彼らの下にローバウルが近づき垣根に尋ねた。
「ところでテイトク君、君は今後どうするのかね?ウェンディから聞いたところ、君は記憶喪失だそうだが…」
「…聞いてたのか。あぁ、そうだ。だが今はまだ何も決めてねぇ。というより、どうすればいいかも分からねぇってのが正直なとこだな」
「…あの、マスター」
垣根の話を黙って聞いていたウェンディが突然、ローバウルに話しかけるとローバウルもそれに反応した。
「どうしたウェンディ?」
「私ちょっと考えたんですけど…」
真剣な面持ちで口を開いたウェンディを黙って見つめるローバウル。垣根やシャルルも見つめる中、ウェンディがゆっくりと言葉を発した。
「テイトクさんの記憶が戻るまでこのギルドにいてもらうというのはどうでしょう?」
「ん?」
「はぁ??」
「あ?」
ウェンディの言葉に驚く垣根達。特にシャルルはいち早くウェンディに詰め寄った。
「アンタ何言ってんのよ!?こんな怪しい男を私たちのギルドに入れるって言うの!?」
「さっきも言ったでしょシャルル。私たちテイトクさんがいなかったらあの森で死んじゃってたかもしれないんだよ?」
「だから、それは分かってるけど…でもそれとこれとは話が別でしょ!」
「別じゃないよ!今度は私たちがテイトクさんの力になってあげなきゃ!」
「ウェ、ウェンディ…」
ウェンディの毅然とした態度にシャルルは思わず口を閉じる。そしてウェンディはローバウルの方へ再度向き直ると、ローバウルに尋ねた。
「ねぇマスター!いいでしょう?」
「う、うーん…しかしなぁ…」
「マスター…?」ウルウル…
「うぐっ…!?ま、まぁウェンディの頼みなら仕方ないな!うんうん」
「マスター!じゃあ決まりって事で…」
「オイちょっと待てコラ。何勝手に話進めてんだ。俺は入るなんて一言も言ってねぇぞ」
なぜか垣根が
「お気遣い痛み入るが、そこまで世話になる気はねぇよ。すぐ出て行くさ」
「でも、ここから出て行ってどこかにアテがあるんですか?」
「………ある」
「嘘ね。この世界のことについてすら知らなかったアンタに、アテなんかあるはずないもの」
「……うるせぇな。とりあえず進めば何かあるんだよ」
シャルルに痛いところをつかれた垣根はばつが悪そうにそっぽを向くと、今度はウェンディが垣根に話しかけた。
「テイトクさんの現状について、私たちもまだ分からないことだらけです。私たちのギルドはそんなに有名なギルドじゃないですけど、それでもここは魔導士ギルド。色んな情報が集まってきます。なので、ここにいればいつかテイトクさんの記憶の手がかりになる内容が手に入るかもしれません」
「……」
「なので、闇雲に探すよりかはギルドにいた方がいいかなって思ったんですけど…」
最後の方で自信が無くなったのか、ウェンディの言葉が尻すぼみになっていく。垣根が黙って聞いていると、ローバウルが垣根の方にゆっくりと近づいた。
「まぁ、ウェンディの言うことも一理ある。どうせ何も決まってないならどうかね?少しここで腰を据えてみるというのは」
「…いいのか?言っとくが金はねぇぞ?」
「そんなものはいらんよ。大切なのはここにいたいという君の意志じゃ」
ローバウルは笑顔でそう言った。垣根はしばらく黙って考えていたが、やがて意を決するとローバウルの方へ向き直り、そして、
「すまねぇが世話になる」
と一言告げた。その言葉を聞いたウェンディは歓喜の声を上げ、シャルルに抱きついた。
「やったねシャルル!これでギルドに新しい仲間が増えた!」
「フン!私はまだ信用してないんだからね!」
プイッとそっぽを向くシャルルだったがウェンディは構わず、改めて垣根と向かい合った。
「改めてテイトクさん!これからよろしくお願いします!」
「…あぁ。よろしく」
「私はまだアンタのこと信用してないけど…ウェンディとマスターが決めたんなら仕方ないわ。よろしく」
「ハッ、いいぜ。お前みたいな奴は嫌いじゃない。よろしく頼むぜ白ネコ」
「白ネコじゃなくてシャルルよ!」
こうして垣根は、記憶が戻るまでという条件付きで
それから二年の月日が流れ、x784年。ついに物語が動き出す。