Dark Matter In Fairy Tail 作:bbbb.
「ここか!」
ナツが崖下の廃村を見下ろしながら呟く。グレイやシャルル、垣根もまた同様に崖下を見下ろしていた。
「ハッピー!ウェンディー!」
唐突にナツが大声でウェンディとハッピーの名前を叫んだ。
「わっ!ちょっと!?敵がいるかもしれないのよ!?」
シャルルが慌ててナツを止めに入るも、ナツは気にする素振りを見せない。垣根が呆れたようにため息をつくと、
キラッ!
眼下の廃村でなにかが光る。光った方角を訝しげに見つめていたナツ達だったが次の瞬間、
ダッッッ!
一瞬でなにかが四人の間を通り抜け、同時にナツやグレイの身体が吹き飛ばされる。
「「ぐあ……っ!!」」
呻きながら弾き飛ばされる二人だったが、なんとか体勢を立て直すとそのまま木の枝を見上げた。
「またアイツだ!」
そう言ったナツの視線の先には、木の枝上に立ちながらこちらを見下ろすレーサーの姿があった。垣根も静かにレーサーの方を見上げる。
「なんだテメェ、また懲りずに殺されに来たのか」
「テメェ…」
レーサーが怒気の籠もった視線で垣根を睨めつける。先の戦いで垣根に敗北した怒りがレーサーの身を支配し、その全てを殺気に変えて垣根にぶつけていた。しかし、それ程明らかな殺意を向けられているというのに、当の垣根は薄ら笑いを浮かべながらレーサーを見つめ返していた。すると、
「ここは任せろ。早く下に行けお前ら!」
グレイが振り返りながらナツと垣根にそう告げる。
「よし!」
「大丈夫かよ?お前さっきアイツにボコられてなかったか?」
「うるせぇ。今度は負けねぇよ!つか、いいから行け!」
グレイが声を張り上げながら言うと、
「フッ…」
シュッ!
突然、枝の上からレーサーの姿が消える。
「行かせるかよ!特に翼野郎、テメェはな!」
木を垂直に下るようにして走るレーサーが威勢良く叫んだその時、
ツルッ
「おぉ…?ぐあ…っ!?」
氷に足を滑らせ、そのまま顔から地面に落下したレーサー。レーサーが魔法を使ったと同時にグレイも氷の造形魔法を発動させ、レーサーの足場であった木を凍らせることによって彼を転倒させたのだ。それを見たナツは垣根とシャルルの方へ向き直った。
「シャルル、テイトク、今だ!」
「えぇ」
「ま、そうだな」
そう言ってシャルルは自身の
「待ってろよハッピー!ウェンディ!」
ナツの叫びと共にシャルルと垣根は翼をはためかせ、眼下の廃村へと向かった。
ものの10秒ほどで廃村へと着地した垣根達は辺りを見渡しながらウェンディとハッピーの姿を探す。
「ハッピー!」
「ウェンディー!」
ナツとシャルルが二人の名前を呼びながら探していると、
「ナツーーーーー!ナツーーーーー!!」
ナツの呼び声に呼応するかのように、ナツの名を呼ぶハッピーの声が聞こえた。
「ハッピー!」
三人がハッピーの声がした方角を見ると、滝の横になにやら怪しげな洞穴があった。どうやらあの中にウェンディとハッピーはいるらしい。
「あの中よ!」
垣根達は走ってその洞穴まで行き、その中を覗いた。すると、
「な…っ」
「これは…」
「あ?」
視界に入ってきた光景に思わず困惑する垣根達。それもそのはず。洞穴の奥には祭壇のようなものが設置されており、その手前には六魔将軍のブレインと彼が攫ったウェンディとハッピーがいた。だが、そこまでは垣根達の想定内。では、なにが垣根達を驚かせたのか。その答えは、一人の謎の男が洞穴の中に立っていたことだった。巨大な棺桶が開いた状態で地面に置かれ、その側で背を向けながらその男は立っていた。ブレインがすぐ後ろからその男を見つめ、ウェンディがなぜか膝をつきながら俯いているその光景を、垣根達は目を見開きながら見つめていた。
「なんだ…これ…」
ナツが絞り出すように声を出すと、ブレインが垣根達の方を振り返りその口元を歪ませた。そして、
「ひぐっ…ふっ…ごめんなさいっ……私っ……」
ウェンディのすすり泣く声が静かな洞穴内にこだまする。すると、皆の視線を一手に集めていた謎の男がゆっくりとこちらに振り返った。
「ジェラール…!」
ナツが息を呑みながらその名を呟く。どうやらナツはこの男を知っているらしい。垣根はこちらを振り返った男を改めて観察する。身長は垣根と同じくらいで170後半~180くらいだろう。綺麗な青髪がその端正な顔立ちとよく似合っており、その美しさは誰もが思わず目を奪われてしまうほどのものだった。さらに彼の右目付近には入れ墨のような紋章が刻まれている。
(こいつ…どこかで…)
垣根は今、初めてこの人物と出会ったわけだがなぜだかその顔を知っているような気がした。どこかで見たことがある、なんとなくそのような感覚に襲われた垣根は自身の記憶を辿り紐解いていく。すると、
「ひぐっ…ごめん…なさい…っ…ごめんなさい…この人は…私の…恩人、なの…」
再びウェンディがすすり泣きながらも言葉を紡ぐ。垣根達が言葉もなく見つめている中、その沈黙をシャルルが破った。
「ウェンディ!あんた治癒の魔法を使ったの!?何やってんのよ!その力をむやみに使ったら…ウェンディ!?」
シャルルが言い終わらないうちに、ウェンディが力尽きるようにして地面に倒れた。シャルルの懸念通り、恐らく力の使いすぎで気を失ってしまったのだろう。ジェラールと呼ばれる男は目の前で倒れたウェンディに視線を移すと、垣根の横にいるナツが低い声で呟いた。
「なんでお前が…こんな所に…くっ!!」
ボウッ!
ナツの拳に炎がともる。そして、
「ジェラァァァァァルゥゥゥゥゥ!!!」
激昂と共にナツがジェラールに突進していった。ジェラール目掛けて一直線に走りながら、ナツはその右拳を大きく振りかぶる。ジェラールはそんなナツを視認すると、感情のない目を向けながら右手をスッと前にかざした。そして、
ゴッッッ!
ジェラールのかざした右手から眩い光が放たれ、その全てがナツに直撃する。
「うああああっ!!」
ジェラールの魔法をモロに喰らったナツは叫び声を上げながら後方の壁まで飛ばされ、ガシャンッッッ!と派手な音をたてながら壁に激突した。その衝撃で壁の一部が崩壊し、地面にずり落ちたナツに降りかかる。
「ナツーーーー!!」
ハッピーの叫び声が洞窟内にこだまする。ジェラールの強さを目の当たりにしたブレインは満足げにニヤリと笑うと、ジェラールの元へ歩み寄った。
「相変わらず凄まじい魔力だ」
近づいて生きたブレインの方を振り返ったジェラール。黙ってブレインを見つめるジェラールだったが、やがてスッと腕を軽く振った。すると、
ドォン!!
ブレインの足下が轟音を立てて崩れ落ちる。
「なにっ!?」
不意を突かれたブレインは驚愕の表情を浮かべながら地下へと落下していった。ブレインを落としたジェラールは身体の向きを変え、洞窟の入口に向かってゆっくりと歩き出すと、入口付近に佇んでいた垣根とすれ違う。
「……」
すれ違う際、横目でジェラールを顔を見る垣根。ジェラールも一瞬だけチラリと視線を動かし、垣根と目を合わせたがすぐに前を向くとそのまま出て行ってしまった。しばらくその場でから不動のままでいた垣根だったが、やがて洞窟内へと足を踏み入れ、気を失っているウェンディの下まで歩み寄った。
「ナツ!しっかりして!」
「ぶはっ!ジェラール!?どこだ?ジェラール!」
「行ったわ」
「あんにゃろう…!」
立ち上がりながら悔しそうに声を上げるナツ。すると、ジェラールに執着するナツに対しシャルルが諭すように言った。
「あいつが何者か知らないけどね、今はウェンディを連れて帰ることの方が重要でしょ」
「く……っ!」
「エルザを助けたいんでしょ!」
「ナツ…」
「~~~ッ!わかってんよォォォォ!!行くぞハッピー!」
「あいさ~!」
ジェラールの対する怒りをこらえたナツはハッピーに抱えられ、洞窟の外へと飛んでいく。シャルルも気を失ったウェンディを抱え外に出ようとするが、その場から動こうとしない垣根を見て急かすように問いかける。
「ちょっと!何してんのよ?さっさと行くわよ」
「…シャルル」
「なによ?」
「悪いがウェンディは任せた。俺はあの男を追う」
さらっと言う垣根に対し、シャルルは目を見開きながら叫んだ。
「はぁ?あの男ってまさかジェラールって奴のこと?アンタねぇ、さっき私がナツに言ったこと聞いてなかったの?」
「聞いてたぜ」
「だったら…」
「帰り道くらい俺がいなくても大丈夫だろ。何かあったらナツ・ドラグニルに何とかしてもらえ」
「何とかしてもらえって、アンタねえ…」
「まぁそうキレんなよ。悪いとは思ってる。だが…」
そこで言葉を切ると、垣根はスッと目を細めながら洞窟の入り口の方へ視線をやった。
「…嫌な予感がする」
真剣な声音と共に発せられた垣根の一言にシャルルは思わず口をつぐむ。経験上、垣根のこう言った予感めいたものは大体当たることをシャルルは知っていた。シャルルはその場で小さくため息をつくと、諦めた様子で呟いた。
「分かったわ。ウェンディは私に任せなさい」
「助かる。頼んだぜ」
垣根は、洞窟の外へと飛んでいくシャルル達を見送ると自身もジェラールの後を追っていった。
◆
「チッ、手間かけさせやがって」
垣根は悪態をつきながら、気絶している魔導士を雑に地面に放り投げた。垣根の足下にはまたしても数々の魔導士が気を失っていた。ジェラールの後を追って再び森の中へと入った垣根だが、その道中で
「どこ行きやがった?」
垣根は周囲を見回しながらジェラールの姿を探すも、どこにもジェラールの姿や痕跡は見当たらない。空から探すか、とため息交じりに考えた垣根。すると、
ゴッッッッッッッ!!!
地鳴りのような衝撃が森中に響き渡り、同時に空がピカッッッッ!と光り輝いた。
「!」
垣根は目を細めながら光り輝く空を見上げると、ここから進んで先の森から大きな黒い光の柱が天まで伸び、光柱の周囲を闇がまとわりつくように漂う光景が見えた。眩い光が森中を照らす中、垣根は大きく目を見開きながら光柱を見上げる。
「まさか、ニルヴァーナの封印が解けた…?」
ニルヴァーナ。それは光と闇を入れ替える超反転魔法。光、即ち善人は悪人へと、逆に悪人は善人へと変わってしまう魔法である。悪人を善人に変えられるという側面を見れば良い魔法のようにもに見えるが、もしこれが邪悪な者によって使用されれば、この世の善人全てが悪人に変えられ争いの絶えない世界へと変貌してしまう危険性がある。古代人達はその可能性を恐れ、人間の属性そのものを変えてしまうというこの超魔法をワース樹海に封印したのだ。しかし、その封印が現在何者かの手によって解かれてしまっている。垣根は心の中で舌打ちをしながら、その表情を険しいものにした。
(誰だか知らねぇがやってくれたな。だがまだ本起動はしてねぇはず。今ならまだ間に合うか)
垣根が急いで光源の元へと向かおうとしたその時、
パキッ!
後ろで木の枝が折れる音が聞こえる。垣根が後ろを振り返ると、そこには六魔将軍の一人、ミッドナイトが木の側に立っていた。そして、
「さぁ、狩りの始まりだ」
じっと垣根を見つめながら静かに呟いた。