そして、今年もよろしくお願いします
晴風 ー
「『ザザ…学生艦が反乱、さるしまを攻撃、さるしまは沈没。艦長以下、乗組員は全員無事…』」
艦橋要員が港湾から発した無線を聴き、芽依は苛立ち鈴に向かって怒鳴った。
「なんで反乱したことになってんの!?先に攻撃してきたのは、さるしまでしょ!」
「えぇっ…わ…わたしに…言われても…」
「知床さんに言ったって仕方ないだろ…」
「ああ…ごめんごめん…」
鈴に八つ当たりしてすでに涙目、ましろが制止して芽依が謝罪する。
「でも…どうして沈没しちゃったんだろ…模擬弾だったのに…もしかすると…演習の一環…じゃないかな…」
「演習で沈没するか」
鈴が疑問に思い、ましろは否定的だった。
「なら…わざと沈没したとか!わたし達は偶然にも、何かさるしまの黒い秘密を知ってしまったんですよ!」
「また始まった…」
「わたしら遅刻しただけじゃん」
ましろと芽依はやや飽きれ、幸子の妄想により一人芝居が始まった。
「『お前ら、見たな!』『わたし達、何も見てましぇーん!』『えぇい、ここのまま生かしては置けんどー!』『あ、逃げられた!えぇいこのまま秘密と共に沈んでやる~!』ブクブク…」
「全部妄想でしょ…」
芽依が静かに突っ込み、ましろは幸子に連絡を訊ねた。
「それより納沙さん、そのタブレット通信切ってあるの?」
「大丈夫です。さっき、艦長の指示があった時にオフにしてます」
「通信機器が使えないのは不便だけどな…」
「まぁ、今発見されたら面倒だしね…仕方ないよ…」
「ごめんね…不便だと思うけど、第2合流地点の鳥島沖だから」
明乃は艦橋要員の意見を聞き入れ、予定通りに合流地点の鳥島に進路を移した。
艦橋内部がさるしまの行動と正体不明機で講演していた。
海洋整備局 保安部
「くそっ…せっかくイーグルの飛行機を目の当たりにして、手に入れられんとは…なんたる失態だ…!!」
議員の黒潮鈴江は執務室で苛立っていた。
横須賀基地のイーグルが所有する水上飛行機、日本海軍の零式水上観測機が格納庫に収納しているにも関わらず、秋山敏郎が万里小路重工で製造した特注の鍵を使用、施錠していた。
「ははは〜!苛立っていますなぁ~」
「うるさいわよ!奴らの飛行機が無ければ、海外の売買どころか、例の物資を輸入するのが困難よ!」
葉巻を咥えた虹川雪男が嘲笑いながら黒潮に呟いた。
「ですな…おれだって、この葉巻が無ければ生きて活けなぁい~♪」
「ぐぬぬ…零観は格納庫で施錠、カタリナは行方不明…どう入手するか、アンタも考えな!!」
「ん~…手っ取り早いですが、さるしまを襲った正体不明機を捕まえれば、どうですかね~♪」
「それよ…!」
横須賀女子海洋学校の教官艦「さるしま」を航空攻撃した二式水上戦闘機、搭乗する日本海軍少尉、大賀虎雄は再び異次元の渦で彷徨っていた。
「さっきの艦艇は…どこだ…?…ここはどこなんだ!!……シンガポールへ…日本へ…鹿児島へ帰らせろ~……」
太平洋 小笠原諸島 近海にて、横須賀女子海洋学校の航洋艦晴風が航行していた。
晴風艦長、岬明乃は艦の後部甲板を応急修理する和住媛と青木百々、野間マチコを訪問。
機関室にて機関長の柳原麻侖、機関助手の黒木洋美たちに謝罪。
医務室で負傷した小笠原光、駿河留奈と広田空の訪問、衛生長・保健委員の鏑木美波から難しい言葉を聞き入れた。
「『艦長、至急艦橋へお戻りください!』」
ましろからの艦内放送が医務室に鳴り響く、明乃は艦橋へ戻る。
晴風、艦橋
「御免!…お待たせ!」
明乃は、艦橋に戻り
「被害状況、如何でした?」
戻って来た明乃に各部の被害状況を聞く。
「後部甲板が結構やられて、爆雷があと1発、魚雷もないし…機関室も総点検だって…」
被害甚大と弾薬のない事を幸子に言うが
「可愛い…!」
そんな幸子は、自分のタブレットで双眼鏡の上で昼寝をする五十六を写真に撮るのに夢中になっていた。
「そんなもの撮っていないで、被害状況を記録しろ!!」
しかし、横からましろが叱る。
「学校側から連絡は?」
明乃は、ましろに横須賀女子海洋学校からの連絡はないか問う。
「ない!」
今のところ横須賀女子海洋学校から何も連絡は無い。
「そう」
「私達、見捨てられたんじゃないの…」
横須賀海洋学校からの連絡が一切無い事に芽衣は、見捨てられたと思い、それを聞いたましろは、不安になる。
「今、事実確認中なのかも…」
明乃も見捨てたんじゃなく、事実確認中なんだろうと考える。
「こ、このまま鳥島沖10マイルまで退避で良いんだよね?」
鈴は、明乃にこのまま鳥島まで退避して良いのか聞いた。
「うん…私達が反乱を起こしてさるしまを攻撃したみたいに言われてるけど、違うってこと説明しなきゃ…」
「合流地点に着いたとたんに捕まっちゃわないかな…」
鈴は、涙目になってそう言う。
すると
「『お前ら何故さるしまを攻撃した!?』『ちがうんです!先に攻撃したのはさるしまの方で』『嘘を言うな!』」
突然、幸子が一人妄想芝居を始めた。
「ひっ…」
幸子の最後の台詞の大声に近くにいた志摩がビックリする。
「信じて貰えないって事?」
「だが我々に反乱の意思などない…このまま逃げ続ける事は出来ないのだから…速やかに近くの港に入ろう艦長!」
「うん、そうだね港に入れば攻撃される事もないだろうし」
ましろの言葉で明乃は、港に入ればそう簡単に攻撃されないと考え、同意した。
「鈴ちゃん、横須賀までどれくらい掛かりそう?」
明乃は、鈴に横須賀までどのくらい掛かるか聞く。
「巡航で38時間かな…?」
鈴の巡航で、38時間を約1日30と計算する。
「全く、こんなクラスになったばっかりに、ついてない…」
ましろは、このクラスになった事への不満を言う。
「何よ、こんなクラスって!…そりゃ晴風は合格した生徒の中でも最底辺が配属される艦かも知れないけど…それは、あんたも一緒でしょ!」
それを聞いた芽衣がムッとした表情をして、ましろに言う。
「一緒にするな!…私は、入学試験は全問正解していた筈なのに解答欄を一つずらして回答したから…」
ましろは、解答欄を一つずらして回答した事を顔を赤くして暴露した。
『あ…』
すると、艦橋にいる全員が口を開いていた。
「ついてないんですね…」
「五月蠅い!」
ましろは、幸子に言われ恥ずかしくなり意地を張る。
すると明乃が
「そ、そっかー、私なんて受かっただけでも奇跡なんだけどね…たまたま勉強してたところが出て、ましてや艦長なんて…」
明乃は、手を頭の後ろに回し少し照れた様にそう言う。
「此方は、強運の持ち主ですか…」
「うぃ」
そんな時
「鳥…」
志摩が横を飛ぶ海鳥に気づく。すると幸子が空を飛ぶ海鳥を見て
「こんな時、あんな風に学校に、戻れたら良いんですけど…水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船って、作れないですかね?」
水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船、つまりガソリンで動く航空機が出来ないかと言う。
「はぁ…あんなもは空想の…空想の…」
幸子の言葉でましろは口の動きを止めた。
集合地点の西ノ島新島近海、教官艦さるしま上空と9年前、母親の真雪と真霜、真冬の姉妹と横須賀の諏訪神社で見た、フローを装備、濃緑のカラーリングの空飛ぶ物体を目撃した。
入学前、姉の真霜の婚約者、沖田新一郎の部屋に忍び込み、彼の資料を見て驚愕した。
「…っ!?これは…あの時みた…二式水上戦闘機…?え…幸吉さんと新一郎兄義さんのも…」
デスクに置かれてある新一郎と相棒の金城幸吉の背後に写っていた機体の名称、零式水上観測機を見て、身体が震えた。
「(一体、…新一郎兄義さん達は何者なの…)」
ましろは艦橋で沖田新一郎が何者なのか、深く考えた。
時刻は昼時となり
『みなさ~ん、食事の用意が出来ました~!』
炊飯所から食事の用意ができたと言う放送が流れる。
晴風、炊飯所兼食堂室
「本日のメニューは…晴風カレーです!」
今日の昼食の献立が伝えられた。
晴風、艦橋
「カレー‥‥」
それを聞いて、真っ先に反応したのは、志摩である。
普段あまり反応しない彼女の目は、カレーと聞いた瞬間、キラキラと輝かせていた。
「今日は金曜日でしたね!」
「カレー!!」
旧海軍時代からの伝統は、失われておらず、毎週金曜日にカレーを食べる習慣はこの世界の今でも続いている。
「じゃあ交代で食べに行こっか!」
「うぃ!」
「うちの艦のカレーどんなのかな!?」
晴風艦内で、そんなカレーで盛り上がりしている時
晴風、見張り台
「はっ!?」
見張り台にいるマチコが眼鏡を外し、水平線の彼方から一隻の艦影を肉眼で捉えた。
「右60度。距離30000、接近中の艦艇は…アドミラル・シュペーです!」
それは、ドイツ、ヴィルヘルムスハーフェン海洋学校所属の小型直接教育艦アドミラル・グラフ・シュペーだった。
晴風、艦橋
『えっ!?』
見張り台からの報告が艦橋に響き。
『アドミラル・シュペー!?』
明乃は、驚愕する。
「ドイツからの留学生艦です!」
「取り合えず総員配置に…」
明乃は、驚愕しながら総員配置の号令を出す。
「総員配置!」
艦内に警報が鳴り響き、晴風の生徒達は、折角のカレーがお預けとなった。
「えっ!?」
「速度20ノットで接近中…」
「見つかっちゃいました!?」
「その様だな…」
アドミラル・グラフ・シュペーの僅かな動きの報告から、完全に向こうに捕捉された事をましろは認識した。
晴風、見張り台
「シュペー、主砲を旋回しています!!」
今度は、アドミラル・グラフ・シュペーの主砲の28cm砲が晴風に向けたと言う報告が入る。
晴風、艦橋
「えっ!?」
「撃ってくる!?」
「問答無用ですね…」
主砲旋回の報告を聞いて、一気に緊張した空気へと変わった。
「野間さん!…白旗を!」
明乃は、直ぐにマチコに白旗を上げるよう指示する。
晴風、見張り台
マチコは、直ぐ白旗を上げる。しかし
「シュペー主砲発砲!?」
白旗を上げるのも空しく、アドミラル・グラフ・シュペーは、主砲を斉射。
晴風、艦橋
「何で…」
「エンジンも止めないと駄目だ!!」
「確かに白旗だけでは、降伏になりませんね…」
「でも逃げるんだよね?」
「う、うん、180度反転する…面舵いっぱ~い、前進いっぱ~い!」
明乃は、降伏を諦め、逃走を決意する。
「面舵いっぱ~い!」
鈴は、舵を右側に切る。
「着弾…!!」
その直後、アドミラル・グラフ・シュペーから放たれた砲弾が晴風の左側に着弾した。
晴風は、砲撃を回避しながら、海域からの離脱を図る。
『シュペーも速度を上げました!!』
「追ってきた…」
「早く逃げようよ…」
逃走する晴風に対し、アドミラル・グラフ・シュペーは、追撃してきた。
「シュペーは基準排水量12100t、最大速力 28.5ノット、28cm主砲6門、15cm砲8門、魚雷発射管8門、最大装甲160mmと小型直教艦と呼ばれるだけあって巡洋艦並のサイズに直教艦並の砲力を積んでいます」
『着弾!!』
幸子がタブレットでアドミラル・グラフ・シュペーのスペックを話している間にもアドミラル・グラフ・シュペーからの砲弾がまたもや晴風の周囲に着弾する。
「しゅ、主砲の最大射程は約36000m、重さ300kgの砲弾を毎分2.5発発射可能で、一発でも当たれば、一瞬で轟沈です…まあ、15cm砲副砲でも、うちの主砲よりも強いんですけど…」
「砲力と装甲は、向こうが遥かに上‥‥」
「うちが勝っているのは、速度と敏捷さだけ…」
「このまま機関全開にし続けたら完全に壊れちゃうよ…」
さるしまの戦闘で晴風は、機関の調子があまり良くない、その為、出せる速力も限られていた。
「魚雷撃って足止める?」
芽衣が魚雷で足を止める事を提案するが
「もう無い!」
「あ~!!そうだった!!」
さっきの戦闘で魚雷は、使い果たした事をましろに指摘され、芽衣は、頭を抱え叫んだ。
「こっちの砲力は?」
「70で5」
「7000で50mm!?…シュペーの舷側装甲は?」
「80mmです!」
「30」
「3000まで寄れば抜けるのね?」
「ちゃんと会話が成立してる…」
芽衣は、この会話を聞いて会話が成立している事に驚いた。
「これが艦長の器って、やつですか…」
「そんな分けないだろ!」
幸子が感心しそう言うがましろはそれを否定する。
「麻侖ちゃん!!出し続けられる速度は?」
『第4戦速まで、でぇい!』
「第4戦速…27ノットか…」
「向こうの最大戦速とほぼ同じです」
「如何したら…」
明乃がそう考えていると志摩が
「ぐるぐる…」
「え?」
「ぐるぐる」
「はっ!?…鈴ちゃん!!取り舵いっぱい!!」
志摩の言葉に明乃は、名案が浮かんだか、鈴に左に舵を切る様を命じる。
「取り舵いっぱ~い!!…取り舵30度!!」
鈴は、左に舵を切る。
「何をする気ですか!?」
「煙の中に逃げ込むの!!」
そう、志摩が言いたかったのはこれだった。
「戻~せ、面舵いっぱ~い!!」
「戻せ、面舵いっぱ~い!!面舵30度」
シュペーの砲撃を晴らす晴風は、8の字を描きながら回避行動する。
「一発でも当たればやられる。速度と小回りが効くのを生かして、逃げ回れるしかない!!…麻侖ちゃん機関を不完全燃焼させて!!」
『合点承知!!黒煙が煙幕代わりだな~!』
明乃の作戦を麻侖は、理解する。
『それから逃げ回るんで、機関には負担をかけるけど、よろしくね』
「よろしくって‥‥」
「やるしかねーんだい!!」
洋美は機関に負荷がかかるのが不安な様子なのだが、逃げるには致し方ないと麻侖は割り切る。そして明乃は鈴に
「鈴ちゃん不規則に進路を変えて。できたら速度も。…ただしできるだけ速度を落とさないように…」
そう指示すると、芽衣が
「止めるには実弾を使うしかないよ?」
そういう中、シュペーは晴風に攻撃し続ける中、明乃は、砲戦指示を出す。
「戦闘…左砲戦30度、同行のシュペー…」
「何を言っている。さるしまの時と同じになるぞ!!」
明乃の指示にましろは反対する
「実弾でスクリューシャフトを打ち抜くの、そうすれば足止めできるから…」
「これ以上やったら、本当に反乱になる!!」
「このままだと…怪我人が出る!!」
明乃はそう言うとまたも晴風のそばでシュペーの砲弾が着弾する。それを見たましろはついに決断し、明乃と一緒に実弾装填キーを回す。
「実弾…りょうだん始め…」
実弾装填キーが回され、主砲の砲身に実弾が装填された。
「まる」
志摩が、砲撃準備が完了した事を明乃に伝える。
『装填良し…射撃用意良し』
砲術員の小笠原光がそう伝える。あとは明乃の発射命令を待つだけとなった。
「スクリュー撃つには、どれだけ距離を詰めれば良いかな?」
「水中だっと急激に弾の速度が低下するから無理だって」
「水中弾ってのがあったでしょう」
「それは、巡洋艦以上でうちには、積んでないから…」
「通常形状でも、水中は、進むって聞いたよ?」
「理論上は、12,7cm砲弾の水中直進距離は約10m。最悪、原則装甲を抜くことを考えれば…30以下まで近寄ってください。」
そして、幸子が通常弾で推進機を破壊するには、30m以内に接近するように言うと、それを聞いた鈴は驚き
「近づくの?怖いよ~」
「何を言ってる!!」
「だから怖いって言ってるの~」
ましろの怒声に鈴は怯えてそう言うと
「じゃあ、分かりました!!」
幸子は両手で鈴の目を塞ぐ
「ふぇ!?な、何するの!?」
「ふふ…近づいてください♪」
「真面目にやれ!」
幸子の行動にましろが叱る。そして鈴は舵を左右に切りながらアドミラル・グラフ・シュペーに接近する。
「距離40…38…36…」
36mまで接近したところでアドミラル・グラフ・シュペーの28㎝砲弾が晴風の第三砲塔を直撃、第三砲塔が大破した。
「わわぁっ!!」
「きゃあぁ!!」
『アドミラル・シュペーから小型艇が向かってきます!』
「えっ!?」
シュペーから、何故か小型艇が一隻、こちらに向かってくると、見張り台から報告が入り、明乃が驚く。
しかし、次の瞬間、シュペーの副砲弾が小型艇を直撃し、小型艇に乗っていた少女は海へ投げ出される
『小型艇の乗員が海に落ちました!』
「味方を攻撃している?」
「何で?」
マチコからの報告を聞き、何故、味方を攻撃するのか艦橋組は、驚愕する。すると幸子が
「『わたしは、艦長の指示に従えません!晴風を攻撃するなんてあまりにも!!』『なんだとー艦長に逆らう気か!?』『ええ〜い!こんな船、脱出してやる~!』」
「想像でものを言うな…」
「私にとってはノンフィクションよりフィクションが真実です!」
幸子が得意げに言い放つ。すると、突然、明乃が
「シロちゃん…」
「宗谷さんもしくは、副長と呼んでください」
「ここ、任せていい?」
「え?」
いきなりの明けの言葉にましろは一瞬黙ってしまう。そして明乃は艦橋を出て
「ドイツ艦を引きつけっておいてね…ココちゃん、甲板に保健委員の美波さんを呼んでおいて!」
「何を…っ!まさか…」
ましろは、明乃の元へ向かう。
「何で、敵なのに助ける!」
「…敵じゃないよ…」
「え…?」
「海の仲間は…家族だから…じゃあ。行って来るね」
そう言うと明乃は、ましろに被っていた艦長帽を渡す。ましろは、明乃の艦長帽を受け取った。
そして明乃はスキッパーに乗り、小型艇から落ちた少女の救出に向かった
「艦長、落ちた娘助けに行ったの?」
「距離30まで近づけ」
「う…う…」
ましろの指揮のもと、鈴は、涙ながら舵を切る。すると
『上空から何か来ます!!あ…さるしまに現れた、例の飛行物体です!!』
「なに!?」
マチコの言葉にましろは驚くと、それと同時に砲撃音とは違う轟音が空の上から聞こえた。
シュペーの少女を救助するために、スキッパーを扱う明乃も空を見上げた。
「あぁっ…!?」
そしてその瞬間雲から一つの濃緑の飛行物体が風を切り裂くような轟音を発しながら現れたのだ。
そう、さるしまを大破させた二式水上戦闘機だった。
晴風、シュペー上空
「ん…あれは...?ドイツのアドミラル・グラフ・シュペーか!?」
異空間から脱した二式水戦と扱うパイロット、大賀虎雄が目を醒ました。
アドミラ・グラフ・ルシュペー、ポケット戦艦とも呼ばれる巡洋戦艦の一種で、第二次欧州の初戦で謎の爆沈を遂げたと、飛行練習生時代にて報じられた。
「なんで…ナチス・ドイツの艦艇が…この太平洋に…ここはあの世なのか…?」
虎雄はそう呟き、もう一度確認するとナチスの軍艦にはある甲板に書かれた鉤十字のマークはなかった。
シュペーは日本駆逐艦に向かって砲弾を撃っている28㎝の砲弾。
ドイツは敗戦を迎えたにも関わらず、日本海軍の陽炎型駆逐艦を標的にしていた。
まともに喰らえば、ひとたまりもない。被弾すれば真っ二つに割れて沈没する。下手をすれば死人が出る可能性があった。
「くそっ!どうすれば…」
無線で攻撃をやめるように連絡するにも、ドイツの周波数が分からないうえ、電波障害で通信も不能だった。そのため無線で攻撃をやめるように言えない状態であった。
すると、駆逐艦から一艇の水上艇が下ろされるのが見えた。
「水上艇?どこに向かう気だ?」
虎雄はスキッパーの様子を見るとその先に壊れたボートにしがみつく人影が見えた。どうにか救出に向かった。
するとシュペーの砲がそのスキッパーの方へと向けられていた
「まずい、止めろーっ!!止めるんじゃっ!!」
虎雄はとっさに操縦桿を握り、シュペーの方へと急降下をした。雲を突き抜け高度は1000に降下。虎雄はシュペーの主砲や副砲に向かって機銃掃射をした。
7.7ミリと20ミリ弾が雨あられと砲台に命中する、だが、雹がぶつかったみたいにカンカンカンと音を立てただけで、かすり傷にもならなかった為に、上昇した。
「やっぱり機銃じゃ豆鉄砲か…こうなれば対潜爆弾で!」
自身の愛機の両翼には、投下し損ねた対潜水艦爆弾があった。
航行していた駆逐艦=航洋艦晴風はシュペーからの距離30メートルに接近、第1砲塔が旋回して発砲、後部甲板付近に弾着。目標艦の速力が減速した。
「なるほど…相手さんのスクリューシャフトを…ならば、わしはっ!」
虎雄は操縦桿を倒し、再び急降下。
目標は、シュペーの後部甲板、機関部を照準に入れた。
そしてシュペーは目標を晴風ではなく虎雄機の方へ向け、砲撃し、虎雄はすかさずその砲撃を躱す
「すげぇな~だが…」
太平洋戦線では幾つもの軍艦の対空砲を経験した彼にとってこの程度なら難なく交わすことができた。
だが、シュペーには対空機銃を装備せず、高角砲や主砲などの砲撃のみ。無論威力は凄い、撃つのには装填の時間がかかる。
飛行機による攻撃に対し高角砲や主砲の弾幕の他大型砲の装填時間を補うために機関銃が使用されるのだが、目標艦の対空機銃の必要性はかなり薄く、搭載していなかった。
「距離500メートル…十分よし!喰らえ!!」
ガチン
虎雄は水戦の爆弾投下装置を作動、右翼の対潜爆弾が金切り音を発し、そして吸い込まれるように目標である後部甲板に命中、爆発を起こした。
「やった…ぎゃっ!!」
命中を確認した時、15センチ副砲が水戦に放たれて、手前に爆発した。
爆発による衝撃により、体が大きく揺れた。あまりの衝撃により虎雄は気絶しそうになった瞬間
『どこいくの!?』
「はっ…!?」
脳裏に女の子の声が聞こえた。虎雄は無意識にドイツ艦、陽炎型の上空を離脱した。
赤い夕陽が二式水戦を赤く染め、虎雄は意識すれすれの中、操縦していた。
「…いい夕陽だ…眠い~…」
虎雄は太平洋の海に着水、漂う海に揺れながら、航洋艦晴風に救助されるまで眠りについた。
「…厚木隊長…沖田さん…洋介…進次郎…幸吉……トチローさん…トチコさん…晴香…」
虎雄はかつてのラバウルで過ごした隊長や上官、戦友や後輩、そしてベルリンで命を落とした妹の名前を呟いた。