Dark Matter In Fairy Tail   作:bbbb.

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五話

 

 「「「……っ!?」」」

 

 連合チームの魔導士達は地べたに這いつくばりながら、驚愕の表情と共に目の前の六魔将軍(オラシオンセイス)を見つめていた。六魔将軍(オラシオンセイス)の拠点を見つけるべく、ナツの後を追うようにして別荘から飛び出した連合チームの面々だったが、予想外にも六魔将軍(オラシオンセイス)とはすぐに会敵することとなった。作戦の要であった青い天馬(ブルーペガサス)の魔導爆撃艇・クリスティーナが唐突に撃墜され、その爆煙の中から六魔将軍(オラシオンセイス)が連合チームの前に現れたのだ。予想外の展開に驚くナツ達だったが、すぐに気持ちを切り替えると全員で六魔将軍(オラシオンセイス)に襲いかかった。だが結果は惨敗。岩の影に隠れていたウェンディ以外のその場にいた魔導士全員が、六魔将軍(オラシオンセイス)によって返り討ちにされてしまった。あのエルザで地に伏しているという事実が彼らの強さを証明付けている。六魔将軍(オラシオンセイス)の圧倒的な強さの前に為す術無く倒れ伏すナツ達を、リーダーであるブレインは冷徹な眼差しで見下ろしながら吐き捨てるように言った。

 

 「ゴミ共め。まとめて消え去るがいい」

 

 ブォォォォン…

 

不気味な音と共にブレインの杖に邪悪な魔力が収束していく。

 

 「なんですの…この魔力…!」

 「大気が…震えてる…!」

 「まずい…」

 

その圧倒的な魔力量に危機感を抱くヒビキ達だったが、先ほどの戦闘によって負ったダメージのせいで動くことが出来ず、ただ呆然と見上げることしか出来なかった。そして、

 

 「常闇回旋曲(ダークロンド)

 

ブレインがその魔力を解放させようとしたその時、

 

 「!?」

 

突如魔法の発動を停止させ、信じられないといった表情を浮かべながらある一点を見つめる。その視線の先には岩陰から顔だけを覗かせ、こちらを恐る恐る覗き見るウェンディの姿があった。突然攻撃の手を止めたブレインに疑問を抱いたのか、他の六魔将軍(オラシオンセイス)のメンバーは彼に問うた。

 

 「どうしたブレイン。なぜ魔法を止める?」

 「知り合いか?」

 

コブラ達の視線を受ける中、ブレインはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

 

 「間違いない…ウェンディ…」

 「えっ…えっ…?」

 

突然ブレインに名を呼ばれ、ウェンディは戸惑ったように声を上げる。この場にいる全員がブレインを注視する中、ブレインが一言呟いた。

 

 「天空の巫女だ」

 「「「!!」」」

 「天空の…」

 「巫女…?」

 

グレイとヒビキがブレインの放った言葉に反応するも、六魔将軍(オラシオンセイス)含め、ブレイン以外の人達は何が何だか分かっていない様子だった。

 

 「なにぃそれ~」

 

ウェンディが頭を抱え、その場でしゃがみ込みながら怯えるように言うと、ブレインはその顔に邪悪な笑みを浮かべた。

 

 「こんな所で会えるとはな。これはいいものを拾った。来い!」

 

 ブゥゥゥゥゥン!

 

突然ブレインの持つ杖から緑色の魔力が放出され、瞬く間に手の形に変形した魔力の塊がウェンディの下へ襲いかかる。

 

 「きゃあっ!!!」

 「「ウェンディ!!!」」

 

ブレインの魔力によってその身を掴まれたウェンディはそのままブレインの下まで引き寄せられていく。悲鳴を上げながら引き寄せられていくウェンディを急いで追いかけるシャルルとハッピーだったが、その距離の差は縮まらない。

 

 「ウェンディ!!」

 「シャルルー!!!」

 

シャルルはその身を投げ出し、ウェンディの方へ精一杯手を伸ばす。ウェンディも自身の手を目一杯伸ばしシャルルの手を掴もうとしたが、

 

 「「!!」」

 

二人の想いも虚しく、すんでのところで両者の手は空を切り繋がれることはなかった。シャルルは目の前でウェンディとの距離がどんどん離れていくのをただ呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 (このままじゃウェンディが…!誰かウェンディを助け…)

 

シャルルが心の中で悲痛の想いを叫んだその時、キラッと一瞬空で何かが光る。そして、

 

 ドォォォォォォン!!!

 

謎の飛行物体がブレインとウェンディの間の地面に勢いよく激突し、轟音を立てながら大地を崩壊させた。

 

 「うおおおおっっ!?」

 「な、何だ!?」

 「突然何かが降ってきて…一体何が!?」

 

爆発による衝撃から身を守りながらこの場にいる全員が爆心地へと視線を向けた。すると、

 

 「あれは…」

 「槍…?」

 

ヒビキとルーシィが困惑気味に呟く。二人の言葉の通り、皆の視線の先には一本の長く白い槍が地面に深々と突き刺さっている光景があった。武器を使うとなればまずエルザが思いつくが、そのエルザはコブラの毒でダウンしているためこの槍の主はエルザではない。なら一体誰が、と皆が考えていると、

 

 「ったく、勝手に飛び出していったと思ったらいきなりこれか。随分と人使いが荒いこったな天空の滅竜魔導士様はよ」

 

左の方から一人の男の声が聞こえ、そちらへ視線をずらす連合チーム。するとそこには背中から六枚の白銀の翼を生やした金髪の青年、化猫の宿(ケットシェルター)のテイトク・カキネがウェンディを抱えながら立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前は!?」

 「テイトク!?」

 

ナツとグレイが驚きの声を上げる。それは他のメンバーも同様で皆、突然の垣根の登場に目を見開きながら垣根の方を見つめていた。そんな皆の反応を気にする素振りすら見せない垣根は腕に抱えていたウェンディをゆっくりと地面に降ろすと、こちらに駆け寄ってきたシャルルに声をかけた。

 

 「シャルル。こいつ連れて下がってろ」

 「テイトク…!分かったわ」

 

シャルルが垣根を見てどこか安堵したような表情でそう答えると、今度はウェンディが垣根に話しかけた。

 

 「あの…テイトクさん!」

 「あ?」

 「助けてくれてありがとうございました。それと、勝手に飛び出していってごめんなさい…」

 

垣根はひどく申し訳なさそうに謝るウェンディを黙って見つめていると、シャルルが慌ててウェンディと垣根の間に入った。

 

 「違うのテイトク!ウェンディは悪くないの。悪いのは私で…」

 「んなもんわざわざ言われなくても分かってる。大体の想像は付くからな」

 「うぅ…」

 「だが取り敢えず今は後回しだ。なんせ…」

 

そこまで言うと垣根はゆっくりと身体の向きを変え、ジロリとこちらを睨めつけている六魔将軍(オラシオンセイス)と向き合うと、

 

 「先客がお越しだ。丁重にもてなさねぇとなぁ」

 

不敵に笑いながらそう言った。ブレインは敵意の籠もった視線で垣根を睨めつけると静かに呟いた。

 

 「また一匹、蛆が沸いて出たか。不快なことこの上ないな」

 「そりゃこっちのセリフだ…ふーん、なるほどね」

 

ブレインの悪態を聞き流した垣根はゆっくりと周りを見渡しながら呟く。辺りには地に伏している連合チームのメンバー達。恐らく六魔将軍(オラシオンセイス)と戦闘になったが、悉く返り討ちに遭ってしまったのだろうと垣根は推測した。各ギルドの精鋭達がこうも一方的にやられるとは、噂に違わぬ強さと言える。

 

 「他の奴らはともかく、妖精女王(ティターニア)まで伸しちまってるじゃねぇか。へぇ、ちっとは楽しめそうだな」

 「…安心しろ。貴様もすぐ同じようになるのだからな。やれ」

 「オーケー」

 

ブレインの指示にレーサーが答えた。すると、

 

 シュンッ!

 

突然レーサーの姿が消え、次の瞬間左前方付近に姿を現した。そして再度、シュンッ!と姿を消し、今度は右斜め前方へと姿を現す。まるでワープでもしてるかのような速さで移動を繰り返すレーサーは瞬く間に垣根との距離を縮め、一瞬で垣根の背後を取ると空中から回転蹴りを放った。

 

 「モォタァ!!」

 

叫び声と共にレーサーの蹴りが垣根の頭部に襲いかかる。垣根はレーサーの動きに全く反応出来ていなく、誰もがレーサーの蹴りが直撃するのを疑わなかった。だが、

 

 ガンッッ!!

 

レーサーの蹴りが直撃する直前、垣根の背中の翼が動きレーサーの蹴りを防いだ。攻撃を防がれたレーサーは一瞬驚いた様子を見せるも、すぐに切り替え着地と同時に再び高速移動を開始する。

 

 シュン!シュン!シュン!シュン!

 

とても常人では目で追うことが出来ないスピードで高速移動を繰り返すレーサー。当然垣根も目で追うことは出来ていない様子で、レーサーの高速移動による包囲網の中でただ立ち尽くしていた。そして再度垣根の背後を取ったレーサーは垣根に攻撃を仕掛ける。しかし、

 

 ガンッ!

 

またも白い翼によってガードされるレーサー。これには流石のレーサーも驚き、一瞬動きを止めてしまった。するとその一瞬の隙を突き、垣根が空いている翼を繰り出した。

 

 「!」

 

慌ててその場から離れ、レーサーは翼による攻撃を回避する。

 

 ガシャンッッッ!!!

 

レーサーに避けられた翼はそのまま地面に突き刺さり、いとも容易く地面を粉々にする。あれをまともに喰らったらヤバい、と考えながらレーサーは一度距離を取り改めて垣根と向かい合った。

 

 (一度ならず二度までも俺の攻撃を防いだだと…?奴が俺のスピードに反応出来ていた様子は無い。他の奴ら同様、俺の速さにただ翻弄されていただけだ。なのになぜ、俺の攻撃を防げる?たまたまか?それとも何か仕掛けが…)

 (おかしい…未元物質による感知と俺の認知がどうもズレる(・・・・・・)。一体なぜだ…?)

 

両者睨み合いながらが互いの力について考察する。すると、レーサーが腰を落とし足に力を入れた。

 

 (まぁいい。どんな小細工を労そうが俺のスピードに付いてこられる奴などいない!まぐれはもう続かないってことを教えてやるよ!)

 

心の中でそう叫ぶと同時にレーサーは再び駆けだした。

 

 シュンッ!

 

瞬時に垣根との距離を詰めたレーサーはまたもや垣根の周囲を高速で移動し続け、垣根に攻撃を繰り出していく。しかし、

 

 ガン!ガン!ガン!ガン!

 

そのたびに垣根の翼が反応し、レーサーの攻撃を防いでいく。

 

 「ええい!鬱陶しい!!」

 

苛立ちを募らせたレーサーは悪態をつきながら再び垣根の背後に回り込むと、何度目かも分からない力一杯の蹴りを放った。すると、

 

 「フッ…なるほどな」

 

迫り来るレーサーの攻撃を他所に、垣根は小さく笑いながらひとりでに呟く。そして、

 

 バリバリバリバリバリバリバリッッッ!!!

 

眩い光と共に激しい雷撃音が鳴り響く。そして、

 

 「ガァァァァァァァァァ!!!!」

 

突如垣根の半径1メートル周囲に発生した電撃をまともに喰らい、レーサーは苦悶の叫びをあげる。

 

 「電撃…だと…っ!?」

 

 バタッ

 

必死に言葉を絞り出しながらその場にうつ伏せで倒れるレーサー。一方の垣根はそんなレーサーの言葉には答えず、ポケットに手を突っ込みながらじっとレーサーを見下ろしていた。

 

 「ふむ…やっぱアレか。弄られてたのは俺の方か」

 「な…にっ…?」

 「違和感があったんだよ。テメェの速さ。目で追えねぇ程の速さのくせに、未元物質による感知からだとそこまでの速さじゃないことを示してる」

 「……っ」

 「そのズレが気持ち悪かったんだが、ようやく合点がいった。お前の魔法、自分の速さを上昇させるものじゃなく、相手の体感速度を下げる類いの魔法だろ」 

 「……!」

 

垣根の指摘に思わず黙りこくるレ-サーを見て垣根は満足げに笑うと、更に言葉を続けた。

 

 「俺も最初は思わず勘違いしちまった。中々面白れぇ魔法だな。流石は六魔将軍(オラシオンセイス)ってとこか?」

 「…だま、れ…!」

 「まぁだが、タネが割れちまったらどうってことねぇがな」

 

そう言いながら垣根はうつ伏せてでいるレーサーの横腹に足をねじ込むと、足を蹴り上げレーサーを仰向けに転がした。

 

 「うっ……!」

 「蠅みてぇにチョロチョロ動き回りやがって。ウゼぇんだよ」

 

そう言いながら垣根は電撃を喰らって動けずにいるレーサーを見下ろすと、ゆっくりと自分の右足を上げる。そして、ズドン!という鈍い音と共に、レーサーの腹部を勢いよく踏み抜いた。

 

 「ご、は………っ!?」

 

とてつもない衝撃が自身の腹部を襲い、レーサーの意識を一瞬で刈り取る。未元物質によって強化された脚力は地面をも砕き、レーサーを中心にいくつもの亀裂が地面に刻み込んだ。戦闘不能となったレーサーを興味なさげに見下ろしていた垣根はゆっくりと振り返ると、他の六魔将軍(オラシオンセイス)のメンバーと再度向き合った。あまりに衝撃的な光景に言葉を無くしていた六魔将軍(オラシオンセイス)に向かって垣根は一言、、

 

 「さて、まずは一人。次はどいつだ?」

 

と、静かに問うた。

 

 

 

 


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