西暦1945年 7月31日 シンガポール海峡上空
数機のアメリカ軍爆撃機B-24が接近。空襲のサイレンが鳴り響き、1機の二式水上戦闘機が出撃した。
「シンガポールに爆弾を落としたら何び…いや何機たりとも許さん!!」
いつもの爆撃機が定期的に飛来、大賀虎雄がいつもの様に、ショートランドから使用してきた愛機二式水戦で飛行した時に、ある違和感を感じた。
「(…なんだ?…ワシが来る度に爆弾をばら蒔きして逃げるのに…)まさか!?」
虎雄が太陽を見上げようとした時、日光を背にして1機のP-51ムスタングが急降下、機銃掃射を浴びせた。被弾してかすり傷で納めた。
「ぎゃっ……、あ…危ねぇ…ムスタングの同体に虎…あのラバウルの…野郎!」
虎雄はムスタングの背後を獲ろうとしたが、直ぐに回り込まれた。敵機の銃撃を受ける度に被弾と回避の繰り返し、得意な木の葉落としも難しかった。
「くそっ!なんて腕のパイロットだ!!…こうなったら…」
虎雄は機内の雑嚢に手を入れてある物を取り出した
「…鬼は外!!」
手榴弾を投げつけ、風防に当たり爆発。そのタイミングでバランスを崩して減速、ムスタングの背後に着いて銃撃した。
「喰らえ!!」
「!!…っ!?」
二式水戦の銃弾が胴体とエンジンに被弾、敵機自慢の速度がみるみる落ちていた。虎雄は操縦席の風防越しでムスタングのパイロットを見た。パイロットは苦しそうに、ゴーグルとマスクを外した。その姿は女性であった。
「…パイロットは女…まだ子供だ…晴香…」
撃った弾が血を流しているところを初めて見た虎雄は震えた。
彼の妹は陸軍で特別に入隊、戦車を学び、より一層学ぶ為に海軍の潜水艦でドイツに留学、ドイツで戦車乗りになり欧州で奮闘、5月のベルリン攻防戦で戦死。
電報の知らせで、虎雄は泣き崩れた。
「撃つべきか…いや…撃ったら遺族が復讐する…ここで…うぅ…」
1発だけエンジンに銃弾を撃ち、エンジンから煙を吹かせた。
「(武士の情けだ、生還しろ!)」
虎雄は本来の任務である爆撃機の迎撃に向かった。
ムスタングのパイロットは激痛を引き起こしながら意識が危ぶまれていた。
「…ぐ…はぁ…はぁ…痛い…痛いよぉ~…この借りは…いつかきっちり返す…」
「ガー…ザザー…『ステラ中尉助けてくれ!!敵機が…ルーフが!!』」
「…いけない…流血し…て…意…識が……シャル……アリシア……パウラ……兄さん…ヴェン…トム……バッキー…マリー…パンサー…」
ムスタングが彼女ごと突如、発生した雲の中で消えた。
B-24が爆弾をばら蒔き、逃亡。被害は巡洋艦高雄が小破、乗り組10人重軽傷、虎雄の戦果はB-24が1機撃墜、P-51ムスタング1機不確実。このあと虎雄は司令に説教を受けた後、昇進して階級が少尉になった。
シンガポール、海軍哨戒基地 兵舎
「おぅ、虎ちゃんお疲れ!」
「お疲れさまだね、タイガー!」
「…ふぅ~…トチコさん……司令にごっつぁんだったぜ…」
1人の整備兵、秋山聡子ことトチコが虎雄の元に明日の予定を告げた。
「大賀飛曹長…いや少尉、明日の予定に関してだけど…マラッカ海峡方面の哨戒の任務のため、早朝に出撃してね!」
「…へぇ~い…トチコさ~ん念のため、対潜爆弾を装備頼みまっさ」
「わかった。明日早いから風呂と食事をお早めに!」
トチコの進言で、虎雄はドラム缶風呂に入浴、食事を摂って就寝した。
翌日早朝 格納庫
「な……なんじゃこりゃ…!?」
虎雄の愛機が昨日の出撃前の状態に修復されていたものの、しかも両翼が折り曲げていた。
「両翼が折り曲っておろ~誰の仕業だ…」
「ふふふ〜!わたしですよ~!」
「また…奇っ怪なものを…」
「それはね、本土の連中がなにやら最新鋭の特殊攻撃機の開発した話しを聞き、それでわたしも興味が湧いて二式水戦を改装しました」
「なんと...!あの、トチコさん……ちゃんと司令に許可は?」
「それはもちろん、エンジンも改装を終えた零戦22型のを搭載、速度も以前より上がり、この折り畳み機能なら潜水艦はともかく、駆逐艦でも搭載可能!」
「成る程、…この戦局だからな…テストと同時に哨戒に行ってきます。出撃準備!!」
「了解!!」
虎雄の号令で整備兵たちは水戦の両翼を伸ばし、本機をスロープに下って着水、虎雄は搭乗した。
「コンターク!!」
虎雄は対潜爆弾を搭載した二式水戦が水上を走り蹴り、大空へ飛んだ。
「…久しぶりに静かだ……厚木隊長……洋介、…沖田さん、……進次郎……幸吉…平和だ…鹿児島が錦江が懐かしい………」
次第に朝日が昇り、虎雄は愛機と優々と飛行した。
「……っ!!…スピットファイア…!!」
虎雄は空中で食事中、正面に数機の英軍スピットファイア3機が接近、正面から機銃を撃って1機を撃墜。
「1機撃墜っ!!…しまった、囲まれた…」
虎雄はこの状況で不利と認識して急降下で離脱、背後から幾つかのスピットファイアが接近、機銃を放ち、二式水戦の風防に被弾。
「…くそっ…これまでか…」
虎雄はある不思議なことを走馬灯に思い浮かばした。
ー 9年前 ー
「あっ、赤トンボだ!!おぉーい!!おぉーい!!おぉー…ぎゃっ…ゴボゴボ…」
桜が咲いて舞う鹿児島の錦江湾で海軍の飛行機、赤トンボが飛行していた時に、手を振って追いかけて磯部の海に落ちた。
虎雄は水中で手足を掻き、水上にでた。
「はぁ…はぁ…岸だ…」
「おぉーい!!おぉーい!!もかちゃん、手を振ってくれた!」
「(人じゃ…)おぉーい!助けて~!」
「…!?…男の子がいる!?」
二人の少女は岸から覗いたら男の子が海面にいた。急いでロープを投げつけて、救出した。
「「 はぁはぁ… 」」
「はぁ…はぁ…おまんら助けてくれてありがとう…危うく地獄にいくところだった…」
「ど…どういたしまして!…やったんだ、わたしたちが助けたんだ!これでブルーマーメイドで役に…って…あなたはだれ…?なんで海にいたの?」
「見かけない顔だね」
「オイラは虎雄、海と空が大好きだ!飛行機の赤トンボを追いかけたときに海に落ちた。まぁいつものこった!」
「…わたしは明乃…赤トンボ…?」
「…わたしはもえか…ねぇ…ひこうきって?」
「…おまんたちの…ぶ…ブルー…ま…マーメイドって…なんだ…?」
その後、歳が近く、虎雄と明乃、もえかの三人は緑芝生で遊んだ。遊びながら互いに話し合い、写真を撮った。太陽が水平線に沈む夕方になった。
「海に生き」
「海を守り」
「「 海を往く、それがブルーマーメイド!! 」」
「明乃ちゃんともかちゃんは絶対にブルーマーメイドになれる!オイラの命の恩人だからな!!」
「ねぇ虎ちゃん!いつか乗せてね、ひこうきって空飛ぶ乗り物に!」
「約束だよ、虎ちゃん!」
「おぅ!約束だ!いい夕焼けだ!オイラは帰るぞ錦江へ!!ぶう~ん!!」
「ねぇ虎ちゃん!錦江ってどこ!?」
「おぅ!鹿児島だ…っああぁっ…」
「「 虎ちゃん!! 」…あれ…」
虎雄は両手を広げ、芝生を駆けた。明乃に向けて話していると、石につまずいて海に落ちた。明乃ともかは虎雄が落ちたところに向かった。だが、虎雄の姿はなかった。二人は泣きかけたが、またいつか会えると信じていた。
虎雄が目を覚ますと、目の前に妹の晴香がいた。
「…兄ちゃん…兄ちゃん…」
「…ん…晴香……」
「もうっ!また海に落ちて、心配したんだよ!!」
「…ゴメン、…ん…明乃ちゃん…もかちゃん」
「ん…だれ…それ…?」
「さっき遊んでいた友達だ…あれ?」
「なに寝ぼけているの…父ちゃんと母ちゃんが心配しているから、家に帰ろ!」
「ああぁ…」
家に帰宅後、親にキツく怒られた。
「どんなことがあっても、命を粗末にするな!」
数年後、虎雄は佐世保海軍航空隊に入隊、日本は戦争に突入、妹の晴香は陸軍に。この戦争のベルリン攻防で散り、両親は鹿児島の空襲で亡くなった。
「(…父ちゃん…母ちゃん…晴香…)」
飛行の最中、哨戒海上の空域にスコールが発生していた
「…あ…?スコールが…………潜り抜けて行くか…………」
そのスコールはいつもより一層激しく、長続きした。その時に
カッ 「ぎゃっ!!…ぐぅ…」
落雷が直撃、虎雄はそのショックで気を失い、愛機の二式水戦が勝手に飛行し続けていた。
大賀虎雄はマラッカ海峡上空で行方不明。戦死の扱いになり、二階級特進で大尉になった。
彼の向かう先は、約束した友の海洋の世界へ
それから8月9日 鹿児島 海軍鹿屋航空隊基地
「では司令、呉鎮守府に最重要機密書類を運送しに出動します!!」
「うむ、気を付けたまえ。沖田大尉、金城一飛曹」
「「 はっ!! 」」
日本海軍大尉、沖田新一郎と助手の金城幸吉一等飛行兵曹と共に、呉へ最重要機密書類の運送任務での飛行が決まった。
水上機離発着場
「沖田さん!幸吉!」
「兄さん!幸吉!」
「ん…桜井、進次郎…」
新一郎と幸吉が愛機の零観の最終整備の最中で見送りにやってきたのは、零戦隊のパイロット桜井洋介中尉と弟の沖田進次郎少尉であった。
「どうしたお前ら、お前たちも北海道の千歳基地の転属命令が出たんじゃないか?」
「それもそうですが、沖田さん。俺と進次郎がさっき参戦したロシアの戦いに生還して、そしてこの戦争が終結したら。腹一杯に飯を食いましょうね!」
「そうだよ兄さん!幸吉!戦死した厚木隊長と虎雄さんの慰霊も兼ねて!」
それを聞いた新一郎は沈黙、そして幸吉と飛行衣服と航空備品、飛行帽を被り零観に搭乗した。
「桜井洋介中尉、沖田進次郎少尉!戦争終結したら俺の家で海を眺めながら食おう!ラバウルの思い出を語りながらな!!」
「「 はい!! 」」
「洋介さん、進次郎さん、オラのアイヌのチタタプゥを手伝って下さいよ!」
「はははっ幸吉!兄さんを頼んだぞ!!」
零観のエンジンが唸り、一気にプロペラが回転した。
「敬礼ーっ!!」
洋介と進次郎は零観の新一郎と幸吉機に対して敬礼を行い、出撃する新一郎と幸吉は敬礼、笑みを浮かばせながら遥かなる大空へ羽ばたいた。
1055時、新一郎、幸吉機は雲海が広がる北九州上空を飛行した。
「…壮大で…静かな雲海だな…………」
「新一郎さん、天国ってのはそんな感じですかな~♪」
「……そうかも知れんな………先に逝った十三と虎雄も………あの世で戦ってきた敵と飲み交わしているかもな………」
「ん~♪…!?」
後部座席に設置する無線機のスピーカーが鳴った。
「…何事だっ!?」
「…ちょっと待って下さい……これは……大変です!!」
「内容はなんだ!?」
「それが、特殊爆弾を搭載したB-29が長崎市に!」
「何だと!?」
3日前、8月6日。広島に新型の原子爆弾が落とされて壊滅した。その日以降、日本陸海軍は一層に警戒を強めた。
すると、長崎上空付近に、B-29を目視した。
「いた…あいつだ、幸吉!鹿屋基地と呉鎮守府に連絡、これよりB-29の迎撃に向かう!!(命令違反…ふっ…俺は軍法会議者だな…)」
「了解!!」
新一郎、幸吉は進路を呉から長崎に向けて飛行した。
1100時、長崎上空ー
「いたぞ!B-29だっ!!」
「新一郎さん!もう少し接近して下さい!!」
「言われなくとも接近するぜ!!」
幸吉は後部座席からジュラルミン製の折り畳みクロスボウを取りだし、矢の尖端に爆薬を取り付けた。
B-29まで100メートル接近した時、幸吉は座席から立ち上がり弓を構えた。
「喰らえ!!」
「いっけええぇーっ!!」
一本の矢が放たれ、曲線を描く様にB-29に命中仕掛けた時ー
長崎が猛烈な光に包まれた。その瞬間に爆風が零観を包み襲った。
「新一郎さん!ぎゃああああぁーっ!!」
「うぐぐぐ…幸吉ー!」
操縦不能になった零観はバランスを失い、落下した。
「…進次郎……幸吉……桜井……すまん......!…虎雄……十三……今から…往くぜ……」
そして、沖田新一郎と金城幸吉は異世界の未来の次元に呑み込まれたのであった。
彼らの零観は飛び続け、漸くして次元から脱出、呉の海洋安全整備局の近辺に緊急着水。その海を仕切る青い人魚たちが駆けつけた。