すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第37話 菊花賞 トモニ

 先日行われた菊花賞の会見は大きな話題を呼んだ。残念なことに悪い意味でだが。

 会場にいたウマ娘達はもちろん関係者一同、それを視聴していた者達、他にも様々。当日会場にいた関係者達は、ウマ娘達の本気の殺気に泣きそうになっていた。

 放送が終わった後、各所では様々な反応があった。件のキョウエイボーガンの態度は目に余ると叩く者もいれば、いいぞもっとやれ! と無責任に囃し立てる者……。当然それらはキョウエイボーガン陣営の想定内だし、狙い通りでもあった。

 会見の後、彼女は鎮火させるどころか寧ろ火に油を注ぐように煽った。めっちゃくちゃ煽った。

 アンチに何か言われれば、「黙れ。ワタシは何も間違っていない」と反論し、更に大炎上。ここに書くのも憚られる過激なDMも来たりしていた。

 

「めっちゃ燃えてて芝」

「わぁ……人生初だよ、こんなにも熱烈なラブコールを貰ったの」

「それにしても口が悪いな。下品な奴らめ。あっウマッターのフォローありがとうございまーす! ウマチューブのチャンネル登録もよろしくゥ!」

「たま〜に普通に応援してくれている人いるよね。まあ、バレバレだよね、こっちの狙いなんて」

「なに? 『お前の悪事を知っているぞ。心当たりはあるな?』だと? お前達の方がやってるだろネット民め懺悔しろ!」

「偏見はやめなよぉ……」

 

 現在は菊花賞当日。最後の調整を終え、メインレースまで待機中だ。

 ぎゃいぎゃい騒ぐ彼女の姿は、いつも通りにも見えるし、虚勢を張ってるようにも見える。もし自然体ならば、人生初のGⅠレースを前にして頼もしいと言えるかもしれない。

 

「トレーナーとしての初GⅠが、まさかこんなに大荒れだなんて思いもしなかったよ」

「いい思い出になるだろう?」

「いやあ……本当にねえ」

 

 彼女をスカウトした日から、遂にここまで来た。

 出会いを語ったところで特段面白くもない。一言で済ませれば、『凡人同士が惹かれあった』で済んでしまう。

 

「……では、そろそろ向かおうか」

 

 不敵に笑う愛バは自分の言葉を待っている。

 彼女が欲しい言葉は分かっている。ここまで共に歩んできたのだ、間違うはずがない。

 

「いってらっしゃい、ボー」

「──ああ、いってくる」

 

 

 ◇

 

 

 ターフに出た彼女を待っていたのは、歓声ではなかった。

 盛大なブーイング。それも特大の。

 彼らの歓迎に、キョウエイボーガンは特大の笑顔を見せながら中指を突き立て応えてみせた。

 

 一瞬の静寂の後、彼女に向かって怒号が浴びせられた。

 しかし、高笑いしながら受け流す。周りを見れば、ウマ娘達の視線が突き刺さった。

 彼女達の視線には明らかな敵意が宿っていた。場を荒らした事はもちろん、会見をめちゃくちゃにした事。そして、僅かな嫉妬。

 あの会見で、あの場で言ってのけた彼女の言葉が自身にも突き刺さったから。同じ思いだったから。

 

「──フッ」

 

 だから、煽る。たった一動作。これでいい。

 ウマ娘達の耳が絞られる。青筋が浮かび上がる。前掻きしながらこちらを凝視する者もいた。

 しかし、これだけやって何も反応しない者もいた。

 シロノリリィとライスシャワーとミホノブルボン。このレースで本命となる彼女達は全く意に介していない。マチカネタンホイザは困惑の方が優っていた。

 

(……やはり、効果なしか。まあ構わんよ)

 

 ファンファーレが鳴り、ゲート入りが始まった。

 あれほど怒り狂っていたウマ娘達だが、ゲート入りは案外素直だった。もしかしたらキレすぎて冷静になってるだけかもしれないが。

 

『クラシックロードの終着点。菊花賞を制するのは誰だ! 皐月賞とジャパンダートダービーを制したシロノリリィ。本日は3番人気です。この評価は不満か? 2番人気はこの娘、ダービーウマ娘ミホノブルボン。さあ、今日の主役はこのウマ娘をおいて他にいない。ステイヤーの本領を発揮できるか? ライスシャワー。1番人気です』

『残された一冠を手にするのは誰か? 三強が分かち合うか、それとも刺客の手に渡るのか。各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました』

 

 一瞬にも、永遠にも感じる沈黙。

 先程までの怒号は鳴りを顰め、今は痛いほどの静寂があった。

 

『――スタートです。各ウマ娘、そろってキレイなスタートを切りました!』

『みんな集中してましたね。好レースが期待できそうです』

『期待通りの結果を出せるか? 1番人気ライスシャワー。話題のウマ娘キョウエイボーガン、快調に飛ばしていきます。ミホノブルボン、前を譲った。シロノリリィは最後方に控えました』

『キョウエイボーガン、グングン前へ行く! 宣言通りの大逃げか?』

 

 ミホノブルボンに譲られ、キョウエイボーガンは前へと躍り出た。

 第一段階は成功。後はひたすら差をつけ逃げるのみ。

 以前のミホノブルボンなら前を譲らずに競り合いになっていたと思うのだが、今は気にする事じゃない。

 思考に費やす時間が、酸素が、全てが貴重なのだ。これから自分が敢行するのは、3000メートルの大逃げだ。微塵も無駄にできない。

 

『先頭はキョウエイボーガン。単身で飛ばしていきます! 離れてミホノブルボン。冷静にレースを進めています。少し離れて3番手はマリオネットワルツ、4番手はザンバーハ。内にライスシャワー。いい位置に着けています』

『ハナに立ったのはキョウエイボーガン! このままリードすることができるのか? 第4コーナーを進んで直線へ向かう。先頭から後方まで縦長の展開だ』

『後方のウマ娘が差し返せるのか気になる開きです』

『先頭は依然、キョウエイボーガン。リードは5バ身。ここで更に前に出た!』

 

 振り返るな、時間の無駄だ。音で判断しろ。

 ペースは早い? いいや、足りない。もっと前へ、前へ!

 キョウエイボーガンは一人、前へゆく。狙いは一つ、レースを壊すため。

 スタミナもパワーもスピードも、何もかもが劣る彼女が選んだ作戦は“展開を破壊”する事だった。

 彼女が無駄に煽りまくった理由は、展開の破壊の一助とするため。レース場の雰囲気を最悪にし、思考を怒りに偏らせ、冷静さを奪うためだ。

 普通に逃げればミホノブルボンには及ばない。あっさりと負けて、誰の記憶にも残らずに忘れられるだろう。

 それが嫌だった。

 

(狙い、通りさッ!)

 

 1000メートルを過ぎて、時計は59秒2。例年よりかなりのハイペースで進んでいた。

 そんなレース展開を見た観客達の反応は……

 

「……3000だろ、これ? こんなハイペースで大丈夫か?」

「貴様ァァァ!! 逃げるなァァ!!!」

「逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!!!」

「逃げるなバカ野郎!! バカ野郎!! 卑怯者!!!!」

 

 煽った成果がこれだ(ぐつぐつに煮えたぎっていた)

 観客達よ、楽しいだろう? 安全な場所から見下ろして、無責任に言葉を放るのは。

 

 背中に刺さる無数の殺気。彼女達の激情に身の毛がよだつ。

 逃げ切れるわけがないと放っておけばいいのに。所詮雑魚だと侮ればいいのに。こうして己を追ってきてくれている。

 ああ、ありがたい事だ。

 

 当然の事だが、キョウエイボーガンからすれば無茶なペースだった。

 1、2コーナーを抜けようとしたところで異変に気付く。離したはずのバ身差がなくなりつつあることに。

 

 刹那の思考。得た答えはスタミナの枯渇。

 あれだけ大口を叩いた結果がこれだ。

 迫る脅威。彼女が出した答えは……ひたすらに諦めないことだった。

 

 弱まりつつあったキョウエイボーガンの勢いが再び増した。

 所詮虚勢に過ぎない。一時凌ぎだ。これからどうなる?

 

 2週目の向正面に突入した。既に走りから精細さは欠けている。

 10はあった差が今は5だ。機械のように正確に、ミホノブルボンが徐々に追い詰めてきた。

 キョウエイボーガンの意識は混濁しつつあった。真っ直ぐに走れているのかすら分からない。なのに身体は動いている。どうやって動いている? どうして……?

 

 無慈悲に、残酷に、精密に。ミホノブルボンが迫りつつあった。死へのカウントを刻むように、バ身差が縮んでいく。

 観客の怒号は最高潮に達していた。聞くに耐えない罵詈雑言が、最早獣の鳴き声にしか聞こえない。

 悪意に晒されるキョウエイボーガンの姿は惨めだった。

 

 3コーナー手前の上り坂に足を踏み入れた瞬間、彼女は己の終わりを認識した。

 力が出ない。沼に沈んだかと錯覚するほどに動かぬ身体。

 世界がゆっくりと流れていく。己も皆も、全てが。

 

(ワタ…………シ……は……──)

 

 そうして、キョウエイボーガンの意識は闇へと沈んでいく――筈だった。

 

「――――ッァァァアアアッッッ!!!!」

 

 咆哮と共に、一歩、踏み出す。

 

 返ってきたのは嫌な感覚だった。

 それでも無視して前へ出る。痛みを堪えてその先へ。

 

 これ以上はやめろと、心臓が暴れ狂う。

 本能で解る。これ以上進めば、取り返しのつかない事になると。

 

(上等、だ……!)

 

 だから、理性で押さえつけた。

 必要なのはほんの少しの勇気と狂気。これが、愚かな凡人がたどり着いたマリアージュ。

 

 もしも自分が主人公ならば、秘められた潜在能力が開花していただろう。

 もしも自分が神に愛された天才ならば、理屈を超越し理不尽なまでの覚醒をしてみせただろう。

 

 キョウエイボーガンは知っている。自分がどこまで行っても凡人であると。

 奇跡は起こらない。なら、どうすればいいか?

 

(簡単な事だ。超えればいいんだよ)

 

 安全装置(げんかい)を踏み砕き、凡人が走る。

 身体はすでにボロボロで。しかし、その瞳に諦念は無い。

 どうしてここまでするのか。なぜ、諦めないのか。

 理由は二つ。一つは母に報いるため。もう一つは……

 

 執念によって限界を超えたキョウエイボーガンは、勢いのままに淀の坂を下る。

 最終コーナーに差し掛かった時、後続が差を詰めに掛かった。離したリードが無くなる。

 そしてレースは終盤に……最終直線へと到達した。

 その瞬間――背後からの膨大な圧力()()()()()が顕現した。

 

 【G00 1st.F∞;】

 

 ミホノブルボンの領域が。

 

 【ブルーローズチェイサー】

 

 ライスシャワーの領域が。

 

 そして……

 

 

 【どんっ、パッ、むんっ】

 

「うおぉぉぉーー!! なんか出たぁっ!!!!」

 

 マチカネタンホイザの領域が、世界を塗り替える。

 それと同時に、彼女達が超加速した。

 

 命懸けで切り開いた差が、あっさりと覆されていく。

 なぜそれほどまでに速いのか。どこにそんな脚が残っているのか。

 キョウエイボーガンは叫んだ。それに意味は無い。スタミナの無駄だ。だけどほんの少しだけ前へ進めた。

 

 けれど、結果は変わらない。ミホノブルボンが交わした。

 続いてライスシャワーが。

 

 背中が遠ざかっていく。マチカネタンホイザが交わした。

 待てよ、待ってくれ。

 いやだ、ワタシは……

 

 ワタシは……っ!!

 

 キョウエイボーガンは俯かない。

 歓声が聴こえる。

 

 何だ……? 

 

 キョウエイボーガンは諦めない。

 花の香りがする。

 

 ――ここは、ターフだ。あり得ない。

 

 刹那、純白(しろ)閃光(ひかり)が煌めく。

 

 来たのか、君が。

 覆したのか、君も。

 

 世界が()()()()()()()()()

 

 

 ◇

 

 キョウエイボーガンはいつの間にか真っ白な空間に居た。

 そこはどこまでも遠く続いていて、現実味がない。

 

「なんだ、ここは……?」

 

 ふと、思い出す。歴史を創るウマ娘達がたどり着く、領域と呼ばれる存在を。

 

「あれって、こんな物理的なやつだったのか……?」

 

 しかし、彼女は理解していた。ここは自分が呼び出したものではないと。

 ではなぜ、自分がここにいるのか。

 虚空に向けて手を伸ばす。

 

 ──パキン

 

 純白の世界が罅割れる。

 

「……君の姿に、いつも勇気をもらっていた」

 

 更に罅割れが広がる。

 隙間から、光が差し込んできた。眩しさに目を細める。

 

「小さな体で抗い続ける君が、眩しくて。……だからワタシも──」

 

 純白の世界が砕ける。

 ガラスが割れる様な音と共に、膨大な光がキョウエイボーガンを呑み込み──

 

 ──世界が、咲く。

 シロノリリィの領域が。

 

「────キョウちゃん!」

 

 可憐な声と共に、光の中から純白の少女が現れた。

 白百合が咲いている。

 辺り一面には色とりどりの花が咲いていた。空は雲一つなく、暖かな太陽が照らしている。

 

「……これが、君の領域か」

「えへへ。綺麗ですよね!」

 

 ひだまりの様に、少女は咲う。

 一歩前へ出て、ふわりと回った。純白の髪が、ドレスが、太陽の光を反射してきらきらしている。翻るスカートが、蕾から開花した花の様だった。

 

「……ワタシはね、リリィ」

 

「……なあに?」

 

「ワタシには、大望など無いんだ。三冠ウマ娘なんて興味が無い。誰かを笑顔にしたいなど思わない。……ワタシはね──」

 

 己を映す金の瞳の、なんと無垢な事か。

 

「友達と、一緒に走りたかったんだ」

 

 キョウエイボーガンの望みは二つ。母に報いる事と、ささやかな願望。

 

「でも、ワタシは弱い。諦めが悪くて、ほんの少し小賢しいだけ。全部振り絞ったんだよ。…………でも、もう、届かな――」

「終わってないよ」

 

「──私も、キョウちゃんも」

 

 見つめている。揺れる事なく、真っ直ぐに。

 数歩離れて、手を挙げる。そこには雲一つない青空と、太陽があった。

 

「ママとパパが、私を愛してくれた。無償の愛を、私にくれた」

 

 手を下ろし、広げる。その先には色とりどりの花が咲く花畑があった。

 

「みんなと過ごした思い出が、私の思い出になったの。楽しくて、嬉しくて……とっても幸せ」

 

 シロノリリィが近づいてきた。自分と、彼女の間に淡い光が現れる。彼女がそれをすくうと、光は花冠へと姿を変えた。

 シャガ、クローバー、カモミール、サクラソウ、カタバミ。これが、彼女の花冠だった。

 

「これが、ワタシの……」

 

 片膝をついて、目を閉じる。勝負服の帽子の上に、ふわりとそれが載せられた。

 

「みんながくれた、私のたからもの。……私一人じゃだめなの。みんながいたから、私は今、ここにいる」

 

 微笑み、少女は背を向ける。

 その小さな背中は、華奢で。己より小さなはずの背中は、誰よりも力強く見えた。

 

「…………そうだ、ワタシは」

 

 勇気が湧いてきた。

 支えてくれた人達がいる。応援してくれる人達がいる。

 また、前に進める。

 

「……小賢しくて、諦めが悪い凡愚……キョウエイボーガンだっ!!」

 

 二人のウマ娘が、同時に駆け出した。

 

 

 

 

 領域『白百合の祝福』

 

 ◇

 

『──ライスシャワー、ミホノブルボンを交わしたっ!! 強いっ! しかしミホノブルボンも粘る!! マチカネタンホイザ、前を狙って……シロノリリィっ!? 来たぞ! 来たぞっ!! シロノリリィ!!』

 

 白いバ体が()()()()()()()()()、猛烈な勢いで抜き去っていく。

 最後方から交わしていくシロノリリィに、皆が気付けなかった。否、そうだと思えなかったのだ。何故ならそこに、轟音が無かったから。

 音もなく、刹那で消えていく。その末脚は、まるで閃光の様だった。

 

 あっという間に交わしていく。キョウエイボーガンを、マチカネタンホイザを、ミホノブルボンを。そして、最後の一人。

 ライスシャワー。その背中が目の前に。

 

 ──届け。

 

 超えてみせる。勝つんだ!

 

 ──とどけぇぇッ!!!!

 

 

 

『ライスシャワーか、シロノリリィか! ライスシャワー!! シロノリリィ!! 全く並んでゴールイン!! ライスシャワーか、シロノリリィか!! 全く譲りませんでした! なんという激戦! なんていう決着ッ!!』

 

 菊花賞の決着は、写真判定へと持ち越された。

 

 ◇

 

 キョウエイボーガンは、自分が生きている事が不思議だった。

 確かに限界を超えたはずなのに。領域など使えないのに、何故……? 

 掲示板を見て、彼女は驚愕した。1、2着は未だ決まっておらず、3着はミホノブルボン、4着はマチカネタンホイザ、そして5着は……キョウエイボーガンだった。

 そして、なにより驚いたのは、今回の走破タイムだった。

 

(…………2:59.5。よく、生きてたな。……本当に)

 

 その代償と言うべきか。キョウエイボーガンは地面に倒れ動けなくなっていた。というか気持ち悪くて吐きそうである。体も冷えてきた。まじでやばいかも。

 

「……ふっ。とんでもない激闘だったね。でも、今回は私の勝ちだよ、ボーガンちゃん!」

 

 隣でマチカネタンホイザがドヤ顔をしていた。もはやツッコむ気力も無い。

 隣で待機してるのは、めちゃくちゃ顔色が悪いのですぐに助けられるようにするためだ。

 

(……フッ。次は負けんぞ、タンホイザ)

(ところで……今回の写真判定長くない?)

(まあ、それほど僅差だったのだろう)

 

 ちなみにシロノリリィも同じ様な状態になっている。顔色は平気だが、何故か蒸気が出ていた。

 

(リリィが……痩せていってる? ……何なのだ、これは! どうすればいいのだ?!)

 

 ライスシャワーとミホノブルボンはあわあわしていた。

 これを一大事とみたトレーナーは、何かドリンクの様な物を抱えて走ってきた。

 

(あ、あれは……はちみー! 大量のはちみーだッ!!)

(どこから持ってきたの、あれ……。いや、ていうか多すぎない??)

 

 極限まで衰弱しきった少女の肉体。そこへ競走による更なる負担が加わり、人体最後のエネルギー貯蔵庫である肝臓のグリコーゲンすらも底をついた。

 大量のはちみーを飲むシロノリリィと、それを見守る人々。ある者は祈り、ある者は瞬きすらせずに見守っていた。

 はちみーの量が14キロを越した時、変化が起こった。

 

 ──ドクン。鼓動が聴こえた。

 萎れた花が、再び咲く様に。その肉体は、瑞々しさを取り戻していく。

 瞳に煌めきが戻る。満天の星の様に、金の瞳が輝いていた。

 

 そして、奇跡は起きる。

 

「──今夜はガッツリした物が食べたいっ!!」

 

『復ッ活ッ』

『シロノリリィ復ッ活ッ』

 

 レース場が、歓喜で揺れた。

 少女の復活を、死の淵からの帰還を……皆が喜んだ。

 

「り、リリィちゃん……っ!!」

「リリィさん……っ!」

 

 ライスシャワーとミホノブルボンに抱きつかれながら、シロノリリィはドヤ顔ピースで復活アピールをしていた。

 

(……ボーガンも、はちみー飲む?)

(……いや、たぶん飲んだら吐く)

 

 その裏で皆が忘れていたある事に決着がついた。

 

『……長らくお待たせいたしました。写真判定の結果…………今回の菊花賞は、同着となりました。ライスシャワー、シロノリリィ……共に1着です!』

 

「…………おお」

「…………ふわぁ」

 

「「同着っ!?」」

 

 最後の一冠……菊花賞はシロノリリィとライスシャワーの同着となった。

 しかし、これで全てが終わったわけではない。

 年末のレースもあるし、来年からはシニア級になる。彼女達のレースは……未来は、まだまだ続いていくのだ。




お久しぶりです。あけましておめでとうございます。
もはや前話の展開どころか存在も忘れられてると思いますが、菊花賞決着です。
こっそりAIでリリィちゃん達の挿絵を生成してペタペタ貼り付けています。AIが苦手な方はお手数をおかけして申し訳ないのですが、挿絵をOFFにしてください。
あとフォーエバーヤングBCクラシック優勝おめでとうございます。
私の脳みそはもう黒焦げでございます。

季節外れの水着ドヤ顔ダブルピースリリィちゃんです。

【挿絵表示】
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