ハイスクール・フリート   ~空を翔る鳶と海虎~   作:鷹と狼

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第12話 旅立ちの前夜

 

 

 

 

 

「……え?小笠原にですか?」

 

 

新一郎とウィリアムは真雪の言葉に呆気にとられる。そして真雪は頷いた。

 

 

「ええ、私の学校は入学式の後に航海演習をすることは知っているわね」

 

 

「え?はい。知っていますけどそれと俺と小笠原、いったい何の関係があるんですか?それに零観とカタリナも…?」

 

 

「実はねその航海演習の集合場所が小笠原の西ノ島新島に集合することになっているのよ」

 

 

「……まさか西ノ島上空で曲芸飛行をしろということですかお義母さん…いえ校長先生?」

 

 

新一郎がそう訊くと真雪はそうだと言わんばかりににっこりと笑う。

 

 

「それとですね、飛行艇のカタリナをアメリカのハワイ海洋学校に飛行、学校の職員生徒に見せて頂きたいのですがいかがかしら?」

 

 

「おぉ……グレートな任務ですね!僕は賛成しますよ!」

 

 

ウィリアムはやる気満々だった。

 

 

「……そうだな、いつのまにか愛機を暗闇に飛行するのも飽きた頃だ。校長先生たちの生徒さんたちに披露させます。いずれ、パイロットを育成する学校を創る為に。」

 

 

「ありがとうございます。それと、幾つか要望が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀基地、ライジングイーグル

 

 

4月5日の女子海洋学校に関して、ライジングイーグルのメンバーは入学式の来賓及び、航海演習の参加が決まった。

 

だが、訳ありの編成と要望を受けた。

 

 

4月6日 1400時 ー

 

 

PBY-5 カタリナ

 

 

ウィリアム・J・スパロウ

 

 

金城幸吉

 

 

秋山敏郎

 

 

その他、研究員数人。

 

 

4月7日 1500時 ー

 

 

零式水上観測機

 

 

沖田新一郎

 

 

トム・K・五十嵐

 

 

 

超大型直教艦 武蔵 

 

 

校医学生 シャルロット・F・トライン  

 

 

 

「メンバー全員シャッフルとは…しかし、研究員も搭乗させるとは…」

 

 

「あら~、俺っちも参加するとはねぇ……」

 

 

「しかし、わたくしが……武蔵の校医として乗艦するとは……」

 

 

「まあまあシャルロット、武蔵の乗艦は演習が終わるまでだ」

 

 

新編成したリストで、ざわめくイーグルメンバーは緊張しつつあった。

 

ウィリアムは助言、内容を述べた。

 

この選抜した人材は航海演習のみ。

 

小笠原の父島で元の搭乗員に復帰、ウィリアムたちカタリナメンバーはハワイへ飛行、出張。

 

そして、零観の新一郎、幸吉はブルーマーメイドのみくらと共に欧州の地中海へ、派遣の指令を受けた。

 

 

「…以上だ、解散!」

 

 

「「「 はいっ!! 」」」

 

 

 

ブルーマーメイド宿舎

 

 

「おぉ〜!シャルロットちゃん可愛い~」

 

 

「凄く似合っているよ~!」

 

 

「あ…ありがとうございます…///平賀さん福内さん///」

 

 

「エマちゃんとエミリーちゃんの小学制服も凄く似合っているよ!」

 

 

「「わ~い、ありがとう~♪ 」」

 

 

宿舎で横女指定の制服を試着したシャルロット。平賀と福内に褒められて赤面した。

 

イーグルで解散した後、シャルロットは真雪に呼ばれ、彼女のサイズに合う学校指定の制服を受領した。

 

 

「シャルちゃんの格好を見ていたら、わたしたちの学生時代が懐かしいねぇ~」

 

「そうねぇ~…倫ちゃんの艦長時代は散々だったわ…」

 

「う…///」

 

平賀と福内がやや口論気味になりかけた時、窓の外を眺めた。

 

「(この制服姿、みんなに見せてあげたかったわ…ステラ、マリー、アリシア、パウラ…)」

 

あの戦時で戦い戦死、行方不明になった友人の名前を呟いた。

 

小学生の制服を試着したエマとエミリーは母、シャルロットにあることを尋ねた。

 

 

「ねぇ、ママ」

 

 

「パパはエミリーたちの学校に見にくるの?」

 

 

「もちろん。あなたたちの晴れ姿を楽しみしているわ!」

 

 

「「 やった~♪ 」」

 

 

ウィリアムは真雪から横女の入学式で来賓を受けたが、自身の愛娘たちの入学を最優先の為に断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校 校長室

 

 

部屋に残された真雪は、以前の模擬戦闘訓練での新一郎とウィリアムの書いたレポートを見ていた。

 

それは艦隊戦のレポートのほかに『航空機による艦艇への攻撃法』『航空攻撃からの防空法』電探近接信管=VT信管などが書かれていた。

 

特に真雪が見たのは航空機による攻撃法だった。そしてその文章には『艦艇の攻撃例』と書かれていたものだ。

 

その文章にはイーグル達がいた世界の第二次欧州、大東亜戦争で米軍が真珠湾攻撃で調査した日本海軍の航空魚雷。

 

米軍がレイテで武蔵、沖縄戦で大和を攻撃した当時の戦法が書かれていた。

 

 

「まさか…あの大和がそんな戦法でやられるとはね……いえ、もしこの世界にも航空機があってその戦法が使われたら……大和級といえども……」

 

 

「ええ、私もこのレポートを見た時は驚きました。今までは砲撃か雷撃の戦法しかなかったので、空からの攻撃について書かれたレポートと、模擬戦闘の映像を見た時は正直驚いています。もし飛行機が大量生産され、実戦に参加すれば大型艦など砲撃が主力の時代は終わるかもしれません。特にこの輪形陣なる陣形は理にかなっています。聞けば沖田さんは観測機…つまり飛行機という空飛ぶ乗り物で指揮官を務めていたと言っていたのもあながち嘘ではありません…」

 

 

「…パンドラの箱とも言うべき報告書だわ…」

 

 

真雪と古庄はそのレポートを見て冷や汗をかくのであった。レポートを読み終えた真雪は所有する金庫の中に入れ、封じた。

 

 

 

 

 

後日

 

 

 

 

新一郎、ウィリアムは横須賀女子海洋学校にて海洋技術海上都市支援に関する会議に出席、会議が終了した。

 

 

「あ~…長い会議が終わったな、新一郎…海賊が頻発する海域の問題点が厄介だな…」

 

 

「あぁ、戦時同様、海上都市の暮らしは楽ではない…水上スキッパーの量産を望む声があっても解決する筈もねぇ。飛行機の重要性が高まるぜ、ウィル…(しかし、真霜はどうしたんだろ…)」

 

 

本日出席することとなっていた宗谷真霜は、何かしらはことがあり、欠席となっていた。

 

 

 

「あの~ちょっといいですか…?」

 

 

会議室から出て、ある女性が声を掛けてきた。

 

 

「はい…?」

 

 

「あの、あなたは?」

 

 

「私はドイツのブルーマーメイド、マリア・クロイツェルです。」

 

 

「沖田新一郎です。」

 

 

「ウィリアム・J・スパロウです!」

 

 

「あら♪あなたたち、流暢なドイツ語を話されますねぇ~♪」

 

 

「「え、えぇまぁ…(…各国の語学を話せられることを、神オーディンに感謝だな…)」」

 

 

心の中でアスガルドの神、オーディンに感謝した。

 

 

学生の食堂に移動し、横須賀女子カレーを食べながら交流を行った。

 

 

「あなた達のひこうき……二種類もあるけど、写真と模擬戦闘訓練の映像を観賞しましたが、どんなものですか…?」

 

 

マリア・クロイツェルも機密に触れる資格を持っていたため、新一郎とウィリアムは色々と説明。だがー

 

 

「実物を見物したいのですが、明日中に地中海へ航海しなければなりません。」

 

 

「そうですか…残念です。ですが、私は横女海洋学校の入学式と航海演習が終了次第、地中海へ向かいます。」

 

 

「わかりました。共に活動することを待っています!」

 

 

「「 はっ!! 」」

 

 

マリア・クロイツェルと食事を終え、二人は学校に住み込むどら猫の五十六元帥に報告した。

 

 

『そうか…この世界にきて僅か2ヶ月弱、諸君らは脚光を浴びておるな~』

 

 

「き…恐縮です…」

 

 

「…航空機が存在しない世界で…ルーフの飛来以来、客船の救助作戦や模擬戦闘訓練で、飛行機を所有する我々ライジングイーグルは高く売れてますからね…」

 

 

『うむ、しかしながら当初の目的は覚えているかの…?』

 

 

「はい、二式水上戦闘機とパイロットの大賀虎雄少尉をイーグルに編入することです!」

 

 

二人は横須賀学校をあとにした。

 

 

 

 

横須賀基地 イーグル 格納庫

 

 

「トチローさん、自身の飛行艇の搭乗準備を急いで下さいよ~!」

 

 

「てやんでぃ!俺っちの整備がなきゃ、カタリナは飛べんだろ、べらぼう!」

 

 

トムは演習参加で荷物の準備を急ぐ中、トチローに問い掛けたが、彼は零観、カタリナを丁重に整備点検を手掛けていた。

 

 

「相変わらずだな~…」

 

 

「トチローさん、おらの弓はどこですか?」

 

 

「おぅ、幸吉の弓矢は作業台に置いているってんでい!」

 

 

「はーい!」

 

 

「トムも手が開いているなら、カタリナと零観の武装を施しておけ!」

 

 

「了解です!」

 

 

幸吉はトチローが指定した作業台にて折り畳み式の弓を受領。演習指定までの海域で海賊が出没しないのは限らず、零観とカタリナに武装を施すトムであった。

 

 

 

 

 

宗谷家 

 

 

 

 

新一郎は仕事を終え宗谷家に帰宅。

 

 

「ふぅ~…また、1日が終わったか…」

 

 

ペアの金城幸吉は当初宗谷家で暮らしていたが、ライジングイーグルが結成してから、彼らの宿舎で暮らしていた。

宗谷家は異世界の日本海軍パイロット、沖田新一郎大尉を家族の一員として扱っていた。

 

 

宗谷家の三女、宗谷ましろは部屋で学校の教科書を揃え、指定の制服を試着、鏡で姿格好を確認した。

 

 

「(とうとう、横須賀女子海洋学校の制服を…)」

 

 

ましろの部屋の扉で叩かれる音がした。

 

 

「ましろちゃん居る?」

 

 

「新一郎義兄さん!?い、今は…」

 

 

「入るよ!」

 

 

新一郎は、部屋に入る。

 

 

「!」

 

 

「っ!?」

 

 

新一郎が部屋に入ると、そこには、何と横須賀女子海洋学校の制服を着たましろの姿があった。

 

 

「おっ!ましろちゃん、それ…」

 

 

「見、見ないで下さい!!」

 

 

どうやら、注文していた制服が届いたから試着をしていた様だ。

 

これから着る制服になれない為、恥ずかしくて、隠そうとするましろ。

 

 

「何隠してるのましろちゃん?…恥ずかしくないよ!…むしろ可愛いゼョ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

「ほら、もっと良く見せてくれ」

 

 

新一郎は、ましろに近づき、ましろの制服姿を鏡に映し出す。

 

 

「よく似合うぜ!!…制服姿のましろちゃんも可愛いなぁ~」

 

 

「あ、ありがとうございます…///」

 

 

褒められた事でましろは、顔を赤くする。

 

 

「(良いな…俺の妹の信子と佳代子もこんな学校の制服を着ていたんだろうな…)」

 

 

新一郎はふと、家族で別れた妹を思いだし、染々していると

 

 

「義兄さん!」

 

 

「あぁ、すまない。実は、君に渡したいものがある」

 

 

「あるもの…?」

 

 

新一郎はポケットからお守りを取り出した。それは金比羅前のお守りだった。

 

 

「…金比羅前のお守り…いつ、行ってきたのですか…?」

 

 

讃岐の金比羅前。海上交通の守り神として信仰されており、漁師や船員、海軍軍人など海事関係者の崇敬を集める。時代を超えた海上武人の信仰も篤く、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの職員のみならず、海洋学校学生の聖地でもあった。

 

 

「はっはっ!二日前だ、ついましろちゃんに渡すのを忘れてしまったが、海洋学校の生徒なら持つべきだ。」

 

 

「はい!ありがとうございます、お義兄さん!お義兄さんも、地中海の任務頑張って下さい。任務と私の実習が終わったら、真霜姉さんの結婚も待ち遠しいですね。」

 

 

「いやいや…///俺も海軍に入隊してから、まさか…十三、洋介に続いて結婚するとは思わなかった…///」

 

 

「え…海軍…?」

 

 

「いや、なんでもない…俺は明日早いから失礼します」

 

 

新一郎はましろの部屋を後にした。

 

 

「(…海軍…?日本海軍は昔の時代に解体されたはずなのに………讃岐の金比羅前さん…二日前に…どうやって…船では1日掛かるのに…)」

 

 

ましろは疑問に感じながら、明日の入学式に備えた。

 

 

 

 

新一郎の部屋

 

 

 

夜遅く、新一郎は入学式の終了後、横須賀から小笠原諸島までの飛行ルートを計測している時だった。

 

 

 

「…一旦、八丈島で補給。そして、西之島へ…」

 

 

コンコン

 

 

「新一郎~いる~?」

 

 

「あぁ、真霜か…?どうぞ……」

 

 

真霜が新一郎の部屋に入室した。

 

 

「いつ見ても、新一郎の部屋はいつ見ても綺麗ね~」

 

 

「…まぁな、海軍軍人として当たり前だ…」

 

 

海軍出身の新一郎は生活リズムが整えており、まさに海軍軍人の中では基本中の基本。

 

ブルーマーメイドの監督官である真霜の部屋は生活力がだらしなく、衣服や資料などが散乱していた。

 

 

「しかし真霜、平賀さんから聞いたが、早退したんだってな……」

 

 

会議に出席してなかった真霜は、ブルーマーメイドの職務を早退、家には彼女の姿がなく、休暇を取っている真冬とましろ以外はいなかった。

 

 

「君は家にいなかったが……どこへ行っていたのか…?」

 

 

新一郎の言葉で真霜は赤面した。

 

 

「っ!?///……じ……実は…新一郎…///…わたし…病院……産科に行ってきたの……」

 

 

 

「…へぇ〜病院の産科ね…産科…?…え?………えぇっ!!まさか…」

 

 

「うふふ~♪妊娠したの~♪」

 

 

「えぇっ!?ムグ…」

 

 

新一郎は驚きの余り、口を真霜に塞がれた。

 

真霜の話では、産科の予定では12月頃に出産を耳にした。

 

 

「そうか…そうか…うぅ…」

 

 

新一郎は涙を流した。

 

ラバウル勇士の厚木十三と桜井洋介も柚子と雪と結ばれ、子宝にも恵まれた。

だが、その二人もあの戦争で妻子を残し、散って逝った。

 

新一郎はその二人の二の舞にならない様に、生きることを心の中で誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

4月5日  桜が咲き舞う横須賀女子海洋学校の入学式が訪れた。

 

 

 

宗谷家の三女ましろは母親の真雪と姉妹の真霜と真冬に見送られ、通学した。

 

 

 

 

 


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